結論
ノリタケは、電子部品の材料と砥石をつくる、名古屋の素材メーカーだ。食器の「ノリタケ」で知られるが、食器は売上の 5% に満たない。今の稼ぎ頭は、積層セラミックコンデンサ(MLCC)に使う電子ペーストと部品材料だ。
筆者の結論は「ほぼ妥当」だ。事業の中身は良い方向に動いている。ただ、営業利益の 4 分の 3 を稼ぐのは 1 つの事業部門で、砥石は薄利のままだ。10 年後の中立で見ても、割り引いた価値は今の値段を少し下回る。
強みは、顧客の工程に入り込む材料づくりの技術だ。AI サーバーとクルマの電装化で MLCC の使用数は増え、会社は材料の増産に 100 億円を超える投資を決めた。自己資本比率は 72% と厚く、借金の心配は小さい。
弱みは資本の効率だ。自己資本利益率は 8% 台で、資本コストをわずかに上回る程度にとどまる。厚い自己資本の一部は持ち合い株が占める。物言う株主の提案は否決されたが、政策保有株の縮減と食器の再編は、会社自身の宿題になった。
利益の半分を配当と自社株買いで返す方針は、株主には追い風だ。それでも中立の筋書きで、10 年後の時価総額は今の 1.4 倍にとどまる。
バリュー投資の観点から
オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益から見よう。ノリタケの純利益 142 億円のうち、約 30 億円は政策保有株の売却益などの一回限りだ。繰り返せる利益は 115 億円前後で、筆者はこちらを見る。
堀は、事業によって濃さが違う。MLCC の材料は顧客の工程に入り込み、替えにくい。砥石の汎用品は替えやすく、値段で争う。筆者は、会社全体を「堀のある事業と、ない事業の寄せ集め」と見る。
資本の使い方は、改善の途上だ。自己資本の 3 割が有価証券で、稼ぐ力は薄まっている。売って返すか、本業に投じるかが問われる。経営は縮減の目標を示したが、まだ実績の積み上げ段階にある。
安全域、つまり払う値段と価値の差はどうか。中立の筋書きで、10 年後の価値は今の値段をわずかに下回る。強気の筋書きでは大きく上回るが、確率は 1 割にとどまる。優れた事業を、妥当な値段で買える会社だ。ただ、余裕をもって買えるほど安くはない。
何で稼ぐ会社か
ノリタケの売上は 4 つの事業からなる。2026 年 3 月期で、工業機材が 564 億円、セラミック・マテリアルが 500 億円、エンジニアリングが 298 億円、食器が 67 億円だ。
稼ぎの順は売上の順と違う。営業利益 111 億円のうち、セラミック・マテリアルが 83 億円を稼ぐ。工業機材は 16 億円、エンジニアリングは 18 億円で、食器は 6 億円の赤字だ。会社の利益は、実質 1 つの事業部門が決めている。
工業機材は、砥石と研磨布紙だ。金属や部品を削り、磨く道具で、顧客は自動車、軸受(ベアリング)、鉄鋼が中心になる。注文に合わせてつくるオーダーメイド品が 330 億円、規格品の汎用品が 234 億円。売上は前期と同じで、営業利益率は 3% に届かない。半導体のウエハーを磨く工具に芽はあるが、全体を動かす大きさではない。
セラミック・マテリアルは、電子ペースト 122 億円、電子部品材料 212 億円、セラミック原料 57 億円、セラミックス 110 億円だ。電子ペーストは、金属の粉を溶剤に混ぜた、印刷できる材料で、MLCC の内部で電気をためる層をつくる。ADAS と呼ばれる運転支援のクルマと、AI サーバーで使う数が増えている。
エンジニアリングは、焼成炉・乾燥炉が中心で 230 億円。電子部品や電池の材料を焼く炉で、保守の売上も厚い。食器は関税と一部商品の終売で減り、2026 年 4 月にセラミック・マテリアルへ編入された。
会社は今期の売上を、当初の 1,500 億円から 1,575 億円へ引き上げた。営業利益は 130 億円の見込みだ。中期計画の最終年度の目標を、1 年前倒しで超える。
優良さと弱いところ
優良さの核は、顧客の製造工程に入り込む材料の技術だ。ペーストは、粒の大きさと混ざり方が少し違うだけで、電子部品の性能が変わる。顧客は材料を替えるたびに工程を作り直す。この切り替えの面倒さが堀、つまり他社がまねしにくい強みの正体だ。
堀の幅は事業ごとに違う。MLCC 向けは厚い。砥石の汎用品は薄く、競合が国内外に多い。工業機材の営業利益率が 3% に届かないのが、その証拠だ。会社は価格の見直しと原価の削減を進めているが、成果は小さい。
財務は強い。自己資本比率は 72% で、有利子負債を引いた現預金は、ほぼ釣り合っている。営業赤字は、リーマン後の 2009 年 3 月期と 2010 年 3 月期の 2 回だけだ。
弱い点は 2 つある。1 つは資本の効率で、自己資本利益率は 8% 台にとどまる。投資有価証券が 533 億円と、自己資本の 3 割ほどを占め、稼ぐ力を薄めている。もう 1 つは食器だ。赤字が続き、祖業の看板を守るために利益を削っている面がある。
経営は変わり始めた。株主提案への回答で、政策保有株の縮減目標を示し、事業ごとの資本効率の目標も打ち出した。筆者は、この変化が本物かどうかを、次の 3 年の実行で測りたい。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
追い風は、MLCC の使用数の増加だ。1 台のスマートフォンやサーバー、クルマが積む MLCC は年々増える。AI サーバーは 1 台の積載数が多く、電気自動車は 1 台で 1 万個を超える。調査会社は、世界の MLCC 市場を 150 億ドル規模とみる。ノリタケは、その材料側で伸びる。
ただ、MLCC の需要は循環する。2023 年から 2024 年は、スマートフォンの在庫調整で材料の注文が細った。今は回復の途中で、AI サーバー向けが上乗せされている。会社が材料の生産能力を 2017 年比で 3〜4 倍にする計画は、この回復が続く前提だ。需要が緩めば、設備が重くなる。
砥石の世界市場は、調査会社の推計で 2024 年に約 69 億ドル、2031 年に約 90 億ドルだ。年率 4% 前後の伸びで、物価の伸びと同程度になる。上位 5 社のシェアは 2 割強で、3M、サンゴバン、ティロリット、クレトイシなどが並ぶ分散した市場だ。筆者は、ノリタケの世界シェアを 5% 台と推定する。開示がなく、売上規模から逆算した置き方だ。
半導体向けは、会社の事業計画に「研削研磨工具の伸長」と書かれる。GaN ウエハー用の研磨パッドは、研磨速度を従来品の 30 倍にした。ただ、半導体向けの売上は別に開示されず、全体への効き方は限られる。工具は装置と一体で売る会社が強い領域でもある。
循環のどこにいるか。MLCC 材料は上り坂、砥石は自動車と鉄鋼の減産で底、炉は電池向けの投資待ちだ。3 つの事業の山谷がずれているのは、会社にとって安定に働く。
資本政策と M&A
資本政策は、攻めと守りの両方に動き始めた。第 13 次中期計画では、配当性向を 35% 以上にし、総還元性向を 50% 以上にする。2026 年 3 月期は配当性向 36% の配当を払い、2025 年 8 月に 41 億円の自社株買いを行って、全株を消却した。
政策保有株の縮減も進む。2025 年度は 76 億円を売り、62 億円の売却益を出した。2029 年 3 月末までに、残高を連結純資産の 10% 未満にする目標だ。
2026 年 6 月の株主総会では、ストラテジックキャピタルの提案 6 件が全て否決された。配当の決定権を総会に移す提案や、政策保有株の売却を求める提案が含まれていた。同社は株価の上昇後に持ち株を売り、保有比率を 4% 台まで下げた。会社は食器の再編と縮減の約束で、提案の中身の一部を先に取り込んだ形だ。
M&A は、中期計画に「事業横断の戦略的企業連携」と書かれた。成長投資は 350〜500 億円で、営業キャッシュフローと負債、政策株の売却益でまかなう。買収で価値を壊す心配は、規模の小ささから大きくない。買われる側になる可能性は、一般の統計で 10 年に 2 割ほどだ。
点検済み:中立の営業利益率10.7%が会社予想(28年3月期8.9%)と過去最高(7.8%)を超え、事業別の利益率も今(材料16.6%・工業機材2.8%)より上げていたため、材料13.5%・工業機材5%・炉6%に置き直した(全社約9%)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AI サーバーの増加で、MLCC の使用数は今後も増える。サーバー 1 台の積載数はスマートフォンの数倍で、クルマも電動化で 1 台あたりの数が増える。ノリタケは、この波の材料側にいる。電子ペーストと部品材料の売上は、2026 年 3 月期に 17% 伸びた。
会社は材料の生産能力を、2017 年比で 3〜4 倍にする。港工場の増産は 2026 年 4 月に完了し、第二期も続く。需要が計画を超えれば、新棟の稼働率が上がり、固定費が薄まって利益率が上がる。セラミック・マテリアルの営業利益率は、すでに 16% を超えた。
工業機材は、底を打った。2027 年度の目標は、営業利益 31 億円で、今の約 2 倍だ。国内の自動車と軸受が持ち直し、半導体向けの研削工具が上乗せされる。事業の再編で、利益率は 5% に向かう。
資本の面でも、会社は変わった。配当性向を 35% 以上にし、自社株買いも行った。政策保有株の縮減を進め、売却で得た資金を成長投資と還元に回す。自己資本利益率が 9% を超えれば、本来の資本コストを上回り、倍率も上がる。10 年かけて MLCC 材料が育つなら、利益は今の 3 倍に届く。
慎重な見方
MLCC の需要は循環する。2023 年から 2024 年は、在庫調整で材料の注文が落ちた。今の好調は AI サーバーの設備投資に乗った面が大きく、投資が一巡すれば、新棟は重い設備になる。会社は 100 億円を超える増産投資を決めたばかりで、需要が外れた時の傷は深い。
電子ペーストは、顧客の要求で値段が決まる。MLCC メーカーの数は限られ、交渉力は顧客側にある。中国の材料メーカーが品質を上げれば、値下げ圧力は強まる。
工業機材は、利益が出ない構造だ。売上は 564 億円と大きいが、営業利益は 16 億円しかない。中期計画の目標でも、利益率は 5% 止まりだ。自動車と鉄鋼の需要は中長期で縮み、汎用砥石は中国勢と値段で争う。
何より、資本の効率が低い。自己資本利益率は 8% 台で、資本コストをわずかに上回るだけだ。自己資本の 3 割ほどを有価証券が占め、稼ぐ力を薄めている。会社は縮減を約束したが、実績はこれからだ。
今の値段は、すでに MLCC の好調を織り込み始めている。利益が伸びても、倍率が上がる余地は小さい。
どちらに重みを置いたか
事業の勢いは強気の見方が優勢だ。ただ、資本の効率が低く、利益の質が薄いという指摘も的を射ている。確率は、中立を 4 割弱に置き、やや悲観を厚めにした。MLCC は循環で振れ、砥石は薄利のままという慎重な見方が、構造としては強いと考えるからだ。
楽観の確率は 1 割にとどめた。材料の増産が大きく当たる筋書きはありえるが、計画の前倒しはすでに織り込み済みの部分が大きい。悲観は 1 割強とした。会社は潰れず、ためた資産が下値を支えるからだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,337 円2,990 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,426 円799 億円)。 今の値に割り戻すと 3,512 円1,967 億円、今との差 +9.1%、 期待の年率 +7.7%(資本コスト 7.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 13,084 円7,329 億円 | 2,535 円1,420 億円 | +385.1% | +17.1% | 1,562 円875 億円 |
| やや楽観 | 22% | 8,650 円4,845 億円 | 1,928 円1,080 億円 | +228.5% | +12.6% | 2,327 円1,304 億円 |
| 中立 | 36% | 4,528 円2,536 億円 | 1,296 円726 億円 | +80.9% | +6.1% | 2,097 円1,174 億円 |
| やや悲観 | 20% | 1,890 円1,059 億円 | 982 円550 億円 | −10.8% | −1.1% | 574 円322 億円 |
| 悲観 | 12% | 982 円550 億円 | 714 円400 億円 | −47.3% | −6.2% | 204 円114 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,337 円2,990 億円 | 1,426 円799 億円 | +110.1% | +7.7% | 6,764 円3,789 億円 |
今の株価時価総額 3,220 円1,804 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 10% MLCC 材料が大きく育ち、全社の稼ぎが 3.5 倍になる 利益 415 億円 · PER 17.5 倍 · 株価時価総額 13,084 円7,329 億円
AI サーバーの設備投資が 10 年続き、MLCC の使用数が増え続ける。材料の市場は今の 2.2 倍になり、ノリタケのシェアは 8% に上がる。港工場と三好事業所の新棟が計画どおり動き、固定費が薄まって、材料の営業利益率は 20% に達する。
工業機材は、半導体ウエハー向けの研削・研磨工具が育ち、数量が 1.25 倍になる。炉は電池と電子部品の投資で 1.6 倍になる。食器は小さくなるが、赤字は消える。
会社は政策保有株をほぼ売り終え、売却資金を成長投資と還元に回す。総還元性向は 55% に上がり、自己資本利益率は 14% 台に乗る。10 年先のノリタケは、日本を代表する電子材料の会社として、今の約 3.5 倍の利益を稼ぐ。
- セラミック・マテリアル(電子ペースト・MLCC 材料・セラミックス):数量 8.8(対象市場(実質・億ドル)× 自社シェア = 自社の実質の売上規模(億ドル))× 価格 201(1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 1,769 億円・営業利益 354 億円。市場 110 億ドル(実質)× シェア 8.0%、営業利益率 20.0%
- 工業機材(研削砥石・研磨布紙):数量 4.7(対象市場(実質・億ドル)× 自社シェア = 自社の実質の売上規模(億ドル))× 価格 201(1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 945 億円・営業利益 85 億円。市場 88 億ドル相当(実質)× シェア 5.4%、営業利益率 9.0%
- エンジニアリング(焼成炉・乾燥炉・混合濾過装置):数量 3.2(受注規模(実質・億ドル))× 価格 201(1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 639 億円・営業利益 58 億円。受注規模 3.18 億ドル(実質)、営業利益率 9.0%
- 食器:数量 297(出荷数量(万点・推定))× 価格 0.27(1 点あたりの平均売上(万円・名目))→ 売上 81 億円・営業利益 2 億円。297 万点 × 1 点 0.272 万円、営業利益率 3.0%
倍率:事業の純利益 413 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.5% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)117 億円。全体の PER 17.47 倍、時価総額 7,329 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:MLCC 材料の市場が 10 年で 2.2 倍になり、シェアも 8% に上がる形。AI の需要が長く続けば起こるが、顧客の内製や中国勢の追い上げも読み、1 割にとどめた。
やや楽観 22% 材料が着実に伸び、砥石も持ち直す 利益 299 億円 · PER 15.9 倍 · 株価時価総額 8,650 円4,845 億円
材料の市場は今の 1.8 倍に育ち、シェアは 7% に上がる。AI サーバーと運転支援のクルマが需要を支え、MLCC の循環の谷は浅くとどまる。材料の営業利益率は 18% 台で、今の水準を少し上回る。
工業機材は、自動車と軸受が持ち直し、半導体向けの工具が上乗せされて数量が 1.12 倍になる。事業の再編で、営業利益率は 7% 台に上がる。炉は電池と電子材料の投資で 1.4 倍になる。
政策保有株の縮減は予定どおり進み、配当性向は 35% を超える。会社は中期計画の方向に歩み、利益は今の 3 倍弱に育つ。堀のある材料と、立て直した砥石が、全体の資本効率を引き上げる。
- セラミック・マテリアル(電子ペースト・MLCC 材料・セラミックス):数量 6.3(対象市場(実質・億ドル)× 自社シェア = 自社の実質の売上規模(億ドル))× 価格 201(1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 1,266 億円・営業利益 234 億円。市場 90 億ドル(実質)× シェア 7.0%、営業利益率 18.5%
- 工業機材(研削砥石・研磨布紙):数量 4.2(対象市場(実質・億ドル)× 自社シェア = 自社の実質の売上規模(億ドル))× 価格 201(1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 846 億円・営業利益 63 億円。市場 78 億ドル相当(実質)× シェア 5.4%、営業利益率 7.5%
- エンジニアリング(焼成炉・乾燥炉・混合濾過装置):数量 2.8(受注規模(実質・億ドル))× 価格 201(1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 559 億円・営業利益 45 億円。受注規模 2.78 億ドル(実質)、営業利益率 8.0%
- 食器:数量 297(出荷数量(万点・推定))× 価格 0.27(1 点あたりの平均売上(万円・名目))→ 売上 81 億円・営業利益 2 億円。297 万点 × 1 点 0.272 万円、営業利益率 2.0%
倍率:事業の純利益 297 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.1% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)117 億円。全体の PER 15.93 倍、時価総額 4,845 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:材料の市場が 1.8 倍に育ち、砥石と炉も持ち直す形。会社の中期計画が示す方向に近く、2 割強に置いた。
中立 36% 材料は伸び、砥石は薄利のまま 利益 185 億円 · PER 13.2 倍 · 株価時価総額 4,528 円2,536 億円
材料の市場は今の 1.5 倍に育つが、ノリタケのシェアは 6.7% で今とほぼ変わらない。MLCC の循環は 2 回ほど挟まり、新棟の稼働は波を打つ。材料の営業利益率は 13〜14% で、会社予想(28年3月期の全社8.9%)の水準に収まる。
工業機材は、数量が横ばいで、営業利益率は 5% に上がる程度だ。炉は電池と電子部品向けに 1.2 倍になる。食器は小さくなりながら、赤字は止まる。
政策保有株の縮減は進み、配当と自社株買いで利益の半分を返す。それでも自己資本の厚みが残り、自己資本利益率は 8% 前後にとどまる。10 年先の利益は、今の約 1.9 倍だ。
- セラミック・マテリアル(電子ペースト・MLCC 材料・セラミックス):数量 5.0(対象市場(実質・億ドル)× 自社シェア = 自社の実質の売上規模(億ドル))× 価格 201(1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 1,010 億円・営業利益 136 億円。市場 75 億ドル(実質)× シェア 6.7%、営業利益率 13.5%
- 工業機材(研削砥石・研磨布紙):数量 3.8(対象市場(実質・億ドル)× 自社シェア = 自社の実質の売上規模(億ドル))× 価格 201(1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 756 億円・営業利益 38 億円。市場 70 億ドル相当(実質)× シェア 5.4%、営業利益率 5.0%
- エンジニアリング(焼成炉・乾燥炉・混合濾過装置):数量 2.4(受注規模(実質・億ドル))× 価格 201(1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 479 億円・営業利益 29 億円。受注規模 2.38 億ドル(実質)、営業利益率 6.0%
- 食器:数量 264(出荷数量(万点・推定))× 価格 0.27(1 点あたりの平均売上(万円・名目))→ 売上 72 億円・営業利益 1 億円。264 万点 × 1 点 0.272 万円、営業利益率 1.0%
倍率:事業の純利益 183 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.1% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)117 億円。全体の PER 13.24 倍、時価総額 2,536 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:材料の市場が 1.5 倍に育ち、シェアは今並み、砥石は薄利のまま。最も起こりやすい筋書きとして、4 割弱に置いた。
やや悲観 20% 循環と値下げ圧力に削られ、普通の素材会社になる 利益 123 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 1,890 円1,059 億円
MLCC は在庫調整の谷を何度も経験し、材料の注文は大きく振れる。顧客は調達先を増やし、値下げの要求も強まる。ノリタケの材料のシェアは 5.8% に下がり、営業利益率は 12% まで落ちる。増産投資の償却が重い。
工業機材は、自動車と鉄鋼の需要が縮み、中国勢との値段の争いで数量が 1 割減る。営業利益率は 3% に下がり、再編の効果は出ない。炉は横ばい、食器は 3 分の 2 に縮む。
会社は還元を続けるが、自己資本が厚いまま、自己資本利益率は 5% 台に下がる。優良な部材メーカーの面影は薄れ、稼ぐ力は物価の分すら伸びない 10 年になる。
- セラミック・マテリアル(電子ペースト・MLCC 材料・セラミックス):数量 3.6(対象市場(実質・億ドル)× 自社シェア = 自社の実質の売上規模(億ドル))× 価格 201(1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 729 億円・営業利益 87 億円。市場 62 億ドル(実質)× シェア 5.8%、営業利益率 12.0%
- 工業機材(研削砥石・研磨布紙):数量 3.4(対象市場(実質・億ドル)× 自社シェア = 自社の実質の売上規模(億ドル))× 価格 201(1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 680 億円・営業利益 20 億円。市場 63 億ドル相当(実質)× シェア 5.4%、営業利益率 3.0%
- エンジニアリング(焼成炉・乾燥炉・混合濾過装置):数量 2.0(受注規模(実質・億ドル))× 価格 201(1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 399 億円・営業利益 20 億円。受注規模 1.99 億ドル(実質)、営業利益率 5.0%
- 食器:数量 214(出荷数量(万点・推定))× 価格 0.27(1 点あたりの平均売上(万円・名目))→ 売上 58 億円・営業利益 −1 億円。214 万点 × 1 点 0.272 万円、営業利益率 -1.0%
倍率:事業の ROE 5.4%、k 7.75%、残る割合 1/2 から RONIC 6.8%。正当化 PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)、g 4.0% で上限 9.7 倍。ROE が k を下回る筋書き。ためた利益は額面未満の価値しか持たないため、上限の 1÷k より低く置いた。(上限の約 82% の 8.0 倍)
確率:MLCC の循環と値下げ圧力で材料の利益率が 12% まで下がり、砥石の利益はほぼ消える形。堀が事業ごとに薄い会社なので、2 割に置いた。
悲観 12% 材料も砥石も競争に負け、本業の稼ぎが細る 利益 63 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 982 円550 億円
MLCC の材料で、中国の材料メーカーと顧客の内製が広がる。ノリタケのシェアは 4.5% に落ち、営業利益率は 8% まで下がる。増産した新棟は遊休になり、減損が出る。
工業機材は、自動車の電動化と鉄鋼の海外移転で、数量が 2 割減る。汎用砥石は値段の争いに負け、営業利益率は 1% 台になる。炉と食器も縮み、全社の営業利益率は 3% 台まで落ちる。
会社は潰れない。自己資本は厚く、有価証券も残る。ただ、もう優良な素材メーカーではなく、10 年先の株価は稼ぐ力と持っている資産が支えるだけになる。
配当は累進の下限をなんとか守るが、自社株買いは止まる。経営は食器と砥石の整理を迫られ、株主の関心は成長から資産の使い道に移る。MLCC の材料だけが細々と利益を出し、会社は「堅いが伸びない」素材メーカーとして、静かに 10 年を終える。
- セラミック・マテリアル(電子ペースト・MLCC 材料・セラミックス):数量 2.5(対象市場(実質・億ドル)× 自社シェア = 自社の実質の売上規模(億ドル))× 価格 201(1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 497 億円・営業利益 40 億円。市場 55 億ドル(実質)× シェア 4.5%、営業利益率 8.0%
- 工業機材(研削砥石・研磨布紙):数量 3.0(対象市場(実質・億ドル)× 自社シェア = 自社の実質の売上規模(億ドル))× 価格 201(1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 605 億円・営業利益 6 億円。市場 56 億ドル相当(実質)× シェア 5.4%、営業利益率 1.0%
- エンジニアリング(焼成炉・乾燥炉・混合濾過装置):数量 1.7(受注規模(実質・億ドル))× 価格 201(1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍))→ 売上 339 億円・営業利益 10 億円。受注規模 1.69 億ドル(実質)、営業利益率 3.0%
- 食器:数量 165(出荷数量(万点・推定))× 価格 0.27(1 点あたりの平均売上(万円・名目))→ 売上 45 億円・営業利益 −1 億円。165 万点 × 1 点 0.272 万円、営業利益率 -2.0%
倍率:構造的に負けて稼ぐ力が細る筋書きなので PBR。事業の純利益 63 億円 ÷ k 7.75% は約 760 億円だが、ROE 約3% は ROE 5.4% のやや悲観(PER 8.0 倍)よりずっと低いので、稼ぐ力の満額は付けない。純現金と売れる資産の税後は約 460 億円。今の自己資本 1,667 億円の 0.33 倍にあたる約 550 億円に置いた。
確率:構造的に負ける筋書き。材料のシェアを中国勢と顧客に奪われ、砥石も縮み、本業の営業利益率が 3% 台まで落ちる。会社の財務と資産の厚みで潰れはしないが、1 割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
セラミック・マテリアル(電子ペースト・MLCC 材料・セラミックス)
MLCC 用の電子ペーストと部品材料、セラミック原料、セラミックス部材。会社の営業利益の 4 分の 3 を稼ぐ。
| 数量対象市場(実質・億ドル)× 自社シェア = 自社の実質の売上規模(億ドル) | 価格1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.3 | 150 | 500 | 83 |
| 10 年後 中立 | 5.0 | 201 | 1,010 | 136 |
取り方:会社の 2026 年 3 月期のセグメントで、食器を除くセラミック・マテリアルの売上 500 億円、営業利益 83 億円。対象市場を実質 50 億ドル、シェアを 6.7% と推定すると規模は 3.33 億ドルで、150 円を掛けて 500 億円になる。市場の大きさは、MLCC の市場 150 億ドルの材料部分と、ペースト・セラミック原料・セラミックス部材を合わせた粗い推定で、第三者の数字は見つからなかった。 先の数量は対象市場を実質(物価を除く)で置いたものを伸ばしており、名目の市場の伸びではない。
工業機材(研削砥石・研磨布紙)
自動車・軸受・鉄鋼向けの研削砥石と研磨布紙。半導体ウエハー向けの研削・研磨工具も含む。
| 数量対象市場(実質・億ドル)× 自社シェア = 自社の実質の売上規模(億ドル) | 価格1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3.8 | 150 | 564 | 16 |
| 10 年後 中立 | 3.8 | 201 | 756 | 38 |
取り方:工業機材の売上 564 億円(オーダーメイド品 330 億円・汎用品 234 億円)、営業利益 16 億円。研削砥石の世界市場を、調査会社の推計約 69 億ドルを基に、研磨布紙を含めて実質 70 億ドルとし、シェアを 5.4% と置くと規模は 3.76 億ドルで、150 円を掛けて 564 億円になる。シェアは売上規模からの逆算で、開示は無い。
エンジニアリング(焼成炉・乾燥炉・混合濾過装置)
電子部品・電池材料向けの焼成炉・乾燥炉、混合・濾過装置と保守。
| 数量受注規模(実質・億ドル) | 価格1 ドルの売上あたりの円(為替 150 円 × 物価の倍率。10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.0 | 150 | 298 | 18 |
| 10 年後 中立 | 2.4 | 201 | 479 | 29 |
取り方:エンジニアリングの売上 298 億円(焼成炉・乾燥炉 230 億円、混合濾過装置 38 億円ほか)、営業利益 18 億円。装置の市場規模は開示が乏しく、実質 40 億ドル × シェア 5% の粗い推定で規模は 1.99 億ドルとし、150 円を掛けて 298 億円とした。
食器
「ノリタケ」ブランドの洋食器。2026 年 4 月にセラミック・マテリアル事業へ編入された。
| 数量出荷数量(万点・推定) | 価格1 点あたりの平均売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 330 | 0.20 | 67 | −6 |
| 10 年後 中立 | 264 | 0.27 | 72 | 1 |
取り方:食器の売上 67 億円(国内 29・米州 15・アジア 23)、営業赤字 6 億円。1 点あたりの平均売上 0.203 万円で割り、約 330 万点と推定した。点数は推定で、開示は無い。数量は実質の点数、物価と高価格化は 1 点あたりの売上に入れた。
リスクと懸念
MLCC の需要の循環
売上の 2 割台半ばを占める電子材料は、MLCC の在庫調整で何度も振れてきた。2023〜2024 年も注文が細った。今は AI サーバーの投資で回復しているが、投資が一巡すれば、増産した新棟の稼働率が下がり、償却だけが利益を削る。
増産投資の回収が遅れる
MLCC 材料の増産に、港工場だけで約 110 億円(二期合計)を投じる。2025 年度の営業キャッシュフローは 100 億円で、成長投資は 150 億円と上回った。需要が計画を下回ると、借入が増えて財務の余裕が薄れる。
工業機材が稼げないまま続く
売上 564 億円に対し、営業利益は 16 億円。主要顧客の自動車・鉄鋼・軸受は国内で縮み、海外も北米・中国・東南アジアで減った。再編と価格の見直しで利益率が 5% に届かなければ、会社全体の資本効率を押し下げ続ける。
資本の効率が上がらない
自己資本利益率は 8% 台で、資本コストをわずかに上回る程度だ。自己資本の 3 割ほどが投資有価証券で、縮減が遅れれば株主の取り分は増えにくい。株主提案を受けた経営が、約束を実行できるかが問われる。
顧客と競合の価格圧力
電子ペーストの顧客は、世界の MLCC メーカーに限られる。顧客の調達先の見直しや、中国の材料メーカーの追い上げで、値下げの要求が強まる可能性がある。砥石の汎用品も、同じ圧力にさらされている。
食器の赤字と再編
食器は売上 67 億円で、2026 年 3 月期は 6 億円の営業赤字だった。関税と一部商品の終売で、米州とアジアが減った。セラミック・マテリアルへの編入で体制を軽くするが、祖業の看板を守る声も強く、整理は簡単でない。
今後の分かれ目
- MLCC 材料の売上が、会社の今期計画(セラミック・マテリアル 605 億円)を上回って伸び続ける
- 楽観・やや楽観の確率を引き上げる。ただし、増産投資の償却と稼働率を同時に確かめる。
- MLCC の在庫調整が再び起き、電子材料の売上が前年を下回る
- やや悲観・悲観の確率を引き上げる。増産した新棟の稼働率と、減損の兆候を確かめる。
- 政策保有株の縮減が前倒しで進み、売却資金が自社株買いや配当に回る
- 資本効率の改善を認め、中立の倍率を上げる余地を見る。
- 工業機材の営業利益が、中期計画の 31 億円を超えて伸びる
- 砥石の再編が効いたと見て、中立の利益率を引き上げる。
- 物言う株主が再び提案を出し、会社が事業ポートフォリオの見直しを具体的に示す
- 食器の整理や資本政策の改善を、中立の筋書きに織り込む。
- TOB や資本提携の話が出る
- 提示の値段が本質価値を上回るかを確かめる。上回るなら、持ち続けるより応じる価値が出る。
見ておくもの
- 四半期ごとのセラミック・マテリアルの売上と営業利益(今期計画 605 億円・81 億円)
- MLCC メーカーの在庫と設備投資の動き
- 工業機材の営業利益率(今期計画 3%、2027 年度目標 5%)
- 政策保有株の残高(2029 年 3 月末に連結純資産の 10% 未満)
- 配当性向と自社株買い(総還元性向 50% 以上の累計)
倍率と資本コストの決め方
今の株価や実績の PER を見て倍率を決めていない。4 つの事業を、市場規模 × シェアの数量と、為替 150 円 × 物価の価格で積み、事業ごとの営業利益率を置いて、純利益を出した。倍率は k 7.75%(基本の 7.5% に quality +0.75%)、g 4%、事業の ROE から出した正当化 PER の上限に、利益の質を見て 7〜10 割を掛けた。中立の ROE は k をわずかに上回る程度で、1÷k の下限が効く。結果は今の値段をやや下回るが、数字を合わせにいったものではない。リースは工場を自前で持つため影響は小さく、新リース会計基準での形の変化は 10 年後の数字には入れていない。繰り返せない純利益の売却益は、起点から除いた。 持ち合い株の含み益(評価差額金の税後)は余った現金に 0.5 で足した。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.8→17.47 倍・やや楽観 PER 12.6→15.93 倍・中立 PER 11.5→13.24 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。