結論
ケンビューは、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)の消費者向け部門が 2023 年に独立した会社だ。タイレノール・モートリン・ジルテック(セルフケア)、ニュートロジーナ・アベノ(スキンケア)、リステリン・バンドエイド・ジョンソンズ(日用の衛生用品)を持つ。2025 年の売上は 151 億ドル、調整後の営業利益率は 21.0%。筆者の結論は、単体の本質価値は今の値段よりやや低い、である。決め手は 2 つある。数量が縮んでいることと、タイレノールの訴訟が再燃したことだ。
2025 年の有機売上は −2.2%(価格 +0.1%、数量 −2.3%)と落ち込んだ。2026 年上期は +1.2% に戻ったが、セルフケアの数量はまだ −2.3% である。そこへ 2026 年 7 月、第 2 巡回区控訴裁がタイレノールの自閉症訴訟(約 550 件)を地裁へ差し戻し、10 月 16 日に再審理も退けた。因果関係の判断ではなく、陪審に証拠を示せるかの判断だが、和解の金額が読めない事業に変わった。
キンバリークラーク(Kimberly-Clark)による買収は未成立である。決まりどおり、ここでは単体で書いた。株価は買収の交換比率に連動して動くので、単体の価値を映していない。
バリュー投資の観点では、資本コスト 8.5%(基本 8.0% + quality +0.5%)、g 3.5%、帳簿の ROE 21% から、中立の 10 年後は正当化 PER 15.9 倍に対しその 8.5 割の 13.5 倍に置いた。売上は 214 億ドル(年 +3.5%)、純利益は 29 億ドル、時価総額は 392 億ドルで、今の約 1.1 倍にとどまる。訴訟の和解を確率で織り込んだ価値は、今の値段を 3 割ほど下回る。ただし k が 1 ポイント下がれば中立の PER は 2 割ほど上がり、割高の度合いが縮みうる点は忘れてはならない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、10 年後もタイレノール・リステリン・バンドエイドは売られている。新技術で置き換わる製品ではない。ただし「今より強いか」には自信を持てない。価格を決める力は、2025 年の価格 +0.1% で露骨に落ちた。堀は広がっていないとみる。
オーナー利益は、実力値の純利益 約 17.5 億ドル(GAAP から再編・分離の費用を戻した推定)に、減価償却を足し、設備投資を引いた約 18 億ドル。資本の使い方は無難だが、独立後の 3 年は、広告を絞り数量を落とし、そこで CEO を替え、最後に身売りを選ぶという混乱が続いた。
安全域は薄い。今の時価総額 364 億ドルは、実力値の約 21 倍。式の中立(10 年後 13.5 倍)より高い。しかも株価は買収の交換比率に連動し、単体の価値を映していない。訴訟の和解額は、数十億ドルから 100 億ドル超まで、幅が広い。確信度は低い。買い手が負担を負う形での決着なら株主には悪くないが、単体で持ち続ける理由としては弱い。
何で稼ぐ会社か
ケンビューは 3 つの報告セグメントで稼ぐ。セルフケアは 2025 年の売上 63.8 億ドル(調整後の営業利益率 33%)で、鎮痛薬(タイレノール、モートリン)、風邪・アレルギー薬(ジルテック、ベナドリル)、消化薬、禁煙補助薬を含む。スキンヘルス&ビューティーは 41.1 億ドル(同 11.6%)で、ニュートロジーナ、アベノ、クリーン&クリア、ドクター・シーラボ、OGX を持つ。エッセンシャルヘルスは 46.3 億ドル(同 25%)で、リステリン(口腔)、ジョンソンズ(ベビー)、バンドエイド、ネオスポリン、女性用品(ステイフリー、オービー)が入る。
稼ぎ方はブランド × 棚である。薬局・量販店・ネット通販の棚を押さえ、1 個ごとの単価(高機能品への移行、大容量パック)と数量を積む。タイレノールやリステリンは、安い PB(小売の自社ブランド)が並ぶ棚で高い単価を保てるかが勝負になる。地域は米国が約半分で、残りは欧州・アジア・中南米。
独立後の課題は 3 つある。J&J から切り離した供給網の作り直し(2026 年のリストラ費用は約 2.5 億ドル)、広告費を絞った結果の数量減、そして訴訟だ。2025 年 7 月に創業 CEO が退き、取締役のカーク・ペリーが暫定で指揮を取り、ブランド群の見直しが進んだ。その過程で、2025 年 11 月にキンバリークラークが買収を発表した。
開示は 3 セグメントだけで、数量は出ていない。ここでは 1 個あたりの単価(セルフケア 6 ドル、スキンヘルス&ビューティー 9 ドル、エッセンシャルヘルス 4.5 ドル)を推定して、販売個数に直した。
優良さと弱いところ
堀は 3 つある。第 1 はブランドの信頼だ。タイレノール、リステリン、バンドエイドは、1 世代以上、棚の定位置にある。体や子どもに使う製品は、安い PB に乗り換えにくい。第 2 は薬局・医師・薬剤師の推奨の網で、規制の壁が新規参入を防ぐ。第 3 は規模の広告と供給網である。
資本効率は帳簿で見ると低い。のれん・無形資産が約 182 億ドルあり、自己資本 108 億ドルに対する ROE は 2025 年が 13.7% だった。J&J から切り離した時の評価替えで資産が膨らんだ結果で、事業の稼ぐ力は営業利益率の 21% に出ている。ここでは、のれんを除かない帳簿の値を使った。
弱みは 3 つある。(1) 価格を決める力が最近落ちた:2025 年の価格は +0.1% で、物価(3.5%)に届いていない。エッセンシャルヘルスは 2026 年第 2 四半期に価格が −0.8% だった。(2) 数量が減っている:セルフケアは 2025 年に −3.4%、2026 年上期に −2.3%。(3) 一つの製品に傷がつけば、セルフケア全体に波及する構造で、タイレノールの訴訟がまさにそれにあたる。
経営は、独立から 3 年で CEO が交代し、戦略の見直し、そして買収の受け入れと、落ち着かない。広告費の投下が数量を戻すかは、まだ証明されていない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
OTC(処方箋なしで買える医薬品)とパーソナルケアは、景気に左右されにくく、数量が伸びにくい市場だ。需要は人口と高齢化に結びつき、価格は物価についていけるかどうかで決まる。口腔・スキンケアは名目で年 3.5〜4% の伸びが見込める。鎮痛薬・風邪薬は数量が横ばいで、価格が物価並みに動く市場である。
競争相手は 3 種類ある。専業はヘイリオン(アドビル、ボルタレン、センソダイン)で、2025 年は有機売上 +3.0%(価格 +2.3%、数量 +0.7%)と、ケンビューより価格を取れた。大手はバイエルの消費者向け部門、サノフィから分離したオペラ(Opella)、プロクター・アンド・ギャンブル(ヴィックス)。もう 1 つが PB で、米国の量販店では自社ブランドの鎮痛薬・アレルギー薬が棚に並び、価格で選ぶ客を取っている。ケンビューの強みは、PB の隣に並んでも指名買いされる点にある。
循環のどこにいるか:2025 年は風邪とアレルギーの季節が弱く、消費者の財布も慎重で、セルフケアが沈んだ。2026 年はスキンケアが戻り、全体の有機売上が +1% 台に回復し始めた。需要の防御力は高く、リーマン期でも業界売上の落ち込みは 0〜5% にとどまる。一方で、2026 年 7 月に差し戻されたタイレノールの訴訟は、業界全体ではなく、この会社だけの重荷になっている。
規制と政治の面では、米国政府が 2025 年にアセトアミノフェンと自閉症の関連を主張し、テキサス州の提訴につながった。あわせて米国の関税と原料の価格が利益率を揺らす。
資本政策と M&A
還元は配当が中心だ。配当の総額は年約 16 億ドルで、2025 年の純利益 14.7 億ドルを上回った。自社株買いは小さい(2025 年に約 2 億ドル)。純負債は 75 億ドル、有利子負債は 85 億ドルで、2026 年上期もほぼ横ばい。
大きな資本の動きは 2 つある。1 つは独立:2023 年 5 月に上場し、J&J は 2023 年 8 月の株式交換で持ち株の大半を手放した。もう 1 つがキンバリークラークによる買収の計画だ。交換比率は 0.14625 で、ほかに現金が総額約 67 億ドル付く(2025 年 11 月 2 日に合意、企業価値は約 487 億ドル)。株主承認(2026 年 1 月 29 日)と米国の独占禁止の審査は終わり、海外当局の承認待ちで 2026 年第 4 四半期の完了を見込む。未成立なので、ここでは単体で書いた。成立すれば、訴訟・のれん・借入金は買い手が背負う。解約金は 11 億ドル。
payout_oku は配当と正味の自社株買いの合計から、和解の費用を引いた値で置いた(和解は配当を細らせて払う前提)。中立の 10 年累計は 176 億ドル。自己資本は、今の 108 億ドルに純利益の累計から還元を引いた分を足して流した。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ケンビューはタイレノール、リステリン、バンドエイド、ニュートロジーナという世界的なブランドを持ち、棚の定位置を押さえている。調整後の営業利益率は 2026 年上期に 23.1% と、前年の 21.3% から上がった。リストラと供給網の改善が効いている。スキンヘルス&ビューティーは上期の有機売上が +4.4%、営業利益は +47%。広告の使い方を改め、利益率が 11.6% から 16.3% へ戻った。
セルフケアの数量の落ち込みは、2025 年の弱い風邪の季節と、価格を巡る小売との調整による一時的なものだ。2026 年第 2 四半期は −0.6% まで縮み、価格は +1.2% に戻った。エッセンシャルヘルスは数量が +1.9%。
タイレノールの訴訟は、因果関係が科学的に示されていない。控訴裁が差し戻したのは証拠の扱いで、陪審が因果を認めるとは限らない。差し戻し審で専門家が再び外れれば、訴訟は消える。利益率が 24% に近づき、数量が戻れば、10 年後の純利益は今の約 2 倍、時価総額は約 600 億ドルになる。
慎重な見方
数量の減少は 2 年続いており、2026 年上期も、セルフケアは −2.3% だった。会社は広告を絞り、小売との価格交渉で譲り、PB に棚を明け渡している。2025 年の価格は +0.1% で、物価に届かない。ヘイリオンは同じ年に価格 +2.3%、数量 +0.7% で、ブランドの力で差をつけられた。
タイレノールの訴訟は、2026 年 7 月に控訴裁が約 550 件を差し戻し、10 月 16 日に再審理を退けた。次はベルウェザー審理で、原告が 1 件でも勝てば和解の圧力が一気に高まる。大型の製品訴訟(ラウンドアップなど)では、数十億〜100 億ドル規模の和解になった例がある。テキサス州も 2025 年 10 月に提訴している。J&J は、タイレノールの責任はケンビューにあると主張する。
さらに、利益率 23% は上期の数字で、年間は 21% だった。2026 年のリストラ費用は約 2.5 億ドル、買収の費用も出ている。のれんと無形資産が約 182 億ドルあり、自己資本の 1.7 倍に当たる。ブランドが傷つけば減損が出る。式の中立 13.5 倍は、今の実力値の PER 約 21 倍より 3 割以上低い。
どちらに重みを置いたか
強気の核は、利益率の改善(生産性とスキンケアの回復)と、訴訟の因果関係の弱さ。慎重な見方の核は、数量の減少と価格の弱さが 2 年続いていること、そして訴訟が差し戻され、和解額が読めないことだ。後者は事実として動かず、前者は 2026 年に改善が見え始めたところにとどまる。
そこで確率は、10 年でやや悲観を 25%、悲観を 12%(合わせて 37%)と厚めに置いた。楽観は 6%、やや楽観は 19%。和解の額は筋書きごとに分け、中立で税引き後 30 億ドル、やや悲観 68 億ドル、悲観 115 億ドル、楽観 3 億ドルとした。結果として、確率で重みをつけた価値は今の値段の約 7 割で、総合は「やや割高」になった。
最大の不確実性は、上場が浅く k を市場から確かめにくい点だ。同業の 6% 台なら結論は反転する。ただし k を下げても、訴訟の和解の幅は消えない。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 18.67 ドル359 億ドル(+ 配当配当と自社株買いの合計 7.89 ドル152 億ドル)。 今の値に割り戻すと 13.51 ドル260 億ドル、今との差 −32.1%、 期待の年率 +2.9%(資本コスト 8.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 31.42 ドル605 億ドル | 12.33 ドル237 億ドル | +120.1% | +8.2% | 2.63 ドル51 億ドル |
| やや楽観 | 19% | 25.81 ドル497 億ドル | 11.09 ドル213 億ドル | +85.6% | +6.4% | 7.01 ドル135 億ドル |
| 中立 | 38% | 20.39 ドル392 億ドル | 9.14 ドル176 億ドル | +48.6% | +4.0% | 11.22 ドル216 億ドル |
| やや悲観 | 25% | 12.97 ドル250 億ドル | 5.69 ドル109 億ドル | −6.2% | −0.6% | 4.66 ドル90 億ドル |
| 悲観 | 12% | 7.45 ドル143 億ドル | 1.26 ドル24 億ドル | −56.2% | −7.9% | 1.05 ドル20 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 18.67 ドル359 億ドル | 7.89 ドル152 億ドル | +33.6% | +2.9% | 26.57 ドル511 億ドル |
今の株価時価総額 19.88 ドル382 億ドル(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 6% 楽観:訴訟が崩れ、スキンケアの回復と生産性で利益率が 25% 近くへ 利益 38 億ドル · PER 16.1 倍 · 株価時価総額 31.42 ドル605 億ドル
2035 年 12 月期、売上は 241 億ドル(年 +4.8%)、営業利益 57.5 億ドル(営業利益率 23.9%)、純利益 37.6 億ドル。タイレノールの訴訟は、差し戻し審で専門家の証言の信頼性が崩れるか、陪審が因果を認めず、和解費用の累計は防御費用を含めて 3 億ドル前後にとどまる。
セルフケアは風邪・アレルギーの季節が戻り、数量が年 +0.8%、価格は物価に近い 1.42 倍まで戻る。スキンヘルス&ビューティーはニュートロジーナとアベノが日本・欧州で広がり、数量が年 +2.2%、営業利益率が 19.5%(2025 年は 11.6%)へ上がる。エッセンシャルヘルスはリステリンの高単価品と新興国の女性用品で数量が年 +0.8%。生産性で調整後の営業利益率は 2025 年の 21.0% から 25% 近くへ。買収の計画(キンバリークラーク)は入れていない。
- セルフケア:数量 11.5(販売個数(億個、推定))× 価格 8.52(1 個あたり平均単価(ドル))→ 売上 98 億ドル・営業利益 35 億ドル。数量 +0.8%/年・価格 1.42 倍・利益率 35.5%
- スキンヘルス&ビューティー:数量 5.7(販売個数(億個、推定))× 価格 13(1 個あたり平均単価(ドル))→ 売上 73 億ドル・営業利益 14 億ドル。数量 +2.2%/年・価格 1.42 倍・利益率 19.5%
- エッセンシャルヘルス:数量 11.1(販売個数(億個、推定))× 価格 6.30(1 個あたり平均単価(ドル))→ 売上 70 億ドル・営業利益 19 億ドル。数量 +0.8%/年・価格 1.40 倍・利益率 27.5%
倍率:10 年目の自己資本の帳簿 ROE を使う。ROE 26.8%、k 8.50%(基本 8.0% + quality +0.5%)、残る割合 普通 1/2、RONIC = k + 残る割合 ×(ROE − k)= 17.6%、g 4.0%(事業の数量 × シェア × 価格から出した値。ROE から出していない)で、正当化 PER = (1 − g ÷ RONIC) ÷ (k − g) = 17.2 倍(来年の利益に対して)。数量が戻り訴訟も収まる筋書きだが、上限の 9 割に置いた。上限の 9.0 割に置いた。10 年目の利益に掛けるので ×(1+g) で 16.1 倍。時価総額 = 純利益 38 億ドル × 16.1 倍 = 605 億ドル。
確率:訴訟が小さく終わり、スキンケアが戻り、生産性が効く筋書き。6%(楽観が 5% 未満にならない水準。2025 年の有機売上 −2.2% と訴訟の差し戻しを見て厚くしない)。
やや楽観 19% やや楽観:セルフケアの数量が下げ止まり、スキンケアの利益率が 18% へ 利益 33 億ドル · PER 14.9 倍 · 株価時価総額 25.81 ドル497 億ドル
2035 年 12 月期、売上は 227 億ドル(年 +4.2%)、営業利益 50.9 億ドル(営業利益率 22.4%)、純利益 33.3 億ドル。2026 年上期に有機売上が +1.2% に戻った流れが続き、セルフケアは数量が年 +0.4%、価格は 1.40 倍。スキンヘルス&ビューティーは広告の使い方を絞った効果が出て、営業利益率が 18%(2025 年は 11.6%、2026 年上期は 16.3%)に届く。
エッセンシャルヘルスはリステリンが首位を保ち、数量が年 +0.5%。タイレノールの訴訟は和解で終わり、費用の累計は約 10 億ドル(税引き後)。事業の存続も価格を決める力も保たれるが、プライベートブランド(PB、小売の自社ブランド)の圧力で価格は物価に届かない。
- セルフケア:数量 11.1(販売個数(億個、推定))× 価格 8.40(1 個あたり平均単価(ドル))→ 売上 93 億ドル・営業利益 32 億ドル。数量 +0.4%/年・価格 1.40 倍・利益率 34.5%
- スキンヘルス&ビューティー:数量 5.4(販売個数(億個、推定))× 価格 13(1 個あたり平均単価(ドル))→ 売上 68 億ドル・営業利益 12 億ドル。数量 +1.7%/年・価格 1.39 倍・利益率 18.0%
- エッセンシャルヘルス:数量 10.8(販売個数(億個、推定))× 価格 6.17(1 個あたり平均単価(ドル))→ 売上 67 億ドル・営業利益 18 億ドル。数量 +0.5%/年・価格 1.37 倍・利益率 26.8%
倍率:10 年目の自己資本の帳簿 ROE を使う。ROE 24.1%、k 8.50%(基本 8.0% + quality +0.5%)、残る割合 普通 1/2、RONIC = k + 残る割合 ×(ROE − k)= 16.3%、g 3.8%(事業の数量 × シェア × 価格から出した値。ROE から出していない)で、正当化 PER = (1 − g ÷ RONIC) ÷ (k − g) = 16.3 倍(来年の利益に対して)。数量の回復が遅く、訴訟の影が残るので上限の 8.8 割に置いた。上限の 8.8 割に置いた。10 年目の利益に掛けるので ×(1+g) で 14.9 倍。時価総額 = 純利益 33 億ドル × 14.9 倍 = 496 億ドル。
確率:数量の底打ちとスキンケアの採算改善が揃う筋書き。足元は有機売上が +1% 台に戻り始めたばかりなので 19%。
中立 38% 中立:数量は横ばい、価格は物価よりやや下、訴訟は和解で決着 利益 29 億ドル · PER 13.5 倍 · 株価時価総額 20.39 ドル392 億ドル
2035 年 12 月期、売上は 214 億ドル(年 +3.5%)、営業利益 44.4 億ドル(営業利益率 20.7%)、純利益 29.1 億ドル(2025 年の調整後の実力値 約 17.5 億ドルの約 1.7 倍)。セルフケアは数量が横ばい、価格は 1.37 倍(年 +3.2%)。タイレノールは訴訟の話題で一部の客が離れるが、ほかの鎮痛薬への流出は限られる。
スキンヘルス&ビューティーは数量が年 +1.2%、価格 1.36 倍、営業利益率 16%(2026 年上期の水準)。エッセンシャルヘルスは数量が年 +0.3%、価格 1.34 倍で、利益率 26%。タイレノールの訴訟は 2028〜32 年に全体の和解で決着し、費用の累計は税引き後 30 億ドル。配当は削らずに済む範囲で、還元を厚くするのではなく和解の分だけ自社株買いを細くする。買収の計画は入れていない。
- セルフケア:数量 10.6(販売個数(億個、推定))× 価格 8.22(1 個あたり平均単価(ドル))→ 売上 87 億ドル・営業利益 29 億ドル。数量 +0.0%/年・価格 1.37 倍・利益率 33.5%
- スキンヘルス&ビューティー:数量 5.2(販売個数(億個、推定))× 価格 12(1 個あたり平均単価(ドル))→ 売上 63 億ドル・営業利益 10 億ドル。数量 +1.2%/年・価格 1.36 倍・利益率 16.0%
- エッセンシャルヘルス:数量 10.6(販売個数(億個、推定))× 価格 6.03(1 個あたり平均単価(ドル))→ 売上 64 億ドル・営業利益 17 億ドル。数量 +0.3%/年・価格 1.34 倍・利益率 26.0%
倍率:10 年目の自己資本の帳簿 ROE を使う。ROE 21.4%、k 8.50%(基本 8.0% + quality +0.5%)、残る割合 普通 1/2、RONIC = k + 残る割合 ×(ROE − k)= 15.0%、g 3.5%(事業の数量 × シェア × 価格から出した値。ROE から出していない)で、正当化 PER = (1 − g ÷ RONIC) ÷ (k − g) = 15.3 倍(来年の利益に対して)。数量の縮みと訴訟の不確かさがあるので上限の 8.5 割に置いた。上限の 8.5 割に置いた。10 年目の利益に掛けるので ×(1+g) で 13.5 倍。時価総額 = 純利益 29 億ドル × 13.5 倍 = 392 億ドル。
確率:足元の延長線上で、数量は小さく、価格は物価に届かず、訴訟は費用を払って終わる筋書き。確率はいちばん厚い 38%。
やや悲観 25% やや悲観:和解が重く、PB とヘイリオンに押されて利益率が下がる 利益 22 億ドル · PER 11.5 倍 · 株価時価総額 12.97 ドル250 億ドル
2035 年 12 月期、売上は 189 億ドル(年 +2.3%)、営業利益 33.2 億ドル(営業利益率 17.5%)、純利益 21.7 億ドル(今の実力値の約 1.2 倍)。ベルウェザー(先に審理する見本)審理で原告が勝ち、全体の和解が約 90 億ドル(税引き後 68 億ドル)に膨らむ。配当を据え置き、自社株買いは止まる。
セルフケアは PB の鎮痛薬・アレルギー薬と、ヘイリオン(アドビル・ボルタレン)の販促に押され、数量が年 −0.8%、価格は 1.30 倍。スキンヘルス&ビューティーは数量が年 +0.4%、営業利益率は 13%。エッセンシャルヘルスは数量が年 −0.2%、価格 1.28 倍。ブランドは残るが、価格を決める力は物価の 7 割ほどにとどまる。
- セルフケア:数量 9.8(販売個数(億個、推定))× 価格 7.80(1 個あたり平均単価(ドル))→ 売上 77 億ドル・営業利益 24 億ドル。数量 -0.8%/年・価格 1.30 倍・利益率 31.5%
- スキンヘルス&ビューティー:数量 4.8(販売個数(億個、推定))× 価格 12(1 個あたり平均単価(ドル))→ 売上 55 億ドル・営業利益 7 億ドル。数量 +0.4%/年・価格 1.28 倍・利益率 13.0%
- エッセンシャルヘルス:数量 10.1(販売個数(億個、推定))× 価格 5.76(1 個あたり平均単価(ドル))→ 売上 58 億ドル・営業利益 14 億ドル。数量 -0.2%/年・価格 1.28 倍・利益率 24.0%
倍率:10 年目の自己資本の帳簿 ROE を使う。ROE 17.0%、k 8.50%(基本 8.0% + quality +0.5%)、残る割合 普通 1/2、RONIC = k + 残る割合 ×(ROE − k)= 12.8%、g 2.5%(事業の数量 × シェア × 価格から出した値。ROE から出していない)で、正当化 PER = (1 − g ÷ RONIC) ÷ (k − g) = 13.4 倍(来年の利益に対して)。悲観側は稼ぐ力(純利益 ÷ k)に成長 g を乗せた値の 9.5 割に置き、式の上乗せは見ない。市場の倍率は使わない。上限の 8.4 割に置いた。10 年目の利益に掛けるので ×(1+g) で 11.5 倍。時価総額 = 純利益 22 億ドル × 11.5 倍 = 250 億ドル。
確率:訴訟の和解が大きく、ブランドの力も落ちる筋書き。足元の数量の弱さと差し戻しの結果を見て 25% と厚めに置いた。
悲観 12% 悲観:タイレノールのブランドが崩れ、巨額の和解で配当が細る 利益 13 億ドル · PER 10.7 倍 · 株価時価総額 7.45 ドル143 億ドル
2035 年 12 月期、売上は 159 億ドル(年 +0.5%)、営業利益 20.6 億ドル(営業利益率 13.0%)、純利益 13.4 億ドル(今の実力値より少ない)。タイレノールの訴訟がベルウェザー審理で続けて原告勝訴となり、全体の和解が約 150 億ドル(税引き後 115 億ドル)。アセトアミノフェンを使う製品全体の信頼が傷つき、セルフケアの数量が年 −2.0%、価格は 1.20 倍にとどまる。
米国の州の提訴(テキサス州など)が続き、費用は和解の累計に含めた。スキンヘルス&ビューティーは数量が年 −0.8%、営業利益率が 9.5%、エッセンシャルヘルスも PB に取られ数量が年 −0.8%。営業利益率は 13% まで下がる。配当は 10 年のうち後半で削られ、還元の累計は 24 億ドルにとどまる。それでもリステリン・バンドエイドの事業は残り、事業の存続に疑いはない。
- セルフケア:数量 8.7(販売個数(億個、推定))× 価格 7.20(1 個あたり平均単価(ドル))→ 売上 63 億ドル・営業利益 18 億ドル。数量 -2.0%/年・価格 1.20 倍・利益率 28.5%
- スキンヘルス&ビューティー:数量 4.2(販売個数(億個、推定))× 価格 11(1 個あたり平均単価(ドル))→ 売上 45 億ドル・営業利益 4 億ドル。数量 -0.8%/年・価格 1.18 倍・利益率 9.5%
- エッセンシャルヘルス:数量 9.5(販売個数(億個、推定))× 価格 5.40(1 個あたり平均単価(ドル))→ 売上 51 億ドル・営業利益 11 億ドル。数量 -0.8%/年・価格 1.20 倍・利益率 21.5%
倍率:10 年目の自己資本の帳簿 ROE を使う。ROE 11.2%、k 8.50%(基本 8.0% + quality +0.5%)、残る割合 普通 1/2、RONIC = k + 残る割合 ×(ROE − k)= 9.8%、g 1.5%(事業の数量 × シェア × 価格から出した値。ROE から出していない)で、正当化 PER = (1 − g ÷ RONIC) ÷ (k − g) = 12.1 倍(来年の利益に対して)。悲観側は稼ぐ力(純利益 ÷ k)に成長 g を乗せた値の 9 割に置いた(訴訟と数量の縮みが続くため)。市場の倍率は使わない。上限の 8.7 割に置いた。10 年目の利益に掛けるので ×(1+g) で 10.7 倍。時価総額 = 純利益 13 億ドル × 10.7 倍 = 143 億ドル。
確率:訴訟が最悪に転び、本業も構造的に縮む筋書き。12%(足元の差し戻しと、因果関係の不確かさを見て、同種の会社より厚く置いた)。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
セルフケア
タイレノール・モートリン(鎮痛)、ジルテック・ベナドリル(アレルギー)、消化薬、ニコレット(禁煙)。OTC 医薬の中核で、利益率が高い。
| 数量販売個数(億個、推定) | 価格1 個あたり平均単価(ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 10.6 | 6.00 | 64 | 21 |
| 10 年後 中立 | 10.6 | 8.22 | 87 | 29 |
取り方:2025 年のセルフケア売上 63.78 億ドル(調整後営業利益 21.09 億ドル、率 33.1%。ともに開示値)を、1 個あたり平均 6.0 ドル前後(鎮痛薬・アレルギー薬のボトルやパック)で約 10.6 億個と置いた推定。市場は OTC 医薬で、価格の高いブランド品と PB(小売の自社ブランド)に分かれる。2025 年の有機売上は −3.0%(価格 +0.4%・数量 −3.4%)。
スキンヘルス&ビューティー
ニュートロジーナ・アベノ・クリーン&クリア・ドクター・シーラボ・OGX。スキンケア・ヘアケア。
| 数量販売個数(億個、推定) | 価格1 個あたり平均単価(ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 4.6 | 9.00 | 41 | 5 |
| 10 年後 中立 | 5.2 | 12 | 63 | 10 |
取り方:2025 年のスキンヘルス&ビューティーの売上 41.14 億ドル(調整後営業利益 4.77 億ドル、率 11.6%。開示値)を、1 個あたり平均 9.0 ドル前後(洗顔・保湿・日焼け止め)で約 4.6 億個と置いた推定。2025 年の有機売上は −2.7%(価格 −0.9%・数量 −1.8%)。2026 年上期は有機 +4.4%、営業利益率 16.3% まで戻った。
エッセンシャルヘルス
リステリン(口腔)、ジョンソンズ(ベビー)、バンドエイド・ネオスポリン(応急)、ステイフリー・オービー(女性用品)。
| 数量販売個数(億個、推定) | 価格1 個あたり平均単価(ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 10.3 | 4.50 | 46 | 12 |
| 10 年後 中立 | 10.6 | 6.03 | 64 | 17 |
取り方:2025 年のエッセンシャルヘルス売上 46.32 億ドル(調整後営業利益 11.76 億ドル、率 25.4%。開示値)を、1 個あたり平均 4.5 ドル前後(マウスウォッシュ・絆創膏・生理用品)で約 10.3 億個と置いた推定。2025 年の有機売上は −0.7%(価格 +0.5%・数量 −1.2%)。2026 年上期は +1.3%(数量 +1.7%・価格 −0.4%)。
リスクと懸念
タイレノールの訴訟(差し戻し)
2026 年 7 月に控訴裁が自閉症・ADHD 訴訟(約 550 件)を地裁へ差し戻し、10 月 16 日に再審理も退けた。ベルウェザー審理の日程は未定だが、原告が 1 件でも勝てば和解の圧力が高まる。ここでは和解の額を筋書きごとに分け、中立で税引き後 30 億ドル、悲観で 115 億ドルと置いた。
州の提訴と J&J との責任の分担
テキサス州司法長官が 2025 年 10 月に、ケンビューと J&J を提訴した。J&J は「タイレノールの責任はケンビューが持つ」と主張している。ほかの州が追随すれば、費用と、ブランドの信用への傷が広がる。州の提訴は和解の累計に含めて置いたが、金額の幅は広い。
数量の減少(PB と販促)
2025 年の数量は −2.3%、セルフケアは −3.4%。2026 年上期もセルフケアは −2.3%。米国の量販店の PB が鎮痛薬・アレルギー薬で数量を取り、ヘイリオンは販促で押してくる。数量が戻らなければ、価格を上げても売上は物価に届かない。
価格を決める力の低下
2025 年の価格は +0.1%、エッセンシャルヘルスは 2026 年第 2 四半期に −0.8%。物価 3.5% に対して実質で大きく下回る。10 年の価格を中立で 1.34〜1.37 倍(物価の 1.41 倍より低い)に置いたのはこのため。
のれん・無形資産の減損
のれん約 95 億ドル、無形資産約 87 億ドルで、自己資本 108 億ドルの 1.7 倍に当たる。ブランドの傷が数量に出れば、減損で自己資本が削られ、配当の余力も細る。スキンヘルス&ビューティーの小さなブランドは、2025 年に売却も検討されたと報じられた。
未成立の買収(キンバリークラーク)
株主承認と米国の審査は済んだが、海外当局の承認待ち。決まりどおり、ここでは単体で書いた。成立すれば、訴訟・のれん・借入金は買い手が背負い、単体の価値とは別の話になる。破談なら、株価は単体の価値へ寄ると見る。解約金は 11 億ドル。
利益率の持続
調整後の営業利益率は 2025 年が 21.0%、2026 年上期が 23.1%。リストラと供給網の改善の効果で、広告の絞りの反動が出る可能性がある。関税・原料価格・為替の追い風(2026 年上期の為替の寄与は 2.5%)も一時要因を含む。
今後の分かれ目
- ベルウェザー審理で、原告が先に勝つ
- 中立の和解額を税引き後 30 億ドルから約 70 億ドルへ上げ、やや悲観・悲観の確率を 10 ポイント厚くする。ブランドの信用への傷として、セルフケアの数量を年 −1% へ下げる。
- 差し戻し審で、専門家の証言の主要部分が再び外される
- 和解の見通しが小さくなり、楽観・やや楽観の確率を 8 ポイント厚くする。中立の和解額は 10 億ドル前後に下げる。
- セルフケアの有機売上が、2 四半期続けてプラスになる
- 鎮痛薬の数量が下げ止まった証拠と見て、セルフケアの数量を年 +0.4% へ上げ、中立から楽観側へ確率を寄せる。
- キンバリークラークの買収が成立する
- 単体の筋書きは意味を失い、買い手の価値(訴訟・のれん・借入金の負担と、事業の足し算)で見直す。上場廃止なら分析を終える。
- 買収が破談になる
- 株価の買収の支えが消える。単体の価値(今回の置き方)に近づく動きを想定し、解約金(最大 11 億ドル)の受け渡しを織り込む。
- 米国の長期金利が上がり、k が 1 ポイント上昇
- 式の PER が約 16 倍から約 13 倍へ下がり、単体の価値は今の値段をさらに下回る。逆に k が 7.5% に下がれば、中立の PER は 2 割ほど上がる。
見ておくもの
- タイレノール訴訟(MDL 3043)のベルウェザー審理の日程と評決、差し戻し審での専門家の扱い
- テキサス州など州の提訴の進展と、J&J との責任の分担
- セルフケア・スキンヘルス&ビューティー・エッセンシャルヘルスの有機売上(数量と価格の内訳、四半期)
- 調整後営業利益率(2026 年上期 23.1%)と、リストラ費用(2026 年約 2.5 億ドル)の出尽くし
- キンバリークラークの買収の完了時期・海外当局の判断・解約金
- ヘイリオンの価格と数量(米国の OTC)、PB の鎮痛薬・アレルギー薬での占有率
- のれん・無形資産の減損の有無と、配当(年約 16 億ドル)の水準
倍率と資本コストの決め方
今の PER(GAAP 24.7 倍、実力値 約 21 倍)を見る前に、3 つのセグメントを販売個数 × 平均単価で積み、利益率から営業利益を出し、金利・税 24.5% を入れて純利益を作った。倍率は k 8.5%(基本 8.0% + quality +0.5%)の式 (1 − g/RONIC) ÷ (k − g) × (1+g) の 8.5〜9 割(中立 13.5 倍)で、悲観側は稼ぐ力(純利益 ÷ k)に g を乗せた値の 9〜9.5 割。g は市場数量 +0.4%・シェア ±0・価格 +3.2% から 3.5% とし、ROE から出していない。ROE は帳簿(のれんを除かない)。今の株価は買収の交換比率に連動するので、単体の価値の根拠にしない。差が −29% と出たのは式の結果で、株価に合わせていない。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 5% + β 1.00 × 5%。k = 基本 8.0% + quality +0.5% = 8.5%。個別のリスク(訴訟・買収・一本足)は k に足さず、筋書きと確率で表した(寿命の +0.25% は事業が単体で続くかの不確かさ)。