結論
ジョンソン・エンド・ジョンソンは、2025 年の売上 942 億ドルのうち約 65% を処方薬(腫瘍・免疫・神経)、約 35% を医療機器(心血管・手術・整形外科・視力)が占める、世界最大級の総合ヘルスケア企業である。2025 年の営業利益は 261 億ドル(営業利益率 27.7%)、2026 年は通期の売上 1,008〜1,014 億ドル(初の 1,000 億ドル超)を見込む。2026 年 4〜6 月期はダルザレックス +19%、トレムフィア +72%、カービクティ +49% と成長主力が伸び、ステラーラは後発品で −56% と急減した。
10 年後もこの事業は存在し、今より強いか。処方薬は特許で守られた製品ごとの独占で、堀そのものは強いが、2029〜2032 年にダルザレックス・トレムフィアの特許切れが集中する。医療機器は規模と販路が堀で、心血管(アビオメッド・ショックウェーブ)は強いが電界アブレーションで競争が激しい。配当を 60 年以上増やし続けた資本配分の実績と、最上位級の財務が安全域を支える。
セグメントごとに数量 × 価格で積み上げると、10 年後(2035 年)の中立は売上 1,429 億ドル・純利益 330 億ドル(年 3%)で、成長は 5% 前後に留まる。倍率は利益ベースの正当化 PER(10 年の中立で 19.6 倍。g 4.0%・k 7.5%)の 8 割、15.7 倍に置いた。特許切れの波と米国の薬価の構造変化は、この割合に入れた。確率で重みをつけた本質価値は今の時価総額(6,209 億ドル)を約 4 割下回り、結論は「割高」。優れた事業だが、安全域はない。悲観では今の 2 割ほどまで下がる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、まず 10 年後にこの事業があるかを問う。処方薬は病気が続く限り需要があり、医療機器も高齢化で伸びるので、存在はほぼ確実で、今より強いかは新薬の補充次第。堀は処方薬の特許・データと医療機器の販路で、特許切れのたびに削られるが、研究開発力と資金力が毎回それを補う。
オーナー利益:2025 年の純利益 268 億ドルは訴訟引当の戻しを含み、正味の力は約 245 億ドル。フリー・キャッシュフローは約 197 億ドル、配当 125 億ドルと自社株買い 60 億ドルでほぼ使い切る形で、買収による無形資産の償却を差し引くと株主のものになる利益は純利益よりやや小さい。経営は買収の金額を抑え、配当を 60 年以上増やしてきた。資本配分は保守的で信頼できる。
安全域:今の PER は正味の利益で約 25 倍・PBR は 7.6 倍。本質価値は筋書きの重み付けで今の時価総額を約 4 割下回り、安全域は見えない。優れた事業だが、値段は割高と見る。予測のしやすさ:処方薬の特許の年表は読めるので確信度は高い。ただし米国の薬価政策と訴訟の行方は読めず、10 年後の値段の確信度は中程度。
何で稼ぐ会社か
処方薬(イノベーティブ・メディスン、2025 年 608 億ドル)と医療機器(メドテック、同 334 億ドル)の 2 本柱。処方薬は腫瘍(ダルザレックス約 140 億ドル・カービクティ・テクベイリ・タルベイ・リブレバント・エルリーダ)、免疫(ステラーラ・トレムフィア・シンポニー、経口のイコチドを 2026 年 3 月に承認取得)、神経(スプラバト・カプリタ・インヴェガ)が中心。2025 年に買収したイントラセルラー(カプリタ、約 146 億ドル)で神経を強め、ハルダ(30.5 億ドル)で前立腺がんを補った。
ダルザレックスは多発性骨髄腫の標準薬で、ジェンマブ集計の売上は 2026 年 4〜6 月に 42 億ドル、7〜9 月に 42.4 億ドル。会社は腫瘍で 2030 年に 500 億ドル(多発性骨髄腫で 250 億ドル)を目標とする。ステラーラ(2025 年約 64 億ドル)は後発品で大きく減り、2026 年 4〜6 月期の医薬の成長を 7.6 ポイント押し下げた。
医療機器は心血管(アビオメッド・ショックウェーブ・電界アブレーションのバイオセンス・ウェブスター)、手術、整形外科(デピュイ・シンセス、2024 年売上約 92 億ドル)、視力(アキュビュー)。2025 年 10 月に整形外科の分離を発表し、2026 年 2 月には 200 億ドル超での売却も検討と報じられた。顧客は米国の保険者・病院・薬局チェーン・各国の公的保険。
優良さと弱いところ
堀は 3 層。第 1 は特許と臨床データで、ダルザレックス・カービクティなどは同じ病気に直接の競合が少ない。第 2 は規模と研究開発力で、研究開発費は年 200 億ドル超、大型買収を自前の販売網に乗せて伸ばす力がある(ショックウェーブ・アビオメッドは買収後も高い成長)。第 3 は医療機器の販路・臨床医との関係で、切り替えの費用が高い。
資本効率:2025 年の ROE は 32.9%、営業利益率 27.7%(直近 12 期の最悪は 23.4%)。ROE の高さは自社株買いと配当で自己資本が膨らまない点にもよるが、利益の質は高く、フリー・キャッシュフローは年 約 200 億ドルで純利益と同程度。経営は大型買収を 100 億〜150 億ドル規模にとどめ、巨額買収で価値を壊した例は近年ない。
弱点:第 1 に特許切れの集中(ダルザレックス 2029 年〜、トレムフィア 2030 年代)。第 2 に価格を決める力が IRA と最恵国待遇で削られること(ステラーラ・ザレルトが既に対象)。第 3 に医療機器が競合に押される分野があること(電界アブレーションでボストン・サイエンティフィックやメドトロニック、整形外科でストライカーやジンマー・バイオメット)。第 4 に訴訟(タルクは 2026 年 7 月に 55 億ドル以上の和解案、承認と原告の 95% 以上の参加が条件で、将来の請求は対象外)。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
大手製薬の領域は、2025〜2030 年に米国で 2,300 億ドル超の売上が独占を失う特許切れの谷にあり、業界全体で補充率が優劣を決める。メルクはキイトルーダ(2028 年)、ブリストル・マイヤーズ スクイブとファイザーはエリキュース(2028 年)、ジョンソン・エンド・ジョンソンはダルザレックス(2029 年〜)で、補充できる割合が会社の価値を決める。業界ノートの置き方:特許切れ後に失う売上の 6〜7 割を新薬と買収で補うのが中立、米国の純価格は名目で下がる。
価格の構造:Medicare の薬価交渉は第 3 弾(2028 年適用)で 15 薬(Part B を含む)。最恵国待遇の価格で政府と合意し、関税を 3 年猶予された。大手各社は米国の純価格が名目で下がる前提に置く。
競合:多発性骨髄腫ではジェンマブ(ダルザレックスの提携先)・アムジェン・ファイザー・アッヴィ・ロシュの二重特異性抗体と細胞治療。免疫ではアッヴィ(スキリージ・リンヴォック)、ノバルティス、イーライリリー、ブリストル・マイヤーズ スクイブ。
医療機器は年 5〜6% 成長(実質 3% + 物価)。心血管は電界アブレーションの競争、整形外科は高齢化で数量が伸びる。AI・ロボット(オットバ・ダビンチ)が手術の差を広げる。
資本政策と M&A
還元は配当が中心で、60 年以上連続で増配してきた。2025 年は配当 125 億ドル・自社株買い 60 億ドル。株数は直近 3 年で約 1 割減ったが、2025 年は横ばいで、買収の資金を優先している。
M&A は 100〜150 億ドル級が中心(イントラセルラー 146 億ドル、ショックウェーブ、アビオメッド 166 億ドル)。整形外科(デピュイ・シンセス)は分離を発表し、売却なら 200 億ドル超。売却代金は自社株買いか研究開発に回る見込みで、価値としては中立と見て、分離前の会社の全体で置く。タルク和解の 55 億ドルは数年で払う見込みで、財務の余力は十分。
分かれ目:整形外科の売却が実現した場合の代金の使い道、研究開発型の中型買収の継続、増配のペース。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
成長主力が会社の予想を上回って立ち上がっている。ダルザレックス +19%、トレムフィア +72%、カービクティ +49% で、ステラーラの −56% を吸収したうえで 2026 年の売上見通しが引き上げられた(1,008〜1,014 億ドル)。イコチドは 2026 年 3 月に経口の IL-23 阻害薬として承認され、注射薬の患者を取りにいく。腫瘍は 2030 年に 500 億ドルの目標で、多発性骨髄腫・膀胱がん・前立腺がんの新薬が特許切れを補う。
処方薬の営業利益率は約 34%、医療機器は 18% 台で、整形外科を切り離すと医療機器の成長率と利益率が上がる。財務は最上位級の格付けで、増配を 60 年以上続け、タルク和解(55 億ドル以上)も既に引当済み。多角化により価格の下げを吸収しやすく、大型買収を 100 億ドル級に留めているので、買収で価値を壊しにくい。10 年先でも年 5% 以上の売上成長と 27% の営業利益率を保てる。
慎重な見方
ダルザレックスは 2029 年に米国で特許切れが始まり、2025 年の約 140 億ドルが 2030 年代前半に大きく削られる。トレムフィアも続き、ステラーラのように 1 年で半減する例が既に出ている。IRA の対象はどんどん広がり(2028 年適用は 15 薬、Part B 初)、最恵国待遇は民間保険にも広がりうる。米国の純価格は名目で下がる一方、人件費・臨床試験費は物価で上がる。
医療機器は競合に押されている。心血管は 2026 年 4〜6 月に +3.1% と鈍く、電界アブレーションでボストン・サイエンティフィックとメドトロニックに負け、アビオメッドは英国の研究で需要に疑義が出て −2%。整形外科はストライカー・ジンマー・バイオメットに比べシェアが落ちてきた。タルクの和解は承認と原告の 95% 以上の参加が必要で、将来の請求は対象外のため、不確実性は残る。
さらに今の PER は正味の利益で約 25 倍・PBR 7.6 倍で、10 年先まで年 3% の純利益成長を前提にすると、割引後の本質価値は今の時価総額に届かない。成長が鈍る事業に成長株の倍率を払うのは安全域がない。
どちらに重みを置いたか
事業の質と財務は強気の言い分が強いが、価格の議論では慎重な見方が勝つ。特許切れの年表と薬価政策は確定的な事実で、新薬の補充は 6〜7 割という置き方が中立。確率は 10 年で強気側 32%・弱気側 35% と、特許切れ後の補充の不確実性から弱気にやや寄せた。利益ベースの正当化 PER の 8 割で測ると、結論は「割高」(総合 約 −40%)。安全域はない。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 205.56 ドル4,994 億ドル(+ 配当配当と自社株買いの合計 77.26 ドル1,877 億ドル)。 今の値に割り戻すと 153.55 ドル3,730 億ドル、今との差 −42.6%、 期待の年率 +0.6%(資本コスト 7.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 362.51 ドル8,807 億ドル | 102.91 ドル2,500 億ドル | +73.9% | +5.7% | 46.54 ドル1,131 億ドル |
| やや楽観 | 22% | 281.17 ドル6,831 億ドル | 92.62 ドル2,250 億ドル | +39.7% | +3.4% | 82.23 ドル1,998 億ドル |
| 中立 | 33% | 213.13 ドル5,178 億ドル | 80.27 ドル1,950 億ドル | +9.6% | +0.9% | 96.82 ドル2,352 億ドル |
| やや悲観 | 23% | 129.60 ドル3,149 億ドル | 63.80 ドル1,550 億ドル | −27.7% | −3.2% | 44.48 ドル1,081 億ドル |
| 悲観 | 12% | 60.90 ドル1,480 億ドル | 45.28 ドル1,100 億ドル | −60.3% | −8.8% | 12.74 ドル310 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 205.56 ドル4,994 億ドル | 77.26 ドル1,877 億ドル | +5.7% | +0.6% | 282.82 ドル6,871 億ドル |
今の株価時価総額 267.61 ドル6,501 億ドル(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 強気:腫瘍が 2035 年も 700 億ドル超、医療機器が市場を上回る 利益 464 億ドル · PER 19.0 倍 · 株価時価総額 362.51 ドル8,807 億ドル
ダルザレックスの特許切れ(2029〜2031 年)を、皮下注への切り替え、カービクティ、テクベイリ・タルベイの併用、リブレバント、TAR-200、パシトグ(前立腺がん)などが埋め、腫瘍と神経は 731 億ドルになる。免疫はイコチドが年商 80 億ドル級まで育ち、トレムフィアの特許切れ後も 285 億ドルを保つ。医療機器はショックウェーブ・アビオメッド・電界アブレーション・手術ロボットのオットバが揃って伸び、シェアが 10.5% に上がり 710 億ドル、利益率 24%。2035 年は売上 1,762 億ドル・営業利益 569 億ドル・純利益 464 億ドル。事業の多角さと研究開発の持続力で、10 年後も優良さが保たれている。
会社の長期目標の上限(年 7%)を超えて 10 年続けた姿で、実現のハードルは高い。倍率は正当化 PER 21.1 倍の 9 割の 19.0 倍に置いた。
- 腫瘍・神経(ダルザレックス・カービクティ・リブレバント・スプラバト・カプリタ・インヴェガほか):数量 850(万人年(薬を使う患者の延べ人数))× 価格 8,600(1 人年あたり純価格(ドル))→ 売上 731 億ドル・営業利益 292 億ドル。特許切れを上回って補う
- 免疫(ステラーラ・トレムフィア・イコチド・シンポニーほか):数量 1,500(万人年(薬を使う患者の延べ人数))× 価格 1,900(1 人年あたり純価格(ドル))→ 売上 285 億ドル・営業利益 114 億ドル。イコチドが年商 80 億級
- 既存の成熟薬(ザレルト・イムブルビカ・ザイティガ・感染症ほか):数量 400(万人年(薬を使う患者の延べ人数))× 価格 900(1 人年あたり純価格(ドル))→ 売上 36 億ドル・営業利益 8 億ドル。縮小
- 医療機器(心血管・手術・整形外科・視力):数量 4,800(担当市場の実質規模(億ドル・2025 年価格))× 価格 14.8%(シェア × 価格指数(2025 年 = 1.0 の価格指数))→ 売上 710 億ドル・営業利益 170 億ドル。オットバが伸びる
倍率:正当化 PER は 21.1 倍(g 4.0%、RONIC 15.3%。RONIC は k 7.50% に、事業の ROE 23.0% が k を超える分の 0.5 を足した値。moat は normal)。これに対し 19.0 倍(9 割)に置いた。堀は普通:医薬品と医療機器の分散で利益のぶれが小さく堀は厚いが、医薬の特許切れと薬価政策があり、新しく投じる資本の稼ぎは先で薄れるので強い堀(2/3)とは見ない。利益の質がよい筋書き。上限の 9 割に置く。純利益は GAAP。
確率:会社の長期目標の上限を 10 年続ける姿で、実現のハードルは高いので 10%。
やや楽観 22% やや強気:新薬は特許切れを上回って補い、医療機器も市場並み以上 利益 391 億ドル · PER 17.5 倍 · 株価時価総額 281.17 ドル6,831 億ドル
腫瘍と神経は 647 億ドル。ダルザレックスは 2031 年頃から売上が落ちるが、後継の組み合わせ療法と新規の腫瘍薬が 6 割強を補う。免疫は 253 億ドル、医療機器は 656 億ドル(利益率 22.5%)で、オットバが整形外科・一般外科で一定のシェアを取る。2035 年は売上 1,588 億ドル・営業利益 481 億ドル・純利益 391 億ドル。純価格は医薬全体で 2025 年比 −8% 程度の下げに留まる。
過去 20 年、大手製薬が次の特許切れの前に新薬を買収と自社開発で埋めてきた実績に沿う。ジョンソン・エンド・ジョンソンは資金力がある。倍率は正当化 PER 20.6 倍の 8.5 割の 17.5 倍に置いた。
- 腫瘍・神経(ダルザレックス・カービクティ・リブレバント・スプラバト・カプリタ・インヴェガほか):数量 780(万人年(薬を使う患者の延べ人数))× 価格 8,300(1 人年あたり純価格(ドル))→ 売上 647 億ドル・営業利益 246 億ドル。補充 6 割強
- 免疫(ステラーラ・トレムフィア・イコチド・シンポニーほか):数量 1,420(万人年(薬を使う患者の延べ人数))× 価格 1,780(1 人年あたり純価格(ドル))→ 売上 253 億ドル・営業利益 96 億ドル。後発品後も維持
- 既存の成熟薬(ザレルト・イムブルビカ・ザイティガ・感染症ほか):数量 390(万人年(薬を使う患者の延べ人数))× 価格 820(1 人年あたり純価格(ドル))→ 売上 32 億ドル・営業利益 6 億ドル。縮小
- 医療機器(心血管・手術・整形外科・視力):数量 4,650(担当市場の実質規模(億ドル・2025 年価格))× 価格 14.1%(シェア × 価格指数(2025 年 = 1.0 の価格指数))→ 売上 656 億ドル・営業利益 148 億ドル。市場並み
倍率:正当化 PER は 20.6 倍(g 4.0%、RONIC 14.2%。RONIC は k 7.50% に、事業の ROE 21.0% が k を超える分の 0.5 を足した値。moat は normal)。これに対し 17.5 倍(8.5 割)に置いた。堀は普通:医薬品と医療機器の分散で利益のぶれが小さく堀は厚いが、医薬の特許切れと薬価政策があり、新しく投じる資本の稼ぎは先で薄れるので強い堀(2/3)とは見ない。上限の 8.5 割に置く。純利益は GAAP。
確率:過去 20 年、大手製薬が特許切れの前に買収と自社開発で穴を埋めてきた実績に沿う。資金力があり 22%。
中立 33% 中立:特許切れは 6 割補われ、売上は年 4%、純利益は年 3% で伸びる 利益 330 億ドル · PER 15.7 倍 · 株価時価総額 213.13 ドル5,178 億ドル
2035 年の売上は 1,429 億ドル(2025 年から年 4.2%)、営業利益 407 億ドル、純利益 330 億ドル。腫瘍と神経は 583 億ドル:ダルザレックスは 2031 年前後に後発品が出て大きく減るが、カービクティ・二重特異性抗体・新規の膀胱がん・前立腺がん薬が穴を 6〜7 割補う。免疫は 214 億ドル:トレムフィアも 2030 年代に特許切れが来るが、イコチドが補う。成熟薬は 30 億ドルまで縮む。医療機器は市場の成長(実質 3%・物価 3.5%)に対しシェアが 0.5 ポイント下がり、602 億ドル・利益率 21%。純価格は医薬全体で 2025 年比 −10% を置く(IRA・最恵国待遇・後発品の混合)。
価格の置き方:腫瘍は 0.91 倍・免疫は 0.82 倍・成熟薬は 0.63 倍。いずれも物価の 1.41 倍に届かず、IRA の対象拡大・最恵国待遇・特許切れ後の後発品とバイオ後続品で純価格が名目でも下がると見る(人件費・臨床試験費は物価で上がるので利益率は下がる)。
確率の最大。会社の利益の質は高いが、特許切れの波が 2029〜2032 年に集中し、補充率が分かれ目になる。倍率は正当化 PER 19.6 倍の 8 割の 15.7 倍に置いた。
- 腫瘍・神経(ダルザレックス・カービクティ・リブレバント・スプラバト・カプリタ・インヴェガほか):数量 720(万人年(薬を使う患者の延べ人数))× 価格 8,100(1 人年あたり純価格(ドル))→ 売上 583 億ドル・営業利益 213 億ドル。補充 6〜7 割
- 免疫(ステラーラ・トレムフィア・イコチド・シンポニーほか):数量 1,300(万人年(薬を使う患者の延べ人数))× 価格 1,650(1 人年あたり純価格(ドル))→ 売上 214 億ドル・営業利益 77 億ドル。イコチドが補う
- 既存の成熟薬(ザレルト・イムブルビカ・ザイティガ・感染症ほか):数量 380(万人年(薬を使う患者の延べ人数))× 価格 790(1 人年あたり純価格(ドル))→ 売上 30 億ドル・営業利益 6 億ドル。縮小
- 医療機器(心血管・手術・整形外科・視力):数量 4,490(担当市場の実質規模(億ドル・2025 年価格))× 価格 13.4%(シェア × 価格指数(2025 年 = 1.0 の価格指数))→ 売上 602 億ドル・営業利益 126 億ドル。シェア −0.5 ポイント
倍率:正当化 PER は 19.6 倍(g 4.0%、RONIC 12.8%。RONIC は k 7.50% に、事業の ROE 18.0% が k を超える分の 0.5 を足した値。moat は normal)。これに対し 15.7 倍(8 割)に置いた。堀は普通:医薬品と医療機器の分散で利益のぶれが小さく堀は厚いが、医薬の特許切れと薬価政策があり、新しく投じる資本の稼ぎは先で薄れるので強い堀(2/3)とは見ない。中立は上限の 8 割に置く。純利益は GAAP。
確率:中立。特許切れが 2029〜2032 年に集中し、補充率が 6〜7 割という業界ノートの置き方を使う。最大の 33%。
やや悲観 23% やや弱気:新薬の補充率が 4 割に留まり、価格の下げも続く 利益 227 億ドル · PER 13.9 倍 · 株価時価総額 129.60 ドル3,149 億ドル
ダルザレックスの特許切れ後に新薬の立ち上がりが追いつかず、腫瘍と神経は 459 億ドルに縮む。免疫はトレムフィアの後発品と競合(スキリージ・経口薬)に押されて 167 億ドル。医療機器は電界アブレーション・ロボットの競争でシェアを失い(8.9%)、540 億ドル・利益率 19%。2035 年は売上 1,187 億ドル・営業利益 285 億ドル・純利益 227 億ドル。大型買収の失敗(ファイザーの例)はこの段階では想定せず、純価格は −17% を置く。
大手製薬の特許切れで補充が 4 割に留まる例は多い(ファイザー、ブリストル・マイヤーズ スクイブ)。確率は厚めに置く。倍率は正当化 PER 18.5 倍の 7.5 割の 13.9 倍に置いた。
- 腫瘍・神経(ダルザレックス・カービクティ・リブレバント・スプラバト・カプリタ・インヴェガほか):数量 620(万人年(薬を使う患者の延べ人数))× 価格 7,400(1 人年あたり純価格(ドル))→ 売上 459 億ドル・営業利益 147 億ドル。補充 4 割
- 免疫(ステラーラ・トレムフィア・イコチド・シンポニーほか):数量 1,150(万人年(薬を使う患者の延べ人数))× 価格 1,450(1 人年あたり純価格(ドル))→ 売上 167 億ドル・営業利益 52 億ドル。後発品と競合
- 既存の成熟薬(ザレルト・イムブルビカ・ザイティガ・感染症ほか):数量 330(万人年(薬を使う患者の延べ人数))× 価格 650(1 人年あたり純価格(ドル))→ 売上 21 億ドル・営業利益 3 億ドル。縮小
- 医療機器(心血管・手術・整形外科・視力):数量 4,300(担当市場の実質規模(億ドル・2025 年価格))× 価格 12.6%(シェア × 価格指数(2025 年 = 1.0 の価格指数))→ 売上 540 億ドル・営業利益 103 億ドル。シェア 8.9%
倍率:正当化 PER は 18.5 倍(g 4.0%、RONIC 11.3%。RONIC は k 7.50% に、事業の ROE 15.2% が k を超える分の 0.5 を足した値。moat は normal)。これに対し 13.9 倍(7.5 割)に置いた。堀は普通:医薬品と医療機器の分散で利益のぶれが小さく堀は厚いが、医薬の特許切れと薬価政策があり、新しく投じる資本の稼ぎは先で薄れるので強い堀(2/3)とは見ない。特許切れと医療機器の競争が重なる筋書き。上限の 7.5 割に置く。純利益は GAAP。
確率:補充率が 4 割に留まる例は多い(ファイザー、ブリストル・マイヤーズ スクイブ)。やや厚めの 23%。
悲観 12% 弱気:構造的に負け、優良な大手ではなくなる 利益 111 億ドル · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 60.90 ドル1,480 億ドル
主力の特許切れの後に新薬が育たず、免疫・腫瘍とも価格と数量が崩れる。腫瘍と神経は 326 億ドル、免疫は 108 億ドル、医療機器もシェアを 8% まで失い 441 億ドル(利益率 14%)。大型買収の減損とタルク・医療機器の訴訟が重なり、2035 年は売上 888 億ドル(今の売上を下回る)・営業利益 144 億ドル・純利益 111 億ドル、ROE は 12%。ファイザー(ROE 9%)のように買収の価値が壊れた例が下敷き。
10 年で事業の構造的な負けが起きる場合。多角経営の分散が効くので大きくは置かないが、薄くもしない。ROE が k に届かず、ためた利益は額面より低い価値なので、純利益 111 億ドルを k 7.5% で割った稼ぐ力の約 1,480 億ドル(今の約 2.4 割)に置いた。
- 腫瘍・神経(ダルザレックス・カービクティ・リブレバント・スプラバト・カプリタ・インヴェガほか):数量 480(万人年(薬を使う患者の延べ人数))× 価格 6,800(1 人年あたり純価格(ドル))→ 売上 326 億ドル・営業利益 82 億ドル。構造的な負け
- 免疫(ステラーラ・トレムフィア・イコチド・シンポニーほか):数量 900(万人年(薬を使う患者の延べ人数))× 価格 1,200(1 人年あたり純価格(ドル))→ 売上 108 億ドル・営業利益 24 億ドル。崩れる
- 既存の成熟薬(ザレルト・イムブルビカ・ザイティガ・感染症ほか):数量 250(万人年(薬を使う患者の延べ人数))× 価格 500(1 人年あたり純価格(ドル))→ 売上 12 億ドル・営業利益 1 億ドル。ほぼ消える
- 医療機器(心血管・手術・整形外科・視力):数量 3,900(担当市場の実質規模(億ドル・2025 年価格))× 価格 11.3%(シェア × 価格指数(2025 年 = 1.0 の価格指数))→ 売上 441 億ドル・営業利益 62 億ドル。シェア 8%
倍率:事業の ROE 7.2% が k 7.50% 以下なので PER は 1÷k=13.3 倍まで。これに対し 13.3 倍(10 割)に置いた。堀は普通:医薬品と医療機器の分散で利益のぶれが小さく堀は厚いが、医薬の特許切れと薬価政策があり、新しく投じる資本の稼ぎは先で薄れるので強い堀(2/3)とは見ない。構造的に負けた筋書き。ROE が k に届かず、ためた利益は額面より低い価値なので、稼ぐ力(純利益 ÷ k)を床にとる。自己資本に PBR を掛けない。純利益は GAAP。
確率:構造的な負け。多角経営の分散が効くので大きくは置かないが、薄くもしない。12%。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
腫瘍・神経(ダルザレックス・カービクティ・リブレバント・スプラバト・カプリタ・インヴェガほか)
ダルザレックスを中心とする腫瘍の成長主力と神経。特許切れ(ダルザレックス 2029 年〜)に向かう。
| 数量万人年(薬を使う患者の延べ人数) | 価格1 人年あたり純価格(ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 400 | 8,875 | 355 | 128 |
| 10 年後 中立 | 720 | 8,100 | 583 | 213 |
取り方:2025 年の腫瘍(ダルザレックス約 140 億ドル、カービクティ約 19 億ドル、エルリーダ・リブレバントほか)と神経(インヴェガ・スプラバトほか約 85 億ドル)の合計 355 億ドルを、延べ 400 万人年で割った平均純価格。数量は患者の延べ人数の推定。米国の純価格は IRA・最恵国待遇で名目でも下がる前提(10 年 0.91 倍程度)で、物価並みの 1.11 倍・1.41 倍にはならない。ダルザレックスは 2029 年に米国で特許切れ、皮下注への切り替えで延命。営業利益率は 2025 年の事業部の実績(約 36%、償却込み)から置く。
免疫(ステラーラ・トレムフィア・イコチド・シンポニーほか)
ステラーラの後発品で縮み、トレムフィアと経口のイコチドが補う領域。
| 数量万人年(薬を使う患者の延べ人数) | 価格1 人年あたり純価格(ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 950 | 2,000 | 190 | 68 |
| 10 年後 中立 | 1,300 | 1,650 | 214 | 77 |
取り方:2025 年の免疫(ステラーラ約 64 億、トレムフィア約 48 億、シンポニー・レミケードほか)の合計 190 億ドルを延べ 950 万人年で割った平均純価格。ステラーラは後発品で 2026 年から急減(4〜6 月 −56%)し、トレムフィアとイコチドが補う。価格は後発品への切り替えと混合の変化で下がる前提。営業利益率は約 36% を置く。
既存の成熟薬(ザレルト・イムブルビカ・ザイティガ・感染症ほか)
特許切れ・薬価交渉・後発品で縮む既存薬。
| 数量万人年(薬を使う患者の延べ人数) | 価格1 人年あたり純価格(ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 500 | 1,260 | 63 | 14 |
| 10 年後 中立 | 380 | 790 | 30 | 6 |
取り方:2025 年の既存の成熟薬(ザレルト米国・イムブルビカ・ザイティガ・感染症ほか)63 億ドルを延べ 500 万人年で割った平均。薬価交渉・後発品で縮む。営業利益率は約 22%。
医療機器(心血管・手術・整形外科・視力)
アビオメッド・ショックウェーブ・電界アブレーション・デピュイ・シンセス・コンタクトレンズ。整形外科は分離を発表済み(売却か分離)。
| 数量担当市場の実質規模(億ドル・2025 年価格) | 価格シェア × 価格指数(2025 年 = 1.0 の価格指数) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 3,340 | 10.0% | 334 | 60 |
| 10 年後 中立 | 4,490 | 13.4% | 602 | 126 |
取り方:2025 年の医療機器の売上 334 億ドル。担当市場(心血管・手術・整形外科・視力。推定 3,340 億ドル、シェア約 10%)の規模 × シェア × 価格指数。価格は物価並みに上がる(3 年 1.11 倍、10 年 1.41 倍)が、シェアの変化と合わせて price 欄に入れる。営業利益率は約 18%(償却込み)。
リスクと懸念
特許切れの集中(ダルザレックス・トレムフィア)
ダルザレックスは 2025 年に約 140 億ドルで、米国の特許切れが 2029 年から始まる。トレムフィアも 2030 年代に続く。ステラーラは 2026 年 4〜6 月期に −56%。新薬の補充が 6〜7 割を下回ると、10 年後の利益は今を下回る。補充率は新薬の臨床結果と競合の動きで決まり、会社の努力だけでは動かせない。
米国の薬価政策(IRA・最恵国待遇・関税)
Medicare の薬価交渉は 2028 年適用の第 3 弾で 15 薬(Part B 含む)。最恵国待遇が民間保険に広がれば、米国の純価格は 2 年で 1 割以上下がりうる。ジョンソン・エンド・ジョンソンは政府と合意して関税を猶予されたが、内容は非公開。
医療機器の競争と成長の鈍さ
心血管は 2026 年 4〜6 月に +3.1% と鈍く、電界アブレーションでボストン・サイエンティフィック・メドトロニックが先行。アビオメッドは −2%、整形外科はストライカー・ジンマー・バイオメットに対しシェアが下がってきた。医療機器は売上の約 35% を占め、ここが年 3% 台の成長に留まると、全社の成長率も下がる。
タルク訴訟の残り
2026 年 7 月に既存の卵巣がん請求(約 6.9 万件)を 55 億ドル以上で和解する案を発表した。承認と原告の 95% 以上の参加が条件で、将来の請求は対象外。不成立なら費用が再び膨らむ。和解の金額は財務上は吸収できる規模だが、将来の請求が残れば不確実性は消えない。
整形外科の分離・売却の実行
2025 年 10 月に分離を発表し、2026 年 2 月に 200 億ドル超の売却も検討と報じられた。実行の遅れ・安値売却・残る共通費用の増加が起きうる。価値としては中立と見るが、実行の誤りで下振れする。
大型買収の失敗と倍率の縮み
神経・腫瘍の補強に 100 億ドル超を使う買収が続く。買収後の売上が計画を割ると、ファイザーのように価値を壊す。今の PER 25 倍(正味の利益)は成長の鈍化とともに縮みやすい。過去の期末 PER の中央値は 19 倍で、今はそれを大きく上回っている。
今後の分かれ目
- ダルザレックス皮下注の切り替えが進み、特許切れの時期に後継の併用療法が伸びる
- 腫瘍の補充率が 7 割を超え、10 年の強気側へ確率を寄せてよい。
- 最恵国待遇・IRA が民間保険にも広がり、米国の純価格が 2 年で 15% 以上下がる
- やや弱気・弱気の確率を大きく上げ、倍率も 17 倍以下に下げる。
- イコチドが経口の IL-23 阻害薬として年商 50 億ドル超の道筋を示す
- 免疫の穴埋めが進み、10 年で強気側の確率を上げる。
- タルク和解が成立せず、将来の請求も含めた再交渉になる
- 弱気側の確率を上げ、数十億ドル規模の追加費用を織り込む。
- 整形外科が 200 億ドル超で売却され、代金が自社株買いに回る
- 価値は中立だが、利益の質が上がるので倍率を 1〜2 倍上げてよい。
- 医療機器の心血管の成長が 3% 台に定着し、電界アブレーションの競争で負ける
- 医療機器の利益率が 17% 台に下がり、やや弱気の確率を上げる。
見ておくもの
- ダルザレックスとカービクティの伸び(ジェンマブの四半期発表)
- イコチド・トレムフィアの売上(免疫の穴埋め)
- 最恵国待遇・IRA の適用の広がり(純価格)
- 医療機器の心血管の成長と電界アブレーションのシェア
- タルク和解の承認と原告の参加率
- 整形外科の売却・分離の実行
倍率と資本コストの決め方
先に 4 つの事業(腫瘍と神経・免疫・成熟薬・医療機器)を数量 × 価格で 10 年に積み上げ、純利益と営業利益率を置いてから倍率を決めた。今の PER(報告ベース 23 倍・正味で約 25 倍)には寄せていない。倍率は利益ベースの正当化 PER の 7〜10 割に置いた。10 年の中立は上限 19.6 倍(g 4.0%・k 7.5%)の 8 割で 15.7 倍。成長が年 3% に鈍る点と特許切れの波は、g を物価より低くして見た。結果は今の時価総額を約 4 割下回り「割高」。計算の結論をそのまま受け入れた。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 5% + β — × 5%。k = 基本 8.0% + quality −0.5% = 7.5%。医薬の特許切れ・薬価政策・タルク訴訟・医療機器の競争などの個別のリスクは k に足さず、やや悲観・悲観の確率(合計 35%)と悲観の深さで表した。存続は危うくないので上乗せ 0。