結論
富士フイルムホールディングスは、医療機器・医薬品・バイオ医薬品の受託製造(CDMO)を担うヘルスケア、半導体材料・ディスプレイ材料を担うエレクトロニクス、複合機・オフィス機器を担うビジネスイノベーション(旧富士ゼロックス)、instax・写真フィルム・カメラを担うイメージングという、性格のまるで異なる4つの事業を持つ複合企業である。2026年3月期は売上高3兆3,570億円・営業利益3,502億円で過去最高を更新したが、最大の収益源だったビジネスイノベーションは複合機市場の構造的縮小で益率5.4%に低下し、2026年8月には2〜3年後を目途にこの事業を分離・上場し保有比率を2割弱まで下げる方針を発表した。狙いは資本をヘルスケア(特にバイオCDMO)と半導体材料という成長領域に集中させることにあるが、バイオCDMOは新拠点の立ち上げ費用が先行し2026年3月期・2027年3月期とも損失が続く見通しで、ヘルスケア全体の益率はいまだ5.8%にとどまっている。
分離はパーシャル・スピンオフ(HDの持分を2割未満に下げ、残りの株を株主に割り当てる)で検討されている。つまり複合機事業の価値は消えず、株主の手に株として渡る。
ここではヘルスケアと半導体材料を実質の市場×シェア(物価の指数込み)、複合機を稼働台数×1台あたり売上、イメージングを販売パック数×単価で積み上げ、数量は実質、価格は物価3%込みの名目で置いた。分離が3年以内に済む筋書きでは、分ける株の価値(3,500〜4,500億円)を還元に入れ、2割弱の持分の利益を営業外に入れた。倍率は利益ベースの正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)で出した(k7%、gは4%。今の利益はそのまま残り、薄れるのは新しく投じるお金の稼ぎだけで、RONICにはkを超えるROEの半分が残る)。
結果、中立は10年後にROE7.9%・PER13.3倍で時価総額約5.4兆円(今の約4.1兆円に対し、それまでの還元約2.0兆円は別)。ROEがkをわずかに超えるだけなので、PERは1÷kの13.3倍を下回らせず、上限の9.5割に置いた。確率で重みづけた10年の本質価値は今の値段より-0.9%で「適正」。
バリュー投資の観点から
オーナー利益の観点では、富士フイルムは縮小市場にあるビジネスイノベーションが稼ぎ頭でありながら、成長投資の中心であるCDMOと半導体材料がまだ十分な利益を生んでいない過渡期にある。バリュー投資の観点では、構造的に縮小する複合機事業を高い倍率で評価する理由はなく、半導体材料のような差別化できる事業こそ高い倍率にふさわしいとみるはずだ。ビジネスイノベーションの分離は、事業の性格が異なるものを一つの倍率で評価する「コングロマリット・ディスカウント」を縮める可能性があるが、分離そのものが実行リスクでもある。
堀の持続については、CMPスラリー・フォトレジストの技術優位は顧客の製造プロセスに深く組み込まれ長期的に評価できる一方、CDMOは巨額投資がまだ投資回収の前段階にあり、堀が確立したとは言い切れない。ビジネスイノベーションの保守網・ブランドは堀として機能してきたが、市場そのものの縮小には対抗できない。
資本配分については、CDMOへの累計1兆円超の投資とビジネスイノベーションの分離という大きな組み換えを同時に進めており、バリュー投資の観点では安全域を厚めに取るべき局面にある。今の株価は分離の成功とCDMOの早期収益化をある程度前提にした水準に見え、10年で見ても市場の期待にすでに追いついている可能性が高い。
何で稼ぐ会社か
ヘルスケア事業(売上1兆989億円)は、CT・内視鏡等の医療機器、医薬品、再生医療・バイオ医薬品の受託製造(CDMO)、ウイルス除去膜等のライフサイエンス資材から成る。CDMOはデンマーク(2019年に米バイオジェンの製造拠点を買収、2024年11月本格稼働)と米ノースカロライナ州(2021年以降2,000億円超を投資)の大型タンク拠点を軸に、2031年3月期にCDMO単独で売上7,000億円規模を目指す累計1兆円超の投資計画の途上にある。
エレクトロニクス事業(売上4,562億円)は、銅配線用CMPスラリー(研磨剤)で世界シェア1位、EUV露光対応フォトレジストを商品化した半導体材料と、ディスプレイ材料が中心。2030年度に先端フォトレジストのシェアを2024年度の8%から20%へ引き上げる目標を掲げ、2025〜2026年度の2年で設備投資・研究開発に1,000億円以上を投じている。
ビジネスイノベーション事業(売上1兆1,748億円、全社売上の35%)は旧富士ゼロックスを引き継ぐ複合機・オフィスソリューション・グラフィックコミュニケーション事業で、2026年8月に2〜3年後を目途に分離・上場し保有比率を2割弱に下げる方針が発表された。
イメージング事業(売上6,271億円)はチェキ(instax)を中心とするコンシューマー向け写真・カラーフィルムと、ミラーレスデジタルカメラ等のプロフェッショナルイメージングから成り、2026年3月期は益率25.5%と4事業で最も収益性が高い。
優良さと弱いところ
4事業の堀の質は大きく異なる。半導体材料はCMPスラリーの世界シェア1位・フォトレジストの日本4社で世界シェア約9割という高い技術優位を持ち、顧客との共同開発の蓄積が堀になっている。CDMOはデンマーク・米国の大型タンク拠点という巨額投資で参入障壁を作る戦略だが、まだ投資回収の前段階で、ロンザ・サムスンバイオロジクス等グローバル大手との競争も激しい。ビジネスイノベーションのブランド・保守網は堀として機能してきたが、市場そのものが構造的に縮小しており、堀の強さよりも市場縮小の方が重い。イメージングのinstaxは「体験を買う」消費財としてのブランド力が堀になっているが、流行り物としての持続性には不確実性がある。
ROEは2026年3月期で7.2%、自己資本比率63.4%・純有利子負債は時価総額比17.6%と財務は健全で、過去10年で明確な赤字期もなく資本効率は化学業種の中でも比較的安定している。一方でバイオCDMOの先行損失(2026年3月期で200億円台半ば、2027年3月期はさらに拡大)がヘルスケアの益率を押し下げており、巨額投資を利益に変える経営の実行力が優良さの最大の変数になっている。ビジネスイノベーションの分離を「同社最大の部門を切り出す」規律ある決断とみる一方、分離の実行自体が新たな不確実性でもある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
半導体材料の主戦場であるCMPスラリー・フォトレジストは、AIデータセンター向け先端ロジック・HBMメモリ投資の拡大という構造的な追い風の中にあるが、半導体投資は2〜4年周期で山と谷を作る循環産業であり、AI需要が循環そのものを消すわけではない。フォトレジストは日本4社(信越化学・JSR・東京応化・富士フイルム)で世界シェア約9割という寡占構造にあり、最先端グレードでの技術優位は当面続くが、中国の中位グレードでのキャッチアップは徐々に進む。
バイオCDMOは世界的なバイオ医薬品・細胞治療・遺伝子治療の受託製造需要の拡大という構造的な追い風の中にあるが、新興設備の急増によるCDMO業界全体の供給過剰で価格競争が激しく、富士フイルム自身も遺伝子・細胞治療分野の受注減少・業務遅延で損失が拡大している。ロンザ・サムスンバイオロジクス等のグローバル大手との競争も厳しい。
ビジネスイノベーションが属する複合機市場は、世界の出荷台数が2018年比3割超減というペーパーレス化による構造的な縮小市場にあり、国内外のオフィス機器各社が同じ問題を抱える。イメージング事業のinstaxは若年層・インバウンド消費を取り込んで世界で成長を続けているが、競合(Polaroid等)の存在と消費財としての流行の波がある。全体として、縮小する複合機事業の切り出しと、CDMO・半導体材料という2つの巨額投資事業の収益化のタイミングが、会社全体の評価を左右する構図になっている。
資本政策と M&A
株主還元は配当性向30%を目安とした方針で、2027年3月期は17期連続増配となる見通し。2026年3月には6年ぶりに最大300億円の自社株買い(全数消却)を発表・実施し、株価推移に応じて機動的に自己株式取得を行う方針を示している。
M&Aでは2019年のバイオジェン・デンマーク拠点買収を起点にバイオCDMOへ累計1兆円超を投資し、2031年3月期にCDMO売上7,000億円を目指す計画が進行中である。一方で2026年8月には最大部門であるビジネスイノベーション(旧富士ゼロックス)を2〜3年後を目途に分離・上場し、保有比率を2割弱まで下げる方針を発表しており(パーシャル・スピンオフで、残りの株は富士フイルムHDの株主に割り当てる形が検討されている)、「稼ぎ頭だが縮小市場の事業を切り出し、成長事業に資本を再配分する」という大きな資本配分の転換点にある。
今後の分かれ目は、ビジネスイノベーションの分離・上場が良い条件で実現するか、CDMOの先行損失がいつ収益化に転じるか、半導体材料のシェア拡大投資(2025〜2026年度で1,000億円超)が計画どおり果実を生むかという3つの判断にある。
【実行済み分の扱い】2026/4〜5 月に実行した 300 億円の自社株買い(全数消却・株数に反映済み)は 10 年の還元に入れていない。自己資本の起点は 2026/3 期末から 300 億円引いた 38,096 億円。
点検済み:中立の営業利益率13.8%が過去の山(10.4%)を超えていたため、複合機の分離(低採算の事業が連結から外れる。構造の変化)は残し、ヘルスケアの益率を11%から8.5%に置き直した(全社12.3%)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
半導体材料事業は2026年3月期に営業利益が前年比34.4%増の1,009億円まで伸び、銅配線用CMPスラリーで世界シェア1位、EUV対応フォトレジストの大手採用という技術優位を背景に、2030年度に先端フォトレジストのシェアを8%から20%へ引き上げる計画が進んでいる。AIデータセンター投資という構造的な需要の柱があるかぎり、半導体材料はエレクトロニクス事業の益率をさらに高めていく余地がある。
バイオCDMOは短期的には先行損失が続いているが、デンマーク・米国の大型タンク拠点という参入障壁の高い投資をすでに終えており、2031年3月期の売上7,000億円という目標に向けて受注が積み上がれば、投資回収期に入った途端に損益が急速に改善する可能性がある。世界的な高齢化とバイオ医薬品・細胞治療の普及という10年単位の追い風も、CDMOの受注を後押しする。
ビジネスイノベーションの分離・上場は、縮小市場の事業を切り出して成長事業に資本を再配分する規律ある決断であり、分離後のビジネスイノベーション自体も複合機からオフィスソリューション・印刷関連へ事業の重心を移すことで、単独でも相応の価値をつけられる可能性がある。配当性向30%の方針と6年ぶりの自社株買いという株主還元の姿勢も崩れておらず、自己資本比率63.4%という健全な財務を保ちながら成長投資を続けられる。3つの事業がそれぞれ異なる局面で成長の芽を持つ分散構造は、長期的な業績の安定要因として評価できる。
慎重な見方
ヘルスケア事業の益率はわずか5.8%にとどまり、主因であるバイオCDMOは2026年3月期に200億円台半ば、2027年3月期はさらに拡大する損失が見込まれている。遺伝子・細胞治療分野の受注減少・業務遅延も重なっており、巨額投資がいつ収益化するかの見通しは楽観しにくい。CDMO業界全体でも新興設備の急増による供給過剰が続いており、ロンザ・サムスンバイオロジクス等との価格競争は今後も厳しさを増す可能性がある。
ビジネスイノベーションの分離・上場は「2〜3年後」という計画であり、独占禁止法上の手続きや市場環境次第で延期・条件悪化のリスクがある。世界の複合機出荷台数が2018年比3割超減という縮小市場の中での上場は、良い条件での資本市場からの評価を得にくく、分離自体が高値での切り出しにならない可能性もある。
半導体材料は構造的な追い風があるものの、半導体投資は2〜4年周期で循環する産業であり、AI投資の過熱後の調整が10年のどこかで来ると見るのが妥当で、2030年度のシェア20%目標も中国メーカーの中位グレードでのキャッチアップが進めば達成が難しくなる。全社でみると、CDMOの収益化・ビジネスイノベーションの分離・半導体材料のシェア拡大という3つの大きな賭けを同時に進めている状態であり、どれか一つが計画より遅れれば、すでに前のめりに評価されている今の株価には届かない。
どちらに重みを置いたか
半導体材料の技術優位とCDMOの長期需要では強気の見方に相応の根拠があるが、CDMOの先行損失の長さとビジネスイノベーション分離の実行リスクでは慎重な見方の指摘も的を射ている。ただし分離はパーシャル・スピンオフで、複合機事業の価値は株として株主に渡るので、分離そのものは価値を減らさない。物価込みで積み直すと、中立の10年後はROE7.9%で、利益ベースの正当化PER(約14倍)の9.5割の13.7倍に置き、10年の本質価値は今の値段を1%下回る程度に収まって、総合は「適正」になる。確率は中立を軸に、CDMOの収益化をやや楽観に23%、CDMOの供給過剰と分離の停滞をやや悲観・悲観に計35%置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,396 円6.45 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,477 円1.77 兆円)。 今の値に割り戻すと 3,797 円4.54 兆円、今との差 +11.6%、 期待の年率 +7.3%(資本コスト 7.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 11,827 円14.15 兆円 | 2,324 円2.78 兆円 | +315.8% | +15.3% | 1,274 円1.52 兆円 |
| やや楽観 | 23% | 8,007 円9.58 兆円 | 1,897 円2.27 兆円 | +191.0% | +11.3% | 2,278 円2.72 兆円 |
| 中立 | 33% | 5,142 円6.15 兆円 | 1,536 円1.84 兆円 | +96.2% | +7.0% | 2,204 円2.64 兆円 |
| やや悲観 | 23% | 2,818 円3.37 兆円 | 1,152 円1.38 兆円 | +16.7% | +1.6% | 913 円1.09 兆円 |
| 悲観 | 12% | 1,210 円1.45 兆円 | 502 円6,000 億円 | −49.7% | −6.6% | 205 円2,457 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,396 円6.45 兆円 | 1,477 円1.77 兆円 | +102.0% | +7.3% | 6,874 円8.22 兆円 |
今の株価時価総額 3,403 円4.07 兆円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 9% 分離・CDMO収益化・半導体材料のシェア拡大がすべて揃う 利益 7,717 億円 · PER 18.3 倍 · 株価時価総額 11,827 円14.15 兆円
ビジネスイノベーションは早期に良い条件で分離・上場する。分離はパーシャル・スピンオフで行われ、HDの株主は複合機会社の株(全体の8割強)を受け取り、HDは2割弱の持分からの持分法益・配当を得る形に移る。CDMOは2031年3月期の目標(売上7,000億円)を達成したのち、世界的な高齢化とバイオ医薬品・細胞治療の普及という10年単位の追い風を取り込んで受注がさらに積み上がり、ヘルスケア全体の益率が14%まで高まる。半導体材料はフォトレジストのシェアが20%目標を達成し、AIデータセンター投資の構造的拡大を取り込んで益率27%に達する。イメージングもinstaxに続く新たな消費財カテゴリーを育て益率24%を維持する、会社にとって最も理想的な10年になる。
- ヘルスケア(医療機器・医薬品・バイオCDMO・ライフサイエンス):数量 151(富士フイルムの数量相当:対象市場の実質規模(医療機器・医薬品・バイオ医薬品の受託製造・ライフサイエンス資材)× 富士フイルムのシェア(億ドル、2026年の物価))× 価格 140.0%(1単位あたりの値段の指数(今を1.0。物価3%込みの名目で、10年で物価並みなら1.34倍))→ 売上 31,657 億円・営業利益 4,432 億円。益率14.0%、CDMOが目標達成(数量は実質で今の2.06倍、値段の指数は1.4倍)
- エレクトロニクス(半導体材料・ディスプレイ材料):数量 65.3(富士フイルムの数量相当:世界の半導体材料市場の実質規模 × 富士フイルムのシェア(億ドル、2026年の物価))× 価格 140.0%(1単位あたりの値段の指数(今を1.0。物価3%込みの名目で、10年で物価並みなら1.34倍))→ 売上 13,718 億円・営業利益 3,704 億円。益率24.0%、シェア20%目標達成(数量は実質で今の2.15倍、値段の指数は1.4倍)
- ビジネスイノベーション(旧富士ゼロックス:複合機・オフィス機器):数量 0.0(複合機・プリンターの保守契約の稼働台数(万台、推定。実質の数量))× 価格 39(1台あたりの年間売上(万円、機器・消耗品・保守・ソリューションを含む、名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。パーシャル・スピンオフで非連結。株主に渡る株の価値は還元に
- イメージング(instax・写真フィルム・デジタルカメラ):数量 290(instax・写真フィルムの販売数量(百万パック換算、カメラ本体を含む推定。実質の数量))× 価格 3,511(1パック換算あたりの売上(円、名目))→ 売上 10,182 億円・営業利益 2,444 億円。益率24.0%、新カテゴリーを育成
倍率:事業の純利益 7,717 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.5% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.8%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.3 倍。全体の PER 18.33 倍、時価総額 141,453 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10年間でビジネスイノベーションの分離の成功、CDMOの収益化、半導体材料のシェア拡大目標(20%)の達成という3つの変化がすべて実現する必要があり、実現すれば非常に強いが連続成功の確度は高くない。
やや楽観 23% CDMOが利益の柱として定着し、半導体材料も着実に拡大 利益 5,670 億円 · PER 16.9 倍 · 株価時価総額 8,007 円9.58 兆円
CDMOは目標の売上7,000億円規模に近づき収益化が進み、デンマーク・米国の拠点が稼働率を高めてヘルスケア全体の益率が12.5%に達して全社利益の柱になる。半導体材料はAI投資の継続とシェア拡大が着実に進み益率22%まで改善する。ビジネスイノベーションは分離後の単独企業として複合機からオフィスソリューション・印刷関連へ事業の重心を移し相応の価値をつけ、HDは持分法益・配当を受け取る形が定着する。イメージングはinstaxの成長が成熟し、後継の消費財カテゴリーの開発も進めながら益率22%を維持する10年になる。全社としてはヘルスケア・半導体材料という2つの成長事業が利益の主軸として定着し、資本効率も緩やかに改善する。
- ヘルスケア(医療機器・医薬品・バイオCDMO・ライフサイエンス):数量 135(富士フイルムの数量相当:対象市場の実質規模(医療機器・医薬品・バイオ医薬品の受託製造・ライフサイエンス資材)× 富士フイルムのシェア(億ドル、2026年の物価))× 価格 137.0%(1単位あたりの値段の指数(今を1.0。物価3%込みの名目で、10年で物価並みなら1.34倍))→ 売上 27,688 億円・営業利益 3,461 億円。益率12.5%(数量は実質で今の1.84倍、値段の指数は1.37倍)
- エレクトロニクス(半導体材料・ディスプレイ材料):数量 52.7(富士フイルムの数量相当:世界の半導体材料市場の実質規模 × 富士フイルムのシェア(億ドル、2026年の物価))× 価格 137.0%(1単位あたりの値段の指数(今を1.0。物価3%込みの名目で、10年で物価並みなら1.34倍))→ 売上 10,834 億円・営業利益 2,383 億円。益率22.0%(数量は実質で今の1.73倍、値段の指数は1.37倍)
- ビジネスイノベーション(旧富士ゼロックス:複合機・オフィス機器):数量 0.0(複合機・プリンターの保守契約の稼働台数(万台、推定。実質の数量))× 価格 39(1台あたりの年間売上(万円、機器・消耗品・保守・ソリューションを含む、名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。パーシャル・スピンオフで非連結。株主に渡る株の価値は還元に
- イメージング(instax・写真フィルム・デジタルカメラ):数量 270(instax・写真フィルムの販売数量(百万パック換算、カメラ本体を含む推定。実質の数量))× 価格 3,411(1パック換算あたりの売上(円、名目))→ 売上 9,209 億円・営業利益 2,026 億円。益率22.0%
倍率:事業の純利益 5,670 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.1% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.6%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.9 倍。全体の PER 16.89 倍、時価総額 95,766 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:CDMOが主軸として定着するという、会社の資本配分方針(成長投資の中心をヘルスケア・半導体材料に置く)に沿った上位レンジの想定。
中立 33% 中立:ヘルスケア・半導体材料が主導し、分離後の全社像が定着 利益 4,070 億円 · PER 15.1 倍 · 株価時価総額 5,142 円6.15 兆円
ビジネスイノベーションの分離は完了する。分離はパーシャル・スピンオフで行われ、HDの株主は複合機会社の株(全体の8割強)を受け取り、HDは2割弱の持分からの持分法益・配当を得る形に移る。CDMOは収益化が進むが、ロンザ・サムスンバイオロジクス等との競争・業界全体の供給過剰の影響も残り、ヘルスケア全体の益率は8.5%にとどまる(今の5.8%から、CDMOの収益化で上がる分だけ)。全社の営業利益率は12%ほど。複合機の分離で低採算の事業が連結から外れる分が山超えの主因。半導体材料は中国の中位グレードでのキャッチアップの影響も受けつつAI投資の追い風で着実に成長し益率20%を維持する。イメージングはinstaxの成長が一段落し益率20%に落ち着く。全社としてビジネスイノベーションが切り出された後の姿で、ヘルスケア・半導体材料への依存度が一段と高まった構造になる10年になる。資本配分はこの2事業への再投資に重点が置かれ続ける。
- ヘルスケア(医療機器・医薬品・バイオCDMO・ライフサイエンス):数量 125(富士フイルムの数量相当:対象市場の実質規模(医療機器・医薬品・バイオ医薬品の受託製造・ライフサイエンス資材)× 富士フイルムのシェア(億ドル、2026年の物価))× 価格 134.0%(1単位あたりの値段の指数(今を1.0。物価3%込みの名目で、10年で物価並みなら1.34倍))→ 売上 25,117 億円・営業利益 2,135 億円。益率8.5%(数量は実質で今の1.71倍、値段の指数は1.34倍)
- エレクトロニクス(半導体材料・ディスプレイ材料):数量 47.5(富士フイルムの数量相当:世界の半導体材料市場の実質規模 × 富士フイルムのシェア(億ドル、2026年の物価))× 価格 134.0%(1単位あたりの値段の指数(今を1.0。物価3%込みの名目で、10年で物価並みなら1.34倍))→ 売上 9,548 億円・営業利益 1,910 億円。益率20.0%(数量は実質で今の1.56倍、値段の指数は1.34倍)
- ビジネスイノベーション(旧富士ゼロックス:複合機・オフィス機器):数量 0.0(複合機・プリンターの保守契約の稼働台数(万台、推定。実質の数量))× 価格 39(1台あたりの年間売上(万円、機器・消耗品・保守・ソリューションを含む、名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。パーシャル・スピンオフで非連結。株主に渡る株の価値は還元に
- イメージング(instax・写真フィルム・デジタルカメラ):数量 255(instax・写真フィルムの販売数量(百万パック換算、カメラ本体を含む推定。実質の数量))× 価格 3,361(1パック換算あたりの売上(円、名目))→ 売上 8,570 億円・営業利益 1,714 億円。益率20.0%
倍率:事業の純利益 4,070 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.9% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.4%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.1 倍。全体の PER 15.11 倍、時価総額 61,498 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:ヘルスケア(CDMOを含む)・半導体材料の相対的な強さと、分離後の全社像が緩やかに定着するという業種ノートの中心的な見通しを組み合わせた中心シナリオ。
やや悲観 23% CDMO供給過剰が続き、半導体材料もシェアを侵食される 利益 2,245 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 2,818 円3.37 兆円
CDMOは新興設備の急増による業界全体の供給過剰が長期化し、米国の医療費抑制策の強化も重なってヘルスケア全体の益率は7%にとどまる。半導体材料は中国の中位グレードでのキャッチアップが進みシェアの一部を侵食され、2030年度シェア20%目標には届かず益率15%まで下がる。ビジネスイノベーションはパーシャル・スピンオフで分離はしたものの単独企業としての価値が乏しく(株主に渡る株は約2,800億円)、縮小する複合機市場の中でHDが受け取る持分法益・配当も小さいままにとどまる。イメージングも消費財としての勢いを失い新たなカテゴリーの育成も進まず、益率14%まで低下する10年になる。全社として成長の柱と期待した2事業が計画どおりには伸びない苦しい構造になる。
- ヘルスケア(医療機器・医薬品・バイオCDMO・ライフサイエンス):数量 105(富士フイルムの数量相当:対象市場の実質規模(医療機器・医薬品・バイオ医薬品の受託製造・ライフサイエンス資材)× 富士フイルムのシェア(億ドル、2026年の物価))× 価格 128.0%(1単位あたりの値段の指数(今を1.0。物価3%込みの名目で、10年で物価並みなら1.34倍))→ 売上 20,218 億円・営業利益 1,415 億円。益率7.0%(数量は実質で今の1.44倍、値段の指数は1.28倍)
- エレクトロニクス(半導体材料・ディスプレイ材料):数量 34.9(富士フイルムの数量相当:世界の半導体材料市場の実質規模 × 富士フイルムのシェア(億ドル、2026年の物価))× 価格 128.0%(1単位あたりの値段の指数(今を1.0。物価3%込みの名目で、10年で物価並みなら1.34倍))→ 売上 6,694 億円・営業利益 1,004 億円。益率15.0%(数量は実質で今の1.15倍、値段の指数は1.28倍)
- ビジネスイノベーション(旧富士ゼロックス:複合機・オフィス機器):数量 0.0(複合機・プリンターの保守契約の稼働台数(万台、推定。実質の数量))× 価格 39(1台あたりの年間売上(万円、機器・消耗品・保守・ソリューションを含む、名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。パーシャル・スピンオフで非連結。株主に渡る株の価値は還元に
- イメージング(instax・写真フィルム・デジタルカメラ):数量 220(instax・写真フィルムの販売数量(百万パック換算、カメラ本体を含む推定。実質の数量))× 価格 3,135(1パック換算あたりの売上(円、名目))→ 売上 6,897 億円・営業利益 966 億円。益率14.0%
倍率:成長の柱が伸びず ROE は 5% 弱で k に届かない。ためた利益は額面未満の価値なので、価値は稼ぐ力(事業の純利益÷k)までとし、その 9 割の PER 12.86 倍(1÷k=13.3 倍の 9 割)に置いた。医療機器・半導体材料の資産は残るが、分離で株主に渡した分は還元に入れてあり二重に数えない。
確率:CDMO業界全体の供給過剰が長期化し、半導体材料も中国メーカーの中位グレードでのキャッチアップが進むという、業種見通しの弱めのレンジに相当。
悲観 12% CDMO・半導体材料・分離のすべてが裏目に出る 利益 −1,902 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 1,210 円1.45 兆円
CDMOは供給過剰と米国の薬価政策・医療費抑制策の悪化が重なり、投資した拠点の一部で減損が発生しヘルスケア全体が営業損失に転じる。半導体材料は中国メーカーのキャッチアップがさらに進みシェアを失い益率6%まで落ち込む。ビジネスイノベーションの分離は市場低迷や独占禁止法対応で長期間停滞し、複合機市場の縮小も深刻化して連結のまま営業損失が続く。イメージングも消費財需要の蒸発で益率6%まで低下する。配当は手元現金や資産の売却で最低限を維持するにとどまるが、半導体材料の技術・ヘルスケアの顧客基盤という資産の厚みは清算価値としての下支えになる。
- ヘルスケア(医療機器・医薬品・バイオCDMO・ライフサイエンス):数量 87.5(富士フイルムの数量相当:対象市場の実質規模(医療機器・医薬品・バイオ医薬品の受託製造・ライフサイエンス資材)× 富士フイルムのシェア(億ドル、2026年の物価))× 価格 115.0%(1単位あたりの値段の指数(今を1.0。物価3%込みの名目で、10年で物価並みなら1.34倍))→ 売上 15,094 億円・営業利益 −242 億円。営業損失(益率-1.6%)、CDMOの一部資産で減損(数量は実質で今の1.19倍、値段の指数は1.15倍)
- エレクトロニクス(半導体材料・ディスプレイ材料):数量 25.2(富士フイルムの数量相当:世界の半導体材料市場の実質規模 × 富士フイルムのシェア(億ドル、2026年の物価))× 価格 115.0%(1単位あたりの値段の指数(今を1.0。物価3%込みの名目で、10年で物価並みなら1.34倍))→ 売上 4,347 億円・営業利益 261 億円。益率6.0%、シェアを侵食される(数量は実質で今の0.83倍、値段の指数は1.15倍)
- ビジネスイノベーション(旧富士ゼロックス:複合機・オフィス機器):数量 250(複合機・プリンターの保守契約の稼働台数(万台、推定。実質の数量))× 価格 34(1台あたりの年間売上(万円、機器・消耗品・保守・ソリューションを含む、名目))→ 売上 8,444 億円・営業利益 −422 億円。営業損失(益率-5.0%)、分離が長期停滞しなお連結
- イメージング(instax・写真フィルム・デジタルカメラ):数量 180(instax・写真フィルムの販売数量(百万パック換算、カメラ本体を含む推定。実質の数量))× 価格 2,759(1パック換算あたりの売上(円、名目))→ 売上 4,966 億円・営業利益 298 億円。益率6.0%
倍率:CDMO の減損と BI の損失で赤字になるため PBR で測る。分離は停滞して BI はなお連結。事業の稼ぐ力はほぼ無いので床は資産で見る。減損とのれん・設備の評価落ちで今の自己資本 38,096 億円の 6 割強だけが売れる資産として残るとみて、今の自己資本に 0.38 倍を掛けた(やや悲観より低い)。
確率:CDMOの価格競争激化・減損、半導体材料のシェア侵食、ビジネスイノベーションの分離の停滞・頓挫が同時に重なる複合シナリオ。複数の経営判断が同時に裏目に出る確度は低いが、CDMOがすでに巨額投資を終えていることを踏まえ無視できない確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ヘルスケア(医療機器・医薬品・バイオCDMO・ライフサイエンス)
CT・内視鏡等の医療機器、医薬品、バイオ医薬品の受託製造(CDMO)、ウイルス除去膜等のライフサイエンス資材から成る。
| 数量富士フイルムの数量相当:対象市場の実質規模(医療機器・医薬品・バイオ医薬品の受託製造・ライフサイエンス資材)× 富士フイルムのシェア(億ドル、2026年の物価) | 価格1単位あたりの値段の指数(今を1.0。物価3%込みの名目で、10年で物価並みなら1.34倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 73.3 | 100.0% | 10,989 | 636 |
| 10 年後 中立 | 125 | 134.0% | 25,117 | 2,135 |
取り方:CT・内視鏡などの医療機器、医薬品、バイオ医薬品の受託製造(CDMO)、ライフサイエンス資材が戦う市場を合計約1,000億ドル(2026年の物価、実質)と置き、ヘルスケア事業の売上がその約7.3%に当たるとした。市場は高齢化とバイオ医薬品の普及で実質年3〜4%伸び、CDMOの新拠点の稼働でシェアが上がる。価格は物価の指数で上がるが、米国の医療費抑制で物価をやや下回る筋書きもある。 【単位の整理】数量は市場規模×シェア(1000億ドル×7.3%相当)を億ドルに直した73.26、値段の指数は今を1.0とした。 市場は 2026 年の物価の実質値で、数量は実質(名目の市場の伸びではない)。
エレクトロニクス(半導体材料・ディスプレイ材料)
銅配線用CMPスラリー・EUV対応フォトレジスト等の半導体材料と、ディスプレイ材料から成る。
| 数量富士フイルムの数量相当:世界の半導体材料市場の実質規模 × 富士フイルムのシェア(億ドル、2026年の物価) | 価格1単位あたりの値段の指数(今を1.0。物価3%込みの名目で、10年で物価並みなら1.34倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 30.4 | 100.0% | 4,562 | 1,009 |
| 10 年後 中立 | 47.5 | 134.0% | 9,548 | 1,910 |
取り方:世界の半導体材料市場を2026年で約700億ドル(SEMI系の推計、実質の基準)と置き、エレクトロニクス事業(CMPスラリー・フォトレジスト・ディスプレイ材料)の売上がその約4.3%に当たるとした。市場はAIと先端品で実質年3〜4%伸び、先端フォトレジストのシェア拡大(2030年度20%目標)が取り分を押し上げる。 【単位の整理】数量は市場規模×シェア(700億ドル×4.3%相当)を億ドルに直した30.41、値段の指数は今を1.0とした。 市場は 2026 年の物価の実質値で、数量は実質(名目の市場の伸びではない)。
ビジネスイノベーション(旧富士ゼロックス:複合機・オフィス機器)
複合機・プリンターの販売保守(オフィスソリューション)、企業課題解決(ビジネスソリューション)、印刷システム(グラフィックコミュニケーション)から成る。2026年8月に2〜3年後を目途とした分離・上場方針を発表。
| 数量複合機・プリンターの保守契約の稼働台数(万台、推定。実質の数量) | 価格1台あたりの年間売上(万円、機器・消耗品・保守・ソリューションを含む、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 400 | 29 | 11,748 | 637 |
| 10 年後 中立 | 0.0 | 39 | 0 | 0 |
取り方:アジア・太平洋と国内の保守契約の稼働台数を約400万台と推定し、事業の売上を割った1台あたり年間売上を価格とした。紙の出力の縮小で稼働台数は年3%前後減り、1台あたり売上はソリューションの上乗せで物価並みに上がる。パーシャル・スピンオフで分離した筋書きでは数量0(非連結)として、分配する株の価値は還元に入れる。
イメージング(instax・写真フィルム・デジタルカメラ)
チェキ(instax)・カラーフィルム・写真プリント等のコンシューマーイメージングと、ミラーレスデジタルカメラ等のプロフェッショナルイメージングから成る。
| 数量instax・写真フィルムの販売数量(百万パック換算、カメラ本体を含む推定。実質の数量) | 価格1パック換算あたりの売上(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 250 | 2,508 | 6,270 | 1,600 |
| 10 年後 中立 | 255 | 3,361 | 8,570 | 1,714 |
取り方:instaxのフィルム・カメラ本体・カラーフィルム・デジタルカメラの売上を、フィルムの販売パック数に換算した約2.5億パックで割った単価を価格とした。instaxは海外の若年層で数量が伸びてきたが、10年では成熟して数量は横ばいから減りに向かい、単価はブランド力で物価並みに上げられる。
リスクと懸念
バイオCDMOの先行損失の長期化
CDMOは2026年3月期に200億円台半ば、2027年3月期はさらに拡大する損失が見込まれており、新拠点の立ち上げ費用・採用・規制認証取得のコストが売上貢献に先行する「時間差」がある。遺伝子・細胞治療分野の受注減少・業務遅延も重なり、損益改善の時期は読みにくい。
ビジネスイノベーションの分離・上場の実行リスク
2026年8月に発表した2〜3年後の分離・上場方針は、独占禁止法上の手続きや市場環境次第で延期・条件悪化のリスクがある。世界の複合機出荷台数が2018年比3割超減という縮小市場での上場は、良い条件での資本市場からの評価を得にくい可能性がある。
CDMO業界全体の供給過剰
新興設備の急増によるCDMO業界全体の供給過剰が続いており、ロンザ・サムスンバイオロジクス等グローバル大手との価格競争が今後も厳しさを増す可能性がある。富士フイルムの大型投資が稼働率を確保できなければ、損益改善はさらに遅れる。
半導体投資の循環的な調整
半導体材料はAIデータセンター投資という構造的な追い風があるが、半導体投資は2〜4年周期で山と谷を作る循環産業であり、過熱後の調整が3年のどこかで来ると見るのが妥当。2030年度のフォトレジストのシェア20%目標も中国メーカーの中位グレードでのキャッチアップが進めば達成が難しくなる。
複合機市場の構造的な縮小
世界の複合機出荷台数は2018年比3割超減というペーパーレス化による構造的な縮小が続いており、分離後のビジネスイノベーションが単独企業として十分な収益力を保てるかは不確実。分離前であればHDの連結利益を圧迫し続けるリスクがある。
米国の医療費抑制策・薬価政策の動向
ヘルスケア事業の医薬品・医療機器部門は米国市場への依存度が相応にあり、医療費抑制策・薬価政策の方向性次第で収益性が変動しうる。CDMOの価格交渉力や受託価格の設定にも影響し、病院の資本設備投資(CT・MRI等)の縮小にもつながりうる。
今後の分かれ目
- ビジネスイノベーションの分離・上場が良い条件で実際に完了したら
- コングロマリット・ディスカウントが縮む可能性があり、楽観・やや楽観の筋書きの確率を上げてよい。上場の条件(評価額・保有比率)を確認する。
- CDMOの損失が2027年3月期をピークに縮小し始めたら
- ヘルスケアの収益化が見通せる段階に入ったとみて、中立〜やや楽観側に重みを移してよい。
- CDMO業界全体の供給過剰がさらに深刻化し富士フイルムの新拠点の稼働率が上がらなければ
- 損益改善がさらに遅れるとみて、やや悲観側の確率を上げる。
- 先端フォトレジストのシェアが2030年度目標(20%)に向けて明確に伸び始めたら
- 半導体材料の差別化が確認されたとみて、楽観・やや楽観側の確率を上げてよい。
- ビジネスイノベーションの分離・上場が延期・頓挫したら
- 縮小市場の事業を抱え続けるリスクが続くとみて、やや悲観側の確率を上げる。
- 米国の医療費抑制策・薬価政策が強化されたら
- ヘルスケア事業の収益前提を下方修正し、やや悲観側の確率を上げる。
見ておくもの
- ヘルスケア(CDMOを含む)の四半期益率と損失縮小のペース
- ビジネスイノベーションの分離・上場の進捗(時期・保有比率・評価額)
- エレクトロニクス事業の四半期益率と先端フォトレジストのシェア(2030年度目標20%)
- CDMO業界全体の供給過剰の解消ペースとロンザ・サムスンバイオロジクス等の動向
- 米国の医療費抑制策・薬価政策の方向性
- 半導体投資サイクルの山谷(AIデータセンター投資の継続性)
倍率と資本コストの決め方
4区分を数量は実質、価格は物価3%込みの名目で積み、営業利益率は事業ごとの実績の幅と、構造が変わる点(CDMOの稼働、複合機の分離)から置いた。資本コストは基本7.5%+quality 0(循環・値決め・借金・寿命のどれも普通)で7.5%とし、多角化の上乗せは付けない。倍率は利益ベースの正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)の上限(RONIC=k+1/2×(ROE−k)。半導体材料の認定の壁は堀だが、複合機は縮み、CDMOは回収が遠い全社では普通の1/2)に対し、楽観・やや楽観を9割、中立を9.5割(1÷kの下限が効く)に置いた。やや悲観は稼ぐ力(純利益÷k)の9割、悲観は減損後に売れる資産で置き、過去のPBRの底からは置いていない。今のPERやPBRは最後に比べただけで、寄せていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 15.44→18.33 倍・やや楽観 PER 14.04→16.89 倍・中立 PER 13.3→15.11 倍・やや悲観 PER 12→12.86 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5%(物価 3%・国債 3%・株式リスクプレミアム 5% から実質 4.5% を足した水準)に quality 0 を足して 7.5%。医療・半導体材料・消費財・複合機を併せ持つ多角化企業で、循環・値決め・借金・寿命のどれも突出して良くも悪くもないので上げ下げしない。CDMO の先行損失や複合機の分離の遅れは k でなく筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.50% → 7.00%。
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読んだ資料
- FUJIFILM Holdings Corporation 2026年3月期決算説明会
- 富士フイルムHD、複合機事業の富士フイルムBIを分離・上場へ(日本経済新聞)
- 富士フイルム、複合機事業を分離・上場へ 売上高の35%(日本経済新聞)
- 富士フイルム2026年3月期 通期決算の深層分析|CDMO赤字350億円(note)
- 富士フイルムのヘルスケア課題とCDMO事業損失見通し(cdmo.jp)
- 富士フイルムが後工程材料に攻勢「PFASフリー」レジストを発表(EE Times Japan)
- 特殊研磨剤(CMPスラリー)で半導体を高性能に(富士フイルム)
- 富士フイルムが「二刀流」工場(バイオCDMO デンマーク・米国拠点)(日経ビジネス)
- 決算:富士フイルム6年ぶり自社株買い、最大300億円 全て消却(日本経済新聞)