結論
山九は、製鉄所や石油・化学プラントの構内に入り込み、設備の据付・保全・定期修理から荷役・運搬までを一括で請け負う会社だ。利益の主役は機工事業で、物流事業は規模の割に薄利である。筆者は、堅い本業を持つ良い会社だが、成長の余地は小さく、値段は適正の範囲に収まると見る。
稼ぎの源は人の技能と顧客工場への常駐だ。機工の営業利益率は 1 割で、一度入れば他社に替えにくい。日本製鉄向けが連結売上の 1 割超を占める点は、強みであり、同時に依存でもある。
問題は物流だ。売上は機工と並ぶが、営業利益率は 3% 台にとどまる。中国の倉庫など不採算の整理が進行中で、会社自身も中期計画を見直した。ここが 4% 台に乗れば ROE は上がるが、筆者は中立でもそこまでと置く。
値段の見立ては次のとおり。国内の作業量は人口減で伸びない。人手不足が運賃と作業単価を押し上げるが、その分は人件費にも回る。10 年後の ROE は 9% 台で、資本コストを 2 ポイントほど上回る程度だ。高い倍率は付けにくい。
結論は、ほぼ適正、やや割安寄りだ。中立の年率リターンは 7% 台で、資本コストと同じ水準にとどまる。安全域は厚くない株だと筆者は考える。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点から見ると、山九は「悪くないが、値段次第」の会社だ。
まず、10 年後も存在しているか。機工事業は存在する。製鉄所もプラントも、動かす限り保全が要る。物流は存在するが、他社に替えやすい仕事が多く、利益が残るかはわからない。
次に、オーナー利益。純利益 300 億円台のうち、設備投資と運転資金に回る分は小さい。作業が人中心で、設備が軽いからだ。そのため配当と自社株買いに回せる比率は高く、年 5 割強を想定しても自己資本は積み上がる。結果として ROE は 9% 前後に下がっていく。
堀は、機工の常駐にある。ただし山九は価格を一方的に決める力が弱く、人手不足の局面で初めて単価が上がる。この力は景気と人手の状況に依存しており、永続的な独占ではない。
経営は、中期計画を見直し、物流の不採算に手を入れた。これは正しい判断だ。が、その結果が出るのはこれからで、まだ信用を積む段階にある。
最後に安全域。中立の年率リターンは資本コストを少し超える程度だ。安く買える会社ではなく、適正な値段で持つ会社である。確信度は中くらいだ。
何で稼ぐ会社か
山九の稼ぎは 3 つに分かれる。機工事業が売上のほぼ半分、物流事業が 5 割弱、残りは不動産・ビル管理などの小さな事業だ。
機工事業は、製鉄所・石油化学・電力などの大型設備を相手に、据付工事、日常の保全、数年ごとの定期修理を請け負う。顧客は日本製鉄が最大で、君津など製鉄所の構内に社員と協力会社が常駐して働く。技能の習得に年月がかかり、顧客もやり方を知る業者を替えたがらない。営業利益率が 1 割と運送業では高いのはこのためだ。ただし作業は人が中心で、稼ぎは「何人日働いたか」と「1 人日いくらで受けるか」で決まる。
物流事業は、倉庫での保管・梱包、トラックや船による運搬、海外の国際輸送の取次ぎを手がける。製造業の工場物流を丸ごと受ける形が得意で、機工とセットで提案できる点が他の運送会社と違う。一方で、宅配のような密度の経済は効かず、倉庫や車両の固定費が重い。利益率は 3% 台で、中国の事業などは 1% 前後にとどまっていた。
その他は不動産賃貸・ビルメンテナンスなどで、安定しているが小さい。海外は東南アジア・東アジア・中東・米州に拠点があり、プラント投資の動きを追って伸びる。
セグメントの積み上げは、機工を「作業量(人日)× 1 人日あたり収入」、物流を「取扱量 × 1 取扱量あたり収入」とした推定である。開示は金額だけなので、数量は推定だ。
優良さと弱いところ
筆者が評価するのは、顧客工場の中に居場所を持っていることだ。製鉄所の保全は止められない仕事で、切り替えの手間が大きい。この堀、つまり他社がまねできない強みは、機工事業に限れば本物だと見る。景気の波も、定期修理が下支えするため、素材そのものの市況よりは小さい。
弱いのは物流だ。倉庫と車両の固定費が重く、運賃の値上げが人件費に吸われやすい。会社自身が中期計画で「拡大から原価構造の見直しへ」と軸足を移したのは、拡大した事業の採算が見合わなかったことの表れである。海外で貸倒引当金を積んだ年もあり、海外の与信管理には改善の余地がある。
資本の使い方は改善途上だ。配当は性向 40% を目標とし、政策保有株の売却も進めている。新しい経営陣は ROE 10% の持続を掲げ、自己資本の水準を意識するとした。これは評価できるが、実際の自社株買いや資本の積み上がりの抑制は、これから見る段階にある。
価格を決める力は中くらいだ。人手不足で機工の単価は上げやすいが、日本製鉄のような大口顧客に対しては交渉力が限られる。顧客依存は堀の裏返しで、顧客の国内生産縮小がそのまま響く。
総じて、機工は優良、物流は普通以下、全体では普通よりやや良い会社だ。ROE は 10% 前後で、資本コストを 3 ポイントほど上回る。ただし先に行くほど超過分は薄れる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
事業の領域は、機工事業が「製造業の設備保全・据付」、物流事業が「トラック・倉庫・3PL(物流の一括受託)」である。
機工の需要は、国内の製鉄・化学・電力の設備を維持する定期修理が土台だ。設備は老朽化し、保全の量は減りにくい。一方で高炉の縮小や、国内の素材生産の頭打ちは量の重しになる。米国の EV 関連工場の建設や、東南アジア・中東のプラント投資は上乗せだが、景気と為替で振れる。供給側の制約は人手で、技能者の確保が受注の上限を決める。この不足は単価を押し上げる。
物流は、2024 年問題(ドライバーの残業規制)で人手と運賃が逼迫している。標準的な運賃の引き上げ、荷待ちの有料化が追い風で、荷主への値上げは進みやすい。業界ノートの前提では、数量は年 1% 前後、価格は物価を少し上回る程度が中立だ。
競争は、構内作業は地場の業者と大手の分散的な構図で、公開の市場シェアは見当たらなかった。山九は規模と全国・海外の網で上位にあるが、シェアは推定にとどまる。物流では SG ホールディングスやセイノーなどが寡占に近い宅配・幹線を握り、山九はその外側の企業物流を主戦場にする。M&A は業界で活発で、SBS ホールディングスや AZ-COM 丸和の動きが象徴だ。
10 年で見ると、自動化と省力化が進み、人手不足は少しずつ緩む。そのとき単価の上昇は物価並みに戻りやすい。山九の機工は労働集約なので、この先の自動化は脅威にも効率化の機会にもなる。
資本政策と M&A
還元の方針は、配当性向 40% を目安にした安定配当である。2026 年 3 月期は性向がちょうど 40% で、方針どおりだ。自社株買いは過去に実施しているが、今後の規模は確認できていない。
政策保有株式の縮減が進み、売却益が純利益を押し上げた年もある。投資有価証券は 400 億円台で、売り進めれば現金が増える。この現金を何に使うかが、これからの焦点だ。
M&A は大型の案件は目立たない。むしろ事業の選択と集中、つまり不採算の整理が先行している。中国では倉庫と人員を 2027 年 3 月までに 2 割減らす計画で、利益率を 3% 台に戻す狙いがある。
買収される側になる可能性もある。時価総額は 4 千億円規模で、日本製鉄との関係を軸に再編が絡む余地はある。ただし根拠のある報道は確認できず、確率は小さい。kabufu の推計では 10 年以内の TOB の確率は 15% 台だ。
筆者は、ROE 10% を持続する「自己資本を積み上げすぎない」姿勢が実行されるかを最重要の点と見る。自己資本比率は 54% と厚く、資本政策にまだ余裕がある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
機工事業は、一度入ったら出られない仕事だ。製鉄所の保全は止められず、技能者を揃えられる会社は限られる。人手不足が深まるほど、仕事を受けられる会社の単価は上がる。国内の定期修理に加え、米国の EV・電池工場、東南アジアや中東のプラント、半導体工場の建設が重なれば、作業量は 10 年で 1 割以上伸びる。
物流にも伸びしろがある。中国の倉庫と人員を減らし、不採算を整理すれば、利益率は 3% 台から 5% 台まで戻せる。機工の顧客に工場物流をセットで提案できる強みは、純粋な運送会社にはない。
資本の面では、ROE 10% の持続を掲げた新経営陣が、政策保有株を売り、余った資本を自社株買いに回す。配当性向 40% に加えて買い戻しが増えれば、利益の伸び以上に 1 株の価値が上がる。
この見方を取れば、10 年後の営業利益は 800 億円台に届き、ROE は 11% を超える。倍率も 17 倍台まで評価される。
慎重な見方
機工の利益率は、すでに高い所にある。人手不足の単価上昇は、同時に技能者の賃上げにも回り、利益率は広がらない。日本製鉄が国内の高炉を縮小すれば、最大顧客の仕事が減る。顧客の内製化や、大手重工への切り替えも起こりうる。
物流は、中期計画で収益目標を引き下げた通り、見立てを外した事業だ。拡大した事業の採算は戻りにくく、2028 年からの新しいリース会計で、倉庫・車両の賃借が負債として見えると、固定費の重さが露わになる。
資本の面では、約束された ROE 10% は、自己資本が年 150 億円ほど積み上がるだけで 9% 台に下がる。還元を絞れば、ROE は目標に届かない。
海外は貸倒引当金を積んだ前歴があり、プラント案件は景気と為替で振れる。
結局、10 年先に利益が今の 1.4 倍止まりなら、倍率は 14 倍が上限で、値段に余裕は少ない。
機工と物流の両方で、10 年先の優位が続く保証はない。顧客の事情と、人手の事情、どちらも山九が決められないことだ。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが強いと筆者は見る。機工の堅さは認めるが、すでに利益率が高く、伸びは数量ではなく単価に頼る。物流の改善は途上で、新しいリース会計の影響もある。確率は中立に 36% を置き、やや悲観を 21%・悲観を 10% と厚めにして、楽観側は 9%・24% に抑えた。 機工の堅さを疑っているのではない。ただし堅さは、利益の伸びではなく下支えの話だ。10 年の資本コストを超える稼ぎが薄れる点を、筆者は重く見て、確率を慎重な側に寄せた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,703 円6,776 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 831 円2,082 億円)。 今の値に割り戻すと 2,006 円5,028 億円、今との差 +22.5%、 期待の年率 +8.0%(資本コスト 6.8%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 4,291 円1.08 兆円 | 1,003 円2,516 億円 | +223.3% | +12.5% | 476 円1,195 億円 |
| やや楽観 | 24% | 3,666 円9,191 億円 | 929 円2,329 億円 | +180.6% | +10.9% | 1,103 円2,765 億円 |
| 中立 | 36% | 3,070 円7,698 億円 | 857 円2,148 億円 | +139.8% | +9.1% | 1,414 円3,544 億円 |
| やや悲観 | 21% | 1,293 円3,243 億円 | 735 円1,843 億円 | +23.9% | +2.2% | 426 円1,068 億円 |
| 悲観 | 10% | 599 円1,502 億円 | 545 円1,367 億円 | −30.1% | −3.5% | 114 円287 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,703 円6,776 億円 | 831 円2,082 億円 | +115.8% | +8.0% | 3,533 円8,859 億円 |
今の株価時価総額 1,638 円4,106 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 6.8% を下回るほど割高。
楽観 9% 楽観:機工が大きく伸び、物流が稼げる会社に変わる 利益 578 億円 · PER 18.4 倍 · 株価時価総額 4,291 円1.08 兆円
10 年のうちに、国内の老朽設備の更新と、米国・東南アジア・中東の設備投資が重なる。機工の作業量は 1 割以上増え、人手不足で単価は物価を上回って上がる。営業利益率は 11% 台に乗る。物流は不採算の整理と機工とのセット提案が成功し、5% 台に上がる。政策保有株の売却で得た資金を自社株買いに回し、ROE は 11% を超える。日本製鉄との関係は深まり、顧客依存は強みとして働く。市場は山九を、成長する高 ROE の優良会社と見て、高い倍率を付ける。営業利益は 840 億円規模になる。人手不足の局面で、他社より多くの技能者を確保できる山九の強みが、数量と単価の両方で効く。物流の黒字化は、機工の顧客に工場物流を丸ごと提案することで進む。ここまで揃えば、会社は今より高い ROE を長く保てる。
- 機工(プラント・構内作業):数量 8.6(作業量(百万人日換算・推定))× 価格 5.66(1 人日あたり収入(万円))→ 売上 4,879 億円・営業利益 561 億円。数量1.15倍・価格1.38倍・利益率11.5%
- 物流(倉庫・運送・国際輸送):数量 21.6(取扱量(百万トン換算・推定))× 価格 2.10(1 トンあたり収入(万円))→ 売上 4,529 億円・営業利益 249 億円。数量1.08倍・価格1.42倍・利益率5.5%
- その他(不動産・ビル管理など):数量 5.3(稼働人員・物件規模の換算(千人換算・推定))× 価格 798(1 人あたり収入(万円))→ 売上 419 億円・営業利益 40 億円。数量1.05倍・価格1.38倍・利益率9.5%
倍率:事業の純利益 576 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.6% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)123 億円。全体の PER 18.4 倍、時価総額 10,758 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:機工の堅さと物流の改善が 10 年続く形で、起こりにくいと見て 9%。
やや楽観 24% やや楽観:機工は堅調、物流が緩やかに改善 利益 510 億円 · PER 17.8 倍 · 株価時価総額 3,666 円9,191 億円
機工は定期修理が下支えし、作業量は 1 割ほど増える。物流は整理と値上げで 5% 近くまで利益率が戻る。海外のプラントは、人手不足の中でも案件を取れる。会社は ROE 10% を守り、配当性向 40% と自社株買いを続ける。営業利益は 750 億円前後で、ROE は 10% 前後に保たれる。市場は安定した会社として、中くらいの倍率を付ける。物流の改善は、完全には進まず 5% 近くで止まる。機工は新しい分野に広がるが、既存顧客が支える形は変わらない。10 年後の山九は、今より少しだけ稼ぐ堅実な会社だ。
- 機工(プラント・構内作業):数量 8.3(作業量(百万人日換算・推定))× 価格 5.57(1 人日あたり収入(万円))→ 売上 4,599 億円・営業利益 501 億円。数量1.10倍・価格1.36倍・利益率10.9%
- 物流(倉庫・運送・国際輸送):数量 21.0(取扱量(百万トン換算・推定))× 価格 2.07(1 トンあたり収入(万円))→ 売上 4,341 億円・営業利益 213 億円。数量1.05倍・価格1.40倍・利益率4.9%
- その他(不動産・ビル管理など):数量 5.1(稼働人員・物件規模の換算(千人換算・推定))× 価格 786(1 人あたり収入(万円))→ 売上 401 億円・営業利益 36 億円。数量1.02倍・価格1.36倍・利益率9.0%
倍率:事業の純利益 508 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.6% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)123 億円。全体の PER 17.78 倍、時価総額 9,191 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の中計の方向どおりに進み、10 年のうち半分以上の期間で達成できる形。24% とした。
中立 36% 中立:機工は堅調、物流は薄利のまま、ROE は 9% 台に下がる 利益 444 億円 · PER 17.1 倍 · 株価時価総額 3,070 円7,698 億円
機工の作業量は 10 年で 5% ほど増えるにとどまり、単価は物価並みに上がる。営業利益率は 1 割のまま。物流は荷主への値上げが人件費で相殺され、利益率は 4% 強にとどまる。自動化が進み、人手不足は少しずつ緩む。営業利益は 650 億円前後で、利益は物価並みに伸びる。自己資本は積み上がり、還元を 5 割強にしても ROE は 9% 台に下がる。資本コスト 6.75% を 2 ポイントほど上回る程度で、市場は普通の優良会社として評価する。物流では自動倉庫や省力化の投資が必要になり、設備が軽い今の事業構造は少し重くなる。海外は新しい分野に広がるが、国内の減少を補う程度だ。結局、10 年後の山九は、今とよく似た会社になる。
- 機工(プラント・構内作業):数量 7.9(作業量(百万人日換算・推定))× 価格 5.49(1 人日あたり収入(万円))→ 売上 4,326 億円・営業利益 441 億円。数量1.05倍・価格1.34倍・利益率10.2%
- 物流(倉庫・運送・国際輸送):数量 20.4(取扱量(百万トン換算・推定))× 価格 2.04(1 トンあたり収入(万円))→ 売上 4,157 億円・営業利益 179 億円。数量1.02倍・価格1.38倍・利益率4.3%
- その他(不動産・ビル管理など):数量 5.0(稼働人員・物件規模の換算(千人換算・推定))× 価格 775(1 人あたり収入(万円))→ 売上 387 億円・営業利益 33 億円。数量1.00倍・価格1.34倍・利益率8.5%
倍率:事業の純利益 442 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.5% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)123 億円。全体の PER 17.06 倍、時価総額 7,698 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:数量の伸びは小さく、単価は物価並みという標準の筋書き。業界ノートの中立と同じ置き方で 36%。
やや悲観 21% やや悲観:日本製鉄の縮小と賃上げで利益が伸びない 利益 333 億円 · PER 9.6 倍 · 株価時価総額 1,293 円3,243 億円
日本製鉄が国内の高炉を縮小し、機工の作業量は 3% 減る。賃上げが単価の上昇を上回り、機工の利益率は 9% に下がる。物流は競争で値上げができず、3% 前後に張り付く。海外は貸倒や為替で利益が安定しない。営業利益は 480 億円前後にとどまり、自己資本は厚いまま、ROE は 7% 台に下がる。資本コストとほぼ同じ水準で、評価は低い倍率に落ち着く。物流は、自動化に投資する大手や EC 事業者の自社物流に押され、荷主への値上げが通らない。設備更新の負担も増える。優良会社の評価は残るが、成長株ではなくなる。
- 機工(プラント・構内作業):数量 7.3(作業量(百万人日換算・推定))× 価格 5.33(1 人日あたり収入(万円))→ 売上 3,877 億円・営業利益 349 億円。数量0.97倍・価格1.30倍・利益率9.0%
- 物流(倉庫・運送・国際輸送):数量 19.4(取扱量(百万トン換算・推定))× 価格 1.95(1 トンあたり収入(万円))→ 売上 3,781 億円・営業利益 113 億円。数量0.97倍・価格1.32倍・利益率3.0%
- その他(不動産・ビル管理など):数量 4.9(稼働人員・物件規模の換算(千人換算・推定))× 価格 751(1 人あたり収入(万円))→ 売上 364 億円・営業利益 27 億円。数量0.97倍・価格1.30倍・利益率7.5%
倍率:ROE 7.3% は k 6.75% 以下。ためた利益の価値は 1 を下回るので PER の上限は 1÷k = 13.3 倍。日本製鉄の国内縮小で構内作業が減り、物流の採算も落ちる筋書きなので、上限の 7.2 割の 9.6 倍に置いた。 余った資産(投資有価証券の評価差額金 123 億円)の帳簿 123 億円に戻り方 0.5 を掛けた 46 億円を時価総額に足した。
確率:顧客の縮小と賃上げは、国内の構造から見て十分起こりうる。21% と厚めに置いた。
悲観 10% 悲観:構造的に負け、もう優良ではなくなる 利益 160 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 599 円1,502 億円
日本製鉄の国内生産が大きく縮み、機工の作業量は 2 割減る。他社や顧客の内製化に仕事を取られ、単価も物価に届かない。物流は自動化と異業種の自社物流化に押されて採算が悪化し、ほぼ利益が出ない。営業利益は 230 億円前後で、ROE は 4% を割る。それでも自己資本は厚く、含み益もあるので、価値は稼ぐ力で測られ、PER は 10 倍ほどになる。海外のプラントは地政学の影響で止まり、貸倒も重なる。人材は、賃上げができず、離れていく。配当は維持できても、利益の裏付けは弱い。この筋書きでは、会社は事業の整理を重ねるが、縮む国内市場の穴を海外で埋めきれない。経営陣の交代や再編の話も出るが、価値を取り戻すには時間がかかる。
- 機工(プラント・構内作業):数量 6.0(作業量(百万人日換算・推定))× 価格 4.92(1 人日あたり収入(万円))→ 売上 2,951 億円・営業利益 183 億円。数量0.80倍・価格1.20倍・利益率6.2%
- 物流(倉庫・運送・国際輸送):数量 17.0(取扱量(百万トン換算・推定))× 価格 1.80(1 トンあたり収入(万円))→ 売上 3,062 億円・営業利益 37 億円。数量0.85倍・価格1.22倍・利益率1.2%
- その他(不動産・ビル管理など):数量 4.5(稼働人員・物件規模の換算(千人換算・推定))× 価格 694(1 人あたり収入(万円))→ 売上 312 億円・営業利益 16 億円。数量0.90倍・価格1.20倍・利益率5.0%
倍率:事業の ROE 3.9% は k 6.75% 以下。ためた利益の価値は 1 を下回るので PER の上限は 1÷k = 13.3 倍で、悲観の価値は稼ぐ力(事業の純利益 160 ÷ k = 2,133 億円)まで。顧客の縮小と切り替えで、もう優良ではなくなる筋書き。PER 9.0 倍(稼ぐ力の 6.8 割。やや悲観の 9.6 倍より低く)に置いた。 余った資産(投資有価証券の評価差額金 123 億円)の帳簿 123 億円に戻り方 0.5 を掛けた 31 億円を時価総額に足した。
確率:10 年のうちに構造的に負ける確率として 10%。顧客依存と労働集約が原因で、物流の失敗も重なる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
機工(プラント・構内作業)
製鉄所・石油化学・電力などの設備の据付、保全、定期修理と、大型機器の据付・搬入を請け負う事業。
| 数量作業量(百万人日換算・推定) | 価格1 人日あたり収入(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 7.5 | 4.10 | 3,074 | 310 |
| 10 年後 中立 | 7.9 | 5.49 | 4,326 | 441 |
取り方:機工の売上 3,074 億円を作業量で割った推定。開示は金額だけで、作業量は 750 万人日換算(社員と協力会社)と置いた。単価は人件費と材料・機材を含む 1 人日の収入。国内の保全は横ばい、単価は人手不足で物価並みかやや上。
物流(倉庫・運送・国際輸送)
倉庫の保管・梱包、陸海空の運搬、海外の国際輸送の取次ぎを、製造業の工場物流を中心に請け負う事業。
| 数量取扱量(百万トン換算・推定) | 価格1 トンあたり収入(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 20.0 | 1.48 | 2,953 | 98 |
| 10 年後 中立 | 20.4 | 2.04 | 4,157 | 179 |
取り方:物流の売上 2,953 億円を、保管・運搬を合わせた取扱量約 2,000 万トン換算(推定)で割った 1 トンあたり収入。人口減で国内の量は横ばいから微減、運賃は 2024 年問題で物価を少し上回る。
その他(不動産・ビル管理など)
不動産賃貸、ビル管理、商事などの小さな事業。安定している。
| 数量稼働人員・物件規模の換算(千人換算・推定) | 価格1 人あたり収入(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 5.0 | 578 | 289 | 25 |
| 10 年後 中立 | 5.0 | 775 | 387 | 33 |
取り方:売上 289 億円を、稼働人員約 5,000 人換算(推定)で割った。ほぼ横ばいで、単価は物価並み。
リスクと懸念
日本製鉄への依存
日本製鉄向けが連結売上の 1 割超を占める。国内の高炉再編や設備投資の抑制、価格交渉の強まりは、機工の作業量と利益率に直結する。依存は堀の裏返しで、顧客が内製化や他社への切り替えに動けば影響は大きい。 筆者はこの点を、10 年のあいだに少なくとも 1 度は表に出るリスクと見ている。
物流の採算が戻らない
物流は売上が機工並みで、営業利益率は 3% 台にとどまる。中国など不採算の整理が計画どおり進まなければ、全体の ROE は 9% を割る。倉庫・車両の固定費は、売上が落ちても減らない。 筆者はこの点を、10 年のあいだに少なくとも 1 度は表に出るリスクと見ている。
人手不足と賃上げ
機工は人の技能で稼ぐため、技能者の確保が受注の上限になる。賃上げが単価の上昇を上回れば、利益率は縮む。協力会社の高齢化と、外国人材の確保も課題になる。 筆者はこの点を、10 年のあいだに少なくとも 1 度は表に出るリスクと見ている。
海外の与信・為替
海外は貸倒引当金を積んだ前歴がある。プラント案件は代金の回収が遅れやすく、為替でも円換算の利益が振れる。米国の EV 関連工場の建設は、政策と需要の変化で止まることがある。 筆者はこの点を、10 年のあいだに少なくとも 1 度は表に出るリスクと見ている。
新リース会計
2028 年 3 月期から、賃借の倉庫・車両・海外拠点が BS に載る。価値は変わらないが、純有利子負債と自己資本比率の見え方が変わる。賃料という固定の約束があるため、悲観の景気では固定費として残る。 筆者はこの点を、10 年のあいだに少なくとも 1 度は表に出るリスクと見ている。
資本政策の遅れ
自己資本比率が 54% と厚く、政策保有株の売却で現金も増える。還元を絞れば ROE は下がる。自社株買いを積極的に行うかは未確定で、経営の資本配分の姿勢が問われる。 筆者はこの点を、10 年のあいだに少なくとも 1 度は表に出るリスクと見ている。
今後の分かれ目
- 物流の営業利益率が 4% 台に定着する
- 全体の ROE が 10% を超え、倍率の評価が上がる。中立から楽観側へ確率が動く。
- 日本製鉄が国内高炉を大きく縮小する
- 機工の作業量が減り、最大顧客の依存が裏目に出る。やや悲観に近づく。
- 自社株買いと政策保有株の売却が本格化する
- 自己資本の積み上がりが止まり、ROE の低下を防げる。倍率の上限が上がる。
- 中国事業の整理が計画より遅れる
- 物流の利益率が戻らず、全体の利益が伸びない。中計の信頼が下がる。
- 人手不足が緩み、機工の単価上昇が止まる
- 利益の伸びが物価並みに戻り、ROE は 9% 前後に下がる。やや悲観の筋書きだ。
- リーマン級の不況で国内の設備投資が止まる
- 機工は定期修理が支え、物流は荷動きが落ちる。利益は 5 割前後減る。
見ておくもの
- 物流事業の営業利益率(4% 台に乗るか)
- 日本製鉄向け売上の構成比
- 配当性向と自社株買いの実施額
- 中国事業の倉庫・人員削減の進み具合
- 新リース会計の適用後の純有利子負債
倍率と資本コストの決め方
倍率は、今の PER 13 倍に合わせず、ROE と資本コストから決めた。中立は ROE が 9% 台で k 6.75% を上回るので、正当化 PER(RONIC は k を超える ROE の 1/2 が残る値、g 4%)を上限とし、物流の薄利・労働集約・景気循環を考えて、中立は 1÷k(13.3 倍)を下回らせない 13.4 倍、やや楽観 13.7 倍、楽観 14 倍に置いた。k は基本 7.5% に quality 0.0%(循環 +0.25・値決め力 −0.25・借金 0・寿命 0)で、確率は quality を理由に動かしていない。悲観は稼ぐ力(純利益÷k)の 6.8 割。結果はほぼ適正(約 −1%)で、今の株価に合わせにいってはいない。新リース会計で数字の形が変わるが、10 年後は今と同じ形(賃料を営業費用に入れた形)でそろえた。純有利子負債は時価総額の 12% で、excess_cash は立てていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14→18.4 倍・やや楽観 PER 13.7→17.78 倍・中立 PER 13.4→17.06 倍)。
資本コスト 6.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 0.0%(循環 +0.25・値決め力 −0.25・借金 0・寿命 0)= 7.5%。事業は傾いておらず上乗せ(extra)はない。日本製鉄への依存や物流の採算は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.50% → 6.75%。