結論
京王電鉄は、新宿から多摩・八王子を結ぶ京王線と、渋谷に向かう井の頭線を持つ首都圏西部の私鉄グループである。鉄道に不動産・ホテル・百貨店・建設を束ねた沿線経営で、2026年3月期の営業利益は523億円だった。
筆者の結論は、いまの値段はやや割高で、割安とは言えない。安く見えるのは、純利益に売却益が乗っているからだ。
稼ぐ力は悪くない。ただ、いまの純利益429億円には政策保有株の売却益が乗っている。経常利益から逆算した実力は350億円台だ。ここから借り換えの利払いが年に100億円ほど増えるため、営業利益が伸びても純利益は横ばいに近い。
山場は新宿西南口の再開発である。南街区は2028年度、北街区を含む全体は2040年代の完成と長い。中期計画の投資は6年で1.1兆円(うち分譲用6,300億円)に及び、完成までは負担が先に来る。
買収防衛策を2025年に廃止し、ROE9%以上と総還元性向50%を掲げた。株主に向き合う姿勢は変わったが、利益の質を見れば、いまの値段は計画の達成まで先取りしている。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、京王の価値は新宿の土地と線路にある。そこから毎年生まれる現金が、10年後も通勤客と買い物客に守られているか。答えはおおむね「はい」だ。乗客の数は減っても、新宿へ向かう流れは簡単には変わらない。
気になるのは、稼いだお金の使い道である。稼ぎの4,100億円を6年で投資に回し、その上に借入と資産売却を足す。投資が伸びれば利益も伸びるはずだが、不動産は完成まで10年以上かかる。新宿西南口は全体で3,000億円ほどの事業で、完成は2040年代だ。回収が見えるのは、ずっと先になる。
いまの純利益には売却益が乗っており、実力は350億円台と見る。それでも時価総額は4,400億円で、実力ベースの倍率は12倍ほど、PBRは1倍を切る。純利益の実力と資本コスト 7.5% から見ると安い値段ではなく、借り換えの利払いが増えるため安全域も取れない。経営が資本効率の目標を掲げたことは、評価できる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は5つある。交通業は京王線と井の頭線の鉄道、それに京王バスで、2026年3月期の営業利益は133億円。売上は1,332億円と全体の4分の1だが、利益の4分の1も占める。新宿と調布・八王子・橋本、渋谷と吉祥寺を結ぶ通勤路線で、人の流れはほぼ決まっている。
不動産業が最大の利益源で、営業利益は172億円。駅の上や沿線の賃貸ビル、分譲マンションが中心だ。新宿駅西南口の再開発と橋本駅周辺の開発が、これから10年の伸びしろになる。
ホテル業は京王プラザホテルを軸に、売上600億円で営業利益101億円と利益率が17%に届く。訪日客が客室単価を押し上げた。ただ景気と為替で振れやすく、コロナ禍では最初に傷んだ事業でもある。
生活サービス業は京王百貨店・京王ストア・駅ナカの店舗、レジャー、広告などで、売上は1,460億円と大きいが営業利益は58億円、利益率は4%にとどまる。建設設備業は京王建設などによる工事で、営業利益は74億円。グループ外の工事も受けるので、鉄道の投資が増えれば仕事も増える。
なお、グループ全体の営業利益は、各事業の合計から本社費などを引いて決まる。2026年3月期は合計538億円から15億円引いた。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、新宿という日本最大のターミナルに自社の線路と土地を持つことだ。新宿駅西口の一等地に京王百貨店とホテルを構え、そこに京王線の乗客が毎日流れ込む。この組み合わせは、後から来た会社には作れない。
ただ、堀の広さは阪急阪神や東急ほどではない。京王線は新宿—八王子でJR中央線と並走し、運賃で比べられる。JR東日本は2026年3月に運賃を改定した。京王は新宿—八王子の安さを訴える特設サイトを開き、いまは価格で優位に立つ。ただ運賃は国の認可制で、値上げのタイミングは競合しだいで鈍くなる。
資本の使い方は堅実だ。大きな買収は少なく、再開発を自社の土地で進める。一方で純有利子負債は4,200億円と自己資本を下回るが、営業利益の約8倍ある。コロナ禍で営業利益が赤字に沈んだ経験があり、鉄道・ホテル・百貨店が同時に傷む景気後退には弱い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
都市鉄道の需要は、成熟している。人口は減るが、首都圏の西側は都心への通勤客がまだ多い。定期客は在宅勤務の定着で戻りきらず、定期外の観光・買い物客がそれを補う。年末年始の京王の定期外は前年を8%上回った。
鉄道は営業利益の3割に満たない。業界全体の成長は、不動産・ホテル・流通に移っている。賃料や客室単価は物価で上がるので、名目の伸びは鉄道より大きい。東急が渋谷、阪急阪神が梅田で進める再開発と同じ構図で、京王の場合は新宿が舞台になる。
競争は2方向からくる。鉄道ではJR中央線・小田急・東急と並走・競合する。不動産では三井・三菱・東急不動産など大手デベロッパーが新宿・渋谷で開発を競う。新宿は国と東京都が「グランドターミナル」の構想を掲げ、西口の再整備に京王・小田急・JR東日本が加わる。
分かれ目は、オフィス需要の持ち直し、訪日客の持続、運賃改定の認可、人口減の速さである。特に多摩ニュータウンと橋本方面は高齢化が先行し、定期客の減り方が会社の数字を左右する。
新宿の人の流れは、鉄道会社の資産の価値そのものだ。再開発の進み方が、10年後の格差を決める。
資本政策と M&A
還元の方針は、中期計画の6年間で総還元性向50%を目安にすることだ。前の3年間は45%だった。2026年4月には1株を5株に分け、発行済み株式の約2%の自社株も消却した。
買収防衛策は2007年に導入したが、2025年6月の株主総会の終了で期限を迎え、更新せずに廃止した。取締役15人のうち8人が社外で、大株主は信託銀行と日本生命が上位に並ぶ。親会社や創業家が固く握る構造ではない。外部の資本が動く余地は小さくない。
投資は6年で1兆1,400億円と大きい。内訳は成長投資2,400億円、更新2,700億円、分譲用6,300億円だ。資金は営業の稼ぎ4,100億円に借入1,000億円、さらに政策保有株の売却約200億円と賃貸資産の売却約500億円で賄う。政策保有株は2030年度までに連結純資産の10%以内に減らす。
減価償却は物価で増やさない。今ある設備の償却は取得した時の値段のままで、増えるのは更新と新規の分だけだ。償却は今の344億円が10年後に約 441億円。更新投資は建築費の上昇で膨らみ、足りない分は借入になって利払い(3.5%)が増える。会計の利益と現金の動きは同じ向きに動かない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
新宿は世界でも有数の乗降客数を誇るターミナルで、その中心に京王は自社の土地を持つ。西南口の再開発は南街区が2028年度に完成し、賃料と分譲で稼ぐ力が一段変わる。北街区はその後に続き、新宿は2040年代まで利益を生み続ける。
ホテルはもう戻った。京王プラザは客室の改装を進め、フォーブスの4つ星を狙う。訪日客が増えれば客室単価はさらに上がり、利益率は17%を超えられる。鉄道は2023年に運賃を改定済みで、固定費を物価の上昇分だけ回収できる。
会社は2030年度に営業利益620億円・ROE9%以上を掲げ、総還元性向50%を約束した。買収防衛策の廃止で、株主の目は一段厳しくなる。PBRが1倍前後にとどまれば、自社株買いや資産売却が前倒しになる。純資産の中で土地は帳簿価格のままで、含み益は値段に入っていない。売却益を除いても利益は底堅く、いまの値段は割安だ。
さらに、年末年始の定期外の輸送が前年比で8%増えるなど、鉄道の戻りも確かだ。
慎重な見方
純利益の429億円には政策保有株の売却益が乗っている。経常利益は前期を割り込み、会社自身の2027年3月期の予想も営業利益510億円と減益だ。実力の利益は350億円台で、ここから借り換えの利払いが年に100億円ほど増える。営業利益が伸びても、純利益は増えにくい。
投資は6年で1.1兆円と大きく、純有利子負債は4,200億円まで膨らんでいる。純負債をEBITDAで割ると4倍を超え、会社も目標を「4倍台」としか言わない。不動産の分譲は景気に左右され、ホテルは訪日客と為替に頼る。コロナ禍の赤字は、まだ記憶に新しい。
鉄道はJRと並走しており、運賃を物価どおりに上げられる保証はない。西南口の北街区は2040年代の完成で、回収は遠い先だ。人口減が先行する多摩ニュータウンと橋本方面に、リニア新幹線の効果を当て込むには、開業の遅れが重い。会社の目標が達成されない限り、いまの値段に見える安さは「売却益のかさ上げ」でしかない。
どちらに重みを置いたか
新宿の土地と線路という強みは強気の見方のとおりだが、実力の純利益が売却益を除くと 350 億円台にとどまり、借り換えで増える利払いが重いという慎重な見方のほうが数字に近い。確率は中立を軸に、楽観・やや楽観を 32%、やや悲観・悲観を 36% に置いた。悲観の側にやや厚めに置いたのは、利払いの増加が確実で、完成の遠い再開発に資金が先に出るためである。総合は約 −28% のやや割高になった。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 930 円5,381 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 282 円1,630 億円)。 今の値に割り戻すと 647 円3,746 億円、今との差 −14.7%、 期待の年率 +4.8%(資本コスト 7.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 1,492 円8,635 億円 | 431 円2,494 億円 | +153.2% | +9.7% | 192 円1,113 億円 |
| やや楽観 | 22% | 1,204 円6,970 億円 | 364 円2,108 億円 | +106.6% | +7.5% | 345 円1,997 億円 |
| 中立 | 32% | 1,027 円5,944 億円 | 317 円1,835 億円 | +77.0% | +5.9% | 430 円2,489 億円 |
| やや悲観 | 23% | 661 円3,829 億円 | 210 円1,215 億円 | +14.8% | +1.4% | 200 円1,160 億円 |
| 悲観 | 13% | 268 円1,553 億円 | 66 円384 億円 | −55.9% | −7.9% | 44 円252 億円 |
| 加重平均 | 100% | 930 円5,381 億円 | 282 円1,630 億円 | +59.6% | +4.8% | 1,211 円7,011 億円 |
今の株価時価総額 759 円4,394 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 新宿が完成形に近づき資本効率が上がる 利益 547 億円 · PER 14.2 倍 · 株価時価総額 1,492 円8,635 億円
新宿西南口の南街区が2028年度に開業し、北街区も着工して、新宿が完成形に近づく。賃貸の売上は物価の上昇も加わって大きく伸び、不動産の営業利益は360億円ほどになる。橋本の開発も進み、床が増える。
ホテルは訪日客と単価の上昇で、営業利益が180億円に届く。鉄道は物価に近い運賃の改定を認可され、利益率が12%に上がる。ROEは8%台に達し、会社が掲げた9%に近づく。買収防衛策のない中で、株主の目が厳しくなり、資本効率の改善も進む。
この10年で、京王は「鉄道会社」から「新宿の不動産とホテルの会社」へ姿を変える。利益の中で鉄道の比重は2割台まで下がり、稼ぎの質が良くなる。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の344億円が10年後に約 441億円(物価で一律に増やすと約 406億円)。営業利益は +35億円。建築費の上昇で膨らむ投資を借入で賄うため、新しい借入の利払い年 30億円(3.5%)を純利益から引いた。
- 交通(京王線・井の頭線・バス):数量 644(年間輸送人員(百万人。鉄道とバス。推定))× 価格 2.75(1 人あたり収入(百円))→ 売上 1,767 億円・営業利益 247 億円。乗客−1%・運賃1.34倍・利益率14%・償却は物価で増やさず按分(10年後 441億円)
- 不動産(賃貸・分譲):数量 260(賃貸・分譲の稼働床面積(万㎡。分譲は引き渡し床を換算。推定))× 価格 8.45(1 ㎡あたり年間収入(万円。賃料と分譲の平均))→ 売上 2,197 億円・営業利益 363 億円。床1.30倍(南街区ほか)・賃料1.40倍・利益率16.5%
- ホテル(京王プラザほか):数量 269(稼働客室数(万室泊。推定))× 価格 3.63(1 室泊あたり収入(万円。宿泊・宴会・飲食を含む))→ 売上 974 億円・営業利益 180 億円。稼働1.12倍・単価1.45倍
- 生活サービス(百貨店・ストア・レジャーなど):数量 354(来店・利用客数(百万人。推定))× 価格 5.52(1 人あたり客単価(百円))→ 売上 1,955 億円・営業利益 98 億円。客数−3%・客単価1.38倍
- 建設設備:数量 3,066(年間の工事件数(件。推定))× 価格 4,140(1 件あたり工事金額(万円))→ 売上 1,269 億円・営業利益 121 億円。件数1.05倍・単価1.38倍
倍率:事業の純利益 547 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.4% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.2 倍。全体の PER 14.23 倍、時価総額 7,784 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新宿西南口が計画どおり完成に向かい、訪日客も定着し、ROE9%近くまで上がる形。連続して当たる必要がある。
やや楽観 22% 中期計画にほぼ沿って成長する 利益 450 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 1,204 円6,970 億円
会社の中期計画におおむね沿って成長する。南街区は予定どおり開業し、北街区の準備に入る。不動産の営業利益は300億円を超える。ホテルは京王プラザの改装を経て単価が上がり、営業利益は160億円ほどになる。
鉄道は人口減で乗客が3%減るが、運賃は物価に近い1.31倍に上がる。営業利益は830億円まで伸びる一方、借り換えの利払いが年100億円超増える。純利益は450億円台になる。還元は純利益の半分を保つ。
新宿の北街区の事業が動き出し、橋本方面の開発も進む。鉄道は赤字にならず、沿線経営の全体で安定した利益を保つ。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の344億円が10年後に約 441億円(物価で一律に増やすと約 417億円)。営業利益は +24億円。建築費の上昇で膨らむ投資を借入で賄うため、新しい借入の利払い年 33億円(3.5%)を純利益から引いた。
- 交通(京王線・井の頭線・バス):数量 631(年間輸送人員(百万人。鉄道とバス。推定))× 価格 2.68(1 人あたり収入(百円))→ 売上 1,692 億円・営業利益 210 億円。乗客−3%・運賃1.31倍・償却は物価で増やさず按分(10年後 441億円)
- 不動産(賃貸・分譲):数量 240(賃貸・分譲の稼働床面積(万㎡。分譲は引き渡し床を換算。推定))× 価格 8.27(1 ㎡あたり年間収入(万円。賃料と分譲の平均))→ 売上 1,984 億円・営業利益 308 億円。床1.20倍・賃料1.37倍・利益率15.5%
- ホテル(京王プラザほか):数量 259(稼働客室数(万室泊。推定))× 価格 3.50(1 室泊あたり収入(万円。宿泊・宴会・飲食を含む))→ 売上 907 億円・営業利益 161 億円。稼働1.08倍・単価1.40倍
- 生活サービス(百貨店・ストア・レジャーなど):数量 350(来店・利用客数(百万人。推定))× 価格 5.40(1 人あたり客単価(百円))→ 売上 1,892 億円・営業利益 87 億円。客数−4%・客単価1.35倍
- 建設設備:数量 2,978(年間の工事件数(件。推定))× 価格 4,080(1 件あたり工事金額(万円))→ 売上 1,215 億円・営業利益 109 億円。件数1.02倍・単価1.36倍
倍率:事業の純利益 450 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.1% が k 7.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍。全体の PER 13.33 倍、時価総額 5,998 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:長期の計画におおむね沿って、不動産とホテルが伸びる現実的な上振れ。
中立 32% 人口減を新宿と物価で相殺 利益 373 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 1,027 円5,944 億円
人口減を新宿の賃料と物価の上昇で埋める10年になる。南街区は開業するが、北街区は計画どおり進まず、床の増え方は1割台にとどまる。不動産の営業利益は260億円ほど。ホテルは単価が物価並みに上がり、営業利益は140億円台になる。
鉄道は乗客が5%減り、運賃は物価に遅れて1.30倍になる。営業利益は740億円ほどに伸びるが、借り換えの利払いが年100億円ほど増え、純利益は390億円で横ばいに近い。ROEは6%で、資本コストの 7.5% に届かない水準。普通に強い複合経営に落ち着く。
鉄道は物価にやや遅れて運賃が上がり、生活サービスは客数が減る。新宿の再開発の全体像はまだ途中だが、会社の財務は崩れず、還元も続く。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の344億円が10年後に約 441億円(物価で一律に増やすと約 423億円)。営業利益は +18億円。建築費の上昇で膨らむ投資を借入で賄うため、新しい借入の利払い年 36億円(3.5%)を純利益から引いた。
- 交通(京王線・井の頭線・バス):数量 618(年間輸送人員(百万人。鉄道とバス。推定))× 価格 2.66(1 人あたり収入(百円))→ 売上 1,645 億円・営業利益 191 億円。乗客−5%・運賃1.30倍(物価に遅れ)・利益率11.6%・償却は物価で増やさず按分(10年後 441億円)
- 不動産(賃貸・分譲):数量 224(賃貸・分譲の稼働床面積(万㎡。分譲は引き渡し床を換算。推定))× 価格 8.09(1 ㎡あたり年間収入(万円。賃料と分譲の平均))→ 売上 1,811 億円・営業利益 263 億円。床1.12倍・賃料1.34倍・利益率14.5%
- ホテル(京王プラザほか):数量 250(稼働客室数(万室泊。推定))× 価格 3.40(1 室泊あたり収入(万円。宿泊・宴会・飲食を含む))→ 売上 849 億円・営業利益 144 億円。稼働1.04倍・単価1.36倍・利益率17%
- 生活サービス(百貨店・ストア・レジャーなど):数量 347(来店・利用客数(百万人。推定))× 価格 5.36(1 人あたり客単価(百円))→ 売上 1,859 億円・営業利益 78 億円。客数−5%・客単価1.34倍・利益率4.2%
- 建設設備:数量 2,920(年間の工事件数(件。推定))× 価格 4,020(1 件あたり工事金額(万円))→ 売上 1,174 億円・営業利益 100 億円。件数横ばい・単価1.34倍・利益率8.5%
倍率:事業の純利益 373 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.0% が k 7.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍。全体の PER 13.33 倍、時価総額 4,972 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:人口減と運賃の遅れを、新宿の賃料と物価の上昇で相殺する中心の筋書き。
やや悲観 23% 工期延伸と鉄道の収益低下が重なる 利益 215 億円 · PER 9.3 倍 · 株価時価総額 661 円3,829 億円
南街区の工期が延び、工事費の上昇で採算が悪化する。北街区は着工が遅れ、再開発の回収が先送りになる。沿線の人口減が想定より早く進み、鉄道の乗客は8%減る。運賃改定は認可が遅れて物価に追いつかない。
営業利益は550億円にとどまり、利払いの増加で純利益は250億円まで下がる。ROEは4%で資本コストを下回る。自社株買いは抑えられ、投資計画も縮む。
鉄道は乗客の減少と運賃の遅れの二重の逆風を受け、再開発の遅れが重なり、資本効率の改善は遠のく。会社の財務の余裕が薄れ、純有利子負債の倍率は5倍に近づく。不動産の分譲も景気に押されて利益が細り、ホテルの伸びだけでは穴を埋められない。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の344億円が10年後に約 441億円(物価で一律に増やすと約 446億円)。営業利益は −5億円。建築費の上昇で膨らむ投資を借入で賄うため、新しい借入の利払い年 40億円(3.5%)を純利益から引いた。
- 交通(京王線・井の頭線・バス):数量 598(年間輸送人員(百万人。鉄道とバス。推定))× 価格 2.56(1 人あたり収入(百円))→ 売上 1,532 億円・営業利益 125 億円。乗客−8%・運賃1.25倍・償却は物価で増やさず按分(10年後 441億円)
- 不動産(賃貸・分譲):数量 210(賃貸・分譲の稼働床面積(万㎡。分譲は引き渡し床を換算。推定))× 価格 7.72(1 ㎡あたり年間収入(万円。賃料と分譲の平均))→ 売上 1,622 億円・営業利益 203 億円。床1.05倍・賃料1.28倍・利益率12.5%
- ホテル(京王プラザほか):数量 235(稼働客室数(万室泊。推定))× 価格 3.20(1 室泊あたり収入(万円。宿泊・宴会・飲食を含む))→ 売上 753 億円・営業利益 105 億円。稼働−2%・単価1.28倍
- 生活サービス(百貨店・ストア・レジャーなど):数量 336(来店・利用客数(百万人。推定))× 価格 5.04(1 人あたり客単価(百円))→ 売上 1,692 億円・営業利益 58 億円。客数−8%・客単価1.26倍
- 建設設備:数量 2,774(年間の工事件数(件。推定))× 価格 3,840(1 件あたり工事金額(万円))→ 売上 1,065 億円・営業利益 75 億円。件数−5%・単価1.28倍
倍率:ROE 3.5% は k 7.5% 以下。ためた利益の価値は 1 を下回るので PER の上限は 1÷k = 13.3 倍。人口減と分譲の不調で稼ぎが細り、利払い増を吸収しきれない筋書きなので、上限の 7.0 割の 9.3 倍に置いた。純有利子負債 4,213 億円を今の値で足した EV ÷ 営業利益は 11.4 倍。 余り資産は立てていない(賃貸の含み益は賃料・売却益が純利益に入って倍率で数え済みなので足さない。悲観の床にだけ使う)。
確率:南街区の工期延伸と工事費の上昇、沿線の人口減が同時に来る想定。
悲観 13% 構造的に優良さを失う 利益 −65 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 268 円1,553 億円
構造的に優良さを失う。オフィス需要が在宅勤務の定着で縮み、新宿の賃料が下がる。多摩・橋本方面の人口減が加速し、鉄道の乗客は2割近く減る。ホテルは訪日客が他の都市へ流れて稼働が落ちる。
再開発は借入が膨らんだまま回収が遅れ、不動産の営業利益は100億円まで下がる。営業利益は230億円、純利益は10億円ほどにとどまる。借入が重く、還元は資産の売却で最低限を保つ。もう「普通の鉄道会社」としか評価されない。
ホテルと百貨店の客数も減り、複合経営の利点が働かなくなる。株主からの圧力も強まるが、売却できる資産は限られ、財務の改善は遅れる。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の344億円が10年後に約 441億円(物価で一律に増やすと約 501億円)。営業利益は −60億円。建築費の上昇で膨らむ投資を借入で賄うため、新しい借入の利払い年 53億円(3.5%)を純利益から引いた。
- 交通(京王線・井の頭線・バス):数量 533(年間輸送人員(百万人。鉄道とバス。推定))× 価格 2.29(1 人あたり収入(百円))→ 売上 1,223 億円・営業利益 1 億円。乗客−18%・運賃1.12倍・利益率0.1%・償却は物価で増やさず按分(10年後 441億円)
- 不動産(賃貸・分譲):数量 190(賃貸・分譲の稼働床面積(万㎡。分譲は引き渡し床を換算。推定))× 価格 6.64(1 ㎡あたり年間収入(万円。賃料と分譲の平均))→ 売上 1,261 億円・営業利益 101 億円。床−5%・賃料1.10倍・利益率8%
- ホテル(京王プラザほか):数量 192(稼働客室数(万室泊。推定))× 価格 2.80(1 室泊あたり収入(万円。宿泊・宴会・飲食を含む))→ 売上 538 億円・営業利益 43 億円。稼働−20%・単価1.12倍
- 生活サービス(百貨店・ストア・レジャーなど):数量 292(来店・利用客数(百万人。推定))× 価格 4.40(1 人あたり客単価(百円))→ 売上 1,285 億円・営業利益 19 億円。客数−20%・利益率1.5%
- 建設設備:数量 2,336(年間の工事件数(件。推定))× 価格 3,300(1 件あたり工事金額(万円))→ 売上 771 億円・営業利益 31 億円。件数−20%・単価1.10倍
倍率:稼ぐ力(事業の純利益 -65 ÷ k 7.5% = -867 億円)より資産の床のほうが大きいので、売れる資産の税後 1,550 億円(floor_assets_oku)を時価総額にそのまま置いた。今の自己資本 4,438 億円に対する PBR は 0.35 倍。構造的に稼ぐ力を失い、借金の利払いで利益がほぼ消える筋書き。純有利子負債 4,213 億円を今の値で足した EV ÷ 営業利益は 33.9 倍と 20 倍を超えるが、利益が低い年で測るため参考にとどめ、価値は稼ぐ力と資産で見ている。
確率:構造的に負ける筋書き。オフィス需要の縮小、人口減の加速、投資の失敗が重なり、もう優良ではなくなっている。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
交通(京王線・井の頭線・バス)
京王線・井の頭線の鉄道と京王バスなどの乗合バス。新宿・渋谷と多摩・八王子・吉祥寺を結ぶ通勤路線。
| 数量年間輸送人員(百万人。鉄道とバス。推定) | 価格1 人あたり収入(百円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 650 | 2.05 | 1,332 | 133 |
| 10 年後 中立 | 618 | 2.66 | 1,645 | 191 |
取り方:交通業の売上1,332億円を、京王線・井の頭線とバスの年間輸送人員約6.5億人(推定。開示の数字は未確認)で割った1人あたり収入。運賃は2023年10月に改定済みで、次の改定は物価に1〜2年遅れる。人数は実質、収入の単価は名目。
不動産(賃貸・分譲)
駅ビル・沿線のオフィスと商業施設の賃貸、マンション分譲。新宿西南口と橋本の開発を含む。
| 数量賃貸・分譲の稼働床面積(万㎡。分譲は引き渡し床を換算。推定) | 価格1 ㎡あたり年間収入(万円。賃料と分譲の平均) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 200 | 6.04 | 1,207 | 172 |
| 10 年後 中立 | 224 | 8.09 | 1,811 | 263 |
取り方:不動産業の売上1,207億円を、賃貸と分譲を合わせた稼働床面積約200万㎡(推定。開示は未確認)で割った実効単価。新宿西南口の南街区などで床が増え、賃料は物価で上がる。
ホテル(京王プラザほか)
京王プラザホテルなどのホテル運営。宿泊・宴会・飲食を含む。
| 数量稼働客室数(万室泊。推定) | 価格1 室泊あたり収入(万円。宿泊・宴会・飲食を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 240 | 2.50 | 600 | 101 |
| 10 年後 中立 | 250 | 3.40 | 849 | 144 |
取り方:ホテル業の売上600億円を、稼働客室数約240万室泊(推定。開示は未確認)で割った1室泊あたり収入。訪日客の増加で単価が上がった。数量は実質、単価は名目。
生活サービス(百貨店・ストア・レジャーなど)
京王百貨店・京王ストア・駅ナカの店舗、レジャー、広告など。
| 数量来店・利用客数(百万人。推定) | 価格1 人あたり客単価(百円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 365 | 4.00 | 1,460 | 58 |
| 10 年後 中立 | 347 | 5.36 | 1,859 | 78 |
取り方:生活サービス業の売上1,460億円を、店舗・レジャーの年間利用客約3.65億人(推定。小口の駅ナカが多いので単価は小さい)で割った客単価。利益率は4%と薄い。
建設設備
京王建設などによる鉄道・不動産・外部向けの建設・設備工事。
| 数量年間の工事件数(件。推定) | 価格1 件あたり工事金額(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2,920 | 3,000 | 876 | 74 |
| 10 年後 中立 | 2,920 | 4,020 | 1,174 | 100 |
取り方:建設設備業の売上876億円を、工事件数約2,900件(推定)と1件あたり約3,000万円に分けた。金額は億円に直すため rev_factor 0.0001。鉄道の投資が増えれば受注も増える。
リスクと懸念
借り換えによる利払いの増加
純有利子負債は4,200億円で、これまでの低い金利が借り換えのたびに3.5%前後へ切り替わる。10年で年100億円ほど利益が減る。営業利益が伸びても、純利益はほとんど増えない。借入の増加で利払いはさらに膨らむ。会社は有利子負債の水準を管理するとしているが、金利が想定より上がれば利益の押し下げは大きくなる。
新宿西南口の長い工期と投資負担
南街区は2028年度、北街区を含む全体は2040年代の完成で、事業費は約3,000億円にのぼる。工事費や人件費の上昇で採算が崩れる恐れがある。投資が先に出て、回収は10年以上先になる。完成が遅れれば、その間の借入の利息がかさむ。
運賃を物価どおりに上げられない
運賃は国の認可制で、費用の上昇が積み上がってから改定するため物価に遅れる。京王線は新宿—八王子でJR中央線と並走し、JR東日本の値上げ後は運賃差を武器にしている。差が縮むことを避けて値上げを見送れば、鉄道の利益率が下がる。認可を待つ間に人件費や電力料金が上がれば、利益率が薄くなる。
ホテル・分譲の景気と訪日客への依存
ホテル業は営業利益101億円と利益率が高いが、訪日客の数と為替に左右される。分譲マンションも景気と金利で売れ行きが変わる。コロナ禍の2021年3月期は営業利益が209億円の赤字だった。鉄道は踏みとどまっても、ホテルと百貨店は同時に傷みやすい。
沿線人口の減少と定期客の減り
多摩ニュータウンと橋本方面は高齢化が先行し、通学・通勤の定期客が減る。在宅勤務の定着で定期の戻りも鈍い。リニア新幹線の橋本駅開業は遅れており、沿線の押し上げ効果は当面見込めない。多摩方面の定期客の減り方が、鉄道の長期の収益を決める。
一時益で見かけの利益が高い
2026年3月期の純利益429億円には、政策保有株の売却益が含まれる。経常利益は前期を下回り、会社の2027年3月期の予想も営業利益は減益である。見かけのROE9.7%を、実力と取り違えない必要がある。一時益が続かなければ、予想の純利益は減ることになる。
買収防衛策の廃止と株主の圧力
2025年に買収防衛策を廃止し、外部の資本が動く余地が広がった。PBRが1倍前後の状態が続けば、物言う株主が不動産の切り出しや資産売却を求める可能性がある。会社が応じれば還元は増えるが、再開発の計画は揺れる。会社が応じれば還元は増える反面、再開発の資金の余裕は小さくなる。
今後の分かれ目
- 新宿西南口の南街区が2028年度に計画どおり開業したら
- 不動産業の利益率の前提を上げ、楽観・やや楽観の確率を厚くする。
- JRとの運賃差が縮み、京王の運賃改定が認可されたら
- 交通業の価格の伸びを物価並みに戻し、中立の利益率を上げる。
- 純有利子負債をEBITDAで割った倍率が5倍に近づいたら
- 財務の余裕が薄いと見て、悲観側の確率を上げる。
- 自社株買いが毎年数百億円規模で定着したら
- 還元の前提を上げ、10年の自己資本の増え方を抑える。
- 訪日客が急に減りホテルの稼働が落ちたら
- ホテル業と百貨店の利益前提を下げ、悲観側の確率を上げる。
- 政策保有株や賃貸資産の売却が計画より大きく進んだら
- 純利益に一時益が乗るので、実力の利益を分けて見直す。
- 第三者が大量に株を取得するなど再編の動きが出たら
- 事業の切り出しや大幅な還元増を前提に、楽観側の確率を見直す。
見ておくもの
- 新宿駅西南口の南街区の工事進捗と開業時期
- 純有利子負債÷EBITDA(会社の目標は4倍台)
- 京王線・井の頭線の定期外と定期の輸送人員
- ホテル業の客室単価と営業利益(2030年度の目標127億円)
- 自社株買いと政策保有株・賃貸資産の売却の実施状況
- 鉄道運賃の改定申請の有無
倍率と資本コストの決め方
利益の質は経常利益から見た実力で測り、売却益を除いた純利益 350 億円台を出発点にした。倍率は式で置き、今の PER(実力ベース 12 倍)には寄せていない。ROE が k 7.5% に届かない中立・やや楽観は PER の上限が 1÷k = 13.3 倍で、上限の 9 割前後に置き、楽観は正当化 PER の 9 割に置いた。k は基本 7.5% に quality 0.0%(循環 0・値決め力 −0.25・借金 +0.5・寿命 −0.25)で、確率は quality を理由に動かしていない。やや悲観は稼ぐ力(純利益÷k)の 7 割、悲観は売れる資産(推定 約 1,550 億円)を床とした。含み益は悲観の床にだけ使い、中立〜楽観には賃料・売却益が純利益に入っているので足していない。EV÷営業利益は中立で 12 倍。同じ領域の阪急阪神・東急・東武と並べ、不動産の厚みが薄い分、中立を低めに置いた。結果のやや割高(約 −28%)は計算どおり。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.8→14.23 倍・やや楽観 PER 12.3→13.33 倍・中立 PER 12→13.33 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 0.0%(循環 0・値決め力 −0.25・借金 +0.5・寿命 −0.25)= 7.5%。借金の上げと認可運賃・沿線の長い寿命の下げがちょうど釣り合う。再開発の遅れや分譲の景気感応は k に足さず、筋書きの数量・利益率と確率で表した。