結論
丸全昭和運輸は、化学品メーカーの荷物を預かり、運び、港で積み下ろす総合物流会社だ。2026年3月期は営業利益が155億円と過去最高で、売上に対する利益率は10.4%だった。トラック運送が主力の同業は4〜6%にとどまるので、この水準は目を引く。
稼ぎの源は、危険物や毒劇物を預かれる倉庫と、荷主の工場の中まで入り込む一貫受託(3PL)にある。許可と設備がなければ参入できず、荷主も簡単には替えられない。筆者はここを同社の堀、つまり他社がまねしにくい強みと見る。国内の荷物の量は人口減で増えにくいが、危険物倉庫の増設が量を支え、運賃は物価並みに上がるとみた。
資本の使い方は堅実だ。自己資本比率は69%、純現金は170億円ある。増配は12期連続で、配当と自社株買いで利益の大半を株主に返している。ただ、厚い自己資本のせいで ROE は9%前後にとどまり、資本コスト6.75%を少し上回る程度だ。堀があっても、お金を寝かせている分だけ株主の取り分は薄まる。
筆者が最も気にするのは、荷主が化学品に偏っていることだ。国内の石油化学が縮めば倉庫の稼働が落ち、危険物倉庫への投資が重荷に変わる。悲観ではこの偏りが利益率を同業並みの4%台まで押し下げる。
結論は、10年で測った本質価値が今の時価総額を1割ほど下回る「やや割高」だ。利益率が10%を保てるかどうかが、この評価のいちばんの分かれ目になる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社の事業は「地味だが、長く続く」タイプだ。危険物倉庫と構内作業は、許可・立地・荷主との信頼の3つが重なって堀になる。この堀は派手な成長を生まないが、乗り換えられにくいので、利益が長く続く。
気になるのは、株主のものになる利益、つまりオーナー利益の形だ。倉庫は自分で持つため、稼いだ利益の相当部分は、倉庫の建て替えと新設に回る。純利益が127億円でも、自由に使えるお金はそれより少ない。この会社は、利益の多くを配当と自社株買いで返しつつ、設備投資も続けている。それでも純現金が積み上がっているのは、投資が利益に追いつかないからだ。
経営の資本配分は、堅実で評価できる。大型の買収で背伸びをせず、増配を12年続け、政策保有株を減らしている。弱みは、資本の厚さを活かし切れていないことだ。自己資本比率が69%ある会社が ROE 9%にとどまるのは、安全を取りすぎた結果とも言える。
安全域の面では、悲観の筋書きでも、純現金と倉庫・土地・保有株の売却価値が下支えになる。だから払う値段の割に、下値は限られる。一方、化学品への偏りは、予測しにくい不確実性だ。筆者は、この偏りを確率に反映し、悲観を11%に置いた。
結論として、この会社は「安く買えれば持ちたい」部類だが、倍に化ける会社ではない。10年を通じて、資本コストをやや上回る利益を積み上げる、その堅さに価値がある。
何で稼ぐ会社か
同社は、化学品・電力・プラントなど産業系の荷主を主な顧客とする総合物流会社だ。連結売上1,486億円のうち、物流事業が約87%、構内作業・機械荷役が約11%を占める。
物流事業は、トラック・鉄道・港湾の運送、倉庫保管と梱包、通関や国際輸送まで幅広い。中核は3PL、つまり荷主の物流をまるごと請け負う仕事で、化学品や危険物を扱える倉庫が武器になる。港湾荷役や、大型機械・プラント設備の海外輸送も手がける。エジプト・カイロ地下鉄向けの鉄道車両184両の輸送を受注したのは、その一例だ。
構内作業・機械荷役は、荷主の工場や倉庫の構内に社員が常駐し、組立・充填・入出荷や機械の据え付けを担う仕事だ。荷主の生産ラインの一部になるため、契約は長く続きやすい。
収益の仕組みは、宅配会社と違って1件あたりの単価が高く、荷主ごとに仕様を作り込むことにある。社長は「お客様第一主義」を掲げ、顧客ごとの課題に合わせたカスタマイズを最大の価値と語る。倉庫は自社保有が多く、賃借より固定資産が重い。このため稼働率が上がれば利益が伸び、落ちれば減価償却が重くのしかかる。
中期経営計画(2025〜2027年度)は、3PLの拡大とグローバル物流の強化を柱に置く。設備投資に400億円、M&Aに100億円を見込み、広島・常陸那珂・加須・神栖などで危険物や定温の倉庫を新設中だ。海外ではタイのレムチャバンに倉庫を建てる。独自の物流管理の仕組み「MALoS」を支える新しい基幹システムは、2028年10月に全面稼働する予定だ。
優良さと弱いところ
同社の優良さは、利益率の高さに表れている。営業利益率は2015年3月期の5%から2026年3月期の10.4%へ、11年かけて倍になった。ドライバー不足で運賃を上げやすい追い風はあったが、同業の多くが4〜6%にとどまる中での10%は、それだけでは説明しにくい。
筆者は理由を3つ見る。第一に、危険物・毒劇物の倉庫は許可と立地が要り、新規参入が難しい。第二に、化学品メーカーの工場の構内作業まで担うので、荷主が乗り換えるときの手間と危険が大きい。第三に、荷物の中身が重く、単価が高い。
市場の大きさは粗い推定だ。国内の化学工業の出荷額を約30兆円、物流費をその5%前後とみると、化学品物流は1.5兆円ほどになる。同社の国内の物流売上は1,100億円台なので、シェアは7%前後と読める。山九やニッコンホールディングスなどが競合で、分散した市場の中の有力な1社という位置だ。
弱みも書いておく。第一に、荷主が化学品に偏る。第二に、前計画では売上と経常利益が目標に届かず、海外の売上拡大は課題として残った。第三に、倉庫を自分で持つ分、投資の回収に時間がかかり、資本効率は ROE 9%前後と平凡だ。自己資本比率69%という厚さは安心材料だが、同時に ROE を押し下げる原因でもある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の物流は、2024年問題を境に変わった。トラックの運転手の残業が年960時間に制限され、2025年度の運転手不足は約20.8万人、有効求人倍率は2.49倍に達した。2024年3月の「標準的な運賃」の改定で運賃水準は約8%上がり、荷待ちが2時間を超えれば5割増しになる。需要が増えなくても、単価で稼ぐ構図が定着しつつある。
ただし同社の主戦場は宅配ではない。宅配便はヤマト・佐川・日本郵便の3社で95%超を占める寡占だが、化学品・危険物の保管輸送や3PLは中小が多く、分散した市場だ。山九・ニッコンホールディングス・センコーといった総合物流会社や、倉庫専業の三井倉庫・住友倉庫が競合になる。
危険物倉庫は消防法や毒劇物の規制で参入の壁が高い。近年は倉庫の建設費が上がり、新しく建てる側の採算が厳しい。これは既存の保有者に追い風になる。
一方、需要の根っこにあるのは国内の化学品の生産量だ。国内の石油化学は、設備の統廃合が進む縮小局面にある。海外の安い製品に押されて工場が減れば、荷物そのものが減る。同社が危険物の拠点を増やすのは、この縮小を取扱領域の拡大で補う狙いだ。農産物や定温の倉庫、タイの倉庫を足すのも、化学品への偏りを薄める動きと読める。
10年の見立ては、国内の量は横ばいから微増、運賃は物価並み、供給が絞られる間は値上げが通りやすい、というものだ。自動運転や省力化が進めば、人手不足の追い風は10年かけて弱まる。
資本政策と M&A
配当は連結配当性向35%以上を目標に掲げるが、実際の還元はそれより厚い。2026年3月期は12期連続で増配し、下期に約21億円の自社株買いも行った。上場以来、減配はない。
投資は拠点の新設が中心だ。2025年度は成長投資が約31億円、DXが約13億円、維持更新が約26億円で、M&Aは約4億円にとどまった。中期計画の投資枠はM&Aが100億円と小さく、大型の買収で規模を取りにいく会社ではない。外部の資金も使って検討するというから、買収は小粒の補完が中心になりそうだ。
政策保有株は縮減の方針で、2026年3月期も売却を進めた。筆頭株主は丸全商事で持株比率は8.4%、続いて明治安田生命が6%台、シンフォニー・フィナンシャル・パートナーズが純投資で5%台を持つ。上位の持株比率の合計は46%を超え、浮動株は多くない。
買収される側のリスクは、算出できる数字として約24%の確率が示されるが、物流業界は同業どうしの再編が活発で、これを根拠に筋書きを動かしてはいない。筆者は、危険物倉庫という堀は、買い手にとって魅力があると見る。
資本政策の弱点は、純現金170億円と自己資本比率69%の厚さだ。投資の機会が限られる間は、還元をさらに増やすか、使い道を示さなければ ROE は上がらない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
この会社の利益率10%は、偶然ではなく仕組みの結果だ。危険物・毒劇物の倉庫は許可がなければ作れず、既存の拠点の価値は建設費が上がるほど高まる。広島、常陸那珂、加須、神栖と新しい拠点が2026年から2027年に相次いで開く。取扱量は、この新拠点の分だけ確実に積み上がる。
運賃は2024年問題で上がりやすくなった。運転手が足りない間は、荷主は料金改定を受け入れるしかない。2027年3月期の予想は、営業利益170億円と過去最高の更新だ。会社は14期連続の増益を見込んでいる。
還元も厚い。12期連続の増配に加え、自社株買いも始めた。純現金170億円は、さらなる増配や買収の弾薬になる。政策保有株を売れば、ROEを上げる原資がもう1つできる。ROE9〜10%の中計目標は、無理のない水準だ。
海外にも伸びしろがある。タイの倉庫、米国の青果物や酒類、エジプトの車両輸送と、化学品以外の荷物が増えている。国際園芸博覧会の運営も収益に入る。化学品への偏りは、時間をかけて薄まる。
自己資本の厚さは弱みでなく、不況に耐える力だ。ここまで安全な会社が、10年で利益率を保つだけで、今の時価総額を十分に上回る価値を持つ。
慎重な見方
利益率10%は、運転手不足という追い風の上に乗った数字だ。運転手が増えたり、自動運転が進んだりすれば、荷主は料金改定を受け入れなくなる。同業の利益率が4〜6%にとどまることを考えれば、10%はいずれ平均へ戻る。
荷主が化学品に偏っているのが最大の弱点だ。国内の石油化学は設備の統廃合が進む縮小局面で、工場が減れば荷物も減る。新設中の危険物倉庫は、荷物が減ったときに重い固定費になる。倉庫を自前で持つ会社は、稼働が落ちると減価償却が利益を直接削る。
前の中期計画は、売上も経常利益も目標に届かなかった。海外の売上拡大も課題のままだ。今回の計画も、新規の3PL案件が思ったほど取れず、2026年3月期は期初計画に届かなかった。170億円という予想は、案件獲得の遅れをまた背負う。
資本効率も平凡だ。自己資本比率69%、純現金170億円を抱えながら、ROEは9%前後にすぎない。資本コストをわずかに上回る程度の会社に、長期で高い倍率はつけにくい。
筆頭株主の丸全商事は8%台で、上位の持株を合わせると46%を超える。持ち合いが厚く、会社を買う側にとっても動きにくい。投資の機会が乏しいのに、現金だけが積み上がる会社は、株主にとって魅力が薄い。
どちらに重みを置いたか
新しい危険物拠点が量を支え、運賃も物価並みに上がるという見方は、中立の中心に据えてよい。利益率10%が運転手不足の追い風だけで作られたという慎重な見方も、半分は当たっている。ただ、同社の利益率は11年かけて倍になった積み上げの結果で、一気に崩れる性格のものではない。
確率は中立を最も厚い37%にし、悲観側(やや悲観と悲観)を33%に置いた。やや楽観・楽観は30%とした。化学品への偏りと ROE の低さは、利益率が同業並みに戻る悲観に反映した。自己資本の厚さが下値を支えるので、悲観でも時価総額は大きくは崩れない。結論は、10年で測ると今の値段をやや下回る、というものだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,309 円2,047 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,762 円679 億円)。 今の値に割り戻すと 4,034 円1,555 億円、今との差 +7.4%、 期待の年率 +6.5%(資本コスト 6.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 8,512 円3,282 億円 | 2,147 円828 億円 | +183.9% | +11.0% | 853 円329 億円 |
| やや楽観 | 22% | 7,140 円2,753 億円 | 1,976 円762 億円 | +142.8% | +9.3% | 2,005 円773 億円 |
| 中立 | 37% | 5,931 円2,287 億円 | 1,818 円701 億円 | +106.4% | +7.5% | 2,867 円1,106 億円 |
| やや悲観 | 22% | 3,058 円1,179 億円 | 1,541 円594 億円 | +22.5% | +2.0% | 1,012 円390 億円 |
| 悲観 | 11% | 1,731 円667 億円 | 1,310 円505 億円 | −19.0% | −2.1% | 334 円129 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,309 円2,047 億円 | 1,762 円679 億円 | +88.3% | +6.5% | 7,072 円2,727 億円 |
今の株価時価総額 3,755 円1,448 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 6.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 危険物拠点が量を押し上げ、利益率11%を保つ 利益 191 億円 · PER 16.9 倍 · 株価時価総額 8,512 円3,282 億円
危険物倉庫の増設が当たる10年だ。広島・常陸那珂・加須・神栖の新拠点が埋まり、化学品に加えて農産物や定温品の荷物も増える。タイの倉庫が軌道に乗り、海外の取扱も伸びる。運転手不足は続き、運賃は物価をやや上回って上がる。
3PL の新規案件の獲得が会社の計画どおり進み、荷主の工場の構内作業も広がる。小粒の買収が重なって取扱量が積み上がる。利益率は直近の10%台前半を保ち、11%に届く。
資本は増配と自社株買いで厚く返し、ROE は10%近くまで上がる(還元を純利益の55%で置くため、自己資本が積み上がる)。堀が10年先も保たれ、投資が稼ぎに結びつく、最も良い10年だ。
- 物流事業(運送・倉庫・港湾・3PL・国際輸送):数量 1,440(取扱貨物(万トン相当。運送・倉庫入出庫・港湾荷役の合算推定))× 価格 1.48(1 トンあたり収入(万円))→ 売上 2,133 億円・営業利益 235 億円。量1.20倍・運賃1.38倍・利益率11%
- 構内作業・機械荷役・その他:数量 3,300(常駐作業人員(人。推定))× 価格 0.09(1 人あたり年間収入(億円))→ 売上 296 億円・営業利益 34 億円。人員1.10倍・単価1.36倍・利益率11.5%
倍率:事業の純利益 189 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.6% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)86 億円。全体の PER 17.08 倍、時価総額 3,348 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:危険物拠点の増設が計画どおり稼働し、化学品以外の荷物も伸びて、利益率11%を10年保つ筋書きだ。条件が多く重なる必要があるので8%にとどめた。
やや楽観 22% 新拠点が稼働し、利益率10%台半ばを維持 利益 167 億円 · PER 16.1 倍 · 株価時価総額 7,140 円2,753 億円
新拠点は予定どおり稼働し、取扱量は1割ほど増える。化学品の国内生産は細るが、危険物の保管と輸送を寄せ集めて取扱を維持する。運賃は物価並みかやや上で、荷主も値上げを受け入れる。
構内作業は荷主の外注化が続き、少しずつ増える。海外は大きく伸びないが、アジアの倉庫と特殊輸送が下支えになる。利益率は10%台半ばを保ち、売上は10年で3割強伸びる。
還元は12期の増配の流れを続ける。純現金は倉庫投資と小粒の買収に回る。ROE は9%弱で、会社の中期計画の目標(9〜10%)の下限に届かない水準になる。堀は崩れないが、広がりもしない。会社が描いた計画が、ほぼそのまま実を結ぶ10年だ。
- 物流事業(運送・倉庫・港湾・3PL・国際輸送):数量 1,332(取扱貨物(万トン相当。運送・倉庫入出庫・港湾荷役の合算推定))× 価格 1.46(1 トンあたり収入(万円))→ 売上 1,944 億円・営業利益 204 億円。量1.11倍・運賃1.36倍・利益率10.5%
- 構内作業・機械荷役・その他:数量 3,120(常駐作業人員(人。推定))× 価格 0.09(1 人あたり年間収入(億円))→ 売上 278 億円・営業利益 31 億円。人員1.04倍・単価1.35倍・利益率11%
倍率:事業の純利益 165 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.6% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.7%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)86 億円。全体の PER 16.29 倍、時価総額 2,807 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新拠点が稼働して量が1割ほど増え、運賃も物価をやや上回る。会社の中計目標に近く、実績の積み上がり方とも整合するので、中立に次いで厚い22%を置いた。
中立 37% 量は微増、運賃は物価並み、利益率は10%弱で落ち着く 利益 145 億円 · PER 15.3 倍 · 株価時価総額 5,931 円2,287 億円
量はほぼ横ばいで、運賃は物価並みに上がる。新拠点の分で取扱は5%増えるが、国内の化学品の荷物は細り、増分の大半はそれを埋める。運賃は、人手不足の間は上がりやすいが、10年の間に自動化が進み、追い風は徐々に弱まる。
利益率は直近の10.4%から10%弱へ少し下がる。人件費と倉庫の減価償却が運賃の上がり方をわずかに上回るからだ。構内作業は人員が横ばいで、単価が物価並みに上がる。
還元は純利益の55%ほど(配当性向35%以上に自社株買いを足した形)を続ける。純現金は倉庫投資に回り、大きくは積み上がらない。ROE は8%弱で、資本コストをわずかに上回る堅い会社として落ち着く。
- 物流事業(運送・倉庫・港湾・3PL・国際輸送):数量 1,260(取扱貨物(万トン相当。運送・倉庫入出庫・港湾荷役の合算推定))× 価格 1.44(1 トンあたり収入(万円))→ 売上 1,812 億円・営業利益 178 億円。量1.05倍・運賃1.34倍・利益率9.8%
- 構内作業・機械荷役・その他:数量 3,000(常駐作業人員(人。推定))× 価格 0.09(1 人あたり年間収入(億円))→ 売上 265 億円・営業利益 28 億円。人員横ばい・単価1.34倍・利益率10.5%
倍率:事業の純利益 143 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.6% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)86 億円。全体の PER 15.44 倍、時価総額 2,325 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:量は微増、運賃は物価並みという標準の筋書きで、利益率は直近の10.4%から10%弱へ少し下がる。強気の根拠も慎重な根拠もそれぞれ半分当たるとみて、最も厚い37%にした。
やや悲観 22% 化学品が細り、利益率は同業の上位水準へ後退 利益 106 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 3,058 円1,179 億円
国内の化学品の生産が細り、取扱量が2%ほど減る。荷主はコスト削減を求め、運賃は物価に届かず1.30倍にとどまる。新設の危険物倉庫は、稼働率が思ったほど上がらず、減価償却の負担が利益を削る。
人件費は物価並みに上がり、料金改定で吸収しきれない年が出る。利益率は8%まで下がる。同業の4〜6%よりは高いが、堀が弱まった形だ。新しい基幹システムの移行でも、費用と手戻りが重なる。
構内作業も、荷主の工場の統廃合で人員が減る。還元は続けるが増配のペースは落ち、自社株買いも小さくなる。ROE は5%台に沈み、資本コストを下回る。会社が掲げた中期計画の目標には、10年を通して届かない。
- 物流事業(運送・倉庫・港湾・3PL・国際輸送):数量 1,176(取扱貨物(万トン相当。運送・倉庫入出庫・港湾荷役の合算推定))× 価格 1.40(1 トンあたり収入(万円))→ 売上 1,641 億円・営業利益 131 億円。量0.98倍・運賃1.30倍・利益率8%
- 構内作業・機械荷役・その他:数量 2,850(常駐作業人員(人。推定))× 価格 0.09(1 人あたり年間収入(億円))→ 売上 245 億円・営業利益 21 億円。人員0.95倍・単価1.30倍・利益率8.5%
倍率:ROE 5.7% は k 6.75% 以下。ためた利益の価値は 1 を下回るので PER の上限は 1÷k = 13.3 倍。荷主が化学品に偏り、稼ぐ力が弱まる筋書きなので、上限の 7 割の 9.5 倍に置いた。 投資有価証券の含み益は R4 の holdings で別に数える(PER で置いた筋書きに資産の値を足す)。
確率:化学品の国内生産が細り、運賃の上がり方も鈍る筋書きだ。慎重な見方の根拠が現実になる場合の中心で、22%を置いた。quality の理由では動かしていない。
悲観 11% 化学品の縮小と荷主の乗り換えで、利益率は同業並みに 利益 43 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 1,731 円667 億円
荷主の化学品離れが構造的に進む。国内の石油化学の統廃合で工場が減り、取扱量は2割近く減る。大手荷主が物流を競争入札に切り替え、運賃は物価に届かず、料金の引き下げ要求も強まる。
新設した危険物倉庫は稼働が上がらず、固定費だけが残る。賃借料や人件費も売上の落ち込みほど減らず、利益率は同業並みの4%台まで下がる。構内作業も荷主の撤退に連れて縮む。
還元は大きく減り、政策保有株や保有地の売却で資本を整える局面になる。堀は崩れ、普通の物流会社として評価される10年だ。純現金と売れる資産が下値を支えるので、株主の元本が消えるほどの事態にはならない。
- 物流事業(運送・倉庫・港湾・3PL・国際輸送):数量 984(取扱貨物(万トン相当。運送・倉庫入出庫・港湾荷役の合算推定))× 価格 1.29(1 トンあたり収入(万円))→ 売上 1,267 億円・営業利益 57 億円。量0.82倍・運賃1.20倍・利益率4.5%
- 構内作業・機械荷役・その他:数量 2,400(常駐作業人員(人。推定))× 価格 0.08(1 人あたり年間収入(億円))→ 売上 190 億円・営業利益 8 億円。人員0.80倍・単価1.20倍・利益率4%
倍率:稼ぐ力では測れない水準なので、純現金と売れる資産の税後 670 億円(floor_assets_oku)を時価総額に置いた。今の自己資本 1,420 億円に対する PBR は 0.47 倍。稼ぐ力は事業の純利益 43 億円 ÷ k 6.75% = 約 570 億円で、売れる資産の方が大きい。
確率:荷主の化学品離れや乗り換え、運賃の頭打ちが重なり、同業並みの利益率に戻る構造的な負けだ。堀があり自己資本も厚いので、起こりにくいが無視できない11%にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
物流事業(運送・倉庫・港湾・3PL・国際輸送)
トラック・鉄道・港湾の運送、倉庫・梱包、3PL、通関・国際輸送。化学品・危険物の保管と輸送が中核。
| 数量取扱貨物(万トン相当。運送・倉庫入出庫・港湾荷役の合算推定) | 価格1 トンあたり収入(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,200 | 1.07 | 1,288 | 134 |
| 10 年後 中立 | 1,260 | 1.44 | 1,812 | 178 |
取り方:2026年3月期の物流事業の売上 約1,288億円(全体の約87%)を、取扱貨物 約1,200万トン相当(運送・倉庫の入出庫・港湾荷役を合わせた推定)で割った1トンあたり収入。営業利益は約134億円(2027年3月期の増益幅13.8億円=10.3%増から逆算)。市場規模は、国内の化学品物流を約1.5兆円(化学工業出荷額 約30兆円 × 物流費 約5%)と置くと、同社の国内の物流売上のシェアは7%前後。数量は国内の荷動きと新拠点で増え、単価は運賃改定で上がる。
構内作業・機械荷役・その他
荷主の工場・倉庫の構内での組立・充填・入出荷、機工・移転、機械荷役。
| 数量常駐作業人員(人。推定) | 価格1 人あたり年間収入(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3,000 | 0.07 | 198 | 21 |
| 10 年後 中立 | 3,000 | 0.09 | 265 | 28 |
取り方:構内作業・機械荷役ほかの売上 約198億円(約13%)を、荷主の工場・倉庫の構内に常駐する作業人員 約3,000人(推定)で割った1人あたり年間収入。営業利益は約21億円(全体155億円から物流事業を引いた残り。第1四半期の構内作業の利益3.4億円の年換算とも整合)。人員は荷主の外注化で増える余地がある一方、工場の統廃合で減りうる。単価は人件費に連れて物価並みに上がる。
リスクと懸念
荷主が化学品に偏っている
主な荷主は化学品メーカーで、国内の石油化学は設備の統廃合が進む縮小局面にある。工場が減れば荷物も減り、新設中の危険物倉庫は稼働が上がらず固定費の負担になる。農産物や海外で分散を進めているが、利益の主役が入れ替わるまでには時間がかかる。
運賃の追い風が弱まる
2024年問題の人手不足で運賃が上がりやすい期間は、10年続くとは限らない。自動運転や省力化が進み、運転手の不足が和らげば、荷主は料金改定を受け入れなくなる。同社の利益率10%は、この追い風を一部含む。
新拠点の投資回収
中期計画の設備投資は400億円で、広島・常陸那珂・加須・神栖・タイ・レムチャバンと拠点が相次ぐ。建設費が上がっており、稼働率が想定を下回れば減価償却が利益を削る。新規の3PL案件の獲得は2026年3月期に計画を下回った。
計画との差
前の中期計画は売上・経常利益とも未達で、海外売上の拡大も課題のままだ。2027年3月期の予想は営業利益170億円と1割近い増益で、案件獲得の遅れが続けば再び計画に届かない。
資本効率の低さ
自己資本比率は69%、純現金は170億円と厚いが、ROE は9%前後にとどまる。投資の機会が乏しいまま現金が積み上がれば、株主の取り分は薄まる。政策保有株の縮減と還元の上積みが進まない場合の懸念だ。
システム刷新と人件費
新基幹システムは2028年10月に全面稼働する予定で、移行期のコストと不具合の恐れがある。人件費は物価並みに上がり、料金改定で吸収しきれない年も出る。倉庫・車両の賃借の約束は、悲観では固定費として残る。
今後の分かれ目
- 広島・加須・神栖の新しい危険物倉庫が1年以内に高い稼働率に達したら
- 取扱量の伸びの前提を上げ、やや楽観・楽観の確率を厚くする。堀が投資を稼ぎに結べている証拠になる。
- 国内の石油化学の統廃合で、主要な荷主の工場が閉鎖されたら
- やや悲観・悲観に重みを移す。取扱量の落ち込みと新倉庫の稼働の遅れを同時に織り込む。
- 2027年3月期の営業利益が予想の170億円を上回って終わったら
- 利益率10%超が続くとみて、中立の利益率を少し引き上げる。新規の3PL案件の獲得が戻った証拠にもなる。
- 自社株買いや増配が、現状の連結配当性向35%の目標を超えて拡大されたら
- ROE の改善が早まるとみて、中立の自己資本の積み上がりを下げる。厚い自己資本が活きる場面になる。
- 標準的な運賃が荷主に通りにくくなり、料金改定が止まったら
- 運賃の前提を物価並みから下げ、やや悲観の確率を上げる。人手不足の追い風が終わった合図と読む。
- 同業や外部の投資家による買収提案が出たら
- 事業の価値は筋書きの範囲内で見る。危険物倉庫という堀が買い手に評価される点は、上振れの材料になる。
見ておくもの
- 四半期ごとの物流事業の営業利益率(10%台を保てるか)
- 新設の危険物倉庫(広島・加須・神栖)の稼働率と、新規3PL案件の獲得
- 国内の石油化学の設備統廃合と、主要荷主の動き
- 配当・自社株買い・政策保有株の売却の進み方(ROE の改善)
倍率と資本コストの決め方
数量(取扱貨物・作業人員)と名目の単価に分けて積み上げ、倍率は利益ベースの正当化 PER((1 − g÷RONIC)÷(k − g)、RONIC は k 6.75% を超える ROE の 1/2 が残る値、g 4.0%)の上限の 9 割強に置いた。k は基本 7.5% に quality 0%(循環 +0.25・寿命 −0.25)で、確率は quality の理由では動かしていない。今の株価・PER・同業の PER は倍率の根拠に使っていない。中立の ROE は自己資本を今の 1,420 億円に純利益と還元を流して作り、純現金 170 億円は設備投資 400 億円の計画に使う前提で分けていない。悲観は稼ぐ力より大きい売れる資産の税後 670 億円(推定)を床にした。家賃・賃借の約束は未確認で、新リース会計(2028 年 3 月期から)で営業利益・純負債の形が変わるが、10 年後の数字は今と同じ形でそろえた。 点検(2026-10-19):2026/03 の純利益は営業利益の 82%(過去 4 年は 67〜74%)で、保有株の売却益を含み、その株は余った資産 115 億円とも数えて二重。起点を 110 億円、筋書きの純利益を営業利益×0.71、還元を純利益の 55%(従来は約 70%)に直し、自己資本・ROE・PER を流し直した。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 6.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 0%(循環 +0.25・値決め力 0・借金 0・寿命 −0.25)= 7.5%。化学品の荷動きは景気に連なるが、許認可の要る危険物倉庫と構内作業は寿命が長い。化学品への偏りや新拠点の稼働の読み違いは k に足さず、悲観側の利益率と確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.50% → 6.75%。