結論
鴻池運輸は、荷主の工場や空港、病院の中に入って作業そのものを請け負う会社だ。運ぶだけの物流会社とは稼ぎ方が違う。売上の約 65% を占める複合ソリューションが、利益の大半を生む。
筆者の結論は、今の値段は 10 年で見ておおむね妥当、というものだ。強みは請負の安定にある。弱みは、稼いだお金を新しい事業に回しても、資本コスト(株主が求める最低限の利回り)を大きくは超えない点だ。ROE は 10 年後でも 8% 前後にとどまる。
足元の利益は 2027 年 3 月期に減る見込みだ。中国便の減便で空港が落ち、インドの製鉄所向けは入札で単価が下がる。それでも会社は営業利益 260 億円の目標を据え置いた。空港の回復と医療・北米の積み上げで、10 年かけてその水準を超える。ただし人件費の上昇を荷主に転嫁できるかが、利益率の分かれ目になる。
純現金で借金がなく、不況でも財務は崩れにくい。一方、配当は利益の約 4 割で、自社株買いはほとんどない。株主に戻る分は大きく増えにくい。確率で重みを付けた 10 年の期待リターンは年 7% 前後で、資本コストにわずかに届かない。今の値段は、それに見合う水準だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、悪くはないが、飛び抜けて魅力的でもない。
事業の本質は、人の手を貸して対価を得る仕事だ。設備は軽く、借金はない。景気に強く、倒産のリスクは低い。持ち続けて安心できる会社だ。
問題は、稼ぐ力の水準にある。ROE は 9% 前後で、資本コストをわずかに上回る程度だ。10 年たっても、新しく投じたお金が資本コストを大きく超えて稼ぐ姿は描きにくい。請負は人件費が原価の中心で、価格を自分で決める力が弱い。堀、つまり他社がまねできない強みは、構内に入り込んだ関係に限られる。
経営の資本の使い方は慎重だ。持ち合い株を減らし、配当を増やしてきた。創業家が経営に関わり、長い目で動く。ただ自社株買いは少ない。
安全域は、今の値段ではそれほど厚くない。悲観の筋書きでも、現金と売れる資産で一定の底はある。しかし中立で得られるのは、資本コストをわずかに上回る程度のリターンだ。筆者は、割安と呼ぶには利益の伸びが足りず、割高と呼ぶには財務が堅すぎる、と見る。
何で稼ぐ会社か
鴻池運輸は、大阪に本社を置き、物流を土台に現場の作業を請け負う会社だ。中心の複合ソリューションは、荷主の構内に自社の社員を送り込み、荷役・仕分け・加工・清掃までを丸ごと引き受ける。鉄鋼、食品、空港、医療、環境が柱になる。
鉄鋼は主力の分野で、製鉄所の構内作業を担う。インドでは 2024 年に国営製鉄所のスラグ(製鉄の副産物)処理会社を買収し、海外の足場にした。食品は、工場から店舗までの輸送と構内作業を組み合わせる。
空港では、航空機の地上支援を担う。2017 年に成田空港の関連事業を引き継ぎ、規模が広がった。国際線の便数に左右されるので、利益は振れやすい。
医療は子会社の鴻池メディカルが担う。器具の滅菌、病院内の物品搬送、検体の輸送を病院から請け負う。病院は人手が足りず、外に出したがる。需要は増えやすい。
国内物流は、トラック輸送、倉庫、旅行荷物の配送だ。売上は約 565 億円で、利益率は 6% 台。国際物流は航空・海上の取扱いと北米の冷凍冷蔵倉庫で、売上は約 670 億円。2026 年 3 月期は航空貨物が減り、利益が 16% 落ちた。
セグメント利益の約 4 分の 3 を複合ソリューションが稼ぐ。請負は一度入れば契約が続きやすい。これが同社の安定の源である。
優良さと弱いところ
安定した請負の積み上げが、この会社の強みだ。ただし堀は深くない。
強みの一つは、荷主の構内に入り込んだ関係だ。工場・空港・病院では、安全の決まりと現場の習熟が要る。任せた作業を、荷主は簡単には他社に替えない。切り替えの手間が、そのまま守りになる。
もう一つは事業の幅だ。鉄鋼、食品、空港、医療と分かれているので、1 つが落ちても全体は崩れにくい。コロナ禍の 2021 年 3 月期でも、営業利益 40 億円を確保し、赤字にはならなかった。
弱みもはっきりしている。請負の単価は人件費で決まる。賃金が上がる局面で転嫁が遅れると、利益率が削られる。インドの製鉄所向けは入札で単価が下がる。空港は便数次第だ。
資本効率は改善してきた。ROE は 2021 年 3 月期の 4.8% から、直近は 9% 前後まで上がった。ただ営業利益率は 6% 台で、請負業としては標準的だ。課題は、ためたお金を資本コストを超えて回せるかにある。会社の目標は ROE 10% 以上で、直近の 9% 前後には届いていない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
人手不足は、請負業にとって追い風でもあり向かい風でもある。
追い風は、荷主が自前で人を抱えられなくなったことだ。工場も病院も空港も、働き手が集まらない。作業を外に任せる動きは続く。トラック運転手は 2025 年度に 20 万人超が足りないとされ、荷主は運賃や単価の改定を受け入れざるをえない。
向かい風は、同じ人手不足で自社の人件費が上がることだ。転嫁できれば利益率は保てる。できなければ削られる。2024 年に標準的な運賃が約 8% 引き上げられ、荷待ちが長い荷主には割増も付く。物流の単価は上がる方向にある。
国内の需要は、人口減でほぼ横ばいか微減だ。鉄鋼は国内の粗鋼生産が細るので、国内の請負量は減りやすい。その分を医療・空港・北米が補えるかが焦点になる。
空港は、2026 年 10 月ごろまで中国便の減便が続き、その後はゆるやかに戻ると会社は見る。国際線の便数は景気と国際関係に左右され、読みにくい。
競争は、構内請負では山九や日本通運系などが相手になる。宅配のような寡占ではなく、分散した市場で、荷主ごとの交渉や入札で単価が決まる。価格を決める力は強くない。物流全体では再編が進み、規模の大きい会社が小さい会社を買う流れが強まっている。鴻池運輸は、買う側にも買われる側にもなりうる位置にいる。
資本政策と M&A
資本政策は、守りの色が濃い。
配当は 2026 年 3 月期に前期比 15% 増え、配当性向は約 4 割に上がった。2027 年 3 月期も据え置く。自社株買いは、2019 年 3 月期の約 25 億円以外は確認できない。
政策保有株は 41 銘柄まで減らし、純資産の約 8% に下げた。売却の累計は 63 億円だ。持ち合いを減らす方向は評価できる。
中期経営計画(2026〜2028 年 3 月期)は、3 年間の営業キャッシュフロー 730 億円を原資に、投資総額 900 億円超を見込む。投資の中心は海外(インド・北米)、メディカル、国内のエンジニアリングだ。2026 年 1 月にはインドの Vertex Konoike Engineers の株式 49% を取得した。
買う側としては、インドの製鉄所向けの買収が教訓になる。取得のあとに民営化の入札で単価が下がる難しさが出た。買収は当たれば利益率が上がるが、外れれば減損が残る。
買われる側の可能性もある。時価総額は約 1,500 億円と手ごろだ。筆頭株主は江之子島商事(約 9.5%)、従業員持株会が約 8%、会長兼社長の鴻池忠彦氏が約 5% を持つ。安定株主が厚く、同意なき買収は進みにくい。友好的な再編の可能性は残る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
空港と医療が、これから利益を押し上げる。
空港は、中国便の減便で一時的に落ちているだけだ。便数が戻れば、固定の要員が稼働を取り戻し、利益率は一気に改善する。会社も 2026 年 10 月ごろからの緩やかな回復を見込む。空港の人手不足は深刻で、地上支援を担える会社は限られる。委託は増える一方だ。
医療はさらに強い。病院は人手と経費に追われ、滅菌や院内搬送を外に出す流れは止まらない。メディカルは売上 9% 増を計画している。北米では冷凍冷蔵倉庫の増設が進み、海外営業利益は 27 億円から 33 億円の目標へ向かう。
単価の転嫁も進んでいる。適正単価の改定が通り、2026 年 3 月期の食品は増益だった。会社の中計は営業利益 260 億円で、実績の 228 億円から 1 割あまりの伸びを描く。
政策保有株を減らし、配当性向も上がった。ROE 10% 以上の目標に向け、資本の効率は今後も上がる。10 年あれば、営業利益は 450 億円規模に届く。
慎重な見方
請負は、人件費の上昇に単価が追いつかなければ、利益が簡単に削られる。
賃金は物価より速く上がりやすい。荷主は値上げに応じても、全額は通さない。2027 年 3 月期の営業利益は 8% 減る見込みで、採用の拡大と内製化の労務費が重くのしかかる。減益は一時の事情だけではない。
空港は、国際線の便数という自社では動かせない要素に左右される。インドの製鉄所向けは民営化で入札になり、単価が下がる。入札は、請負の強みである切り替えの手間を壊す。
国内の鉄鋼は、粗鋼生産が細るので請負量が減る。医療も、病院が採用を増やして内製に戻せば伸びない。
そもそも ROE は 9% 前後で、資本コストをわずかに上回るだけだ。成長のために投じるお金の稼ぎは、時間とともに薄れる。10 年後に ROE が今より上がる材料は乏しい。海外の買収は、インドのように入札や制度の変更で崩れる危うさを抱える。会社の目標には届かず、利益は横ばいに近い形で終わる。
どちらに重みを置いたか
強気は空港・医療の回復を、慎重な見方は単価の転嫁と入札を突く。どちらにも根拠がある。
筆者は、10 年では請負の安定が効くと見て、中立を最も厚い 36% に置いた。ただ ROE が資本コストをわずかに上回る程度で、利益の伸びが倍率を押し上げる余地は小さい。そのため楽観は 8% にとどめ、やや悲観と悲観を合わせた 33% を置いた。確率は慎重な側へわずかに寄せた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,825 円2,564 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,485 円789 億円)。 今の値に割り戻すと 3,309 円1,758 億円、今との差 +13.0%、 期待の年率 +8.0%(資本コスト 7.8%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 8,555 円4,546 億円 | 2,138 円1,136 億円 | +265.1% | +13.8% | 855 円455 億円 |
| やや楽観 | 23% | 6,748 円3,585 億円 | 1,732 円920 億円 | +189.5% | +11.2% | 1,950 円1,036 億円 |
| 中立 | 36% | 5,543 円2,945 億円 | 1,477 円785 億円 | +139.7% | +9.1% | 2,527 円1,343 億円 |
| やや悲観 | 22% | 2,275 円1,209 億円 | 1,242 円660 億円 | +20.1% | +1.8% | 774 円411 億円 |
| 悲観 | 11% | 838 円446 億円 | 1,001 円532 億円 | −37.2% | −4.5% | 202 円108 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,825 円2,564 億円 | 1,485 円789 億円 | +115.4% | +8.0% | 6,309 円3,352 億円 |
今の株価時価総額 2,929 円1,556 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 空港が戻り医療と北米が育つ、中計の先を行く 10 年 利益 296 億円 · PER 15.2 倍 · 株価時価総額 8,555 円4,546 億円
空港が戻り、医療と北米が積み上がる。10 年後の営業利益は 450 億円規模に届く。
複合ソリューションは、空港の便数が戻って稼働を取り戻し、メディカルが病院の外注化に乗って伸びる。国内の鉄鋼の減少は、インドと北米の請負で埋まる。要員は 1.14 倍、単価は賃金の上昇をほぼ転嫁して 1.38 倍まで上がる。
国際物流は、北米の冷凍冷蔵倉庫が育ち、取扱いが 5 割超増える。買収も 1〜2 件うまくいき、海外の利益は目標の 33 億円を大きく超える。会社は ROE 10% 以上を保ち、配当性向をさらに上げる。
ここまで進む確率は高くない。人件費の転嫁も、買収の成功も、同時に当たる必要があるからだ。
- 複合ソリューション(構内請負・空港・医療・食品・環境):数量 3.0(請け負う要員(万人、フルタイム換算の推定))× 価格 1,231(1 人あたり売上(万円))→ 売上 3,649 億円・営業利益 401 億円。要員 1.14 倍(医療・空港・北米)・単価 1.38 倍・利益率 11.0%
- 国内物流(輸送・倉庫・旅行荷物ほか):数量 258(取扱貨物(万トン、推定))× 価格 3.07(1 トンあたり収入(万円))→ 売上 791 億円・営業利益 59 億円。取扱 1.03 倍・単価 1.36 倍・利益率 7.5%
- 国際物流(航空・海上、北米・アジア):数量 46.5(取扱量(万トン換算、推定))× 価格 30(1 トンあたり収入(万円))→ 売上 1,412 億円・営業利益 120 億円。取扱 1.55 倍(北米・インド)・単価 1.36 倍・利益率 8.5%
倍率:事業の純利益 296 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.9% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.2 倍。全体の PER 15.21 倍、時価総額 4,502 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:空港の回復、医療の外注化、北米の拡大、人件費の転嫁が、そろって当たる必要がある。どれも筋は通るが、同時に当たる確率は低い。
やや楽観 23% 空港と医療が計画どおり進み、中計をわずかに超える 利益 239 億円 · PER 14.4 倍 · 株価時価総額 6,748 円3,585 億円
空港は 2027 年のうちに戻り始め、医療は年 7〜9% の伸びを保つ。会社の営業利益 260 億円の目標は、数年遅れで達成される。
複合ソリューションは、要員が 1.08 倍に増え、単価は賃金の上昇をほぼ転嫁して 1.37 倍になる。鉄鋼の国内の減少は、食品と医療の新規の請負で補う。
国際物流は、北米の倉庫が稼働して取扱いが 1.25 倍に伸びる。航空貨物は景気で振れるが、均すと緩やかに増える。インドの入札では単価が下がるものの、他の製鉄所向けで一部を埋める。
配当性向は 47% ほどに上がり、ROE は 9% 台に乗る。ただ新しく投じたお金が稼ぐ力は資本コストをわずかに超える程度で、倍率は中立と大きくは変わらない。
- 複合ソリューション(構内請負・空港・医療・食品・環境):数量 2.8(請け負う要員(万人、フルタイム換算の推定))× 価格 1,222(1 人あたり売上(万円))→ 売上 3,431 億円・営業利益 353 億円。要員 1.08 倍・単価 1.37 倍・利益率 10.3%
- 国内物流(輸送・倉庫・旅行荷物ほか):数量 250(取扱貨物(万トン、推定))× 価格 3.05(1 トンあたり収入(万円))→ 売上 763 億円・営業利益 53 億円。取扱横ばい・単価 1.35 倍・利益率 6.9%
- 国際物流(航空・海上、北米・アジア):数量 37.5(取扱量(万トン換算、推定))× 価格 30(1 トンあたり収入(万円))→ 売上 1,130 億円・営業利益 79 億円。取扱 1.25 倍・単価 1.35 倍・利益率 7.0%
倍率:事業の純利益 239 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.6% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.4 倍。全体の PER 14.41 倍、時価総額 3,444 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の中計と、空港・医療の回復を素直に当てはめた筋書き。2026 年 3 月期に営業利益が計画を上回った実績があり、無理のない上振れとして置いた。
中立 36% 請負の安定が続き、利益は名目の成長にほぼ並ぶ 利益 200 億円 · PER 13.7 倍 · 株価時価総額 5,543 円2,945 億円
利益は物価並みに伸び、ROE は 8% 前後にとどまる。10 年後の営業利益は 310 億円ほどだ。
複合ソリューションは、空港と医療が鉄鋼の国内の減少を補い、要員が 1.02 倍になる。単価は賃金の上昇にあわせて 1.36 倍だ。インドの入札で単価が下がる分と、空港の回復が、ほぼ打ち消し合う。
国内物流は取扱いが 2% 減り、単価が物価並みに上がって利益率は 6% 台半ばを保つ。国際物流は北米の倉庫で取扱いが 1 割増え、利益率は 6% に乗る。
会社の目標である ROE 10% には届かない。配当性向は 45% ほどで、自社株買いはほとんどない。ためた利益は資本コストをわずかに上回る程度でしか働かず、普通に優良な請負会社として評価が落ち着く 10 年になる。
- 複合ソリューション(構内請負・空港・医療・食品・環境):数量 2.7(請け負う要員(万人、フルタイム換算の推定))× 価格 1,213(1 人あたり売上(万円))→ 売上 3,217 億円・営業利益 315 億円。要員 1.02 倍(空港・医療が鉄鋼の減を補う)・単価 1.36 倍・利益率 9.8%
- 国内物流(輸送・倉庫・旅行荷物ほか):数量 245(取扱貨物(万トン、推定))× 価格 3.03(1 トンあたり収入(万円))→ 売上 742 億円・営業利益 48 億円。取扱 0.98 倍・単価 1.34 倍・利益率 6.5%
- 国際物流(航空・海上、北米・アジア):数量 33.0(取扱量(万トン換算、推定))× 価格 30(1 トンあたり収入(万円))→ 売上 987 億円・営業利益 59 億円。取扱 1.10 倍・単価 1.34 倍・利益率 6.0%
倍率:事業の純利益 200 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.7% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.7 倍。全体の PER 13.68 倍、時価総額 2,736 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業種ノートの中心値(数量は横ばいか微増、価格は物価並み)と、請負の安定、医療・空港の回復を合わせた中心の筋書き。確率はやや慎重な側に寄せた中立。
やや悲観 22% 転嫁が賃金に届かず、利益率が一段下がる 利益 123 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 2,275 円1,209 億円
単価が賃金に追いつかず、利益率が下がる。10 年後の営業利益は 190 億円ほどで、今を下回る。
複合ソリューションは、荷主が値上げを賃金の上昇分まで通さない。単価は 1.32 倍にとどまる。要員は鉄鋼の減少で 0.97 倍になり、利益率は 7% 台後半まで下がる。
国内物流は、取扱いが 5% 減り、一部の得意先の撤退が続く。国際物流は、航空貨物が伸びず、取扱いは横ばいになる。インドは入札の影響が長引き、海外の利益は目標に届かない。
配当は今の水準を保とうとして、配当性向は 5 割に近づく。ROE は 5% 台に落ちる。稼ぐ力は資本コストを下回り、新しく投じたお金は価値を生まない。
- 複合ソリューション(構内請負・空港・医療・食品・環境):数量 2.5(請け負う要員(万人、フルタイム換算の推定))× 価格 1,177(1 人あたり売上(万円))→ 売上 2,970 億円・営業利益 232 億円。要員 0.97 倍・単価 1.32 倍(転嫁が賃金に届かない)・利益率 7.8%
- 国内物流(輸送・倉庫・旅行荷物ほか):数量 238(取扱貨物(万トン、推定))× 価格 2.98(1 トンあたり収入(万円))→ 売上 709 億円・営業利益 32 億円。取扱 0.95 倍・単価 1.32 倍・利益率 4.5%
- 国際物流(航空・海上、北米・アジア):数量 30.0(取扱量(万トン換算、推定))× 価格 29(1 トンあたり収入(万円))→ 売上 871 億円・営業利益 35 億円。取扱横ばい・単価 1.30 倍・利益率 4.0%
倍率:ROE 5.4% は k 7.75% 以下。ためた利益の価値は 1 を下回るので PER の上限は 1÷k = 12.9 倍。利益率が一段下がり、稼ぐ力が資本コストに届かない筋書きなので、上限の 6.5 割の 8.5 倍に置いた。
確率:賃金は物価より速く上がりやすく、荷主が全額の転嫁を受け入れない筋書き。2027 年 3 月期の減益の内容(労務費の増加と入札での単価の低下)が続く想定で、無理のない下振れとして置いた。
悲観 11% 入札と内製化で、請負の強みが崩れる 利益 4 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 838 円446 億円
請負の切り替えの手間という守りが破れ、利益がほぼ消える。10 年後の営業利益は 10 億円ほどだ。
インドの製鉄所向けで起きた入札が、国内の荷主にも広がる。荷主は複数社に見積もりを取り、単価は賃金の上昇より遅れて 1.28 倍にとどまる。国内の鉄鋼は粗鋼の減産で請負量が 15% 減り、空港は航空会社の自前化や失注で要員が余る。
医療は病院が採用を増やして内製に戻し、伸びない。国内物流は得意先の撤退が続き、利益率は 2% まで下がる。国際物流は北米の倉庫が過剰になり、ほぼ収支が合う程度にとどまる。
配当は前半は今の水準を保つため、手元の現金と資産の売却で払い、後半に大きく減らす。買収で残ったのれんも減損する。それでも借金が少なく、現金と売れる資産が残るので、会社は倒れない。
- 複合ソリューション(構内請負・空港・医療・食品・環境):数量 2.2(請け負う要員(万人、フルタイム換算の推定))× 価格 1,142(1 人あたり売上(万円))→ 売上 2,523 億円・営業利益 88 億円。要員 0.85 倍・単価 1.28 倍(入札で下がる)・利益率 3.5%
- 国内物流(輸送・倉庫・旅行荷物ほか):数量 213(取扱貨物(万トン、推定))× 価格 2.89(1 トンあたり収入(万円))→ 売上 615 億円・営業利益 12 億円。取扱 0.85 倍・単価 1.28 倍・利益率 2.0%
- 国際物流(航空・海上、北米・アジア):数量 25.5(取扱量(万トン換算、推定))× 価格 28(1 トンあたり収入(万円))→ 売上 712 億円・営業利益 4 億円。取扱 0.85 倍・単価 1.25 倍・利益率 0.5%
倍率:稼ぐ力では測れない年なので、現金と売れる資産の税後 445 億円(floor_assets_oku)を時価総額に置いた。今の自己資本 1,591 億円に対する PBR は 0.28 倍。入札と内製化で請負の強みが崩れ、営業利益がほぼ消える筋書き。
確率:荷主が入札で単価を下げさせ、人件費の転嫁ができず、空港や鉄鋼の請負を失う複合の筋書き。財務は堅く、多くの事業が長期契約なので、確率は低めに置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
複合ソリューション(構内請負・空港・医療・食品・環境)
荷主の工場や空港、病院の中に入り、荷役・加工・清掃・滅菌などの作業そのものを請け負う。売上の約 65% を占める稼ぎ頭。
| 数量請け負う要員(万人、フルタイム換算の推定) | 価格1 人あたり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.6 | 892 | 2,319 | 239 |
| 10 年後 中立 | 2.7 | 1,213 | 3,217 | 315 |
取り方:複合ソリューションの売上 2,319 億円(2026 年 3 月期)を、請け負う要員の推定 2.6 万人(フルタイム換算)で割った 1 人あたり売上。要員数は開示がなく、売上と業務の人手比率からの推定。数量は人の数で、人手が増えれば売上が増える。単価は賃金の上昇を荷主に転嫁する「適正単価」の改定で動く。
国内物流(輸送・倉庫・旅行荷物ほか)
国内のトラック輸送、倉庫保管、旅行荷物の配送などを手がける従来型の物流事業。
| 数量取扱貨物(万トン、推定) | 価格1 トンあたり収入(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 250 | 2.26 | 565 | 34 |
| 10 年後 中立 | 245 | 3.03 | 742 | 48 |
取り方:国内物流の売上 565 億円を、取扱貨物の推定 250 万トンで割った 1 トンあたり収入。数量は開示がなく推定。国内の荷動きは人口減でほぼ横ばいか微減。単価は 2024 年問題でドライバー不足が続き、物価並みか少し上を見込む。
国際物流(航空・海上、北米・アジア)
航空貨物・海上貨物の取扱いと、北米の冷凍冷蔵倉庫など海外の物流拠点を運営する。
| 数量取扱量(万トン換算、推定) | 価格1 トンあたり収入(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 30.0 | 22 | 670 | 40 |
| 10 年後 中立 | 33.0 | 30 | 987 | 59 |
取り方:国際物流の売上 670 億円を、取扱量の推定 30 万トン換算で割った 1 トンあたり収入(航空・海上の運賃と海外倉庫の収入を混ぜた値)。数量は開示がなく推定。航空貨物の量は景気で振れる。単価は燃料と運賃の市況で動く。
リスクと懸念
人件費の上昇を単価に転嫁しきれない
請負の原価の大半は人件費だ。賃金が物価より速く上がり、荷主が値上げを全額は受け入れないと、利益率が削られる。2027 年 3 月期は採用の拡大と内製化で労務費が増え、営業利益が 8% 減る見込みで、この弱みがすでに出ている。
空港の便数と国際線の動き
空港の利益は国際線の便数に左右され、自社では動かせない。2027 年 3 月期は中国便の減便で、空港の利益が 19 億円まで落ちる見込みだ。回復の時期がずれたり、政治の事情で便が戻らなかったりすると、採用済みの要員が重荷になる。
インドの製鉄所向けの入札と海外の買収
2024 年に買収したインドのスラグ処理会社は、民営化の入札で業務が縮み、単価が下がる。国が相手の事業は、制度の変更で条件が変わる。2026 年 1 月に取得した Vertex Konoike Engineers を含め、海外の買収が期待を下回れば、減損が出る。
国内の鉄鋼の請負量の減少
国内の粗鋼生産は人口減と海外との競争で細り、製鉄所の構内作業の量が減りやすい。主力の分野で数量が落ちるので、医療・空港・北米の伸びで補えない場合は、複合ソリューション全体の利益が伸びない。
採用難と内製化のコスト
空港の回復に備え、会社は採用を増やし、外注していた作業を内製に切り替えている。回復が遅れると人件費だけが先に出る。人が集まらなければ受けられる仕事の量にも上限がかかる。
賃借の拠点と固定費
倉庫や事業所の多くは借りて使う。家賃は売上が落ちても減らない固定の約束だ。2028 年 3 月期から新しいリース会計が始まり、借りている拠点が貸借対照表に載る。自己資本比率は今より下がって見える。純現金の強さを見かけほど頼らないほうがよい。
大口顧客の撤退
2026 年 3 月期は、国内物流で一部の得意先が撤退し、利益が 4.6% 減った。請負は少数の大きな荷主に偏りやすく、1 社の撤退が利益に響く。荷主が自前の物流に戻せば、数量が失われる。
今後の分かれ目
- 空港の便数が回復し、空港の利益が 2027 年 3 月期の 19 億円から増え始めたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。固定の要員が稼働を取り戻し、複合ソリューションの利益率が戻る。
- 適正単価の改定が続き、営業利益が 2028 年 3 月期に 260 億円へ届いたら
- 中立の筋書きの利益率に確信が持てる。人件費の転嫁が機能している証拠であり、悲観の確率を下げてよい。
- インドの製鉄所向けの入札で単価がさらに下がり、海外営業利益が 33 億円の目標に届かなかったら
- 海外の成長の筋書きを見直す。楽観の確率を下げ、やや悲観に寄せる。
- 鉄鋼の国内の請負量が減り、複合ソリューションの売上が前年を割ったら
- 数量の前提を下げる。医療・空港が補えているかを確かめ、補えなければやや悲観の確率を上げる。
- 海外の買収で減損が出たら
- 買収のたびに資本コストを超えて稼げているかを疑う。ROE が 10% に届かない期間が長くなる前提に直す。
- 配当性向の引き上げや自社株買いが明確に出たら
- 株主に戻る額が増え、10 年の還元の合計が増える。ROE の押し上げ効果も見込める。
見ておくもの
- 四半期ごとの空港関連の利益(中国便・国際線の便数の戻り)
- 複合ソリューションの利益率と、適正単価の改定の進み具合
- インドの製鉄所向けの入札結果と海外営業利益(目標は 2028 年 3 月期に 33 億円)
- 配当性向と自社株買いの有無、政策保有株の売却の進み
倍率と資本コストの決め方
売上は要員または取扱量と単価に分け、数量は実質で置いた(いずれも開示がなく推定)。倍率は利益ベースの正当化 PER(=(1−g÷RONIC)÷(k−g)、RONIC は k 7.75% を超える ROE のうち半分が残る値、g 4%)を上限に置いた。今の株価や過去の倍率からは置いていない。ROE が k とほぼ並ぶので、中立は 1÷k の水準になる。k は基本 7.5% に quality +0.25%(値決め力のみ)。自己資本は今の 1,591 億円に各筋書きの純利益の合計を足し、還元を引いて流した。純現金は時価総額の約 4% で分けていない。家賃は営業費用に入った今と同じ形で置き、2028 年 3 月期からの新リース会計で営業利益・純有利子負債・自己資本比率の形が変わる点は考えに入れた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.8→15.21 倍・やや楽観 PER 13.2→14.41 倍・中立 PER 12.9→13.68 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +0.25% = 7.75%。請負は荷主との契約が長く景気に強いので循環は 0、借金は純現金で 0、寿命は 0 とした。単価を人件費に合わせて荷主と決める事業で、値決め力だけ +0.25% とした。個別のリスク(空港・インドの入札・買収)は k に足さず、筋書きと確率で表した。