結論
サカイ引越センターは、引越の国内最大手だ。売上は1,247億円で、全国200超の支社と3,000台超の車両を持つ。引越の売上高シェアは約2割、大手5社で約6割を占める。
筆者の結論は、事業の質は高いが今の値段はやや割高、というものだ。割高の度合いは、やや割高にとどまる。利益率は10%と運送業では抜けているが、10年の稼ぎは件数と人件費の綱引きで決まる。ROEは9%前後と資本コストの7.75%をわずかに上回るだけで、純現金が重しになっている。
件数は82.5万件で、ここ数年はほぼ横ばいだ。引越の市場は人口とともに細る。サカイはシェアを10年で7ポイント上げて踏みとどまっているが、買収をしても市場の縮小は止まらない。単価は5年連続で最高を更新し、物価並みに通っている。
費用の側では、繁忙期の外注費と待遇改善が重い。26/03期は増収でも減益だった。会社は2029年3月期に売上1,500億円、ROE10%を掲げ、配当性向を55%に上げて自己資本の積み上げを抑える。
10年の中立では、利益は今の1.3倍、ROEは7%台後半にとどまる。確率を加重した価値は、今の時価総額を3割ほど下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、事業は好ましい。個人客を相手に利益率10%を続け、借金がなく、現金が厚い。筆者はこの点を高く評価する。
ただし、ここからの利益は伸びにくい。引越の市場は縮み、必要な人手は増える。会社が自力で伸ばせるのは、買収で件数を足すことと、付帯の販売を増やすことだけだ。オーナー利益(株主に残る実質の取り分)は、増収ほどには増えない。
資本配分には違和感がある。現金を10年かけて300億円までためたが、利益率が高い事業に再投資する先は限られていた。今回の55%の還元と同業買収への転換は前向きだが、買収価格の規律が試される。減損で価値を壊した物流の例は多い。
安全域は薄い。10年の中心シナリオで、ROEは資本コストと同じ程度だ。払う値段が高いと、そのぶんだけ取り戻せない。割安と呼べる水準は今よりかなり下にある。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、引越1件ごとの作業料だ。件数82.5万件に平均単価12.6万円をかけると、売上の約8割強の約1,040億円になる。引越は3月から4月に需要が集中する事業で、その時期に作業員と車両を確保できるかが利益を決める。
残る約2割は、引越客に売る付帯のサービスと子会社の事業だ。リユース(ジェイランド)、電気工事(エレコン・東海サービスセンター)、清掃(クリーン・システム)、梱包資材、運送(関越物流・オヅロジ)、警備などがある。引越の前後に生まれる需要を取り込み、1人の客から取れる額を増やす狙いだ。
顧客は個人が中心で、法人の大型移転や転勤の引越も扱う。年に250万件の引合いがあり、集客の力は強い。会社は事業を引越、付帯、引越外の3層に分け、3年ごとに力を入れる層を上げる計画を立てた。今の中計は第1層の引越を最優先にする。
同業の買収も始めた。2024年にスタイル引越センター(九州)、2026年にファミリー引越センター(埼玉)を買った。創業以来、同業を買わなかった会社が方針を変えたことになる。
優良さと弱いところ
堀は、全国に200超の支社を持つ販売網と、満足度「良」95%という評判だ。個人客の引越は一度きりで、見積もりの段階で安心感が選ばれる理由になる。上位に仕事が集まる傾向は強まっており、売上高シェアは10年で約7ポイント上がった。
利益率は10%と高く、運送の同業の3〜6%を大きく上回る。これは顧客の多くが個人で、1件ごとの単価を会社が決められるためだ。ただ、堀は強いとまでは言えない。引越の作業は他社でも同じ品質を再現でき、個人事業者の参入が続く。ブランドと網の力で、価格競争を避けている段階にとどまる。
資本の使い方には課題がある。業界首位になってからの10年で、現預金は約300億円にふくらんだ。ROEは14%台から10%未満に下がった。創業家の資産管理会社が3割超を持ち、現金を戻す圧力は弱かった。
会社は今回、ROE10%と配当性向55%を明言した。ただし55%は期限つきの方針で、続くかどうかは見ていく必要がある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
引越の市場は4,000億円前後で、人口の動きとともに長く縮んできた。移動者数は1970年代のピークから約4割減った。需要の大半は進学・就職・転勤が決める3月から4月に集中する。
大手はアート引越センター、日本通運、ヤマトホームコンビニエンスなどだ。専業のサカイとアートは利益率が高く、日通やヤマトは低い。アートの引越売上は約800億円で、サカイの約1,000億円に及ばない。大手5社の合計は市場の6割に達し、上位への集中が進んでいる。
構造の変化は2つある。1つは人手不足だ。トラックの2024年問題で労働時間が制限され、他業界との人材獲得競争も強まった。引越の作業員は力仕事で採用が難しい。もう1つは需要の質だ。単身世帯が増え、1件あたりの荷物は小さくなり、多人数ファミリーの引越は減る。
中小や個人の事業者は人手不足と運賃改定の負担で苦しく、再編の余地は残る。サカイが同業を買い始めたのは、この流れを取り込むためだ。引越単価は5年連続で最高を更新し、運賃は上げやすい環境にある。
見通しの分かれ目は、人手の確保と客層の変化にある。作業員を集められる大手ほど繁忙期の需要を取りこぼさず、単価も上げられる。逆に採用で負ければ、規模の利点は外注費に消える。筆者は、業界の勝ち負けは件数より人の確保で決まると見る。
資本政策と M&A
還元は、中計2029の3年間は配当性向55%だ。期間累計の還元は190億円で、機動的な自社株買いも検討する。過去の配当性向は25%前後と低く、現預金がたまった。この方針転換がROEの改善に直結する。
資金の使い道は、3年間の営業キャッシュフロー345億円に対し、投資205億円(成長115億円・更新90億円)と還元190億円だ。成長投資の中心は買収と、システム、車両、人材への投資である。現預金は約300億円あり、会社は250億円を必要水準とみている。
創業家の資産管理会社が約35%を持ち、上位10株主で約7割だ。買収されにくい構造だが、少数株主への還元が後回しになりやすい。買収の価格は公表されておらず、規律を見極める材料が足りない。
新リース会計(2028/03期から貸借対照表に載る)で、支社の賃借と車両のリースが負債として表れる。自己資本比率は今の77%から下がる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
引越は国内で最も強い専業の1社だ。シェアは10年で7ポイント上がり、大手への集中はこれからも進む。個人事業者は人手不足で脱落し、需要は上位に流れ込む。単価は5年連続で最高を更新し、27/03期の1Qも2%台で伸びた。運賃を上げる力は確かにある。
利益率は10%と高く、借金はなく、現預金は300億円ある。会社は今回、配当性向を55%に上げ、自社株買いの検討とROE10%を掲げた。資本効率の改善が始まったという意味は大きい。
同業の買収も本格化した。九州のスタイル、埼玉のファミリーに続き、中計では引越アライアンスを掲げる。小さな引越会社を束ねれば、営業と車両の共有で利益率が上がる。付帯のリユースや電気工事も、1件あたりの売上を押し上げる。
創業家が大株主で、長期の視点を持つ。目先の利益より、満足度の高い引越で次の客を取る経営を貫いてきた。その結果が、運送業では抜けた利益率だ。
市場の縮小も、シェアの高い会社には追い風になりうる。需要が減るほど、品質と網を持つ大手に客が集まり、価格競争からも離れやすい。10年で見れば、利益が物価並みに伸びる余地は十分にある。
慎重な見方
件数は82.5万件で、5年近く伸びていない。1Qも件数は横ばいだった。市場は人口減で縮み、サカイはシェアを上げて何とか維持しているだけだ。買収で件数を足しても、市場全体が細る限り先は限られる。
費用は増える一方だ。26/03期は増収でも減益で、外注費と待遇改善が利益を食った。2024年問題で労働時間は制限され、繁忙期の3月に受けられる件数に天井がある。人材獲得競争は他業界も含めて厳しい。
ROEは9%前後で、資本コストの7.75%をわずかに上回るだけだ。配当性向55%は期限つきで、買収に使う成長投資は115億円と見込まれる。同業の買収は価格が公表されず、減損の危険を外から測れない。
会社が掲げる2029年3月期の売上1,500億円は、今の1.2倍だ。件数が伸びない中で、買収に頼らず届く水準ではない。創業家が3割超を持つことも、規律の面では二面性がある。
過去を見ても、売上が伸びた割に利益は伸びていない。10年で売上は約1.8倍になったが、営業利益率は2020年前後の11%台から10%へ下がった。規模が増えても利益率が上がらないのは、人の確保が収益の天井になっているからだ。
どちらに重みを置いたか
事業の質は高いという強気の見方は正しい。しかし10年先の稼ぎは、件数が縮む市場と人件費の上昇に挟まれ、慎重な見方のほうが強い。中立は利益が今の1.3倍にとどまる姿で、ROEは資本コストと同程度だ。確率は中立を最も厚く置き、やや悲観を楽観側より重くした。結論は、価値が今の時価総額を約3割下回る、やや割高だ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,772 円1,519 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,193 円480 億円)。 今の値に割り戻すと 2,661 円1,072 億円、今との差 −12.9%、 期待の年率 +5.0%(資本コスト 7.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 6,348 円2,556 億円 | 1,666 円671 億円 | +162.4% | +10.1% | 641 円258 億円 |
| やや楽観 | 22% | 4,962 円1,998 億円 | 1,438 円579 億円 | +109.5% | +7.7% | 1,408 円567 億円 |
| 中立 | 37% | 4,232 円1,704 億円 | 1,232 円496 億円 | +78.8% | +6.0% | 2,022 円814 億円 |
| やや悲観 | 22% | 2,263 円911 億円 | 1,058 円426 億円 | +8.7% | +0.8% | 731 円294 億円 |
| 悲観 | 11% | 993 円400 億円 | 497 円200 億円 | −51.2% | −6.9% | 164 円66 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,772 円1,519 億円 | 1,193 円480 億円 | +62.5% | +5.0% | 4,965 円1,999 億円 |
今の株価時価総額 3,055 円1,230 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 同業の買収が積み上がり件数と付帯が伸びる 利益 157 億円 · PER 15.9 倍 · 株価時価総額 6,348 円2,556 億円
筆者が最も良い10年と見るのは、同業を束ねるグループ化が実を結ぶ姿だ。スタイル引越センター、ファミリー引越センターに続く買収が重なり、関東の厚みも増す。件数は人口減を押し返して10年で2割増える。
買収した会社は営業や車両を共有し、1件あたりの粗利が改善する。引越客への付帯販売(リユース・電気工事・清掃)も、中計が掲げる付帯率の上昇で1.5倍の規模に育つ。
ドライバーの確保には賃上げが要るが、運賃の上昇で吸収でき、営業利益率は10%台を保つ。株主還元は配当性向55%を続け、自己資本が膨らまないのでROEは10%に届く。これが会社の目標どおりの10年だ。
(名目の前提)引越の単価は名目で、10年の物価上昇は1.34倍。件数は実質(引越の回数)で置いた。付帯事業は引越客への販売と運送・電気工事などの受託を件数に換算した推定だ。
(自己資本の流れ)今の自己資本992億円に、10年の純利益の合計を足し、還元の合計を引いて流した。利益の合計は約1,200億円、還元は約670億円。
- 引越事業(個人・法人の引越):数量 990(作業件数(千件))× 価格 17(1件あたり単価(万円))→ 売上 1,727 億円・営業利益 181 億円。件数+20%(買収込み)・単価1.38倍・利益率10.5%
- 付帯・子会社事業(リユース・電気工事・運送・清掃・梱包ほか):数量 615(付帯・受託の取扱件数(千件・引越1件を基準にした換算の推定))× 価格 7.00(1件あたり売上(万円))→ 売上 430 億円・営業利益 43 億円。付帯1.5倍・単価1.40倍・利益率10%
倍率:事業の純利益 156 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.5% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)38 億円。全体の PER 15.86 倍、時価総額 2,516 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:引越の市場は縮むため、買収で件数を10年で2割増やすには同業の大型案件を何度も成功させる必要があり、確度は高くない。
やや楽観 22% 件数はシェア拡大で微増、単価が物価並みに通る 利益 131 億円 · PER 14.7 倍 · 株価時価総額 4,962 円1,998 億円
引越の市場は人口とともに細るが、サカイは上位集中の流れに乗ってシェアを上げ続ける。件数は10年で1割増える。個人事業者や中小の引越会社が人手不足で脱落するほど、大手に仕事が集まる構図だ。
単価は物価に近い伸びを保つ。法人の大型移転や単身赴任など利益の出やすい客を増やし、多人数のファミリー引越は無理に取らない。
付帯事業はリユースと電気工事を中心に1.3倍に育つが、全体を引き上げるほどではない。営業利益率は10%を保ち、還元は配当性向5割強で続く。ROEは9%近くまで戻るが、10%には届かない。
(名目の前提)引越の単価は名目で、10年の物価上昇は1.34倍。件数は実質(引越の回数)で置いた。付帯事業は引越客への販売と運送・電気工事などの受託を件数に換算した推定だ。
(自己資本の流れ)今の自己資本992億円に、10年の純利益の合計を足し、還元の合計を引いて流した。利益の合計は約1,090億円、還元は約580億円。
- 引越事業(個人・法人の引越):数量 908(作業件数(千件))× 価格 17(1件あたり単価(万円))→ 売上 1,560 億円・営業利益 156 億円。件数+10%・単価1.36倍・利益率10%
- 付帯・子会社事業(リユース・電気工事・運送・清掃・梱包ほか):数量 533(付帯・受託の取扱件数(千件・引越1件を基準にした換算の推定))× 価格 6.80(1件あたり売上(万円))→ 売上 362 億円・営業利益 34 億円。付帯1.3倍・単価1.36倍・利益率9.5%
倍率:事業の純利益 130 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.0% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)38 億円。全体の PER 14.69 倍、時価総額 1,952 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:近年は単価が5年連続で最高を更新し、1Qも2%台の上昇で、値上げは通っている。件数も10年前よりシェアを7ポイント上げており、このペースが続く想定だ。
中立 37% 件数は横ばい圏、単価は物価並みで利益率がやや低下 利益 111 億円 · PER 14.1 倍 · 株価時価総額 4,232 円1,704 億円
筆者の見立ては、件数がほぼ横ばいで、利益が物価並みには伸びない10年だ。引越の市場は縮み、サカイは買収とシェア拡大でそれを少し上回る。件数は10年で2%増にとどまる。
単価は物価と並んで上がる。ただ、人の確保が最大の費用になる。待遇改善と外注(繁忙期の輸送を委託する費用)が重くなり、引越事業の利益率は今の10%台から9.5%へ緩む。26/03期に減益だった理由もここにある。
付帯事業は買収を含め1.15倍。会社は2029年3月期に売上1,500億円を掲げるが、買収込みでも達成は簡単でないと見る。利益は今の1.3倍で、ROEは7%台後半にとどまる。
(名目の前提)引越の単価は名目で、10年の物価上昇は1.34倍。件数は実質(引越の回数)で置いた。付帯事業は引越客への販売と運送・電気工事などの受託を件数に換算した推定だ。
(自己資本の流れ)今の自己資本992億円に、10年の純利益の合計を足し、還元の合計を引いて流した。利益の合計は約990億円、還元は約500億円。
- 引越事業(個人・法人の引越):数量 842(作業件数(千件))× 価格 17(1件あたり単価(万円))→ 売上 1,425 億円・営業利益 135 億円。件数+2%・単価1.34倍(物価並み)・利益率9.5%
- 付帯・子会社事業(リユース・電気工事・運送・清掃・梱包ほか):数量 471(付帯・受託の取扱件数(千件・引越1件を基準にした換算の推定))× 価格 6.70(1件あたり売上(万円))→ 売上 316 億円・営業利益 28 億円。付帯1.15倍・単価1.34倍・利益率9%
倍率:事業の純利益 110 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.2% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)38 億円。全体の PER 14.06 倍、時価総額 1,588 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10年の中心は人口減と運賃上昇、外注費の増加が拮抗する姿。会社の予想(27/03期は利益1%増)と過去の利益の伸びの緩さにも合う。
やや悲観 22% 人件費と外注費が運賃を食い、件数が細る 利益 84 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 2,263 円911 億円
運賃を上げても人件費と外注費の上昇が追いつかない10年だ。引越件数は市場の縮小に押されて8%減る。シェアを上げるための買収は、統合の手間と営業の重複で思ったほど稼げない。
労働時間の規制が厳しくなり、繁忙期の3月に作業を受けきれない。取りこぼした需要は、アートや個人事業者に流れる。単価は物価より低い伸びにとどまる。
営業利益率は8%台に落ち、全社の営業利益は今と同じ水準で10年が過ぎる。支社と車両は減らせず、固定費が重い。還元は配当性向5割を保つため、利益が伸びない分、自己資本の積み上がりは遅い。
(名目の前提)引越の単価は名目で、10年の物価上昇は1.34倍。件数は実質(引越の回数)で置いた。付帯事業は引越客への販売と運送・電気工事などの受託を件数に換算した推定だ。
(自己資本の流れ)今の自己資本992億円に、10年の純利益の合計を足し、還元の合計を引いて流した。利益の合計は約850億円、還元は約430億円。
- 引越事業(個人・法人の引越):数量 759(作業件数(千件))× 価格 16(1件あたり単価(万円))→ 売上 1,247 億円・営業利益 104 億円。件数−8%・単価1.30倍・利益率8.3%
- 付帯・子会社事業(リユース・電気工事・運送・清掃・梱包ほか):数量 430(付帯・受託の取扱件数(千件・引越1件を基準にした換算の推定))× 価格 6.50(1件あたり売上(万円))→ 売上 280 億円・営業利益 21 億円。付帯1.05倍・単価1.30倍・利益率7.5%
倍率:ROE 5.9%は k 7.5%以下で、PERの上限は1÷k=12.9倍。利益が増えず、買収で薄まる筋書きなので、上限の6.6割の8.5倍に置いた。やや悲観は構造的な負けで置き、上限の7割へ引き上げない。
確率:引越は人手に頼る事業で、10年のうちに賃上げと外注費が運賃改定を上回る年が続く可能性は十分ある。会社も人材獲得競争を主要課題に挙げている。
悲観 11% 市場縮小と人手不足で大手の優位が崩れ、利益がほぼ消える 利益 25 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 993 円400 億円
市場縮小と人手不足が同時に襲う10年だ。引越件数は2割減り、繁忙期に作業を受けきれず、閑散期の遊休が増える。リモート勤務や単身世帯の小型化で、1件あたりの荷物も減る。
運賃は物価の半分ほどしか上げられない。賃上げと外注費は物価並みに上がるため、営業利益率は3%に落ちる。200超の支社と3,000台超の車両、6,000人超の社員は急には減らせず、固定費が利益を食う。
買収した会社ののれんは減損する。還元は削られるが、純現金と持っている土地・車両が下支えになる。優良企業の評価は失われ、資産で測られる会社になる。
(名目の前提)引越の単価は名目で、10年の物価上昇は1.34倍。件数は実質(引越の回数)で置いた。付帯事業は引越客への販売と運送・電気工事などの受託を件数に換算した推定だ。
(自己資本の流れ)今の自己資本992億円に、10年の純利益の合計を足し、還元の合計を引いて流した。減損で自己資本を減らして流した。
- 引越事業(個人・法人の引越):数量 660(作業件数(千件))× 価格 15(1件あたり単価(万円))→ 売上 959 億円・営業利益 29 億円。件数−20%・単価1.15倍・利益率3%
- 付帯・子会社事業(リユース・電気工事・運送・清掃・梱包ほか):数量 369(付帯・受託の取扱件数(千件・引越1件を基準にした換算の推定))× 価格 6.00(1件あたり売上(万円))→ 売上 221 億円・営業利益 9 億円。付帯0.9倍・単価1.20倍・利益率4%
倍率:稼ぐ力は低く、床は純現金+売れる資産の税後 約400億円(floor_assets_oku)。今の自己資本992億円に掛けたPBR 0.4倍。
確率:引越の市場は人口と共に細る一方、労働規制と賃上げで固定費の重い大手が先に傷む筋書き。件数が2割減るほどの崩れは稀だが、大手の利益が消える形として無視できない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
引越事業(個人・法人の引越)
個人・法人の引越の作業。全国200超の支社と3,000台超の車両で、見積もりから運搬までを請け負う。
| 数量作業件数(千件) | 価格1件あたり単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 825 | 13 | 1,043 | 108 |
| 10 年後 中立 | 842 | 17 | 1,425 | 135 |
取り方:26/03期の作業件数82.5万件と単価12.6万円(会社開示)から、売上は約1,043億円。営業利益は開示がなく、全社126億円のうち引越108億円・付帯18億円と推定した(引越は付帯より利益率がやや高いとみた)。
付帯・子会社事業(リユース・電気工事・運送・清掃・梱包ほか)
引越客への付帯販売と、グループ会社の運送・電気工事・清掃・警備・梱包資材などの受託。
| 数量付帯・受託の取扱件数(千件・引越1件を基準にした換算の推定) | 価格1件あたり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 410 | 5.00 | 205 | 18 |
| 10 年後 中立 | 471 | 6.70 | 316 | 28 |
取り方:全社売上1,247億円から引越事業の約1,043億円を引いた約205億円。件数は引越の半分ほどの取扱がある換算とし、1件あたり売上は5万円と推定した。開示がないので、市場規模×シェアでなく売上からの逆算である。
リスクと懸念
繁忙期の人手と外注費
引越は3〜4月に需要が集中し、必要な作業員を確保できなければ売上を取りこぼす。26/03期は外注(輸送の委託)費の増加で減益だった。労働時間の規制が強まれば、この費用はさらに重くなる。
市場の縮小と客層の変化
引越の市場は人口減で縮む。単身世帯が増え、多人数ファミリー向けの大きな引越は減る。1件あたりの単価と件数の両方が圧迫される構造だ。
同業買収の価格と統合
スタイル、ファミリーと同業の買収を始めたが、価格は公表されていない。引越は作業員の質が価値の源泉で、買収後に人が抜ければ価値が落ちる。会社は成長投資に115億円を見込む。
資本効率の改善が続くか
配当性向55%は3年の限定だ。終われば還元は下がり、現金が再びたまる恐れがある。創業家が3割超を持つ構造で、少数株主への配分が後回しになる可能性は残る。
個人事業者と他社の低価格競争
引越には個人事業者の参入が続く。マッチングサイトで比較されやすく、価格競争が激しくなれば、会社が単価を物価並みに上げ続けるのは難しくなる。
新リース会計と固定費
支社の賃借と車両のリースは、2028/03期から負債として貸借対照表に載る。自己資本比率は今の77%から下がる。景気後退で件数が落ちても、支社と車両の固定費は減らない。
事故・品質と評判
引越は個人宅での作業で、破損や事故が評判に直結する。満足度95%という強みは、現場の質の維持で守られている。品質問題が出れば集客に響く。
今後の分かれ目
- 件数が2期続けて前年を上回り、1件あたりの単価も物価並みに上がったら
- やや楽観の確率を上げてよい。シェア拡大が人口減を上回るという筋書きが固まる。
- 同業の買収で、買収価格と件数・利益への貢献が開示され、減損が出なかったら
- 楽観側の確率を引き上げる。買収の規律が確認できたことになる。
- 外注費と人件費が売上の伸びを上回り、営業利益率が9%を割ったら
- やや悲観側に確率を移す。値上げで吸収できない構造が表れた証拠になる。
- 55%の配当性向が3年後も続くか、自社株買いが実行されたら
- 還元の前提を上方修正する。ROEが目標の10%へ近づく根拠になる。
- 件数が2期続けて前年を5%以上下回ったら
- 悲観側の確率を上げる。市場縮小と人手不足で大手の優位が崩れる筋書きに近づく。
- 創業家の資産管理会社が持株を大きく動かしたら
- 資本政策と支配の前提を見直す。売却ならTOBの確率、買い増しなら少数株主への配分を再点検する。
見ておくもの
- 四半期の引越作業件数と引越単価、特に3月期の繁忙期の動き
- 外注費と人件費の売上に対する比率
- 同業の買収案件の価格と、買収後の件数・利益への寄与
- 配当性向55%の継続と自社株買いの有無
- ROEの推移(目標は2029年3月期に10%)
倍率と資本コストの決め方
倍率は式(正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)、RONICはkを超えるROEの1/2が残る値)の上限に対し、中立で8割、楽観で9割、やや楽観で8.5割に置いた。中立はROEがk以下なので上限は1÷k=12.9倍とし、やや悲観は構造的な負けから8.5倍に置いた。今の株価・PERとの比較はしていない。kは基本7.5%にquality +0.25%(循環−0.25・値決め力0・借金0・寿命+0.5)を足した。確率はqualityを理由に動かしていない。悲観は稼ぐ力でなく、純現金と売れる資産の税後 約400億円を床にした。純現金は225億円あるが、会社自身が必要現預金を250億円とみているので、余った現金は50億円だけ分けた。2028/03期から新リース会計で営業利益と負債の形が変わるが、10年後の数字は家賃を営業費用に入れた今の形でそろえた。引越事業と付帯事業の営業利益の配分は開示がなく、推定である。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.3→15.86 倍・やや楽観 PER 11.6→14.69 倍・中立 PER 11.6→14.06 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k=基本7.5%+quality +0.25%=7.75%。引越は景気に強く利益が安定する一方、1本足の事業で市場が細る。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.75% → 7.50%。