結論
小田急電鉄は、新宿から箱根・江の島・多摩へ延びる沿線を丸ごと押さえる私鉄である。稼ぎは鉄道が約 6 割、不動産とスーパー・ホテルなどの生活サービスが残りを分ける。筆者の結論は、今の値段は少し先取りしすぎ、というものだ。一番の理由は借金の重さにある。
鉄道の足場は強い。沿線人口は約 520 万人で横ばい、新宿という日本一のターミナルを持ち、2018 年には混雑の元だった区間を複々線にした。しかも運賃は 2005 年から基本を据え置いてきた。2028 年ごろに値上げを検討しており、これは稼ぎを押し上げる材料になる。
だが利益を決めるのは借金の利息だ。純有利子負債は 6,200 億円と、時価総額と同じ大きさがある。低金利で借りた分が 3% 台で借り換わると、年に 100 億円超の税引き前負担が積み上がる。営業利益が 3 割伸びても、純利益はほとんど増えない計算になる。
新宿西口の再開発(2029 年度竣工、総投資約 1,300 億円)は 2031 年度から実を結び、安定すれば年約 100 億円を足す。ただ、その投資の分だけ借金も増える。筆者は 10 年の平均的な姿でも自己資本利益率が資本コストに届かないと見る。本質価値は今の値段の 7 割弱にとどまる。
バリュー投資の観点から
持ち続けたい会社かと問われれば、筆者は半分だけ頷く。新宿という代わりのない土地と、箱根へ向かう客を運ぶ線路は、10 年後も存在する。この堀は広がらないが、狭まりにくい。
オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益を考えると話が変わる。稼ぎの大半は、ホームドアや車両、新宿の再開発に再投資される。会社の計画では 5 年で 7,700 億円を使う。手元に残る分は、見かけの利益よりかなり小さい。
借金も安全域を削る。純有利子負債は 6,200 億円で、金利が低かった時期に借りた分が 10 年かけて借り換わる。この利払いの増加は、営業利益の伸びをほとんど食いつぶす。
それでも沿線の土地は、帳簿より大きな価値を持つ可能性が高い。ただ賃貸等不動産の時価は確かめられず、数字には入れていない。倍率が 15 倍を超える価格は、この重さを織り込んでいない。安全域は今の値段にはない、と筆者は見る。
何で稼ぐ会社か
小田急の事業は 3 つに分かれる。いちばん大きいのは交通業で、2026 年 3 月期の売上は 1,788 億円、営業利益は 295 億円だった。小田原線・江ノ島線・多摩線の鉄道と、箱根登山鉄道や小田急バス、江ノ電などのバス・タクシーが入る。ロマンスカーで箱根へ向かう観光客も、この事業の大切な客である。
不動産業は売上 848 億円、営業利益 155 億円。新宿・下北沢・海老名などの駅ビルとオフィスを貸し、マンションを分譲する。駅の上と周りの土地を持つ強みで、貸すだけでなく、育てて売る回転型の開発も増やしている。海外や国内の特別目的会社への出資も始めた。
生活サービス業は売上 1,551 億円、営業利益 77 億円。スーパーの小田急 OX、百貨店、新宿のホテルセンチュリーサザンタワー、箱根の旅館・ホテルが並ぶ。売上は大きいが利益率は 5% 前後と薄い。ここは観光客の数とホテルの改装時期に業績が左右される。
会社は 2030 年度に営業利益 800 億円以上、ROE(自己資本利益率)10% 以上を掲げる。内訳の目標は交通 330 億円、不動産 320 億円、生活サービス 150 億円。2026 年度から 5 年で成長投資 4,000 億円と、設備の更新 3,700 億円を使う計画だ。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、沿線そのものにある。新宿と箱根・江の島を一本で結ぶ線路は、今から作ることができない。住宅地としての力も根強く、沿線人口は 2025 年度の 523 万人が山で、その後はゆっくり減る見通しだが、減り方は小さい。
弱みは稼ぎ方の硬さだ。鉄道の運賃は国の認可で決まり、物価が上がっても自由に値上げできない。バリアフリー料金の小幅な加算(2023 年 3 月から)を除けば、2005 年から基本運賃は動いていない。人件費や工事費が上がる分は、いずれ値上げでしか埋まらない。
財務は、見かけより重い。自己資本比率は 36.4% あり、格付けも JCR で AA−、R&I で A+ と高い。しかし純有利子負債は自己資本の 1.2 倍あり、会社は自己資本比率を 30% まで下げて ROE を高める方針でいる。借金を増やして利益率を上げる道は、金利が上がる局面では細くなる。
経営の資本の使い方は、筆者の目には中庸である。政策保有株は純資産の 8.4% まで減らし、さらに 300 億円以上を売るとした。不動産の回転売却は 5 年で約 1,800 億円ある。ただ、新宿西口に 1,300 億円を使うなど、大型の投資が続く。資本を稼ぎに変える速さは、まだこれからだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
関東の大手私鉄は、今が悪くない時期にいる。コロナ明けで定期外(観光・買い物)の客が戻り、鉄道の増収が続く。一方で定期(通勤・通学)はテレワークが定着し、コロナ前の水準には届かない。小田急も 2025 年度の輸送人員は前年比 0.5% 増の見通しにとどまる。
今後 10 年、人の数はほぼ増えない。都心に近い線ほど堅く、郊外の端ほど弱い。小田急の沿線は都心近郊が厚いため、減り方は小さいと見る。むしろ伸びるのは非鉄道で、駅ビル・分譲・ホテルの稼ぎが物価の上昇とともに伸びる構図が続く。
競争は線路の上ではなく、駅の周りで起こる。東京側ではJR 東日本の湘南新宿ラインと東海道線、神奈川側では東急・相鉄・京王・京急が客を分け合う。JR は 2026 年 3 月の値上げで、新宿から小田原までの運賃が小田急の 1.8 倍ほどになった。この差は小田急の追い風になる。
観光では箱根が主戦場だ。2026 年度の観光収入は 831 億円を見込み、うち訪日客は 250 億円だが、ホテルの休業で前年を下回る。会社は 2030 年度に観光 1,200 億円・訪日 450 億円を目標とする。この数字を追う分かれ目は、休業中のホテルが再開する 2027〜2028 年である。
資本政策と M&A
還元は厚くなった。2026 年 5 月に 200 億円の自社株買い(発行済株式の約 4.6%)を決め、配当は 2026 年度も増やし、増配を続ける方針を示した。2026〜2030 年度の還元は累計 1,800 億円を計画する。
自社株買いの原資は、政策保有株の売却と不動産の売却益が中心だ。投資の方は、2026〜2030 年度に成長投資 4,000 億円と設備更新 3,700 億円を使い、不足分は借入で埋める。自己資本比率を今の 36% から 30% まで下げる、とはっきり言っている。
大型の買収や再編を仕掛ける会社ではない。新宿西口の再開発のほか、箱根の旅館・ホテルの建て替えが主な投資先だ。TOB(公開買付け)で狙われる確率は、kabufu の推計で 10 年 14.8% と低い。物言う株主の動きも確認できていない。
筆者が気にするのは、借金を足してでも ROE を上げようとする点だ。金利が 1% 上がるだけで利払いが重くなる局面で、この道は通りにくい。自社株買いを借入で賄うと、持ち分が増えても本質価値は増えない。
還元は方針(2026〜2030年度に累計1,800億円、増配を続ける)に沿い、中立は純利益の合計とほぼ同じ。賃貸不動産と持ち合い株の含み益は還元に入れず、時価総額にも足さない(悲観の床にだけ使う)。
減価償却は物価で増やさない。今ある設備の償却は取得した時の値段のままで、増えるのは更新と新規の分だけだ。償却は今の444億円が10年後に約 638億円。更新投資は建築費の上昇で膨らみ、足りない分は借入になって利払い(3.5%)が増える。会計の利益と現金の動きは同じ向きに動かない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
新宿西口の大変身が、小田急の稼ぎ方を作り替える。2029 年度に 48 階・約 260 メートルの超高層ビルが竣工し、2031 年度から収益が立つ。新宿駅は世界一の乗降客を持つ駅で、そこを手前の駅ビルごと建て替えるのだから、賃料の水準が一段上がる。会社は安定時に約 100 億円を足すと言っている。
運賃も味方につく。国の認可を待って 2028 年ごろに値上げを申請する計画で、2005 年から基本運賃を据え置いてきた分の取り戻しになる。JR 東日本が 2026 年 3 月に大幅に値上げし、新宿〜小田原の運賃は JR が小田急の 1.8 倍ほどになった。小田急の値上げが通りやすい下地は整っている。
箱根では、休業中の箱根ハイランドホテルが 2027 年秋に、センチュリーサザンタワーが 2028 年春に生まれ変わる。訪日客の取り込み目標は 2030 年度に 450 億円で、今の 250 億円から倍近くになる。ホテルの単価が上がれば、薄かった生活サービスの利益率も上がる。
会社の目標は 2030 年度に営業利益 800 億円。今の 527 億円から 5 割伸びる。しかも自己資本比率を 30% へ下げ、1,800 億円を株主に返す。ROE は 10% を目指す。この計画が通れば、資本効率が変わる会社として値付けされ直す。
慎重な見方
稼ぎが伸びても、手元に残る利益は増えない。純有利子負債は 6,200 億円あり、低金利で借りた分が借り換わるたびに金利が 3% 台へ上がる。税引き前で年 100 億円超の負担増は、営業利益の増加分の大半を食う。会社の予想する今期の純利益 383 億円も、昨期の 374 億円とほぼ同じだ。
成長のための投資が、さらに借金を増やす。5 年で成長投資 4,000 億円と設備更新 3,700 億円、そこへ還元 1,800 億円。営業のお金 5,800 億円だけでは足りず、借入で 3,400 億円を補う。新宿西口が稼ぎ出すのは 2031 年度以降で、それまでは金利だけが先に出ていく。
運賃の値上げは約束ではない。国の認可が要り、決めたのは「検討」までだ。人件費と工事費の上昇に追いつくための値上げなので、増えた収入はそのまま費用に消える。ホームドア整備に 7 年で 403 億円を使うことも、利益を押さえる。
生活サービスは、ホテルの休業で 2027〜2028 年に数字が落ちる。さらに沿線人口は 2025 年度を山として減り始める。人が減る中で、投資の元を取れる保証はない。目標の ROE 10% は借金を増やして作る数字で、本物の稼ぐ力ではない。
どちらに重みを置いたか
勝つのは慎重な見方で、確率は悲観側に寄せた。強気の材料(新宿西口・運賃・箱根)は本物だが、実る時期が 2029 年度以降と遅く、その間の金利負担は確実に来る。
同じ領域の会社と物差しをそろえると、小田急は借金の重さが東急より重く、阪急阪神と近い。そのため悲観を 14% と厚めにした。楽観は新宿の大型開発が計画通りに回った時だけと見て、10% にとどめた。総合は約 −35% の割高になった。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,011 円3,424 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 788 円2,670 億円)。 今の値に割り戻すと 988 円3,346 億円、今との差 −43.8%、 期待の年率 +0.2%(資本コスト 8.3%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 1,795 円6,080 億円 | 1,221 円4,137 億円 | +71.5% | +5.5% | 302 円1,022 億円 |
| やや楽観 | 22% | 1,315 円4,456 億円 | 966 円3,273 億円 | +29.7% | +2.6% | 502 円1,700 億円 |
| 中立 | 31% | 1,122 円3,802 億円 | 873 円2,957 億円 | +13.4% | +1.3% | 618 円2,095 億円 |
| やや悲観 | 23% | 524 円1,777 億円 | 604 円2,047 億円 | −35.8% | −4.3% | 260 円879 億円 |
| 悲観 | 14% | 524 円1,777 億円 | 314 円1,063 億円 | −52.3% | −7.1% | 117 円398 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,011 円3,424 億円 | 788 円2,670 億円 | +2.3% | +0.2% | 1,799 円6,094 億円 |
今の株価時価総額 1,759 円5,959 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 10% 新宿西口が稼ぎ頭に育つ 利益 413 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 1,795 円6,080 億円
新宿西口の超高層ビルが 2031 年度から稼ぎ出し、賃料の水準が上がる。開発の出資案件と回転型の売却も続いて、不動産の営業利益は 349 億円まで伸びる。運賃は 2028 年の改定に続いて 2030 年代前半にも上がり、鉄道の営業利益は 425 億円になる。訪日客が箱根と新宿に集まり、ホテルの客室単価が上がって、生活サービスは利益率 8% まで改善する。ROE は 9% 台後半に乗り、自己資本比率を下げる方針も無理なく運べる。会社の目標を上回る 10 年になる。
(名目の前提)運賃は認可で物価に遅れて上がり、10 年で 1.27 倍。賃料・客単価は物価並みの 1.34 倍。人・客の数は実質で置いた。借り換えの利払い増(税引き後 109 億円)と、投資の借入の利息(同 75 億円)を純利益から引いた。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の444億円が10年後に約 638億円(物価で一律に増やすと約 670億円)。営業利益は −32億円。建築費の上昇で膨らむ投資を借入で賄うため、新しい借入の利払い年 96億円(3.5%)を純利益から引いた。
- 交通(鉄道・バス・タクシー):数量 800(年間輸送人員(百万人、鉄道+バス、推定))× 価格 2.95(1 人あたり運賃収入(百円、名目))→ 売上 2,360 億円・営業利益 393 億円。数量 1.00 倍・価格 1.32 倍(名目)・営業利益率16.7%・償却は物価で増やさず按分(10年後 638億円)
- 不動産(賃貸・分譲):数量 168(賃貸・分譲の稼働面積換算(万㎡相当、推定))× 価格 9.89(1 万㎡あたり年間収入(億円、名目))→ 売上 1,662 億円・営業利益 349 億円。数量 1.40 倍・価格 1.40 倍(名目)・営業利益率 21.0%
- 生活サービス(スーパー・百貨店・ホテル・観光):数量 275(店舗・ホテル・観光施設の延べ利用客数(百万人、推定))× 価格 8.69(1 人あたり利用額(百円、名目))→ 売上 2,389 億円・営業利益 191 億円。数量 1.10 倍・価格 1.40 倍(名目)・営業利益率 8.0%
倍率:事業の純利益 413 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.1% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 5,006 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新宿の開発が計画どおりに動き、運賃も値上げが通り、箱根の観光も伸びる必要がある。条件がそろう確率は 1 割。
やや楽観 22% 会社の目標どおりに進む 利益 279 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 1,315 円4,456 億円
鉄道は人員が 2% 減るが、運賃の改定で 1.29 倍に上がり、営業利益は 373 億円。不動産は新宿西口が 2031 年度から稼働し、回転型の開発も増えて、営業利益は 274 億円。生活サービスは箱根と新宿のホテルが戻り、訪日客の取り込みも進んで 153 億円まで伸びる。合計の営業利益は約 800 億円で、会社が 2030 年度に掲げる水準を 2036 年度に名目でようやく満たす。自己資本比率は 30% 台前半まで下がるが、ROE は 7% 台後半になる。
(名目の前提)運賃は認可で物価に遅れて上がり、10 年で 1.27 倍。賃料・客単価は物価並みの 1.34 倍。人・客の数は実質で置いた。借り換えの利払い増(税引き後 109 億円)と、投資の借入の利息(同 75 億円)を純利益から引いた。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の444億円が10年後に約 638億円(物価で一律に増やすと約 691億円)。営業利益は −53億円。建築費の上昇で膨らむ投資を借入で賄うため、新しい借入の利払い年 100億円(3.5%)を純利益から引いた。
- 交通(鉄道・バス・タクシー):数量 784(年間輸送人員(百万人、鉄道+バス、推定))× 価格 2.88(1 人あたり運賃収入(百円、名目))→ 売上 2,260 億円・営業利益 320 億円。数量 0.98 倍・価格 1.29 倍(名目)・営業利益率14.2%・償却は物価で増やさず按分(10年後 638億円)
- 不動産(賃貸・分譲):数量 152(賃貸・分譲の稼働面積換算(万㎡相当、推定))× 価格 9.47(1 万㎡あたり年間収入(億円、名目))→ 売上 1,443 億円・営業利益 274 億円。数量 1.27 倍・価格 1.34 倍(名目)・営業利益率 19.0%
- 生活サービス(スーパー・百貨店・ホテル・観光):数量 263(店舗・ホテル・観光施設の延べ利用客数(百万人、推定))× 価格 8.31(1 人あたり利用額(百円、名目))→ 売上 2,182 億円・営業利益 153 億円。数量 1.05 倍・価格 1.34 倍(名目)・営業利益率 7.0%
倍率:事業の純利益 279 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.6% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 3,382 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の掲げる 2030 年度の営業利益 800 億円を、10 年かけて名目で達成する姿。実現の確度は中程度。
中立 31% 中立:名目で伸びるが利払いが重い 利益 225 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 1,122 円3,802 億円
稼ぎは物価並みに伸びる。鉄道は人員が 3% 減り、運賃が 1.27 倍に上がって営業利益は 352 億円。不動産は新宿西口が 2031 年度から稼働するものの、稼働が遅れたり賃料が計画を下回ったりして、営業利益は 252 億円。生活サービスは 127 億円まで戻る。合計の営業利益は 731 億円と今の 4 割増しだが、借り換えと投資の借入で利息が増え、純利益は 335 億円と今の 374 億円を下回る。ROE は 6.8% 前後で、資本コストをわずかに上回る程度にとどまる。
(名目の前提)運賃は認可で物価に遅れて上がり、10 年で 1.27 倍。賃料・客単価は物価並みの 1.34 倍。人・客の数は実質で置いた。借り換えの利払い増(税引き後 109 億円)と、投資の借入の利息(同 75 億円)を純利益から引いた。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の444億円が10年後に約 638億円(物価で一律に増やすと約 694億円)。営業利益は −56億円。建築費の上昇で膨らむ投資を借入で賄うため、新しい借入の利払い年 103億円(3.5%)を純利益から引いた。
- 交通(鉄道・バス・タクシー):数量 776(年間輸送人員(百万人、鉄道+バス、推定))× 価格 2.84(1 人あたり運賃収入(百円、名目))→ 売上 2,203 億円・営業利益 296 億円。数量 0.97 倍・価格 1.27 倍(名目)・営業利益率13.4%・償却は物価で増やさず按分(10年後 638億円)
- 不動産(賃貸・分譲):数量 144(賃貸・分譲の稼働面積換算(万㎡相当、推定))× 価格 9.47(1 万㎡あたり年間収入(億円、名目))→ 売上 1,364 億円・営業利益 252 億円。数量 1.20 倍・価格 1.34 倍(名目)・営業利益率 18.5%
- 生活サービス(スーパー・百貨店・ホテル・観光):数量 255(店舗・ホテル・観光施設の延べ利用客数(百万人、推定))× 価格 8.31(1 人あたり利用額(百円、名目))→ 売上 2,120 億円・営業利益 127 億円。数量 1.02 倍・価格 1.34 倍(名目)・営業利益率 6.0%
倍率:事業の純利益 225 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.6% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 2,727 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の計画に、実行の遅れ・金利負担・人口減を織り込んだ中心の姿。最も重みを置く。
やや悲観 23% 人口減と金利が先に効く 利益 89 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 524 円1,777 億円
沿線人口の減少が早まり、鉄道の人員は 6% 減る。運賃は物価を下回る 1.22 倍までしか認められない。新宿西口は完成が遅れ、オフィス需要の弱さで賃料が計画に届かない。不動産の営業利益は 177 億円にとどまる。ホテルは客室単価が伸びず、生活サービスは 87 億円。借金の借り換えが終わって利息負担が積み上がり、純利益は 214 億円まで落ちる。配当は守るが、自社株買いは止まる。
(名目の前提)運賃は認可で物価に遅れて上がり、10 年で 1.27 倍。賃料・客単価は物価並みの 1.34 倍。人・客の数は実質で置いた。借り換えの利払い増(税引き後 109 億円)と、投資の借入の利息(同 75 億円)を純利益から引いた。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の444億円が10年後に約 638億円(物価で一律に増やすと約 719億円)。営業利益は −81億円。建築費の上昇で膨らむ投資を借入で賄うため、新しい借入の利払い年 100億円(3.5%)を純利益から引いた。
- 交通(鉄道・バス・タクシー):数量 752(年間輸送人員(百万人、鉄道+バス、推定))× 価格 2.73(1 人あたり運賃収入(百円、名目))→ 売上 2,050 億円・営業利益 216 億円。数量 0.94 倍・価格 1.22 倍(名目)・営業利益率10.5%・償却は物価で増やさず按分(10年後 638億円)
- 不動産(賃貸・分譲):数量 126(賃貸・分譲の稼働面積換算(万㎡相当、推定))× 価格 9.05(1 万㎡あたり年間収入(億円、名目))→ 売上 1,140 億円・営業利益 177 億円。数量 1.05 倍・価格 1.28 倍(名目)・営業利益率 15.5%
- 生活サービス(スーパー・百貨店・ホテル・観光):数量 243(店舗・ホテル・観光施設の延べ利用客数(百万人、推定))× 価格 7.94(1 人あたり利用額(百円、名目))→ 売上 1,926 億円・営業利益 87 億円。数量 0.97 倍・価格 1.28 倍(名目)・営業利益率 4.5%
倍率:稼ぐ力(事業の純利益 89 ÷ k 8.25% = 1,079 億円)より資産の床のほうが大きいので、売れる資産の税後 1,780 億円(floor_assets_oku)を時価総額にそのまま置いた。今の自己資本 5,076 億円に対する PBR は 0.35 倍。償却を計算どおりに置き直して利益が細り、悲観と同じ床で値が付く。
確率:沿線人口の減少が早まり、新宿の開発が遅れる姿。借り換えの金利負担が長く続く点を厚く見て、確率を高めた。
悲観 14% 沿線の力が構造的に落ちる 利益 −164 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 524 円1,777 億円
沿線の郊外で人口が急に減り、鉄道の人員は 12% 減る。運賃は認可が下りず、物価の半分ほどしか上がらない。新宿西口は計画が大きく遅れ、テレワークの定着でオフィスの賃料も下がる。不動産と鉄道の営業利益は半分に落ち、ホテルは固定費だけが残る。純利益はほぼゼロになり、不動産の評価損も出る。自己資本比率を下げる計画は見直され、配当は減るが、還元の合計が純利益を上回る分は不動産と政策保有株の売却で賄う。優良な私鉄ではなく、重い借金を背負った低成長の会社として値付けされる。
(名目の前提)運賃は認可で物価に遅れて上がり、10 年で 1.27 倍。賃料・客単価は物価並みの 1.34 倍。人・客の数は実質で置いた。借り換えの利払い増(税引き後 109 億円)と、投資の借入の利息(同 75 億円)を純利益から引いた。減価償却は物価で増やさず、今ある設備は取得原価のまま、更新と新規の投資だけ新しい値段で35年に按分した。償却は今の444億円が10年後に約 638億円(物価で一律に増やすと約 766億円)。営業利益は −128億円。建築費の上昇で膨らむ投資を借入で賄うため、新しい借入の利払い年 140億円(3.5%)を純利益から引いた。
- 交通(鉄道・バス・タクシー):数量 704(年間輸送人員(百万人、鉄道+バス、推定))× 価格 2.57(1 人あたり運賃収入(百円、名目))→ 売上 1,809 億円・営業利益 53 億円。数量 0.88 倍・価格 1.15 倍(名目)・営業利益率2.9%・償却は物価で増やさず按分(10年後 638億円)
- 不動産(賃貸・分譲):数量 114(賃貸・分譲の稼働面積換算(万㎡相当、推定))× 価格 8.13(1 万㎡あたり年間収入(億円、名目))→ 売上 926 億円・営業利益 93 億円。数量 0.95 倍・価格 1.15 倍(名目)・営業利益率 10.0%
- 生活サービス(スーパー・百貨店・ホテル・観光):数量 213(店舗・ホテル・観光施設の延べ利用客数(百万人、推定))× 価格 7.13(1 人あたり利用額(百円、名目))→ 売上 1,516 億円・営業利益 15 億円。数量 0.85 倍・価格 1.15 倍(名目)・営業利益率 1.0%
倍率:稼ぐ力(事業の純利益 -164 ÷ k 8.25% = -1,988 億円)より資産の床のほうが大きいので、売れる資産の税後 1,780 億円(floor_assets_oku)を時価総額にそのまま置いた。今の自己資本 5,076 億円に対する PBR は 0.35 倍。構造的に稼ぐ力を失い、借金の利払いで利益がほぼ消える筋書き。純有利子負債 6,224 億円を今の値で足した EV ÷ 営業利益は 49.7 倍と 20 倍を超えるが、利益が低い年で測るため参考にとどめ、価値は稼ぐ力と資産で見ている。
確率:借金の重さと設備更新の負担が重なり、郊外が先に細る。優良さが落ちる姿は 10 年のスパンでは無視できない。確率を厚くした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
交通(鉄道・バス・タクシー)
小田急線(小田原線・江ノ島線・多摩線)の鉄道と、箱根登山鉄道・江ノ電、小田急バスなどの乗合バス・タクシー。
| 数量年間輸送人員(百万人、鉄道+バス、推定) | 価格1 人あたり運賃収入(百円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 800 | 2.24 | 1,788 | 295 |
| 10 年後 中立 | 776 | 2.84 | 2,203 | 296 |
取り方:交通業の売上 1,788 億円を、鉄道・バス合計の年間輸送人員 8 億人(推定。鉄道だけで約 7 億人台、バス・箱根登山・江ノ電などを加えた概算)で割った 1 人あたり約 2.2(百円単位)。数量は人口と観光客で動き、価格は運賃の認可で物価に遅れる。小田急の基本運賃は 2005 年から動かず、2028 年ごろの値上げを検討中。
不動産(賃貸・分譲)
新宿・下北沢・海老名などの駅ビル・オフィスの賃貸と、マンション分譲、回転型開発。新宿西口地区開発を含む。
| 数量賃貸・分譲の稼働面積換算(万㎡相当、推定) | 価格1 万㎡あたり年間収入(億円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 120 | 7.07 | 848 | 155 |
| 10 年後 中立 | 144 | 9.47 | 1,364 | 252 |
取り方:不動産業の売上 848 億円を、賃貸面積と分譲の販売面積を合わせた稼働面積換算 120 万㎡相当(推定)で割った。開示は面積を出さないため、賃貸は賃料、分譲は引渡し額から面積換算した概算。新宿西口は 2029 年度竣工で、面積が増えるのは 2030 年度から。
生活サービス(スーパー・百貨店・ホテル・観光)
小田急 OX などのスーパー、百貨店、新宿のホテルセンチュリーサザンタワー、箱根の旅館・ホテルなど。
| 数量店舗・ホテル・観光施設の延べ利用客数(百万人、推定) | 価格1 人あたり利用額(百円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 250 | 6.20 | 1,551 | 77 |
| 10 年後 中立 | 255 | 8.31 | 2,120 | 127 |
取り方:生活サービス業の売上 1,551 億円を、スーパー・百貨店の来店客と、ホテル・観光施設の利用者の延べ人数 2.5 億人(推定)で割った 1 人あたり約 6.2(百円単位)。スーパー中心で客単価は低い。ホテルの休業(2026 年 10 月〜2028 年春)で数量が一時的に減る。
リスクと懸念
借り換えで利払いが膨らむ
純有利子負債は 6,200 億円と時価総額に並ぶ。低金利で借りた分が 3% 台で借り換わると、年 100 億円超の税引き前負担が積み上がる。営業利益が伸びても、純利益が追いつかない形になる。会社は固定金利を約 75% 持つが、時間が経てば入れ替わる。
運賃の認可が遅れる
鉄道の運賃は国の認可で決まる。2028 年ごろの値上げは「検討」にとどまり、国土交通省への申請もまだだ。人件費やホームドア整備(2026〜2032 年度で約 403 億円)の費用が先に出て、収入が後から追う形になる。認可が遅れたり、幅が小さくなったりすると、鉄道の利益率が下がる。
新宿西口の遅れと費用の膨張
総投資約 1,300 億円、2029 年度竣工、2031 年度の利益貢献という計画の長丁場だ。建設費・人件費の上昇や、オフィス需要の弱さで、稼ぎが想定を下回る可能性がある。完成の遅れは、先に出る利息が長引くことを意味する。
ホテルの休業が重なる
センチュリーサザンタワーは 2026 年 10 月から 2028 年春まで客室を止め、箱根ハイランドホテルも 2027 年秋まで休業する。再開が遅れたり、改装後の客室単価が伸びなかったりすると、生活サービスの利益が薄いまま残る。
沿線人口と通勤需要の減少
小田急線の沿線人口は 2025 年度の 523 万人が山で、その後は減る推計だ。テレワークの定着で定期の客もコロナ前に戻らない。都心に近い線は堅いが、郊外の端は先に細る。鉄道の利益は人員の微減を運賃でどこまで補えるかにかかる。
訪日客と箱根への依存
会社は観光を 2030 年度に 1,200 億円(うち訪日 450 億円)へ伸ばす計画だが、2026 年度は訪日 250 億円で前年を下回る見通しだ。箱根は火山活動や天候の影響を受けやすく、ロマンスカーの需要も観光客の動きに左右される。
自己資本比率を下げる経営の方針
会社は ROE を上げるため、自己資本比率を 36% から 30% へ下げる。借入が増えると、金利が上がる局面で財務の余裕が減る。格付けは JCR で AA−、R&I で A+ と高いが、方針を実行する中で下がる可能性がある。
今後の分かれ目
- 運賃の値上げが 2028 年度に認可され、上げ幅が 10% 前後になったとき
- 鉄道の利益率が一段上がるので、やや楽観・楽観の確率を上げてよい。
- 新宿西口の竣工が 2029 年度から遅れる、または総投資が 1,300 億円を大きく超えたとき
- 稼ぎが遅れるので、やや悲観の確率を上げ、10 年の中立の営業利益を下げて見る。
- 長期金利が 3% を超えて上がり、借り換えの金利が 4% 台に入ったとき
- 利払いが想定を上回るので、純利益の見通しを下げ、悲観側に確率を寄せる。
- 箱根の訪日客が 450 億円の目標へ向けて 2027〜2028 年に急回復したとき
- 生活サービスの利益率が上がる余地が出る。やや楽観の営業利益を引き上げてよい。
- 自社株買いを借入で賄い、純有利子負債が自己資本の 1.5 倍を超えたとき
- 資本の使い方が不安定と見て、悲観の確率を厚くする。
- 他社が小田急の沿線で再開発・直通運転を強め、新宿の乗り換え客を奪い始めたとき
- 鉄道の数量を下げて見る。10 年の中立・やや悲観の営業利益を下方に直す。
見ておくもの
- 運賃改定の申請・認可の時期と上げ幅(2028 年ごろ)
- 新宿西口地区開発の進捗(竣工 2029 年度・開業 2030 年度)と総投資額
- 純有利子負債と、借り換えのたびの金利水準(支払利息の推移)
- 箱根ハイランドホテル(2027 年秋)・センチュリーサザンタワー(2028 年春)の再開と客室単価
- 鉄道の輸送人員(定期・定期外の別)と沿線人口の推計
倍率と資本コストの決め方
営業利益は 3 つの事業の数量 × 価格で積み、純利益は営業利益から借り換えの利払い増(税引き後 10 年で 109 億円)と投資の借入の利息を引いて出した。今の PER 15.7 倍・PBR 1.16 倍には寄せていない。ROE が k 8.25% を下回る中立・やや楽観は PER の上限が 1÷k = 12.1 倍で、借金の重さを割り引いて上限の 9.7〜9.9 割、楽観は 9.4 割に置いた。k は基本 7.5% に quality +0.75%(循環 0・値決め力 −0.25・借金 +1.0・寿命 0)で、確率は quality を理由に動かしていない。やや悲観は稼ぐ力(純利益÷k)の 8.5 割、悲観は売れる資産(推定 約 1,780 億円)を床とし、やや悲観の 8.5 割に置いた。含み益は悲観の床にだけ使い、中立〜楽観には賃料・売却益が純利益に入っているので足していない。同じ領域の東急や阪急阪神と並べ、小田急は借金の重さを倍率に映した。新リース会計(2028 年 3 月期から BS に載る)で営業利益とリース負債の形が変わるが、小田急はリースの比重が小さく、10 年後の数字は今と同じ形で置いた。結果の割高(約 −31%)は計算どおり。含み益は悲観の床にだけ使い、中立〜楽観には賃料・売却益が純利益に入っているので足していない。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +0.75%(循環 0・値決め力 −0.25・借金 +1.0・寿命 0)= 8.25%。東急より寿命の下げがない分だけ上に置いた。新宿西口の投資や借入の重さは、利払い増を純利益に入れ、筋書きと確率で表した。