結論
ヤマトは、宅急便で国内の小口荷物の約 4 割を運ぶ最大手だ。筆者の結論は、事業の土台は確かで、今の値段は再建が順調に進んでもやや割高、というものだ。ただし割安とは言えず、安全域もない。
稼ぐ力が弱いのが問題だ。売上は 1.9 兆円あるのに、営業利益は 283 億円しかない。利益率は 1.5% だ。2015 年は 4.9% あった。人件費と拠点の維持費が重く、荷物が少し減るだけで利益が飛ぶ。
希望もある。2024 年に運賃が見直され、荷主に値上げを通しやすくなった。会社は 3 年計画の最終年に営業利益 600 億円を掲げたが、今期予想は 420 億円に下がった。計画と実績のずれが続いている点を、筆者は気にしている。
中立の筋書きでは、10 年後の営業利益は 950 億円前後。利益率は 3.5% で、昔の水準に戻るだけだ。ROE は資本コストをわずかに上回る程度で、倍率は伸びない。利益が 3 倍に戻っても、資本コスト 8.25% で割り引くと、今の値段にはやや届かない。
現金は厚い。純現金は時価総額の 17% あり、倒産の心配はない。この厚みが悲観の床になり、下は限られる。一方で上も、再建が計画どおりでも資本コストを少し超える程度だ。期待の年率は資本コストを下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、ヤマトは「良い事業を、まだ良い値段で持てるか」が問われる会社だ。宅急便の網とブランドは本物の資産で、10 年後も存在するだろう。ただ、それが株主のお金をふやしてきたかと言えば、そうではない。ROE は資本コストの半分にも届いていない。
オーナー利益、つまり再投資を引いて株主の手に残る利益は、今の純利益 137 億円より小さい。拠点・車両・ITへの投資が毎年かさみ、利益の大半はそこへ消える。値上げがきいて営業利益が 950 億円まで戻っても、同じ規模の再投資が要る。株主への取り分は、思うほど増えない。
経営の資本配分は評価しにくい。本社ビルの売却で現金を作ったのは堅実だが、その資金で自社株を買っておらず、成長投資の成果もまだ見えない。計画の未達が続いている点は、割り引いて見るしかない。
安全域は薄い。中立の 10 年の期待は年 +4.7% で資本コストの 8.5% を下回り、割安の余白はない。悲観でも純現金と不動産が床になるので、大きく崩れはしない。値段が下がって初めて、持ち続けたい会社になる。
わかる事業で、倒産の心配もない。ただし、この値段では、期待どおりに進んでも資本コストに届かない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は宅急便だ。個人の荷物に加え、通販会社など法人の荷物を毎日運ぶ。宅配便の取扱個数は年約 20 億個で、大手 3 社(ヤマト・佐川・日本郵便)の個数の約 4 割を占める。1 個ずつの単価は千円に届かない水準で、これを全国の拠点と車両のネットワークで運ぶ。
この事業は固定費のかたまりだ。拠点、仕分けの設備、ドライバー、幹線のトラックは、荷物が減っても同じようにかかる。だから荷物が増えれば利益が急に増え、減れば急に減る。会社の利益が 2021 年の 921 億円から 283 億円まで落ちたのも、この仕組みによる。
もう一つの柱が法人向けの物流(コントラクト・ロジスティクス)だ。企業の倉庫運営や在庫管理から輸送までをまとめて請け負う。売上は約 1,700 億円、利益率は 4% 台で、宅急便より安定している。会社はここを育てて、荷物の量だけに左右されない形にしたい考えだ。
国際事業は小さい。越境 EC の荷物や航空・海上の取次ぎで、売上は約 1,100 億円だ。利益率は 9% ほどで高めだが、全体を動かす大きさには届かない。
最近の動きで目を引くのは、日本郵便との協業だ。小さな荷物はクロネコゆうパケットとして日本郵便の網に載せ替えている。コストは下がるが、日数が伸びて顧客から不満が出た。2024 年末には委託計画の見直しを申し入れている。ここが計画どおりに動くかが、利益率改善の分かれ目の一つになる。
優良さと弱いところ
優良さの核は、全国どこでも翌日に届く網と、ブランドの信頼だ。宅急便の名は家庭に深く根づいている。この網を新しく作るには巨額の投資と時間がかかり、新規参入は難しい。ここが堀、つまり他社がまねできない強みだ。
ただ、堀の使い方が下手だった。筆者は、過去の宅配は量を追いすぎたと見ている。2017 年に荷物の急増で現場が疲弊し、運賃の見直しと総量の抑制に動いた。その後も法人の大口荷物は低い単価で受けていた時期が長く、価格を決める力が十分に使われなかった。
最近は改善が見える。2024 年 10 月以降、法人顧客の 7 割超が改定運賃になった。2025 年 10 月には届出運賃を平均 3.5% 上げている。代わりに、低採算の荷物を絞ったので、数量は減った。量より質への転換が、数字に出始めた段階だ。
資本効率は低い。ROE は 2.4% で、資本コストの 7.5% を大きく下回る。10 年前は 6〜7% 台だった。自己資本比率は 45% と手堅いが、資本を厚く積んでも稼ぎが細ければ株主の取り分は増えない。
計画の読みの甘さも弱点だ。中計の最終年の目標は 600 億円に引き上げたが、予想は 420 億円まで下がった。前期にも 400 億円の予想を 280 億円へ下げている。経営の数字への信頼は、まだ戻っていない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
宅配市場は、数量は伸びが細り、単価が上がる局面に入った。2024 年度の宅配便の取扱個数は約 50 億個で、10 年連続で過去最多を更新したが、伸びは 0.5% にとどまる。人口は減る。それでも通販が個数を支える。
単価の見通しは明るい。2024 年問題(ドライバーの時間外労働の上限)で運転手が足りず、2025 年度の不足は約 21 万人に達する。運べる量に限りがあるので、荷主は高い運賃を受け入れざるをえない。2024 年 3 月の標準的な運賃の改定で、運賃は約 8% 上がった。
競争の形も変わった。宅配大手は 3 社で市場の 95% を占める。ヤマトは今、小さな荷物(ネコポスなど)を日本郵便の網に移し、佐川は法人の荷物で伸びている。ヤマトの宅急便系の個数は 2025 年度に前年を割り、安い小物便だけが伸びた。通販大手の自前配送も広がる。
業界の再編も進んでいる。SBS ホールディングスがブリヂストンの物流子会社を買い、AZ-COM 丸和ホールディングスが C&F ロジホールディングスに同意なきTOB(結局不成立)を仕掛けた。物流会社の買収は活発で、資産が軽く、買いやすい。
10 年の見通しは中立だ。数量は人口減で 1 割ほど減りかねないが、通販の伸びと小物便が下支えする。値段は物価並みか、それより少し上。自動運転や配車の自動化で人手不足が和らげば、値上げの勢いは落ちる。そこが読みどころだ。
資本政策と M&A
資本政策は守りの色が濃い。配当性向 40% 以上を掲げ、保有不動産と政策保有株の縮減を進める。2025 年 3 月には本社ビルを含む 4 物件を売却して 242 億円の売却益を出し、そのままリースバックした。本社ビルは 20 年の賃借だ。現金は厚くなったが、家賃という固定の約束も背負った。
自社株買いは「キャッシュ次第で追加を検討」という位置づけで、積極的ではない。純現金が時価総額の 17% ある一方、ROE は低い。余った資金は、成長に回せないなら株主へ返す方が価値を生む。筆者は、もっと大胆な還元を求めたい。
M&A は法人物流やグローバルの補強が中心で、NIPPON EXPRESS のような大型の海外買収は避けている。この慎重さは、減損で株主の価値を壊した例を見る限り悪くない。買う側としての動きは今後も小さいと見る。
買われる側のリスクは低くない。時価総額は約 6,600 億円で、純現金が 1,100 億円ある。収益力に比べて資産が厚いので、再編の標的になる条件は整っている。ただし宅急便の網は他社が買って得になる事業ではなく、実際の TOB は考えにくい。個人株主が約 35% と多いことも、買収の壁になる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
2024 年問題で、運賃は構造的に上がる局面に入った。荷主は運べなくなる不安を抱え、値上げを受け入れ始めている。法人顧客の 7 割超が改定運賃になり、価格適正化だけで 1 四半期に約 80 億円の増益効果が出た。これは一過性ではなく、年を追って積み上がる。
宅急便の網は代えが利かない。通販会社も、全国に翌日届く品質と信頼を他社には求めにくい。低採算の荷物を絞った分、数量は減ったが、1 個あたりの利益は確実に上がっている。
コスト側でも手が打たれている。配車の最適化は 2026 年 3 月に本格稼働し、車両削減の効果はこれからだ。幹線輸送のリレー方式、バックオフィスの改革、拠点の見直しも並ぶ。売上が 2% 伸びるだけで、固定費が重い分、利益は 3 割増える。
財務は強い。純現金が 1,100 億円あり、本社ビルの売却で資金も作った。不動産と政策保有株を減らし続ければ、自社株買いの余力も出る。ROE が 10% に届き、10 年後に営業利益が 1,000 億円を超えれば、利益率 4% 台でも時価総額は今の 2 倍になる。
さらに、物流会社の再編が進む今、ヤマトの網は他社が欲しがる資産だ。買収提案が出ても不思議ではなく、そこは上振れ要因になる。
慎重な見方
計画を達成できない会社だ。3 年計画の最終年の営業利益は、当初の目標から 600 億円へ引き上げたのに、今期予想は 420 億円まで下がった。前期にも 400 億円の予想を 280 億円に下げている。数字を作る力が弱い会社に、高い倍率は払えない。
数量が戻らない点も重い。宅急便系は前年を割り、伸びているのは日本郵便の網に載せた安い小物便だけだ。大口の法人は、値上げを嫌って荷物を他社に移している。値上げが利益に変わる前に、荷物が逃げている可能性がある。
稼ぐ力は 10 年前より弱くなった。営業利益は 2015 年の 690 億円から 283 億円へ減り、利益率は 4.9% から 1.5% になった。この間、運賃は何度も上げている。値上げの成果が人件費の上昇に食われ続けてきた事実を、再建の物語は避けている。
固定費が重いので、不況が来れば赤字になる。本社ビルは 20 年借りたままで、家賃は荷物が減っても減らない。自動運転や通販大手の自前配送が進めば、宅急便の網の価値自体が下がる。
そして、今の値段は ROE 2% の会社に 40 倍以上の PER をつけている。利益が 3 倍に戻ってやっと釣り合う水準で、失敗の余地がない。
どちらに重みを置いたか
運賃の上昇は本物だが、計画を外し続ける実績と固定費の重さを考えると、慎重な見方の方が強い。確率は悲観側に寄せ、悲観とやや悲観で 37% に置いた。上振れは運賃の改定が定着し、拠点の再編で利益率が戻る場合に限られる。
ただし純現金と不動産が悲観の床になる。大きく崩れない代わりに、大きく伸びる見込みも薄い。その差し引きで、総合は約 −24% のやや割高になった。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,644 円8,374 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 902 円2,858 億円)。 今の値に割り戻すと 1,804 円5,713 億円、今との差 −12.8%、 期待の年率 +5.5%(資本コスト 8.3%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 5,823 円1.84 兆円 | 1,579 円5,000 億円 | +257.7% | +13.6% | 518 円1,641 億円 |
| やや楽観 | 20% | 4,217 円1.34 兆円 | 1,200 円3,800 億円 | +161.7% | +10.1% | 1,083 円3,431 億円 |
| 中立 | 36% | 2,832 円8,968 億円 | 821 円2,600 億円 | +76.5% | +5.8% | 1,315 円4,165 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,265 円4,006 億円 | 726 円2,300 億円 | −3.8% | −0.4% | 478 円1,514 億円 |
| 悲観 | 13% | 541 円1,713 億円 | 632 円2,000 億円 | −43.3% | −5.5% | 152 円483 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,644 円8,374 億円 | 902 円2,858 億円 | +71.4% | +5.5% | 3,547 円1.12 兆円 |
今の株価時価総額 2,070 円6,554 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 7% 運賃の力が根づき、網が稼ぐ形に変わる 利益 1,108 億円 · PER 16.2 倍 · 株価時価総額 5,823 円1.84 兆円
10 年後、2024 年問題を機に始まった運賃の上昇が定着する。荷主は値上げを受け入れ、法人の荷物も適正な単価に収まる。ヤマトは低採算の荷物を捨て、宅急便の単価を物価より速く上げ続ける。配車の自動化と拠点の再編で、固定費の伸びを抑える。
日本郵便との協業は、小物便の費用を下げつつ品質も保つ形に収まる。3PL(企業の物流の丸ごと受託)と国際は、数量が 2 倍近くに育つ。会社全体の営業利益は 1,600 億円を超え、利益率は 5% に届く。ROE は 16% まで上がり、余った資金は自社株買いで返す。ここまで行けば、優良な物流会社として評価される。
- 国内の宅配・法人輸送(宅急便・法人・その他込み):数量 21.0(宅配便の取扱個数(億個。宅急便・コンパクト・EAZY の 3 商品))× 価格 1,149(1 個あたりの売上(円。法人・小物便・その他の売上を個数で割った値))→ 売上 24,132 億円・営業利益 1,038 億円。個数 +5%・単価 1.45 倍・利益率 4.3%
- グローバル(国際宅急便・越境 EC・フォワーディング):数量 41.8(取扱貨物の量(万トン相当。推定))× 価格 67(1 トンあたりの売上(万円。サービス込み))→ 売上 2,801 億円・営業利益 308 億円。量 1.9 倍・単価 1.34 倍・利益率 11%
- コントラクト・ロジスティクス(3PL・法人向け物流):数量 315(運営拠点の延べ床面積(万㎡。推定))× 価格 15(1 ㎡あたりの年間売上(万円。輸送・作業込み))→ 売上 4,784 億円・営業利益 263 億円。面積 2.1 倍・単価 1.34 倍・利益率 5.5%
倍率:事業の純利益 1,100 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 17.4% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)600 億円。全体の PER 16.2 倍、時価総額 18,414 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:運賃の構造的な上昇と配車・拠点の効率化が同時にうまくいく必要があり、計画を外し続けてきた実績を考えて低めに置く。
やや楽観 20% 値上げが定着し、利益率は 4% 台まで戻る 利益 855 億円 · PER 15.0 倍 · 株価時価総額 4,217 円1.34 兆円
2024 年問題による運賃上昇が続き、宅急便の単価は物価を少し上回って 1.42 倍になる。法人の低採算荷物を絞った影響は 3 年で吸収し、数量は横ばいに戻る。配車の最適化と車両削減が効き、国内の利益率は 3.6% になる。
3PL は、通販会社や小売の物流の外注先として着実に伸び、面積は 8 割増える。国際は越境 EC の伸びを取り込み、利益率が 9% 台に乗る。全体の営業利益は 1,250 億円、利益率 4.3%。2015 年の水準に戻るが、それを超えるまでは届かない。ROE は 13% で、資本コストを上回る。株主還元は配当に加え、現金の余りで自社株買いが入る。
- 国内の宅配・法人輸送(宅急便・法人・その他込み):数量 20.4(宅配便の取扱個数(億個。宅急便・コンパクト・EAZY の 3 商品))× 価格 1,125(1 個あたりの売上(円。法人・小物便・その他の売上を個数で割った値))→ 売上 22,957 億円・営業利益 826 億円。個数 +2%・単価 1.42 倍・利益率 3.6%
- グローバル(国際宅急便・越境 EC・フォワーディング):数量 35.2(取扱貨物の量(万トン相当。推定))× 価格 67(1 トンあたりの売上(万円。サービス込み))→ 売上 2,358 億円・営業利益 224 億円。量 1.6 倍・単価 1.34 倍・利益率 9.5%
- コントラクト・ロジスティクス(3PL・法人向け物流):数量 270(運営拠点の延べ床面積(万㎡。推定))× 価格 15(1 ㎡あたりの年間売上(万円。輸送・作業込み))→ 売上 4,100 億円・営業利益 205 億円。面積 1.8 倍・単価 1.34 倍・利益率 5%
倍率:事業の純利益 847 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.9% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)600 億円。全体の PER 15.01 倍、時価総額 13,308 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:運賃の値上げは進んでいるが、数量の確保と固定費の抑制が追いつくかは五分五分に近い。強気の根拠はあるが、計画の未達が続いているので 2 割にとどめる。
中立 36% 数量は細り、値上げで利益率を 3% 台へ戻す 利益 640 億円 · PER 13.1 倍 · 株価時価総額 2,832 円8,968 億円
10 年後、国内の宅配は人口減で個数が 2% 減る。通販の伸びがそれを下支えするが、日本郵便や佐川に取られる法人の荷物もある。値段は物価を少し上回り、10 年で 1.40 倍。これで宅急便の稼ぎは利益率 2.8% に戻る。
3PL と国際は、数量が 5 割ほど増える。ただし安売りで取らないので、利益率は 4% 台と 8% 台にとどまる。全体の営業利益は約 950 億円、利益率 3.5%。昔の水準に戻っただけだ。人件費も物価で上がるので、値上げの利益は半分近く食われる。ROE は 9% で資本コストをわずかに上回る程度。配当は利益の半分、自社株買いは小さく続く。
- 国内の宅配・法人輸送(宅急便・法人・その他込み):数量 19.6(宅配便の取扱個数(億個。宅急便・コンパクト・EAZY の 3 商品))× 価格 1,110(1 個あたりの売上(円。法人・小物便・その他の売上を個数で割った値))→ 売上 21,746 億円・営業利益 609 億円。個数 −2%・単価 1.40 倍・利益率 2.8%
- グローバル(国際宅急便・越境 EC・フォワーディング):数量 31.9(取扱貨物の量(万トン相当。推定))× 価格 67(1 トンあたりの売上(万円。サービス込み))→ 売上 2,137 億円・営業利益 182 億円。量 1.45 倍・単価 1.34 倍・利益率 8.5%
- コントラクト・ロジスティクス(3PL・法人向け物流):数量 233(運営拠点の延べ床面積(万㎡。推定))× 価格 15(1 ㎡あたりの年間売上(万円。輸送・作業込み))→ 売上 3,531 億円・営業利益 159 億円。面積 1.55 倍・単価 1.34 倍・利益率 4.5%
倍率:事業の純利益 632 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.9% が k 8.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)600 億円。全体の PER 13.13 倍、時価総額 8,893 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業界ノートの中立(数量はほぼ横ばい〜微減、価格は実質 0〜2% の上昇)に、これまでの計画未達を割り引いた形。議論の落としどころとして最も多い 36% に置く。
やや悲観 24% 荷物が逃げ、値上げが人件費に食われる 利益 386 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 1,265 円4,006 億円
値上げが人件費の上昇と同じペースで終わり、実質の価格は上がらない。法人の荷物は一部が佐川や通販大手の自前配送に流れ、国内の個数は 7% 減る。固定費は荷物の減少に合わせて切れず、利益率は 1.8% にとどまる。
3PL と国際は伸びるが、価格競争で利益率は 3% 台と 6% 台に低迷する。全体の営業利益は 570 億円で、利益率 2.3%。過去 10 年の姿とあまり変わらない。ROE は 6% で、資本コストを下回る。株主への還元は配当だけで、自社株買いはできない。再建は終わったが、儲かる会社には戻れなかった。
- 国内の宅配・法人輸送(宅急便・法人・その他込み):数量 18.6(宅配便の取扱個数(億個。宅急便・コンパクト・EAZY の 3 商品))× 価格 1,062(1 個あたりの売上(円。法人・小物便・その他の売上を個数で割った値))→ 売上 19,752 億円・営業利益 356 億円。個数 −7%・単価 1.34 倍・利益率 1.8%
- グローバル(国際宅急便・越境 EC・フォワーディング):数量 26.4(取扱貨物の量(万トン相当。推定))× 価格 67(1 トンあたりの売上(万円。サービス込み))→ 売上 1,769 億円・営業利益 115 億円。量 1.2 倍・単価 1.34 倍・利益率 6.5%
- コントラクト・ロジスティクス(3PL・法人向け物流):数量 195(運営拠点の延べ床面積(万㎡。推定))× 価格 15(1 ㎡あたりの年間売上(万円。輸送・作業込み))→ 売上 2,961 億円・営業利益 104 億円。面積 1.3 倍・単価 1.34 倍・利益率 3.5%
倍率:ROE 6.5% は k 8.25% 以下。ためた利益の価値は 1 を下回るので PER の上限は 1÷k = 11.8 倍。荷物量の減少と値下げ競争で利益率が戻らない筋書きなので、上限の 7.6 割の 9 倍に置いた。
確率:法人の荷物が戻らず、日本郵便との協業も小物便の採算を悪くするという懸念は現実味がある。過去 10 年の利益の動きがこれに近く、24% と厚めに置く。
悲観 13% 宅配の網の価値が下がる 利益 120 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 541 円1,713 億円
通販大手の自前配送、日本郵便との協業の失敗、自動運転の実用化がそろって進む。宅急便の個数は 17% 減り、値上げもできず単価は 1.2 倍にとどまる。固定費の重さで利益はほぼ消え、営業利益は 165 億円にとどまる。
3PL と国際も価格競争に巻き込まれ、成長が止まる。人員と拠点の削減、不動産の売却で当座は耐えるが、優良な会社の姿ではなくなる。リース(本社ビル)の家賃は固定で残る。それでも純現金と不動産があるので、倒産は遠い。市場は自己資本の半分を切る値段をつける。経営は事業の売却や再編を迫られ、宅急便の網を守る資金だけが残る。配当は大きく削られ、株主の取り分は細る。
- 国内の宅配・法人輸送(宅急便・法人・その他込み):数量 16.5(宅配便の取扱個数(億個。宅急便・コンパクト・EAZY の 3 商品))× 価格 951(1 個あたりの売上(円。法人・小物便・その他の売上を個数で割った値))→ 売上 15,692 億円・営業利益 78 億円。個数 −17.5%・単価 1.2 倍・利益率 0.5%
- グローバル(国際宅急便・越境 EC・フォワーディング):数量 19.8(取扱貨物の量(万トン相当。推定))× 価格 60(1 トンあたりの売上(万円。サービス込み))→ 売上 1,188 億円・営業利益 36 億円。量 0.9 倍・単価 1.2 倍・利益率 3%
- コントラクト・ロジスティクス(3PL・法人向け物流):数量 150(運営拠点の延べ床面積(万㎡。推定))× 価格 14(1 ㎡あたりの年間売上(万円。輸送・作業込み))→ 売上 2,040 億円・営業利益 51 億円。面積 横ばい・単価 1.2 倍・利益率 2.5%
倍率:稼ぐ力(事業の純利益 116 ÷ k 8.25% = 1,362 億円)より資産の床のほうが大きいので、売れる資産の税後 1,700 億円(floor_assets_oku)を時価総額にそのまま置いた。今の自己資本 5,710 億円に対する PBR は 0.30 倍。規模の競争に負け、ほぼ無利益になる筋書き。
確率:リーマン級の不況と構造的な負けが重なる場合。自動運転や通販大手の自前配送が進み、ヤマトの網の優位が崩れる。起きる確率は低いが、固定費が重いので影響は大きい。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内の宅配・法人輸送(宅急便・法人・その他込み)
宅急便・宅急便コンパクト・法人の大口輸送・ネコポス系の小物便。本社費もここに含めて見る。
| 数量宅配便の取扱個数(億個。宅急便・コンパクト・EAZY の 3 商品) | 価格1 個あたりの売上(円。法人・小物便・その他の売上を個数で割った値) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 20.0 | 793 | 15,850 | 108 |
| 10 年後 中立 | 19.6 | 1,110 | 21,746 | 609 |
取り方:セグメント売上は、2027/03 期 1 四半期の構成(Express 約 82%)を 2026/03 期の売上 1 兆 8,657 億円に当てはめた推定で、その他と本社費も含めて約 15,850 億円とした。個数は宅配便(3 商品)の 2025/03 期 19.6 億個、2025 年 4〜12 月が前年比 −0.4% であることから、約 20 億個と置いた。1 個あたり売上は売上を個数で割った値で、法人・小物便・その他を含む。利益は 1 四半期が大きな赤字になる季節性を見て、合計 283 億円に合うよう約 108 億円(本社費込み)と推定した。開示の確定値ではない。
グローバル(国際宅急便・越境 EC・フォワーディング)
国際宅急便、越境 EC 向けの輸送、航空・海上の取次ぎ、アジアの宅配。
| 数量取扱貨物の量(万トン相当。推定) | 価格1 トンあたりの売上(万円。サービス込み) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 22.0 | 50 | 1,100 | 100 |
| 10 年後 中立 | 31.9 | 67 | 2,137 | 182 |
取り方:グローバルの売上は 1Q の構成(約 6%)から約 1,100 億円と推定。取扱量は開示がないので、越境 EC 小口と取次ぎの混合として 22 万トン相当、1 トンあたり 50 万円(サービス込み)と置いた。利益は 1Q の 27 億円を年換算して約 100 億円(利益率 9%)。推定値。
コントラクト・ロジスティクス(3PL・法人向け物流)
法人の倉庫運営・在庫管理・輸送をまとめて請け負う事業。
| 数量運営拠点の延べ床面積(万㎡。推定) | 価格1 ㎡あたりの年間売上(万円。輸送・作業込み) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 150 | 11 | 1,700 | 75 |
| 10 年後 中立 | 233 | 15 | 3,531 | 159 |
取り方:コントラクト・ロジスティクスの売上は 1Q の構成(約 9%)から約 1,700 億円と推定。開示がないため、運営拠点の延べ床面積 150 万㎡・1 ㎡あたり年間 11.3 万円(作業と輸送込み)と置いた。利益は 1Q の 19 億円から年約 75 億円(利益率 4.4%)。推定値。 数量は実物(運営床面積)で、名目の市場の伸びではない。伸びの理由は法人の物流委託の拡大と拠点の新設。価格は物価の 1.34 倍。
リスクと懸念
計画の未達が続く
中計の最終年の営業利益目標は 600 億円へ引き上げたが、今期予想は 420 億円。前期も 400 億円の予想を 280 億円に下げた。数字を作る力が戻らない限り、市場は再建の話を割り引いて見続ける。次の決算で予想をまた下げれば、信頼の回復はさらに遠のく。
法人の荷物が逃げる
低採算の荷物を絞り、運賃を上げたことで、大口の法人が佐川や日本郵便、通販大手の自前配送に流れている。宅急便系の個数は前年を割った。値上げが利益に変わる前に、荷物が戻らなくなる恐れがある。いったん離れた大口荷主は、数年は戻らない。
日本郵便との協業のほころび
小物便を日本郵便の網に移す計画は、日数が伸びて顧客の不満を招き、2024 年末に委託の見直しを申し入れた。コストは下がるが、品質を損なえば、宅急便のブランドそのものを傷つける。小物便が増えるほど、この問題は大きくなる。
固定費の重さ
拠点、仕分けの設備、ドライバー、幹線のトラックは荷物が減っても減らない。荷物が 1 割減れば、営業利益は簡単に赤字へ沈む。不況や荷物の流出に対する耐性は弱い。利益率が 1% 台の今は、少しの変動でも赤字が見える。
人件費と人手不足
2024 年問題でドライバーが足りず、2025 年度の不足は 20.8 万人、有効求人倍率は 2.49 倍まで上がった。賃上げが運賃の上昇を食い続ければ、値上げの成果が利益に残らない。過去の運賃見直しでも、この食い合いが続いた。
通販大手の自前配送と新技術
通販大手が自前の配送網を広げ、自動運転や無人配送が実用化すれば、宅急便の網の価値が下がる。10 年のうちに起きうる構造の変化で、固定費が重い分だけ影響は大きい。10 年という長さで見ると、無視できない。
リースの固定の約束
本社ビルは 20 年のリースバックで、家賃は荷物が減っても減らない。純現金や自己資本比率が見かけほど強くないことになる。新リース会計(2028 年 3 月期から貸借対照表に載る)で、見かけの借金も増える。数字の形が変わることで、読み違えが起きやすい。
今後の分かれ目
- 法人の運賃改定が一巡し、宅急便系の個数が前年を上回る
- 値上げが数量を失わずに利益へ変わった証拠になる。国内の利益率が 3% を超える道が開け、強気の筋書きの確率が上がる。
- 今期の営業利益が予想の 420 億円を下回る
- 計画を外す癖が続いた証拠になる。再建の物語は信用されず、悲観側の確率が上がる。
- 日本郵便との協業が拡大し、小物便の日数と品質が安定する
- 小物便の費用が大きく下がり、宅急便本体に人と車を回せる。利益率の改善が速くなる。
- ROE が 10% を超える計画と、自社株買いを含む大きな還元策が出る
- 余った資金が株主へ回る。倍率は上がり、純現金の割り引きも減るので、中立でも評価が上がる。
- 不況で荷物が 2〜3 割減る
- 固定費が重く赤字になるが、純現金と不動産が床になる。株価は PBR 0.5 倍前後まで下がりうる。
- 他社や投資ファンドが買収提案をする
- 網の価値と純現金を評価した買収価格が出れば、悲観側の床が上がる。ただし個人株主が多く、実現は難しい。
見ておくもの
- 宅急便系の取扱個数と平均単価(月次)
- 法人(大口)の数量と運賃改定の進み具合
- 営業利益の予想の修正(420 億円)
- 日本郵便との協業での配達日数・品質
- 配車最適化による車両削減の効果
- 自社株買い・政策保有株と不動産の売却の発表
- ドライバーの賃上げ率と有効求人倍率
倍率と資本コストの決め方
今の株価(PER 48 倍)を先に見ず、セグメントごとに個数×単価で積み上げた。中立の 10 年の利益率 3.5% は、2015〜2021 年の平均(約 3.7%)より少し低く置き、2024 年の運賃改定の効果と人件費の上昇を相殺した。倍率は式で置き、正当化 PER(RONIC は k を超える ROE の 1/2 が残る値、g 4%)の上限に対し、楽観 8.1 割・やや楽観 8.5 割、利益の質が低いので中立は 1÷k を下回らせない 9.4 割に置いた。k は基本 7.5% に quality +1.0%(循環 +0.25・値決め力 +0.25・借金 0・寿命 +0.5)で 8.5%、確率は quality を理由に動かしていない。悲観は稼ぐ力(純利益÷k)でなく売れる資産(純現金と土地・保有株の推定 約 1,700 億円)を床にした。結果はやや割高(差 −24%)で、割安へ寄せる調整はしていない。純現金は半分(600 億円)を分け、戻り方は 0.5(excess_cash_return_why)。リースは 2028 年 3 月期から貸借対照表に載るが、10 年後の数字は今と同じ形(家賃を費用に入れた形)でそろえた。セグメントの売上・利益・数量は 2027 年 3 月期 1Q の構成を通期に当てはめた推定。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality +1.0%(循環 +0.25・値決め力 +0.25・借金 0・寿命 +0.5)= 8.5%。純現金で借金の上げはないが、薄い利益率と荷物量の減少による寿命の上げが大きい。宅配は生活インフラで安定しているが、計画未達が続く点を寿命に入れた。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.25%。