結論
SEMITECは、温度で電気の通りやすさが変わる素子「サーミスタ」を作る専業メーカーだ。売上の4割は自動車向けで、医療、産業機器、家電が続く。筆者の結論は「やや割安」である。時価総額の4割弱が現金で、残る事業は利益に対して低く評価されている。
競争力の核は、お客ごとに仕様を変えるカスタム対応と、医療などで置き換えにくい薄膜サーミスタにある。会社の主張では、ハイブリッド車の電池用センサーで世界の7割を握る。一方、家電やOA機器は新興メーカーとの競争で売上が1割以上減り、利益率を押し下げている。
中期計画の「Vision2026」は営業利益50億円を掲げたが、今期は30億円弱にとどまる。コストの上昇と値下げ要求、新製品の遅れが響いた。薄膜設備の償却が増えるため、今期はさらに減益になる。計画が外れたことは、割り引いて見るべき事実だ。
それでも財務は強い。純現金は約90億円、自己資本比率は77%で、前期は24億円の自社株買いも行った。10年の中立では、営業利益は名目で5割ほど伸びる。確率で重みを付けた本質価値は、今の時価総額を3割弱上回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、SEMITECは「現金の厚い、小さな専業メーカー」だ。まず時価総額の4割弱を現金が占める。この現金は前期に自社株買いで実際に株主へ戻された実績があり、帳簿の値を丸ごと認めてよい。山口の新工場分は差し引いて考える。
次に、事業の質を見る。営業利益率は13.9%と高いが、薄膜設備の償却が増え、今期は10%台前半へ下がる。償却は新しい設備の値段で足されるのに対し、古い設備の償却は取得時のまま続く。工場の更新は物価で膨らむので、会計の利益と実際に手元に残る現金は同じではない。
経営の資本配分は評価できる。無理な買収をせず、設備と自社株買いに配ってきた。だが中期計画の未達は、経営の読みの甘さを示す。
そのうえで値段を見ると、現金を除いた事業は、利益の5〜6倍で評価されている。品質に難のある利益だとしても、安全域は十分に厚い。筆者は、10年の保有に耐える水準だと見る。
何で稼ぐ会社か
売上255億円の大半は、サーミスタとそれを組み込んだ温度センサーだ。温度を電気信号に変える部品で、自動車では電池やエンジン、医療では体温計や検査装置、産業機器では電源や空調に使われる。用途別では自動車が39%、家電・住設が16%、OA機器が14%、医療が14%、産業機器が10%を占める。
製品は大きく二つある。ひとつはセラミックを焼き固めた「バルク」で、量が多く価格競争も激しい。もうひとつは薄い膜を基板に付けた「薄膜サーミスタ」で、売上の約2割を占める。小さく精度が高く、医療や車載の用途で他社が代わりにくい。会社は設備投資を薄膜に集めている。
生産と販売は世界に広がる。連結従業員は約3,500人で、多くがアジアの工場で働く。国内は千葉と、山口県に新設する第2工場が中心になる。地域別の売上は中国が28%、韓国が19%、日本が18%、米国が17%。
新しい芽もある。風速センサーの販売を2025年11月に始め、冷媒ガスや熱の流れを測るセンサーは顧客との実証が進む。温度以外へ広げる狙いだが、まだ売上への貢献は小さい。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、顧客に合わせて作り込むカスタム対応と、薄膜の精度にある。サーミスタは標準品の価格競争に巻き込まれやすい部品だが、医療や電池のように安全に関わる用途は、一度採用されると置き換えにくい。会社も、標準化が進む領域を避け、非標準の高信頼な領域に力を集める方針を示した。
弱みも、会社自身が認めている。Vision2026の営業利益50億円は、今期の予想で30億円弱にとどまる。理由は、家電・住設での新興メーカーとの競争、医療での新用途の遅れ、レアメタルの高騰と海外の人件費上昇、顧客からの値下げ要求だ。利益率は2023年3月期の15.8%から、今期の予想で11.9%へ下がる。
資本効率は高い水準を保っている。ROEは過去10年の中央値で11%、前期も11.3%だった。無借金に近く、利益の大半を現金で持つため、数字は見かけより資本が余っている会社の姿を映す。
経営は創業家出身の社長が率いる。前期は自社株買いを24億円行い、配当はDOE(株主資本配当率)2.5%を目安にする。資本の使い方は株主に向いているが、中期計画の未達が続けば、経営の目標設定の力が問われる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
サーミスタの市場は、世界で年1,500億円程度との推計がある。首位は芝浦電子で、続いてアンフェノール、TDK(EPCOSを含む)、SEMITEC、大泉製作所、立山科学などが並ぶ。分散した市場だが、用途ごとに強い会社が分かれている。
需要の追い風は、センサーの数が増えることだ。電気自動車は電池の温度を多くの点で測るため、1台あたりの個数が増える。医療機器の高度化や、AIによる装置の自動制御も、温度センサーの需要を広げる。一方で、標準化が進む領域では価格競争が激しく、中国勢の追い上げもある。
業界再編の動きも見逃せない。首位の芝浦電子は、台湾のヤゲオが2025年に同意のない買い付けを成立させ、上場を廃止した。ミネベアミツミが対抗の買い付けを出したが、撤退した。サーミスタの専業が、大手部品メーカーの標的になった例だ。
10年の中立では、自動車と医療の数量は実質で伸び、家電とOA機器は縮む。ただし車載の価格は標準化の圧力で物価に届かず、利益率は横ばいにとどまるとみる。
部品を作る側から見ると、需要の増え方と利益の増え方は別物だ。顧客の自動車メーカーは部品の値下げを毎年求め、仕様が揃うほど複数の会社から買える。値決めの主導権は、標準化されない薄膜や医療のような領域にしかない。
資本政策と M&A
還元はDOE2.5%を目安にした配当が基本で、前期は自社株買いを24億円加えた。純利益に対する配当と自社株買いの合計は約1.1倍で、前期は純現金を取り崩した。この姿勢が続くなら、現金は株主に戻ると見てよい。
投資は今期31億円で、前期より1割ほど増える。山口県の第2工場に約30億円を投じ、2027年7月の完成を目指す。薄膜サーミスタの増産と、事業継続の備えが目的だ。千葉工場の再編もあり、減価償却は今期の15億円に膨らむ。
M&Aは大きな案件がなく、中国の出資持分を売却して益を出した程度だ。政策保有株式は持たない。自社の経営は創業家出身の社長が担い、大株主の比率は開示で確認できなかった。
同業の芝浦電子がヤゲオに買収された先例があり、SEMITECも買い付けの対象になりうる。ただし開示はなく、筋書きの確率には含めていない。株主優待はない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
電気自動車が普及すれば、電池を守るための温度センサーは1台に何十個も必要になる。ハイブリッド車の電池用センサーで世界の7割を握るという実績は、この需要を最初に取れる位置にいることを示す。自動車向けは前期に6%伸び、2年前の水準を3割以上上回った。
医療は薄膜サーミスタの出番だ。小さく精度の高い部品は、検査装置や体に触れる機器で他社が代わりにくい。医療用途は2年で2割増えた。山口の新工場は、この需要を逃さないための準備である。価格も、安全に関わる用途では物価並みに上げられる。
財務は盤石だ。無借金に近く、景気後退でも研究開発と設備投資を続けられる。純現金は時価総額の4割弱で、会社は前期に24億円の自社株買いを行った。株数が減れば、1株あたりの価値は伸びる。さらに、同業の芝浦電子が買収された先例は、専業メーカーの稀少価値を示している。強気の筋書きでは、営業利益は80億円規模まで届き、利益率は15%を保つ。
慎重な見方
Vision2026の未達は偶然ではない。営業利益50億円の目標に対し、今期は30億円弱。理由は、値下げ要求、コストの上昇、新製品の遅れという、事業の構造にかかわる要因だった。新しい計画を作っても、同じ壁にぶつかる懸念が残る。経営は次の計画で課題を認めているが、認めることと、直すことは別である。
車載は標準化が進む。電池の温度センサーが普及すれば、仕様が揃い、中国勢や大手の部品メーカーが低価格で参入する。会社も「車載など高成長市場で競争が激化し標準化が進む」と認識している。個数は増えても、価格が物価の上昇に届かなければ、売上は伸びても利益は伸びない。
家電とOA機器はすでに縮んでいる。前期の売上は両方とも1割以上減り、新興メーカーとの競争で戻る見込みは薄い。中国は売上の3割近くを占めるため、地政学の影響も大きい。現金が厚いことは安心材料だが、事業の稼ぐ力が細れば、その現金も新工場や赤字の穴埋めに消えていく。薄膜設備の償却は今期だけで4億円近く増え、利益率を押し下げる。10年後の姿は、売上は伸びても営業利益は今の水準を下回る、というものだ。
どちらに重みを置いたか
強気の見方には、電池と医療という具体的な需要と、現金の厚さという確かな支えがある。慎重な見方の、計画未達と標準化の圧力という指摘も重いが、現金の価値を損なう材料ではない。このため確率は中立に4割弱を置き、上は3割強、下は3割強と釣り合わせた。ただし、悲観は構造的な負けである標準化の筋書きを1割とした。事業の質は割り引くが、現金は割り引かない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 6,930 円665 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,760 円169 億円)。 今の値に割り戻すと 4,777 円458 億円、今との差 +101.7%、 期待の年率 +13.9%(資本コスト 7.0%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 13,153 円1,262 億円 | 2,782 円267 億円 | +572.7% | +21.0% | 1,594 円153 億円 |
| やや楽観 | 22% | 9,886 円949 億円 | 2,213 円212 億円 | +410.8% | +17.7% | 2,662 円255 億円 |
| 中立 | 36% | 7,739 円743 億円 | 1,822 円175 億円 | +303.6% | +15.0% | 3,442 円330 億円 |
| やや悲観 | 22% | 2,631 円252 億円 | 1,204 円116 億円 | +61.9% | +4.9% | 844 円81 億円 |
| 悲観 | 10% | 744 円71 億円 | 738 円71 億円 | −37.4% | −4.6% | 148 円14 億円 |
| 加重平均 | 100% | 6,930 円665 億円 | 1,760 円169 億円 | +266.8% | +13.9% | 8,689 円834 億円 |
今の株価時価総額 2,369 円227 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 楽観:電池と医療が伸び、利益率15%を保つ 利益 60 億円 · PER 20.5 倍 · 株価時価総額 13,153 円1,262 億円
電気自動車の普及で、電池の温度を測るセンサーが1台に何十個も使われる。自動車向けの数量は10年で2倍を超える。薄膜サーミスタの精度は他社に代えにくく、価格は物価の4分の3の伸びを保つ。
医療は検査装置と体に触れる機器で採用が広がり、数量が2倍以上になる。山口の第2工場が稼働し、供給の不安がなくなる。
家電とOA機器は縮むが、全体の1割台に下がるため影響は小さい。会社全体の営業利益は80億円規模、利益率は15%で、過去の山(15.8%)の水準を保つ。
還元は利益の6割台後半で、配当と自社株買いを並べる。同業の芝浦電子のように買い付けの対象になる可能性もここに含める。
- 自動車向け:数量 440(出荷個数(百万個・推定))× 価格 63(1 個あたり売上(円・名目))→ 売上 275 億円・営業利益 34 億円。数量2.2倍、単価1.25倍、利益率12.5%
- 医療向け:数量 66.0(出荷個数(百万個・推定))× 価格 160(1 個あたり売上(円・名目))→ 売上 105 億円・営業利益 25 億円。数量2.2倍、単価1.34倍、利益率24%
- 産業機器・情報機器・その他:数量 90.0(出荷個数(百万個・推定))× 価格 90(1 個あたり売上(円・名目))→ 売上 81 億円・営業利益 12 億円。数量1.5倍、単価1.25倍、利益率15%
- 家電・住設、OA機器:数量 135(出荷個数(百万個・推定))× 価格 56(1 個あたり売上(円・名目))→ 売上 75 億円・営業利益 8 億円。数量0.9倍、単価1.10倍、利益率11%
倍率:事業の純利益 60 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 17.7% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)37 億円。全体の PER 20.46 倍、時価総額 1,262 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電気自動車の電池向けと医療の薄膜が両方とも計画どおり伸び、値下げ圧力も限られる筋書きは、Vision2026の未達を見る限り条件が重なる。1割にとどめた。
やや楽観 22% やや楽観:自動車と医療が伸び、家電の縮小を補う 利益 48 億円 · PER 19.2 倍 · 株価時価総額 9,886 円949 億円
自動車向けは電池や運転支援で数量が10年で2倍近くになる。ただし標準化が進み、単価の伸びは物価の半分ほどにとどまる。医療は新しい用途の開拓が遅れながらも、既存用途が堅調に伸びる。
家電・住設とOA機器は新興メーカーとの競争で縮み、売上の比率が下がる。産業機器は在庫調整が終わり、緩やかに伸びる。
営業利益は64億円ほどで、利益率は14%台を保つ。ROEは13%で、無借金のため安定する。薄膜設備の償却が重くなるが、増収が吸収する。
還元は利益の6割台前半で、配当に自社株買いを加える。現金はほぼ減らず、余った現金は帳簿の値のまま残る。
- 自動車向け:数量 380(出荷個数(百万個・推定))× 価格 59(1 個あたり売上(円・名目))→ 売上 224 億円・営業利益 27 億円。数量1.9倍、単価1.18倍、利益率12%
- 医療向け:数量 58.5(出荷個数(百万個・推定))× 価格 155(1 個あたり売上(円・名目))→ 売上 91 億円・営業利益 21 億円。数量1.95倍、単価1.30倍、利益率23%
- 産業機器・情報機器・その他:数量 81.0(出荷個数(百万個・推定))× 価格 86(1 個あたり売上(円・名目))→ 売上 70 億円・営業利益 10 億円。数量1.35倍、単価1.20倍、利益率14.5%
- 家電・住設、OA機器:数量 123(出荷個数(百万個・推定))× 価格 53(1 個あたり売上(円・名目))→ 売上 65 億円・営業利益 7 億円。数量0.82倍、単価1.05倍、利益率10%
倍率:事業の純利益 47 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.3% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.7%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)37 億円。全体の PER 19.2 倍、時価総額 949 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:自動車は前期までの2年で3割以上、医療は2割増えている。この勢いが続き、家電の縮小を補う筋書きは現実に近い。ただし中期計画の未達があるので、2割強にとどめた。
中立 36% 中立:自動車と医療は伸び、家電は縮む。利益率は13〜14% 利益 38 億円 · PER 18.4 倍 · 株価時価総額 7,739 円743 億円
自動車向けの数量は10年で6割増える。電池のセンサーの個数が増えるが、標準化で単価は物価の4分の1しか上がらない(物価の1.34倍に届かない理由は、標準化と顧客の値下げ要求)。医療は既存用途の拡大で数量が7割増え、薄膜の精度が価格を支える。
家電・住設とOA機器は新興メーカーとの競争で数量が4分の1減り、価格も上がらない。産業機器は在庫調整が終わり、緩やかに伸びる。
営業利益は50億円ほどで、利益率は13.7%と今の13.9%とほぼ同じになる。Vision2026の目標だった50億円に、9年遅れて届く姿だ。減価償却は、薄膜の新設備の分が今期から重くなり、10年後は20億円前後になる。工場の更新は物価で膨らみ、償却を上回る分は現金から出ていく。
還元は利益の6割。純現金は大きくは減らず、余った現金37億円も手つかずで残る。
- 自動車向け:数量 320(出荷個数(百万個・推定))× 価格 55(1 個あたり売上(円・名目))→ 売上 176 億円・営業利益 20 億円。数量1.60倍、単価1.10倍(物価の1.34倍に届かない。標準化と顧客の値下げ要求のため)、利益率11.5%
- 医療向け:数量 51.0(出荷個数(百万個・推定))× 価格 149(1 個あたり売上(円・名目))→ 売上 76 億円・営業利益 17 億円。数量1.70倍、単価1.25倍(薄膜は代わりにくいが、物価には届かない)、利益率22%
- 産業機器・情報機器・その他:数量 72.0(出荷個数(百万個・推定))× 価格 83(1 個あたり売上(円・名目))→ 売上 60 億円・営業利益 8 億円。数量1.20倍、単価1.15倍(標準化の圧力で物価に届かない)、利益率14%
- 家電・住設、OA機器:数量 113(出荷個数(百万個・推定))× 価格 50(1 個あたり売上(円・名目))→ 売上 57 億円・営業利益 5 億円。数量0.75倍、単価1.00倍(新興メーカーとの競争で据え置き)、利益率9%
倍率:事業の純利益 37 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.7% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.8%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)37 億円。全体の PER 18.4 倍、時価総額 723 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の今期予想(営業利益30億円弱)が谷に近いとみて、薄膜設備の増産が効く方向に収れんする筋書き。用途ごとの伸び縮みを足し合わせた最も現実に近い形として、3割台半ばを置いた。
やや悲観 22% やや悲観:標準化と値下げで、売上は伸びても利益が増えない 利益 22 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 2,631 円252 億円
車載の標準化が進み、中国勢や大手の部品メーカーが低価格で参入する。自動車向けの数量は2割増えるが、単価は据え置きで、利益率は9.5%に下がる。医療は新用途の開拓が遅れ、既存用途の伸びだけになる。
家電とOA機器は4割減り、赤字に近づく。中国向けが売上の3割近くを占めるため、地政学の波も受ける。
営業利益は30億円弱で、今期の予想とほぼ同じになる。物価で見れば実質で4割近く減る。ROEは6%台まで下がり、資本コストを割り込む。余った現金は一部が新工場や赤字の吸収に使われる。
還元は利益の5割強にとどまり、自社株買いは小さくなる。新しい中期計画も、値下げ要求とコストの上昇を吸収しきれない。
- 自動車向け:数量 250(出荷個数(百万個・推定))× 価格 50(1 個あたり売上(円・名目))→ 売上 125 億円・営業利益 12 億円。数量1.25倍、単価1.00倍、利益率9.5%
- 医療向け:数量 40.5(出荷個数(百万個・推定))× 価格 137(1 個あたり売上(円・名目))→ 売上 56 億円・営業利益 11 億円。数量1.35倍、単価1.15倍、利益率19%
- 産業機器・情報機器・その他:数量 60.0(出荷個数(百万個・推定))× 価格 75(1 個あたり売上(円・名目))→ 売上 45 億円・営業利益 5 億円。数量1.00倍、単価1.05倍、利益率11%
- 家電・住設、OA機器:数量 90.0(出荷個数(百万個・推定))× 価格 45(1 個あたり売上(円・名目))→ 売上 41 億円・営業利益 3 億円。数量0.60倍、単価0.90倍、利益率6%
倍率:事業の ROE 6.5%(純利益÷自己資本)、k 7%。残る割合 1/2 で RONIC=k+1/2×(ROE−k)=7.4%、g 4% の正当化 PER は 10.7 倍。ROE が k を下回るので、ためた利益に帳簿より低い値打ちしか認めず、上限の 7.4 割の 8.0 倍に置いた。余った現金は谷で食う分を見て0.75倍の28億円とした。
確率:Vision2026は値下げ要求と標準化で目標に届かなかった。同じ圧力が続く筋書きは、実績のある現実的な下振れとして2割強を置いた。
悲観 10% 悲観:標準化と中国勢で、主力の車載が汎用品になる 利益 8 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 744 円71 億円
電池用センサーが標準品になり、中国勢や大手の部品メーカーが低価格で供給する。自動車向けの数量は1割減り、単価は15%下がる。家電とOA機器は6割減り、赤字になる。
医療も新規用途がなく、数量は横ばいで価格が下がる。会社全体の営業利益は12億円ほどに細り、利益率は7%台になる。薄膜設備の償却は重く残る。
このとき価値を支えるのは稼ぐ力ではなく、持っている現金と資産だ。山口の新工場の投資を引いた現金に、工場用地の処分価値を足した額が床になる。
それでも現金があるうちは立て直しの時間を買える。薄膜の技術を生かして医療などの小さな領域に絞れば、会社は小さくなって残る。
- 自動車向け:数量 180(出荷個数(百万個・推定))× 価格 43(1 個あたり売上(円・名目))→ 売上 77 億円・営業利益 5 億円。数量0.90倍、単価0.85倍、利益率6%
- 医療向け:数量 30.0(出荷個数(百万個・推定))× 価格 113(1 個あたり売上(円・名目))→ 売上 34 億円・営業利益 5 億円。数量1.00倍、単価0.95倍、利益率14%
- 産業機器・情報機器・その他:数量 48.0(出荷個数(百万個・推定))× 価格 65(1 個あたり売上(円・名目))→ 売上 31 億円・営業利益 3 億円。数量0.80倍、単価0.90倍、利益率8%
- 家電・住設、OA機器:数量 60.0(出荷個数(百万個・推定))× 価格 40(1 個あたり売上(円・名目))→ 売上 24 億円・営業利益 1 億円。数量0.40倍、単価0.80倍、利益率2%
倍率:今の自己資本238億円にPBR0.30倍を掛けた。稼ぐ力(純利益7.8億円÷k7%=約95億円)より小さく、売れる資産の税後(floor_assets_oku)を上回るので、後者を床にした。ためた利益は床に掛けない。
確率:サーミスタは参入の障壁が低い部品で、車載が標準化されれば価格の主導権を失う。同業が買収された先例もあり、構造的な負けは起こりうる。ただし医療などの薄膜は残るので1割とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
自動車向け
電池・エンジン・車室などの温度センサー。薄膜・バルクの両方。
| 数量出荷個数(百万個・推定) | 価格1 個あたり売上(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 200 | 50 | 100 | 13 |
| 10 年後 中立 | 320 | 55 | 176 | 20 |
取り方:用途別売上 100.0 億円を、出荷個数 2 億個(推定)で割った 1 個あたりの売上。個数は開示がなく推定。営業利益は地域別セグメントしか開示がなく、用途別は推定で利益率 12.5%(全体の 13.9% に合わせ、医療を高め、家電を低くした)。
医療向け
検査装置・体に触れる機器向けの高精度な薄膜サーミスタ。
| 数量出荷個数(百万個・推定) | 価格1 個あたり売上(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 30.0 | 119 | 36 | 8 |
| 10 年後 中立 | 51.0 | 149 | 76 | 17 |
取り方:用途別売上 35.7 億円を、出荷個数 3,000 万個(推定)で割った。医療は高精度で単価が高い。利益率は推定で 22%(薄膜で代わりが少ない用途のため高い)。
産業機器・情報機器・その他
電源・空調・産業装置・情報機器などの温度センサー。
| 数量出荷個数(百万個・推定) | 価格1 個あたり売上(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 60.0 | 72 | 43 | 6 |
| 10 年後 中立 | 72.0 | 83 | 60 | 8 |
取り方:産業機器 26.2 億円、情報機器 2.4 億円、その他 14.5 億円の合計 43.1 億円。個数は 6,000 万個(推定)。利益率は推定で 15%。
家電・住設、OA機器
エアコン・給湯・冷蔵庫・プリンターなどの温度センサー。
| 数量出荷個数(百万個・推定) | 価格1 個あたり売上(円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 150 | 50 | 76 | 9 |
| 10 年後 中立 | 113 | 50 | 57 | 5 |
取り方:家電・住設 40.0 億円と OA 機器 35.7 億円の合計 75.7 億円。個数は 1.5 億個(推定)。新興メーカーとの競争で前期は 1 割以上減った。利益率は推定で 11.25%。
リスクと懸念
車載の標準化と顧客の値下げ要求
電池用の温度センサーが普及するほど、仕様が揃い、価格競争が強まる。会社は中期計画で、顧客からの値下げ要求が計画以上だったと認めた。数量が増えても単価が物価に届かなければ、利益は伸びない。同業の芝浦電子がヤゲオに買収された動きは、再編の圧力を示す。
計画の未達が続くこと
Vision2026は営業利益50億円を目標にしたが、今期の予想は30億円弱にとどまる。家電の競争、医療の新用途の遅れ、新製品の遅れ、コストの上昇が重なった。新しい計画でも同じ読みの甘さが続けば、経営の信頼が揺らぐ。
家電・OA機器の縮小
家電・住設とOA機器は前期に売上が1割以上減り、合わせて売上の3割を占める。新興メーカーとの競争で戻る見込みは薄い。中国向けは売上の3割近くを占めるため、需要の落ち込みと地政学の影響を同時に受ける。
薄膜設備の償却と新工場の負担
薄膜サーミスタの新設備で、減価償却は前期の9.6億円から今期の15億円へ増える。山口の第2工場は約30億円で、2027年7月に完成を目指す。稼働率が上がらなければ、償却が利益を削る。
海外の人件費と為替
従業員の大半はアジアの工場で働き、人件費の上昇が原価を押し上げる。ドルに対する円の変動で、営業利益は為替が一円動くごとに約0.2億円動く。円高になれば、売上と利益が目減りする。
特定の技術と顧客への依存
薄膜サーミスタは売上の約2割で、利益への貢献は医療と車載に偏る。この技術に代わる素子が出れば、堀が崩れる。大株主の持株比率は開示で確認できず、経営の支配構造は不透明な部分が残る。
今後の分かれ目
- 自動車向けの数量が、前期までの2年の勢い(3割増)を保ったら
- やや楽観以上に重みを移す。ただし単価が物価に届いているかを同時に確かめる。
- 営業利益率が12%を下回り、10%台前半で定着したら
- 標準化と値下げの圧力が構造的とみて、やや悲観・悲観に重みを移す。
- 医療向けの売上が前年比で1割以上伸び続けたら
- 薄膜サーミスタの堀が効いているとみて、医療の数量前提を上げる。
- 新しい中期計画で、営業利益の目標が現実的な水準に直されたら
- 経営の目標設定が改善したとみて、確率を中立寄りに戻す。
- 他の部品メーカーが買い付けを提案したら
- 筋書きの外にある上振れ要因。提案の価格が現金を除く事業の本質価値を上回るかを別に確かめる。
- 自社株買いが続き、純現金が減り続けたら
- 余った現金の戻り方を確かめる。戻っているなら中立、投資に使われているなら稼ぎが増えるかを見る。
見ておくもの
- 自動車・医療向け売上の前年比と単価の動き
- 営業利益率(12%を保てるか)と減価償却費
- 山口の第2工場の稼働時期と投資額
- 家電・OA機器向けの売上の下げ止まり
- 新しい中期経営計画の目標と進み具合
- 自社株買いと配当(DOE2.5%)の実績
倍率と資本コストの決め方
今の株価や PER(9倍前後)は倍率の根拠にしていない。用途ごとに数量×価格で10年を積み、中立の ROE(10.7%)と資本コスト7%から、利益ベースの正当化 PER を出して、その上限の約8割に置いた。時価総額は事業の利益に倍率を掛け、余った現金37億円を戻り方1.0で足している(山口の新工場30億円と運転資金の売上1か月分を差し引いた額)。悲観の床は純現金と売れる資産の税後で置き、過去の PBR の底からは置いていない。数量は実質、価格は名目(物価10年1.34倍)で、車載の標準化と値下げ圧力を考え、単価は物価より低く置いた。減価償却は取得時の値段のまま続け、新設備の分だけ新しい値段で足した。用途別の利益率は開示がなく推定である。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.5→20.46 倍・やや楽観 PER 11.5→19.2 倍・中立 PER 11→18.4 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。