結論
日本製鋼所は、原子炉圧力容器に使う大型鍛鋼品で世界の約8割を握る重工メーカーだ。防衛装備や有機EL向けのレーザー装置でも強い。筆者の結論は「やや割高」である。事業の質は高いが、稼ぐ力は資本コストを少し上回る程度で、今の株価は成長を先に払いすぎている。
稼ぎの柱は2つある。1つは原発と火力発電向けの素形材で、売上の2割弱ながら営業利益の約3割を稼ぐ。もう1つは産業機械で、樹脂原料をつくる押出機、射出成形機、ミサイル発射筒などの防衛機器、有機ELパネル用のレーザー装置が並ぶ。
追い風は確かにある。データセンターの電力需要でタービン軸と原発部材が足りず、防衛予算は5年で約43兆円に膨らむ。会社は2029年3月期に営業利益400億円を掲げた。ただ、筆者はこれを中立の筋書きにはしない。売上の半分を占める樹脂機械は利益率が6%前後で、有機EL装置は顧客の設備投資の波をかぶる。
防衛と原発の需要は本物で、受注も積み上がっている。それでも、値段がその全部を織り込んだ後では、買う側に残る余地は小さい。
10年後の中立でも、割り引いた本質価値は今の時価総額に届かない。強気の筋書きが半分当たっても、今の値段は払いすぎに近い。2022年に子会社で見つかった検査データの改ざんも、信用の回復という宿題として残っている。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、最初に問うのは「10年後もこの事業は残り、今より強いか」である。原発の大型鍛鋼品と防衛は、この問いに「はい」と答えやすい。電力の安定供給と安全保障にお金をかける流れは、数年では終わらない。
次に、稼いだ利益のうち株主の手元に残る分を見る。この会社は工場への投資がかさみ、利益の約6割は事業に再投資される。再投資した分だけ利益が増えるなら良い。だがROEは9〜10%で資本コストに近く、増やした資本が高い利回りを生む保証はまだない。
最後に安全域を考える。いい会社でも、値段が高すぎれば買い物としては悪い。今の株価は、中計の目標がほぼ達成され、その先も伸びることを前提にしているように見える。筆者が最も確かだと考える筋書きは、その前提の半分ほどしか実現しない。
この会社を持ち続けたいかと聞かれれば、事業の独占性には魅力を感じる。ただ、払う値段との釣り合いは悪い。検査不正で傷んだ信用を完全に取り戻したとも言い切れない。待つ価値のある会社、というのが筆者の整理だ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎ方は、産業機械と素形材・エンジニアリングの2本立てだ。2026年3月期の売上2,748億円のうち、産業機械が8割強を占める。
産業機械は4つに分かれる。樹脂製造・加工機械は、ポリエチレンなどの原料をつくる造粒機と二軸混練押出機、電池用セパレータフィルムの製造装置を売る。成形機は射出成形機で、国内の出荷額は首位だ。防衛関連機器は火砲、ミサイル発射筒、装輪装甲車で、主な客は防衛装備庁である。電子デバイスの主役は有機ELパネル用のレーザーアニール装置で、世界シェアは約8割と会社は説明する(自社の開示)。データセンター向けの多層基板をつくるプレス機も伸びている。
素形材は室蘭製作所の仕事だ。670トン級の巨大な鋼塊をつくり、1万4,000トンのプレスで、原子炉圧力容器や発電機・蒸気タービンの軸に鍛え上げる。同じ規模の設備を持つ会社は、世界でもごく少ない。エンジニアリングには、原子炉用の鋼板や水素用の蓄圧機などが入る。
機械を売って終わりではない。納めた樹脂機械や装置の保守・改造が、利益の厚い収入になる。会社は窒化ガリウムやニオブ酸リチウムの結晶という新しい事業にも取り組むが、収益に結びつくのはまだ先である。
利益の源泉を見ると、産業機械の営業利益は売上の1割弱、素形材は2割近い。売上の小さい素形材が、全社の利益を大きく支える構図だ。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、設備と実績にある。原子炉圧力容器用の大型鍛鋼品は、巨大な鋼塊と大型プレスがなければつくれない。安全が最優先の部材なので、顧客は実績のない会社に切り替えにくい。世界シェアは約8割とされ、韓国の斗山エナビリティが追う。有機ELのレーザー装置も、第8世代基板で事実上の標準になった。防衛は、国に認められた数少ない供給者であることが守りになる。
弱点は2つある。第1は樹脂機械だ。売上の半分を占めるのに、利益率は6%前後にとどまる。射出成形機では住友重機械、ファナック、独エンゲル、中国の海天などが争い、価格を決める力は強くない。第2は品質への信用だ。2022年に子会社の日本製鋼所M&Eで、1998年にさかのぼる検査データの改ざんが明らかになった。火力発電の部材と原子力製品にも及び、不適切な行為は合計449件にのぼる。外部の調査を受けて検査部門の独立性を高めたが、信用の回復は続く宿題だ。
資本効率は並みである。ROEは約9%で、筆者が置く資本コストをかろうじて上回る。自己資本比率は約5割で、財務は堅い。会社は2029年3月期にROE10〜11%を掲げるが、投資が先行するため、道のりは平らではないと筆者は見る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
需要は、4つの別々の波に乗っている。
1つ目は電力だ。データセンターの電力需要でガスタービンが売れ、発電機の軸の注文が中期計画の想定を大きく超えた。原発も、西欧の大型炉の建設が進み、米国でも計画が現実味を帯びてきた。小型炉(SMR)の部材は北米から初めて受注した。会社は原子力製品の能力を2029年3月期までに倍にするが、増強した設備が本格的に動くのは2028年ごろだ。
2つ目は防衛だ。防衛力整備計画は2023〜27年度で約43.5兆円と、前の計画の約2.5倍になった。なかでもミサイル発射筒の増産が効く。ただ計画は2027年度で切れる。その先の予算は、2026年内に改定される安全保障三文書で決まっていく。
3つ目は樹脂機械で、波が大きい。世界のプラスチック需要は2034年にかけて年4.7%伸びるとされるが、中国の設備投資は2026年3月期まで止まり、電池フィルム装置もEVの失速で投資が止まった。インドと中国の回復、データセンターや電力貯蔵向けの電池投資が戻れば上向く。成形機は、欧州の電動化とインドの需要を取りにいく。
4つ目は有機ELだ。タブレットやノートPCへの採用で、パネル需要は年30%以上伸びると会社は見る。だがパネルメーカーの設備投資は、数年ごとに山と谷を繰り返す。2026年は、中国で第8世代の増産が続く山にいる。
工作機械などの同じ領域と同じく、受注型の資本財なので、リーマン級の不況では受注が大きく落ちる。ただ同社には、景気から離れた防衛と原子力という柱がある。同業より落ち方は浅いはずだ。
資本政策と M&A
還元の方針は「配当性向35%以上、DOE(株主資本配当率)2.5%を下限」と決まっている。配当は2025年3月期に大きく引き上げ、2027年3月期も同じ水準の予想だ。自社株買いの新しい決議は確認できず、還元の中心は配当である。
一方で、設備投資の負担が重い。広島の機械工場、室蘭の溶解設備と大型旋盤、有機EL装置用のクリーンルームなど、2028年3月期にかけて能力を増やす。稼いだ利益の多くが工場に回り、自己資本は積み上がっていく。ROEを高められるかは、新しい設備が稼ぎ始める2028年3月期以降にかかっている。
政策保有株は縮める方針で、2026年3月期末で純資産の約12%を占める。売却益が利益を支えた年もあり、利益の質を見るときは差し引いて考えたい。買収は小粒で、名機製作所の吸収合併が代表例だ。原発と防衛という国の基幹を担う会社なので、再編には政府の意向も絡みうる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
原子力と防衛の需要は、すでに受注という形で見えている。原発は新設と取り替えの両方で高い水準が続き、同社は圧力容器用の大型鍛鋼品を世界で約8割握る。小型炉の部材も北米から取り始めた。能力を倍にする投資は、需要が先にある。
防衛は、ミサイル発射筒や装甲車の量産に入り、売上は3年で倍になる計画だ。防衛費を引き上げる流れは、政権が替わっても戻りにくい。
有機EL装置は世界の標準で、データセンター向けの基板プレス機という新しい柱も育つ。樹脂機械も、中国とインドの設備投資が戻れば利益率が上がる。
会社が目標を引き上げたのは、先の受注が見えているからだ。能力増強の投資も、需要が先にあるから決められる。
素形材の営業利益率はすでに2割近い。ここが売上の3割を占めるようになれば、全社の利益率は12%を超える。その時ROEは14%を超えて資本コストを大きく上回り、高い倍率がつく。今の値段は、そこへ向かう途中にすぎない。
慎重な見方
今の株価は、決まった未来ではなく、うまくいった場合の未来を買っている。中期計画の営業利益400億円は、2027年3月期の予想270億円から2年で5割増やす計算だ。工場の増強が本格的に動くのは2028年ごろである。
売上の半分を占める樹脂機械は利益率が6%前後で、中国の投資停滞とEV電池の失速で足元は縮んでいる。有機EL装置は顧客の設備投資の山にいる。谷が来れば受注は急に細る。
防衛は国の予算しだいだ。今の計画は2027年度で切れ、次の予算が今のペースを保つ保証はない。しかも利益率は10%程度で、売上が倍になっても利益はそこまで増えない。
原子力の独占も、韓国の斗山や中国勢が追い、各国が国産化を求める流れには弱い。2022年の検査不正が示すように、品質の信用が崩れれば独占は揺らぐ。政策保有株の売却益が利益を押し上げた年もあり、見かけの稼ぐ力は実力より高い。2026年3月期の純利益の一部がそれだ。
ROEが資本コストを少し上回るだけの会社に、成長を織り込んだ倍率を払うのは危うい。
どちらに重みを置いたか
受注という裏付けがある強気の見方が、やや強い。確率は楽観側にわずかに寄せた。ただ、中計の目標がすべて実現する筋書きは1割台にとどめた。利益率の低い樹脂機械と、設備投資の波を受ける有機EL装置が重いからだ。悲観は構造的な負けを1割に置いた。確率は強気の見方にわずかに寄せたが、今の値段はそれでも届かない。強気の筋書きが実現しても、成長の果実の多くはすでに値段に入っていると見るからだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 9,148 円6,735 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,804 円1,328 億円)。 今の値に割り戻すと 5,937 円4,371 億円、今との差 −5.0%、 期待の年率 +5.8%(資本コスト 7.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 15% | 17,077 円1.26 兆円 | 2,737 円2,015 億円 | +217.0% | +12.2% | 2,972 円2,188 億円 |
| やや楽観 | 25% | 12,518 円9,216 億円 | 2,187 円1,610 億円 | +135.2% | +8.9% | 3,676 円2,707 億円 |
| 中立 | 30% | 8,786 円6,469 億円 | 1,709 円1,258 億円 | +67.9% | +5.3% | 3,148 円2,318 億円 |
| やや悲観 | 20% | 3,534 円2,602 億円 | 1,259 円927 億円 | −23.3% | −2.6% | 959 円706 億円 |
| 悲観 | 10% | 1,141 円840 億円 | 826 円608 億円 | −68.5% | −10.9% | 197 円145 億円 |
| 加重平均 | 100% | 9,148 円6,735 億円 | 1,804 円1,328 億円 | +75.2% | +5.8% | 10,952 円8,063 億円 |
今の株価時価総額 6,251 円4,602 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 15% 原子力の増設と防衛の拡大が続き、利益が10年で3倍になる 利益 616 億円 · PER 20.4 倍 · 株価時価総額 17,077 円1.26 兆円
世界で原発の新設と寿命延長が続き、小型炉の需要も立ち上がる。同社の大型鍛鋼品は供給が限られ、値段と数量の両方が伸びる。防衛は、日本の予算が高い水準を保ち、装甲車や発射筒の量産に加えて将来装備も実を結ぶ。電子デバイスは、有機ELに続き、パッケージ基板用の装置が育つ。樹脂機械はインドと中国の設備に加え、保守・改造の収入が増えて利益率が上がる。営業利益は900億円に迫る。資本を増やしても稼ぐ力が落ちず、ROEは15%に達する。独占的な事業を持つ会社として、倍率も高く保たれる。原子力の素形材が全社の営業利益の3割強を占め、利益の質が上がる。経営は資本の使い方にも自信を深め、配当と自社株買いを厚くする。
- 樹脂製造・加工機械と成形機:数量 2,203(対象市場の実質の規模 × 当社の取り分(億円換算、2026/03 の値段))× 価格 134(値段の指数(今を100。物価3%の分だけ上がるのが基本))→ 売上 2,952 億円・営業利益 251 億円。実質1.60倍×価格指数134
- 防衛関連機器:数量 1,313(防衛省の対象装備の調達規模(実質)× 当社の取り分(億円換算))× 価格 134(値段の指数(今を100。契約は物価調整が入るため物価並みに上がるのが基本))→ 売上 1,759 億円・営業利益 211 億円。実質2.80倍×価格指数134
- 電子デバイス他:数量 749(パネルと基板の設備投資の実質の規模 × 当社の取り分(億円換算))× 価格 134(値段の指数(今を100。装置は大型化で単価が上がり、物価並みに上がるのが基本))→ 売上 1,003 億円・営業利益 181 億円。実質1.80倍×価格指数134
- 素形材・エンジニアリング:数量 1,097(世界の原子力・高効率火力向け大型部材の実質の規模 × 当社の取り分(億円換算))× 価格 134(値段の指数(今を100。供給が限られる部材で、物価並みに上がるのが基本))→ 売上 1,470 億円・営業利益 309 億円。実質2.40倍×価格指数134
倍率:事業の純利益 616 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.9% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 12.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.4 倍。全体の PER 20.41 倍、時価総額 12,573 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:原子力の増設と防衛の拡大が10年続き、新事業も育つ必要がある。受注という裏付けがある分、1割台半ばに置いた。
やや楽観 25% 増強した設備が稼ぎ、ROEが資本コストを大きく上回る 利益 481 億円 · PER 19.2 倍 · 株価時価総額 12,518 円9,216 億円
増強した原子力と火力の設備が稼ぎ、素形材の売上は10年で3倍近くに伸びる。防衛は、今の水準より高い予算が続き、売上は3倍に伸びる。樹脂機械は中国とインドの設備投資の波に乗り、成形機は欧州とインドでシェアを伸ばす。有機EL装置は、基板関連の新事業で補う。営業利益は700億円を超え、会社の2033年度の目標を上回る。ROEは12%台で資本コストを大きく上回り、市場は成長が続くと見て、倍率を中立より高くする。防衛と原子力の合計が営業利益の過半を占め、景気に左右されにくい会社になる。ただ、樹脂機械の波は残り、利益率は一直線には上がらない。
- 樹脂製造・加工機械と成形機:数量 1,997(対象市場の実質の規模 × 当社の取り分(億円換算、2026/03 の値段))× 価格 134(値段の指数(今を100。物価3%の分だけ上がるのが基本))→ 売上 2,676 億円・営業利益 201 億円。実質1.45倍×価格指数134
- 防衛関連機器:数量 1,032(防衛省の対象装備の調達規模(実質)× 当社の取り分(億円換算))× 価格 134(値段の指数(今を100。契約は物価調整が入るため物価並みに上がるのが基本))→ 売上 1,383 億円・営業利益 159 億円。実質2.20倍×価格指数134
- 電子デバイス他:数量 624(パネルと基板の設備投資の実質の規模 × 当社の取り分(億円換算))× 価格 134(値段の指数(今を100。装置は大型化で単価が上がり、物価並みに上がるのが基本))→ 売上 836 億円・営業利益 142 億円。実質1.50倍×価格指数134
- 素形材・エンジニアリング:数量 960(世界の原子力・高効率火力向け大型部材の実質の規模 × 当社の取り分(億円換算))× 価格 134(値段の指数(今を100。供給が限られる部材で、物価並みに上がるのが基本))→ 売上 1,286 億円・営業利益 251 億円。実質2.10倍×価格指数134
倍率:事業の純利益 481 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.4% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 10.6%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.2 倍。全体の PER 19.16 倍、時価総額 9,216 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:増強した設備が計画どおり稼ぎ、中計の2033年度目標に近づく筋書き。強気の見方がやや強いため2割台半ばに置いた。
中立 30% 中立:独占的な2本柱が利益を伸ばすが、資本効率は並みにとどまる 利益 369 億円 · PER 17.5 倍 · 株価時価総額 8,786 円6,469 億円
素形材は能力を2倍にした設備が稼ぎ、10年で売上は2倍半近くに伸びる。防衛は、2027年度以降は予算が高止まりし、実質ではほぼ横ばいで、会社の2029年3月期の目標(売上1,000億円)の水準を保つ。樹脂機械は、需要の波を均すと緩やかに伸び、保守・改造で利益率が少し上がる。有機EL装置は、投資の山と谷を繰り返しながら緩やかに伸びる。営業利益は540億円ほどで、会社の2033年度の目標500億円に近い。ただ設備投資がかさみ、自己資本も増えるため、ROEは10%前後にとどまる。資本コストを少し上回る程度の会社として、倍率は今より落ち着いた水準に収まる。防衛と原子力が全社の利益の半分以上を稼ぐ姿になり、景気に左右される部分は小さくなる。それでも、樹脂機械や有機EL装置の波は残り、利益は年ごとに上下する。
- 樹脂製造・加工機械と成形機:数量 1,790(対象市場の実質の規模 × 当社の取り分(億円換算、2026/03 の値段))× 価格 134(値段の指数(今を100。物価3%の分だけ上がるのが基本))→ 売上 2,399 億円・営業利益 156 億円。実質1.30倍×価格指数134
- 防衛関連機器:数量 844(防衛省の対象装備の調達規模(実質)× 当社の取り分(億円換算))× 価格 134(値段の指数(今を100。契約は物価調整が入るため物価並みに上がるのが基本))→ 売上 1,131 億円・営業利益 119 億円。実質1.80倍×価格指数134
- 電子デバイス他:数量 541(パネルと基板の設備投資の実質の規模 × 当社の取り分(億円換算))× 価格 134(値段の指数(今を100。装置は大型化で単価が上がり、物価並みに上がるのが基本))→ 売上 725 億円・営業利益 112 億円。実質1.30倍×価格指数134
- 素形材・エンジニアリング:数量 823(世界の原子力・高効率火力向け大型部材の実質の規模 × 当社の取り分(億円換算))× 価格 134(値段の指数(今を100。供給が限られる部材で、物価並みに上がるのが基本))→ 売上 1,102 億円・営業利益 198 億円。実質1.80倍×価格指数134
倍率:事業の純利益 369 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.1% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.5 倍。全体の PER 17.53 倍、時価総額 6,469 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の2033年度目標(営業利益500億円)に3年遅れで届く程度の、最も起こりやすい筋書き。
やや悲観 20% 防衛が頭打ちになり、樹脂機械は中国に押される 利益 222 億円 · PER 11.7 倍 · 株価時価総額 3,534 円2,602 億円
2027年度で防衛力整備計画が切れ、次の予算は伸びが鈍くなる。防衛の売上は今の延長ほどには増えない。樹脂機械は、中国メーカーの追い上げで、汎用の成形機と押出機の値段が物価に届かない。有機EL装置も、中国の国産装置が出て取り分が縮む。原子力の素形材は伸びるが、全体を支えきれない。営業利益は320億円ほどで、ROEは7%を割る。資本コストを下回る会社として、倍率は下がる。原子力の素形材と有機EL装置の保守は残り、会社は黒字を保つ。ただ、成長する会社というより、守る会社になる。経営は還元を厚くして資本効率を守ろうとするが、利益そのものが伸びないため、株主にとっては物足りない10年になる。
- 樹脂製造・加工機械と成形機:数量 1,515(対象市場の実質の規模 × 当社の取り分(億円換算、2026/03 の値段))× 価格 128(値段の指数(今を100。物価3%の分だけ上がるのが基本))→ 売上 1,939 億円・営業利益 97 億円。実質1.10倍×価格指数128(競争で価格は物価を下回る)
- 防衛関連機器:数量 704(防衛省の対象装備の調達規模(実質)× 当社の取り分(億円換算))× 価格 128(値段の指数(今を100。契約は物価調整が入るため物価並みに上がるのが基本))→ 売上 900 億円・営業利益 81 億円。実質1.50倍×価格指数128
- 電子デバイス他:数量 437(パネルと基板の設備投資の実質の規模 × 当社の取り分(億円換算))× 価格 128(値段の指数(今を100。装置は大型化で単価が上がり、物価並みに上がるのが基本))→ 売上 559 億円・営業利益 67 億円。実質1.05倍×価格指数128
- 素形材・エンジニアリング:数量 640(世界の原子力・高効率火力向け大型部材の実質の規模 × 当社の取り分(億円換算))× 価格 128(値段の指数(今を100。供給が限られる部材で、物価並みに上がるのが基本))→ 売上 819 億円・営業利益 123 億円。実質1.40倍×価格指数128
倍率:ROE 6.8% が k 7% 以下で、ためた利益は額面を下回る価値なので PER は 1÷k = 13.8 倍まで。増強した設備が稼ぎきれず、ROE は k を下回る筋書き。稼ぐ力(純利益 ÷ k)から、上限の 8.5 割の 11.7 倍に置いた。
確率:防衛予算の頭打ちと中国勢の追い上げが重なる筋書き。起こりうる出来事として2割に置いた。
悲観 10% 品質の信用を失い、原子力と防衛の柱が細る 利益 80 億円 · PER 10.5 倍 · 株価時価総額 1,141 円840 億円
品質の問題が再び表に出て、原子力と火力の顧客が調達先を分散する。国産化を進める国も出て、素形材の実質の売上が縮む。防衛は予算が頭打ちとなり、納入の増加が止まる。樹脂機械と有機EL装置は、中国勢に押されて値段が物価に追いつかない。営業利益は100億円台まで落ち、もう優良な会社とは呼べない。自己資本は残るが、稼ぐ力が資本コストを大きく下回るため、帳簿の6割に届かない値段がつく。防衛と原子力に頼ってきた分、ひとつの柱が崩れると全社の形が揺らぐ。経営は事業の入れ替えを迫られ、再編や外部資本の受け入れも現実味を帯びる。
- 樹脂製造・加工機械と成形機:数量 1,239(対象市場の実質の規模 × 当社の取り分(億円換算、2026/03 の値段))× 価格 115(値段の指数(今を100。物価3%の分だけ上がるのが基本))→ 売上 1,425 億円・営業利益 36 億円。実質0.90倍×価格指数115(中国勢に押され、価格は物価に届かない)
- 防衛関連機器:数量 610(防衛省の対象装備の調達規模(実質)× 当社の取り分(億円換算))× 価格 115(値段の指数(今を100。契約は物価調整が入るため物価並みに上がるのが基本))→ 売上 701 億円・営業利益 53 億円。実質1.30倍×価格指数115(予算が頭打ちとなり、納入の増加が止まる)
- 電子デバイス他:数量 333(パネルと基板の設備投資の実質の規模 × 当社の取り分(億円換算))× 価格 115(値段の指数(今を100。装置は大型化で単価が上がり、物価並みに上がるのが基本))→ 売上 383 億円・営業利益 23 億円。実質0.80倍×価格指数115
- 素形材・エンジニアリング:数量 434(世界の原子力・高効率火力向け大型部材の実質の規模 × 当社の取り分(億円換算))× 価格 115(値段の指数(今を100。供給が限られる部材で、物価並みに上がるのが基本))→ 売上 499 億円・営業利益 45 億円。実質0.95倍×価格指数115(原発計画の遅れと国産化で実質が縮む)
倍率:ROE 2.8% が k 7% 以下で、ためた利益は額面を下回る価値なので PER は 1÷k = 13.8 倍まで。柱の 1 つが崩れ、もう優良な会社とは呼べなくなる構造悲観。ROE が k を大きく下回るので、稼ぐ力(純利益 ÷ k)を上限に、上限の 7.6 割の 10.5 倍に置いた(やや悲観の 11.7 倍より低く)。
確率:検査不正の再発や原発政策の転換で、独占が崩れる構造的な負け。起こりにくいが重いので1割に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
樹脂製造・加工機械と成形機
プラスチック原料をつくる造粒機・二軸混練押出機、電池用フィルム装置、射出成形機(マグネシウム用を含む)と、その保守・改造。
| 数量対象市場の実質の規模 × 当社の取り分(億円換算、2026/03 の値段) | 価格値段の指数(今を100。物価3%の分だけ上がるのが基本) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,377 | 100 | 1,377 | 83 |
| 10 年後 中立 | 1,790 | 134 | 2,399 | 156 |
取り方:2026/03期の売上1,377億円(樹脂製造・加工729、成形機648)。射出成形機の世界市場は1兆数千億円規模と推定し、当社の取り分は数%(国内は首位)。造粒機・二軸押出機は市場が小さく、当社は世界首位級。営業利益は産業機械全体200億円から防衛・電子デバイスの推定を引き、約83億円(率6%)とした(開示は産業機械全体のみ)。
防衛関連機器
火砲、ミサイル発射筒、装輪装甲車などの防衛装備品と、将来装備(レールガン)の研究試作。
| 数量防衛省の対象装備の調達規模(実質)× 当社の取り分(億円換算) | 価格値段の指数(今を100。契約は物価調整が入るため物価並みに上がるのが基本) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 469 | 100 | 469 | 47 |
| 10 年後 中立 | 844 | 134 | 1,131 | 119 |
取り方:2026/03期の売上469億円(防衛装備庁向けは約300億円)。防衛力整備計画(2023〜27年度、約43.5兆円)のうち当社の対象は火砲・発射筒・装甲車などの一部。営業利益は官需の契約で率10%前後と推定し47億円(開示は産業機械全体のみ)。 10 年の伸びの根拠:会社の中計 JGP2028 の 2026/07 更新で 2029/03 期の防衛関連売上の目標を 800→1,000 億円(前期の 2.1 倍)に上げ、2025/03 期の防衛受注は 1,130 億円(売上を上回る)。防衛力整備計画の 43.5 兆円は名目で 2027 年度に GDP 比 2% へ届く計画なので、2029 年以降は予算が物価で伸びる分(価格に入れる)を除き実質ほぼ横ばいと置いた。実質 1.9 倍に当たる目標の 9 割強(1.8 倍)を中立にした(旧 1.9 倍)。GDP 比 3.5% 級への増額は楽観(2.8 倍)だけ。
電子デバイス他
有機EL・液晶パネル用レーザーアニール装置(F-ELA)、基板用の真空プレス機、ラミネーター。
| 数量パネルと基板の設備投資の実質の規模 × 当社の取り分(億円換算) | 価格値段の指数(今を100。装置は大型化で単価が上がり、物価並みに上がるのが基本) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 416 | 100 | 416 | 69 |
| 10 年後 中立 | 541 | 134 | 725 | 112 |
取り方:2026/03期の売上416億円。ELA装置は世界シェア約8割(自社開示)で、取り分は市場の設備投資額のうち装置分の大半。営業利益は率16〜17%と推定し69億円(高い取り分とアフターサービスの厚み。開示は産業機械全体のみ)。
素形材・エンジニアリング
原子炉圧力容器・蒸気発生器・発電機や蒸気タービンの軸などの大型鍛鋼品(素形材)と、原子力・水素向けの機器(エンジニアリング)。
| 数量世界の原子力・高効率火力向け大型部材の実質の規模 × 当社の取り分(億円換算) | 価格値段の指数(今を100。供給が限られる部材で、物価並みに上がるのが基本) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 457 | 100 | 457 | 88 |
| 10 年後 中立 | 823 | 134 | 1,102 | 198 |
取り方:2026/03期の売上457億円(素形材397、エンジニアリング60)、営業利益88億円(開示。率19%)。世界の原子炉圧力容器用大型鍛鋼品は当社が約8割。火力発電の軸は能力を1.5倍にする設備投資を実施中。
リスクと懸念
品質への信用
2022年に子会社で、1998年からの検査データ改ざん(合計449件)が明らかになった。同じ種類の問題が再発すれば、原子力と火力の顧客は調達先を分けかねず、独占の前提が揺らぐ。外部調査を受けた再発防止が実を結ぶかを見続ける必要がある。再発防止の柱は検査部門の独立である。
設備投資の波
樹脂機械と有機EL装置は、顧客の設備投資の山と谷をそのまま受ける。中国の投資停滞とEV電池の失速で、樹脂機械の売上は足元で縮んでいる。谷が重なれば、全社の利益は2〜3年のあいだ伸びない。設備を増やした直後の谷は、償却だけが残って利益率を大きく下げる。
防衛予算の頭打ち
防衛力整備計画は2027年度で切れる。2026年内に安全保障三文書が改定されるが、次の予算が今のペースを保つ保証はない。防衛の売上を3年で2倍に見込む会社の計画は、この予算の見通しに強く依存する。防衛の利益率は10%前後と厚くはなく、売上が増えても利益の伸びは限られる。
増強投資の回収
広島の機械工場、室蘭の溶解設備、有機EL装置のクリーンルームなどが2028年3月期にかけて稼働する。需要が計画どおりでも、立ち上がりの遅れや償却負担で、利益率が計画に届かない期が出うる。能力増強は2028年3月期の竣工が中心で、需要の見誤りは固定費として残る。
中国の追い上げと国産化
射出成形機と押出機では、中国メーカーが汎用機の値段を下げている。原発では、各国が自国産の部材を求める動きがある。同社の強みである精度と実績が、安い代替品で置き換えられる範囲が広がれば、利益率が下がる。汎用機から先に置き換わり、高精度の領域に押し込められる形が起こりやすい。
原発政策の揺れ
原子力の素形材は、各国の原発政策に左右される。建設の遅れ、事故、費用の超過で計画が止まれば、能力を倍にする投資が重荷になる。受注の裏付けがあるうちは見えにくいが、10年の見通しの中心にある不確かさだ。原子力は10年の中心だが、政治に左右されやすい点は変わらない。
今後の分かれ目
- 原子力と火力の部材の受注が、2027年以降も衰えずに増え続ける
- 素形材の営業利益率が2割を超え、全社の営業利益は会社の目標400億円を上回る。強気の筋書きの比重が上がり、本質価値は大きく上がる。
- 防衛力整備計画に続く2028年度以降の予算が、今のペースを下回る
- 防衛の売上は伸びが止まり、増強した生産設備の稼働率が下がる。やや悲観の筋書きに近づく。
- 有機EL・パッケージ基板向けの新型装置の受注が、2027年に本格化する
- 電子デバイスの売上が計画を超え、利益率も上がる。成長の質が良くなり、倍率の上限が引き上がる。
- 樹脂機械で中国・インドの設備投資が戻り、保守・改造の売上が伸びる
- 利益率が6%から8%近くへ上がり、全社の営業利益を数十億円押し上げる。
- 品質問題や検査の不備が再び表に出る
- 原子力・火力の顧客が調達先を分け、素形材の売上が縮む。倍率も大きく下がり、構造的な負けの筋書きに近づく。
- 自社株買いや配当性向の引き上げで、ROE向上を明確にする
- 資本効率の改善が期待でき、倍率は少し上がる。利益そのものは変わらないため、効果は限られる。
見ておくもの
- 素形材・エンジニアリングの受注残と営業利益率(原子力・火力の設備増強が計画どおり稼ぐか)
- 防衛関連機器の売上と、2026年内に改定される安全保障三文書、次の防衛力整備計画の規模
- 有機EL向けレーザー装置の受注と、パネルメーカーの設備投資の動き
- 樹脂製造・加工機械の受注(中国・インドの石化投資、電池向けフィルム装置の再開)
- 品質保証の再発防止の実施状況と、検査関連の新たな開示の有無
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価(PER約26倍、PBR約2.3倍)を見ずに、その時点のROEと資本コスト7%(基本7.5%にquality−0.25%)から正当化PERを出した。中立・やや楽観・楽観は、強い堀(残る割合2/3)としたうえで、受注型の資本財であることから上限の8〜9割に置き、やや悲観・悲観は稼ぐ力(純利益÷k)で測った。今の値段が高く見えるのは結果であり、筋書きの数字を値段に寄せていない。純有利子負債は87億円で時価総額の約2%、純現金ではないので余った現金は立てていない。製造業で借りている店舗・倉庫は大きくなく、新リース会計(2028年3月期から)で数字の形が変わる点は、10年後の数字を今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえて扱った。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 17.9→20.41 倍・やや楽観 PER 15.78→19.16 倍・中立 PER 13.48→17.53 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality −0.25% = 7.25%。2022 年の検査不正の信用の傷は k に足さず、筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.25% → 7.00%。