結論
岡谷鋼機は、1669年に名古屋で金物商として始まった独立系の専門商社だ。鉄鋼・情報電機・産業資材・生活産業の4部門で、売上は1兆円を超える。筆者の結論は、今の値段は割安というものだ。いちばんの理由は、持っている上場株が会社の値段より大きいことにある。
稼ぐ力は堅い。売上は5期続けて増え、純利益は305億円と過去最高になった。伸びを引っ張るのは情報・電機で、初めて利益の最大の柱になった。データセンターや半導体、車載の需要が追い風だ。
弱みもはっきりしている。利益のうち配当に回すのは1割ほどで、残りは会社にたまる。たまった分は事業の稼ぎを生まず、ROEは6%台にとどまる。資本コストを下回る水準だ。会社は今期、純利益320億円と6期連続の最高を見込む。それでも利益の使い道が変わらなければ、評価は上がりにくい。
10年で見ると、国内の鉄鋼は人口とともに細る。伸びるのは電子と海外だ。新しい中期計画は、2031年2月期に純利益400億円を掲げた。筆者はこの目標を、手堅いが特別に高くはないと見る。
株主への姿勢が変われば、価値は上に動く。変わらなくても、稼ぐ力と保有株だけで今の値段は支えられる。ただし利益率は薄く、倍率は低いままだ。割安だが、急に評価が変わる会社ではない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「事業は良く、資本の使い方が惜しい」と映る。
事業は10年後も残る。中部圏の製造業との関係は深く、赤字もない。買収で価値を壊す心配も小さい。
問題は、稼いだ利益の行き先だ。株主に渡る分は1割ほどで、残りは会社にたまる。たまった分が事業の稼ぎを生まず、ROEは資本コストを下回る。ためたお金は、額面どおりの価値にならない。筆者が倍率を低めに見るのは、このためだ。
一方で、保有株という実物の資産がある。トヨタ株などの時価は、会社の値段を上回る。使い道を変えれば、価値は表に出る。筆者は、取引の要のトヨタ株を除いた約1,200億円を事業に要らない資産と見て、その半分を価値に足す。残る半分は、持ち合いと安定株主のせいで、株主に戻りにくいと割り引く。
安全域はある。ただし、それは値段が安いという意味であって、会社が急に変わるという意味ではない。構造的に負ける筋書きでも、稼ぐ力と保有株の価値が値段の土台になる。
何で稼ぐ会社か
岡谷鋼機は、鉄鋼・情報電機・産業資材・生活産業の4部門を持つ商社だ。売上は、前の3部門が約3割ずつ、生活産業が1割弱を占める。
鉄鋼は、自動車や機械向けの鋼板、特殊鋼、建材、鉄スクラップを扱う。製鉄会社から仕入れ、加工して顧客に届ける。東海プレス工業などの加工子会社が付加価値をつける。売上は最大だが、営業利益は2番手に下がった。
情報・電機は、電子部品、半導体関連、情報インフラ、車載部品、非鉄材料を扱う。営業利益は134億円で、全社の最大の柱になった。前の期から5割近く伸びている。
産業資材は、トヨタ自動車を中心とする中部圏の自動車部品、合成樹脂、メカトロニクスや機械の取引だ。トヨタ株は、岡谷鋼機の保有株で最大の銘柄でもある。
生活産業は、食品、建材、生活関連の卸と小売、それに鋳物や配管機器の金属加工だ。2024年に桑名金属工業を取り込み、規模が増えた。
海外売上は3分の1強で、拠点は世界23か国以上に広がる。連結子会社は78社に上る。上場は名古屋証券取引所のプレミア市場のみだ。
稼ぎ方は単純だ。メーカーから仕入れ、加工、物流、在庫、代金の立替えを引き受けて、その手間賃に近い利幅を得る。営業利益率は3%台と薄く、取扱量と回転の速さで稼ぐ商売である。子会社は加工・販売・物流に広がり、商社の機能に「加工する力」を足している。
優良さと弱いところ
筆者がこの会社に見る一番の強みは、独立性と取引の長さだ。総合商社にも製鉄会社にも属さないため、仕入れ先も売り先も自由に選べる。創業から350年超、中部圏で商いを続け、豊田・刈谷にも支店を置く。トヨタ系の現場の細かい注文に応える関係は、値引きだけでは崩れにくい。
営業利益率は3.5%で、同じ鉄鋼系の阪和興業より高い。ただし商社としては薄利だ。堀、つまり他社がまねできない強みは深くない。値段は仕入れ先と顧客が決める。
財務は堅い。自己資本比率は5割に近く、過去20年は赤字がない。同じ領域の兼松より、自己資本が厚い。純有利子負債は自己資本の3割ほどで、利払いの負担も軽い。
最大の弱みは資本の使い方だ。稼いだ利益の約9割を会社にためる。たまった分の多くは上場株に姿を変え、事業の稼ぎには結びつかない。ROEが資本コストを下回るのは、このためだ。
筆者は、新しい中期計画が還元の強化と資本効率の改善をうたう点に注目する。ただし数値目標は、確認できた範囲では出ていない。変わるかどうかは、10年の価値を左右する一番の分かれ目だと筆者は考える。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
岡谷鋼機の業界は、四つの別々の市場の集まりだ。景気の波も競争相手も違う。
鉄鋼は、国内の需要が縮む。2026年度の国内鋼材需要は、前年から1.5%ほど減っている。建設も国内の生産も、人口とともに細る。世界では、中国の過剰生産が鋼材の値段を押さえる。値段を決めるのは製鉄会社と中国で、商社の取り分は伸びにくい。世界の鋼材需要は17億トン前後で横ばいだ。インドなど新興国が伸び、中国が減る。日本の商社が取れるのは、国内と日系の海外工場向けが中心になる。
競合はメタルワン、伊藤忠丸紅鉄鋼、阪和興業、JFE商事だ。売上は岡谷鋼機の1.3倍から2倍ほどある。規模では勝てないため、加工と中部圏の顧客で戦っている。
自動車は、国内の生産が横ばいから微減だ。ただし電動化で、部品の中の半導体や電子部品が増える。会社は北米とインドで、顧客に付いて広げる考えだ。
電子と情報は、いちばん伸びる。データセンターと半導体の設備投資、工場の自動化が需要を押し上げる。ただし設備投資は、数年ごとに冷える。会社は、ロボットが自分で動くフィジカルAIの導入支援に力を入れる。
生活産業は、国内の人口減が逆風だ。買収で規模を保つ形になる。
資本政策と M&A
還元は薄い。配当性向は10%ほどで、2027年2月期は増配の予想だが、それでも性向は1割ほどだ。自社株買いもごくわずかにとどまる。
新しい中期計画GIC30は、株価を意識した経営と還元の強化を掲げた。ただ、配当性向や自社株買いの数値目標は、確認できた範囲では出ていない。
設備投資は、5年で800〜900億円と過去5年並みだ。買収は小粒が中心で、2023年に光洋マテリカ、2024年に桑名金属工業を取り込んだ。大型の買収で価値を壊す会社ではない。
政策保有株は、上場で169銘柄、時価は2,888億円ある。最大はトヨタ自動車の1,266億円で、三菱UFJ、大同特殊鋼、日本製鉄も持つ。取引関係を保つための保有だが、東証の資本効率の要請で、見直しの圧力は強まる。
筆頭株主は岡谷不動産で12.6%を持つ。大株主に銀行、製鉄会社、取引先が並び、TOBで買われる可能性は高くない。
点検済み(2026-10-19):中立の営業利益率 3.6% が直近の山(3.5%)を超え、会社の予想(3.0〜3.2%)・5年平均(3.0%)より高かった。電子 3.5%・鉄鋼 2.6%・産業資材 3.1%・生活 3.9%(全社 3.2%)に直し、売上〜時価総額・還元・自己資本を流した。保有株の余り 1,200 億は戻り方 0.5 で1回だけ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
強気の見方は、利益の質が変わりつつある点を突く。情報・電機は営業利益が5割近く伸び、初めて利益の最大の柱になった。データセンター、半導体、車載は、数量そのものが伸びる分野だ。ここに北米とインドの拡大が加われば、海外比率4割の目標は無理がない。
自動車では、価格転嫁が進んだ。2027年2月期は予想を引き上げ、純利益は320億円と6期連続で最高になる見込みだ。トヨタ系の取引は、部品の電子化でむしろ厚みが増す。
資本の面でも変化が起きている。東証の要請で、持ち合い株の見直しが進む。岡谷鋼機が保有株の一部を売り、還元や成長投資に回せば、ROEは上がる。時価総額より大きい保有株を、使わない手はない。
中期計画の純利益400億円は、5年で3割強の増益だ。物価が年3%で上がる世界なら、名目では無理のない数字になる。10年なら、500億円台も見える。海外が育つほど、国内の細りは目立たなくなる。
財務にも余裕がある。自己資本比率は5割に近く、営業活動で生む現金も大きく改善した。借金を減らしながら、投資も株主還元も増やせる体力だ。保有株の含み益は、トヨタ株の上昇でこの1年に大きく膨らんだ。会社の値段がそれを織り込んでいない、というのが強気の核心である。
慎重な見方
慎重な見方は、まず利益率の薄さを突く。営業利益率は3.5%で、過去最高の水準にある。ここから先に上がる余地は小さく、景気が冷えれば真っ先に削られる。2021年2月期には、純利益が2割強落ちた。
鉄鋼は、国内の需要が縮み、中国の過剰生産で値段も上がらない。売上が最大の事業が、利益は2番手に下がった。
自動車はトヨタ系への依存が大きい。電動化と現地調達が進めば、日本の商社が挟まる余地は狭くなる。取引先が直接調達に動く中抜きも進む。
最後は、還元の遅さだ。新しい計画は還元の強化をうたうが、数値目標が見えない。配当性向10%の会社が、短期間で変わるとは限らない。たまった利益はROE6%台で眠り、資本コストに届かない。保有株の含み資産も、取引関係を理由に売られない。値段が安いのは、安いだけの理由があるという見方だ。買収を重ねて規模を追う姿勢にも、資本の効率を落とす危うさがある。
財務も見かけほど軽くない。純有利子負債は1,400億円を超え、金利が上がれば、借り換えのたびに利払いが増える。保有株の含み益は、株価が下がればすぐに消える。トヨタ1銘柄に偏った資産を、安全域と呼ぶのは危うい。
どちらに重みを置いたか
強気の指摘のうち、電子分野の伸びは確かだ。一方、慎重な指摘のうち、利益率の薄さと還元の遅さは重い。そのため確率は、中立を最も厚くし、やや悲観を強気側より少し厚く置いた。
悲観は構造的に負ける筋書きで、1割にとどめた。20年間赤字がなく、自己資本が厚く、保有株という床があるためだ。還元が動くかどうかは確度が低く、強気に寄せすぎない。一方で、稼ぐ力そのものは堅く、慎重に寄せすぎもしない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/02 期)
確率で加重した株価時価総額 12,875 円5,005 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,473 円961 億円)。 今の値に割り戻すと 7,969 円3,098 億円、今との差 +59.4%、 期待の年率 +11.9%(資本コスト 7.5%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 21,137 円8,218 億円 | 4,527 円1,760 億円 | +413.3% | +17.8% | 1,796 円698 億円 |
| やや楽観 | 21% | 17,996 円6,996 億円 | 3,395 円1,320 億円 | +327.8% | +15.6% | 4,492 円1,746 億円 |
| 中立 | 38% | 14,327 円5,570 億円 | 2,225 円865 億円 | +231.0% | +12.7% | 6,290 円2,445 億円 |
| やや悲観 | 24% | 7,233 円2,812 億円 | 2,006 円780 億円 | +84.8% | +6.3% | 2,217 円862 億円 |
| 悲観 | 10% | 4,360 円1,695 億円 | 1,157 円450 億円 | +10.3% | +1.0% | 552 円214 億円 |
| 加重平均 | 100% | 12,875 円5,005 億円 | 2,473 円961 億円 | +206.9% | +11.9% | 15,347 円5,967 億円 |
今の株価時価総額 5,000 円1,944 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 7% 楽観:電子と海外で専門商社に変わる 利益 578 億円 · PER 13.4 倍 · 株価時価総額 21,137 円8,218 億円
10年後、データセンターと半導体、車載の需要が長く続き、情報・電機の取扱高は7割伸びる。北米とインドの拠点が育ち、海外比率は4割を超える。産業資材はトヨタ系の電動化と海外生産で、数量が3割増える。鉄鋼は国内の縮小を加工と輸出で支え、数量は横ばいを保つ。
営業利益は800億円を超え、純利益は580億円に近づく。経営は保有株の一部を売って還元に回し、還元は純利益の4割まで上がる。ROEは9%近くに乗り、資本コストをわずかに上回る。
会社は、鉄鋼商社でなく、電子と自動車の専門商社として見られる。ただし商社の利益率は薄いままで、倍率は高くならない。
- 鉄鋼(鋼板・特殊鋼・建材・鉄スクラップ):数量 400(取扱数量(万トン、鋼材・スクラップ換算))× 価格 13(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 5,062 億円・営業利益 162 億円。鉄鋼は加工と輸出で数量を保つ
- 情報・電機(電子部品・情報インフラ・車載・非鉄材料):数量 42.0(取扱高(実質の億ドル換算。対象市場×シェア))× 価格 201(1ドルあたり円(為替150円×物価の指数))→ 売上 8,437 億円・営業利益 371 億円。電子は取扱高が7割伸びる
- 産業資材(自動車部品・合成樹脂・メカトロ・機械):数量 27.9(取扱高(実質の億ドル換算。対象市場×シェア))× 価格 201(1ドルあたり円(為替150円×物価の指数))→ 売上 5,607 億円・営業利益 219 億円。産業資材は数量が3割増える
- 生活産業(食品・建材・生活関連・金属加工):数量 7.4(取扱高(実質の億ドル換算。対象市場×シェア))× 価格 201(1ドルあたり円(為替150円×物価の指数))→ 売上 1,493 億円・営業利益 72 億円。生活産業は買収で規模が伸びる
倍率:事業の純利益 561 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.7% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)900 億円。全体の PER 14.5 倍、時価総額 9,037 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:データセンターと半導体の需要が10年続き、電子の数量が大きく伸びる筋書きで、起こりにくいため小さく置いた。
やや楽観 21% やや楽観:電子と海外が計画どおり育つ 利益 490 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 17,996 円6,996 億円
10年後、電子と海外が中期計画どおりに育つ。情報・電機の取扱高は5割伸び、産業資材も2割近く増える。鉄鋼は国内の縮小を加工で和らげ、数量の減りは4%にとどまる。
営業利益は700億円強、純利益は490億円ほどになる。還元は純利益の3分の1まで上がるが、ためる傾向は残る。ROEは7%台で、資本コストに届かない。
保有株は、トヨタ以外の一部が売られるものの、大半は残る。会社の評価は、安定した稼ぎ手のままだ。電子の設備投資が一度は冷えるが、自動車と産業資材が下支えする。
成長は国内でなく、海外と電子から来る。北米とインドの拠点で、トヨタ系の顧客に付いていく動きが実を結ぶ。
- 鉄鋼(鋼板・特殊鋼・建材・鉄スクラップ):数量 384(取扱数量(万トン、鋼材・スクラップ換算))× 価格 13(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 4,860 億円・営業利益 146 億円。鉄鋼は縮小が小さい
- 情報・電機(電子部品・情報インフラ・車載・非鉄材料):数量 37.0(取扱高(実質の億ドル換算。対象市場×シェア))× 価格 201(1ドルあたり円(為替150円×物価の指数))→ 売上 7,444 億円・営業利益 305 億円。電子の取扱高が5割伸びる
- 産業資材(自動車部品・合成樹脂・メカトロ・機械):数量 25.1(取扱高(実質の億ドル換算。対象市場×シェア))× 価格 201(1ドルあたり円(為替150円×物価の指数))→ 売上 5,047 億円・営業利益 187 億円。産業資材が2割近く増える
- 生活産業(食品・建材・生活関連・金属加工):数量 6.6(取扱高(実質の億ドル換算。対象市場×シェア))× 価格 201(1ドルあたり円(為替150円×物価の指数))→ 売上 1,321 億円・営業利益 59 億円。生活産業は小幅に伸びる
倍率:事業の純利益 473 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.4% が k 7.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)900 億円。全体の PER 13.33 倍、時価総額 7,208 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中期計画どおりに電子と海外が伸び、還元も少し厚くなる筋書き。
中立 38% 中立:国内の縮小を電子と海外が補う 利益 383 億円 · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 14,327 円5,570 億円
10年後、国内の鉄鋼は人口とともに細り、数量が1割近く減る。その分を電子と海外の伸びが補う。情報・電機の取扱高は3割台半ば増え、産業資材は5%ほど増える。物価の分は価格に乗り、営業利益は550億円台に乗る。営業利益率は直近の山(3.5%)を超えず、5年平均に近い3.2%にとどまる。
純利益は380億円ほどで、今の1.25倍だ。利払いが増える分を、営業利益の伸びが吸収する。還元は純利益の4分の1まで上がるが、ROEは5%台にとどまる。
中期計画の400億円には、10年の後半でようやく届く。会社は赤字にならず、保有株の大半も残る。筆者は、この筋書きを10年の落としどころと見る。電子の不況は一度は来るが、自動車と産業資材が支える。
- 鉄鋼(鋼板・特殊鋼・建材・鉄スクラップ):数量 368(取扱数量(万トン、鋼材・スクラップ換算))× 価格 13(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 4,657 億円・営業利益 121 億円。鉄鋼は国内縮小で数量が8%減
- 情報・電機(電子部品・情報インフラ・車載・非鉄材料):数量 33.3(取扱高(実質の億ドル換算。対象市場×シェア))× 価格 201(1ドルあたり円(為替150円×物価の指数))→ 売上 6,700 億円・営業利益 235 億円。電子は取扱高が35%伸びる
- 産業資材(自動車部品・合成樹脂・メカトロ・機械):数量 22.5(取扱高(実質の億ドル換算。対象市場×シェア))× 価格 201(1ドルあたり円(為替150円×物価の指数))→ 売上 4,529 億円・営業利益 140 億円。産業資材は5%増
- 生活産業(食品・建材・生活関連・金属加工):数量 6.0(取扱高(実質の億ドル換算。対象市場×シェア))× 価格 201(1ドルあたり円(為替150円×物価の指数))→ 売上 1,206 億円・営業利益 47 億円。生活産業は5%増
倍率:事業の純利益 366 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.8% が k 7.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)900 億円。全体の PER 13.33 倍、時価総額 5,781 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の鉄鋼が細り、電子と海外が伸びる穏やかな成長。最も厚く置いた。
やや悲観 24% やや悲観:利益率が落ち、還元も変わらない 利益 325 億円 · PER 6.3 倍 · 株価時価総額 7,233 円2,812 億円
10年後、電子は競争で利益率が下がり、取扱高の伸びも1割台にとどまる。国内の鉄鋼は縮小が速まり、数量が15%減る。産業資材は国内の自動車生産の減りで、数量が5%減る。
営業利益は460億円ほどで、今より少し増えるだけだ。純利益は325億円で、ROEは5%を割る。還元は純利益の4分の1にとどまり、保有株も売られない。
事業は残るが、伸びる商社とは見られなくなる。利益率が薄いため、わずかな値下げで利益が削られる。借金の利払いも重くなり、増益の余地を食う。保有株は、時価が下がれば自己資本も減る。
会社は買収で穴を埋めようとするが、価格次第で減損の恐れも抱える。
- 鉄鋼(鋼板・特殊鋼・建材・鉄スクラップ):数量 340(取扱数量(万トン、鋼材・スクラップ換算))× 価格 12(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 4,175 億円・営業利益 104 億円。鉄鋼は縮小が速まる
- 情報・電機(電子部品・情報インフラ・車載・非鉄材料):数量 28.4(取扱高(実質の億ドル換算。対象市場×シェア))× 価格 195(1ドルあたり円(為替150円×物価の指数))→ 売上 5,537 億円・営業利益 188 億円。電子は利益率が下がる
- 産業資材(自動車部品・合成樹脂・メカトロ・機械):数量 20.4(取扱高(実質の億ドル換算。対象市場×シェア))× 価格 195(1ドルあたり円(為替150円×物価の指数))→ 売上 3,975 億円・営業利益 119 億円。産業資材は国内の自動車減で縮む
- 生活産業(食品・建材・生活関連・金属加工):数量 5.4(取扱高(実質の億ドル換算。対象市場×シェア))× 価格 195(1ドルあたり円(為替150円×物価の指数))→ 売上 1,058 億円・営業利益 40 億円。生活産業は需要減で縮む
倍率:事業の純利益312億円・事業ROE 4.9% は資本コスト7.5%を大きく下回り、上限は1÷k=11.8倍。ためた利益が額面を下回る価値になるうえ、利益の山が過ぎた局面。上限の約5割の6.3倍に置いた。
確率:電子の伸びが鈍り、鉄鋼と国内の自動車が重くなる筋書き。慎重な見方が強いと見て厚めに置いた。
悲観 10% 悲観:構造的に負ける 利益 175 億円 · PER 5.0 倍 · 株価時価総額 4,360 円1,695 億円
10年のあいだに、構造的に負ける。国内の鉄鋼は需要が3分の2近くまで減り、中国の過剰生産で値段も上がらない。電動化と現地調達で、トヨタ系の部品と機械の取引が細る。電子でも、メーカーが直接調達に動き、商社の取り分が縮む。
営業利益は300億円を割り、純利益は175億円まで落ちる。のれんや事業整理の損失も出る。配当は維持するが、成長に回す余力はない。ROEは3%前後だ。
保有株は売られず、値段の土台として残る。ただし利益を生まないため、評価は資産の価値で測られる株に移る。
10年の間に、トヨタ系の取引と国内鉄鋼という、これまでの中核が二つとも細る。新しい柱を育てる前に、利益が先に落ちる。
- 鉄鋼(鋼板・特殊鋼・建材・鉄スクラップ):数量 260(取扱数量(万トン、鋼材・スクラップ換算))× 価格 11(1トンあたり平均単価(万円))→ 売上 2,947 億円・営業利益 62 億円。鉄鋼は構造的に縮む
- 情報・電機(電子部品・情報インフラ・車載・非鉄材料):数量 22.2(取扱高(実質の億ドル換算。対象市場×シェア))× 価格 195(1ドルあたり円(為替150円×物価の指数))→ 売上 4,333 億円・営業利益 121 億円。電子は中抜きで取扱高が減る
- 産業資材(自動車部品・合成樹脂・メカトロ・機械):数量 16.1(取扱高(実質の億ドル換算。対象市場×シェア))× 価格 192(1ドルあたり円(為替150円×物価の指数))→ 売上 3,090 億円・営業利益 77 億円。産業資材は取引が細る
- 生活産業(食品・建材・生活関連・金属加工):数量 4.6(取扱高(実質の億ドル換算。対象市場×シェア))× 価格 195(1ドルあたり円(為替150円×物価の指数))→ 売上 891 億円・営業利益 29 億円。生活産業も需要減で縮む
倍率:事業の純利益167億円・事業ROE 3.0% は資本コスト7.5%を大きく下回り、上限は1÷k=11.8倍。構造的に負けて、ためた利益がほとんど価値にならない筋書き。上限の約4割の5.0倍に置いた。含み資産は別に足してあるので、倍率には含めない。
確率:国内鉄鋼の縮小、トヨタ系の取引の細り、中抜きが重なり、優良な商社でなくなる筋書き。20年間赤字がない会社なので1割にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
鉄鋼(鋼板・特殊鋼・建材・鉄スクラップ)
自動車・建設・機械向けの鋼板、特殊鋼、建材、鉄スクラップの仕入れ・加工・販売。東海プレス工業などの加工子会社を持つ。
| 数量取扱数量(万トン、鋼材・スクラップ換算) | 価格1トンあたり平均単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 400 | 9.45 | 3,778 | 110 |
| 10 年後 中立 | 368 | 13 | 4,657 | 121 |
取り方:鉄鋼の売上3,778億円を、鋼材・スクラップ換算で400万トン、平均単価9.4万円に分けた推定値。開示は金額のみで、数量は特殊鋼・鋼板(トン十数万円)と建材・スクラップ(数万円)の構成から置いた。国内の鋼材需要は人口と建設の縮小で細るため、中立の数量は10年で0.92倍。
情報・電機(電子部品・情報インフラ・車載・非鉄材料)
電子部品・半導体関連、情報インフラ、車載部品、非鉄材料を扱う。岡谷エレクトロニクス、六合エレメックなどが担う。
| 数量取扱高(実質の億ドル換算。対象市場×シェア) | 価格1ドルあたり円(為替150円×物価の指数) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 24.7 | 150 | 3,703 | 134 |
| 10 年後 中立 | 33.3 | 201 | 6,700 | 235 |
取り方:情報・電機の売上3,703億円を、実質で24.7億ドルとドル円150円に分けた推定値。為替は150円で固定し、物価の分は価格の指数に入れた。開示は金額のみで、数量は電子部品・車載・データセンター向けの対象市場に対するシェア分として置いた。
産業資材(自動車部品・合成樹脂・メカトロ・機械)
トヨタ系を軸にした自動車部品、合成樹脂原料、メカトロニクス・工作機械の取引。東海岡谷機材などが担う。
| 数量取扱高(実質の億ドル換算。対象市場×シェア) | 価格1ドルあたり円(為替150円×物価の指数) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 21.5 | 150 | 3,219 | 111 |
| 10 年後 中立 | 22.5 | 201 | 4,529 | 140 |
取り方:産業資材の売上3,219億円を、実質で21.5億ドルとドル円150円に分けた推定値。為替は150円で固定。開示は金額のみで、数量は中部圏の自動車・機械メーカー向けの取引量をシェアから置いた。国内の自動車生産は横ばいで、北米・インドの拡大が数量を支える。
生活産業(食品・建材・生活関連・金属加工)
食品、住宅建材、生活関連の卸と小売、鋳物や配管機器などの金属加工(桑名金属工業)。M&Aで規模を伸ばしている。
| 数量取扱高(実質の億ドル換算。対象市場×シェア) | 価格1ドルあたり円(為替150円×物価の指数) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/02 | 5.7 | 150 | 857 | 38 |
| 10 年後 中立 | 6.0 | 201 | 1,206 | 47 |
取り方:生活産業の売上857億円を、実質で5.7億ドルとドル円150円に分けた推定値。為替は150円で固定。開示は金額のみ。国内の生活需要は人口で細るが、買収した金属加工と新しい分野の上乗せで中立は1.05倍。
リスクと懸念
還元が変わらないリスク
配当性向は10%ほどで、新しい計画に数値目標が見えない。還元が増えなければ、ためた利益は資本コストを下回るROEで眠り続ける。株価も資産の価値に近づきにくい。
薄い利益率と景気の波
営業利益率は3.5%と過去最高の水準にあり、さらに上げる余地は小さい。鉄鋼と自動車、半導体の景気が冷えれば利益は削られる。2021年2月期には純利益が2割強落ちた。
国内鉄鋼の縮小
鉄鋼は売上で最大の部門だが、国内の鋼材需要は人口と建設の縮小で細る。中国の過剰生産で値段も上がりにくく、加工や輸出で補えるかが分かれ目だ。
トヨタ系への依存
産業資材の中心はトヨタ自動車を軸にした中部圏の取引で、保有株の最大銘柄もトヨタだ。電動化や現地調達が進むと、取引の中身と商社の取り分が変わる可能性がある。
中抜きと取引先の内製化
電子部品や鋼材は、メーカーが直接調達に動けば商社の取り分が縮む。岡谷鋼機は独立系で規模が小さく、総合商社より価格交渉力が弱い。加工や技術提案で守れる分野を広げられるかが問われる。
保有株の価格変動
上場株は時価2,888億円で、時価総額を上回る。株価が下がれば自己資本も減り、含み資産の安全域も薄くなる。トヨタ1銘柄で約1,266億円を占め、偏りも大きい。
買収の失敗と減損
2023年に光洋マテリカ、2024年に桑名金属工業を取り込んだように、買収を続けている。北米やインドの拡大でも買収を使えば、価格を払いすぎてのれんの減損が出る恐れがある。
今後の分かれ目
- 新しい中期計画で配当性向や自社株買いの数値目標が示される(配当性向30%以上など)
- 還元が厚い筋書きの確率を上げる。ためた利益が働き始め、ROEが資本コストに近づく。
- トヨタ株など持ち合い株の売却と還元への充当が発表される
- 含み資産が表に出る。戻り方の見方を上げ、保有株の価値を多く足してよい。
- 情報・電機の営業利益が2期続けて前年を下回る
- 電子の伸びが続く前提が崩れる。楽観側の確率を下げ、中立の利益を見直す。
- 国内の鉄鋼数量が毎年1割近く減る
- 縮小が想定より速い。鉄鋼の数量を下げ、やや悲観の確率を上げる。
- トヨタ系の取引で内製化や調達先の変更が報じられる
- 産業資材の数量と取り分を下げて見直す。悲観の確率を上げる。
- 数百億円規模の大型買収が出る
- 減損の恐れが増す。買う事業の利益率と価格を確かめ、悪ければ悲観の確率を上げる。
見ておくもの
- 情報・電機と産業資材の四半期ごとの営業利益
- 新しい中期計画(GIC30)の還元の数値と、保有株の売却額
- 国内の鋼材需要と、中国の鋼材の輸出量
- トヨタ自動車の国内生産と、電動化に伴う部品の取引の変化
- 純有利子負債と、借り換えの金利
倍率と資本コストの決め方
先に4部門ごとに数量×価格で10年の営業利益を積み、次に利払いの増加(税前で約36億円)と受取配当の伸びを入れて純利益を出した。自己資本は「今+利益の合計−還元」で流し、ROEは資本コストを下回るため、中立の倍率は上限の1÷kの7割台半ばに置いた。保有株は税後で見て、取引の要のトヨタ分を除いた約1,200億円を、戻り方0.5で足した。資本コストは7.5%(基本7.5%、quality +1.0%)。今の株価・PER・PBRと、過去や同業の倍率は使っていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.5→14.5 倍・やや楽観 PER 9.6→13.33 倍・中立 PER 8.8→13.33 倍)。 2026-10-22:余り資産を R4 の holdings・rental に移したので、時価総額を式で出し直した(楽観〜中立の PER は新しい上限に置き直し、ほかは倍率そのまま:楽観 9037.4 → 7756.8(PER 13.42 倍)・やや楽観 7207.8 → 6531.7(PER 13.33 倍)・中立 5781.4 → 5105.4(PER 13.33 倍)・やや悲観 2643.1 → 2047.5(PER 6.3 倍)・悲観 1283.0 → 875.0(PER 5 倍))。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality を足した(決まり v2)。個別の事業リスクは筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 7.50%。