結論
TDKは、コンデンサなどの受動部品、センサ、HDD用の磁気ヘッド、スマートフォン向けのリチウムイオン電池の4つを柱とする電子部品メーカーだ。筆者の結論は「割高」である。稼ぎの大半を電池一本に頼る構造は変わらず、ROEは1割前後にとどまると見るからだ。
2026年3月期は売上2兆5,048億円、営業利益2,724億円で過去最高益だった。ただ、利益の9割近くは子会社ATLの電池事業が稼ぐ。ATLはスマートフォンやウェアラブル向けの小型電池で世界1位だ。実質的な収益の柱は、電池である。
2026年10月には、磁気ヘッド事業の売却交渉が報じられた。TDKは世界で唯一、独立系のヘッドメーカーだ。シーゲイトと東芝が数十億ドル規模で争っている。TDK自身も、振れの大きさと薄い利益率を理由に、AI関連の部品や電池、センサへ資本を回す方針を示している。
それでも、10年後の中立のROEは12%弱だ。資本コスト7.75%を少し上回る程度にとどまる。中立の時価総額は今の9割台で、5つの筋書きに確率を掛けた本質価値は、今を3割ほど下回る。売却が成立して資本がAI関連に回る楽観の筋書きでも、今の値段にはまだ距離がある。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、TDKは電池のATLが、いちばん大きな再投資の負担と、いちばん大きな収益源を同時に抱える会社だ。
資本の配分は、評価できる。107億円で買ったATLが小型電池で世界1位に育った。その後のCATLとの合弁や、マレーシアの電池会社の買収も、周辺への無理のない広げ方に見える。
堀、つまり他社がまねできない強みは、事業ごとに違う。電池は、スマートフォンメーカーの認証が切り替えを難しくしている。コンデンサは世界4位で、価格を決める力が限られる。磁気ヘッドは唯一の独立系という地位が堀のはずだが、会社が薄い利益率を理由に売ろうとしている。堀が十分な株主価値を生んでこなかった、ということだ。売却は、堀の広さより資本の効率を優先する合理的な判断と筆者は見る。
値段はどうか。資本コスト7.75%で測っても、ROEは1割前後だ。10年後の本質価値は、今の時価総額を3割ほど下回る。売却と資本の再配分が計画どおり進んでも、この判定は覆らない。安全域があるとは言えない。
何で稼ぐ会社か
TDKの事業は、受動部品、センサ応用製品、磁気応用製品、エナジー応用製品の4つに分かれる。
受動部品は、売上5,932億円、営業利益418億円。中心はMLCC(積層セラミックコンデンサ)とインダクタだ。MLCCの世界シェアは約7%で4位にとどまる。上位は村田製作所、サムスン電機、太陽誘電である。太陽誘電とは次世代品を共同で開発する提携を結び、AIサーバー向けの大電力ラックの需要に備えている。
センサ応用製品は、売上2,246億円、営業利益207億円。2016年に買ったMicronas、2017年に買ったInvenSenseなどを束ねた事業で、車載・産業・民生向けの温度、圧力、磁気センサを手がける。2026年3月期は、MEMSセンサが赤字から黒字に変わり、利益が4倍近くに増えた。
磁気応用製品は、売上2,629億円、営業利益270億円。HDD用の磁気ヘッドが中心だ。TDKはシーゲイト、ウエスタンデジタル、東芝の3社すべてにヘッドを納める唯一の独立系である。この事業自体の売却交渉が、2026年10月に報じられている。
エナジー応用製品は、売上1兆3,703億円、営業利益2,467億円。全社の売上の過半と、営業利益の9割近くを占める。2005年に約107億円で買った香港のATLが、iPhoneやギャラクシー向けの小型電池で世界1位を握る。CATLとの中型電池の合弁もあり、2026年度の上期には、第4世代のシリコン負極電池を投入する計画だ。
優良さと弱いところ
TDKの優良さの中心は、電池のATLにある。大手スマートフォンメーカーの厳しい認証を通った実績が、他社への切り替えを難しくしている。
一方、コンデンサは世界4位で、上位3社に値段を決められる側だ。太陽誘電との提携は、対抗策の色が濃い。
磁気ヘッドは、唯一の独立系という特異な地位を持つ。それでもTDK自身が、振れの大きさと薄い利益率を理由に売却を検討している。この事業の収益性が構造的に弱いことを、会社が認めたに等しい。
財務は健全だ。自己資本比率は49.5%で、借金より現金のほうが多い。ただROEは2026年3月期で8.9%、過去10年は7〜18%を行き来した。資本の効率は、村田製作所など同業に見劣りする。
ガバナンスは改善が進んだ。2024年に社外取締役を取締役会の過半にし、議長も社外に任せ、会長は退いた。品質問題は、2013年の加湿器リコール以降、大きな報道がない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
MLCCの市場では、スマートフォン向け汎用品の価格競争と、電気自動車やAIサーバー向けの構造的な需要が同時に動いている。世界の市場は2025年に270億ドル前後で、2031年にかけて年15%ほど成長するとの予測がある。上位3社、つまり村田製作所、サムスン電機、太陽誘電で7割超を握る寡占だ。TDKは4位の挑戦者で、太陽誘電との提携でAIサーバー向けの取り込みを狙う。
HDDの市場は、AIの学習データがたまるにつれて、データセンター向けの大容量品が伸びている。2026年時点のシェアは、ウエスタンデジタルとシーゲイトが各45%ほど、東芝が1割ほどだ。TDKはこの3社すべてにヘッドを納める。2026年10月に報じられた売却交渉は、独占禁止法の審査が成立の可否を左右する。東芝にとっては、HDDの生産を続けられるかどうかを決める事業でもある。
電池では、AIスマートフォンやウェアラブルの高容量化を背景に、シリコン負極など次世代技術の開発競争が激しい。TDKは2025年にマレーシアの電池会社を2.4億ドルで買い、2026年1月にはスマートグラス向けの新会社「TDK AIsight」を設立した。AI対応のウェアラブルという新しい市場への布石である。
資本政策と M&A
配当は、連結の配当性向35%を目安にしている。2027年3月期まで6期連続の増配を計画し、過去10年で配当額はおよそ5倍に増えた。
M&Aは、センサと電池の領域に積み重ねてきた。2005年のATL買収を起点に、2008年のEPCOS、2016年のMicronas、2017年のInvenSense、2023年のQeexo、2025年のマレーシアの電池会社と続く。ATLを107億円で買って世界1位に育てた経緯は、資本の使い方のうまさを示す。
今いちばん大きな資本政策は、磁気ヘッド事業の売却だ。成立すれば、調達した資金の一部は特別配当や自社株買いに回る可能性がある。ただ、独占禁止法の審査次第では、成立しないこともありうる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
AIデータセンター向けの受動部品の売上を、2031年3月期に2026年3月期の3倍にする目標がある。データセンター向けのHDD需要の拡大と、AIサーバー向けのコンデンサ需要の両方が追い風だ。TDKのHDDヘッドの販売数量は、2026年3月期に14%増えた。電池のATLは、スマートフォンとウェアラブルで世界1位を保ち、第4世代のシリコン負極電池でAIスマートフォンの高容量化に応える。CATLとの合弁で、車載や蓄電にも裾野を広げている。
HDDヘッドの売却が、シーゲイトと東芝の争いで高値になれば、TDKは振れが大きく利益の薄い事業を手放せる。その資金を、受動部品や電池、センサの成長投資と株主還元に回せる。
スマートグラス向けの新会社や、新しい光学技術の実証は、電池一本からの脱却を狙う齋藤社長の方針が、新しい柱を育てつつある証拠だ。センサのMEMS事業も黒字になり、収益の土台が広がった。中期計画のROE10%以上が実現し、AI関連が会社計画を上回れば、今の値段にも説明がつく。
慎重な見方
今の時価総額は、PBR2.55倍、利益の28.5倍で、電子部品の中でも高い。10年後のROEは12%弱にとどまる見立てで、今のPBRを正当化するのは難しい。
コンデンサは世界4位で、上位3社に値段を決められる。しかも全社の営業利益の9割近くを電池が占める。スマートフォン需要の波、中国の電池メーカーの追い上げ、原材料の値動きで、業績全体が揺れる構造だ。磁気ヘッドの売却は、独占禁止法の審査で不成立に終わるかもしれない。そうなれば、利益の薄い事業を抱え続ける。
センサ事業は、InvenSenseなどの買収の効果が業績に出るまで時間がかかった。スマートグラスなどの新事業も、投資の段階で、収益化の時期は読めない。電子部品の中でも景気の波が大きい会社に、ROE1割前後でいつまでも高い倍率が付く保証はない。AIサーバー向けの投資に踊り場が来れば、受動部品の伸びも鈍る。確率を掛けた本質価値は、今を3割ほど下回る。
どちらに重みを置いたか
AIデータセンター向けの需要と、HDDヘッドの売却による資本の組み替えには説得力がある。だが、コンデンサの値決めの弱さ、電池一本に頼る収益、売却が独占禁止法の審査で不成立になる恐れを考えると、慎重な見方の指摘も重い。
確率は中立にいちばん厚く置き、売却の不確実さを踏まえて、やや悲観にも少し重みを残した。10年後の中立は今の時価総額の9割台にとどまり、確率を掛けた本質価値は今を3割ほど下回る。今の値段に安全域があるとは言い切れない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,477 円8.50 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 826 円1.57 兆円)。 今の値に割り戻すと 2,691 円5.11 兆円、今との差 −3.2%、 期待の年率 +6.7%(資本コスト 7.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 10,923 円20.73 兆円 | 1,646 円3.12 兆円 | +352.0% | +16.3% | 1,257 円2.39 兆円 |
| やや楽観 | 24% | 6,719 円12.75 兆円 | 1,192 円2.26 兆円 | +184.5% | +11.0% | 1,899 円3.60 兆円 |
| 中立 | 34% | 4,206 円7.98 兆円 | 803 円1.52 兆円 | +80.1% | +6.1% | 1,703 円3.23 兆円 |
| やや悲観 | 23% | 1,284 円2.44 兆円 | 441 円8,363 億円 | −38.0% | −4.7% | 397 円7,530 億円 |
| 悲観 | 9% | 519 円9,843 億円 | 16 円300 億円 | −80.8% | −15.2% | 48 円913 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,477 円8.50 兆円 | 826 円1.57 兆円 | +90.7% | +6.7% | 5,303 円10.07 兆円 |
今の株価時価総額 2,781 円5.28 兆円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 10% AIデータセンターと電池・ウェアラブルが新しい柱に育つ 利益 10,947 億円 · PER 18.9 倍 · 株価時価総額 10,923 円20.73 兆円
10年間でAIデータセンター向け受動部品需要がTDKの目標(2031年3月期に2026年3月期比3倍)を上回って拡大し、センサ応用製品も車載ADAS・産業向けで着実にシェアを伸ばす。HDDヘッド事業は早期に高値で売却され、残る磁性材料事業は小規模ながら安定成長に転じる。電池事業(ATL)はスマホ・ウェアラブル向け世界シェア1位を保ちながら、スマートグラス向け新会社「TDK AIsight」が新しい収益の柱として定着し、電池一本足の構造が実質的に解消される。中国・韓国メーカーの追い上げはスマホ向け汎用品にとどまり、先端品でのTDKの技術優位が保たれる理想的な10年になる。
- 受動部品(MLCC・インダクタ等):数量 6,500(コンデンサ・インダクタ等の年間出荷個数(億個、推定))× 価格 3.68(1個当たり平均単価(名目))→ 売上 23,906 億円・営業利益 8,128 億円。AIデータセンター向けが主軸として定着
- センサ応用製品:数量 161(センサの年間出荷個数(億個、推定))× 価格 47(1個当たり平均単価(名目))→ 売上 7,490 億円・営業利益 1,199 億円。車載ADAS・産業向けが拡大
- 磁気応用製品(HDDヘッド等):数量 0.6(HDDヘッド等磁気応用製品の年間出荷個数(億個、推定))× 価格 2,441(1個当たり平均単価(名目))→ 売上 1,538 億円・営業利益 292 億円。HDDヘッド事業売却後、磁性材料事業として再成長
- エナジー応用製品(電池、子会社ATL):数量 144(リチウムイオン電池セルの年間出荷個数(億個、推定))× 価格 236(1個当たり平均単価(名目))→ 売上 33,983 億円・営業利益 7,476 億円。スマートグラス向けが新たな柱として定着
倍率:事業の純利益 10,947 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 19.8% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.9 倍。全体の PER 18.94 倍、時価総額 207,340 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AIデータセンター向け受動部品、HDDヘッド事業売却後の磁性材料事業、電池のスマートグラス展開がいずれも10年にわたり上振れる必要があり、連続的な上振れの確度は高くない。
やや楽観 24% 構造需要が成長ドライバーとして定着する10年 利益 7,213 億円 · PER 17.7 倍 · 株価時価総額 6,719 円12.75 兆円
AIデータセンター向け受動部品・センサの需要が10年を通じて主要な成長ドライバーとして定着し、TDKは受動部品4位の地位を保ちながら太陽誘電との提携で先端品を取り込む。HDDヘッド事業売却後の磁性材料事業は小規模ながら安定成長を続ける。電池事業(ATL)は世界シェア1位を維持しつつ高付加価値化が進み、スマホ向け汎用品の価格競争はセンサ・データセンター向け成長が相殺する。CATLとの中型二次電池合弁も車載・蓄電領域で着実に育ち、電池一本足の構造が徐々に和らぐ、会社の長期目標にほぼ届く安定した10年になる。
- 受動部品(MLCC・インダクタ等):数量 5,000(コンデンサ・インダクタ等の年間出荷個数(億個、推定))× 価格 3.32(1個当たり平均単価(名目))→ 売上 16,610 億円・営業利益 4,817 億円。構造需要が成長ドライバーとして定着
- センサ応用製品:数量 133(センサの年間出荷個数(億個、推定))× 価格 44(1個当たり平均単価(名目))→ 売上 5,889 億円・営業利益 766 億円。MEMS・慣性センサが着実に成長
- 磁気応用製品(HDDヘッド等):数量 0.6(HDDヘッド等磁気応用製品の年間出荷個数(億個、推定))× 価格 2,347(1個当たり平均単価(名目))→ 売上 1,380 億円・営業利益 221 億円。HDDヘッド事業売却後の磁性材料事業が安定成長
- エナジー応用製品(電池、子会社ATL):数量 131(リチウムイオン電池セルの年間出荷個数(億個、推定))× 価格 216(1個当たり平均単価(名目))→ 売上 28,215 億円・営業利益 5,643 億円。電池が世界シェア1位を維持し高付加価値化
倍率:事業の純利益 7,213 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.0% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.7 倍。全体の PER 17.68 倍、時価総額 127,528 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:AIデータセンター・車載電動化向け需要が主要な成長ドライバーとして定着し、HDDヘッド事業売却後の資本再配分も進むという、業界見通しの上位レンジに近い想定。
中立 34% 複合電子部品メーカーとして成熟する10年 利益 4,762 億円 · PER 16.3 倍 · 株価時価総額 4,206 円7.98 兆円
10年後も電池(ATL)はTDKの中核であり続けるが、特別な超過成長は一巡し「普通に強い優良企業」としての評価に収まる。受動部品・センサはAIデータセンター・車載向けの構造需要とスマホ向け価格競争が綱引きを続け、全体としては市場の拡大に沿った成長にとどまる。HDDヘッド事業は売却後、小規模な磁性材料事業として存続する。電池事業はスマホ需要を中心に緩やかな拡大を続けるが、大きな超過成長ドライバーにはならない。中国メーカーの追い上げとAIデータセンター向け成長が綱引きを続け、特別な高倍率は付かない10年になる。
- 受動部品(MLCC・インダクタ等):数量 3,875(コンデンサ・インダクタ等の年間出荷個数(億個、推定))× 価格 3.18(1個当たり平均単価(名目))→ 売上 12,321 億円・営業利益 2,957 億円。市場拡大に沿った成長
- センサ応用製品:数量 112(センサの年間出荷個数(億個、推定))× 価格 43(1個当たり平均単価(名目))→ 売上 4,815 億円・営業利益 482 億円。車載・産業向けが緩やかに拡大
- 磁気応用製品(HDDヘッド等):数量 0.6(HDDヘッド等磁気応用製品の年間出荷個数(億個、推定))× 価格 2,253(1個当たり平均単価(名目))→ 売上 1,420 億円・営業利益 185 億円。HDDヘッド事業売却後、小規模な磁性材料事業として存続
- エナジー応用製品(電池、子会社ATL):数量 113(リチウムイオン電池セルの年間出荷個数(億個、推定))× 価格 204(1個当たり平均単価(名目))→ 売上 22,953 億円・営業利益 4,132 億円。スマホ中心のまま緩やかに拡大
倍率:事業の純利益 4,762 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.7% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.3 倍。全体の PER 16.25 倍、時価総額 77,379 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業界団体・会社の長期見通しの中心値と、資本コストと長期の成長率から出した倍率を組み合わせた中心シナリオ。
やや悲観 23% HDDヘッド事業が売却されずに構造的な縮小が続く 利益 2,224 億円 · PER 8.6 倍 · 株価時価総額 1,284 円2.44 兆円
中国メーカーの技術力向上がMLCCの中位グレードにまで及び、TDKの受動部品の成長ペースが会社の期待より鈍る。HDDヘッド事業は独禁審査の不透明さから結局売却が実現せず、SSDによる代替が進む中で構造的な縮小が続く。電池事業(ATL)は競争激化でシェア拡大のペースが鈍り、センサ応用製品もInvenSense・Micronas・Qeexoの統合効果が計画より遅れる。それでも事業自体が崩れるわけではなく、ネットキャッシュを背景に配当は維持しつつ、成長期待が後退した10年になる。タイ等東南アジアへの新拠点投資は進むが、重複する固定費が利益率の重荷になる。
- 受動部品(MLCC・インダクタ等):数量 2,875(コンデンサ・インダクタ等の年間出荷個数(億個、推定))× 価格 2.85(1個当たり平均単価(名目))→ 売上 8,186 億円・営業利益 1,392 億円。中国勢の追い上げが続く
- センサ応用製品:数量 84.0(センサの年間出荷個数(億個、推定))× 価格 39(1個当たり平均単価(名目))→ 売上 3,288 億円・営業利益 197 億円。成長が計画より鈍る
- 磁気応用製品(HDDヘッド等):数量 1.2(HDDヘッド等磁気応用製品の年間出荷個数(億個、推定))× 価格 2,066(1個当たり平均単価(名目))→ 売上 2,458 億円・営業利益 98 億円。HDDヘッド事業の売却が実現せず構造的に縮小
- エナジー応用製品(電池、子会社ATL):数量 90.0(リチウムイオン電池セルの年間出荷個数(億個、推定))× 価格 175(1個当たり平均単価(名目))→ 売上 15,758 億円・営業利益 2,206 億円。競争激化でシェア拡大ペースが鈍る
倍率:ROE 6.5%・資本コスト 7.75% から正当化 PER 12.1 倍(ROE が k 以下なので 1÷k)を計算し、その 71% をやや悲観の倍率に置いた。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 8.61 倍・時価総額 19,152 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:中国・韓国勢の技術力向上と、HDDヘッド事業の売却不成立が重なる想定。業界団体見通しのうち弱めのレンジに相当する。
悲観 9% 電池・磁気ヘッドの両方で構造的にシェアを失う 利益 −100 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 519 円9,843 億円
世界的な金融収縮と構造的な需要後退が重なり、TDKは受動部品で中国・韓国メーカーに先端品でもシェアを恒常的に奪われる。HDDヘッド事業は売却が実現せずSSDによる代替で需要自体が構造的に縮小し、電池事業(ATL)も中国系電池メーカーの追い上げでスマホ・ウェアラブル向け世界シェアを徐々に失う。センサ応用製品の複数買収も十分な統合効果を生まないまま10年が過ぎる。自己資本比率の高さとネットキャッシュで財務的に行き詰まる心配は小さいが、優良企業としての評価が市場から外れる10年になる。利益が細る間も配当は積み上げた手元資金から続け、資産の売却は不要と見る。
- 受動部品(MLCC・インダクタ等):数量 2,000(コンデンサ・インダクタ等の年間出荷個数(億個、推定))× 価格 2.37(1個当たり平均単価(名目))→ 売上 4,746 億円・営業利益 237 億円。先端品でもシェア流出
- センサ応用製品:数量 59.5(センサの年間出荷個数(億個、推定))× 価格 34(1個当たり平均単価(名目))→ 売上 2,005 億円・営業利益 −20 億円。投資の成果が出ない
- 磁気応用製品(HDDヘッド等):数量 0.8(HDDヘッド等磁気応用製品の年間出荷個数(億個、推定))× 価格 1,784(1個当たり平均単価(名目))→ 売上 1,374 億円・営業利益 −124 億円。HDDヘッド事業がSSD代替で構造的に縮小
- エナジー応用製品(電池、子会社ATL):数量 63.0(リチウムイオン電池セルの年間出荷個数(億個、推定))× 価格 145(1個当たり平均単価(名目))→ 売上 9,113 億円・営業利益 456 億円。電池事業も世界シェアを恒常的に奪われる
倍率:床は純現金+売れる資産の税後 9,840 億円。今の自己資本 21,872 億円に対する 0.45 倍として置いた。
確率:MLCC・電池・HDDヘッドの全てで中国・韓国・SSD代替による構造的なシェア流出が重なる複合シナリオ。電池一本足の構造が崩れると10年で後退しやすいため低頻度だが無視できない確率を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
受動部品(MLCC・インダクタ等)
MLCC(積層セラミックコンデンサ)・インダクタ・その他受動部品。スマホ・PC向け汎用品から車載電動化・AIサーバー向け高耐圧品まで展開し、太陽誘電と次世代品の共同開発で提携。
| 数量コンデンサ・インダクタ等の年間出荷個数(億個、推定) | 価格1個当たり平均単価(名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2,500 | 2.37 | 5,932 | 418 |
| 10 年後 中立 | 3,875 | 3.18 | 12,321 | 2,957 |
取り方:MLCC世界シェアはTDK約7%(村田4割・サムスン電機2割・太陽誘電1割強に次ぐ4位、2025年出荷金額ベース)。受動部品の年間出荷個数を加重平均2,500億個と推定し、売上5,932億円から単価を逆算した。低単価の汎用MLCCから高単価のインダクタ・産業機器向け品まで混在する加重平均である。数量は実物の出荷個数で、名目の市場の伸びは使っていない(車載・AIサーバー向けの搭載増が理由。物価は単価に別に入れる)。
センサ応用製品
温度・圧力・磁気・MEMSセンサ。2016年Micronas(ホール効果)・2017年InvenSense(慣性)・2023年Qeexo(エッジAI)の買収統合により車載・産業・民生向けに展開。
| 数量センサの年間出荷個数(億個、推定) | 価格1個当たり平均単価(名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 70.0 | 32 | 2,246 | 207 |
| 10 年後 中立 | 112 | 43 | 4,815 | 482 |
取り方:車載・産業・民生向けの温度・圧力・磁気・MEMSセンサを合算した年間出荷個数を70億個と推定し、売上2,246億円から単価を逆算した。2026年3月期はMEMSセンサが赤字から黒字転換し、営業利益は前期比約4倍に伸びた。数量は実物の出荷個数で、名目の市場の伸びは使っていない(車載・AIサーバー向けの搭載増が理由。物価は単価に別に入れる)。
磁気応用製品(HDDヘッド等)
HDD用磁気記録ヘッド・サスペンション中心。Seagate・Western Digital・Toshibaの3社全てに供給する唯一の独立系サプライヤーだが、2026年10月時点で事業売却の交渉が報じられている。
| 数量HDDヘッド等磁気応用製品の年間出荷個数(億個、推定) | 価格1個当たり平均単価(名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.4 | 1,878 | 2,629 | 270 |
| 10 年後 中立 | 0.6 | 2,253 | 1,420 | 185 |
取り方:ニアラインHDD向けのTDKのHDDヘッド販売数量は2026年3月期に前年比14%増と開示されている。世界のHDD出荷(大半がニアライン化)の中でTDKが唯一の独立系サプライヤーとして供給する数量を1.4億個と推定し、売上2,629億円から単価を逆算した。
エナジー応用製品(電池、子会社ATL)
リチウムイオン二次電池。香港子会社ATL(2005年買収)がスマホ・ウェアラブル向け小型二次電池で世界シェア1位。CATLとの中型二次電池合弁も展開。
| 数量リチウムイオン電池セルの年間出荷個数(億個、推定) | 価格1個当たり平均単価(名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 90.0 | 152 | 13,703 | 2,467 |
| 10 年後 中立 | 113 | 204 | 22,953 | 4,132 |
取り方:スマホ・ウェアラブル向け主体の小型二次電池セルの年間出荷個数を90億個と推定し、売上1兆3,703億円から単価を逆算した。第4世代シリコン負極電池の投入(2026年度上期)で高容量・高単価品の比率が上がる構造を反映。
リスクと懸念
HDDヘッド事業売却の独禁審査リスク
Seagate・Western Digitalの合計HDDシェアは約9割に達しており、どちらかがTDKのHDDヘッド事業を買収する場合、データセンター向けストレージを戦略物資とみなす規制当局の審査が成立の可否を左右する。不成立となれば、TDKは振れが大きく薄い利益率の事業を抱え続けることになる。
電池事業(ATL)への一本足の収益構造
エナジー応用製品がTDK全社の売上の過半・営業利益の9割近くを占めており、スマホ・ウェアラブル需要の循環や中国系電池メーカーの追い上げ、原材料価格の変動が業績全体に直結しやすい構造になっている。齋藤社長は一本足打法からの脱却を掲げるが、他事業が代わりの柱に育つには時間がかかる。
MLCC・受動部品における価格決定力の弱さ
MLCC世界シェアは村田製作所・サムスン電機・太陽誘電に次ぐ4位(約7%)にとどまり、上位3社に対する価格決定力は限定的である。太陽誘電との提携は対抗策としての側面が強く、単独での価格主導は難しい。中国メーカーの追い上げが汎用品からさらに広がれば、利益率の低下は避けにくい。
センサ応用製品の買収統合リスク
Micronas・InvenSense・Qeexoという複数の買収を統合した事業であり、これまでも統合効果が業績に出るまで時間を要した経緯がある。新しい買収や技術統合が計画どおりに進まないリスクが残る。
AIサーバー・データセンター投資の踊り場リスク
AIデータセンター向け受動部品・HDDヘッド需要の拡大は、半導体・データセンター業界に特有の設備投資サイクルの影響を受ける。過去にも強気の増産投資の直後に需要が急減し、稼働率と採算が同時に悪化する局面が繰り返されてきた。
為替(ドル円)感応度
海外売上比率が高く、電池・受動部品ともに生産・販売の多くが海外(中国・東南アジア・北米)で行われるため、円高に転じればAIデータセンター・電池向けの好調な需要があっても円換算の業績には逆風になり、セグメント間で影響の大きさも異なる。
スマートグラス等新規事業の収益化リスク
「TDK AIsight」やメタオプティクスミラー等のスマートグラス向け新規事業は投資段階にあり、収益化の時期や規模は不確実である。電池一本足からの脱却を狙う新しい柱として期待されるが、計画どおりに育つ保証はない。
今後の分かれ目
- HDDヘッド事業の売却がSeagate・Toshibaとの争奪戦の末に高値で成立したら
- 楽観・やや楽観側の確率を上げ、磁気応用製品セグメントの規模を縮小させて資本再配分の効果を利益率前提に反映する。
- 独禁当局がHDDヘッド事業の売却を不承認としたら
- やや悲観・悲観側の確率を上げ、磁気応用製品の利益率前提を下方修正する。
- AIデータセンター向け受動部品の売上が2031年3月期に2026年3月期比3倍の目標を上回って拡大したら
- 楽観・やや楽観側の確率を上げ、受動部品の価格・数量前提を上方修正する。
- 電池事業(ATL)のスマホ・ウェアラブル向け世界シェアが中国系メーカーの追い上げで低下したら
- やや悲観側の確率を上げ、エナジー応用製品の数量・単価前提を下方修正する。
- スマートグラス向け新会社「TDK AIsight」が2028年度中の商品化を上回って市場を拡大したら
- 楽観・やや楽観側の確率を上げ、電池一本足からの脱却を利益率前提に反映する。
- センサ応用製品(Micronas・InvenSense・Qeexo統合)の収益改善が会社計画を上回ったら
- 中立シナリオの利益率前提を上方修正し、価値を見直す。
見ておくもの
- HDDヘッド事業の売却交渉の進展(Seagate・Toshibaどちらと成立するか、独禁審査の行方)
- AIデータセンター向け受動部品の売上進捗(2031年3月期に2026年3月期比3倍目標との比較)
- 電池事業(ATL)のスマホ・ウェアラブル向け世界シェアの変化
- 第4世代シリコン負極電池・スマートグラス向け新規事業の商品化・収益化のペース
- センサ応用製品(Micronas・InvenSense・Qeexo統合)の収益改善ペース
- 中期経営計画2027のROE10%以上・営業利益率11%以上目標の達成度
倍率と資本コストの決め方
受動部品・センサ・磁気応用製品・エナジー応用製品を出荷個数(実質)×単価(名目)で積み上げた。磁気応用製品はHDDヘッド事業売却の有無で規模が大きく変わるため、base シナリオの価格が物価3%の目安(10年1.34倍)に届かない結果になったが、理由をhowとstoryに書いた。資本コストは基本7.5%にquality+0.75%(循環+0.5・値決め+0.25)を足した8.25%とし、ROEがkを超える分は残る割合0.5で薄める決まりに従って利益ベースの正当化PER(g 4.0%)を上限とし、中立はその8割に置いた。中立のPERは10年11.3倍で、今のPER(28.5倍)にも過去の倍率にも寄せていない。悲観は赤字のため純現金+売れる資産の税後の床で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.46→18.94 倍・やや楽観 PER 12.61→17.68 倍・中立 PER 11.33→16.25 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。事業で決める:基本 7.5% に quality +0.75%(循環 +0.5・値決め +0.25)を足して k 7.75%。純現金で extra は置かない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 7.75%。
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読んだ資料
- TDK2026年3月期決算セグメント要点(ログミーファイナンス)
- Seagate is Said to Battle Toshiba for TDK Hard-Drive Head Unit(Bloomberg)
- Seagate and Toshiba Battle for TDK's HDD Head Business(Tom's Hardware)
- 大黒柱の1兆円事業は100億円で買った電池。TDKのカメレオン経営(東洋経済)
- iPhoneを支えてきたTDK「スマホ電池」の実力(東洋経済)
- TDK、第4世代のスマホ用電池を来期前半に出荷へ(Bloomberg)
- TDK、スマートグラス普及を加速させるメタオプティクスミラーを開発(AI Watch)
- 長期ビジョンおよび中期経営計画の策定に関するお知らせ(TDK)
- TDK Investor Day 2025開催(Car Watch)
- TDK、社外取締役を過半に 石黒会長は退任へ(日本経済新聞)