結論
テルニウムはメキシコ、ブラジル、アルゼンチンを中心に鋼材を製造する中南米有数の鉄鋼メーカーである。筆者の結論はやや割高だ。メキシコの大型投資で稼ぐ力は改善するものの、資本を大量に使う市況産業であり、現在の時価総額約110億ドルには十分な安全域がない。
2025年は売上156.5億ドル、営業利益9.0億ドル、親会社株主に帰属する純利益4.3億ドルだった。営業利益率は5.8%と低く、2021年の32.6%から大幅に落ちている。鉄鋼価格の下落に加え、ブラジル事業の負担が重かった。ただし2026年には回復が始まり、上半期の連結営業利益は8.18億ドル、親会社株主の純利益は5.57億ドルに達した。メキシコの販売価格上昇とブラジルの採算改善が効いている。
最大の成長機会はメキシコのペスケリア製鉄所である。年260万トンの新電炉と年210万トンの直接還元鉄設備が2027年初めに稼働する予定だ。購入スラブへの依存を減らし、自動車用高級鋼材を増やせる。だが、設備が完成しても利益が保証されるわけではない。需要、稼働率、輸入鋼材との価格差が投資利回りを決める。
10年後の中立では鋼材出荷が約1,700万トン、営業利益22.8億ドル、親会社株主の純利益13.5億ドルへ回復すると見る。現在より良い事業になる姿を織り込んでも、資本コスト9.5%と市況による利益の振れを考えると、高い倍率は正当化できない。5つの筋書きの確率加重価値は現在の時価総額を約22%下回る。大きな悪材料を既に織り込んだ株とは言い切れず、長期保有には価格面の余裕がもう少し欲しい。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、テルニウムを理解するために必要なのは鉄鋼価格の予想より、長く続く費用面の優位を見極めることだ。10年後も自動車、建築、機械、エネルギーには鋼材が必要である。事業そのものが消える危険は低い。だが、必要とされ続ける商品を作ることと、高い株主利益を稼ぎ続けることは別である。
ペスケリアへの投資には合理性がある。鉄鋼は輸送費が大きく、顧客に近い工場には利点がある。自動車用鋼板では顧客の認証も壁になる。自家製のスラブと冷延・めっき設備を組み合わせれば、輸入品からシェアを奪う余地がある。ただし同じ地域にはアルセロールミッタルなどがおり、ブラジルでは中国材との競争も続く。工場を完成させるだけで高い投資収益率が得られるわけではない。
オーナー利益を考えると、2026年の会計利益が回復しても、巨額の建設支出が残る。2025年のフリーキャッシュフローはマイナスであり、過去の高配当を将来の確実な収入として扱うのは危険だ。成熟後は維持投資と成長投資を分け、事業を保つために必要な資金を引いた残りを株主の利益と見る。
中立では10年後の純利益13.5億ドルを見込むが、自己資本も積み上がるためROEは約8.7%にとどまる。資本コスト9.5%を下回る以上、留保利益が自動的に価値を増やすとは言えない。還元を継続する方が合理的な局面もある。
現在の時価総額は約110億ドルである。低迷した2025年だけを見れば厳しい価格だが、2026年の回復と新設備の寄与を先取りしているとも言える。筆者は将来の利益改善を認めながらも、政策、商品市況、支配株主という三つの不確実性を持つ会社には、もう一段の安全域を求める。
何で稼ぐ会社か
テルニウムの稼ぎの中心は、鋼板や表面処理鋼板を製造し、自動車、家電、建設、機械メーカーに売る事業である。2025年の鋼材出荷は1,506万トンだった。メキシコ743万トン、ブラジル394万トン、南部地域218万トン、その他市場151万トンという構成である。各地域で顧客、価格、設備の仕組みが異なるため、全社を一つの鉄鋼市場として扱うと価値を見誤る。
メキシコは利益成長の中心だ。販売量の約6割が自動車などの産業向けで、残りが建設向けである。ペスケリアでは熱延、冷延、亜鉛めっき、そして新しい製鋼設備を一体運営する。自動車メーカーが要求する強度、加工性、表面品質に合わせて製品を開発するため、単なる汎用鋼板より顧客との結び付きが強い。新設備は、従来外部から買っていた半製品を自製し、原料から完成鋼板までの一貫性を高める。
ブラジルには、完全子会社のテルニウム・ブラジルと、支配下にあるウジミナスがある。前者は大型のスラブ生産設備を持ち、後者は自動車向け薄板や鉄鉱石事業を持つ。2026年2月には日本製鉄グループからウジミナスの追加持分を取得し、経営支配を強めた。ただしテルニウムの経済的持分は約36〜38%で、連結売上のすべてが親会社株主の取り分になるわけではない。ここが売上やEBITDAだけを見る際の大きな落とし穴だ。
アルゼンチンではテルニウム・アルゼンチンを通じて、自動車、農機、エネルギー、建設向けに鋼材を供給する。市場での地位は強いが、国内景気と輸入政策によって需要が大きく変わる。その他市場には米国やコロンビアなどが含まれる。鉱山事業は鉄鉱石をグループ内外に販売するが、2025年の外販売上は5.7億ドルと全社の約4%にすぎない。鉄鉱石事業の本当の役割は、外販利益だけでなく、製鉄原料を安定確保することにある。
鉄鋼の利益は販売トン数と販売単価だけで決まらない。鋼材価格から鉄鉱石、スクラップ、石炭、天然ガス、電力、人件費を引いた差が重要だ。工場の稼働率が下がると固定費が重くなる。2025年の出荷数量は前年比4%減だったが、鋼材の平均販売単価は10%下落した。この二つが重なると利益が急減する事業構造である。
優良さと弱いところ
テルニウムには地域的な競争優位がある。ただし鋼材全体の価格を自分で決められるほど強い堀ではない。メキシコでは工場、加工設備、配送拠点、顧客の技術認証が一体になっている。自動車用鋼材の供給者を切り替えるには、品質試験や量産認定が必要だ。この部分では値引きだけで顧客を奪うことが難しく、一定の乗り換え費用が存在する。
もう一つの強みは規模と垂直統合である。ペスケリアの新製鋼設備が完成すると、購入スラブを自製材で代替できる。北米の原産地要件にも対応しやすくなる。ブラジルでも製鉄と鉄鉱石を持ち、アルゼンチンでは物流と加工の顧客基盤を築いている。ただしこれらは同業に対する費用面の強みであって、鉄鋼市況から独立した収益源ではない。
資本効率には疑問が残る。過去10年のROE中央値は12.0%だが、2025年は3.6%だった。2021年の36.1%は異常な鋼材高騰期であり、長期に維持できる数字ではない。2025年には25億ドルの設備投資を行い、フリーキャッシュフローがマイナスになった。2026年も投資負担が続き、上半期の営業キャッシュフローは4.73億ドルに対して設備投資が8.37億ドルだった。利益が回復しても、しばらくは現金が残りにくい。
支配株主の存在も評価を抑える理由になる。テチント・グループが約65%を持ち、関連するテナリスも約11%を保有する。少数株主が経営方針や大型投資を変える力は限られる。ウジミナスやアルゼンチン子会社にも外部株主がおり、利益と現金を親会社へ戻す際には制約がある。過去の増配実績は評価できるが、配当をいつでも増やせる会社ではない。
品質の高い自動車用鋼板には一定の堀があるものの、連結利益の大部分は価格競争と設備稼働率に左右される。したがって全社の堀は弱いと判定する。10年後のROEが資本コストを大幅に超える状態が長く続くとは見ない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
テルニウムの主戦場は北米と南米であり、米国の電炉メーカーとは需要構造が異なる。2025年のメキシコの鋼材見掛け消費は約2,500万トンで、前年比約10%減った。テルニウムの国内向け出荷743万トンを単純比較すると約30%に当たる。輸入鋼材も約1,050万トンあり、需要の約4割に相当する。最大の競争相手は特定の一社だけではなく、米国、アジアからの輸入材と、アルセロールミッタル、デアセロ、シメックなどの国内生産者である。
メキシコ市場の長期成長を支えるのは、自動車、家電、機械の北米向け生産とインフラ投資である。しかし米国の鉄鋼関税は二面性を持つ。米国の国内メーカーであるニューコアやスチール・ダイナミクスには輸入抑制が追い風だが、メキシコから米国へ出す鋼材や、米国へ輸出する製造業には逆風になりうる。2026年の米国・メキシコ・カナダ協定の見直しと、その後の原産地規則が需要を左右する。ペスケリアの新電炉は、この不確実性に対し、北米域内で溶解・鋳造した鋼材を増やす投資でもある。
ブラジルの2025年の鋼材見掛け消費は約2,680万トンで、うち薄板市場は約1,650万トンだった。薄板輸入比率は約26%に達し、中国からの安値輸入が大きな圧力になった。テルニウムのブラジル販売394万トンは薄板市場の約24%に相当するが、製品構成と販売先が完全には一致しないため、これは概算である。競合はゲルダウ、CSN、アルセロールミッタルなどであり、ウジミナスは自動車用薄板で強みを持つ。2026年には輸入割当や反ダンピング措置が進み、市況に改善の兆しが出ている。
アルゼンチン市場は規模が小さく、景気による振れが大きい。エネルギー、鉱業、農業は比較的強いが、住宅建設や家電は弱い。テルニウムは高い地域シェアを持つ一方、輸入品への開放が進めば価格を維持できない。ブラジルとアルゼンチンでは、高炉の脱炭素投資も今後の費用負担になる。
10年ではメキシコの鋼材需要を実質年約1%、ブラジルを年0.5〜1%、アルゼンチンを年0〜0.5%の成長と見る。これらは地域市場の見通しであり、会社の出荷増加とは分けて考える。世界には中国を中心に過剰設備が残り、鋼材価格が物価上昇を継続的に上回るとは考えにくい。テルニウムが利益を伸ばすには、市場成長だけでなく、高付加価値品の比率を高め、輸入品からシェアを奪う必要がある。
資本政策と M&A
経営の資本配分は、買収中心から大型の自社設備投資へ移っている。2000年代にはメキシコのグルポ・イムサやコロンビアのフェラサなどを買収し、その後はペスケリアの圧延・表面処理設備を段階的に増やしてきた。2023年にはウジミナスを連結対象に加え、2026年2月には日本製鉄グループの残余持分を買い取った。生産と販売の地域網を広げた半面、ウジミナスでは税効果資産の減損や買収関連訴訟が利益を傷めている。
2025年の設備投資は約25億ドルで、現在の投資サイクルの山だった。2026年上半期には8.37億ドルを使い、2027年初めの新電炉稼働へ向けて建設を続けている。新設備は将来の購入スラブ費用を減らすが、償却費と運転資金も増える。10年の増分ROICが資本コストを上回るかは、新設備の稼働率と自動車向け高級材の販売比率で決まる。会社は成長投資と財務健全性を重視しているが、10年先のROICや株主還元総額について確約された数値目標はない。
還元は自社株買いより配当が中心だ。2025年の現金配当は約5.3億ドルだったが、2026年4月には2025年度分の年間配当案を約5.3億ドルから約4.32億ドルへ引き下げた。5月の株主総会で修正案が承認されている。中東情勢と大型投資を踏まえた財務保全の判断であり、固定配当の約束ではないことを示した。大規模な自社株買い枠も確認できない。
2025年末の純現金は約5.3億ドルだったが、2026年6月末には約1.12億ドルの純負債に転じた。筆者は現金の厚さを安全域として大きく加算しない。長期的には設備投資が落ち着けば還元を増やせるが、好況時の投資や支配株主の判断で株主への戻り方が変わる可能性がある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
テルニウムは北米の製造業再編から利益を得られる位置にいる。メキシコは米国市場に近く、自動車、家電、産業機械の集積地だ。北米での調達を増やす製造業が増えれば、国際輸送の負担が小さい現地製鉄所の価値は高まる。ペスケリアにはすでに熱延、冷延、めっきの設備があり、2027年初めには新電炉と直接還元鉄設備が加わる。外部スラブを購入して加工するだけの構造から、より多くを自社で製造する構造へ移れる。
会社は年260万トンの新電炉を建設している。高級自動車鋼板の生産が増えれば、製品構成の改善と購入原料費の削減が同時に進む。米国・メキシコ・カナダ協定の原産地要件にも対応しやすい。メキシコ市場が実質で年1%伸びるだけでも、輸入材を置き換えてシェアを上げれば会社の出荷は市場以上に増える。価格決定力が相対的に強い高級材の割合も上がる。
ブラジルにはもう一つの改善余地がある。ウジミナスの追加持分取得で経営の統一が進み、調達、設備投資、製品開発をグループ全体で最適化できる。2026年上半期には既に収益が回復しており、輸入防衛措置によって国内鋼材の採算改善も期待できる。ブラジルの自動車市場が堅調に推移すれば、過去の減損や税負担に隠れていた稼ぐ力が表れる。
アルゼンチンではエネルギーや鉱山開発が鋼材需要を支える。これらがメキシコの成長と重なれば、2035年の売上は300億ドルを超え、営業利益は40億ドル規模に届く。資本投下の山を越えれば、フリーキャッシュフローも改善する。配当を継続しながら純利益が大幅に伸びるため、長期株主には十分な上振れがあるという主張が成り立つ。
慎重な見方
最大の問題は、鉄鋼業の利益が工場の規模や技術だけでなく、政策と過剰設備に支配されることだ。テルニウムは自動車向け高級鋼材を持つものの、売上の大部分は国際価格と輸入品の影響を受ける。2021年の営業利益率32.6%が2025年には5.8%に下がった事実は、価格を守る力が十分でないことを示している。利益が数年で急変する事業に、安定成長企業の評価は付けられない。
メキシコの新電炉は自社の費用を下げる可能性がある一方、完成後の稼働率が低ければ資本を眠らせる。年260万トンの製鋼能力は、すべてが新規の販売数量になるわけではない。既存の購入スラブを置き換える部分があるからだ。北米で製造業の国内回帰が進むとしても、その恩恵が米国へ集中すれば、メキシコ向け投資の回収は遅れる。米国の関税はニューコアなど米国内メーカーを守るが、テルニウムの顧客には輸出負担を課すこともある。
ブラジルにはさらに深い問題がある。中国の過剰能力による輸入圧力が強く、ウジミナスは高炉設備の更新、脱炭素投資、操業合理化を続けなければならない。2025年には税効果資産の評価減が発生し、ウジミナス買収に関する訴訟引当金も利益を削った。連結業績が改善しても、少数株主に帰属する利益を引けば、テルニウム株主の取り分は見かけより小さい。
支配株主は大型投資を優先する可能性があり、外部株主が還元方針を変えることは難しい。2026年には配当案も引き下げられた。投資の回収が遅れれば、自己資本に利益が残ってもROEは低く、株主価値が増えない。10年後に鋼材の実質価格が下がり、数量でも輸入材に負ける場合、会計上の純資産は損失から株主を守ってくれないという懸念が強い。
どちらに重みを置いたか
メキシコの新設備と2026年の収益回復は確かな強材料である。しかし、年260万トンの設備が利益率をどこまで押し上げるかはまだ確認できない。ブラジルの競争環境と北米通商政策も読みにくく、慎重な見方がやや優勢だ。
楽観とやや楽観を合わせて32%、中立を32%、やや悲観と悲観を36%とした。これは同業のニューコアやスチール・ダイナミクスより、政策と少数株主持分の複雑さを重く見た配分である。財務が極端に悪い会社ではないため破綻確率を大きくするのではなく、投資回収に失敗した場合の低いROEと還元減少を評価に反映した。最終的な本質価値は約85.8億ドルで、現在の時価総額との差は約マイナス22%となる。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 64.47 ドル127 億ドル(+ 還元の換算額還元の合計 28.15 ドル55 億ドル)。 今の値に割り戻すと 43.90 ドル86 億ドル、今との差 −16.8%、 期待の年率 +7.0%(資本コスト 9.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 11% | 139.78 ドル274 億ドル | 38.21 ドル75 億ドル | +237.3% | +15.2% | 19.58 ドル38 億ドル |
| やや楽観 | 21% | 92.79 ドル182 億ドル | 33.11 ドル65 億ドル | +138.6% | +10.9% | 26.44 ドル52 億ドル |
| 中立 | 32% | 68.08 ドル134 億ドル | 30.56 ドル60 億ドル | +86.9% | +7.9% | 31.57 ドル62 億ドル |
| やや悲観 | 24% | 24.66 ドル48 億ドル | 22.92 ドル45 億ドル | −9.8% | −1.3% | 11.42 ドル22 億ドル |
| 悲観 | 12% | 15.89 ドル31 億ドル | 14.26 ドル28 億ドル | −42.9% | −6.9% | 3.62 ドル7 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 64.47 ドル127 億ドル | 28.15 ドル55 億ドル | +75.5% | +7.0% | 92.62 ドル182 億ドル |
今の株価時価総額 52.77 ドル104 億ドル(2026-10-30)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 11% 楽観:北米域内生産と高級鋼材への移行が成功する 利益 25 億ドル · PER 11.2 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 139.78 ドル274 億ドル
2035年、ペスケリアの新電炉は高い稼働率を維持し、自動車メーカーへの供給が増えている。メキシコの鋼材市場は10年で約1.2倍になり、テルニウムは輸入材を代替して出荷を1,070万トンまで増やす。市場シェアは約35%へ上がる。販売単価は2025年の959ドルから1,470ドルへ上昇し、物価上昇を上回る高級材への構成変化が起きている。
ブラジルではウジミナスの合理化が進み、輸入防衛措置も一定程度残る。出荷は480万トン、営業利益率は12%まで回復する。アルゼンチンでは鉱山、エネルギー、農業が鋼材需要を押し上げる。その他市場でも北米・中米向けの受注が増える。全社売上は約322億ドル、営業利益は約40.9億ドル、親会社純利益は24.5億ドルになる。
ペスケリアへの大型投資は2020年代後半に完了し、以後は設備の維持と選択的な増強が中心となる。新たな大型買収より既存事業の統合を優先し、10年間の親会社純利益累計は152億ドル、正味還元は75億ドルとなる。期末自己資本は約196.5億ドルで、ROEは約12.5%を保つ。鋼材価格の支配力までは得られないが、地域内製化による費用面の優位が定着した姿である。
- メキシコ鋼材:数量 10.7(メキシコ市場向け鋼材出荷量(百万トン))× 価格 15(鋼材平均売価(億ドル/百万トン。9.59は約959ドル/トン))→ 売上 157 億ドル・営業利益 23 億ドル。市場実質約1.2倍、シェア約30%から35%へ上昇。高級材構成改善で実質単価も上昇。
- ブラジル鋼材:数量 4.8(ブラジル市場向け鋼材出荷量(百万トン))× 価格 14(鋼材平均売価(億ドル/百万トン))→ 売上 68 億ドル・営業利益 8 億ドル。ウジミナス合理化と輸入減少でシェアを回復し、高炉の稼働率も改善。
- 南部地域鋼材:数量 2.9(南部地域向け鋼材出荷量(百万トン))× 価格 16(鋼材平均売価(億ドル/百万トン))→ 売上 46 億ドル・営業利益 7 億ドル。エネルギー、鉱業、農業の投資増加によって国内需要と高付加価値材が伸びる。
- その他市場の鋼材:数量 2.2(その他市場向け鋼材出荷量(百万トン))× 価格 15(鋼材平均売価(億ドル/百万トン))→ 売上 34 億ドル・営業利益 3 億ドル。米国と中米の供給網で販売を増やし、流通網の稼働率が上がる。
- 鉱山事業の外販:数量 9.8(鉄鉱石の第三者向け出荷量(百万トン))× 価格 1.05(鉄鉱石外販単価(億ドル/百万トン))→ 売上 10 億ドル・営業利益 1 億ドル。鉱山の操業効率が改善し、外販数量と価格がともに上昇する。
- 売電・その他製品:数量 4.2(推定売電量(TWh相当。会社の実物数量開示はない))× 価格 1.50(推定実現売電単価(億ドル/TWh。1.02は約102ドル/MWh))→ 売上 6 億ドル・営業利益 1 億ドル。電力販売の数量と実現単価が上昇する推計。
倍率:事業ROEは24.5÷196.5=12.47%。k9.5%、moatはweakで超過ROEの残存割合1/3。RONICは10.49%。2035年以降のgは、地域需要の実質成長約1.0%、シェア改善約0.2%、価格・構成の名目効果約2.8%を合わせ4.0%。正当化PERは翌期利益基準の式に1.04を掛けて11.70倍。利益の市況変動を考慮して上限の約96%である11.2倍を採用した。利益は少数株主持分控除後の会計純利益であり、償却の足し戻しはしない。
確率:新電炉の高稼働、自動車用高級材の浸透、ブラジルの輸入防衛、アルゼンチンの需要回復が同時に進む必要がある。設備の潜在能力は確認できるが、鉄鋼市況で10年間好条件が揃う可能性は高くないため11%とする。
やや楽観 21% やや楽観:新設備の収益改善が定着し、南米も正常化する 利益 18 億ドル · PER 10.4 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 92.79 ドル182 億ドル
2035年、メキシコの新電炉は計画どおり稼働し、購入スラブへの依存を減らしている。自動車用鋼板の販売増加も進むが、世界の鋼材価格は物価を大きく上回らない。メキシコ出荷は990万トンとなり、国内市場でのシェアは約33%へ上昇する。鋼材単価は1,390ドルとなり、2025年比で約1.45倍になる。
ブラジルは合理化と輸入防衛で改善するものの、CSNやアルセロールミッタルとの競争が続く。出荷は440万トン、営業利益率は9.5%となる。南部地域では農業、エネルギー向け需要が底堅く、その他市場では輸入材との競争を受けながらも販売を維持する。全社営業利益は約29.2億ドル、親会社純利益は17.6億ドルとなる。
大型設備投資は回収段階に入り、利益を再投資するだけでなく配当に回せるようになる。10年の純利益累計は116億ドル、正味還元は65億ドルとする。自己資本は170.5億ドルとなり、ROEは約10.3%となる。資本コストをわずかに上回る水準だが、高い超過利益率ではない。事業の品質は改善するものの、鋼材市況による変動は残る。
- メキシコ鋼材:数量 9.9(メキシコ市場向け鋼材出荷量(百万トン))× 価格 14(鋼材平均売価(億ドル/百万トン。9.59は約959ドル/トン))→ 売上 138 億ドル・営業利益 17 億ドル。市場成長と輸入代替で出荷は2025年比約1.33倍。費用低下と高級材比率上昇。
- ブラジル鋼材:数量 4.4(ブラジル市場向け鋼材出荷量(百万トン))× 価格 14(鋼材平均売価(億ドル/百万トン))→ 売上 60 億ドル・営業利益 6 億ドル。輸入防衛は部分的に継続し、ウジミナスの収益が正常化する。
- 南部地域鋼材:数量 2.7(南部地域向け鋼材出荷量(百万トン))× 価格 15(鋼材平均売価(億ドル/百万トン))→ 売上 40 億ドル・営業利益 5 億ドル。鉱業・エネルギーの需要増と物価並みの価格転嫁。
- その他市場の鋼材:数量 1.9(その他市場向け鋼材出荷量(百万トン))× 価格 14(鋼材平均売価(億ドル/百万トン))→ 売上 27 億ドル・営業利益 2 億ドル。中米向けが拡大し、米国向けの関税負担を一部吸収する。
- 鉱山事業の外販:数量 9.1(鉄鉱石の第三者向け出荷量(百万トン))× 価格 0.98(鉄鉱石外販単価(億ドル/百万トン))→ 売上 9 億ドル・営業利益 1 億ドル。鉱山操業の改善で販売量と利益率が上がる。
- 売電・その他製品:数量 3.9(推定売電量(TWh相当。会社の実物数量開示はない))× 価格 1.40(推定実現売電単価(億ドル/TWh。1.02は約102ドル/MWh))→ 売上 5 億ドル・営業利益 0 億ドル。電力価格はおおむね物価上昇に追随する。
倍率:ROE17.6÷170.5=10.32%、k9.5%、弱い堀の残存割合1/3からRONICは9.77%。2035年以降のgは市場実質成長0.7%、シェア変化0.1%、価格・製品構成の名目効果約2.95%を合わせ3.75%。10年目の利益に対する正当化PER上限は約11.12倍。市況変動とブラジルの資本効率を割り引き、上限の約93%である10.35倍とする。純利益は会計基準ベースで、少数株主持分を控除する。
確率:メキシコの設備完成は確度が高く、2026年上期の収益回復も確認できる。ただし全地域の高収益化までは期待しない。ブラジルの輸入防衛が部分的に続く姿として21%とする。
中立 32% 中立:メキシコは成長するが、全社利益率は平準化される 利益 14 億ドル · PER 9.9 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 68.08 ドル134 億ドル
2035年、メキシコの鉄鋼市場は10年で約1.1倍になり、テルニウムは市場以上に数量を伸ばす。新電炉の能力が購入スラブの代替と輸入品からのシェア獲得に使われ、出荷は900万トンとなる。市場シェアは約33%へ上がる。販売単価は1,335ドルで、2025年比約1.39倍となる。これは物価上昇にほぼ沿うが、汎用品の競争と製品構成の変化を反映している。
ブラジルではウジミナスの合理化が進むものの、輸入鋼材が価格の上限を決める。出荷は412万トン、営業利益率は8.5%にとどまる。アルゼンチンはエネルギーと農業向け需要が下支えし、南部地域の出荷は236万トンとなる。その他市場は関税の影響を受けて大きく伸びない。全社の鋼材出荷は約1,696万トンになる。
全社売上は約241億ドル、営業利益は約22.8億ドル、親会社純利益は13.5億ドルとなる。営業利益率は約9.5%で、2025年の谷を上回るが、2021年の高収益には戻らない。2026年の改善後も設備の立ち上げと景気変動があるため、10年の純利益累計は95億ドルとする。配当中心の正味還元60億ドルを差し引くと自己資本は154.5億ドルとなり、ROEは約8.7%にとどまる。
新しい大型買収は前提とせず、既存のペスケリアとウジミナスの改善に集中する。テルニウムは引き続き中南米で重要な鋼材メーカーだが、利益を再投資したときの利回りは資本コストを十分に超えない。堀が大きく広がるというより、現在の競争上の位置を維持する筋書きである。
- メキシコ鋼材:数量 9.0(メキシコ市場向け鋼材出荷量(百万トン))× 価格 13(鋼材平均売価(億ドル/百万トン。9.59は約959ドル/トン))→ 売上 120 億ドル・営業利益 14 億ドル。市場実質1.1倍、シェア約30%から33%。新電炉によるスラブ内製化と高級材への移行で営業利益率11.7%。
- ブラジル鋼材:数量 4.1(ブラジル市場向け鋼材出荷量(百万トン))× 価格 13(鋼材平均売価(億ドル/百万トン))→ 売上 54 億ドル・営業利益 5 億ドル。薄板需要は緩やかに増えるが、輸入品との競争でシェアは概ね横ばいから微減。
- 南部地域鋼材:数量 2.4(南部地域向け鋼材出荷量(百万トン))× 価格 15(鋼材平均売価(億ドル/百万トン))→ 売上 34 億ドル・営業利益 4 億ドル。数量は約1.08倍、価格は約1.36倍。成熟市場でシェアを維持する。
- その他市場の鋼材:数量 1.5(その他市場向け鋼材出荷量(百万トン))× 価格 14(鋼材平均売価(億ドル/百万トン))→ 売上 20 億ドル・営業利益 2 億ドル。米国向け関税と中米向け需要が相殺し、数量は横ばい。
- 鉱山事業の外販:数量 8.1(鉄鉱石の第三者向け出荷量(百万トン))× 価格 0.98(鉄鉱石外販単価(億ドル/百万トン))→ 売上 8 億ドル・営業利益 0 億ドル。外販数量は微増。鉄鉱石価格は名目で上昇するが、実質では物価並み以下。
- 売電・その他製品:数量 3.5(推定売電量(TWh相当。会社の実物数量開示はない))× 価格 1.40(推定実現売電単価(億ドル/TWh。1.02は約102ドル/MWh))→ 売上 5 億ドル・営業利益 0 億ドル。余剰売電量は小幅増、単価は概ね物価並み。
倍率:ROE13.5÷154.5=8.74%。k9.5%を下回るため、利益を内部留保しても資本コスト以上の価値を生むとは限らない。弱い堀の残存割合1/3でRONICは約9.25%。2035年以降のgは、地域市場の実質成長約0.7%、シェアの増減ほぼ0%、実現価格の名目成長約2.8%を合わせ3.5%。式と翌期利益への補正による正当化PERは約10.72倍だが、ROEがk以下なので1÷k=10.53倍を上限とする。上限の約94%である9.9倍とした。純利益は親会社株主帰属の会計純利益であり、非支配持分と通常の償却を差し引いたまま使用する。
確率:2026年の収益改善とペスケリア新設備の合理性を認める一方、中国の過剰供給と中南米の政治・景気循環が続くと見る。各地域の需要と価格が極端に振れない姿として32%とする。
やや悲観 24% やや悲観:通商摩擦と中国材の競争で投資収益率が低迷する 利益 6 億ドル · PER 8.8 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 24.66 ドル48 億ドル
2035年、メキシコの新電炉は完成しているが、当初期待したほどの高級鋼材需要は生まれていない。米国の関税と原産地要件が変化し、メキシコの製造業投資が鈍る。国内市場は緩やかに成長するものの、輸入材との競争でテルニウムの出荷は780万トンにとどまる。市場シェアは2025年と同程度かやや低く、販売単価も1,230ドルと物価上昇を下回る。
ブラジルでは中国材への防衛措置が不十分となり、ウジミナスの稼働率が低迷する。販売量は355万トンに減り、営業利益率は3.5%へ低下する。アルゼンチンは建設と家電の弱さが続き、南部地域の出荷は205万トンとなる。鉱山事業も鉄鉱石価格の実質下落と固定費の負担で赤字となる。全社営業利益は約9億ドルで、親会社純利益は5.5億ドルに落ち込む。
新設備の減価償却費は残り、追加の設備更新支出も必要となる。経営は配当を維持しようとするが、2026年の配当削減と同様に支払額を調整する。10年の純利益累計は72億ドル、正味還元45億ドルとなる。自己資本は146.5億ドルで、ROEは約3.8%にすぎない。
この場合、事業は存続するものの、増えた設備に見合う利益を稼げない。アルセロールミッタル、CSN、輸入鋼材への対抗で値引きを迫られ、競争優位は縮む。帳簿上の資産の多さでは株主価値を守れず、稼ぐ力を基準に厳しく評価される。
- メキシコ鋼材:数量 7.8(メキシコ市場向け鋼材出荷量(百万トン))× 価格 12(鋼材平均売価(億ドル/百万トン。9.59は約959ドル/トン))→ 売上 96 億ドル・営業利益 7 億ドル。市場の低成長とシェア後退。価格は物価を下回り、新設備の固定費が重くなる。
- ブラジル鋼材:数量 3.6(ブラジル市場向け鋼材出荷量(百万トン))× 価格 12(鋼材平均売価(億ドル/百万トン))→ 売上 41 億ドル・営業利益 1 億ドル。輸入材との競争で数量と実質単価が低下し、ウジミナスの採算が弱い。
- 南部地域鋼材:数量 2.1(南部地域向け鋼材出荷量(百万トン))× 価格 13(鋼材平均売価(億ドル/百万トン))→ 売上 26 億ドル・営業利益 2 億ドル。国内の製造業低迷と輸入自由化により数量と利益率が落ちる。
- その他市場の鋼材:数量 1.3(その他市場向け鋼材出荷量(百万トン))× 価格 12(鋼材平均売価(億ドル/百万トン))→ 売上 15 億ドル・営業利益 1 億ドル。米国向け出荷減少を他の輸出先で補いきれない。
- 鉱山事業の外販:数量 7.2(鉄鉱石の第三者向け出荷量(百万トン))× 価格 0.85(鉄鉱石外販単価(億ドル/百万トン))→ 売上 6 億ドル・営業利益 0 億ドル。鉱石販売価格がコスト上昇に追いつかず、営業損失を計上する。
- 売電・その他製品:数量 3.1(推定売電量(TWh相当。会社の実物数量開示はない))× 価格 1.25(推定実現売電単価(億ドル/TWh。1.02は約102ドル/MWh))→ 売上 4 億ドル・営業利益 0 億ドル。余剰電力の販売は残るが利益率は低い。
倍率:ROEは5.5÷146.5=3.75%で、k9.5%を大きく下回る。長期のgは地域市場の実質横ばい、輸入品へのシェア喪失、低い価格転嫁を考慮して2.5%。弱い堀のRONICは約7.58%。式による利益倍率は約9.82倍だが、ROEがkを下回るため稼ぐ力を中心に8.8倍とする。mcap48.4億ドルは純利益5.5億ドル÷k9.5%の約57.9億ドルを超えない。余剰現金は加算しない。
確率:メキシコの新設備は完成するが、域内調達の追い風が弱まり、ブラジルの輸入競争が続く展開は十分にありうる。設備の完成と収益化が別問題であるため24%とする。
悲観 12% 悲観:新設備が過剰資産となり、主要市場で競争力を失う 利益 4 億ドル · PER 8.0 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 15.89 ドル31 億ドル
2035年、北米の製造業投資は米国側へ偏り、メキシコは期待した鋼材需要を取り込めない。ペスケリアの新電炉は稼働するが、低い稼働率で償却費が重くなる。輸入材との競争でメキシコ出荷は710万トンへ減り、単価は1,070ドルにとどまる。10年間で物価が約1.41倍になるにもかかわらず、実質販売価格は大幅に下がっている。
ブラジルではウジミナスの競争力改善が進まず、安値輸入と老朽高炉の負担が続く。出荷は310万トンに減る。アルゼンチンでは輸入自由化と内需の弱さによって販売が170万トンまで落ちる。その他市場も輸出先を失う。全社売上は約146億ドル、営業利益は5.6億ドル程度に縮み、親会社純利益は3.9億ドルとなる。物価上昇を考えると、実質的な稼ぐ力は2025年よりかなり弱い。
2026年の利益改善の後、複数年の低迷と設備減損が発生する。減損後の回復を含め、10年の親会社純利益累計は52億ドルにとどまる。配当は削減され、正味還元は28億ドルとなる。自己資本は143.5億ドルで、ROEは約2.7%しかない。工場は残っても資本コストを稼げず、株主にとっての優良さは失われる。
この筋書きでは帳簿の自己資本を額面どおりに評価しない。継続企業としての稼ぐ力を厳しく測り、同時に現金、売掛金、在庫、売却可能な製鉄設備などを処分した場合の税後価値を確認する。支配下のウジミナスに存在する少数株主持分も差し引く。企業価値をゼロにはしないが、過去の景気の底で付いたPBRが再び保証されるとは考えない。
- メキシコ鋼材:数量 7.1(メキシコ市場向け鋼材出荷量(百万トン))× 価格 11(鋼材平均売価(億ドル/百万トン。9.59は約959ドル/トン))→ 売上 76 億ドル・営業利益 4 億ドル。市場シェアと実質価格が低下。新電炉の固定費を十分吸収できない。
- ブラジル鋼材:数量 3.1(ブラジル市場向け鋼材出荷量(百万トン))× 価格 10(鋼材平均売価(億ドル/百万トン))→ 売上 32 億ドル・営業利益 1 億ドル。中国材との競争、老朽設備の更新費用、稼働率低下が重なる。
- 南部地域鋼材:数量 1.7(南部地域向け鋼材出荷量(百万トン))× 価格 11(鋼材平均売価(億ドル/百万トン))→ 売上 19 億ドル・営業利益 1 億ドル。輸入品との競争が強まり、国内市場でのシェアを失う。
- その他市場の鋼材:数量 1.0(その他市場向け鋼材出荷量(百万トン))× 価格 11(鋼材平均売価(億ドル/百万トン))→ 売上 11 億ドル・営業利益 0 億ドル。米国と中米の出荷先が減り、固定費負担が大きくなる。
- 鉱山事業の外販:数量 6.3(鉄鉱石の第三者向け出荷量(百万トン))× 価格 0.73(鉄鉱石外販単価(億ドル/百万トン))→ 売上 5 億ドル・営業利益 0 億ドル。鉱山の競争力が落ち、外販の営業損失が続く。
- 売電・その他製品:数量 2.8(推定売電量(TWh相当。会社の実物数量開示はない))× 価格 1.15(推定実現売電単価(億ドル/TWh。1.02は約102ドル/MWh))→ 売上 3 億ドル・営業利益 0 億ドル。余剰電力販売が縮小し、利益はわずかに残る。
倍率:ROEは3.9÷143.5=2.72%で、k9.5%を大きく下回る。2035年以降のgは需要横ばい、シェア縮小、実質単価低下を織り込んで1.0%。弱い堀のRONICは約7.24%。式による上限約10.24倍に対し、構造的に競争力を失った事業なので8.0倍とする。時価総額31.2億ドルは稼ぐ力3.9÷0.095=約41.1億ドルを超えず、売れる資産の税後価値29億ドルも下回らない。過去のPBRや将来の積み上がった自己資本には依存しない。
確率:メキシコの投資不振、ブラジルの構造的赤字圧力、アルゼンチンの輸入競争が長期化する場合である。鉄鋼需要は消滅せず、財務も直ちに破綻するほど悪くないため、12%の深い悲観とする。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
メキシコ鋼材
ペスケリアを中心に熱延、冷延、亜鉛めっき鋼板などを製造し、自動車、家電、建設、産業機械向けに販売する。新電炉と直接還元鉄設備による内製化が今後の主な成長要因となる。
| 数量メキシコ市場向け鋼材出荷量(百万トン) | 価格鋼材平均売価(億ドル/百万トン。9.59は約959ドル/トン) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 7.4 | 9.59 | 71 | 6 |
| 10 年後 中立 | 9.0 | 13 | 120 | 14 |
取り方:Ternium 2025 Annual ReportのMexico欄は出荷743.2万トン、鋼材売上71.24億ドル、実現単価959ドル/トン。数値は地域別の直接開示である。メキシコ鉄鋼協会CANACEROによる2025年の見掛け消費約2,497万トンに対して出荷比率は約29.8%。輸入は約1,054万トンで市場の約42%を占める。競合のアルセロールミッタル、デアセロ、シメックの個別シェアは比較可能な確定値がないため捏造しない。営業利益6.4億ドルは地域別営業利益が非開示のため、全社利益と製品構成から推計した値である。
ブラジル鋼材
テルニウム・ブラジルの半製品と、ウジミナスの薄板・表面処理鋼板を供給する。国内の自動車産業が主要顧客で、中国などからの安値輸入が競争条件を左右する。
| 数量ブラジル市場向け鋼材出荷量(百万トン) | 価格鋼材平均売価(億ドル/百万トン) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 3.9 | 9.37 | 37 | 0 |
| 10 年後 中立 | 4.1 | 13 | 54 | 5 |
取り方:Ternium 2025 Annual ReportのBrazil欄は出荷394.3万トン、売上36.95億ドル、実現単価937ドル/トン。ブラジル鉄鋼協会とウジミナスの市場統計による2025年の国内薄板需要約1,649万トンに対し、出荷数量の単純比率は約23.9%。国内薄板市場では輸入比率が約25.6%あり、CSN、アルセロールミッタル、ゲルダウなどが競合する。自社の販売品目と市場統計の品目は完全には一致しないためシェアは概算。地域別の利益は非開示であり、2025年の高炉コストと輸入競争を踏まえ営業利益0.3億ドルを推計した。
南部地域鋼材
主にアルゼンチンで自動車、建設、農業機械、エネルギー向けに鋼材を販売する。国内の景気と輸入政策の変化に強く影響される。
| 数量南部地域向け鋼材出荷量(百万トン) | 価格鋼材平均売価(億ドル/百万トン) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 2.2 | 11 | 23 | 2 |
| 10 年後 中立 | 2.4 | 15 | 34 | 4 |
取り方:Ternium 2025 Annual ReportのSouthern Region欄は出荷218万トン、売上23.26億ドル、単価1,067ドル/トン。2026年9月の投資家説明資料ではアルゼンチンの2026年見掛け消費見通しを約440万トンとしており、会社の出荷は市場の約半分に相当する。ただし基準年と地域区分の違いがあるため厳密なシェアではない。競合はアルセロールミッタル傘下のアシンダールや輸入鋼材である。営業利益2.1億ドルは全社利益からの推計で、地域開示の確定値ではない。
その他市場の鋼材
米国、コロンビア、中米などへの鋼材販売と流通を担う。市場ごとの関税、輸送費、販売先の製品構成によって採算が変わる。
| 数量その他市場向け鋼材出荷量(百万トン) | 価格鋼材平均売価(億ドル/百万トン) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1.5 | 11 | 16 | 2 |
| 10 年後 中立 | 1.5 | 14 | 20 | 2 |
取り方:Ternium 2025 Annual ReportのOther Markets欄は出荷150.6万トン、売上15.90億ドル、単価1,056ドル/トン。米国、コロンビアなど複数市場の合算であり、単一国の市場シェアを出すことは不適切。コロンビアの鋼材市場は2026年の会社説明資料で約360万トンの規模だが、Other Markets全体の分母にはできない。2025年の米国向け出荷減少を踏まえ、営業利益1.7億ドルを推計した。
鉱山事業の外販
メキシコとブラジルの鉄鉱石鉱山から原料を供給する。グループ内向けの出荷は連結売上から除き、外部顧客への販売だけを収益化する。
| 数量鉄鉱石の第三者向け出荷量(百万トン) | 価格鉄鉱石外販単価(億ドル/百万トン) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 7.7 | 0.74 | 6 | −1 |
| 10 年後 中立 | 8.1 | 0.98 | 8 | 0 |
取り方:Ternium 2025 Annual ReportのMining Segmentは第三者向け765.8万トン、売上5.68億ドル、単価約74ドル/トンと開示。グループ内向け529.3万トン、売上相当5.70億ドルは連結消去されるため外販に加算しない。鉱山事業の2025年管理ベース営業損失は約1.41億ドルであり、会計区分の差を考慮して本モデルではマイナス1.2億ドルを配分した。ブラジル鉄鉱石市場ではヴァーレやCSNがはるかに大きく、テルニウムの鉱山は主としてグループ内原料確保のために保有される。
売電・その他製品
メキシコのテクジェンから購入した余剰電力の再販売や、ブラジルでの電力・副産物販売を含む。全社売上に占める割合は小さい。
| 数量推定売電量(TWh相当。会社の実物数量開示はない) | 価格推定実現売電単価(億ドル/TWh。1.02は約102ドル/MWh) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 3.0 | 1.02 | 3 | 0 |
| 10 年後 中立 | 3.5 | 1.40 | 5 | 0 |
取り方:Ternium 2025 Annual ReportのOther Productsは売上3.06億ドルで、主にメキシコとブラジルの電力販売と記載されている。売電量は非開示。テクジェンの発電能力約900MWとテルニウムの契約比率78%を上限の参考にし、実現単価を仮に102ドル/MWhとすると約3TWh相当になる。この数量は逆算推計であり会社の発表した実績値ではない。副産物も含むため、長期予測では小さな補助事業として扱う。
リスクと懸念
北米通商政策と原産地規則
米国・メキシコ・カナダ協定の見直し、鉄鋼関税、原産地規則がメキシコの製造業投資と鋼材需要を左右する。米国の高関税は米国内のニューコアなどに利益をもたらす一方、メキシコの輸出産業には負担になる。ペスケリアの新電炉が北米域内材の需要を取り込めなければ、投資した設備が低稼働となり、利益率とROEが低下する。
中国の過剰供給とブラジルの輸入競争
中国の鉄鋼過剰能力は、南米市場で鋼材価格を抑える大きな要因である。2025年のブラジルでは薄板需要の約4分の1を輸入材が占めた。反ダンピング措置が弱まるか、迂回輸出が増えればウジミナスの販売単価は上がらない。ブラジル事業の利益改善が遅れると、連結EBITDAは大きくても親会社株主の純利益は増えにくい。
ペスケリアの投資回収
新電炉260万トンと直接還元鉄210万トンの設備は、完成後も高い稼働率と高級材の販売が必要である。購入スラブを置き換える効果はあるが、すべてが純粋な販売数量の増加ではない。自動車メーカーの認証や量産立ち上げが遅れると償却費が先行し、増分ROICが資本コストを下回る。大型設備投資の失敗は長期間の利益と現金配当に影響する。
ウジミナスの少数株主持分と訴訟
2026年の追加取得後もテルニウムのウジミナス経済的持分は約36〜38%にとどまり、連結利益の多くは他の株主にも帰属する。2025年には税効果資産の減損と買収関連訴訟の引当が利益を傷めた。訴訟債務が増えたり、新たな減損が起これば親会社純利益と自己資本が下がる。連結売上やEBITDAだけで割安と判断することは危険である。
景気循環と製鉄コスト
営業利益率は2021年32.6%から2025年5.8%へ低下した。鋼材販売価格が下がっても、鉄鉱石、スクラップ、電力、人件費が同じ速度で下がるとは限らない。ブラジルの高炉は電炉より固定費が重く、稼働率が低下した場合の損益悪化が大きい。高値の年の利益を長期に延ばすと本質価値を過大評価する危険がある。
支配株主と資本配分
テチント・グループと関連するテナリスが議決権の大部分を保有しており、外部株主が大型買収や設備投資の方針を変更する力は限られる。2026年には年間配当案が引き下げられた。親会社と上場子会社の間にも少数株主持分があり、利益の現金化には制約がある。投資を優先しすぎると、会計上の自己資本は増えても株主への還元が不足する。
為替、政治と環境投資
メキシコ、ブラジル、アルゼンチンでは賃金、電力、原材料、税制、通商政策が異なる。ドル建てで見た売上と利益は各国通貨の動きにも左右される。ブラジルの高炉には脱炭素と環境対応の投資が必要であり、排出規制が強まれば維持設備投資が増える。為替変動を当てにせず、長期的な設備更新費用が利益から引かれる前提で評価する。
今後の分かれ目
- ペスケリアの新電炉が2027年に立ち上がり、数年で高稼働と自動車用鋼材の認証拡大を実現したら
- メキシコ出荷900万トン超の実現確度が上がる。営業利益率が12%を安定して超えるなら、やや楽観の確率を増やし、増分ROICも再評価する。
- メキシコの見掛け鋼材消費が2,500万トン前後から長期的に減少し、輸入比率も高止まりしたら
- 新設備が市場成長ではなく既存顧客の奪い合いに依存する。中立の出荷900万トンを下げ、やや悲観への確率移動を考える。
- ブラジルの薄板輸入比率が20%以下へ低下し、ウジミナスの利益率が持続的に改善したら
- 輸入防衛と費用改革が効いていると判断する。ブラジルの営業利益率を中立8.5%から上方修正し、親会社への帰属割合を確認したうえで価値を見直す。
- ブラジルの輸入比率が30%を超え、ウジミナスの高炉稼働率が低迷し続けたら
- ウジミナスの構造的な弱さが強まる。ブラジル事業の利益率を3〜5%へ下げ、やや悲観または悲観の確率を増やす。
- 大型投資終了後もフリーキャッシュフローが配当を継続的に下回ったら
- 維持投資が想定より重いか、運転資金が吸収されている可能性がある。10年の正味還元額を減らし、自己資本の増加だけを価値と見なさない。
- 年間の親会社純利益が10億ドルを超え、設備投資縮小後もROEが12%を超えて3年間続いたら
- 一時的な価格高騰ではなく構造的な収益改善かを検証する。スラブ内製化による費用削減が確認できれば、堀と増分ROICの評価を引き上げる。
- ウジミナスの訴訟引当が拡大し、追加の多額の現金支出が決まったら
- 保有資産の現金化余地と配当可能額を引き下げる。訴訟支出を利益と純現金に一度だけ反映し、悲観側の資産の床も再計算する。
見ておくもの
- メキシコ鋼材出荷量と国内見掛け消費に対するシェア
- ペスケリア新電炉260万トンと直接還元鉄210万トン設備の稼働開始・稼働率
- メキシコの鋼材平均売価、スラブ購入量、1トン当たり製造原価
- ブラジルの薄板輸入比率、反ダンピング措置、ウジミナスの営業利益率
- 親会社株主帰属純利益と連結営業利益の比率
- 設備投資、営業キャッシュフロー、フリーキャッシュフロー、純有利子負債
- 配当総額と株式報酬・増資を除いた正味還元
- 米国・メキシコ・カナダ協定の見直し、鉄鋼関税、原産地規則
- アルゼンチンの鋼材消費、輸入量、エネルギー・鉱業向け需要
- ウジミナスの訴訟引当、追加減損、少数株主への分配
倍率と資本コストの決め方
先に現在のPERやPBRから10年後の評価を決めず、メキシコ、ブラジル、南部地域、その他市場、鉱山外販、売電その他の数量と単価から将来の売上を組み立てた。鉱山の社内向け販売を二重計上せず、ウジミナスとアルゼンチンの少数株主持分は親会社純利益への換算で控除した。2025年の営業利益は添付factsの9.0億ドルを基準とし、会社のIFRS開示にある約7.05億ドルとは会計・集計定義の差があることを確認した。地域別営業利益は開示されないため推計であり、実績値として扱わない。
倍率はk9.5%、弱い堀、ROE、地域需要と実質価格から求めたgで算出した。中立ROEはkを下回るため、PER上限を1÷kとし、帳簿上の自己資本の厚さで倍率を上げていない。悲観は稼ぐ力と税後売却資産で検算した。2025年の純現金は設備投資と運転資金に必要なので別途加算せず、受取利息も二重計上しない。将来の株数減少や未実現の買収価値も織り込まない。
確率加重価値は約85.8億ドルで、2026年10月23日の時価総額約109.9億ドルに対して約22%低い。割高という結論を先に決めたのではなく、設備投資後の利益と還元の道筋から得られた結果である。
資本コスト 9.5% = 無リスク金利 5% + β — × 5%。米国株の基本8.0%に、業種循環1.0%と価格決定力の弱さ0.5%を加えた9.5%。同じ鉄鋼領域のニューコアとスチール・ダイナミクスも9.5%であり、共通する鋼材市況のリスクは同じ尺度で測る。テルニウム固有の中南米リスクは悲観の数量、利益率、確率に反映する。βと市場のPERは使用しない。