結論
リンデは世界最大の産業ガス会社で、酸素・窒素・アルゴン・水素・ヘリウムなどを、パイプラインで顧客の工場へ直接届けるオンサイト、液体ガスのタンクローリー、シリンダーの 3 つの形で売る。2025 年は売上 340 億ドル、調整後の営業利益率 29.8%(会計上は 26.3%)、純利益 69 億ドル。2026 年 4〜6 月期も売上は 93 億ドル(+9%、うち実質 +4%)、調整後の 1 株利益は +10%、年間の見通しは +8〜9%、販売ガスの契約残高は過去最高の 81 億ドル、プロジェクト残高は 110 億ドルに積み上がっている。
強みは、15〜20 年の長期契約と、電力・天然ガスのコスト転嫁・物価連動の条項で、数量が景気で振れても利益が守られる点にある。コロナ(2020 年)の株価の下げは 18%、2022 年の利上げ局面でも 21% にとどまった。利益率は 2018 年のリンデ AG との統合後、11.6%(2019 年)から 27%(2025 年)まで 15 ポイント以上上がり、資本効率も伸びた。
バリュー投資の観点では、事業の質は疑いにくい。問題は値段で、時価総額 2,354 億ドルは純利益の 34 倍、自己資本の 6 倍。利益利回り約 3% は名目の国債 5% より低いが、長期契約と物価連動で物価 3.5% についていく事業なので、資本コストは基本 8.0% から長期契約の安定分 0.5% を引いた 7.5% と低く置ける。市場 × シェア × 価格(数量 年 3%・価格は物価並み)の中立で積み上げると、10 年後の利益は今の 2 倍、成熟後の倍率は利益ベースの正当化 PER(帳簿の ROE・強い堀で超過分の 3 分の 2 が残る・k 7.5%・上限の 9 割)で 10 年目の利益の 21.7 倍、10 年後の時価総額は今の約 1.3 倍。割り引いた価値は今の値段を約 13% 下回り、総合ではやや割高。悲観の筋書き(利益が今より減る)では、10 年後の時価総額と還元の合計が今の 0.6 倍。優れた会社だが、値段はやや割高で安全域はない、という結論である。
バリュー投資の観点から
バリュー投資家なら、まず「10 年後もあるか」を問う。答えは、ある。空気・水素・ヘリウムは産業のあらゆる工程に使われ、設備は顧客の隣に建ち、契約は 15〜20 年続く。しかも半導体・医療・宇宙という景気に強い需要の比率が上がっており、堀は狭まるより広がる方向にある。利益率は 2018 年の統合後 11.6%(2019 年)から 27%(2025 年)へ 15 ポイント以上上がり、経営の質の高さを示す。
次にオーナー利益を見る。純利益 69 億ドルのうち、成長のための設備投資(売上の約 16%)を差し引いた FCF は 51 億ドルで、時価総額の約 2.2%。株式報酬の影響は小さい。この利回りは、名目の国債 5% を大きく下回る。ただし利益は物価とともに伸びるので、比べるべきは実質の利回り(国債は実質 1.5% 前後)である。純利益ベースでも利回りは約 2.9%。成長が 10 年続いても、払う値段が高ければリターンは事業の質を超えない。
安全域の議論では、中立で 10 年後の時価総額と還元の合計が今の約 1.7 倍、年率で約 5.4% と資本コスト 7.5% に届かない。楽観の筋書きなら約 2.3 倍で年率 8〜9%、悲観なら約 0.6 倍。わかりやすい事業という点では最上位で、確信度は高い。一方、値段への確信は持てない。今の値段は割り引いた本質価値を約 13% 上回り、安全域はない。利益の 25 倍前後(今より 2〜3 割安い)の局面が来れば、安全域を持って持てる会社だと考える。
何で稼ぐ会社か
リンデの売上の約 9 割はガス事業で、米州 152 億ドル(営業利益率 31%)、EMEA 85 億ドル(36%)、アジア太平洋 67 億ドル(29%)の 3 地域に分かれる。形態は 3 つで、①オンサイト:製鉄所・化学・精製・半導体工場の隣に空気分離装置(ASU)や水素プラントを建て、15〜20 年の契約で最低引き取り量(テイク・オア・ペイ)と電力・ガス代の転嫁条項付きでガスを供給する。リンデが設備を持つので、契約が続く限り顧客は他社へ乗り換えにくい。②マーチャント(液体):ASU で作った液体の酸素・窒素・アルゴンをタンクローリーで運び、数年の契約と地域の密度で稼ぐ。③パッケージ(シリンダー):溶接・医療・食品・研究所向けの小口販売で、利益率は高いが営業は地域ごとの密度が命。
エンジニアリング事業(売上 22.5 億ドル)は、外部の顧客向けに ASU・水素・化学プラントを設計・建設する。社内の設備も自前で作れるため、建設コストと納期の競争力がガス事業の堀になっている。ロシアのアムール GPP のような大型案件では 2022 年に撤退して巨額の特別費用を出したが、その後は固定価格の大型案件を絞り、契約の質を高めた。
成長の源は 3 つ。第一に電子:半導体・パネル・AI データセンター向けの高純度窒素・特殊ガスで、2026 年も米国の電子向けの長期契約と台湾の合弁(約 8 億ドル)を獲得した。第二に脱炭素:クリーン水素(米ダウ・テキサスの水素)や CCS だが、補助金(米 IRA の 45V)の縮小で慎重になった。第三に航空宇宙・宇宙向けのヘリウム・水素・液体酸素。設備投資は 2026 年に 55〜60 億ドルと売上の 16% に達し、プロジェクト残高 110 億ドルを建設中。
優良さと弱いところ
堀は 4 層ある。第 1 は地域の密度:パイプラインや ASU は地理的に動かせず、同じ地域の顧客向けに複数の ASU を束ねて運用すると物流費が下がる。世界の産業ガスは上位 4〜5 社(リンデ・エア・リキード・エアープロダクツ・大陽日酸ほか)で 6〜7 割を握る寡占。第 2 は契約の構造:オンサイトは 15〜20 年、最低引き取り量があり、顧客にとって電力・原料の大部分が転嫁される。第 3 は価格を決める力:売上の中で実質ベースの価格の改善が毎年続き、2026 年 4〜6 月期も価格と生産性が営業利益率の低下(コスト上昇)を打ち消した。第 4 は規模:エンジニアリングで内製して設備投資の費用を下げ、物流網と調達で規模が効く。
資本効率は高いが、見かけほどではない。ROE 18% の分母には、2018 年の統合で積み上がった大きなのれん(自己資本 382 億ドルの大半)が含まれ、事業の資本利益率は ROE より低い。逆に、設備投資の速度(売上の約 16%)は重く、フリー・キャッシュフローは純利益よりやや低い(FY2025 で純利益 69 億ドルに対し FCF 51 億ドル)。
経営はサンジブ・ラムバ氏が率い、利益率の改善と資本配分の規律で高く評価できる。弱点は、欧州の産業の弱さ、中国の競争、のれんの大きさ、そして設備投資の増加で FCF が純利益を下回る時期が続くこと。電力・天然ガスの転嫁条項が効かない契約や、保証が付くエンジニアリングの大型案件が損失を出すと、利益率に響く。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
世界の産業ガス市場は約 1,030〜1,150 億ドルで、年 5〜6% の成長が予測される(調査会社の幅)。窒素が最大で、半導体・食品・金属加工に広がる。需要は鉄鋼・化学・精製といった景気敏感の産業と、電子・ヘルスケア・食品・宇宙といった景気に強い産業の混成で、後者の比率が上がっているのが長期の追い風。価格はオンサイトで電力・ガスの転嫁と物価連動があり、物価並みに上がる。
競争は寡占で、エア・リキード(Air Liquide、フランス)が最も近く、エアープロダクツ(Air Products、米)は大型の水素プロジェクトで大きな減損を出して縮小し、大陽日酸(日本)はアジア・北米で拡大、杭氧・四川空分など中国の国内勢は別市場で価格を決める。技術では、クリーン水素・アンモニア・CCS が新しい需要の芽だが、補助金(米国 IRA の 45V)の縮小と顧客の脱炭素の遅れで採算の見通しが後退した。
循環では、2026 年に入り中東の紛争で電力・エネルギー費が上がり、欧州の化学・鉄鋼は弱いままで、米国は製造業の回復(航空宇宙・データセンター建設)が出ている。ACC は世界の化学生産を 2026 年 +0.5%、2027 年 +3.2% と見る。リンデは需要の弱い欧州でも価格と生産性で営業利益を伸ばしている。分かれ目は、①欧州の産業の流出が構造化するか、②電子(AI 向け)の増設が続くか、③水素の大型案件の減損が広がるか。
資本政策と M&A
還元は安定的で、FY2025 は配当 28 億ドルと自社株買い 46 億ドルで、合計は純利益の約 1.07 倍。株数は毎年約 2% 減っている。配当は 30 年以上連続で増配している。ただし設備投資が年 55〜60 億ドルに増えるため、FCF(FY2025 で 51 億ドル)は還元の合計を下回り、純負債は 2024 年の 178 億ドルから FY2025 で 230 億ドルへ増えた。時価総額が純利益の 34 倍の水準での自社株買いは、利益利回り約 3% に 10 年の成長を足してやっと資本コスト 7.5% に見合う水準で、バリュー投資の観点では価値を大きく増やす配分とは言いにくい。
M&A は、2018 年のプラクスエアとリンデ AG の合併(独禁当局の要請による事業売却を伴った)が大きな出来事で、その後は小規模な買収と、ガス・エンジニアリングの現地合弁が中心。のれんが大きく、自己資本の質は ROE の見かけよりも低い。大型の買収は行わない姿勢。買われる側になる可能性は時価総額 2,354 億ドルでは現実的でない。
借金は 281 億ドルで格付けが高く、借り換えで金利が上がっても、利払いの変化は 10 年で約 4 億ドルと小さい。鍵は、設備投資の山(2026〜2027 年)を越えたあとに FCF が還元を上回る形に戻るか、割高な局面で自社株買いを抑えるか。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
産業ガスは、鉄鋼や化学の景気に左右される古い産業ではなく、半導体・AI データセンター・医療・宇宙という成長産業の血管になりつつある。2026 年 4〜6 月期、販売ガスの契約残高は過去最高の 81 億ドルとなり、米国で電子向けの長期契約が追加された。台湾の合弁(約 8 億ドル)でも半導体工場向けの空気分離装置と水素設備を建てる。プロジェクト残高 110 億ドルのうち 2026 年に 13 億ドル分が立ち上がり、設備投資の山を越えれば FCF は急増する。
価格は物価に連動し、コスト転嫁の条項があるため、インフレの世界(物価 3.5%)では売上が自然に増える。2026 年の調整後 1 株利益は +8〜9% で、四半期ごとの増益が続いている。営業利益率は 11.6%(2019 年)から 27%(2025 年)に上がり、まだ生産性の改善余地が残る。電子ガス・ヘリウム・水素のような特殊ガスは価格の上乗せが大きい。AI データセンターの建設が続けば、米国の電子向けの数量は 10 年で 2 倍にもなる。10 年後の純利益は今の 2.6 倍に届き、堀の広がりと成長の持続を信じる投資家は成熟後でも PER 30 倍台を付ける。
慎重な見方
株価は、成長と利益率の改善が続き、倍率が高いまま保たれることを前提にしている。PER 34 倍は、利益利回りが約 3% という水準。k 7.5%・g 4% でも、ROE 28% の成熟した産業ガスの正当化 PER は 21.7 倍(式の 9 割)で、現在はその約 1.6 倍にあたる。2026 年 4〜6 月期の営業利益率は 27.5% と前年から約 60bp 下がり、数量は実質 4% しか伸びていない(残りは価格・為替・買収)。コスト上昇が価格改定で打ち消しきれていない。
設備投資は 2026 年に 55〜60 億ドルと売上の 16% で、FCF は純利益を下回り、純負債は 2022 年の 134 億ドルから 230 億ドルへ増えた。大型のプロジェクト(水素・脱炭素・電子)の採算は契約が長いため見えにくく、エアープロダクツの水素プロジェクトの巨額の減損は産業全体への警告になる。欧州の産業は電力・ガス代の高さで流出が続き、中国のオンサイトは価格競争が厳しい。大陽日酸や杭氧が攻め、リンデのシェアは頭打ちになりうる。自社株買いは割高な値段で続けられ、1 株の価値を高めているとは言いにくい。
どちらに重みを置いたか
事業の質と安定性は強気の見方が圧倒的に強く、確率は 10 年で楽観側(楽観とやや楽観の合計 37%)にやや寄せた。一方で値段は慎重な見方が強い。中立の筋書きで 10 年後の利益は今の 2.0 倍、PER は利益ベースの 21.7 倍(今の 34 倍より低い)で、10 年後の時価総額は今の約 1.3 倍、割り引くと今の値段を約 13% 下回る。契約が守りになるため悲観は 10 年で 10% に置いた。倍率は利益ベースの正当化 PER の 9 割に置き、10 年の中立は 21.7 倍、総合はやや割高(−13%)。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 618.21 ドル2,919 億ドル(+ 配当配当と自社株買いの合計 191.91 ドル906 億ドル)。 今の値に割り戻すと 433.63 ドル2,048 億ドル、今との差 −15.0%、 期待の年率 +4.7%(資本コスト 7.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 907.15 ドル4,284 億ドル | 230.84 ドル1,090 億ドル | +123.0% | +8.3% | 136.56 ドル645 億ドル |
| やや楽観 | 25% | 763.35 ドル3,605 億ドル | 211.78 ドル1,000 億ドル | +91.1% | +6.7% | 243.78 ドル1,151 億ドル |
| 中立 | 35% | 647.08 ドル3,056 億ドル | 194.83 ドル920 億ドル | +65.0% | +5.1% | 294.67 ドル1,391 億ドル |
| やや悲観 | 18% | 412.71 ドル1,949 億ドル | 165.19 ドル780 億ドル | +13.2% | +1.3% | 104.02 ドル491 億ドル |
| 悲観 | 10% | 177.51 ドル838 億ドル | 133.42 ドル630 億ドル | −39.1% | −4.8% | 31.09 ドル147 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 618.21 ドル2,919 億ドル | 191.91 ドル906 億ドル | +58.7% | +4.7% | 810.13 ドル3,825 億ドル |
今の株価時価総額 510.36 ドル2,410 億ドル(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 12% 楽観:電子・水素・脱炭素の需要が重なり、利益が 2.6 倍に 利益 179 億ドル · PER 23.9 倍 · 株価時価総額 907.15 ドル4,284 億ドル
2035 年、半導体・AI データセンター向けの高純度窒素・特殊ガス、水素、アンモニア、脱炭素鉄鋼向けの酸素、宇宙・航空向けのヘリウムなど、需要の芽が重なる。米州の数量は 10 年で 1.5 倍、アジア太平洋は 1.6 倍(年 +4.8%)。リンデのシェアは電子・水素のオンサイト契約で 3% 上がり、価格は物価を少し超える。営業利益率は 32% まで上がり、純利益は 179 億ドル(2025 年の 2.6 倍)。成熟した高 ROE(約 35%)の企業として PER 23.9 倍(k 7.5%・g 4% の式の 9.5 割、×(1+g))。契約残高(2026 年 6 月で 81 億ドル)が積み上がる形が 10 年続き、ガス事業の設備投資の収益が着実に回収される。水素は補助に頼らない用途(精製・アンモニア・電子)に絞られ、減損は小さい。
- 米州ガス:数量 495(米州の産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質))× 価格 67.6%(リンデのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 335 億ドル・営業利益 120 億ドル。市場 495 億ドル × シェア 47.9% × 価格 1.41 倍
- 欧州・中東・アフリカガス:数量 351(EMEA の産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質))× 価格 46.4%(リンデのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 163 億ドル・営業利益 65 億ドル。市場 351 億ドル × シェア 32.9% × 価格 1.41 倍
- アジア太平洋ガス:数量 720(アジア太平洋の産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質))× 価格 21.7%(リンデのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 156 億ドル・営業利益 53 億ドル。市場 720 億ドル × シェア 15.4% × 価格 1.41 倍
- エンジニアリング・その他:数量 600(外販プラント・機器と周辺事業の市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質。推定))× 価格 13.1%(リンデのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 79 億ドル・営業利益 10 億ドル。市場 600 億ドル × シェア 9.3% × 価格 1.41 倍
倍率:利益ベースの正当化 PER:事業の ROE 35.7%、k 7.50%(基本 8.0% + quality -0.5%)、残る割合 0.67(強い堀)で RONIC = k + 残る割合 ×(ROE − k)= 26.3%、g 4.0%(地域別の市場(実質の数量 年 3%)× シェア × 物価指数から出した値。ROE から出していない)、正当化 PER = (1 − g ÷ RONIC) ÷ (k − g) = 24.2 倍(来年の利益に対して)。長期契約と電子・医療の需要が続く分、上限の 9.5 割(23.0 倍)に置き、10 年目の利益に掛けるので ×(1+g) で 23.9 倍。時価総額 = 純利益 179 × 23.9 倍 = 4283 億ドル。
確率:電子(半導体・AI 向けの高純度ガス)、水素、脱炭素鉄鋼、航空宇宙が順調に回り、価格の上乗せも保たれる展開。10 年でこれだけ揃う確率は 1 割台。
やや楽観 25% やや楽観:寡占と価格改定が保たれ、利益は年 8% 台で積み上がる 利益 159 億ドル · PER 22.7 倍 · 株価時価総額 763.35 ドル3,605 億ドル
2035 年、世界市場の数量は年 3.5%(米州 1.42 倍、アジア太平洋 1.5 倍、欧州 1.25 倍)で伸び、リンデはシェアを 1% 上げる。価格は物価並み。生産性(オンサイトの運転の自動化・遠隔監視)と価格改定の幅で、営業利益率は 31.4% に達する。純利益は 159 億ドル(2025 年の 2.3 倍、年 +8.7%)。PER 22.7 倍は、ROE 約 31%・g 4%・k 7.5% の式の 9.2 割。契約の質は保たれ、電子と航空宇宙の追加で水素の失敗を補う。純負債は設備投資の山を越えたあとに減り、自社株買いの余力が戻る。
- 米州ガス:数量 469(米州の産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質))× 価格 65.6%(リンデのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 308 億ドル・営業利益 108 億ドル。市場 469 億ドル × シェア 46.5% × 価格 1.41 倍
- 欧州・中東・アフリカガス:数量 338(EMEA の産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質))× 価格 45.1%(リンデのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 152 億ドル・営業利益 59 億ドル。市場 338 億ドル × シェア 32.0% × 価格 1.41 倍
- アジア太平洋ガス:数量 675(アジア太平洋の産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質))× 価格 21.1%(リンデのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 142 億ドル・営業利益 47 億ドル。市場 675 億ドル × シェア 15.0% × 価格 1.41 倍
- エンジニアリング・その他:数量 540(外販プラント・機器と周辺事業の市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質。推定))× 価格 12.7%(リンデのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 69 億ドル・営業利益 9 億ドル。市場 540 億ドル × シェア 9.0% × 価格 1.41 倍
倍率:利益ベースの正当化 PER:事業の ROE 31.4%、k 7.50%(基本 8.0% + quality -0.5%)、残る割合 0.67(強い堀)で RONIC = k + 残る割合 ×(ROE − k)= 23.4%、g 4.0%(地域別の市場(実質の数量 年 3%)× シェア × 物価指数から出した値。ROE から出していない)、正当化 PER = (1 − g ÷ RONIC) ÷ (k − g) = 23.7 倍(来年の利益に対して)。長期契約と電子・医療の需要が続く分、上限の 9.2 割(21.8 倍)に置き、10 年目の利益に掛けるので ×(1+g) で 22.7 倍。時価総額 = 純利益 159 × 22.7 倍 = 3605 億ドル。
確率:寡占と 15〜20 年の契約が続き、数量は年 3.5% 前後、価格は物価並みを少し上回る。堀の質を信じる見方の中心。
中立 35% 中立:優良な成熟企業として年 7% 台の成長、倍率は式の 9 割 利益 141 億ドル · PER 21.7 倍 · 株価時価総額 647.08 ドル3,056 億ドル
2035 年、世界の産業ガスの数量は年 3%、価格は物価並み(10 年で 1.41 倍)、リンデのシェアは横ばい。売上は 621 億ドル(年 +6.2%)、営業利益率は生産性で 30.4% まで上がり、営業利益 189 億ドル、純利益 141 億ドル(2025 年の 2.0 倍、年 +7.4%)。10 年の間に借り換えで利払いが約 4 億ドル増える。自社株買いは設備投資後の余力で続き、株数は年 1.5% 前後減る。PER 21.7 倍は、ROE 約 28%・g 4%・k 7.5% の式の 9 割(10 年目の利益に ×(1+g))。
- 米州ガス:数量 442(米州の産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質))× 価格 65.0%(リンデのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 287 億ドル・営業利益 98 億ドル。市場 442 億ドル × シェア 46.1% × 価格 1.41 倍
- 欧州・中東・アフリカガス:数量 319(EMEA の産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質))× 価格 44.6%(リンデのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 142 億ドル・営業利益 54 億ドル。市場 319 億ドル × シェア 31.7% × 価格 1.41 倍
- アジア太平洋ガス:数量 630(アジア太平洋の産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質))× 価格 20.9%(リンデのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 131 億ドル・営業利益 42 億ドル。市場 630 億ドル × シェア 14.8% × 価格 1.41 倍
- エンジニアリング・その他:数量 480(外販プラント・機器と周辺事業の市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質。推定))× 価格 12.6%(リンデのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 60 億ドル・営業利益 7 億ドル。市場 480 億ドル × シェア 8.9% × 価格 1.41 倍
倍率:利益ベースの正当化 PER:事業の ROE 27.9%、k 7.50%(基本 8.0% + quality -0.5%)、残る割合 0.67(強い堀)で RONIC = k + 残る割合 ×(ROE − k)= 21.1%、g 4.0%(地域別の市場(実質の数量 年 3%)× シェア × 物価指数から出した値。ROE から出していない)、正当化 PER = (1 − g ÷ RONIC) ÷ (k − g) = 23.1 倍(来年の利益に対して)。長期契約と電子・医療の需要が続く分、上限の 9 割(20.8 倍)に置き、10 年目の利益に掛けるので ×(1+g) で 21.7 倍。時価総額 = 純利益 141 × 21.7 倍 = 3055 億ドル。
確率:業界ノートの中立(数量 年 +3%、価格は物価並み、利益率は 30% 前後)に沿う。議論の落としどころ。
やや悲観 18% やや悲観:欧州の産業流出と中国勢・日本勢の攻勢で数量とシェアが伸びない 利益 105 億ドル · PER 18.6 倍 · 株価時価総額 412.71 ドル1,949 億ドル
2035 年、欧州の化学・鉄鋼の稼働が構造的に縮み(エネルギー費の高さと脱工業化)、欧州の数量は 10 年で 1.05 倍にとどまる。中国のオンサイトの価格競争と、大陽日酸(Taiyo Nippon Sanso、日本)・杭氧(中国)・エア・リキード(Air Liquide、フランス)の攻勢で、リンデのシェアは 3% 低下、価格の上乗せは物価を 2% 下回る。営業利益率は 27.3%(2025 年並み)、純利益は 105 億ドル(年 +4.3%)。成長が 3.8% に落ちて PER 18.6 倍(k 7.5% の式の 8.5 割)。ガス事業の契約は残るため、利益が落ち込むことはないが、成長は 3% 台に鈍り、設備投資の収益率も低下する。自社株買いは負債を増やさない範囲に抑えられ、還元は純利益の 9 割弱にとどまる。
- 米州ガス:数量 396(米州の産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質))× 価格 61.8%(リンデのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 245 億ドル・営業利益 76 億ドル。市場 396 億ドル × シェア 44.8% × 価格 1.38 倍
- 欧州・中東・アフリカガス:数量 284(EMEA の産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質))× 価格 42.4%(リンデのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 120 億ドル・営業利益 42 億ドル。市場 284 億ドル × シェア 30.8% × 価格 1.38 倍
- アジア太平洋ガス:数量 540(アジア太平洋の産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質))× 価格 19.8%(リンデのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 107 億ドル・営業利益 31 億ドル。市場 540 億ドル × シェア 14.4% × 価格 1.38 倍
- エンジニアリング・その他:数量 400(外販プラント・機器と周辺事業の市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質。推定))× 価格 12.0%(リンデのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 48 億ドル・営業利益 5 億ドル。市場 400 億ドル × シェア 8.7% × 価格 1.38 倍
倍率:利益ベースの正当化 PER:事業の ROE 22.0%、k 7.50%(基本 8.0% + quality -0.5%)、残る割合 0.67(強い堀)で RONIC = k + 残る割合 ×(ROE − k)= 17.1%、g 3.8%(地域別の市場(実質の数量 年 3%)× シェア × 物価指数から出した値。ROE から出していない)、正当化 PER = (1 − g ÷ RONIC) ÷ (k − g) = 21.0 倍(来年の利益に対して)。欧州の産業流出と中国勢・日本勢の攻勢の分、上限の 8.5 割(17.9 倍)に置き、10 年目の利益に掛けるので ×(1+g) で 18.6 倍。時価総額 = 純利益 105 × 18.6 倍 = 1949 億ドル。
確率:欧州の脱工業化(エネルギー高による化学・鉄鋼の流出)と、中国・日本・フランスの競合が価格で攻める展開。起きても不思議はない。
悲観 10% 悲観:大型水素プロジェクトの減損と競争の激化で優良企業でなくなる 利益 62 億ドル · PER 13.5 倍 · 株価時価総額 177.51 ドル838 億ドル
2035 年、クリーン水素・ガス化・CCS の大型プロジェクトで採算が合わず、巨額の減損が続く。顧客の脱炭素の遅れで新規オンサイトの増設も止まり、リーマン級の不況が重なる。市場の数量は 10 年で横ばい、リンデのシェアは 7% 下がり、価格の上昇は物価を 5% 下回る。営業利益率は 21.8% に下がり、純利益は 62 億ドルと 2025 年を下回る。実質の成長が止まり PER 13.5 倍(g 3.5%・k 7.5% の式の 7 割弱)、自己資本の約 2.1 倍。のれんの減損も起きうるが、ガスの契約は続くため、収益の床は産業の中でも高い。それでも成長のない優良企業の評価に落ち着く。
- 米州ガス:数量 330(米州の産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質))× 価格 57.4%(リンデのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 189 億ドル・営業利益 49 億ドル。市場 330 億ドル × シェア 42.8% × 価格 1.34 倍
- 欧州・中東・アフリカガス:数量 243(EMEA の産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質))× 価格 39.4%(リンデのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 96 億ドル・営業利益 29 億ドル。市場 243 億ドル × シェア 29.4% × 価格 1.34 倍
- アジア太平洋ガス:数量 450(アジア太平洋の産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質))× 価格 18.4%(リンデのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 83 億ドル・営業利益 20 億ドル。市場 450 億ドル × シェア 13.8% × 価格 1.34 倍
- エンジニアリング・その他:数量 320(外販プラント・機器と周辺事業の市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質。推定))× 価格 11.1%(リンデのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 36 億ドル・営業利益 2 億ドル。市場 320 億ドル × シェア 8.3% × 価格 1.34 倍
倍率:利益ベースの正当化 PER:事業の ROE 15.4%、k 7.50%(基本 8.0% + quality -0.5%)、残る割合 0.67(強い堀)で RONIC = k + 残る割合 ×(ROE − k)= 12.8%、g 3.5%(地域別の市場(実質の数量 年 3%)× シェア × 物価指数から出した値。ROE から出していない)、正当化 PER = (1 − g ÷ RONIC) ÷ (k − g) = 18.1 倍(来年の利益に対して)。欧州の産業流出と中国勢・日本勢の攻勢の分、上限の 7.2 割(13.1 倍)に置き、10 年目の利益に掛けるので ×(1+g) で 13.5 倍。時価総額 = 純利益 62 × 13.5 倍 = 838 億ドル。
確率:大型の水素・脱炭素プロジェクトの採算割れが続いて減損が膨らみ、顧客の脱炭素の遅れで新規の増設も止まる。リーマン級の不況が重なる可能性もある。優良会社の寡占なので 1 割に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
米州ガス
北米・南米のオンサイト(パイプライン)、液体ガス、シリンダー。米国の鉄鋼・化学・精製・半導体・ヘルスケア向けが中心。
| 数量米州の産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質) | 価格リンデのシェア × 価格指数(2025 年 = 1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 330 | 46.1% | 152 | 48 |
| 10 年後 中立 | 442 | 65.0% | 287 | 98 |
取り方:米州の産業ガス市場を約 330 億ドル(世界約 1,050 億ドルの 3 割強、推定)とし、リンデの売上 152 億ドルからシェア約 46% を置いた。利益率は 2025 年の約 31%(調整後)。売上 = 市場 × シェア × 価格(価格指数は中立で 3 年 1.11 倍・10 年 1.41 倍)。競合と照らすと、米州はリンデ(旧プラクスエア)が首位で、エア・リキード(エアガスを含む)とエアープロダクツが続き、上位 3 社で 8 割前後を持つ寡占。46% は首位の水準として妥当。
欧州・中東・アフリカガス
欧州を中心にオンサイトと液体ガス、シリンダー。エア・リキードとの二強で、利益率は 3 つの地域で最も高い。
| 数量EMEA の産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質) | 価格リンデのシェア × 価格指数(2025 年 = 1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 270 | 31.7% | 86 | 31 |
| 10 年後 中立 | 319 | 44.6% | 142 | 54 |
取り方:EMEA の市場を約 270 億ドル(推定)とし、売上 85.5 億ドルからシェア約 32%。利益率は約 36%(調整後)。売上 = 市場 × シェア × 価格。欧州はリンデとエア・リキードの二強に、メッサー・大陽日酸(旧プラクスエア欧州を買収)が続く。32% はエア・リキードとほぼ並ぶ水準。
アジア太平洋ガス
中国・韓国・インド・豪州・東南アジアのオンサイトと液体ガス。半導体・電子向けが成長を牽引する。
| 数量アジア太平洋の産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質) | 価格リンデのシェア × 価格指数(2025 年 = 1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 450 | 14.8% | 67 | 19 |
| 10 年後 中立 | 630 | 20.9% | 131 | 42 |
取り方:アジア太平洋の市場を約 450 億ドル(世界の約 4 割、推定。中国の国内勢を含む)とし、売上 66.6 億ドルからシェア約 15%。利益率は約 29%(調整後)。売上 = 市場 × シェア × 価格。アジア太平洋は中国の杭氧・盈德気体などの国内勢と、大陽日酸・エア・リキード・エアープロダクツが分け合い、リンデは 15% 前後の上位の一角にとどまる。
エンジニアリング・その他
外販の空気分離装置・水素プラントの設計と建設(エンジニアリング)と、その他の事業。
| 数量外販プラント・機器と周辺事業の市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質。推定) | 価格リンデのシェア × 価格指数(2025 年 = 1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 400 | 8.9% | 36 | 4 |
| 10 年後 中立 | 480 | 12.6% | 60 | 7 |
取り方:エンジニアリング売上 22.5 億ドルとその他 13.2 億ドルの合計 35.7 億ドルを、市場約 400 億ドル(推定。範囲が曖昧なので幅を持って見る)のシェア約 9% と置いた。利益率は約 11%(エンジニアリングは約 18%、その他は低い)。売上 = 市場 × シェア × 価格。外販プラントはエア・リキード、杭氧、テクニップ・エナジーズ等と競う。
リスクと懸念
設備投資の山と FCF の薄さ
設備投資が年 55〜60 億ドル(売上の約 16%)に膨らみ、FY2025 の FCF は 51 億ドルで還元(配当+自社株買い 74 億ドル)を下回る。純負債は 2022 年(134 億ドル)から約 1.7 倍の 230 億ドルになった。プロジェクトの立ち上げが遅れると、投資の収益が出るのが先送りされ、還元を借金で賄う期間が長くなる。
大型水素・脱炭素プロジェクトの減損
クリーン水素・ガス化・CCS の大型案件は、補助金(米国 IRA の 45V)の縮小と顧客の脱炭素の遅れで採算が揺らぐ。エアープロダクツは 2025 年に大きな減損を出した。リンデは電子・航空宇宙に重心を移しているが、契約済みの水素案件の採算が崩れれば減損と利益率の低下につながる。
欧州の産業の流出と中国の競争
EMEA は利益率が最も高い地域(約 36%)で、電力・ガス代の高さで化学・鉄鋼の稼働が弱い。構造的な流出が進めば、数量が伸びない。中国のオンサイトは国内勢(杭氧など)が価格で競い、アジア太平洋の利益率を下げる。
景気後退と数量の減少
契約の最低引き取り量があっても、鉄鋼・化学・金属加工向けの液体ガスやシリンダーの数量は景気で落ちる。2009 年の先進国の産業ガス需要は約 10% 減った。物価連動が止まる局面では、価格の上乗せも鈍る。
高い倍率の縮み
PER 34 倍は成長を強く織り込む。資本コスト 7.5% の式で成熟後の倍率は 10 年目の利益の 24 倍前後で、k が 1% 上がれば 2 割ほど縮む。業績が鈍って 25〜28 倍へ縮めば、10 年の株価の上昇は利益の増加の一部しか残らない。バリュー投資の観点では、最大のリスクは値段である。
割高な自社株買いとのれん
時価総額が純利益の 34 倍の水準での自社株買いは、本質価値をやや上回る値段での買いになりうる。自己資本の大半を占めるのれん(2018 年の統合)の減損が出る可能性や、ROE の見かけの高さに注意が必要。
今後の分かれ目
- 電子向けのオンサイト契約の追加が続き、販売ガスの契約残高が 100 億ドルを超えたら
- 楽観の確率を上げる。数量の伸びが年 4% 台に乗り、営業利益率が 29% 台に上がる。ただし倍率が先に成長の減速を映すため、時価総額が追いつく保証はない。
- 営業利益率が 27% を下回り、コスト上昇を価格で転嫁できない四半期が続いたら
- 価格を決める力が落ちたと見て、中立の利益率を 1〜2 ポイント下げ、やや悲観の確率を上げる。
- 水素・脱炭素の大型案件で巨額の減損が出たら
- プロジェクト残高の質を疑い、10 年の悲観の確率を上げる。倍率を 2〜3 倍下げて見る。
- 欧州の化学・鉄鋼の閉鎖が続き、EMEA の数量が前年割れになったら
- EMEA の数量を 10 年で 1.05 倍と置く、やや悲観の筋書きに寄せる。全社の利益は 1 割ほど下がる。
- 景気後退で鉄鋼・化学の数量が 1 割落ち、株価が 3〜4 割下がったら
- 最低引き取り量の契約が利益を守る実績が確認できれば、利益の 22 倍前後なら割安になる。買い手が出てくる局面。
- 株価が下がり、純利益の 25 倍以下になったら
- 本質価値(成熟後の PER 33 倍前後)を 2 割以上下回る値段になり、同じ還元額でも 1 株あたりの価値の増え方が大きくなって、資本配分の評価が上がる。
見ておくもの
- 販売ガスの契約残高(81 億ドル)とプロジェクト残高(110 億ドル)の推移
- 営業利益率(調整後 29.5%)と、価格・数量・コストの内訳(実質の伸びは 4%)
- 設備投資(55〜60 億ドル)と FCF、純負債の増減
- 欧州の数量と電力・ガス代、中国の価格
- 半導体・データセンター向けの電子ガスの新規契約、台湾の合弁の進み方
- 水素・CCS 案件の減損と、IRA の 45V の扱い
- 株式報酬を差し引いた正味の株主還元
倍率と資本コストの決め方
今の PER 34 倍を見る前に、地域別の市場規模(実質)× シェア × 物価指数で売上を積み上げ、地域ごとの利益率から純利益を出した。倍率は k 7.5%(基本 8.0% + quality −0.5%:長期契約で景気に強い分。値決め力は強い堀の側で表し二重に数えない)・g 3.5〜4%(市場・シェア・価格から出し、ROE からは出していない)・帳簿の ROE の式(堀は強い)の 7〜9.5 割に置き、10 年の中立の PER は 21.7 倍。今の 34 倍や過去 8 期の中央値 40 倍(のれんの再評価と低金利の時期)には寄せていない。結果としてやや割高に出たのは、今の値段が長い成長を織り込んでいるため。成長を保守的に置きすぎていないかも点検した。中立の純利益は年 7.4% の伸びで、経営陣の 2026 年見通し(調整後 1 株利益 年 +8〜9%)より少し低いが、のれんの償却と金利上昇を含めた会計上の利益では整合する。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 5% + β — × 5%。