結論
エアープロダクツは、酸素・窒素・水素・ヘリウムなどの産業ガスを、顧客の工場の隣に設備を建てて 15〜20 年の長期契約で売る世界 3 位の会社である。FY2025(2025 年 9 月期)は売上 120 億ドル、調整後の営業利益 約 29 億ドル(利益率 24%)、調整後の純利益 約 27 億ドル。ただし GAAP の純利益は、水素・エネルギー転換の大型案件を整理した費用(FY2025 に約 37 億ドル、2026 年 6 月にルイジアナなどの中止で約 29 億ドル)で赤字になっている。
2026 年 4〜6 月期の調整後の営業利益率は 25.6%(+110bp)、調整後 1 株利益は +12%、FY2026 の見通しは +11〜12% と、本業は着実に伸びている。一方で、設備投資を急いだ結果、純負債は 2022 年の 50 億ドルから 166 億ドルに膨らみ、サウジの NEOM(グリーン水素・アンモニア)の出口もまだ見えない。新経営陣は、大型案件を絞り、電子(半導体)向けの契約に資源を移し、従来型の設備投資を年 15 億ドルへ戻す方針である。
バリュー投資の観点では、リンデに比べ利益率は 4〜5 ポイント低く、資本配分の失敗の痕もあるが、時価総額 667 億ドルは調整後の純利益の約 25 倍で、リンデの 34 倍よりずっと低い。市場 × シェア × 価格の中立では 10 年後の利益は今の約 1.8 倍(年 6% 台)、利益ベースの正当化 PER(k 8.5%・強い堀・上限の 9 割で 15.1 倍)で時価総額は約 1.1 倍にとどまり、割り引いた価値は今の値段を約 31% 下回る。純負債の重さと悲観の厚みもあり、総合では割高に出る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資家なら、まず「10 年後もあるか」を問う。答えは、ある。産業ガスは製造業のあらゆる工程に使われ、設備は顧客の隣に建ち、契約は 15〜20 年続く。電子の比率が上がり、水素・ヘリウムの供給網も持つ。堀は狭まるより広がる方向にあるが、規模で劣る分、リンデより狭く、価格を決める力も弱い。
次にオーナー利益。調整後の純利益 27 億ドルから、成長に要る設備投資(FY2026 で 35 億ドル、従来型だけなら年 15 億ドル)と償却を考えると、2027 年以降は FCF が純利益の 6〜7 割に戻る見込みで、時価総額 667 億ドルに対する FCF 利回りは約 2〜3%(名目の国債 5% を下回るが、利益は物価とともに伸びる)。株式報酬は小さい。ただしこの 3 年は FCF が大きなマイナスで、配当を借金で賄った。
資本配分は、価値を壊した実績がある(66 億ドルの整理費用)。ここが、事業の質は近くてもリンデより安い理由だと見る。経営陣が交代し、案件を絞る姿勢は評価できるが、実際に純負債が減り FCF が出るまでは確信を持てない。
安全域:中立の 10 年後は、時価総額と還元の合計が今の約 1.5 倍(年 約 4%)で k 8.5% に届かない。楽観は約 2.1 倍、悲観は約 0.5 倍。値段は調整後の純利益の約 25 倍で、リンデの 34 倍より低いが、悲観の筋書き(水素・NEOM の追加整理と競争)の確率は 12% 置いた。割り引いた本質価値は今の値段を約 31% 下回る。
何で稼ぐ会社か
売上の大半は米州(FY2026 第 3 四半期で 13.2 億ドル、利益率 29.9%)、アジア(8.9 億ドル・28.9%)、欧州(8.2 億ドル・28.3%)の産業ガスで、残りが中東・インド(持分法の利益が主)と機器販売である。形態はリンデと同じ 3 つで、①オンサイト:製油所・化学・半導体・鉄鋼の工場の隣に空気分離装置(ASU)や水素プラントを建て、最低引き取り量(テイク・オア・ペイ)と電力・ガスの転嫁条項付きで 15〜20 年売る。②マーチャント(液体):タンクローリーでの供給で、地域の密度が利益を決める。③パッケージ(シリンダー):小口向け。
エアープロダクツの特徴は、水素の設備と供給に強いこと(米国の製油所向け水素の最大手)と、ヘリウムを持つことである。ヘリウムは、MRI・半導体・宇宙向けに米国・カタール・アルジェリアから調達して売り、価格が荒れると利益が揺れる(2026 年 4〜6 月期は利益を約 2% 押し下げた)。ガス化(ジャザンなど)は設備を建てて運営する事業で、アジアの資産は売却の準備中、ジャザンの受取債権は年々減る。
成長の源は電子である。経営陣は電子を「スーパーサイクル」と呼び、案件の 3 分の 2 を電子向けと見る。韓国(サムスンの増設)と台湾で大型案件があり、直近 6 か月で 15 億ドル超を受注した。従来型の案件残は約 30 億ドル。ルイジアナ(青色水素・アンモニア・CCS の複合施設)とカサグランデ(液体水素)は中止し、購入済みの空気分離装置・アンモニア設備は保管して転用か売却を探る。
優良さと弱いところ
堀の骨格はリンデと同じで、①地域の密度(パイプラインと ASU は地域に固定され、世界の上位 4〜5 社が 6〜7 割を持つ寡占)、②長期契約と最低引き取り量、③電力・ガスの転嫁と物価連動、④設備を自前で設計・建設できる規模、の 4 つである。2008〜09 年のリーマン期でも営業利益率は 13〜14% 台(2006 年の最低は 11.8%)にとどまり、2020 年のコロナの株価の下げは −16% と浅かった。リーマン期の株価の下げ(−54%)は、契約の守りより倍率の縮みが大きかった。
弱い所も多い。第一に規模:売上 120 億ドルはリンデの約 3 分の 1 で、調達・物流・エンジニアリングの重みで劣り、営業利益率はリンデの調整後 29.8% に対し 24〜25%。第二に資本配分:2021 年以降に水素・ガス化・NEOM の大型案件へ投資を急ぎ、FCF は 2023 年に −14 億ドル、2024 年に −32 億ドル、2025 年に −38 億ドルと 3 年連続で大きなマイナス、純負債は 5 年で 7 倍近く。FY2025 と FY2026 の整理費用の合計は税引き前で約 66 億ドルに達し、自己資本の 4 割強に当たる。第三にヘリウム:価格と数量に左右される。
資本効率は、自己資本 ROE が 2024 年に 22.6%(一時要因を含む)、2025 年に −2.6%(整理費用)と乱れているが、調整後の純利益 27 億ドルを自己資本 150 億ドルで割ると約 18% で、本業の資本効率は悪くない。問題は成長のための投資の質だった。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
産業ガス市場は約 1,050 億ドル前後で、年 5〜6% の成長予測(名目。調査会社の幅)。リンデ(売上 340 億ドル)が首位、エア・リキード(欧州の首位)が 2 位、エアープロダクツ(120 億ドル)が 3 位、大陽日酸(日本)が 4 位で、上位 4 社が世界の約 6〜7 割を持つ。中国は杭氧・四川空分などの国内勢が価格を決める別市場である。
循環のどこにいるか。米州は製油所向けの水素(HyCO)と米国の製造業の回復で数量が伸び(2026 年 4〜6 月期の米州の数量 +7%)、アジアは電子向けの新設が効いて数量 +6%、欧州は数量 −2% で価格・転嫁・為替が利益を支える。ただし経営陣は、欧州とアジアの産業向け(鉄鋼・化学)は市場全体で伸びず、中国は過剰能力と見ている。ヘリウムは価格が崩れ、圧力が欧州・北米の医療(MRI)向けにも及ぶ。
構造の変化は 2 つ。電子は、AI 向けの半導体工場の新設で窒素・水素・特殊ガスの数量が増え、契約も長い。一方、クリーン水素・アンモニア・CCS は、米国の補助(IRA の 45V)の縮小と顧客の脱炭素の遅れで採算が後退した。エアープロダクツはその最前線で大きく傷み、リンデ・エア・リキードより撤退が大きかった。2026 年は中東の紛争でエネルギー費が上がり、ジャザンの設備も攻撃を受けたが、財務への影響は無しと説明されている。分かれ目は、①電子の増設が続くか、②欧州・アジア産業の需要が戻るか、③ヘリウムの価格が底打ちするか。
資本政策と M&A
還元は配当が柱で、FY2026 の 9 か月で 12 億ドル(年 16 億ドル前後、調整後の純利益の約 6 割)。長年連続で増配してきた(経営陣は今後も増やすと説明)。自社株買いは当面なく、純負債÷EBITDA が 2.1 倍(NEOM 合弁の負債を持ち分で含む)からさらに下がる 2027 年末〜2028 年初に始める見込み。長期の目標は格付けを AA-2 相当へ戻すこと。
資本配分は、バリュー投資の観点では最大の弱点である。2021〜2025 年に純負債を 24 億ドルから 166 億ドルに増やし、水素・ガス化・NEOM に大きく投じたが、FY2025 と FY2026 に合わせて税引き前で約 66 億ドルの整理費用を出した。配当は変えなかったが、FCF は 3 年連続で大きなマイナスで、配当は借金で賄われた。
新経営陣(CEO エドゥアルド・メネゼス氏・CFO メリッサ・シェーファー氏)は、ルイジアナとカサグランデの中止、人員削減(年約 0.75 億ドル)、FY2026 の設備投資 35 億ドルへの引き下げ(従来型は今後年約 15 億ドル)、ガス化資産の売却、NEOM のアンモニアのヤラへの販売委託と、リスクを外す手を打っている。買収される側になる可能性は時価総額 667 億ドルでは現実的でない。鍵は、約 15 億ドルの設備投資で FCF が配当を上回り、純負債を減らせるか、電子の案件の収益が資本コストを超えるか。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
整理の費用は出たが、これで悪い案件は片付いた。ルイジアナとカサグランデを止め、設備投資は FY2026 の 35 億ドルから従来型の年 15 億ドルへ下がるので、FCF は 2027 年から純利益の 6〜7 割に戻り、純負債は減る。本業は強い:2026 年 4〜6 月期の営業利益率は 25.6% まで上がり、見通しは調整後 1 株利益 +11〜12%。電子は「スーパーサイクル」で、韓国(サムスン)と台湾の大型案件に加え、直近 6 か月で 15 億ドル超を受注、案件の 3 分の 2 が電子向け。米州は水素の数量が +7%。NEOM はヤラへの販売委託で数量リスクがなくなった。購入済みの空気分離装置はほかの案件に転用でき、価値の一部は戻る。リンデが 34 倍で評価されているのに、同じ産業ガスのエアープロダクツは 25 倍。経営陣の交代で資本配分も締まるなら、利益率はリンデの水準(28〜30%)へ近づき、PER が 33 倍・利益 65 億ドル(今の 2.4 倍)も見えてくる。
慎重な見方
この会社は、価値を壊した前科がある。2021 年から水素・ガス化・NEOM に大きく投じ、FY2025 と FY2026 だけで約 66 億ドルを整理した。純負債は 5 年で 7 倍近くになり、FCF は 3 年連続で大きなマイナス。配当は借金で払ってきた。NEOM は出口がまだ見えず、ヤラへの委託は数量を外しただけで価格のリスクは残る。ヘリウムは価格が崩れ、欧州・北米の医療にも波及している。欧州とアジアの鉄鋼・化学は伸びず、中国は過剰能力で、電子は韓国・台湾の少数の顧客に偏る。電子の大型案件は収益率が資本コストを超えるとは限らない。規模はリンデの 3 分の 1 で、利益率は 4〜5 ポイント低いまま、というのが現実的ではないか。そもそも「調整後」の利益から整理費用を除くやり方自体が、繰り返す失敗を隠す。GAAP で見れば 2 年連続の巨額の赤字で、自己資本は減った。追加の整理(NEOM・アジアの売却損)が出れば、純利益は今より下になる。
どちらに重みを置いたか
本業の質(寡占・長期契約・電子の追い風)はリンデに近く、弱いのは資本配分と財務である。ただし経営陣が交代し、ルイジアナとカサグランデの中止、設備投資の引き下げという具体的な行動が出ている点は、悲観の言い分を弱める。強気の主張のうち、リンデ並みの利益率(28〜30%)へ寄る点は、規模の差と競争を考えると強すぎるので採らない(楽観でも 28.9%)。一方、悲観の「失敗を繰り返す」は、過去 5 年の実績を考えると無視できない。結論として、確率はリンデ(楽観 12%・やや楽観 25%・中立 35%・やや悲観 18%・悲観 10%)より悲観側に寄せ、10 年は楽観 8%・やや楽観 22%・中立 38%・やや悲観 20%・悲観 12% とした。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 311.49 ドル694 億ドル(+ 配当配当と自社株買いの合計 102.98 ドル229 億ドル)。 今の値に割り戻すと 206.25 ドル459 億ドル、今との差 −33.1%、 期待の年率 +3.0%(資本コスト 8.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 495.29 ドル1,103 億ドル | 130.22 ドル290 億ドル | +102.9% | +7.3% | 50.04 ドル111 億ドル |
| やや楽観 | 22% | 408.76 ドル910 億ドル | 117.65 ドル262 億ドル | +70.8% | +5.5% | 115.81 ドル258 億ドル |
| 中立 | 38% | 338.80 ドル755 億ドル | 105.52 ドル235 億ドル | +44.2% | +3.7% | 168.84 ドル376 億ドル |
| やや悲観 | 20% | 217.92 ドル485 億ドル | 89.81 ドル200 億ドル | −0.2% | 0.0% | 61.54 ドル137 億ドル |
| 悲観 | 12% | 80.11 ドル178 億ドル | 71.85 ドル160 億ドル | −50.7% | −6.8% | 18.23 ドル41 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 311.49 ドル694 億ドル | 102.98 ドル229 億ドル | +34.5% | +3.0% | 414.47 ドル923 億ドル |
今の株価時価総額 308.22 ドル686 億ドル(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 楽観:電子が続き資本配分が締まり、リンデの水準へ近づく 利益 65 億ドル · PER 17.0 倍 · 株価時価総額 495.29 ドル1,103 億ドル
2035 年、世界の産業ガスの数量は米州 年 +4%・アジア 年 +4.5%・欧州 年 +2.5% と伸び、価格は物価並み(10 年で 1.41 倍)。電子の大型案件(韓国・台湾・米国)が稼働し、アジアのシェアは 7.2% から 9.0% に上がり、米州も 15.3% に。売上は 268 億ドル(年 +8.4%)、営業利益率は規模の効果で 28.9% まで上がり、営業利益 78 億ドル、純利益 65 億ドル(FY2025 比 約 2.4 倍、年 +9.2%)。設備投資は従来型の年 15〜20 億ドルに収まり、純負債は減って自社株買いも再開、10 年の還元は 290 億ドル。ROE 約 22%・g 4%・k 8.5% の式の 9.5 割で PER 17.0 倍。
- 米州:数量 488(米州の産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質))× 価格 21.6%(エアープロダクツのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 105 億ドル・営業利益 35 億ドル。市場 488 億ドル × シェア 15.3% × 価格 1.41 倍
- アジア:数量 698(アジア太平洋の産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質))× 価格 12.7%(エアープロダクツのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 89 億ドル・営業利益 28 億ドル。市場 698 億ドル × シェア 9.0% × 価格 1.41 倍
- 欧州:数量 346(欧州・中東・アフリカの産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質))× 価格 16.1%(エアープロダクツのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 56 億ドル・営業利益 18 億ドル。市場 346 億ドル × シェア 11.4% × 価格 1.41 倍
- 中東・インドほか:数量 296(中東・インドの産業ガスと外販設備の市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質。推定))× 価格 6.3%(エアープロダクツのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 19 億ドル・営業利益 1 億ドル。市場 296 億ドル × シェア 4.5% × 価格 1.41 倍
倍率:利益ベースの正当化 PER:事業の ROE 22.2%、k 8.50%(基本 8.0% + quality +0.5%)、残る割合 0.67(強い堀)で RONIC = k + 残る割合 ×(ROE − k)= 17.6%、g 4.0%(地域別の市場(実質の数量)× シェア × 物価指数から出した値。ROE から出していない)、正当化 PER = (1 − g ÷ RONIC) ÷ (k − g) = 17.2 倍(来年の利益に対して)。長期契約と電子の追い風が続く分、上限の 9.5 割(16.3 倍)に置き、10 年目の利益に掛けるので ×(1+g) で 17.0 倍。時価総額 = 純利益 65 × 17.0 倍 = 1103 億ドル。
確率:電子の増設が続き、米州の水素・ヘリウムが戻り、新経営陣の資本配分が実際に効く。ただし規模の差と過去の失敗があるため、リンデの楽観 12% より低い 8% に置いた。
やや楽観 22% やや楽観:電子と米州が伸び、利益率はリンデに少し近づく 利益 57 億ドル · PER 16.0 倍 · 株価時価総額 408.76 ドル910 億ドル
2035 年、数量は米州 年 +3.5%・アジア 年 +4%・欧州 年 +2%。価格は物価並み。アジアのシェアは 8.4% へ上がるが、中国勢との競争で楽観ほどは上がらない。売上は 247 億ドル(年 +7.5%)、営業利益率は 27.7% で、営業利益 68 億ドル、純利益 57 億ドル(年 +7.7%)。設備投資は従来型で年 15〜18 億ドル、FCF が還元を賄い、純負債は緩やかに減る。10 年の還元は 262 億ドル。ROE 約 20%・g 4%・k 8.5% の式の 9.2 割で PER 16.0 倍。
- 米州:数量 465(米州の産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質))× 価格 21.2%(エアープロダクツのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 98 億ドル・営業利益 32 億ドル。市場 465 億ドル × シェア 15.0% × 価格 1.41 倍
- アジア:数量 662(アジア太平洋の産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質))× 価格 11.8%(エアープロダクツのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 78 億ドル・営業利益 24 億ドル。市場 662 億ドル × シェア 8.4% × 価格 1.41 倍
- 欧州:数量 332(欧州・中東・アフリカの産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質))× 価格 15.8%(エアープロダクツのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 52 億ドル・営業利益 16 億ドル。市場 332 億ドル × シェア 11.2% × 価格 1.41 倍
- 中東・インドほか:数量 282(中東・インドの産業ガスと外販設備の市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質。推定))× 価格 6.2%(エアープロダクツのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 18 億ドル・営業利益 1 億ドル。市場 282 億ドル × シェア 4.4% × 価格 1.41 倍
倍率:利益ベースの正当化 PER:事業の ROE 19.9%、k 8.50%(基本 8.0% + quality +0.5%)、残る割合 0.67(強い堀)で RONIC = k + 残る割合 ×(ROE − k)= 16.1%、g 4.0%(地域別の市場(実質の数量)× シェア × 物価指数から出した値。ROE から出していない)、正当化 PER = (1 − g ÷ RONIC) ÷ (k − g) = 16.7 倍(来年の利益に対して)。長期契約と電子の追い風が続く分、上限の 9.2 割(15.4 倍)に置き、10 年目の利益に掛けるので ×(1+g) で 16.0 倍。時価総額 = 純利益 57 × 16.0 倍 = 910 億ドル。
確率:電子の追い風と米州の水素の伸びが、欧州の弱さを上回る。経営の締まりも続く。楽観と中立の間で、中立よりやや厚みを減らして 22% に置いた。
中立 38% 中立:本業は物価並みに伸び、利益率はゆっくり改善 利益 50 億ドル · PER 15.1 倍 · 株価時価総額 338.80 ドル755 億ドル
2035 年、世界の産業ガスの数量は年 +3%(米州 +3%、アジア +3.4%、欧州 +1.6%)、価格は物価並み(10 年で 1.41 倍)。エアープロダクツのシェアは、米州 14.8%・欧州 11.1% は横ばい、アジアは電子向けの新設で 7.2% から 7.9% へ上がる。売上は 228 億ドル(年 +6.6%)、営業利益率は生産性と価格改定で 26.6% まで改善し、営業利益 61 億ドル、純利益 50 億ドル(FY2025 比 約 1.9 倍、年 +6.3%)。借り換えで利払いが増え、純利益は営業利益の 0.82 倍。設備投資は従来型で年約 15 億ドル、10 年の還元は 235 億ドル(配当年 5% 増・自社株買いは 2028 年から)。ROE 約 18%・g 4%・k 8.5% の式の 9 割で PER 15.1 倍。
- 米州:数量 442(米州の産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質))× 価格 20.9%(エアープロダクツのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 92 億ドル・営業利益 29 億ドル。市場 442 億ドル × シェア 14.8% × 価格 1.41 倍
- アジア:数量 630(アジア太平洋の産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質))× 価格 11.1%(エアープロダクツのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 70 億ドル・営業利益 21 億ドル。市場 630 億ドル × シェア 7.9% × 価格 1.41 倍
- 欧州:数量 319(欧州・中東・アフリカの産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質))× 価格 15.7%(エアープロダクツのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 50 億ドル・営業利益 15 億ドル。市場 319 億ドル × シェア 11.1% × 価格 1.41 倍
- 中東・インドほか:数量 268(中東・インドの産業ガスと外販設備の市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質。推定))× 価格 6.0%(エアープロダクツのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 16 億ドル・営業利益 1 億ドル。市場 268 億ドル × シェア 4.2% × 価格 1.41 倍
倍率:利益ベースの正当化 PER:事業の ROE 17.6%、k 8.50%(基本 8.0% + quality +0.5%)、残る割合 0.67(強い堀)で RONIC = k + 残る割合 ×(ROE − k)= 14.6%、g 4.0%(地域別の市場(実質の数量)× シェア × 物価指数から出した値。ROE から出していない)、正当化 PER = (1 − g ÷ RONIC) ÷ (k − g) = 16.1 倍(来年の利益に対して)。長期契約と電子の追い風が続く分、上限の 9 割(14.5 倍)に置き、10 年目の利益に掛けるので ×(1+g) で 15.1 倍。時価総額 = 純利益 50 × 15.1 倍 = 754 億ドル。
確率:業界ノートの中立(数量 年 +3%・価格は物価並み)に、整理後の安定した成長を重ねた。電子の追い風と欧州・ヘリウムの弱さが打ち消し合う。議論の落としどころで最大の確率に置いた。
やや悲観 20% やや悲観:ヘリウムと欧州・アジアの弱さが続き、利益率は伸びない 利益 38 億ドル · PER 12.8 倍 · 株価時価総額 217.92 ドル485 億ドル
2035 年、数量は米州 年 +2.3%・アジア 年 +2.7%・欧州 年 +0.8% と伸びが鈍り、価格もヘリウム・欧州で物価を少し下回る(10 年で 1.38 倍)。エアープロダクツはシェアを米州 14.3%・アジア 7.2%・欧州 10.5% と少しずつ失う。売上は 196 億ドル(年 +5%)、営業利益率は 24.7% と今とほぼ同じで、営業利益 48 億ドル、純利益 38 億ドル(年 +3.4%)。電子の案件の収益率が低く、利払いも増える(純利益は営業利益の 0.78 倍)。10 年の還元は 200 億ドル(配当年 3% 増)。ROE 約 14%・g 4%・k 8.5% の式の 8.1 割で PER 12.8 倍。
- 米州:数量 412(米州の産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質))× 価格 19.7%(エアープロダクツのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 81 億ドル・営業利益 24 億ドル。市場 412 億ドル × シェア 14.3% × 価格 1.38 倍
- アジア:数量 585(アジア太平洋の産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質))× 価格 9.9%(エアープロダクツのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 58 億ドル・営業利益 16 億ドル。市場 585 億ドル × シェア 7.2% × 価格 1.38 倍
- 欧州:数量 292(欧州・中東・アフリカの産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質))× 価格 14.5%(エアープロダクツのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 42 億ドル・営業利益 12 億ドル。市場 292 億ドル × シェア 10.5% × 価格 1.38 倍
- 中東・インドほか:数量 250(中東・インドの産業ガスと外販設備の市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質。推定))× 価格 5.5%(エアープロダクツのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 14 億ドル・営業利益 0 億ドル。市場 250 億ドル × シェア 4.0% × 価格 1.38 倍
倍率:利益ベースの正当化 PER:事業の ROE 14.4%、k 8.50%(基本 8.0% + quality +0.5%)、残る割合 0.67(強い堀)で RONIC = k + 残る割合 ×(ROE − k)= 12.4%、g 3.6%(地域別の市場(実質の数量)× シェア × 物価指数から出した値。ROE から出していない)、正当化 PER = (1 − g ÷ RONIC) ÷ (k − g) = 14.5 倍(来年の利益に対して)。資本配分の失敗の繰り返しと競争の分、上限の 8.5 割(12.3 倍)に置き、10 年目の利益に掛けるので ×(1+g) で 12.8 倍。時価総額 = 純利益 38 × 12.8 倍 = 485 億ドル。
確率:欧州・アジアの産業向けが伸びず、ヘリウムが戻らない。電子の収益率も期待を下回る。過去の資本配分の実績を考え、リンデのやや悲観 18% より厚く 20% に置いた。
悲観 12% 悲観:NEOM・水素の追加整理と競争で、優良会社でなくなる 利益 18 億ドル · PER 9.9 倍 · 株価時価総額 80.11 ドル178 億ドル
2035 年、NEOM・ガス化・アジアの資産で追加の整理が続き、電子の大型案件は顧客の絞り込みで採算に届かない。市場の数量は米州 年 +0.5%・アジア 年 +1.2%・欧州 年 −0.8% と伸びず、ヘリウムと中国勢の競争で価格は物価を 1 割ほど下回る(10 年で 1.28 倍)。シェアは米州 12.8%・アジア 6.0%・欧州 9.0% へ下がる。売上は 133 億ドル(今の 1.1 倍)、営業利益率は 19.6% に下がり、営業利益 26 億ドル、純利益 18 億ドル(FY2025 比 約 3 割減)。純利益は営業利益の 0.70 倍(借り換えの利払い)。10 年の還元は 160 億ドル(配当は据え置き)。ROE 約 9% は k 8.5% とほぼ同じなので 1÷k の 8 割弱で PER 9.9 倍、自己資本の 0.87 倍。成長のない低 ROE の会社に落ちるため。
- 米州:数量 346(米州の産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質))× 価格 16.4%(エアープロダクツのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 57 億ドル・営業利益 15 億ドル。市場 346 億ドル × シェア 12.8% × 価格 1.28 倍
- アジア:数量 504(アジア太平洋の産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質))× 価格 7.7%(エアープロダクツのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 39 億ドル・営業利益 9 億ドル。市場 504 億ドル × シェア 6.0% × 価格 1.28 倍
- 欧州:数量 248(欧州・中東・アフリカの産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質))× 価格 11.5%(エアープロダクツのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 29 億ドル・営業利益 7 億ドル。市場 248 億ドル × シェア 9.0% × 価格 1.28 倍
- 中東・インドほか:数量 210(中東・インドの産業ガスと外販設備の市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質。推定))× 価格 4.2%(エアープロダクツのシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 9 億ドル・営業利益 0 億ドル。市場 210 億ドル × シェア 3.3% × 価格 1.28 倍
倍率:利益ベースの正当化 PER:事業の ROE 8.8%、k 8.50%(基本 8.0% + quality +0.5%)、残る割合 0.67(強い堀)で RONIC = k + 残る割合 ×(ROE − k)= 8.7%、g 3.5%(地域別の市場(実質の数量)× シェア × 物価指数から出した値。ROE から出していない)、正当化 PER = (1 − g ÷ RONIC) ÷ (k − g) = 12.0 倍(来年の利益に対して)。資本配分の失敗の繰り返しと競争の分、上限の 8 割(9.6 倍)に置き、10 年目の利益に掛けるので ×(1+g) で 9.9 倍。時価総額 = 純利益 18 × 9.9 倍 = 178 億ドル。
確率:NEOM やガス化の追加整理が出て、電子の案件も採算に届かず、リーマン級の不況が重なる。経営の失敗が続いた会社なので、リンデの 10% より厚い 12% に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
米州
米国・カナダ・南米の産業ガス。製油所向け水素(HyCO)・オンサイト・液体ガス・ヘリウム・医療ガスが中心。
| 数量米州の産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質) | 価格エアープロダクツのシェア × 価格指数(2025 年 = 1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 330 | 14.9% | 49 | 14 |
| 10 年後 中立 | 442 | 20.9% | 92 | 29 |
取り方:米州の産業ガス市場を約 330 億ドル(リンデの置き方と同じ。世界約 1,050 億ドルの 3 割強、推定)とし、FY2025 の米州の売上 約 49 億ドル(推定)からシェア約 14.8% を置いた。利益率は 2026 年 4〜6 月期の 29.9% から約 29.4%。売上 = 市場 × シェア × 価格(価格指数は中立で 3 年 1.11 倍・10 年 1.41 倍)。競合と照らすと、米州はリンデが約 46% で首位、エア・リキード(エアガス)が 2 位、エアープロダクツが 3 位で上位 3 社で 8 割前後。14.8% は製油所向け水素の強さで世界 3 位の中でも米州の存在感を示す水準。
アジア
中国・韓国・台湾・東南アジア・インドの産業ガス。電子(半導体・パネル)向けオンサイトと、ガス化資産(売却予定)。
| 数量アジア太平洋の産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質) | 価格エアープロダクツのシェア × 価格指数(2025 年 = 1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 450 | 7.2% | 33 | 9 |
| 10 年後 中立 | 630 | 11.1% | 70 | 21 |
取り方:アジア太平洋の産業ガス市場を約 450 億ドル(リンデの置き方と同じ。中国の国内勢を含む、推定)とし、FY2025 のアジアの売上 約 32.5 億ドル(推定)からシェア約 7.2% を置いた。利益率は 2026 年 4〜6 月期の 28.9% から約 27.7%。競合と照らすと、アジアはリンデ(約 15%)、エア・リキード、大陽日酸、杭氧・四川空分などの中国勢が競う分散した市場で、エアープロダクツは電子向けオンサイト(台湾・韓国・中国)に強い。アジアのガス化資産は売却予定で、寄与は全体の 1〜1.5%。
欧州
ドイツ・英国・スペイン・オランダなど欧州の産業ガス。オンサイトとマーチャント、ヘリウム・医療ガス。
| 数量欧州・中東・アフリカの産業ガス市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質) | 価格エアープロダクツのシェア × 価格指数(2025 年 = 1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 270 | 11.1% | 30 | 9 |
| 10 年後 中立 | 319 | 15.7% | 50 | 15 |
取り方:EMEA の産業ガス市場を約 270 億ドル(リンデの置き方と同じ。推定)とし、FY2025 の欧州の売上 約 30 億ドル(推定)からシェア約 11.1% を置いた。利益率は 2026 年 4〜6 月期の 28.3% から約 28.5%。競合と照らすと、欧州はエア・リキードが首位、リンデが 2 位、エアープロダクツが 3 位で 1 割強。欧州の産業向け需要は弱く、数量は −2%、価格・転嫁・為替で利益を守っている。
中東・インドほか
中東・インドの事業と、全社の機器販売(売上のみ。営業利益は小さい)。
| 数量中東・インドの産業ガスと外販設備の市場(億ドル。2025 年の価格に換算した実質。推定) | 価格エアープロダクツのシェア × 価格指数(2025 年 = 1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 200 | 4.3% | 9 | 0 |
| 10 年後 中立 | 268 | 6.0% | 16 | 1 |
取り方:中東・インドの売上と全社の機器販売(売上 約 8.5 億ドル、推定)を、約 200 億ドル(推定。範囲が曖昧なので幅を持って見る)の市場のシェア約 4.25% と置いた。利益率は約 4%。サウジなどの持分法の利益は営業利益の合計に含まれるが、売上と対応しないため、各セグメントの利益率と全社の調整に溶かして置いた。競合:エア・リキード、リンデ、外販プラントは杭氧・テクニップ・エナジーズ等。
リスクと懸念
資本配分の失敗の繰り返し
2021 年以降の水素・ガス化・NEOM への投資で、FY2025 と FY2026 だけで税引き前 約 66 億ドルの整理費用を出した。新経営陣は案件を絞ったが、電子の大型案件(韓国・台湾)にも同様の集中があり、顧客が少数。収益率が資本コストを超えないと、整理が再び起きる。
純負債と FCF
純負債は 2021 年の 24 億ドルから 166 億ドルに増え、FCF は 3 年連続で大きなマイナス。純負債÷EBITDA は 2.1 倍(NEOM 合弁の負債を持ち分で含む)。設備投資が計画どおり下がらないと配当も借金頼みになり、借り換えの金利(5.75% 前後)も効く。
NEOM(サウジのグリーン水素)
ヤラとの販売委託で数量リスクは外れたが、価格リスクは APD が持つ。完全稼働の時期・連結の扱いは未定で、FY2027 の利益への影響は無し。再生可能アンモニアの需要が育たないと、追加の整理が出る可能性がある。
ヘリウムの価格と数量
ヘリウムは 2026 年 4〜6 月期に利益を約 2% 押し下げた。価格が欧州・北米の医療(MRI)向けにも及び、宇宙向けの数量も減った。テキサスの貯蔵(数四半期分)で緩衝しているが、価格が戻らなければ利益率を押し下げる。
欧州・アジア産業向けの弱さと中国の過剰能力
欧州とアジアの鉄鋼・化学向けは市場全体で伸びず、中国は過剰能力。電子以外で数量が伸びない状態が続くと、数量の伸びは年 2% 台に落ち、規模で劣るエアープロダクツは価格でも不利になる。中国勢は国内で価格を決め、輸出も狙う。
電子(半導体)の需要の集中
電子の新設の波は AI 投資に依存し、韓国・台湾の少数の顧客に集中する。半導体の投資が止まれば案件の繰り延べ・中止が起き、すでに建てた設備の稼働が遅れて投資の回収が先送りされる。ルイジアナで見たように、大型案件の需要が崩れると整理費用が出る。
水素・脱炭素の政策リスク
米国の補助(IRA の 45V)の縮小で、ルイジアナの採算は崩れた。残る水素・アンモニア・CCS の案件(欧州・中東)でも、政策や顧客の都合で採算が変わる。ジャザンのように地政学のリスク(設備への攻撃)もある。
今後の分かれ目
- 電子向けの新規契約が続き、従来型の案件残(約 30 億ドル)が 40 億ドルを超えたら
- 楽観とやや楽観の確率を上げる。アジアのシェアが 8〜9% に上がり、営業利益率が 28% 台に乗る。
- FY2027 の設備投資が約 25 億ドル以下になり、FCF が配当を上回ったら
- 純負債が減り始め、自社株買いの再開(2027 年末〜2028 年初)が現実になる。やや悲観・悲観の確率を下げる。
- ルイジアナ向けに購入した空気分離装置・アンモニア設備を、損をせず転用・売却できたら
- 整理費用の一部が戻り、自己資本の毀損が小さくなる。逆に簿価を大きく割れば、悲観の確率を上げる。
- ヘリウム価格が底打ちし、欧州・北米の医療向けの値下げが止まったら
- 利益率が +1〜2 ポイント改善する。逆に値下げが広がれば、中立の利益率(26.6%)も届かない。
- NEOM で追加の整理費用が出る、または完全稼働が先送りされたら
- GAAP の純利益が再び赤字になり、自己資本が減る。悲観の筋書き(追加の整理+競争)の確率を上げる。
- 欧州・アジアの鉄鋼・化学向けの需要が回復し、数量が年 3% 以上になったら
- 価格・数量の両方で営業利益率が改善し、やや楽観の筋書きに近づく。
見ておくもの
- 従来型の案件残(約 30 億ドル)と電子向けの受注(直近 6 か月で 15 億ドル超)の推移
- FY2027 の設備投資(従来型 年約 15 億ドル)と FCF、純負債÷EBITDA(2.1 倍)
- 調整後の営業利益率(25.6%)と、数量・価格・エネルギー転嫁の内訳
- ヘリウムの価格・数量(利益への影響 −2%)
- NEOM の完全稼働・連結の扱い、ガス化資産(アジア・ジャザン)の売却
- ルイジアナ向けの購入済み設備の転用・売却の結果
- 配当の増額と自社株買いの再開時期(2027 年末〜2028 年初)
- 株式報酬を差し引いた正味の株主還元
倍率と資本コストの決め方
今の PER(調整後で約 25 倍。GAAP は整理費用で赤字なので使わない)を見る前に、地域別の市場規模(実質)× シェア × 物価指数で売上を積み上げ、地域ごとの利益率から営業利益と純利益を出した。倍率は k 8.5%(基本 8.0% + quality +0.5%:長期契約で景気に強い −0.5%、純負債の急増と FCF の赤字 +1.0%)・g 3.5〜4%(市場・シェア・価格から出し、ROE からは出していない)・ROE(純利益 ÷ 自己資本)の式(堀は強い)の 8〜9.5 割に置き、10 年の中立の PER は 15.1 倍。今の約 25 倍には寄せていない。リンデより低いのは、ROE が低い(リンデは のれんを除いた事業の ROE が約 57%)ため。確率はリンデより悲観に寄せた。純利益の伸び(中立で年 6.3%)は FY2026 の +11〜12% より低いが、整理後の安定成長に合わせ、ヘリウム・欧州の弱さを見込んだため。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 5% + β — × 5%。