結論
ティムスは、急性期脳梗塞治療薬TMS-007(JX10)を中心に、大学発の研究成果を新薬へ育てる創薬企業である。筆者の結論は「やや割高」だ。主力薬の海外開発は確かに進んでいるが、承認に至る確率、上市後の普及速度、そこまでの資金調達を考えると、現在の時価総額には十分な安全域がない。
最大の魅力はTMS-007の臨床データである。日本で実施した前期第Ⅱ相試験では、90日後にほぼ障害のない状態まで回復した患者の割合が投与群40.4%、プラセボ群18.4%だった。血栓を溶かす作用と炎症を抑える作用を併せ持つ点に独自性があり、治療可能時間の延長にも期待がある。米国CORXELが主導する国際共同治験ORIONは進行中で、2027年上期に予定される第Ⅱ相部分の結果が大きな分岐点になる。
この会社の価値は、現在の利益からは測れない。2022年2月期には導出に伴う大型収入を計上したが、その後は継続的な製品収入がなく、研究開発費が先行している。2025年12月期の自己資本は27.4億円、純現金は27.8億円あったものの、2026年6月末の現金は24.6億円に減少した。資金調達のための新株予約権も行使されており、事業価値の成長がそのまま既存株主の取り分になるとは限らない。
10年後には、主力薬が世界で販売されて多額のロイヤリティを生む可能性がある。一方、試験失敗や承認遅延により、研究費と増資だけが積み重なる可能性も高い。5つの筋書きの価値を資本コストで割り引くと、現在の適正時価総額は約52億円と推計する。添付の株価・株数による時価総額約60億円を約13%下回る。成功時に蓄積される現金も価値として認めたが、なお安全域は十分ではない。成功時の利益は大きいものの、その成功を待つ少数株主の時間と希薄化の負担を軽視できない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、ティムスは非常に魅力的な研究成果を持ちながら、まだ安心して長期保有できる事業には育っていない。新薬が一つ成功すれば、会社の規模に比べて極めて大きな利益が生まれる。海外販売はCORXELが担い、ティムスは販売組織を持たずにロイヤリティを得られるため、上市後の追加利益率は高い。少ない設備投資で現金が入る状態になれば、オーナー利益の質は一変するだろう。
だが、現時点でその利益は存在しない。90例の臨床試験で好結果が得られたことは価値ある証拠だが、数百人規模の国際共同治験を通過することまで保証しない。安全性に問題が出る可能性もあれば、有効性が大規模試験で再現されない可能性もある。しかも、成功しても実際に販売され、保険で償還され、医師に使われるまで時間がかかる。
長期株主にとって厳しいのは、この待機期間中の資本配分である。現金が減り、増資が重なると、後に大きな製品価値が実現しても初期の株主の持分は小さくなる。発行済株式が2025年から2026年にかけて増えていることは、この懸念が仮説ではなく実際に起きている事実だ。経営陣が研究開発の範囲を絞り、提携先から資金を引き出し、無理な自社単独開発を避けられるかが重要になる。
主力薬が世界で成功した場合、利益をすべて次の研究に投じるより、十分な資金を株主に還元する方が価値を生む可能性がある。新規研究の期待利回りが資本コストを上回る保証はなく、過去の損失を埋め合わせるために際限なく研究対象を広げるべきではない。成功時に多額の現金が積み上がるとしても、その全額を株主が自由に使える資金とみなすことには慎重でありたい。
筆者は、ティムスの研究成果に一定の価値を認める。しかし、10年後の利益を相当な確信を持って見積もれる事業ではない。成功時の価値を大きく認めると同時に、失敗時には現在の現金も研究開発に使われて消えることを認めなければならない。安全域とは、単に時価総額が小さいことではなく、その不確実性を引き受けてもなお十分に安い値段である。現状はその条件を満たしていない。
何で稼ぐ会社か
ティムスの仕事は、研究成果を見つけ、薬として使えるかを確かめ、製薬会社との契約を通じて価値に変えることである。医薬品開発事業の単一セグメントだが、将来のお金の入り方は開発品ごとに異なる。基本は研究から初期臨床試験までを自社で担い、その後の大型試験や販売を製薬企業に任せ、契約一時金、開発・販売マイルストーン、売上に応じたロイヤリティを受け取る方式である。
主力のTMS-007は、東京農工大学の研究から生まれたSMTP化合物に由来する。血栓溶解と抗炎症・抗酸化という二つの作用が特徴だ。2018年に米国Biogenと契約し、2021年の権利行使などを通じて合計2,200万ドルを受領した。2024年には権利がCORXELへ移り、契約条件が改定された。現在は、日本以外の地域の開発・販売に対して最大3億6,750万ドルの条件付きマイルストーンと、販売額の一桁%後半から10%台前半のロイヤリティを受け取る権利を持つ。日本の開発販売権はティムスが保有する。
第二の柱であるTMS-008は、血栓溶解作用を抑えて抗炎症作用を生かす化合物である。心臓血管手術後の急性腎障害を先行適応症とし、2025年に第Ⅰ相試験を完了した。2026年10月15日には国内前期第Ⅱ相試験の治験計画届に対する調査が完了し、正式に試験実施が可能となった。ただし、人の患者で有効性が確認された段階ではない。
JX09は治療抵抗性高血圧を狙うアルドステロン合成酵素阻害剤である。日本の権利を持つが、CORXELは第Ⅰ相試験を完了した後、戦略上の理由から開発を保留している。ほかに脊髄損傷向けTMS-010、レゾルビン類縁体R-001、新規経口sEH阻害剤R-002などがあるが、いずれも早期研究段階にとどまる。
同社には自社製品の販売網がなく、売上数量や単価の実績も存在しない。したがって売上を推定する際は、海外で実際に投与される患者数と患者当たりロイヤリティ、日本で販売提携先を通じて受け取る患者当たり収入を分けて考える。海外製品売上をそのままティムスの売上にしてしまうと、価値を大幅に過大評価する。
優良さと弱いところ
競争上の強みは、独自化合物の薬理作用、初期臨床試験での実績、海外企業との契約をまとめてきた経験である。TMS-007は90例の前期第Ⅱ相試験で臨床的に意味のある改善を示した。単なる動物実験段階の創薬企業とは異なり、人の患者で得た有効性の証拠を持つ。また、CORXELが大型国際共同治験を進め、2026年には研究開発資金の調達にも成功していることは、外部から一定の評価を得ている証拠になる。
しかし、現時点で強い経済的な堀が完成しているとはいえない。新薬の特許は競争優位の候補だが、承認されなければ価格を決める力も継続的な利益も生まない。過去の値上げ実績、継続顧客、解約率、安定した再投資利益率も存在しない。脳梗塞の治療現場では、薬の効き目だけでなく、投与時間、画像診断、出血リスク、費用、既存治療との併用のしやすさが普及を左右する。
経営の資本効率も慎重に評価すべきだ。2022年2月期は導出収入によって黒字となったが、その後のROEは継続して大きくマイナスである。研究開発投資の成果が長い時間を経て一度に現れる構造なので、過去の赤字だけで研究の価値を否定するのは適切でない。それでも、累積投資額に対して将来どれだけのロイヤリティが入るかは、まだ実証されていない。
財務面では有利子負債がほぼなく、2025年12月期末の自己資本比率は95.5%だった。だが、資産の大半が現金であることは、優れた収益基盤を意味しない。2026年の年間営業費用見込みは9億〜13億円であり、マイルストーン収入がなければ数年で現金を使い切りうる。研究成果が企業価値に変わる前に増資が繰り返されることが、最も大きな弱点である。
なお、AIエージェント代替の指定対象である人月型事業、業務SaaS、広告・情報サービスには該当しない。創薬におけるAI活用は研究効率を変える可能性があるが、医薬品の臨床試験や規制当局による承認を代替するものではない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
急性期脳梗塞は治療の社会的価値が大きい領域である。米国では年間約80万人が脳卒中を起こし、その約87%が虚血性とされる。日本や欧州にも大きな患者集団が存在する。ただし、発症したすべての患者が新しい血栓溶解薬の対象になるわけではない。発症からの経過時間、閉塞血管、画像で確認できる救済可能な脳組織、出血リスクなどによって実際の投与対象は狭くなる。
競争相手は従来のアルテプラーゼだけではない。テネクテプラーゼは投与の簡便さが強みであり、2026年の米国心臓協会・脳卒中協会の診療指針でも、発症4.5時間以内の治療選択肢として推奨されている。さらに、画像診断で患者を選別した時間枠延長投与や、血管内治療による血栓回収の適応拡大が進む。TMS-007が上市される頃には、従来薬だけを比較対象とした市場規模の推計は通用しなくなる可能性がある。
TMS-007の商機は、発症後4.5〜24時間において、既存治療だけでは十分に救えない患者に明確な追加利益を示せるかにある。会社が示す従来t-PA製品の世界売上推計は約20億ドルだが、これをTMS-007の確実な売上とはみなさない。米欧日を中心とする潜在患者のうち、画像・診療体制・承認範囲・償還を満たして使用できる集団を、分析上は年間約100万〜150万人の仮説的な上限母集団とする。強い成功時でも全員に投与されるわけではなく、競合薬とのシェア争いが続く。
TMS-008が狙う急性腎障害では、会社資料が米日欧の患者数を2030年に約1,110万人と推計している。しかし、最初に狙う心臓血管手術後の急性腎障害は、その一部分にすぎない。患者数全体をそのまま販売可能数量と扱うのは誤りだ。術後に誰を予防的に治療するか、効果が腎機能だけでなく生存率や透析回避に結びつくかで、実際の市場規模は大きく変わる。
高血圧領域では、アルドステロン合成酵素阻害剤の競争が先行している。AstraZenecaのバクスドロスタットなどが開発・承認面で先行しており、現在開発を保留しているJX09に大きなシェアを見込むことは難しい。脊髄損傷や初期研究品も市場の未充足需要は大きいが、開発段階の早さを考えると中立価値の中心にはできない。
創薬産業の数量は人口だけでなく、適応症の拡大、診断・搬送体制、承認された薬剤の割合で動く。価格についても医薬品の物価上昇率を機械的に転嫁できるとは限らず、保険償還と競合による制約が強い。需要そのものは10年後も存在するが、ティムスがその需要から利益を受け取れるかは、少数の治験結果に大きく依存する。
資本政策と M&A
資本政策で最も評価すべき過去の実績は、TMS-007をBiogenへ導出し、2021年までに合計2,200万ドルを受領したことである。この収入は研究開発費を賄う原資となった。2024年のCORXELへの権利移転では、海外ロイヤリティと日本の開発販売権を組み合わせる形になった。ただし、契約上の最大マイルストーン額は条件付きの総額であり、確定債権や現金として扱えない。
会社は2026年3月の「事業計画及び成長可能性に関する事項」で、臨床試験の進捗と新規研究の拡充を示した。ORIONの第Ⅱ相部分の結果、国際共同治験全体の完了、TMS-008の前期第Ⅱ相進行という時間軸は明示されている。一方、売上高、営業利益、ROE、配当性向、DOE、総還元性向、自社株買い額については数字の約束なしである。2026年12月期も安定した業績予想は開示しておらず、研究開発費6億〜9億円、その他販管費3億〜4億円という費用見込みが中心である。
株主還元の実績は乏しい。配当はゼロであり、利益を株主に戻す仕組みより研究開発資金の確保が優先されている。2025年3月発行の第10回新株予約権は2026年9月8日にすべて行使された。2026年6月末の発行済株式45,666,567株に対し、9月8日までの開示から確認できる発行済株式は48,455,267株となる。添付の評価基準株数は6月末時点なので、追加発行分を既存株主の取り分の計算に反映する。
会社の大株主は分散している。2025年12月期の上位10株主の保有比率は約32%で、支配株主による資金の抱え込みを前提にするほど集中していない。しかし、過去5年間に配当や十分な自社株買いの実績はなく、将来の余剰現金を既存株主が確実に受け取れるとみなす根拠もない。余剰現金の価値には75%の回収係数を適用する。
M&Aでは、大手製薬企業によるパイプライン買収や追加提携が出口となりうる。反対に、新薬導入や研究資産の買収へ資本を振り向ける側になる可能性もある。重要なのは買収の件数ではなく、投入した現金に対して承認薬の利益を確保できるかである。2026年8月の中間決算では継続企業の前提に関する注記はなく、確認時点で公表されたTOB・MBO・上場廃止予定も認められない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
TMS-007の前期第Ⅱ相試験では、90日後の機能的転帰で投与群とプラセボ群に統計的な有意差が認められた。新しい血栓溶解促進作用に抗炎症・神経保護を組み合わせる考え方は、従来の血栓溶解薬だけでは対応しにくかった患者に新たな治療機会をもたらす可能性がある。国際共同治験ORIONが進行し、2027年上期の第Ⅱ相結果、2029年末の試験完了という具体的な道筋が見えている。
提携先CORXELの存在も重要である。同社は2026年1月に2億8,700万ドルの資金調達を発表し、JX10を含む開発に資金を充てる方針を示した。ティムス単独では負担できない規模の国際共同治験を海外企業が主導するため、研究開発の成功を待つ力が増している。契約上の最大マイルストーン額は大きく、販売開始後は一桁%後半から10%台前半のロイヤリティが入りうる。売上が海外で拡大しても、ティムスが同じ割合で販売人員や製造設備を増やす必要はない。
市場の大きさを過小評価するべきでもない。脳梗塞は患者数が多く、機能障害が残る社会的負担も大きい。新薬が治療時間を延ばし、従来より多くの患者に使えるなら、既存薬からの置き換えと新しい患者への投与が同時に起きる。さらにTMS-008が急性腎障害で承認されれば、まったく異なる疾患から収益を得られる。研究開発型企業が複数の医薬品収益を持つ会社へ変わる可能性がある。
現在の時価総額が約60億円であることを考えると、主力薬が海外で一定のシェアを取るだけで価値は大きく跳ねる。現在は赤字でも、承認後にはロイヤリティ収入が研究開発費を大幅に上回り、設備投資負担も小さい。臨床開発の成功と提携戦略がかみ合えば、10年後の時価総額が現在の何倍にもなる余地がある。
慎重な見方
最大の問題は、TMS-007がまだ販売できる薬ではないことだ。前期第Ⅱ相の患者数は90例であり、投与群は52例にすぎない。少数例の試験で大きな効果が観察されても、多国籍・多施設の大規模試験で同じ結果が出るとは限らない。ORIONでは患者集団、投与量、時間枠、施設間の治療水準が変わり、統計上の優位性と安全性を改めて証明する必要がある。試験の成功、承認、保険償還、普及までにはそれぞれ独立した障害がある。
また、既存治療が止まって待っているわけではない。テネクテプラーゼの普及や血栓回収療法の拡大が進めば、新薬が登場する時点の治療体系は現在と大きく変わる。TMS-007が単に従来のt-PAより優れているだけでは十分でなく、新しい標準治療の中でどの患者に追加の利益をもたらすかが問われる。TMS-008も現時点では患者での有効性が確認されておらず、JX09は開発を保留されている。複数のパイプラインが存在しても、独立した成功機会が十分に分散しているとはいえない。
財務上の耐久力にも限界がある。現金約28億円という数字は、企業が今すぐその額を株主に配ると考えれば魅力的に映る。しかし実際には研究開発費が毎年発生し、2026年の営業費用見込みだけでも9億〜13億円である。主力薬が失敗した場合、資金の回収よりも次の研究に現金を使う可能性が高い。増資が続けば、会社そのものが存続しても初期株主の権利は薄まる。
承認薬のない創薬企業にとって、純資産は収益力の床ではない。失敗した開発品の研究費は資産として売り戻せず、特許にも買い手が付かない場合がある。契約マイルストーンの最大額を将来の確実な現金と誤解してはいけない。現在の株価が十分に安く見えるとしても、それは成功確率と必要な資金調達を過小評価しているからかもしれない。
どちらに重みを置いたか
臨床試験の進捗と既存の提携契約には確かな価値がある。しかし、承認から商業的成功まで到達する確率と、そこまでの株式希薄化を重く見る。確率は楽観5%、やや楽観10%、中立20%、やや悲観30%、悲観35%とし、下側を65%に寄せた。2027年のORION第Ⅱ相結果が未判明であり、TMS-008も患者での有効性が未確認だからである。成功時の現金蓄積を自己資本と価値の双方に反映しても、既存株主の期待価値は現在の時価総額を下回る。研究の魅力より、回収の確実性と資本配分を優先する判断だ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/12 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 282 円129 億円(+ 還元の換算額還元の合計 5 円2 億円)。 今の値に割り戻すと 114 円52 億円、今との差 −17.1%、 期待の年率 +7.7%(資本コスト 9.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 5% | 3,613 円1,650 億円 | 82 円38 億円 | +2,577.6% | +40.2% | 185 円84 億円 |
| やや楽観 | 10% | 961 円439 億円 | 12 円5 億円 | +605.4% | +21.8% | 97 円44 億円 |
| 中立 | 20% | 18 円8 億円 | 0 円0 億円 | −87.0% | −18.4% | 4 円2 億円 |
| やや悲観 | 30% | 4 円2 億円 | 0 円0 億円 | −97.3% | −30.4% | 1 円1 億円 |
| 悲観 | 35% | 0 円0 億円 | 0 円0 億円 | −99.8% | −46.3% | 0 円0 億円 |
| 加重平均 | 100% | 282 円129 億円 | 5 円2 億円 | +107.9% | +7.7% | 287 円131 億円 |
今の株価時価総額 138 円63 億円(2026-11-02)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 5% 脳梗塞薬が世界で普及し、急性腎障害薬も成功 利益 176 億円 · PER 10.3 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 3,613 円1,650 億円
ORIONの第Ⅱ相部分で良好な結果が得られ、第Ⅲ相部分でも機能的転帰と安全性の優位が確認される。CORXELは米欧で承認を取得し、2030年代初頭から商業販売を始める。日本でも開発販売権を生かして大手製薬企業と販売契約を結ぶ。長い時間枠で治療を受けられる患者が増え、脳卒中診療の選択肢として新しい薬剤が定着する。
海外では年間10万人、日本では1万6,000人に投与される。患者当たりのロイヤリティ収入は、薬剤販売価格と契約上の段階料率を反映して増える。既存のアルテプラーゼやテネクテプラーゼは引き続き使われるが、治療時間を延ばす新薬として独自の地位を得る。
TMS-008も心臓血管手術後の急性腎障害で有効性を証明し、海外企業との提携を経て2030年代前半に販売を始める。年間2万人への投与によって新たなロイヤリティ収入が生まれる。JX09や初期研究品の一部も提携に結びつき、収益源が広がる。
この段階では研究開発費を十分に賄える経常収入があり、税引後の利益が大幅に増える。承認後の普及が速く、早い時期から利益を蓄積できるため、2036年の自己資本は大きく膨らむ。その大半は現金など流動性の高い資産として残るが、研究開発企業の経営陣が全額を株主に還元するとは限らない。初期の開発資金を賄う増資によって既存株主の持分も薄まる。
- TMS-007(JX10)海外ロイヤリティ:数量 100,000(日本以外で実際に薬剤を投与する患者数(人/年))× 価格 0.00(患者1人当たりティムス受取ロイヤリティ(億円/人、名目))→ 売上 190 億円・営業利益 190 億円。海外年間10万人×受取ロイヤリティ19万円。海外製品売上を直接計上せず、契約上の取り分だけを収益とする。
- TMS-007(JX10)日本開発販売権:数量 16,000(国内で実際に薬剤を投与する患者数(人/年))× 価格 0.00(患者1人当たり販売提携後のティムス帰属収入(億円/人、名目))→ 売上 43 億円・営業利益 43 億円。国内年間1.6万人×提携後帰属収入27万円。製薬企業の販売費相当は単価から除外。
- TMS-008急性腎障害:数量 20,000(対象地域での年間投与患者数(人/年))× 価格 0.00(患者1人当たりティムス帰属の導出後収益(億円/人、名目))→ 売上 44 億円・営業利益 44 億円。術後急性腎障害向けに年間2万人×ティムス帰属22万円。承認と導出をともに達成する想定。
- JX09・TMS-010・次世代創薬:数量 5,000(上市後に対象薬を投与する患者数(人/年))× 価格 0.00(患者1人当たりティムス帰属収入(億円/人、名目))→ 売上 4 億円・営業利益 4 億円。初期研究品の一部が導出され、年間5,000人相当の商業化収入が発生。
倍率:自己資本の流れを修正した。2025年12月期末の自己資本27.4億円+10年間の純利益合計の近似844億円−株主還元50億円+増資払込6億円=827.4億円。2036年の余剰現金650億円を除いた事業自己資本は177.4億円、現金利息9.1億円を除いた事業純利益は166.9億円で、事業ROEは約94.1%。資本コスト9.75%、長期成長率0%、弱い堀の継続率1/3から正当化PERは10.26倍。事業純利益166.9億円×10.26倍+余剰現金650億円×回収係数0.75=2199.89億円。過去の市場PERは使わず、余剰現金の利息と現金本体を二重計上しない。
確率:ORIONで大規模試験の有効性と安全性を示し、海外で広く普及することに加え、別の早期臨床段階にあるTMS-008まで商業化する複合成功である。両剤の臨床成功、規制当局の承認、販売の立ち上がりが重なる必要があるため5%とする。
やや楽観 10% TMS-007が承認され、限定的ながら海外の定番薬になる 利益 52 億円 · PER 10.3 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 961 円439 億円
TMS-007の国際共同治験は予定から多少遅れるが、最終的に承認に必要な有効性と安全性を示す。CORXELは欧米の脳卒中医療施設を中心に販売網を整え、2030年代初頭から売上が立ち上がる。既存の血栓溶解薬が使われ続けるため、全面的な置き換えには至らない。それでも遅い時間帯での投与や、選別された患者への使用が広がり、特定の治療領域で定着する。
海外の投与患者は年間5万人、日本は8,000人まで増える。薬剤価格と契約料率の改善によって、ティムスは継続的なロイヤリティを得る。最大限の普及には届かないが、上市によって研究開発企業から収益企業へ転換する。
一方、TMS-008は患者での有効性が一部確認されても、大規模試験や導出に時間がかかり、2036年時点では安定した販売収入に至らない。JX09の開発再開も実現せず、事業の収益源はTMS-007が中心となる。経営陣は追加研究費を抑えながら既存の導出契約を生かし、財務を立て直す。
初期の赤字と増資の負担は残るため、後から生まれる利益がすべて旧株主のものになるわけではない。それでも継続的なロイヤリティが資金調達依存を終わらせ、利益の積み上がりとともに自己資本が増える。会社は十分な現金を持つようになるが、還元の実績がないことから、蓄積した資金がすべて少数株主に返るとは限らない。
- TMS-007(JX10)海外ロイヤリティ:数量 50,000(日本以外で実際に薬剤を投与する患者数(人/年))× 価格 0.00(患者1人当たりティムス受取ロイヤリティ(億円/人、名目))→ 売上 78 億円・営業利益 78 億円。海外年間5万人×ティムス帰属15.5万円。医療施設への普及に時間がかかる。
- TMS-007(JX10)日本開発販売権:数量 8,000(国内で実際に薬剤を投与する患者数(人/年))× 価格 0.00(患者1人当たり販売提携後のティムス帰属収入(億円/人、名目))→ 売上 18 億円・営業利益 18 億円。国内年間8,000人×帰属23万円。販売提携先が国内流通を担当。
- TMS-008急性腎障害:数量 0.0(対象地域での年間投与患者数(人/年))× 価格 0.00(患者1人当たりティムス帰属の導出後収益(億円/人、名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。開発進捗はあるが、2036年時点で継続販売ロイヤリティは発生しない。
- JX09・TMS-010・次世代創薬:数量 0.0(上市後に対象薬を投与する患者数(人/年))× 価格 0.00(患者1人当たりティムス帰属収入(億円/人、名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。JX09の開発保留などが響き、経常的な商業収益はない。
倍率:自己資本は現在27.4億円+10年間の純利益合計の近似224億円−還元8億円+増資払込6億円=249.4億円とする。余剰現金185億円を除く事業自己資本は64.4億円。現金利息2.59億円を除いた事業純利益49.41億円を基準にすると、事業ROEは約76.7%。資本コスト9.75%、長期成長率0%、堀の継続率1/3により正当化PERは10.26倍。事業純利益49.41億円×10.26倍+余剰現金185億円×回収係数0.75=645.70億円。利益の留保を自己資本に反映し、現金本体も別に価値として評価する。
確率:TMS-007が承認され、脳梗塞治療の限定された患者集団で定着する場合である。先行する治療法や販売網の制約によって普及が強気の筋書きほど速くない可能性があるため10%とする。
中立 20% TMS-007は小規模に上市するが、利益は限定的 利益 2 億円 · PER 10.3 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 18 円8 億円
ORIONの臨床試験では一定の有効性と安全性を示すが、承認までに追加解析や患者集団の絞り込みが必要になる。承認は当初の期待より遅れ、2030年代前半に限定的な適応症で海外販売が始まる。日本でも販売提携が成立するものの、医師が使用する患者は重症度や発症時間によって慎重に選別される。
競争環境は厳しい。テネクテプラーゼが標準的な治療として定着し、血栓回収療法の適応も広がるため、TMS-007の潜在市場のすべてを取ることはできない。海外投与患者は年間1万1,000人、日本は2,200人にとどまる。承認そのものは事業の存続に大きく貢献するが、営業費用を十分に上回るロイヤリティが入るまでには時間がかかる。
TMS-008は開発を続けるが、臨床上の有効性や大規模試験の資金確保に課題が残る。2036年時点では継続した販売収入を生まず、他の研究品についても大型導出を前提にしない。会社は研究開発費を抑え、資金需要に応じた増資を実施しながら、脳梗塞薬の商業化を待つ。
結果として、2036年にようやく小幅の黒字を確保する。研究開発会社としては前進だが、過去に積み上げた損失と希薄化の負担は大きい。開発期間中の累積損失を約28億円と見込む一方、増資による払込資本約22億円が自己資本を下支えする。利益が残ることと、現在の株主にとって優れた投資成果が生まれることは別である。
- TMS-007(JX10)海外ロイヤリティ:数量 11,000(日本以外で実際に薬剤を投与する患者数(人/年))× 価格 0.00(患者1人当たりティムス受取ロイヤリティ(億円/人、名目))→ 売上 15 億円・営業利益 15 億円。海外年間1.1万人×受取13.4万円。現在想定10万円に物価3%の10年分を反映。限定的な上市と普及を想定。
- TMS-007(JX10)日本開発販売権:数量 2,200(国内で実際に薬剤を投与する患者数(人/年))× 価格 0.00(患者1人当たり販売提携後のティムス帰属収入(億円/人、名目))→ 売上 4 億円・営業利益 4 億円。国内年間2,200人×帰属20万円。対象患者の選別と保険償還の制約を考慮。
- TMS-008急性腎障害:数量 0.0(対象地域での年間投与患者数(人/年))× 価格 0.00(患者1人当たりティムス帰属の導出後収益(億円/人、名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。2036年までに安定した製品販売収入は生じない。参考単価には物価上昇を反映。
- JX09・TMS-010・次世代創薬:数量 0.0(上市後に対象薬を投与する患者数(人/年))× 価格 0.00(患者1人当たりティムス帰属収入(億円/人、名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。JX09・初期研究品からの継続的収入は見込まない。
倍率:10年間の純利益合計を、直近期の約-7.2億円から2036年の1.6億円への推移で近似すると約-28億円となる。現在の自己資本27.4億円−累積損失28億円+期間中の増資払込22億円=21.4億円。増資のない場合は自己資本がほぼ失われるため、22億円の資本調達を明示した。中立のROEは1.6÷21.4で約7.5%となり、資本コスト9.75%を下回る。ROEが資本コスト以下の場合、PERの上限は1÷k=10.26倍。2036年以降の名目成長率も0%とし、未確定の開発マイルストーンを経常利益に加えない。
確率:前期第Ⅱ相の良好な結果を一定程度評価しつつ、大規模試験と実際の普及に時間を要する場合を中立の成功側として20%とする。下に寄せる理由:売上実績がないうえ、大型治験の結果が未判明であり、成功を既定路線にできない。
やや悲観 30% 主力薬の承認が実現せず、研究規模を縮小 利益 −3 億円 · PBR 0.2 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 4 円2 億円
ORIONの第Ⅱ相部分では、初期試験ほど明確な差が出ない。CORXELは用量の再検討や対象患者の変更を試みるが、追加の臨床試験には時間と資金が必要になる。第Ⅲ相に進んでも、承認申請に十分な結果が得られず、当初予定していた世界販売は実現しない。日本で保有する権利も商業化につながらない。
TMS-008については、急性腎障害の臨床試験で安全性の確認は進むものの、腎機能や患者の予後を改善する効果が明確にならない。JX09は競合薬が先に市場を押さえ、開発を再開する経済的な魅力が薄れる。会社はTMS-010や新規阻害剤などに研究対象を移すが、これらも短期間では承認薬にならない。
継続した製品収入がないため、経営陣は外部からの資金調達を繰り返す。2025年末時点の現金の多くは開発費に使われ、さらに増資によって調達した資金も研究継続に充てられる。途中までは大型試験に資金を使うため赤字が続くが、後半は人員と外注研究を縮小し、年間の営業損失を約3億円まで抑える。
2036年にも会社は存続しているものの、継続的な利益を生む製品はない。10年間の累積損失は約51億円となり、約27億円の増資を経て残る自己資本は小さい。残るのは少額の現金と研究資産、そして新しい導出への期待である。既存株主が研究成果から十分な利益を回収できない10年間となる。
- TMS-007(JX10)海外ロイヤリティ:数量 0.0(日本以外で実際に薬剤を投与する患者数(人/年))× 価格 0.00(患者1人当たりティムス受取ロイヤリティ(億円/人、名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。大規模試験の未達により海外商業化が実現しない。
- TMS-007(JX10)日本開発販売権:数量 0.0(国内で実際に薬剤を投与する患者数(人/年))× 価格 0.00(患者1人当たり販売提携後のティムス帰属収入(億円/人、名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。国内でも承認・販売に至らない。
- TMS-008急性腎障害:数量 0.0(対象地域での年間投与患者数(人/年))× 価格 0.00(患者1人当たりティムス帰属の導出後収益(億円/人、名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。開発試験が継続または中断し、商業売上はゼロ。
- JX09・TMS-010・次世代創薬:数量 0.0(上市後に対象薬を投与する患者数(人/年))× 価格 0.00(患者1人当たりティムス帰属収入(億円/人、名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。初期研究は残るが継続収益を生まない。
倍率:継続的な利益を生む医薬品がなく、PERは意味を持たない。直近期純損失-7.2億円から2036年の-3億円までの期間純利益合計を近似すると約-51億円。自己資本は27.4億円−累積損失51億円+増資払込27億円=3.4億円となる。2036年の企業価値は、現在の自己資本27.4億円×PBR0.15=4.11億円とする。残存研究資産の譲渡可能性を限定的に認める一方、10年後の換金可能資産1.2億円を上回る水準とした。過去の市場PBRは根拠にしない。
確率:ORIONの大規模試験で主要評価項目を十分に満たせない、または資金・規制上の事情から上市が遅れる場合である。患者で有効性を確認していない他の薬剤だけでは収益を支えにくいため30%とする。
悲観 35% 開発失敗と資金枯渇で事業価値がほぼ消失 利益 −1 億円 · PBR 0.0 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 0 円0 億円
ORIONの試験で期待された有効性が再現されず、出血など安全性に関する懸念も解消できない。CORXELはTMS-007への追加投資を縮小または中止し、海外ロイヤリティの可能性はほぼ消える。日本での独自開発も資金面で難しくなり、国内の権利から収入は生まれない。
TMS-008は患者での有効性を確認できず、後期臨床試験に進めない。JX09は他社薬の先行によって競争力を失い、TMS-010や新規研究品も買い手の付く事業へ育たない。大学から導入した研究資産に支払った費用は回収できず、技術や特許を保有していても、それを継続利益に結びつける道がなくなる。
現金は試験費用、人件費、契約費用に使われる。会社は増資や新株予約権によって延命を図るが、臨床開発の失敗が繰り返されるほど資金の条件が悪化する。最終的には研究の大部分を停止し、知的財産の処分や他社との小規模な事業統合を模索する状態になる。2036年には従業員や研究施設を極小化し、年間損失を約1億円まで縮小する。
2036年には残存する現金はごくわずかで、企業としての独立した価値はほぼ失われる。10年間の純損失合計は約41億円であり、増資による払込資本約14億円を費やした後の自己資本は約0.55億円となる。現時点の純現金がそのまま株主の床になるわけではなく、10年間の支出によって消失した後の資産しか残らない。事業は清算または清算に近い規模まで縮小し、希薄化を受けた初期株主に残る価値は極めて小さい。
- TMS-007(JX10)海外ロイヤリティ:数量 0.0(日本以外で実際に薬剤を投与する患者数(人/年))× 価格 0.00(患者1人当たりティムス受取ロイヤリティ(億円/人、名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。臨床開発失敗により海外導出収入の追加発生と販売ロイヤリティが消える。
- TMS-007(JX10)日本開発販売権:数量 0.0(国内で実際に薬剤を投与する患者数(人/年))× 価格 0.00(患者1人当たり販売提携後のティムス帰属収入(億円/人、名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。国内事業権の商業的価値もほぼ失われる。
- TMS-008急性腎障害:数量 0.0(対象地域での年間投与患者数(人/年))× 価格 0.00(患者1人当たりティムス帰属の導出後収益(億円/人、名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。患者で有効性を確認できず、開発を停止。
- JX09・TMS-010・次世代創薬:数量 0.0(上市後に対象薬を投与する患者数(人/年))× 価格 0.00(患者1人当たりティムス帰属収入(億円/人、名目))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。開発中止または研究資産処分により継続収益ゼロ。
倍率:承認薬がなく、研究資産も換金困難となり、継続的な稼ぐ力をほぼ失う。直近期の純損失-7.2億円から2036年の-1億円までの10年間の純利益合計を近似すると約-41億円。現在の自己資本27.4億円−累積損失41億円+増資払込14.15億円=0.55億円となる。現在の自己資本27.4億円×PBR0.02=0.548億円であり、10年間の資金消費を反映した残存価値と整合する。2036年の換金可能資産0.4億円を上回る。過去の市場PBRを根拠にしない。
確率:主力薬の失敗に加えて後続パイプラインも実用化できず、資金調達難で事業を大幅に整理する場合である。現在の売上がゼロであり、現金消費を継続する構造を重く見て35%とする。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
TMS-007(JX10)海外ロイヤリティ
日本以外でCORXELが開発・販売する急性期脳梗塞治療薬について、実際の販売数量に応じたロイヤリティを受け取る。条件付きマイルストーンは継続的な販売数量には含めない。
| 数量日本以外で実際に薬剤を投与する患者数(人/年) | 価格患者1人当たりティムス受取ロイヤリティ(億円/人、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 0.0 | 0.00 | 0 | 0 |
| 10 年後 中立 | 11,000 | 0.00 | 15 | 15 |
取り方:未上市で商業投与はゼロ。価格0.001億円は実績単価ではなく、将来の製薬企業の薬剤販売単価を患者当たり100万円、ティムスへのロイヤリティを10%とする参考単価である。会社FAQに記載された一桁%後半から10%台前半の契約料率を基礎にした。米国CDCの脳卒中患者数と2026年AHA/ASA指針を参照し、発症4.5〜24時間の患者のうち画像診断や重症度で対象になる人数を限定する。2025年12月期の全社営業損失7億円は、製品売上のない研究開発費・販管費に由来するため、現時点の各製品の営業利益に配賦せず将来の共通費用として扱う。
TMS-007(JX10)日本開発販売権
国内で保有する開発販売権から得る収益。自社販売網がないため、将来は製薬企業との国内販売提携を中心とする。
| 数量国内で実際に薬剤を投与する患者数(人/年) | 価格患者1人当たり販売提携後のティムス帰属収入(億円/人、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 0.0 | 0.00 | 0 | 0 |
| 10 年後 中立 | 2,200 | 0.00 | 4 | 4 |
取り方:国内開発販売権は保有するが上市しておらず、商業投与はゼロ。仮に製薬企業の販売単価を1コース75万円、ティムスの契約上の実効取り分を20%とすれば15万円となる。これは未締結の将来契約を想定した分析上の単価であり、実際の契約条件や薬価が決まっているわけではない。日本の脳梗塞患者数のうち、対象時間枠と画像診断条件を満たす集団から数量を推定する。
TMS-008急性腎障害
心臓血管手術後の急性腎障害を先行対象とする抗炎症薬。将来の海外製薬企業への導出または提携販売による継続収益を想定する。
| 数量対象地域での年間投与患者数(人/年) | 価格患者1人当たりティムス帰属の導出後収益(億円/人、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 0.0 | 0.00 | 0 | 0 |
| 10 年後 中立 | 0.0 | 0.00 | 0 | 0 |
取り方:2025年に第Ⅰ相試験を完了し、2026年10月に前期第Ⅱ相試験の実施が可能となったが、商業売上はゼロ。参考単価は将来の薬剤販売単価130万円に対する実効ロイヤリティ相当10%とする。会社の2030年AKI患者数約1,110万人は米日欧の広い疾患母集団であり、最初に狙う心臓血管手術後の高リスク患者とは異なる。広い母集団をそのまま売上数量にしない。
JX09・TMS-010・次世代創薬
開発保留中の高血圧薬JX09、脊髄損傷向けTMS-010、新規sEH阻害剤や大学由来の研究シーズを含む。価値の大半は将来の導出可能性にある。
| 数量上市後に対象薬を投与する患者数(人/年) | 価格患者1人当たりティムス帰属収入(億円/人、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 0.0 | 0.00 | 0 | 0 |
| 10 年後 中立 | 0.0 | 0.00 | 0 | 0 |
取り方:現在の商業売上はゼロ。参考単価は将来の提携薬剤について患者当たり5万円のティムス帰属収入を仮定したもので、開示された実績価格ではない。JX09は国内の治療抵抗性高血圧患者という大きな市場を対象とするが、CORXELが2026年に追加開発の保留を表明しており、競合のアルドステロン合成酵素阻害剤が先行している。このため中立以下では商業化数量をゼロとする。
リスクと懸念
ORION試験の有効性・安全性が再現されない
最大の価値の源泉であるTMS-007は、90例の前期第Ⅱ相試験で良好な結果を示したものの、大規模な国際共同治験では患者の条件や施設間の違いによって効果が小さくなる可能性がある。主要評価項目に十分な差が出ない、出血リスクが高まる、当局が追加試験を求めるといった場合、売上開始は大幅に遅れる。主力薬への依存が高いため、企業価値への影響は極めて大きい。
追加増資による既存株主の希薄化
研究開発費は2026年だけでも9億〜13億円と見込まれている。継続売上がないまま試験を続ければ、現在の現金は数年で減少する。2025年から2026年にかけて株式数が増加し、第10回新株予約権も2026年9月にすべて行使された。今後さらに低い価格で資金調達すれば、将来の承認薬から得られる利益が大きくても、現在の株主の持分は縮小する。
CORXELへの開発・販売依存
TMS-007の海外開発はCORXELが主導している。同社が2026年に大型資金調達を実施したことは前向きな材料だが、資金の使途は複数の開発品に分散される。経営方針が変更された場合、試験の優先順位、追加投資、販売準備が変わりうる。ティムスが海外の研究開発・販売を自ら完全に支配しているわけではない点が、契約上のロイヤリティの実現確率を下げる。
治療標準の変化による市場縮小
脳梗塞の治療はテネクテプラーゼ、血栓回収療法、画像診断による患者選別の進歩が速い。TMS-007が承認されても、上市の頃には競合する治療法が既に広く普及している可能性がある。承認された適応が狭い場合や、既存治療に対する追加利益が十分に認められない場合には、想定した患者数と薬価を確保できない。
TMS-008の前臨床データから患者への移行
TMS-008は急性腎障害の動物モデルで良好な結果が報告され、第Ⅰ相試験では安全性と忍容性が示唆された。しかし、患者で腎機能の改善や臨床的に重要な転帰の改善が確認されたわけではない。心臓血管手術後の急性腎障害は原因が複雑であり、動物モデルの結果が人でも再現されるとは限らない。後期試験の費用を自社で負担する場合は資金需要も大きい。
契約マイルストーンと継続収入の混同
CORXELとの契約で示される最大3億6,750万ドルは、将来の開発・販売条件を満たした場合の合計上限であり、現在の現金でも確定売上でもない。承認が成功しても、一時金の入る年度と入らない年度がある。一時金を経常利益として永久に資本化すると、本質価値は大きく過大評価される。最も重視すべき数字は、実際の製品売上に対して継続的に受け取れるロイヤリティである。
知的財産の寿命と資本配分
創薬の競争優位は特許、規制上の独占期間、蓄積された臨床データによって保護される。しかし、いずれも永続するとは限らない。承認までに開発が長期化すると、商業化後に十分な独占期間が残らない可能性がある。さらに、研究資産の買収や追加パイプラインの導入に現金を使い続ければ、承認薬が生んだ利益が株主へ戻らず、再び高リスクの研究投資に吸収される恐れがある。
今後の分かれ目
- 2027年上期予定のORION第Ⅱ相部分で、機能的転帰と安全性の明確な改善が確認されたら
- TMS-007の承認到達確率を引き上げ、楽観・やや楽観の重みを増やす。第Ⅲ相の必要症例数、試験費用、結果公表時期を確認し、期待だけでなく既存株主の将来の取り分も更新する。
- ORIONの主要評価項目が未達、または重大な安全性懸念が公表されたら
- 主力薬の海外ロイヤリティを大幅に減額し、やや悲観・悲観の確率を高める。CORXELが試験を継続するか、国内権利に独立した価値が残るかを確認する。
- TMS-008の前期第Ⅱ相試験で、心臓血管手術後の急性腎障害に対する明確な有効性が示されたら
- 主力薬以外の価値を上方修正する。ただし第Ⅱ相の結果だけで上市後の売上を確定扱いせず、後期開発費、導出条件、対象患者数を改めて評価する。
- 資金調達で発行済株式数が大きく増えたら
- 会社全体の将来価値だけでなく、holder_shareを引き下げて既存株主の価値を再計算する。調達した現金と新株の希薄化を両方反映し、資金調達を無条件の価値向上とは扱わない。
- CORXELがTMS-007の第Ⅲ相投資を縮小または延期したら
- 商業化時期を後ろ倒しにし、資金消費と追加増資を増やす。企業価値は承認確率の低下だけでなく、成功までの期間が延びることによっても減少する。
- TMS-007の販売開始後に海外ロイヤリティが年間20億円を超え、継続的に増えたら
- 小規模な上市にとどまる中立の数量前提を上方修正する。実際の薬価、患者数、継続使用率を確認し、単発のマイルストーンを除いた経常利益の価値を高める。
- 日本で大手製薬企業との販売提携が締結され、薬価とティムスの実効取り分が明示されたら
- 国内の患者当たり収入を推定値から契約値へ更新する。自社販売網の構築が必要かどうかによって、販管費と資本需要も修正する。
見ておくもの
- ORION Part1(第Ⅱ相)の組入れ完了時期と2027年上期予定のトップライン結果
- ORION Part2(第Ⅲ相)への移行、海外5例目投与に伴うマイルストーン収入の有無
- 2029年末を予定するORION全体の試験完了時期と規制当局との協議
- TMS-008前期第Ⅱ相の最初の患者への投与、被験者組入れ完了、腎機能改善の結果
- CORXELの資金調達状況とJX10への開発投資の優先順位
- 発行済株式数、新株予約権の残高、追加資金調達額と行使価格
- 期末現金残高と研究開発費・販管費の年間支出額
- TMS-007の海外販売数量、薬価、実際のロイヤリティ率、国内販売提携の契約条件
- テネクテプラーゼや血栓回収療法の適応拡大と、新薬の競争上の位置
倍率と資本コストの決め方
基準株価131円と基準株数45,666,557株による時価総額59.82億円は、最後の比較にのみ使った。現在のPBRや過去の同業PERから2036年の倍率を逆算していない。2036年の売上は各製品の商業投与患者数とティムスに帰属する単価から推定し、海外パートナーの薬剤売上全体は計上しない。条件付きマイルストーンを継続利益として永久資本化しない。
自己資本の流れを全5筋書きで再点検した。直近期の自己資本27.4億円を起点とし、10年間の純利益合計、還元、増資払込を反映する。楽観は827.4億円、やや楽観249.4億円、中立21.4億円、やや悲観3.4億円、悲観0.55億円である。楽観・やや楽観では、以前の小さい自己資本を維持するのではなく、留保利益で膨らむ自己資本を認めた。蓄積した余剰現金は事業ROEの分母から除外し、その利息を事業純利益から控除したうえで75%の回収係数を掛けて別に評価した。
楽観から中立までのPERは、資本コスト9.75%、長期成長率0%から導かれる上限10.26倍を用いた。悲観側は現時点の純現金をそのまま2036年の床とせず、10年間の研究費による消費と追加調達を明示した。PBRは今の自己資本27.4億円に掛け、将来の自己資本を分母にして倍率を操作していない。2026年9月までに実行済みの増資は添付の基準株数に含まれていないため、各筋書きの既存株主取り分の係数に含めた。
修正後の期待価値は、各筋書きの時価総額と還元にholder_shareを掛け、資本コスト9.75%で時価総額を10年、還元を平均5年割り引いて約52.24億円となる。現在の59.82億円に対する差は約-12.7%で、判定は「やや割高」である。
資本コスト 9.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5% + 上乗せ 1.5%。国債利回り3%、株式リスクプレミアム4.5%を基礎とし、事業の品質による0.75%と継続赤字による1.5%を加え、資本コストを9.75%とする。βや時価総額の小ささによる機械的な上乗せは行わない。