結論
オンコリスバイオファーマは、岡山大学発のがん治療ウイルス「テロメライシン」で、世界初の食道がん局所治療薬を送り出した創薬会社だ。筆者の結論は、国内の売上だけでは今の時価総額を支えられず、海外展開と他のがんへの広がりをほぼ満額で先取りした値段だ、というものだ。
テロメライシンは2026年6月に承認され、8月に薬価がついて発売された。1回の治療で約930万円。ただし対象は、手術も化学放射線療法もできない食道がんの患者に限られる。会社が国に出した資料でも、ピークの投与患者は年241人、売上は約22億円だ。
赤字は16期続いている。これまでの売上の大半は、開発の節目で受け取る一時金だった。事業を支えてきたのは増資と手元の現金だ。承認は区切りになったが、利益の出る会社になったわけではない。
分かれ目は三つある。適応が胃や頭頸部に広がるか。海外の提携先が見つかるか。米国の提携先に預けた神経病の薬OBP-601が当たるか。三つとも当たれば会社は数千億円の規模になりうる。だが当たるのは多くて一つだと筆者は見る。確率を掛けた10年後の価値は、今の時価総額を大きく下回る。総合では「割高」だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社の問題は事業の本質より「払う値段」にある。
オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益は、今はマイナスだ。年に約20億円を使って事業を育てている。承認は大きな一歩だが、国内のピーク売上は年22億円ほどで、開発と販売の費用を払えば利益はわずかだ。
筆者が持ち続けたいのは、売る商品が10年後も減らない会社だ。この会社の主力は1つで、その根拠の試験は小さい。わからない部分が多い事業には、確信を下げる。
安全域は、払う値段と、悪い結果が出た時に残る価値の差だ。悪い結果の時に残るのは、現金と承認済みの権利くらいで、今の時価総額の数%にすぎない。
魅力は、うまくいった時の伸びの大きさにある。ただ、それは宝くじに近い。確率を掛けて割り引くと、今の値段は払い過ぎだ。
投資の判断は、当たった時の大きさだけで決めない。外れた時に何が残るかを先に見る。この会社は、外れた時に残るものが少ない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの形は二つある。自社で作って売る「製薬会社型」と、開発した薬を大手に預けて対価をもらう「ライセンス型」だ。2026年は前者の初年度にあたる。
柱はテロメライシンだ。風邪のウイルスの仲間であるアデノウイルスを改造し、がん細胞の中だけで増えて壊すようにした。内視鏡で腫瘍に直接注入し、放射線治療と組み合わせる。承認の根拠は、全国17施設・37例の国内第2相試験だ。
売る仕事は富士フイルム富山化学が受け持つ。配送と医師への情報提供を任せ、まず約80施設、のちに300施設超へ広げる計画だ。製造はベルギーの受託会社1社に頼っている。第2工場の設置は2030年までの目標だ。会社の取り分の割合は開示されていない。
ほかに三つの種がある。米国のトランスポゾン社に預けたOBP-601は、進行性核上性麻痺(PSP)やアルツハイマー病などの神経の病気向けで、契約総額は3億ドルを超えるとされる。第2世代のOBP-702は、膵がんでの初めての人への試験を岡山大学で始める。経口の抗ウイルス薬OBP-2011は提携先を探している。いずれも売上はまだ先の話だ。
優良さと弱いところ
筆者は、この会社の堀(他社がまねできない強み)を「広いが浅い」と見る。
強みは、先行したこと自体だ。腫瘍溶解ウイルスの食道がん薬は世界初で、先駆け審査の指定も受けた。承認までの手順、内視鏡で投与する方法の特許、製造の経験が積み上がった。同じ道を後続が追うには数年かかる。
弱みも多い。第2相は非盲検で対照がなく、主要な解析時点の完全奏効率は事前の基準に届かなかった、と指摘する声がある。延命を比べた試験もない。食道潰瘍や穿孔、リンパ球の減少という副作用も注意点だ。全例調査で悪い知らせが出れば、使う医師が減る。
資金の集め方は、長く株の発行と新株予約権(MSワラント)に頼ってきた。過去20年で9期、株が増えている。2026年は新株予約権による調達をしないと会社は言う。方針の変化は評価できるが、事業が自力で回るまでは借入と増資の選択肢が残る。
資本効率を語る段階にはまだない。過去10年の自己資本利益率の中央値はマイナス48%だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
食道がんは、日本で年に約2万6千人が診断される。男性が8割を占め、60〜70代に多い。
標準治療は、早期なら内視鏡か手術、進めば手術に抗がん剤を組み合わせる。手術をしない人には化学放射線療法がある。免疫チェックポイント阻害薬も加わった。テロメライシンが入るのは、そのどれも受けられない人の席だ。席は狭く、会社の見立てでもピークは年241人にとどまる。
世界に目を移すと、食道がんの7割以上はアジアに集中する。日本で承認を得たことは、台湾などアジア各国での申請の足がかりになる。英国には、日本の承認を使える制度がある。ここに提携先がつけば、市場は一桁広がる。
競合は、同じ腫瘍溶解ウイルスの仲間と免疫薬だ。米国ではメラノーマ向けのT-VECが先に承認されたが、売上は大きくない。食道は内視鏡で届き、放射線とも組み合わせやすい。ここがこの薬の強みだ。
創薬ベンチャーの資金環境は国内で細い。日本のベンチャーに入る資金は年に200〜300億円で、米国の1%に満たない。誰が資金を出すかが、小さな会社の運命を左右する。
資本政策と M&A
資本政策の中心は資金調達であり、還元ではない。配当は出しておらず、当面は出せない。
2025年末の現金は約37億円だが、営業の現金流出は1年で約19億円ある。2026年2月にはみずほ銀行から4億4千万円を借りた。製品の売上が費用を上回るまでの間は、借入か増資が要る場面が来る。2025年に使った第21回新株予約権(4.3万個)は同年12月に行使が終わり、いま行使を待つ予約権はない。今後の増資は、新しく決める資金調達の形になる。
提携には苦い経験がある。2019年に中外製薬と組み、2022年に解消した。大手と組んだあとに方針が変わるリスクを示した例だ。今回の富士フイルム富山化学には販売だけを任せ、権利は手元に残す形にした。
買われる側になる可能性もある。外部の推計では、10年以内のTOBの確率は1割強だ。腫瘍溶解ウイルスの技術を海外の大手が買いに来る筋は否定できない。ただし今の時価総額は、買い手が払いやすい額をすでに超えている。
点検済み(2026-10-19):起点(赤字)、株数(予約権は行使済み)、悲観の確率を確かめた。割高に見せる見落としは見つからなかった。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
テロメライシンは第1号にすぎず、本当の価値は「ウイルスで局所のがんを治す」という新しい道具のほうにある。食道で承認を得たことで、安全性のデータ、製造法、規制当局との手順がそろった。胃・頭頸部・大腸(肛門周囲)に広げる試験はすでに動いている。免疫チェックポイント阻害薬との併用でも、効果が重なる可能性がある。
患者の数が違う。食道がんの7割以上はアジアにいる。日本で承認された薬は、アジア各国で承認を得る時の足がかりになる。海外の提携先が1社つけば、契約一時金とマイルストーンが入り、資金の不安は一気に消える。
第2世代のOBP-702は、抗がん作用が10〜30倍と会社は言う。膵がんで人への試験が始まる。米国に預けたOBP-601も、当たれば契約総額3億ドル超の取り分が動く。三つの芽のうち一つでも大きく当たれば、今の時価総額は割高ではなくなる。1回の治療で約930万円という高い薬価がついたことも、この会社に価格を決める力があることを示した。
慎重な見方
売れる患者が少なすぎる。会社の資料でも、ピークの投与患者は国内で年241人、売上は約22億円だ。研究開発と管理に年20億円前後かかる会社にとって、国内だけでは黒字がやっと見える程度である。
科学的な根拠も弱い。承認の根拠は37例の非盲検・単群の第2相試験で、主要な24週の完全奏効率は事前の基準に届かなかったと指摘される。延命を比べた試験はなく、全例調査で食道潰瘍や穿孔が出れば、使う医師が減る。
海外と適応拡大には、時間もお金もかかる。製造はベルギー1社だけで、第2工場は2030年が目標だ。ここで増資が重なれば、既存の株主の取り分は薄まる。過去20年で9期、株が増えた会社である。
OBP-601も楽観できない。PSPの第2相では、主要な臨床の指標で差が出なかったとの報告がある。提携先の資金調達も途上だ。神経の病気の薬は失敗が多く、開発品が承認にたどり着く確率は2割に届かない。三つの芽のうち、育つのは多くて一つだろう。
どちらに重みを置いたか
事業の新しさでは、強気の見方が正しい。世界初の承認は事実で、芽が一つでも大きく当たれば値は跳ねる。一方、足元の数字は慎重な見方が強い。国内の売上は小さく、根拠の試験も小さい。
確率は慎重な側へ寄せた。中立でも利益は小さく、やや悲観と悲観を合わせて5割を超えた。楽観とやや楽観は合わせて2割に満たない。承認で最大の不確実性は消えたが、先に資金が尽きるリスクはまだ残る。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 3,773 円1,105 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 173 円51 億円)。 今の値に割り戻すと 1,907 円559 億円、今との差 −65.9%、 期待の年率 −3.4%(資本コスト 7.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 5% | 38,801 円1.14 兆円 | 2,390 円700 億円 | +635.6% | +22.1% | 2,060 円603 億円 |
| やや楽観 | 13% | 8,079 円2,367 億円 | 410 円120 億円 | +51.6% | +4.2% | 1,104 円323 億円 |
| 中立 | 30% | 2,271 円665 億円 | 0 円0 億円 | −59.4% | −8.6% | 681 円200 億円 |
| やや悲観 | 30% | 287 円84 億円 | 0 円0 億円 | −94.9% | −25.7% | 86 円25 億円 |
| 悲観 | 22% | 68 円20 億円 | 0 円0 億円 | −98.8% | −35.6% | 15 円4 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,773 円1,105 億円 | 173 円51 億円 | −29.5% | −3.4% | 3,945 円1,156 億円 |
今の株価時価総額 5,600 円1,641 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 5% 楽観:適応が広がり、海外提携と神経病の薬が当たる 利益 548 億円 · PER 20.8 倍 · 株価時価総額 38,801 円1.14 兆円
テロメライシンは食道に続いて頭頸部と胃で適応を得る。アジアと欧州の提携先がつき、世界の患者は年に2万5千人が使う。会社の取り分は、1人あたり約400万円のロイヤリティと製品の供給で入る。OBP-601はPSPかアルツハイマー病のどちらかで承認に届き、ロイヤリティが入り始める。
10年後、会社は製薬会社として定着し、営業の利益率は5割を超える。第2世代のOBP-702は膵がんの試験が進み、次の柱の候補になる。配当と自社株買いも始まる。
それでも競合は動く。免疫薬との併用が標準になり、単独の効き目をめぐる議論は残る。会社の堀は広がるが、一つの技術に頼る構図は変わらない。
- テロメライシン(国内の食道がん):数量 600(年間の投与患者数(人))× 価格 0.09(1人(1クール3瓶)あたりの会社の取り分(億円)。薬価は約0.093億円で、卸・販売元の取り分を引いて約7割とみる)→ 売上 51 億円・営業利益 33 億円。国内は年600人×1人あたり0.085億円。営業利益率65%
- 海外と適応拡大(提携先経由):数量 25,000(提携先での年間の投与患者数(人))× 価格 0.04(1人あたりの会社の受取額(億円)。提携先の売値の約3〜4割を想定)→ 売上 1,000 億円・営業利益 650 億円。提携先での年間2万5千人×受取0.04億円。営業利益率65%
- ライセンス収入(OBP-601ほか):数量 1.0(ライセンス収入の束(1))× 価格 150(年間のライセンス収入(億円・名目))→ 売上 150 億円・営業利益 135 億円。OBP-601のロイヤリティなどで年150億円。営業利益率90%
倍率:事業の純利益 548 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 38.6% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 18.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.7 倍。全体の PER 20.75 倍、時価総額 11,367 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:三つの芽(適応拡大・海外提携・OBP-601)がそろって当たる筋書き。根拠の試験が小さい会社で、三つ同時の成功は一握りと見て5%に置いた。
やや楽観 13% やや楽観:食道と頭頸部で広がり、アジアと英国で提携 利益 123 億円 · PER 19.2 倍 · 株価時価総額 8,079 円2,367 億円
国内は適応が頭頸部に広がり、年450人が使う。アジアと英国で提携先が2社つき、提携先での患者は年7千人になる。OBP-601は途中の節目の支払いが続くが、承認までは届かない。
会社は黒字が定着し、営業の利益率は4割を超える。研究開発は自社と提携先で分担する。製造は第2工場が稼働し、供給の不安が消える。
一方、効き目の根拠は十分に積み上がらず、保険での使い方に制限が残る。会社の成長は堅実だが、世界的な製薬会社の水準には届かない。
10年後の自己資本はまだ薄く、利益が出ても、すぐ配当を出せる余裕はない。投資家には、堅実に育つ中堅の創薬会社として映る。
- テロメライシン(国内の食道がん):数量 450(年間の投与患者数(人))× 価格 0.08(1人(1クール3瓶)あたりの会社の取り分(億円)。薬価は約0.093億円で、卸・販売元の取り分を引いて約7割とみる)→ 売上 35 億円・営業利益 22 億円。国内は年450人×1人あたり0.078億円。営業利益率62%
- 海外と適応拡大(提携先経由):数量 7,000(提携先での年間の投与患者数(人))× 価格 0.04(1人あたりの会社の受取額(億円)。提携先の売値の約3〜4割を想定)→ 売上 245 億円・営業利益 159 億円。提携先での年間7千人×受取0.035億円。営業利益率65%
- ライセンス収入(OBP-601ほか):数量 1.0(ライセンス収入の束(1))× 価格 60(年間のライセンス収入(億円・名目))→ 売上 60 億円・営業利益 54 億円。マイルストーンとロイヤリティで年60億円。営業利益率90%
倍率:事業の純利益 123 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 27.4% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 14.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.2 倍。全体の PER 19.21 倍、時価総額 2,367 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:適応拡大と海外提携が二つ当たり、OBP-601は小さな成功にとどまる筋書き。承認で最大の不確実性が消えたぶん、13%に置いた。
中立 30% 中立:国内で小さく定着し、適応は一つだけ広がる 利益 33 億円 · PER 20.0 倍 · 株価時価総額 2,271 円665 億円
国内は年300人が使い、会社の取り分は約22億円になる。適応は頭頸部か大腸のどちらかが承認される。海外はアジアの数カ国で提携先がつくが、患者は年2,500人にとどまる。OBP-601は小さな節目の支払いが続く。
会社は10年目に小さく黒字になる。研究開発費は今より増え、利益の多くを自社の開発に回す。配当は出さない。
製造は第2工場が間に合い、供給は安定する。ただし競合する免疫薬との併用が定着し、テロメライシンは「特定の患者のための手段」の位置にとどまる。会社は堅実だが、成長株ではない。
10年後の時価総額は小さいが、会社として生き残り、次の薬を育てる体力は持つ。投資家にとっては、リスクが小さくなったかわりに、夢も小さくなった状態だ。
- テロメライシン(国内の食道がん):数量 300(年間の投与患者数(人))× 価格 0.07(1人(1クール3瓶)あたりの会社の取り分(億円)。薬価は約0.093億円で、卸・販売元の取り分を引いて約7割とみる)→ 売上 22 億円・営業利益 13 億円。国内は年300人×1人あたり0.072億円(薬価は据え置き気味で今の1.1倍)。営業利益率60%
- 海外と適応拡大(提携先経由):数量 2,500(提携先での年間の投与患者数(人))× 価格 0.03(1人あたりの会社の受取額(億円)。提携先の売値の約3〜4割を想定)→ 売上 75 億円・営業利益 49 億円。提携先での年間2,500人×受取0.03億円。営業利益率65%
- ライセンス収入(OBP-601ほか):数量 1.0(ライセンス収入の束(1))× 価格 25(年間のライセンス収入(億円・名目))→ 売上 25 億円・営業利益 23 億円。OBP-601などの節目の支払いで年25億円。営業利益率90%
倍率:事業の純利益 33 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 32.3% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 15.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.0 倍。全体の PER 19.98 倍、時価総額 665 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内で小さく黒字化し、適応が一つ広がり、海外はアジアの提携にとどまる筋書き。承認前の確率の中心から、薬価がついた分だけ上に直した30%。
やや悲観 30% やや悲観:国内は小さく、海外は小さな契約どまり 利益 2 億円 · PBR 2.1 倍 · 株価時価総額 287 円84 億円
国内の投与は年200人で止まる。全例調査では大きな副作用は出ないが、効き目の根拠が弱く、医師の使い方は慎重なままだ。海外は小さな契約が数件あるだけで、患者は年600人にとどまる。
OBP-601は第3相に進まないか、遅れる。会社は研究を絞るが、第2工場の費用と販売後の調査で、費用は思うほど減らない。
資金は2回の増資でつなぐ。増資は合わせて40億円ほどで、10年目にようやくとんとんになる。会社は残るが、投資家の取り分は薄まった状態だ。
10年後、テロメライシンは国内の小さな専門薬として使われ続ける。次の大きな薬は育たず、会社は提携先の動向を待つ立場に戻る。
- テロメライシン(国内の食道がん):数量 200(年間の投与患者数(人))× 価格 0.07(1人(1クール3瓶)あたりの会社の取り分(億円)。薬価は約0.093億円で、卸・販売元の取り分を引いて約7割とみる)→ 売上 14 億円・営業利益 7 億円。国内は年200人×1人あたり0.07億円。営業利益率50%
- 海外と適応拡大(提携先経由):数量 600(提携先での年間の投与患者数(人))× 価格 0.03(1人あたりの会社の受取額(億円)。提携先の売値の約3〜4割を想定)→ 売上 15 億円・営業利益 8 億円。提携先での年間600人×受取0.025億円。営業利益率55%
- ライセンス収入(OBP-601ほか):数量 1.0(ライセンス収入の束(1))× 価格 8.00(年間のライセンス収入(億円・名目))→ 売上 8 億円・営業利益 7 億円。小さな節目の支払いで年8億円。営業利益率90%
倍率:ROE が k を大きく下回り、稼ぐ力(純利益÷k)は小さい。価値は純現金と、売れる資産の税後(floor_assets_oku)に支えられる床で置いた。帳簿にない承認済みの権利を含むので、今の自己資本に対して2.1倍になる。市場の倍率からは置いていない。
確率:国内の普及が遅く、適応拡大が進まず、増資で延命する筋書き。根拠の試験が小さく、承認後の副作用の報告もまだないため、最大の山に近い30%に置いた。
悲観 22% 悲観:安全性の懸念と採用の伸び悩みで事業を縮める 利益 −11 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 68 円20 億円
市販後の調査で食道の穿孔などが目立ち、医師は使うのを控える。国内の投与は年80人まで落ち、提携先も契約を解く。OBP-601は提携先の資金が尽きて止まり、OBP-702とOBP-2011は開発を縮小する。
会社は開発人員を減らし、第2工場の計画を取りやめる。製造委託の最低購入が重荷になる。増資を3回重ねて延命するが、それでも赤字は消えない。
10年後に残るのは、現金と、承認済みの権利と、小さな販売事業だ。会社は存続するが、成長の物語はなくなった状態である。
株主にとっては、増資のたびに取り分が薄まった10年だ。残った価値は、現金と、承認を受けた権利の売却額が中心になる。
- テロメライシン(国内の食道がん):数量 80.0(年間の投与患者数(人))× 価格 0.06(1人(1クール3瓶)あたりの会社の取り分(億円)。薬価は約0.093億円で、卸・販売元の取り分を引いて約7割とみる)→ 売上 5 億円・営業利益 1 億円。国内は年80人×1人あたり0.06億円。営業利益率20%
- 海外と適応拡大(提携先経由):数量 100(提携先での年間の投与患者数(人))× 価格 0.02(1人あたりの会社の受取額(億円)。提携先の売値の約3〜4割を想定)→ 売上 2 億円・営業利益 1 億円。提携先での年間100人×受取0.02億円。営業利益率30%
- ライセンス収入(OBP-601ほか):数量 1.0(ライセンス収入の束(1))× 価格 3.00(年間のライセンス収入(億円・名目))→ 売上 3 億円・営業利益 3 億円。ほぼ収入なし。年3億円
倍率:稼ぐ力はなく、価値は純現金と売れる資産の税後に支えられる床で置く。床の倍率は今の自己資本に掛けた(積み上げた利益には掛けない)。市場の倍率からは置いていない。
確率:全例調査で副作用が問題になるか、医師が使わず、増資を重ねて事業を縮める筋書き。小さな根拠の試験と単一製品の会社で、売上が立たない筋は2割台と見て22%に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
テロメライシン(国内の食道がん)
手術も化学放射線療法もできない食道がんに、内視鏡で直接注入するがん治療ウイルス。2026年8月発売。
| 数量年間の投与患者数(人) | 価格1人(1クール3瓶)あたりの会社の取り分(億円)。薬価は約0.093億円で、卸・販売元の取り分を引いて約7割とみる | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 0.0 | 0.07 | 0 | 0 |
| 10 年後 中立 | 300 | 0.07 | 22 | 13 |
取り方:2025年12月期は未発売で0。会社が国に出した資料のピーク投与患者241人×薬価約0.093億円が約22億円。富士フイルム富山化学への手数料は未開示のため、会社の取り分を約7割と推定した。
海外と適応拡大(提携先経由)
胃・頭頸部・大腸などへの適応拡大と、アジア・英国・欧州での提携。会社の収入は提携先からのロイヤリティと製品供給。
| 数量提携先での年間の投与患者数(人) | 価格1人あたりの会社の受取額(億円)。提携先の売値の約3〜4割を想定 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 0.0 | 0.03 | 0 | 0 |
| 10 年後 中立 | 2,500 | 0.03 | 75 | 49 |
取り方:台湾のメディジェン社に権利を許諾済みだが、承認前で売上はない。10年先は提携先の患者数×受取額で置く。
ライセンス収入(OBP-601ほか)
米国トランスポゾン社に預けたOBP-601や、OBP-702・OBP-2011の提携から入る一時金・マイルストーン・ロイヤリティ。
| 数量ライセンス収入の束(1) | 価格年間のライセンス収入(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1.0 | 0.28 | 0 | −20 |
| 10 年後 中立 | 1.0 | 25 | 25 | 23 |
取り方:2025年12月期の売上は約0.28億円。全社の研究開発と管理の費用をここに置いた(営業利益は約-20億円)。
リスクと懸念
根拠の試験が小さい
承認の根拠は37例の非盲検・単群の第2相試験だ。主要な24週の完全奏効率は事前の基準に届かなかったと指摘される。延命を比べた試験はない。次の試験の規模は150〜200例を想定しているが、結果が出るまで数年かかり、悪ければ適応拡大の筋が閉じる。
副作用と全例調査
食道潰瘍・穿孔・縦隔炎、リンパ球の減少が注意点だ。承認後は全例調査が続く。ここで重い副作用が目立てば、使う医師が減り、国内のピーク売上の見立ては崩れる。患者が少ない薬では、数件の報告が採用に大きく響く。
取り分と原価が見えない
富士フイルム富山化学への手数料、製造原価、廃棄の割合は開示されていない。薬価は1クール約930万円でも、会社に入る額は不明だ。製造もベルギーの1社に頼る。供給が止まれば売上も止まる。
資金と株の希薄化
現金は2026年上期末で約32億円、営業の現金流出は半期で約10億円だ。製品の売上が費用を上回るまで、借入か増資が要る。過去20年で9期、株が増えた。2026年は新株予約権を使わない方針だが、資金が足りなければ変わりうる。
OBP-601の開発の難しさ
PSPの第2相では主要な臨床の指標で差が出なかったとの報告がある。提携先のトランスポゾン社は資金調達の途上だ。神経の病気の薬は失敗が多く、契約総額3億ドル超の大半は成功が条件で、確実な収入ではない。
薬価の引き下げ
薬価は今後の改定で下がりうる。ピーク売上の見立ては、薬価を今のまま据え置く前提だ。患者数が見立てを超えても、単価が下がれば売上は伸びない。後から出る競合の治療が薬価の交渉を厳しくする可能性もある。
今後の分かれ目
- 発売後の採用施設が、初期の約80から300施設超へ予定どおり広がる
- 国内の見立て(年300人前後)が確かになる。中立の確率を厚くする。ただし国内だけでは時価総額を支えられない。
- 2026年中に海外の提携先が決まり、契約一時金が入る
- 資金の不安は後退し、やや楽観の確率を上げてよい。ただし一時金は一度きりで、10年の利益の水準は患者数と受取額で決まる。
- 全例調査で、穿孔など重い副作用が複数報告される
- 国内の投与が急に細り、悲観の確率を上げる。増資の圧力も強まる。
- 胃・頭頸部の適応拡大の試験で、有望な奏効率が出る
- 海外提携と適応拡大が同時に進む筋が太くなり、楽観側の確率を上げる。
- OBP-601のPSP第3相が資金不足で始まらない・中止になる
- ライセンス収入の見立てが下がり、中立の利益が小さくなる。やや悲観の確率を上げる。
見ておくもの
- 発売後の採用施設数と全例調査の登録数、重い副作用の件数
- 海外提携の契約一時金とロイヤリティの率
- 四半期の現金と営業の現金流出(増資・借入の必要性)
- 胃・頭頸部の適応拡大試験と、OBP-702の膵がん試験の進み具合
倍率と資本コストの決め方
国内は会社が国に出した患者数(年241人)を出発点にし、取り分は薬価の約7割と置いた。海外と適応拡大は提携先の患者数と受取額で積み、倍率は式(正当化PER・RONIC)と事業の経済性だけで決めた。今の時価総額は見ていない。結果が今の値を大きく下回るのは、国内の稼ぎが小さく、残りは当たるかどうかの確率で決まるからだ。今の値がその数倍でも、数字を寄せていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 15.6→20.75 倍・やや楽観 PER 14.5→19.21 倍・中立 PER 13.2→19.98 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。