結論
富士製薬工業は、婦人科のホルモン剤に絞った専門薬メーカーだ。月経困難症のアリッサと更年期のエフメノが成長を引っ張り、バイオシミラー(先発のバイオ薬の後続品)と受託製造が脇を固める。
筆者の結論は、10 年の価値が今の時価総額をやや下回るというものだ。成長の勢いは本物だが、利益の出どころは女性医療の少数の製品に偏る。売上の半分は、値段を市場や顧客が決める後発品と受託製造だ。
女性医療の売上は、2025 年 9 月期の 224 億円から 2026 年 9 月期は 263 億円に伸びる見込みだ。アリッサは発売 2 年目で、月経困難症の新規患者への処方シェアが 15% に届いた。エフメノは更年期の黄体ホルモンで唯一の保険薬だが、競合の貼り薬が出荷を止めた追い風も混じる。
バイオシミラーは 20 億円から 45 億円に伸びる。ただしウステキヌマブには競合が 3 社入り、先行の利点は薄れる。開発と製造は Alvotech に頼り、その株では 35 億円の評価損が出た。
中立では売上が 10 年で 1.7 倍の約 900 億円、営業利益率は 11.7% になる。会社の中計は 2029 年に営業利益 100 億円だが、筆者は 5 年ほど遅れるとみる。資本コストは 8.0% で、中立の PER は 11 倍だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、この会社に求めるのは「主力 2 品の外側に何が残るか」への答えだ。アリッサとエフメノの利益が 10 年続くかどうかで、価値の大半が決まる。
よい点は、小さくて深い市場に専門性を築いていることだ。婦人科のホルモン剤は大手が手を出しにくく、医師との関係が参入障壁になる。経営も、利益が出れば素早く配当を上げており、資本の使い方に無理は見えない。
気になる点は 3 つある。1 つ目は、売上の半分が、値段を市場や顧客に決められる後発品と受託製造であること。2 つ目は、成長のために権利の取得や出資にお金を使い、その見返りが低かったこと(前の中計は営業利益率が 8〜10% 台で終わった)。3 つ目は、少数株主の立場が弱いことだ。
中立の ROE は 8% 近くで、資本コストとほぼ同じだ。稼いだお金を会社の中で回しても、株主の価値はほとんど増えない。利益がそのまま配られる会社か、高い ROE で再投資できる会社でなければ、割安は出にくい。筆者は、今の値段に安全域は見えないと判断する。
何で稼ぐ会社か
富士製薬工業は、婦人科のホルモン剤で育った医療用医薬品メーカーだ。1954 年に前身の商会が創業し、1965 年に株式会社になった。1974 年に婦人科向けのホルモン剤を出して以来、女性医療に絞ってきた。創業から約 45 年は後発品が中心で、2008 年に月経困難症薬ルナベルを出して新薬の会社に変わった。
会社の開示は医薬品の単一セグメントだが、売上は領域別に出ている。2025 年 9 月期の売上 517 億円の内訳は、女性医療 224 億円、バイオシミラー 20 億円、グローバル CMO(受託製造)83 億円、その他 190 億円だ。
女性医療は約 40 品目をそろえ、月経困難症、避妊、更年期、不妊と、女性のライフステージ全体を覆う。成長の中心は、2024 年 12 月に出したアリッサ配合錠と、更年期の黄体ホルモン剤エフメノカプセルだ。専任の MR(営業担当)は約 90 人で、エムスリーとのデジタル販促も使う。
バイオシミラーは、アイスランドの Alvotech と組んで国内で独占的に売る。ウステキヌマブ(乾癬など)を 2024 年に、アフリベルセプト(加齢黄斑変性)を 2026 年 1 月に出した。ゴリムマブとデノスマブも承認済みだ。
受託製造は、富山工場とタイ子会社の OLIC の 2 拠点で、ホルモン剤や注射剤を他社から請け負う。その他は、婦人科以外を含む後発品、注射剤、造影剤だ。連結の従業員は約 1,760 人で、このうち 791 人が OLIC にいる。
優良さと弱いところ
堀の中身は、婦人科という狭い領域での専門性と、製品の独自性だ。エフメノは更年期治療で唯一の保険適用の経口黄体ホルモンで、アリッサはエステトロールという天然型に近いエストロゲンを使う唯一の LEP(月経困難症に使う低用量ピル)だ。大手が手を出しにくい小さな市場で、産婦人科医との関係を育ててきた。
ただし堀は薄い。第一に、利益が 2 品に寄っている。会社は事業別の利益を開示しないが、女性医療が売上の 43% で、利益の大半はここから出るとみられる。第二に、エフメノの急伸には、競合の貼り薬メノエイドコンビパッチの出荷停止(2025 年 7 月から 2026 年 5 月)が混じる。第三に、バイオシミラーは Alvotech の開発と製造に頼る。
資本効率は平凡だ。ROE の過去 10 年の中央値は 7.5%、営業利益率は 8〜12% の幅に収まる。前の中計(2020〜24 年)の間も、売上は 340 億円から 460 億円に伸びたが、営業利益率は 9.3% から 8.4% に下がった。今回の中計が、その繰り返しにならないかが問われる。
財務は純有利子負債 190 億円、自己資本比率 50% で、借入とリースを合わせた総額は約 260 億円ある。株主は、有限会社 FJP や今井姓の個人、記念財団など、創業者に連なるとみられる先が 4 割近くを占める。意思決定は速いが、少数株主の発言力は弱い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の医療用医薬品は薬価(国が決める公定価格)で売られる。2021 年度からは、診療報酬改定のない年にも薬価を下げる中間年改定が入った。既存薬の値段は、毎年下がるのが前提だ。市場全体は 2024 年度に 11.5 兆円と過去最高だが、伸びを支えるのは高額な新薬で、古い薬や後発品ではない。
富士製薬の主戦場は、その中の小さな領域だ。月経困難症の治療薬は薬価ベースで約 730 億円で、治療を受ける人が欧米より少なく、拡大の余地があると会社はみる。経済産業省は、月経に関わる経済損失を約 6,000 億円、更年期に関わる損失を約 1 兆 9,000 億円と試算している。LEP の競合は、バイエルのヤーズ(後発はドロエチ)、あすか製薬が売るジェミーナ、ルナベルとその後発だ。
バイオシミラーは国の政策に乗る。厚生労働省は、置き換え率が 80% を超える成分を、2029 年度末までに全体の 6 割にする目標を掲げる。国内市場は 2030 年ごろに 1,200 億円を超えるとの予測がある。ただし先行品の値段が下がれば、後続品の値段も追って下がる。ウステキヌマブには陽進堂、セルトリオン、ニプロ(サムスンバイオエピスの製品)が後から入り、4 社の競争になった。
分かれ目は 3 つある。アリッサが LEP の中で新規患者の 1 割台のシェアを保てるか。エフメノが競合の復帰後も伸びるか。バイオシミラーで先行して出し続けられるか。
資本政策と M&A
配当は、税引後の営業利益の 3 割を目安にする累進配当(減配しない方針)だ。1 株の配当は、2020 年 9 月期から 2026 年 9 月期の予想までに約 1.7 倍に増えた。自社株買いは、2021 年に 650 万株を消却して以降、目立ったものはない。株主優待はない。
資金は成長投資に回している。前の中計では約 493 億円を権利の取得や新薬開発に投じ、今回の中計でその回収を目指す。2018〜19 年にはバイオシミラーの提携先 Alvotech に 5,000 万ドルを出資し、その株が下がって 2026 年 9 月期に 35 億円の評価損が出た。提携は事業の柱だが、出資は結果として高くついた。
株の発行も続いた。2024 年 7 月に野村證券へ新株予約権を発行し、2026 年 3 月に第 2 回が全部行使されて 33 億円が入った。発行済株式は 2,489 万株から 2,654 万株に増えた。第 3 回(75 万株)は 2027 年 8 月まで残るが、行使価額が今の株価より約 4 割高いため、今のままでは行使されない。
創業者に連なるとみられる株主が 4 割近くを持ち、買収される可能性は低い。M&A は大型の買収より、提携とライセンスの導入が中心だ。2026 年 2 月にはハンガリーの Gedeon Richter と、婦人科領域の協業を始めた。
10 年の還元は、方針どおり税引後の営業利益の 3 割を配当にする想定で、中立の累計は約 174 億円(純利益の 34%)とした。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
女性医療は会社の想定を超えて伸びている。アリッサは発売 2 年目で、新規患者の処方シェアが 15% に届き、2025 年 12 月に処方制限が外れて採用が加速した。エフメノは、2026 年 9 月期の上期に 69% 伸びた。治療を受ける女性が欧米より少ない日本では、啓発が進むだけで患者が増える。
バイオシミラーは、最初に出した会社が採用を取る。ウステキヌマブ BS は採用口座シェアが 96% で、アフリベルセプト、ゴリムマブ、デノスマブも先行で出せる。国は置き換えを後押ししており、市場は 2030 年に 1,200 億円を超える。
受託製造には余力があり、追加の投資なしで案件を積める。工場が埋まれば利益率が上がる。営業利益率は、2026 年 9 月期の上期ですでに 14.8% だった。通期予想を 2026 年 2 月に上方修正した会社が、2029 年の 12.5% を超えても不思議はない。
財務も整っている。新株予約権の行使で 33 億円が入り、純有利子負債は 160 億円ほどに下がった。配当は増え続け、新薬と提携に投じる余力もある。
慎重な見方
女性医療の勢いには、一時的な要因が混じっている。エフメノの急伸には、競合の貼り薬メノエイドコンビパッチの出荷停止という追い風があった。同品は 2026 年 5 月に解除されている。アリッサは、既存の競合(ヤーズ、ジェミーナ、ルナベルの後発)が埋める LEP 市場に入った新薬だ。血栓症のリスクが低いという会社の説明を、審査側は慎重に見ていた。
バイオシミラーは、先に出す強みが長続きしない。ウステキヌマブにはすでに競合が 3 社入り、薬価も下がる。供給は Alvotech 頼みで、その株は評価損が出るほど値下がりした。製造や承認で問題が出れば、販売も止まる。
中計の達成は疑わしい。前の中計の間、営業利益率は 9% 前後のままだった。2029 年に売上 800 億円という計画は、年 12% の成長が 5 年続く前提で、その多くは新製品の当たりに頼る。
売上の半分は後発品と受託製造で、利益率が低い。固定費(研究開発と本社費)は物価で増える。創業者に連なるとみられる株主が 4 割近くを持ち、少数株主が計画の遅れを正す力は弱い。
どちらに重みを置いたか
女性医療の成長は、強気の見方が正しい。ただし、利益が主力 2 品に偏ること、売上の半分が値段を決められない事業であること、前の中計が利益率を動かせなかったことは、慎重な見方の指摘が重い。中立は、売上は伸びるが営業利益率は 12% に届かない形に置いた。ROE が資本コストの 8.0% と並ぶため、PER は 11 倍に留まる。確率は、強気側を 3 割強、慎重側を 3 割半ばに置いた。どちらかに大きく寄せるほどの決め手は無い。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/09 期)
確率で加重した株価時価総額 3,055 円798 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 652 円170 億円)。 今の値に割り戻すと 1,859 円485 億円、今との差 −0.2%、 期待の年率 +7.1%(資本コスト 8.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 6,752 円1,764 億円 | 953 円249 億円 | +313.6% | +15.3% | 770 円201 億円 |
| やや楽観 | 22% | 4,947 円1,292 億円 | 808 円211 億円 | +208.9% | +11.9% | 1,266 円331 億円 |
| 中立 | 33% | 3,206 円838 億円 | 666 円174 億円 | +107.9% | +7.6% | 1,278 円334 億円 |
| やや悲観 | 23% | 726 円190 億円 | 490 円128 億円 | −34.7% | −4.2% | 280 円73 億円 |
| 悲観 | 12% | 555 円145 億円 | 383 円100 億円 | −49.7% | −6.6% | 113 円29 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,055 円798 億円 | 652 円170 億円 | +99.0% | +7.1% | 3,707 円968 億円 |
今の株価時価総額 1,863 円487 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 女性医療と BS が計画どおりに育ち、利益率が 15% を超える 利益 119 億円 · PER 14.8 倍 · 株価時価総額 6,752 円1,764 億円
女性医療が会社計画を上回る。アリッサは子宮内膜症の適応も加わって 150 億円規模に育ち、エフメノは更年期治療の普及で伸び続ける。タイの OLIC を足場にした ASEAN 向けの販売も立ち上がる。
バイオシミラーは先に出した強みを生かす。ウステキヌマブの競合が増えても、アフリベルセプト、ゴリムマブ、デノスマブを先行で出して採用を取り、売上は 200 億円を超える。受託製造は余力を埋めて稼働が上がり、利益率が上がる。
営業利益率は 15% を超え、前の中計の 8〜10% 台から一段上の会社になる。利益を厚く残して自己資本も増えるが、稼ぐ力が上回って ROE は 11% 台に上がる。ハンガリーの Gedeon Richter との共同開発が実を結べば、婦人科の新薬をもう一つ持つ。
- 女性医療:数量 252(処方を受けた女性患者の延べ人数(万人・年。推定))× 価格 2.27(1 人・1 年あたりの売上(万円、名目))→ 売上 573 億円・営業利益 178 億円。アリッサ・エフメノが計画を上回り、患者数は 2.1 倍
- バイオシミラー:数量 4.9(処方を受けた患者の延べ人数(万人・年。推定))× 価格 45(1 人・1 年あたりの売上(万円、名目))→ 売上 221 億円・営業利益 38 億円。競合に先行して採用を取り患者数 10 倍
- グローバル CMO(受託製造):数量 1,250(受託した製剤の生産数量(百万包装・年。推定))× 価格 11(1 包装あたりの受託料(円、名目))→ 売上 140 億円・営業利益 14 億円。稼働が上がり利益率も改善
- 後発品・造影剤ほか:数量 1,260(出荷数量(百万包装・年。推定))× 価格 15(1 包装あたりの売値(円、名目))→ 売上 190 億円・営業利益 11 億円。新規の後発品が薬価の下げを埋める
倍率:事業の純利益 119 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.6% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.8 倍。全体の PER 14.77 倍、時価総額 1,764 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:アリッサの適応拡大、バイオシミラーの先行優位、受託の稼働上昇がそろって当たる必要がある。前の中計は利益率がほとんど改善せずに終わっており、すべてが当たる確率は低く見て 1 割に置いた。
やや楽観 22% 計画に 1〜2 年遅れで届き、営業利益率が 14% 近くへ 利益 93 億円 · PER 13.9 倍 · 株価時価総額 4,947 円1,292 億円
女性医療が計画に 1〜2 年遅れで届く。アリッサは 2029 年から 2030 年にかけて 100 億円規模になり、エフメノも伸びる。国内の薬価は下がるが、新薬の構成比が上がって平均の単価を支える。
バイオシミラーは 150 億円台に育つ。ウステキヌマブのシェアは競合の参入で下がるが、アフリベルセプトなどの新製品が埋める。受託製造は国内受託の増加で安定して伸びる。
営業利益率は 14% 近くまで上がり、会社の中計(12.5%)を超えるところまで届く。配当は税引後営業利益の 3 割という方針どおり増えていき、自己資本も着実に積み上がる。ROE は 10% 近くまで上がる。
- 女性医療:数量 234(処方を受けた女性患者の延べ人数(万人・年。推定))× 価格 2.24(1 人・1 年あたりの売上(万円、名目))→ 売上 524 億円・営業利益 154 億円。計画に遅れて届く。患者数 1.95 倍
- バイオシミラー:数量 3.8(処方を受けた患者の延べ人数(万人・年。推定))× 価格 45(1 人・1 年あたりの売上(万円、名目))→ 売上 172 億円・営業利益 24 億円。患者数 7.8 倍
- グローバル CMO(受託製造):数量 1,200(受託した製剤の生産数量(百万包装・年。推定))× 価格 11(1 包装あたりの受託料(円、名目))→ 売上 132 億円・営業利益 12 億円。国内受託が伸びる
- 後発品・造影剤ほか:数量 1,200(出荷数量(百万包装・年。推定))× 価格 15(1 包装あたりの売値(円、名目))→ 売上 179 億円・営業利益 10 億円。数量横ばい、単価は下がる
倍率:事業の純利益 93 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.9% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.8 倍。全体の PER 13.85 倍、時価総額 1,292 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:直近の勢い(2026 年 9 月期の上方修正、アリッサの処方制限解除)の延長で、計画に少し遅れて届く筋書き。強気側の中心として 2 割強に置いた。
中立 33% 女性医療は伸びるが、バイオシミラーと利益率は計画に届かない 利益 67 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 3,206 円838 億円
女性医療は伸びるが、会社計画の勢いには届かない。アリッサは 100 億円に近づくものの、競合の LEP(低用量ピルの治療薬)と後発品に新規患者を分けられる。エフメノは競合の貼り薬が戻って伸びが落ち着く。
バイオシミラーは 125 億円前後に育つ。ウステキヌマブの先行優位は競合 3 社の参入で薄れ、薬価改定も効く。会社が描く 2029 年の 150 億円は届かない。受託製造は余力を埋めて緩やかに伸びる。後発品は薬価の下げを新規品で埋めて、売上はほぼ横ばいに近い。
営業利益率は 11.7% で、過去の山(2017 年の 12.2%)をわずかに下回る。会社が 2029 年に置いた 12.5% には届かない。配当は方針どおり増え、ROE は 8% 近くに収まる。売上は 10 年で 1.7 倍、営業利益は 2 倍になる。
- 女性医療:数量 216(処方を受けた女性患者の延べ人数(万人・年。推定))× 価格 2.18(1 人・1 年あたりの売上(万円、名目))→ 売上 471 億円・営業利益 127 億円。患者数 1.8 倍、価格は薬価の下げを新薬の構成比が一部戻す
- バイオシミラー:数量 2.8(処方を受けた患者の延べ人数(万人・年。推定))× 価格 44(1 人・1 年あたりの売上(万円、名目))→ 売上 126 億円・営業利益 14 億円。患者数 5.8 倍。1 人あたりは高い抗体薬への移行で上がる
- グローバル CMO(受託製造):数量 1,150(受託した製剤の生産数量(百万包装・年。推定))× 価格 11(1 包装あたりの受託料(円、名目))→ 売上 125 億円・営業利益 10 億円。余力を埋めて緩やかに伸びる
- 後発品・造影剤ほか:数量 1,200(出荷数量(百万包装・年。推定))× 価格 15(1 包装あたりの売値(円、名目))→ 売上 175 億円・営業利益 9 億円。数量横ばい、単価は薬価の下げで目減り
倍率:事業の純利益 67 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.9% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 838 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:女性医療の成長は続くが、バイオシミラーの競争と薬価の下げで利益率が計画に届かない、いちばんありそうな筋書き。
やや悲観 23% 主力 2 品が頭打ちになり、固定費だけが重くなる 利益 27 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 726 円190 億円
女性医療の成長が鈍る。エフメノは競合が戻って頭打ちになり、アリッサは後発の LEP や新しい競合に新規患者を奪われる。国内の薬価は毎年下がり、人件費と原材料は物価で上がるため、利益率が圧迫される。
バイオシミラーは思ったほど伸びない。ウステキヌマブは競合 3 社との価格競争になり、アフリベルセプトも後発に近い立場で採用が進まない。Alvotech の製造に問題が出れば、供給も遅れる。
営業利益率は 7% 台まで下がる。固定費(研究開発と本社費)は物価で増えるのに売上が伸びず、利益が削られる。配当は方針の下限(累進配当)で保つが、自己資本は思ったほど増えず、ROE は 4% 近くに留まる。
- 女性医療:数量 174(処方を受けた女性患者の延べ人数(万人・年。推定))× 価格 2.01(1 人・1 年あたりの売上(万円、名目))→ 売上 350 億円・営業利益 81 億円。患者数 1.45 倍、競合で伸びが鈍る
- バイオシミラー:数量 1.9(処方を受けた患者の延べ人数(万人・年。推定))× 価格 40(1 人・1 年あたりの売上(万円、名目))→ 売上 77 億円・営業利益 5 億円。価格競争で患者数 3.9 倍に留まる
- グローバル CMO(受託製造):数量 1,050(受託した製剤の生産数量(百万包装・年。推定))× 価格 10(1 包装あたりの受託料(円、名目))→ 売上 105 億円・営業利益 7 億円。数量はほぼ横ばい
- 後発品・造影剤ほか:数量 1,140(出荷数量(百万包装・年。推定))× 価格 13(1 包装あたりの売値(円、名目))→ 売上 153 億円・営業利益 6 億円。採算の悪い品目の撤退で数量が減る
倍率:ROE 3.9%。RONIC = k 8.0% + 残る割合 1/2 ×(3.9 − 8.0)= 6.0%、長期の成長率 g 4.0% から正当化 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g) = 8.2 倍。ROE が k を大きく下回り、ためた利益が目減りする筋書き。上限の 8.5 割の 7.0 倍に置いた。
確率:利益が主力 2 品に偏り、そのどちらかの上振れ(競合の供給停止)が一時的だった場合に起きる。慎重な見方が突く点が多く、強気側と同じ厚みで置いた。
悲観 12% 主力 2 品と BS が同時に崩れ、赤字の専門薬メーカーになる 利益 −10 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 555 円145 億円
主力 2 品が同時に崩れる。アリッサは安全性の議論や後発の LEP の登場で伸びず、エフメノは新しい黄体ホルモン剤や後発品の参入で独占が終わる。女性医療の売上は 10 年たっても今の水準を割る。
バイオシミラーは Alvotech の製造・規制の問題で供給が不安定になり、競合に採用を奪われる。出資した Alvotech 株の評価損はさらに膨らみ、販売権の減損も出る。
固定費(研究開発と本社費)は絞っても物価で重く、営業利益は赤字に沈む。10 年の純利益の合計は前半の利益が残って約 130 億円あり、配当約 100 億円はその範囲で払う。減損で自己資本は 50 億円ほど減る。富山工場とタイ OLIC の受託製造は残るが、もはや成長する専門薬メーカーとは言えない。
- 女性医療:数量 120(処方を受けた女性患者の延べ人数(万人・年。推定))× 価格 1.77(1 人・1 年あたりの売上(万円、名目))→ 売上 213 億円・営業利益 28 億円。患者数は横ばい、価格は薬価の下げで目減り
- バイオシミラー:数量 0.9(処方を受けた患者の延べ人数(万人・年。推定))× 価格 36(1 人・1 年あたりの売上(万円、名目))→ 売上 32 億円・営業利益 −3 億円。供給問題と競合で患者数 1.8 倍、赤字
- グローバル CMO(受託製造):数量 900(受託した製剤の生産数量(百万包装・年。推定))× 価格 9.17(1 包装あたりの受託料(円、名目))→ 売上 83 億円・営業利益 4 億円。顧客の撤退で数量が減る
- 後発品・造影剤ほか:数量 1,020(出荷数量(百万包装・年。推定))× 価格 13(1 包装あたりの売値(円、名目))→ 売上 129 億円・営業利益 3 億円。整理が進み、採算がほぼ消える
倍率:純利益は赤字で、稼ぐ力では値が付かない。売れる資産から純有利子負債を引いた約 145 億円(2025/09 末の自己資本 469 億円の約 3 割)に置いた。
確率:アリッサの安全性・競争、エフメノの独占の崩れ、Alvotech 依存の供給問題が重なる構造的な負け筋。主力が少なく単一の領域に集中する会社として、業種ノートの上限 13% に近い 12% を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
女性医療
婦人科のホルモン剤を中心とする約 40 品目。月経困難症のアリッサ、更年期のエフメノ、不妊・避妊の薬が主力。
| 数量処方を受けた女性患者の延べ人数(万人・年。推定) | 価格1 人・1 年あたりの売上(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 120 | 1.86 | 224 | 69 |
| 10 年後 中立 | 216 | 2.18 | 471 | 127 |
取り方:2025/09 期の女性医療 223.7 億円(FISCO のレポート)を、患者数 × 1 人あたり売上に分けた。月経困難症の治療薬市場は薬価ベースで 730 億円(会社資料)で、1 人あたり年 3 万円弱なら患者は 250 万人前後。このうち富士製薬の薬を受ける人を 3 割強と置き、更年期(HRT)と不妊の患者を足して延べ約 120 万人と推定した(実物の人数)。1 人あたり約 1.9 万円(名目)。10 年の患者数は、アリッサの浸透(新規患者の処方シェア 15%、ピークは別に 2029 年に 100 億円規模)、更年期治療の普及(日本は治療率が欧米より低い)、タイ・ASEAN への展開で、中立 1.8 倍。人口減は効くが、治療を受ける人の割合の上昇が上回る。価格は、既存の保険薬が毎年の薬価改定で年 1.5% ずつ下がり(10 年 0.86 倍)、新薬のアリッサ・エフメノの構成比が上がって平均を押し上げ、中立で 1.17 倍(物価の 1.34 倍より低い)。競合はバイエルのヤーズ、あすか製薬・ノーベルファーマのジェミーナ、久光製薬のエストラーナなど。
バイオシミラー
アイスランドの Alvotech と組んで国内で売る先発バイオ薬の後続品。フィルグラスチム、ウステキヌマブ、アフリベルセプトなど。
| 数量処方を受けた患者の延べ人数(万人・年。推定) | 価格1 人・1 年あたりの売上(万円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 0.5 | 40 | 20 | −1 |
| 10 年後 中立 | 2.8 | 44 | 126 | 14 |
取り方:2025/09 期のバイオシミラー 19.7 億円(FISCO のレポート)を、患者数 × 1 人あたり売上に分けた。2025/09 期は売上の大半が発売 13 年目のフィルグラスチムで、1 人あたりは安い。患者は延べ約 4,900 人と推定(実物)、1 人あたり約 40 万円。10 年の患者数は、ウステキヌマブ(2024 年発売)、アフリベルセプト(2026 年 1 月発売)、ゴリムマブとデノスマブ(承認済み・上市準備)が加わり、厚労省の置き換え目標(2029 年度末に置き換え率 80% 超の成分を 6 割)が追い風になって、中立 5.8 倍。会社の中計(2029 年に 150 億円)には届かない。価格は、売る薬が安いフィルグラスチムから高い抗体薬に移って 1 人あたりが上がる一方、薬価改定と後続品どうしの競争で下がり、中立 1.10 倍。競合はウステキヌマブの陽進堂、ニプロ(サムスンバイオエピス)、セルトリオンなど。
グローバル CMO(受託製造)
富山工場とタイの OLIC で他社の薬を作る受託製造。ホルモン剤と注射剤に強い。
| 数量受託した製剤の生産数量(百万包装・年。推定) | 価格1 包装あたりの受託料(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 1,000 | 8.34 | 83 | 7 |
| 10 年後 中立 | 1,150 | 11 | 125 | 10 |
取り方:2025/09 期のグローバル CMO 83.4 億円(FISCO のレポート)を、生産数量 × 1 包装あたりの受託料に分けた。数量は約 10 億包装、受託料は 1 包装あたり 8.34(price の欄)と推定(開示は無く、売上と富山工場・OLIC の生産規模からの置き方)。10 年の数量は、国内受託(上期 +30%)の拡大、バイオシミラーの充填など高付加価値品の受託、現在の生産能力に余力があることから中立 1.15 倍。受託料は原価の上昇を一部しか顧客に転嫁できず、中立 1.30 倍(物価の 1.34 倍よりやや低い)。会社の予想は 2026 年 9 月期が 85 億円で、中計は 2029 年に 90 億円。競合は国内外の受託製造会社。
後発品・造影剤ほか
婦人科以外を含む後発品、注射剤、診断用の造影剤など。会社の開示では「その他」。
| 数量出荷数量(百万包装・年。推定) | 価格1 包装あたりの売値(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 1,200 | 16 | 190 | 11 |
| 10 年後 中立 | 1,200 | 15 | 175 | 9 |
取り方:2025/09 期の「その他」189.9 億円(FISCO のレポート。後発品・注射剤・造影剤など)を、出荷数量 × 1 包装あたりの売値に分けた。数量は約 12 億包装、売値は 1 包装あたり 15.83(price の欄)と推定(開示は無く、売上と製品の価格帯からの置き方)。10 年の数量は、新しい後発品の承認(経口造血刺激剤、抗造血器悪性腫瘍剤など)と、採算の悪い品目の整理が釣り合って中立 1.0 倍。価格は、後発品の薬価が年 1.5% ほど下がる(10 年 0.86 倍)が、供給不安を背景にした下限価格の引き上げが一部を戻し、中立 0.92 倍。会社の予想は 2026 年 9 月期が 199.9 億円。競合は後発品の大手と中堅。
リスクと懸念
利益が主力 2 品に偏る
利益の大半は、アリッサとエフメノを含む女性医療から出るとみられる。どちらかが競合や安全性の問題でつまずくと、会社全体の利益が直接動く。大手のように多数の製品で平均化ができない。
エフメノの追い風は一時的
2026 年 9 月期の急伸には、競合の貼り薬メノエイドコンビパッチの出荷停止が混じる。同品は 2026 年 5 月に解除された。需要が元の水準に戻れば、女性医療の伸びは会社の予想を下回りうる。
バイオシミラーの競争と Alvotech 依存
ウステキヌマブは競合が 3 社入り、薬価も下がる。開発と製造は Alvotech に頼るため、同社の製造や規制の問題がそのまま販売に響く。富士製薬が出資した Alvotech 株は、35 億円の評価損が出た。
計画の未達と投資の回収
前の中計(2020〜24 年)では約 493 億円を成長投資に使ったが、営業利益率は 8〜10% 台のままだった。今回の中計も、アリッサとバイオシミラーの当たりに大きく頼る。回収が遅れれば、減損と評価損が出る。
薬価の毎年改定と固定費の上昇
既存薬の薬価は毎年下がる。一方で人件費・原材料・研究開発費は物価で上がる。売上の伸びが薬価の下げを上回り続けなければ、営業利益率は上がらずに下がる。
少数株主の立場
創業者に連なるとみられる株主が、4 割近くを持つ。意思決定は速いが、少数株主が経営に注文をつける力は弱い。資本の使い方(出資、権利の取得、株の発行)が、少数株主に不利に働く可能性がある。
借入とリースの重さ
借入・社債・リースの総額は約 260 億円で、純有利子負債は 190 億円だ。新株予約権の行使で下がったが、金利が上がる世界では利払いが重くなる。設備投資と権利の取得が続けば、返済は進みにくい。
今後の分かれ目
- アリッサの新規患者への処方シェアが、15% から 20% 台に上がる
- 女性医療の成長が計画に近づき、強気側の筋書きに寄る。
- エフメノの売上が、競合の貼り薬が戻っても落ちない
- 追い風ではなく、治療の普及で伸びていると確認でき、中立から強気側に寄る。
- ウステキヌマブ BS の売上が、競合の増加で落ちる
- バイオシミラーの先行優位が薄れ、2029 年の 150 億円は遠のく。慎重側の筋書きに寄る。
- Alvotech の製造・規制の問題で、アフリベルセプトなどの供給が止まる
- 販売が止まるうえ、出資と販売権の減損が出る。悲観側の筋書きに寄る。
- 2027 年 9 月期の営業利益が、市場予想の 73 億円前後に届く
- 中計の道筋が確認でき、中立から強気側の確率を上げる。
- 株価が今より 4 割ほど上がり、第 3 回の新株予約権が行使される
- 20 億円が入り、株数は 3% ほど増える。希薄化は小さい。
見ておくもの
- アリッサとエフメノの四半期売上と、アリッサの新規患者への処方シェア
- バイオシミラー事業の売上と、ウステキヌマブの競合 3 社の動き
- Alvotech の製造・規制の状況と、富士製薬の保有する株の評価
- 営業利益率(2029 年に 12.5% の中計目標)と、研究開発費の増減
- 配当(税引後の営業利益の 3 割)の増配ペースと、純有利子負債の推移
- Gedeon Richter との協業の進み具合と、子宮内膜症の治験(アリッサ)の結果
倍率と資本コストの決め方
4 つの事業を「患者数(または出荷数量)× 1 人・1 包装あたりの売上(名目)」で積み、数量は人数と包装の数に置いた。価格は薬価の下げと新薬の構成比の上昇を入れ、10 年で女性医療 1.17 倍・バイオシミラー 1.10 倍・後発品 0.92 倍と物価(1.34 倍)より低く置いた。資本コストは基本 7.5% に quality +0.5%(循環 −0.5・値決め +0.5・借金 0・寿命 +0.5)を足した 8.0%。倍率は正当化 PER の上限の 7〜9 割に置き、中立は ROE が k をわずかに下回るので上限は 1÷k の 12.5 倍。悲観は売れる資産から純有利子負債を引いた額から置き、過去の PBR の底は使っていない。今の PER・PBR からは出発していない。数字はリースを営業費用に入れた今の形でそろえた。新リース会計基準で 2028/09 期から BS の形は変わるが、価値の形は変わらない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.3→14.77 倍・やや楽観 PER 11.7→13.85 倍・中立 PER 11→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。