結論
サワイグループホールディングスは、国内の後発医薬品(ジェネリック)で首位を争う会社だ。沢井製薬を中心に、国内の処方の約 2 割弱を担う。筆者の結論は、今の値段はやや高い、である。数量は伸びるが、儲けの大半を薬価の引き下げが持っていくからだ。
稼ぎの形は単純だ。薬は国が決めた価格で売る。後発品の数量シェアはすでに 9 割で、これ以上は増えない。残る伸びしろは、高齢化による処方の自然増と、シェアの奪い合いだけだ。会社は生産能力を 185 億錠から 220 億錠、さらに 250 億錠へ増やし、取れるだけ取りにいく。
一方で価格は毎年下がる。人件費や原材料は物価で上がる。この挟み撃ちが、資本の稼ぎを資本コストの手前に押しとどめている。直近の利益率は 8% 弱で、今期の計画は 13% だ。計画どおり戻れば悪くないが、これは 10 年続く保証のある水準ではない。
安全面の傷も残る。2023 年に九州工場で試験不正が明るみに出た。2025 年 3 月期には損害賠償で 170 億円弱の引当金を積んだ。品質と訴訟は、この会社の利益を一度で数割動かせる。
それでも事業は消えない。供給不安の続く市場で、増産できる会社は強い。日医工との品目の分担が進めば、少量多品目という業界の宿痾が和らぐ。楽観の筋書きは、そこから生まれる。ただし 10 年後の価値は、確率を寄せた加重で今の時価総額を 2 割弱下回る。おおむね「やや割高」だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「長く持ちたい事業」とは言いにくい。需要は安定している。だが、儲けを決めるのは国で、会社ではない。
持ち続けたいと思うのは、値決めの力を持つ会社だ。後発品は、その逆に近い。国の薬価が毎年下がり、各社が同じ成分を売る。価格が選べない事業は、費用の上昇を転嫁できない。だから稼ぐ力が、資本コストの手前で止まりやすい。
それでも、強みはある。供給不足の時代に、増産できる体力だ。数量が伸び、シェアが 2 割を超え、工場が埋まれば、固定費が薄まって利益率は上がる。その場合、10 年後の ROE は資本コストを超えるかもしれない。
もう一つ見るのは、経営の誠実さだ。試験不正は、数字には出にくい事故だった。再発防止に時間と金を使い続ける姿勢が、最終的な信用になる。
結論として、筆者は 10 年後の価値を、今の時価総額よりやや低いと見る。今の PER は 10 倍で、安く見える。しかし利益が計画どおり戻る前提の数字だ。安全域は、まだ十分には厚くない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎのほぼ全部が国内の後発医薬品だ。高血圧、糖尿病、脂質異常など、飲み続ける薬が中心になる。特許が切れた先発薬と同じ成分を、国が決めた安い薬価で売る。病院や薬局には卸を通して届く。
売上は「何錠売れたか」と「1 錠いくらか」の掛け算で決まる。2026 年 3 月期の販売は約 171 億錠だった。1 錠あたりの売上は、薬価の改定のたびに削られる。この単価は毎年の薬価改定で削られ、新製品と、選定療養(先発品を選ぶ患者に差額の一部を負担させる制度)による切り替えで補われる。
この会社の特徴は、数量で勝負する姿勢にある。中期経営計画「Beyond 2027」は、2026 年度にシェア 20.5%、生産能力 220 億錠を掲げる。2030 年度は 250 億錠だ。足りない供給を埋めるため、第二九州工場に新しい固形剤棟を建て、小林化工の設備を引き継いだトラストファーマテックも抱える。同社は 2027 年 4 月に沢井製薬へ合併される。
かつては米国にも出た。2017 年に約 1,155 億円で現地の後発薬会社を買ったが、思うように稼げず、2024 年に台湾の会社へ売り原則撤退した。今は国内に絞っている。
新規事業も育てている。片頭痛の治療機器や、脂肪肝向けの治療アプリだ。2030 年度に売上 100 億円を見込むが、全体の 3% 台にとどまる。当面は後発品の数量と原価で決まる会社だと考えるのがよい。
優良さと弱いところ
優良とは言いにくい。事業は安定しているが、儲けは薄い。国が価格を決める産業で、強い堀(他社がまねできない強み)を築くのは難しい。
強みは三つある。一つは規模だ。国内で最大級の販売量があり、原料の調達と工場の稼働で有利に立てる。二つめは品ぞろえの広さだ。病院や薬局は、多くの薬を一社でそろえたがる。三つめは、増産に踏み出す体力だ。業界が供給不足に苦しむ中で、新棟を次々に建てられる会社は多くない。
弱みは、価格を自分で決められないことだ。薬価は毎年下がる。同じ成分の薬を各社が売るので、差別化の余地も小さい。人件費と原材料は物価で上がる。この差を、規模と効率でしか埋められない。直近 5 年の ROE(自己資本利益率)は 6% 前後にとどまる。
品質の面でも傷がある。2023 年に判明した試験不正は、2015 年以降の長い期間にわたった。生産数量が計画の 9 割にとどまる年もあった。信頼性の仕組みへ人と金を投じ続けるので、コストは重くなる。
筆者は、競争力そのものより、現場の運用の丁寧さが試されている会社だと見る。ここを乗り越えれば、規模の利益が数字に出る。逆に再発すれば、築いた信用は一気に失われる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
後発品の市場は、成熟した規制産業だ。数量シェアは約 9 割に達し、政府が目標に掲げた水準に届いた。政府の目標は、2029 年度末までに全都道府県で数量シェア 80% 以上だ。つまり、数量で見た伸びしろはほぼ使い切られている。
伸びるのは、高齢化による処方の自然増だ。会社は 2030 年度まで年に約 7 億錠ずつ増えるとみる。新しく特許が切れる薬の置き換えも続く。ただし価格は逆だ。毎年の薬価改定で単価は下がり続ける。業界の売上は、数量の増加と価格の下げが打ち消し合って、横ばいから微増になる。
競争の形は、分散から集約へ向かっている。品質不正で業務停止に追い込まれた会社が相次ぎ、小林化工や日医工が傷んだ。供給不足は 2020 年代前半から続き、増産できる会社に需要が集まる。2025 年 9 月には、沢井製薬と日医工が製造所の集約と品目の統合で協業すると発表した。30 品目から協議を始める。少量多品目の無駄を減らす動きだ。
競合は東和薬品、日医工、先発メーカー系の後発部門などだ。ここで勝つ条件は、安く安定して作ること、品質の問題を起こさないこと、そして薬価の下げを上回る原価の低減を続けることだ。
循環は小さい。景気で処方は減らないからだ。大きく動くのは、薬価の改定、品質問題、そして原価の三つだ。
資本政策と M&A
資本の使い方は、数量の拡大に寄っている。3 年で約 1,900 億円の原資を、増産と研究開発、品質の仕組みに回す計画だ。そのうえで還元に約 520 億円を割く。
自社株買いは、2024 年度に約 330 億円を実施した。約 1,600 万株、発行済みの 1 割強を取得し、2025 年 4 月に消却した。配当は DOE(自己資本に対する配当の割合)3% 以上を目安にする。
ただし資本効率は目標に届かない。2024 年度の ROE は 6.2% だった。借金は純額で 760 億円ほどあり、増産投資が続く間は膨らみやすい。買った自社株の元手も、実は借金だ。
M&A の面では、米国の失敗が教訓になっている。国内では、日医工との協業のように、買収でなく分担で効率を上げる路線を取る。再編が進めば、同業の吸収や TOB(株式公開買い付け)の話も出てくるだろう。ただし、そうした動きは確かめられていない。
筆者が見るのは、買い戻しの値段だ。割高な水準で自社株を買えば、価値を壊す。資本の使い方の巧拙は、そこに出る。
点検済み:中立の営業利益率12.5%が過去最高(10.5%)を超え、同じ文章が会社の中期計画の達成を疑っていたため、11%に置き直した(会社の今期予想13%より低い)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
数量は必ず伸びる。処方の自然増に加え、供給不足の中で増産できる会社に注文が集まる。会社は 2026 年度に 190 億錠、2030 年度に 240 億錠の販売を掲げる。第二九州工場の新棟は 2026 年 12 月に動き、清間工場の増強も続く。能力が先に整えば、取りこぼしていた注文を拾える。
利益率も改善する。工場が埋まれば、固定費は薄まる。2026 年 3 月期に営業利益を圧迫した訴訟の引当金と評価損は、一過性だ。今期のコア営業利益 296 億円の計画は、すでにその回復を含む。日医工との品目の分担が軌道に乗れば、少量多品目の無駄が減り、さらに 1〜2 ポイントの上乗せがある。
価格の下げも、選定療養と新製品がかなり補う。先発品を選ぶ患者に差額を負担させる制度が定着すれば、後発品への切り替えは続く。米国から撤退して国内に集中したことで、資本の無駄も減った。
自社株買いを終えた今、資本は軽くなった。10 年で ROE が 10% を超える姿は、計画の延長で十分に描ける。
慎重な見方
薬価は毎年下がる。中間年改定が入り、実質は毎年だ。物価が 3% で上がる世界では、人件費と原材料は毎年重くなる。価格が下がり、費用が上がる。この挟み撃ちで、利益率は上がるより下がる方が自然だ。
中期計画の達成も怪しい。2026 年度の売上は 2,084 億円の計画で、目標の 2,200 億円に届かない。生産数量は計画の 9 割にとどまり、2026 年 4〜6 月期はコア営業利益が 15% 減った。薬価改定と廃棄損、人員増の固定費が重い。計画が毎年未達になる会社に、10 年先の高い ROE は置けない。
品質と訴訟も気がかりだ。2015 年以降の長い期間にわたる試験不正は、同社の管理の弱さを示す。損害賠償は 170 億円弱、さらに 40 億円の和解も続いた。再発すれば、一つの事故で数百億円の利益が飛ぶ。
業界の再編は、規模の小さい会社に不利に働く。大手がさらに数量を取り、価格を下げれば、中堅は耐えられない。資本の稼ぎが資本コストを下回る限り、数量が増えても株主の価値は増えない。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方が少し強い。数量の増加には根拠があるが、価格の下げと原価の上昇を埋める確かな材料は、日医工との分担と新棟の稼働に限られる。品質と訴訟の傷も、確率で見れば小さくない。
そこで確率は中立に最も多く置いたうえで、やや悲観をやや楽観より厚くした。楽観は計画が通る場合に限り、1 割弱にとどめた。悲観は品質事故の再発と規模負けが重なる場合で、1 割とした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,802 円2,081 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 847 円978 億円)。 今の値に割り戻すと 1,438 円1,660 億円、今との差 −16.7%、 期待の年率 +4.4%(資本コスト 7.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 4,081 円4,713 億円 | 1,385 円1,600 億円 | +216.9% | +12.2% | 437 円505 億円 |
| やや楽観 | 17% | 2,991 円3,454 億円 | 1,126 円1,300 億円 | +138.6% | +9.1% | 700 円808 億円 |
| 中立 | 38% | 1,841 円2,126 億円 | 840 円970 億円 | +55.4% | +4.5% | 1,019 円1,176 億円 |
| やや悲観 | 27% | 895 円1,033 億円 | 693 円800 億円 | −8.0% | −0.8% | 429 円495 億円 |
| 悲観 | 10% | 262 円302 億円 | 390 円450 億円 | −62.2% | −9.3% | 65 円75 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,802 円2,081 億円 | 847 円978 億円 | +53.6% | +4.4% | 2,650 円3,060 億円 |
今の株価時価総額 1,725 円1,992 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 楽観:計画が通り、数量と原価で勝つ 利益 331 億円 · PER 14.2 倍 · 株価時価総額 4,081 円4,713 億円
10 年後、販売は 240 億錠に届き、国内シェアは 2 割を大きく超える。供給不足の中で増産が先行し、新棟が埋まる。日医工との品目の分担が進み、少量多品目の無駄が減って、原価は薬価の下げを上回って下がる。
価格の面では、選定療養と新製品が単価を下支えし、1 錠の売上は今の 1.1 倍まで上がる。物価の 1.34 倍には届かないが、下げ続ける構図は止まる。利益率は 16% に乗り、コア営業利益は今の 2 倍に近づく。
品質問題は再発せず、信頼性の仕組みへの投資が実を結ぶ。米国のような失敗を避けた国内集中の資本配分が、ROE を 12% 超へ押し上げる。株主還元も DOE 3% を超えて厚くなる。
- 国内ジェネリック医薬品(新規事業を含む):数量 240(販売数量(億錠))× 価格 13(1 錠あたりの売上(円。薬価の下げと新製品・品目構成の変化を含む名目))→ 売上 3,114 億円・営業利益 498 億円。販売 240 億錠 × 1 錠の売上(今の 1.10 倍)、営業利益率 16.0%
倍率:事業の純利益 331 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.3% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.0% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.2 倍。全体の PER 14.24 倍、時価総額 4,713 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の 2030 年計画(240 億錠・シェア 25%)がほぼ通り、薬価の下げが緩むという全部が揃う筋書き。過去 5 年で営業利益率 13% を維持した年はなく、1 割弱に絞る。
やや楽観 17% やや楽観:数量は伸び、薬価の下げは物価の半分を負担 利益 257 億円 · PER 13.4 倍 · 株価時価総額 2,991 円3,454 億円
販売は 222 億錠まで伸び、シェアは 2 割強に上がる。新棟と清間工場の増強が、需要を取りこぼさず拾う。日医工との分担も一部の品目で動き、原価は少し下がる。
価格は、今の 1.05 倍にとどまる。薬価は毎年下がるが、新製品と選定療養が穴を埋める。物価の 1.34 倍にはほど遠く、実質では約 2 割の価格下落だ。利益率は 14.5% で、計画の 13% 台をわずかに上回る。
品質事故は起きず、訴訟も大型は出ない。ROE は 9% 台で資本コストを上回る。ただし堀は弱く、利益は薬価改定のたびに揺れる。
- 国内ジェネリック医薬品(新規事業を含む):数量 222(販売数量(億錠))× 価格 12(1 錠あたりの売上(円。薬価の下げと新製品・品目構成の変化を含む名目))→ 売上 2,749 億円・営業利益 399 億円。販売 222 億錠 × 1 錠の売上(今の 1.05 倍)、営業利益率 14.5%
倍率:事業の純利益 257 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.4% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 8.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.0% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.4 倍。全体の PER 13.44 倍、時価総額 3,454 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:能力増強が計画に近い形で効き、薬価の下げと原価の上昇がほぼ釣り合うという、会社計画の 8 掛け程度の筋書き。計画未達が続いてきた実績を踏まえ、楽観より厚く置く。
中立 38% 中立:数量は 2 割増、価格は横ばいで稼ぎは今の延長 利益 164 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 1,841 円2,126 億円
10 年後、販売は 205 億錠、シェアは 2 割を少し超える。会社が掲げる 240 億錠には届かない。新棟の稼働で生産が追いつき、日医工との分担が少しずつ効くが、薬価の下げが毎年それを削る。
価格は、1 錠の売上で今とほぼ同じ水準だ。薬価の年々の下げを、新製品と高単価品の比率の上昇、選定療養の効果で打ち消す。物価の 1.34 倍に比べれば、実質で約 25% の値下がりになる。この分を、規模と効率化でどこまで原価に落とし込めるかが勝負になる。
営業利益率は 11% で、直近の計画の 13% より低く、この会社の過去の最高(10.5%)をわずかに超える水準だ。品質の小さな問題や和解費用は起きるが、大型の事故はない。借金は金利の上昇で毎年の負担が増え、純利益の営業利益に対する割合は今より下がる。ROE は 6% 台で、資本コストにわずかに届かない。
- 国内ジェネリック医薬品(新規事業を含む):数量 205(販売数量(億錠))× 価格 12(1 錠あたりの売上(円。薬価の下げと新製品・品目構成の変化を含む名目))→ 売上 2,418 億円・営業利益 266 億円。販売 205 億錠 × 1 錠の売上(今の 1.00 倍)、営業利益率 11%
倍率:事業の純利益 164 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.5% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.9 倍、時価総額 2,113 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:処方の自然増とシェアの小幅な上昇、薬価の下げと物価の相殺という、業界ノートの中立(横ばい〜年 1% 前後の微増)に会社の増産計画の一部を足した筋書き。2 人の議論の落としどころ。
やや悲観 27% やや悲観:薬価の下げが原価の低減を上回り続ける 利益 99 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 895 円1,033 億円
10 年後、販売は 190 億錠にとどまる。能力は増えたが、稼働率が上がらない。生産数量が計画に届かない年が続き、新棟の減価償却だけが重くなる。
価格は、1 錠の売上で今の 9 割に下がる。薬価の年々の下げを、新製品と選定療養では埋められない。物価の 1.34 倍と比べれば実質で約 3 割の値下がりだ。人件費と原材料は物価で上がるので、利益率は 9% に沈む。
品質面で中規模の問題が起き、一部の品目で出荷が止まる。和解や賠償が散発する。借金は金利の上昇で重くなり、純利益は今の半分まで減る。ROE は 4% 台に落ち、株主の価値は増えない。
- 国内ジェネリック医薬品(新規事業を含む):数量 190(販売数量(億錠))× 価格 11(1 錠あたりの売上(円。薬価の下げと新製品・品目構成の変化を含む名目))→ 売上 2,017 億円・営業利益 182 億円。販売 190 億錠 × 1 錠の売上(今の 0.90 倍)、営業利益率 9.0%
倍率:ROE 4.1%(事業の純利益÷自己資本)が k 7.75% 以下なので、PER は 1÷k=12.9 倍が上限。ためた利益は額面を下回る価値。やや悲観は構造的な負け(薬価の下げと原価の逆転)で、上限の 7 割の 9.0 倍に置いた。
確率:薬価の下げが続き原価を落とせない、品質の中規模の問題が起きる、シェアが伸びない、のどれかが現れる筋書き。会社の計画が毎年未達になってきた実績から、やや楽観より厚くする。
悲観 10% 悲観:品質事故の再発と規模負けで、薄利が定着 利益 36 億円 · PER 8.4 倍 · 株価時価総額 262 円302 億円
10 年後、品質事故の再発で一部の工場が長く止まり、取引先の信用を失う。販売は 175 億錠にとどまる。一方、同業の集約が進み、大手数社が価格で攻める。
価格は、1 錠の売上で今の 8 割まで下がる。薬価の下げに加え、入札での値引きも効く。利益率は 5% 台まで落ち、営業利益は 100 億円を切る。金利の上昇で支払利息が重く、純利益は 40 億円に届かない。
新棟と清間工場への投資は回収できず、約 400 億円の減損が出る。自己資本は減り、還元は最低限になる。米国撤退の失敗に続く、二度目の傷として記憶される。
配当は DOE の目安を守れず、自社株買いも止まる。会社は信頼の回復を最優先にし、増産より品質へ人と金を戻す。売上は縮み、シェアは 2 割を割り込む。
- 国内ジェネリック医薬品(新規事業を含む):数量 175(販売数量(億錠))× 価格 9.67(1 錠あたりの売上(円。薬価の下げと新製品・品目構成の変化を含む名目))→ 売上 1,692 億円・営業利益 93 億円。販売 175 億錠 × 1 錠の売上(今の 0.82 倍)、営業利益率 5.5%
倍率:ROE 2.2%(事業の純利益÷自己資本)が k 7.75% 以下で、稼ぐ力(純利益÷k)から出す。PER は 1÷k=12.9 倍が上限で、事業の収益が薄く不安定なので上限の 6.5 割の 8.4 倍に置いた。床は稼ぐ力から出し、帳簿や過去の株価の水準は使っていない。
確率:試験不正の再発や大型の訴訟、行政処分で信頼を失い、大手との規模の差が開く筋書き。会社の過去にも品質不正と 170 億円弱の賠償があり、1 割を置く。倒産のような極端な筋書きは取らない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内ジェネリック医薬品(新規事業を含む)
沢井製薬を中心とする後発医薬品の製造販売。デジタル医療機器などの新規事業は 2030 年度でも売上の 3% 台なので、同じ欄で扱う。
| 数量販売数量(億錠) | 価格1 錠あたりの売上(円。薬価の下げと新製品・品目構成の変化を含む名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 171 | 12 | 2,017 | 159 |
| 10 年後 中立 | 205 | 12 | 2,418 | 266 |
取り方:2026 年 3 月期の販売数量は約 171 億錠(会社の決算説明)。売上収益 2,017 億円を販売数量で割った値(億円÷億錠)が価格。営業利益 159 億円は訴訟和解 40 億円や評価損・減損を含む(コア営業利益は 248 億円)。数量は国内の処方の自然増と、シェアの取り合いで伸びる。国内の後発品市場は年約 7 億錠ずつ増える(会社の見通し)。価格は中立で物価の 1.34 倍にはならず、薬価の毎年の引き下げと新製品・選定療養の効果が打ち消し合って名目で横ばい(SCHEMA §0 の例外の理由は story に記述)。
リスクと懸念
薬価の下げが原価の低減を上回り続ける
薬価は毎年のように下がり、物価で上がる人件費・原材料を価格に転嫁できない。数量が増えても、1 錠あたりの利益が縮めば稼ぎは増えない。会社が掲げる利益率の改善は、この差を規模と効率でどこまで埋められるかにかかっている。
品質不正の再発と行政処分
2015 年以降の試験不正が 2023 年に判明した。他の製品・工場に同様の事象はないと会社は説明するが、品質の事故は一度で工場の停止や出荷の制限につながり、利益を数割動かす。信頼性の仕組みへの投資が続く間も、再発の可能性は残る。
訴訟の損失
2025 年 3 月期に損害賠償で 170 億円弱の引当金を積み、さらに別件の和解で 40 億円を払った。後発品は特許をめぐる争いが避けにくく、今後も同種の損失が出る可能性がある。会社が事前に見込める範囲を超えることもある。
増産が数字に結びつかない
新しい棟を次々に建てても、人員の習熟が遅れて生産が計画に届かなければ、減価償却と人件費だけが先に重くなる。2025 年度の生産数量は計画の 9 割にとどまった。能力が先に増える分、稼働率が上がらない年が出る。
金利の上昇で利払いが重くなる
純有利子負債は 760 億円ほど。借り換えが進めば、金利は今より高くなる。推定で 10 年後の税引き前の利益は約 19 億円ほど減る。自社株買いの元手を借金でまかなった分が、そのまま負担として残る。
業界再編で規模負けする
品質不正で退場した会社が出た一方、日医工との協業のように大手の手を組む動きがある。再編の中で、同社が他社と同等以上の効率を保てなければ、価格で攻められる。逆に、再編で優位を取れれば上振れの要因になる。
今後の分かれ目
- 第二九州工場の新棟が計画どおり稼働し、生産数量が計画に届く年が続いたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。増産が数量に結びつくことの証明になる。
- 薬価の中間年改定の下げ幅が拡大し、コア営業利益率が 10% を割ったら
- やや悲観・悲観の確率を上げる。価格の下げが原価の低減を上回る構図の確認になる。
- 日医工との品目の分担が 30 品目から大きく広がったら
- 少量多品目の無駄が減り、原価の低下が進む。やや楽観以上の根拠が増える。
- 品質問題で工場が停止する、または行政処分を受けたら
- 悲観の確率を上げる。信用の回復には年単位がかかり、利益率が数年にわたり落ちる。
- 自社株買いが再開されたら
- 資本効率の改善には働くが、買う値段が価値を上回るなら価値を壊す。値段を見て判断する。
見ておくもの
- コア営業利益率(今期の計画 12〜13%)と薬価改定の影響
- 生産数量の計画達成率(前期は 9 割)
- 日医工との品目分担の拡大
- 試験・品質に関する当局の発表と訴訟の和解
倍率と資本コストの決め方
1 錠の売上(名目)は薬価の毎年の下げを新製品が補う形で、中立は横ばいとした。物価の 1.34 倍とは違うので理由を story に書いた。倍率は k 7.75% と事業の ROE から式で決め、今の株価や PER、過去の株価の水準は根拠にしていない。中立の ROE は 7% 台で k に届かないので、PER は上限 1÷k の 8 割に置いた。ROE が k を超える楽観・やや楽観は、下限 1÷k に合わせた。IFRS の会社で、リースはすでに負債に入っているので、新リース会計基準による形の変化はない。悲観の時価総額は純資産の 2 割前後に下がるが、工場・設備は専用品で売却の価値を見込みにくく、床は稼ぐ力から出した。純利益は営業利益から金融費用(金利の上昇を織り込んだ)を引き、税率 30% で出した。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.2→14.24 倍・やや楽観 PER 12.9→13.44 倍・中立 PER 10.9→12.9 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。