結論
ツムラは、医師が処方する漢方薬で国内シェア 8 割超を握る会社だ。148 の処方のうち 129 を扱い、国内の市場は 2,300 億円台ある。他社が簡単には追いつけない、事実上の寡占である。
筆者の結論は、本質価値は今の時価総額をやや上回る、というものだ。いちばんの理由は、需要が毎年ほぼ確実に増える事業を、今の値段で買えることにある。高齢化で漢方の使用量は伸びてきた。ツムラは工場を増強しており、供給も 3 割ほど増える。
泣きどころは 2 つある。薬価は国が決めるので、値上げの自由がない。生薬の 8 割は中国産で、調達と価格を他人に握られている。この 2 つが、利益率を左右する。
投資の負担も重い。3 年で 2,000 億円以上を生産に投じ、借入も増える。ROE は資本コストをわずかに上回る程度で、割安のはっきりした根拠にはなりにくい。それでも今の値段なら、需要の伸びだけで元が取れる。
中国では、2025 年に約 230 億円で上海の生薬加工会社を買った。ここが黒字の柱に育つかは、まだ見えない。筆者は、中国を評価の上振れ要素にとどめ、国内の漢方で価値を見ている。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点でツムラを見るとき、最初に聞くのは、10 年後もこの事業があるかだ。答えは、ある。医師が処方する漢方は、数十年かけて築かれた習慣で、簡単には変わらない。
次に、株主のものになる利益を問う。今は工場投資が重く、稼いだ利益の多くが設備に消える。ただし、その投資は、需要の増加という裏づけのある増強で、無駄な買収とは性質が違う。経営がこの投資を借金で進めるのは、金利が上がる世界では少し重いが、致命的ではない。
気になるのは、中国への投資だ。約 230 億円を投じたが、まだ黒字化の見通しが立たない。ここが資本配分の試金石になる。
最後に、安全域。今の値段は、国内の漢方の数量増だけで元を取れる水準にある。逆に、薬価や生薬の悪い筋書きが現実になれば、価値は大きく下がる。安全域は十分だが、広くはない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、医療用漢方製剤だ。医師が処方箋に書き、患者が健康保険で受け取る。薬価は国が決め、ツムラの売上の大半を占める。主力は、大建中湯・抑肝散・六君子湯といった定番の処方で、高齢者や、がん治療中の体力低下、女性の不調に使われる。
この事業の強みは、品質の揃った生薬を安定して調達し、同じ味・同じ効き目の製剤にして届ける仕組みにある。生薬は自然物なので、産地や収穫でばらつく。ツムラは中国を中心に栽培から管理まで関わり、日本の医師が安心して処方できる品質を保つ。
もう 1 つの柱が中国だ。原料生薬の販売に加え、2025 年に上海虹橋中薬飲片の 51% を約 230 億円で取得した。飲片は刻んだ生薬で、中国の漢方医が使う。中計は 2027 年度の中国の売上を 500 億円に置くが、利益はまだ出ていない。
ほかに、養命酒製造を約 68 億円で取得する計画を進めている(TOB は 2026 年 4 月に成立)。漢方で培ったブランドを広げる狙いだが、規模は小さい。
費用の面では、生薬の仕入れが最大の項目だ。中国を中心に、栽培の契約から品質の検査まで自社で管理する。ここが、他社の参入を阻む実力であり、同時に費用の上がる急所でもある。
優良さと弱いところ
堀の中心は、漢方の処方を医師が選ぶ習慣と、生薬を安定して揃える調達網だ。他社の漢方製剤も存在するが、ツムラは 148 処方のうち 129 を販売し、医療現場の標準になっている。新しく参入しても、品質の揃った生薬を同じ量で確保するまでに数十年かかる。この堀は強いと筆者は見る。
弱みも明確だ。価格を自分で決められない。薬価は公定で、物価に追いつかない年が続けば、利益が目減りする。2024 年度は不採算品の救済で薬価が上がったが、これは例外だと考える。
もう 1 つの弱みは、生薬の 8 割超を中国に頼る点だ。価格は年々上がり、調達の不安は消えない。
資本効率は並だ。ROE は 10 年の中央値で 7% 台と、資本コストをようやく超える程度である。ツムラは今、生産能力の増強で大きな投資を進めており、一時的に利益率と ROE が下がると会社自身が認めている。
経営は堅実で、政策保有株も中計中に原則ゼロにする方針だ。ただし、中国の飲片に 230 億円を投じた判断が正しかったかは、まだ答えが出ていない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
漢方は、国内では高齢化の追い風を受けて伸びてきた。医療用漢方の市場は、2025 年度で 2,320 億円ある。国全体の医療費が抑制される中で、漢方は数量が増え続けてきた珍しい分野だ。会社は、年 4〜5% の数量増が続くと見ている。
価格は別だ。薬価は国が毎年のように下げる。ただし、漢方は多くの品目が原価割れの状態にあり、2024 年度は不採算品の薬価が引き上げられた。この救済の仕組みが、生薬の値上がりを一部は価格に戻す支えになっている。
競合は少ない。クラシエなどが漢方製剤を出しているが、ツムラのシェアは 8 割を超える。むしろ脅威は競合でなく、政策と調達だ。医療費の抑制が漢方に及ぶ可能性と、生薬の大半を握る中国の動向だ。
中国市場は大きいが、中医学の飲片は地場の企業が多く、競争が激しい。ツムラは日本の品質管理を持ち込んで差をつける計画だが、利益が出るまでは時間がかかる。
制度の面では、政府が掲げるセルフメディケーションの推進と、医療費の抑制の綱引きが続く。漢方は、薬を使う量を減らせる可能性があるとして評価される一方、市販品に近い成分の医薬品を保険から外す議論の対象にもなりうる。この綱引きの向きが、10 年の数量を左右する。
資本政策と M&A
ツムラは今、守りから攻めに転じている。第 2 期中計(2025〜2027 年度)では、3 年で生産強化に 2,000 億円以上を投じる。茨城に造粒棟(建設費 415 億円)を建て、群馬に第 3 の国内拠点を築く。資金は借入で賄うため、自己資本比率は下がる。
還元は、配当を軸にする。DOE(株主資本配当率)を 2031 年度までに 5% へ引き上げる方針で、2027 年 3 月期の予想は DOE 3.6% 水準だ。自社株買いの記載は中計にない。政策保有株は 2024 年度に約 3 割減らし、中計中に原則ゼロを目指す。
M&A は、中国と、近年は漢方の周辺に向く。上海虹橋の取得(約 230 億円)と、養命酒製造の取得(約 68 億円)が代表例だ。創業家が支配する会社ではなく、買収される側のリスクはあるが、TOB の確率は低いと見る。
点検済み(見落とし点検 2026-10-19):起点の純利益 281 億円に特別益は見当たらない。国内の漢方は薬価が公定で物価に追いつかない(10 年で 1.15 倍)形で置き、生薬の値上がりと新工場の償却で利益率は 22% から 20% に下げてある。工場投資の借入の利払いは純利益に入れてある。
還元の点検(P3 2026-10-19):DOEを2031年度に5%へ引き上げる方針(10年で配当約1,800億円)。中立の約52%と整合。自社株買いなし。直さず。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
国内の漢方は、過去 10 年、数量が着実に増えてきた。高齢者の多病、がん治療中の体力低下、女性の不調といった領域で、漢方の出番は増える一方だ。ツムラは 148 処方のうち 129 を扱い、シェアは 8 割を超える。競合は追いつけず、医師の処方習慣は動かない。
価格の心配も言われるほど深くない。漢方は多くの品目が原価割れで、2024 年度には不採算品の薬価が引き上げられた。生薬が値上がりすれば、国がその分を認める仕組みがある。
工場の増強は、供給不足の解消と、数量増の取りこぼしを防ぐ。茨城と群馬の新設で供給は 3 割増える。償却の重さは一時的で、2030 年代に入れば利益率は戻る。
中国は、日本の品質管理を持ち込んだ飲片の事業が、規模を伸ばす。2031 年度に中国の比率 5 割という計画が実現すれば、評価は一段上がる。筆者は、今の値段はこうした可能性をほとんど織り込んでいないと見る。さらに、2 つの工場が稼働すれば、これまで供給が足りずに取りこぼしていた分も売上になる。
慎重な見方
薬価は国が決める。医療費の抑制が強まる中で、漢方だけが例外でいられる保証はない。2024 年度の引き上げは救済であって、構造ではない。次の改定で逆に下げられても、ツムラは価格を自分で決められない。
生薬の 8 割超は中国産だ。価格は年々上がり、政治や天候で調達が止まるリスクがある。転嫁が薬価に阻まれれば、利益がそのまま削られる。
工場投資は借入で賄い、3 年で 2,000 億円以上を使う。需要が計画ほど伸びなければ、償却と利息が利益を押しつぶす。ROE はもともと資本コストをわずかに超える程度で、余裕がない。
中国の飲片は、約 230 億円を払って買ったが、地場の競争が激しく、黒字になる保証もない。のれんの減損という形で、投資が失敗に終わる可能性がある。
加えて、漢方の使用量が伸びてきた背景には、高齢者の増加という一過性の要因もある。日本の高齢者人口が減りに転じる 2040 年代には、数量の伸びが止まる。10 年先はまだ先だが、その先の価値は読みにくい。
今の値段は、需要の伸びを織り込んでいるが、これらのリスクを十分には織り込んでいない。
どちらに重みを置いたか
国内の漢方の数量が着実に伸び、シェアも崩れない点で、強気の見方が強い。慎重な見方の指摘も正しいが、それは筋書きの利益率と確率に反映できる。薬価と生薬の 2 つの懸念は、中立でも利益率を 22% から 20% に落とす形で織り込んだ。確率は中立に 4 割を置き、やや楽観を 2 割、やや悲観を 2 割強とほぼ対称にした。悲観を 1 割と厚めにし、楽観を 8% と薄めにしたのは、価格を自分で決められない構造と、中国の投資の不確実さを映したためだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 7,626 円5,685 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,176 円1,622 億円)。 今の値に割り戻すと 5,428 円4,046 億円、今との差 +46.3%、 期待の年率 +10.2%(資本コスト 7.0%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 16,079 円1.20 兆円 | 2,884 円2,150 億円 | +411.0% | +17.7% | 1,517 円1,131 億円 |
| やや楽観 | 20% | 11,935 円8,897 億円 | 2,549 円1,900 億円 | +290.3% | +14.6% | 2,897 円2,159 億円 |
| 中立 | 40% | 8,015 円5,975 億円 | 2,321 円1,730 億円 | +178.5% | +10.8% | 4,134 円3,082 億円 |
| やや悲観 | 22% | 2,930 円2,184 億円 | 1,878 円1,400 億円 | +29.6% | +2.6% | 1,058 円788 億円 |
| 悲観 | 10% | 1,020 円760 億円 | 939 円700 億円 | −47.2% | −6.2% | 196 円146 億円 |
| 加重平均 | 100% | 7,626 円5,685 億円 | 2,176 円1,622 億円 | +164.1% | +10.2% | 9,802 円7,307 億円 |
今の株価時価総額 3,711 円2,766 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 漢方の標準治療化が進み、中国も黒字の柱に育つ 利益 650 億円 · PER 18.4 倍 · 株価時価総額 16,079 円1.20 兆円
国内の漢方は、高齢者の多病、がん治療中の体力低下、女性の不調といった領域で標準治療に組み込まれていく。使用量は人口減をはねのけて伸び、ツムラはシェアの 8 割台半ばを守る。生薬の値上がりは、不採算の薬価救済と値上げの通りやすさでおおむね転嫁できる。
新設する茨城・群馬の工場は、増えた需要で早く埋まる。減価償却の重さは数量の伸びが吸収し、国内の利益率は 24% を保つ。
中国は、虹橋の飲片と一人一方の調剤サービスが根づき、原料生薬の販売から付加価値の高い飲片へ軸足が移る。赤字だった事業が黒字の柱になる。養命酒は小さな成功で、漢方以外の収益源が少し増える。
ツムラは配当をじわじわ増やし、DOE 5% に近づく。ROE は 11% 台になり、資本コストを明確に上回る。
- 国内医療用漢方(ほか国内事業):数量 2,741(国内医療用漢方の市場数量(薬価据え置き換算・億円、実質)× ツムラのシェア)× 価格 1.30(薬価の水準(2026/03 = 1.0、名目))→ 売上 2,984 億円・営業利益 716 億円。市場の数量(薬価据え置き換算)× ツムラのシェア / 薬価の水準
- 中国事業(生薬・飲片):数量 5.7(生薬・飲片の取扱量(万トン、推定))× 価格 1,950(1kg あたりの販売単価(円、名目))→ 売上 1,116 億円・営業利益 145 億円。生薬・飲片の取扱量(万トン)/ 1kg あたり円
倍率:事業の純利益 650 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.3% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 9.9%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.4 倍。全体の PER 18.44 倍、時価総額 11,986 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の使用量が過去並みの年 3〜4% で伸び続け、不採算品の薬価救済も通り、中国の飲片が計画どおり利益を出す、という 3 つが 10 年そろう必要がある。どれも根拠はあるが、そろう確率は 1 割に届かないと見る。
やや楽観 20% 国内は堅調、中国は黒字化するが伸びは緩やか 利益 520 億円 · PER 17.1 倍 · 株価時価総額 11,935 円8,897 億円
国内の漢方は年 3% 弱の数量で伸び、シェアも 8 割台を維持する。薬価の改定は続くが、不採算品の救済が効いて、生薬や人件費の上昇を一部は価格に戻せる。工場の増強で供給は安定し、品切れによる機会損失は消える。
ただし、新工場の償却が先行し、国内の利益率は 22% 前後にとどまる。
中国は虹橋が利益に貢献し始めるが、競争が厳しく、飲片の利益率は 1 割強にとどまる。中成薬への参入は小さな成果にとどまる。
ツムラは中計の 2031 年度の目標(営業利益率 2 割)に届かないが、近づく。配当は DOE 4% 台後半まで上がる。
- 国内医療用漢方(ほか国内事業):数量 2,585(国内医療用漢方の市場数量(薬価据え置き換算・億円、実質)× ツムラのシェア)× 価格 1.22(薬価の水準(2026/03 = 1.0、名目))→ 売上 2,641 億円・営業利益 581 億円。市場の数量(薬価据え置き換算)× ツムラのシェア / 薬価の水準
- 中国事業(生薬・飲片):数量 4.8(生薬・飲片の取扱量(万トン、推定))× 価格 1,920(1kg あたりの販売単価(円、名目))→ 売上 915 億円・営業利益 105 億円。生薬・飲片の取扱量(万トン)/ 1kg あたり円
倍率:事業の純利益 520 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.6% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.1 倍。全体の PER 17.11 倍、時価総額 8,897 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業種ノートの 10 年中立〜楽観線(漢方は高齢化で数量が伸びる)に沿う。国内の需要は強いが、薬価は公定で、生薬コストの転嫁が完全には通らない点を差し引いた。
中立 40% 中立:国内は着実に伸び、利益率は工場投資の重さで一段低い 利益 385 億円 · PER 15.5 倍 · 株価時価総額 8,015 円5,975 億円
国内の漢方は、高齢化と標準治療での採用に支えられ、使用量が 10 年で 25% 伸びる。ツムラのシェアは 8 割台のまま動かない。薬価は公定で、物価の 3% にはついていけず、10 年で 15% 上がる程度にとどまる。
一方、費用は物価並みに上がる。生薬の 8 割は中国産で、人件費も上がる。茨城の造粒棟や群馬の新拠点の償却も加わり、国内の利益率は 20% に下がる。今の 22% より低いが、中計が自ら認める投資のピークの姿に近い。
中国は、虹橋の連結で規模が大きくなる。飲片の利益率は 1 割どまりで、国内を支える生薬の調達網としての役割が主になる。
ツムラは大きく伸びも崩れもしない、堅実な優良企業になる。ROE は 8% で、資本コストをわずかに上回る程度だ。
- 国内医療用漢方(ほか国内事業):数量 2,448(国内医療用漢方の市場数量(薬価据え置き換算・億円、実質)× ツムラのシェア)× 価格 1.15(薬価の水準(2026/03 = 1.0、名目))→ 売上 2,358 億円・営業利益 472 億円。市場の数量(薬価据え置き換算)× ツムラのシェア / 薬価の水準
- 中国事業(生薬・飲片):数量 4.0(生薬・飲片の取扱量(万トン、推定))× 価格 1,875(1kg あたりの販売単価(円、名目))→ 売上 754 億円・営業利益 75 億円。生薬・飲片の取扱量(万トン)/ 1kg あたり円
倍率:事業の純利益 385 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.0% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.67(moat=strong)で RONIC 7.7%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.5 倍。全体の PER 15.52 倍、時価総額 5,975 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:過去 10 年のツムラ国内売上は薬価の上下をならすと年 3% 台の数量増だった。中立はその 7 割程度の伸びに落とし、薬価は物価に届かない前提にした。強気の根拠も慎重な根拠も等しく強く、中心に最も厚く置く。
やや悲観 22% 薬価と生薬コストの挟み撃ちで、利益率が 15% 台に落ちる 利益 214 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 2,930 円2,184 億円
国内の使用量は 10 年で 1 割弱しか伸びない。医療費の抑制が強まり、薬価は据え置きに近い。生薬の値上がりを転嫁できない年が続き、人件費も上がる。
新工場の償却と借入の利息が加わり、国内の利益率は 17% に落ちる。ツムラの狙いどおり供給力は 3 割増えるが、需要が追いつかず、稼働率が上がらない。
中国は虹橋の統合で規模は増えるが、競争が激しく利益は薄い。飲片が付加価値の高い商品に育たず、投資額に見合う利益が出ない。
配当は据え置きに近い。ROE は 5% 台で、資本コストを下回る。稼いだ利益より、資本のほうが重い会社になる。
- 国内医療用漢方(ほか国内事業):数量 2,115(国内医療用漢方の市場数量(薬価据え置き換算・億円、実質)× ツムラのシェア)× 価格 1.00(薬価の水準(2026/03 = 1.0、名目))→ 売上 1,771 億円・営業利益 301 億円。市場の数量(薬価据え置き換算)× ツムラのシェア / 薬価の水準
- 中国事業(生薬・飲片):数量 3.1(生薬・飲片の取扱量(万トン、推定))× 価格 1,725(1kg あたりの販売単価(円、名目))→ 売上 526 億円・営業利益 26 億円。生薬・飲片の取扱量(万トン)/ 1kg あたり円
倍率:ROE 5.1%。RONIC = k 7% + 残る割合 2/3 ×(5.1 − 7.25)= 5.8%、長期の成長率 g 3.75% から正当化 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g) = 10.2 倍。ROE が k に届かず、ためた利益は額面未満の価値になる筋書きなので、式の上限の 10.2 倍を超えない 10.0 倍に置いた(7 割へは引き上げない)。
確率:薬価が物価に追いつかず、生薬の 8 割を握る中国の価格や調達の不安定さが重なる筋は、実際に過去に利益を圧迫した(業種ノートの 10 年悲観線)。工場投資を借金で賄うため、一度悪い方へ動くと戻りにくい。
悲観 10% 漢方の採算が構造的に崩れ、普通の製薬会社に落ちる 利益 76 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 1,020 円760 億円
医療費の抑制が強まり、漢方の薬価が下がり続ける。同時に、中国産の生薬の価格が跳ね、調達が不安定になる。ツムラは原料の 8 割を握られており、転嫁も調整もきかない。
国内の使用量は伸びず、薬価は 10 年で 5% 下がる。国内の利益率は 10% まで落ちる。新設した工場は稼働率が上がらず、重い償却と利息が利益を食う。
中国は期待した利益が出ず、2025 年に約 230 億円で取得した虹橋ののれんを減損する。
配当は大きく削られ、ROE は 2% 台に沈む。かつての寡占の強みは残るが、稼ぐ力は大きく落ちる。
- 国内医療用漢方(ほか国内事業):数量 1,860(国内医療用漢方の市場数量(薬価据え置き換算・億円、実質)× ツムラのシェア)× 価格 0.95(薬価の水準(2026/03 = 1.0、名目))→ 売上 1,480 億円・営業利益 148 億円。市場の数量(薬価据え置き換算)× ツムラのシェア / 薬価の水準
- 中国事業(生薬・飲片):数量 1.9(生薬・飲片の取扱量(万トン、推定))× 価格 1,500(1kg あたりの販売単価(円、名目))→ 売上 286 億円・営業利益 0 億円。生薬・飲片の取扱量(万トン)/ 1kg あたり円
倍率:事業の ROE 2.2% が k 7% 以下なので、正当化 PER の上限は 1÷k = 13.8 倍(ためた利益は額面未満)。稼ぐ力が落ちた会社として帳簿の自己資本や過去の評価は使わず、純利益の稼ぐ力から 10.0 倍に置いた。
確率:公定薬価の大幅な引き下げ(漢方を保険の対象から外す、または自己負担を重くする動き)と、生薬の調達難や値上がりが同時に起きる筋。起きる確率は低いが、起きるとツムラは単一製品群の会社なので深く傷つく。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内医療用漢方(ほか国内事業)
医師が処方する漢方製剤と、それに付随する国内の事業。生薬の栽培・調達から製剤化までを担う。
| 数量国内医療用漢方の市場数量(薬価据え置き換算・億円、実質)× ツムラのシェア | 価格薬価の水準(2026/03 = 1.0、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,958 | 1.00 | 1,640 | 367 |
| 10 年後 中立 | 2,448 | 1.15 | 2,358 | 472 |
取り方:市場は 2025 年度で 2,320 億円(薬価ベース)、ツムラのシェアは 84.4%で、数量は 1,958。ツムラの国内売上は薬価ベースの 8 割台半ば(出荷価格と薬価の差)になるので、換算係数 0.8375 で 1,640 億円。2026 年 3 月期の国内と中国の分け方は、開示の内訳を確認できていないため推定(2025 年 3 月期の国内 1,604 億円と、中計の 2027 年度の国内 1,840 億円の間から置いた)。国内の営業利益率は 22% 台と推定。10 年の数量は、過去 10 年に年 3% 台で増えた実績の 7 割ほどに落として中立 1.25 倍。会社は年 4〜5% の増を見るが、そのまま使わない。薬価は公定で、物価の 1.34 倍にはついていかず、中立は 10 年 1.15 倍(2024 年度の不採算品の救済のような引き上げを一部見込む)。
中国事業(生薬・飲片)
中国での原料生薬と、刻んだ生薬(飲片)の販売。2025 年に取得した上海虹橋中薬飲片を含む。
| 数量生薬・飲片の取扱量(万トン、推定) | 価格1kg あたりの販売単価(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.9 | 1,500 | 286 | −15 |
| 10 年後 中立 | 4.0 | 1,875 | 754 | 75 |
取り方:2026 年 3 月期の売上は国内との差し引きで約 286 億円と推定(虹橋は期の途中から連結)。数量と単価の内訳は開示がなく、取扱量約 1.9 万トン × 1kg あたり千五百円ほどと推定した。10 年の数量には、虹橋が通期で入る効果(2027 年度に約 1.5 倍)と、中計が見込む飲片の拡大が含まれる。中計は 2027 年度に売上 500 億円・営業利益率 15% を目標にするが、中立は届かない前提(取扱量 10 年 2.1 倍)。単価は元の物価に合わせ、ドル円 150 円固定で中立 10 年 1.25 倍(日本の物価を下回る)。
リスクと懸念
薬価の引き下げ
漢方の薬価は国が決める。医療費の抑制で据え置きや引き下げが続けば、使用量が増えても売上と利益が伸びない。2024 年度の引き上げは不採算品の救済で、続く保証はない。
生薬の調達と価格
原料生薬の 8 割超は中国産で、価格は年々上がっている。国際関係の悪化、天候、政策変更で調達が止まれば、供給と利益の両方が打撃を受ける。薬価に転嫁できるとは限らない。
工場投資の過大化
3 年で 2,000 億円以上を生産増強に投じ、借入も増える。需要が想定を下回れば、償却と利息が利益を圧迫し、ROE は資本コストを割る。金利が上がる世界では、借入の負担も重くなる。
中国事業の採算
上海虹橋の取得に約 230 億円を投じたが、中国事業は 2025 年度時点で赤字の見通しだった。地場企業との競争が激しく、黒字化が遅れればのれんの減損が起こりうる。
漢方の保険給付の見直し
市販品と成分や効能が近い医薬品を、保険給付から外す議論が国にある。漢方の一部が対象になれば、医療用の使用量が減る。起きる確率は低いが、起きた時の影響が大きい。
単一事業への集中
売上の大半が医療用漢方に集中している。新薬の研究開発のような分散がなく、制度や原料の問題が起きた時に、代わりに稼ぐ柱がない。養命酒の取得は分散の一歩だが、規模は小さい。
今後の分かれ目
- 漢方の薬価が不採算品の救済で引き上げられる年が増えたら
- 生薬の値上がりを価格に戻せる構造が確認でき、国内の利益率の前提を上げる。やや楽観・楽観の確率を厚くする。
- 中国事業が黒字化し、営業利益率が 1 割を超えたら
- 230 億円の投資が報われ始めたと見て、中国の前提を上げる。楽観側の確率を上げる。
- 漢方製剤の一部が保険給付の対象から外れたら
- 国内の使用量の前提を下げ、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 生薬の調達価格が数年で 3 割超跳ね上がったら
- 薬価での転嫁が間に合わず、利益率が下がる。国内の利益率の前提を 2 ポイント下げる。
- 茨城・群馬の新工場の稼働が遅れる、または需要が想定を下回ったら
- 償却と利息の負担が先行し、ROE の前提を下げる。やや悲観側に寄せる。
- 自社株買いや配当の大幅な引き上げが発表されたら
- 資本の使い方の規律が高まるとみて、ROE の前提を少し上げる。
見ておくもの
- 国内医療用漢方の使用量(数量)の伸びと、薬価改定の内容
- 原料生薬の仕入れ価格と、中国からの調達の安定性
- 茨城・群馬の工場の稼働率と、設備投資の総額
- 中国事業の売上・営業利益率(2027 年度に 500 億円・15% の目標)
- DOE の引き上げ(2031 年度に 5%)と自社株買いの有無
倍率と資本コストの決め方
国内を市場の数量 × シェア × 薬価の水準、中国を取扱量 × 単価で積んだ。k は基本 7.5% に quality −0.25% を足した 7.25%。g は k − 3.5% の 3.75%。中立の PER は、ROE が k をわずかに上回るだけなので下限の 1÷k(13.8 倍)が効く。今の PER は見ずに決めた。今の値段との比較は最後に行い、結果はやや割安(総合の差 +28.2%)と出た。リースは主に工場の自社保有で、重要な約束はない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 16→18.44 倍・やや楽観 PER 14.8→17.11 倍・中立 PER 14→15.52 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality −0.25% を加えた 7.25%。中計が自社で試算した株主資本コストは 7%。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.25% → 7.00%。