結論
扶桑薬品工業は、大阪に本社を置く創業 1937 年の製薬会社だ。透析剤と輸液という、病院に欠かせない薬を安定して届ける。人工腎臓用の透析剤は国内の首位で、患者数ベースのシェアは約 50% に達する。筆者の結論は「割高」。事業の足腰は強いが、10 年先の稼ぎが、抱える借金と投資の重さに見合わない。
直近の決算は、増収減益だった。売上は 623 億円で 3% 増えたが、営業利益は 36% 減の 26 億円になった。原材料と人件費の上昇で、原価率が上がったためだ。会社の次の期の予想は、営業利益が 20 億円とさらに下がる。
その背景に、二つの重荷がある。一つは東レとの特許訴訟だ。知財高裁は 2025 年 5 月、約 75 億円の支払いを命じた。会社は最高裁に上告したが、前の期に 87 億円を損失に計上し、当期には同額の現金が出ていった。純有利子負債は、1 年で 150 億円から 236 億円に増えた。
もう一つは、岡山での新工場だ。投資額は約 140 億円で、輸液ラインの更新と合わせ、今後数年は借入で賄う。借入の金利は 3.5% 前後まで上がり、利払いが利益を削る。中立の筋書きでも、10 年後の純利益は 15 億円台と、今の 20 億円を下回る。
安定した事業という長所は、本物だ。ただ、稼ぎが資本コストを下回り続ける限り、純資産の厚みは帳簿どおりの価値にならない。筆者は、今の値段がその点を十分に割り引いていないと見る。
会社の中期方針は、2030 年度に売上 700 億円超、ROE 8% 超を掲げる。実現すれば評価は変わるが、そこに至る道は、利益が落ちる 2028 年ごろまで続く。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、扶桑薬品は事業と財務の見立てがずれた会社だ。事業は、透析剤の首位という強い芯を持つ。だが、財務は、訴訟と投資で一気に重くなった。
株主が自由に使える利益は、今は純利益の半分ほどしか残らない。工場の更新と研究開発に、毎年 50 億円以上の資金が要るためだ。営業キャッシュフローが投資を賄えず、借入に頼る期間は、数年続く。
経営者の資本配分には、疑問が残る。一審で勝った後発品を売り続けたが、控訴審で逆転され、賠償額は 87 億円に達した。時価総額の半分に近い現金が消えたことになる。本業が安定している分、この失点は目立つ。
安全域の面では、PBR が 0.5 倍と低い点は魅力に見える。しかし、ROE が資本コストに届かない会社の純資産は、帳簿どおりの価値にならない。しかも、借金が 3 割ほど増える見通しで、金利が上がれば利益はさらに削られる。筆者は、この安さを、割安の根拠とは受け取らない。
最後に、経営への注文を書いておく。資本コストを下回る事業に、借金で大型投資をするなら、投資の稼ぎが資本コストを超えると株主に示す責任がある。会社が PBR1 倍超を目指すと明言した以上、その説明を待ちたい。
何で稼ぐ会社か
売上の過半は、腎臓と透析の領域が占める。会社の開示では、直近の売上の約 53% が腎・透析、約 20% が輸液、約 12% が後発品、残りが受託製造などだ。
柱は透析剤の「キンダリー」である。血液透析で使う液体の薬で、60 年以上の歴史を持つ。病院が一度採用すると、患者の安全のために、銘柄を替えにくい性質がある。患者数ベースの国内シェアは約 50% で、会社は中期方針で 55% を目標に置く。同じ領域で、骨や血液のミネラルを整える薬の後発品も伸ばしている。
二つ目は輸液だ。電解質の輸液「ヴィーン」シリーズや、注射用水、生理食塩液の大容量品を作る。値段が低く、病院での使用量は多い。薬価が低いため、原材料と人件費の上昇がそのまま利益を削る、採算の難しい製品でもある。
三つ目が後発品と受託製造だ。血栓やパーキンソン病などの後発品を持つほか、他社の輸液・注射剤の製造を受託する。体外受精用の培養液「HiGROW」も手がけ、不妊治療の領域へ広げようとしている。
将来の芽は、希少腎疾患の薬候補「DMX-200」だ。巣状分節性糸球体硬化症という病気の薬で、豪州の Dimerix 社から日本の権利を導入した。国内の患者は約 1,400 人と少ない。承認申請は 2029 年度、上市は 2030 年度を目標とする。
工場は茨城、岡山、城東、大東の 4 か所で、単体の従業員は 1,374 人だ。売上の約 64% を、スズケン、アルフレッサ、メディセオ、東邦薬品の 4 卸が占める。
価格の面では、製品の多くが薬価の定まった基礎的医薬品だ。会社は、この比率を現状の約 44% から 2030 年度に 75% 以上へ高める計画だ。薬価が低くても必要とされる薬を増やすことで、安定供給の評価と、薬価制度の補正を得ようとしている。
優良さと弱いところ
優良さを一言でいえば、「地味だが替えにくい薬を作る、体力の落ちた老舗」だ。堀、つまり他社がまねできない強みは、透析剤の領域にだけ深い。
強みは三つある。一つ目は、透析剤の国内首位のシェアと、病院が銘柄を替えにくいという特性だ。二つ目は、輸液から透析まで、病院が毎日使う基礎的医薬品を揃える幅である。三つ目は、茨城と岡山に生産を東西に分けた供給体制で、災害時の安定供給が評価される。
弱みも三つある。一つ目は、薬価が毎年下がる制度のもとで、値決めの力がないことだ。二つ目は卸 4 社への依存で、上位 4 社が売上の約 64% を占め、前の期の約 53% から集中が進んだ。三つ目は、製品のほとんどが成熟した薬で、新しい成長の柱を自前で作る力が弱いことである。
資本の使い方は、守りに寄っている。ROE は過去 10 年の中央値が 3% 台にとどまり、資本コストを一度も上回れていない。会社は 2030 年度に ROE 8% 超を掲げるが、実績は大きく離れている。経営陣は PBR が 1 倍以下であることを課題と認め、資本コストへの意識不足まで認めている。筆者は、この率直さを評価するが、結果を見るまで評価は保留する。
研究開発は、DMX-200 に偏る。年 20 億円の研究開発費の多くを、この一品に投じており、外れた時の傷は深い。成功すれば、自前で新薬を持たない会社が、初めて高い薬価の製品を持つことになる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の医療用医薬品市場は、約 11 兆円で成長が続く。ただ、薬価が毎年のように下がり、既存の薬は単価が数% ずつ削られる。扶桑薬品の製品は、その中でも成熟した基礎的医薬品で、値下げの圧力を最も受けやすい。
追い風は、薬価制度の見直しだ。コストが上がっても薬価が低く、採算が合わない薬を救うため、最低薬価の引き上げや不採算品の再算定の仕組みがある。2025 年度には最低薬価の引き上げがあり、会社も増収要因と説明した。輸液や透析剤のような基礎的医薬品には、これが一定の下支えになる。
向かい風は、原材料と人件費の上昇だ。直近の売上原価率は 74.3% と、前の期の 72.7% から上がった。薬価の改定は年に一度で、コストの上昇に追いつくまでに時間がかかる。
透析の市場は、患者数が頭打ちになりつつある。日本の透析患者は約 34 万人で、高齢化で新規は増えるが、腎移植や予防の進歩で、増え方は鈍る。このため、成長はシェアの取り合いと、製品の幅の拡大から生まれる。
10 年先を見ると、透析と輸液は需要が底堅いまま、実質で横ばいに近い。競争の軸は、安定供給と原価の低さに移る。老朽化した設備を更新できない会社は、撤退を迫られる。更新できる会社に市場が集まる構図で、扶桑薬品が新工場に踏み切ったのは、その流れを見据えた判断だ。
輸液や透析剤は、薬価の低さから、撤退する会社が出やすい。供給が細れば、残った会社に薬価の補正が入りやすくなる。扶桑薬品はこの側にいるが、補正の恩恵は遅れて届く。
資本政策と M&A
資本政策は、投資と還元の両立を掲げる。2030 年度までの 6 年で、営業キャッシュフローなど約 530 億円を調達し、成長投資に 450 億円以上、株主還元に 60 億円を充てる。足りない分は銀行借入で賄う方針だ。
成長投資の中身は、岡山の第 2 製剤棟と、輸液・注射剤のラインの更新が、それぞれ 120 億円超だ。研究開発は 6 年で 160 億円以上を見込む。岡山の新工場は着工が 2026 年 12 月で、稼働は 2028 年末の予定になる。利益が落ちる 2028 年ごろまでは、借金が増える局面が続く。
株主還元は、累進配当を掲げる。配当は減らさず、増やすことを約束した形で、配当の純資産に対する比率で 2% を下限とする。自己株式の取得も、キャッシュフローを見て検討するとしている。ただ、足元の配当は年 8 億円弱で、利益の 4 割に当たる。
政策保有株は上場分で約 50 億円あり、三菱 UFJ や三井住友の金融グループが中心だ。当期に 11 銘柄を売り、固定資産と合わせて 70 億円の売却を見込む。M&A は目立たず、DMX-200 のように、他社の開発品を導入する形が中心だ。
東レとの訴訟は、まだ最終ではない。会社は最高裁へ上告しており、判決が覆れば支払った現金が戻る可能性が残る。ただ、最高裁が上告を受理する例は少なく、筆者は戻る額を価値に入れていない。
2027 年に研究開発センターを大阪府茨木市へ移し、本社機能は大阪の道修町に集約する。拠点の再編に伴う一時費用が、投資期の利益をさらに押し下げる点にも注意したい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
まず、事業の足腰は強い。透析剤は国内の首位で、シェアは約 50% だ。病院が銘柄を替えにくく、売上は 7 期連続で増えてきた。基礎的医薬品の比率を 44% から 75% 以上に引き上げれば、薬価の下支えも受けやすくなる。
次に、投資が実を結ぶ。岡山の新工場は、粉末の透析剤を作る新しいラインと、輸液の更新を担う。生産性が上がれば、原価率は下がる。会社は 2029 年度から利益が回復すると説明しており、ROE 8% 超という 2030 年度の目標も、事業の力から見れば無理ではない。
希少腎疾患の薬「DMX-200」は、当たれば大きい。国内の患者は 1,400 人と少ないが、薬価は高く、競合も少ない。承認申請は 2029 年度で、上市は 2030 年度が目標だ。ここに成功すれば、利益の柱が一本増える。
最後に、東レとの訴訟だ。最高裁で覆る見込みは薄いと筆者は見るが、覆れば 87 億円が戻る。時価総額の半分に当たる額で、これは大きな上振れの材料になる。累進配当と PBR1 倍超の約束も、株主に有利な材料だ。
財務の面でも、最悪は過ぎた。訴訟の支払いは済み、今後の特別損失は小さい。2027 年以降は、投資が稼ぐ側に回る。
慎重な見方
まず、稼ぎが細っている。直近の営業利益は 36% 減り、会社の次の期の予想はさらに低い。原価率は上がり続け、薬価の改定は年に一度で、コストの上昇に追いつかない。ここに、新工場の償却と研究開発費が加わる。
次に、借金が重い。純有利子負債は 236 億円と、時価総額を上回る。新工場の資金を借りれば、金利が 3.5% 前後に上がる中で、利払いが年に 10 億円規模に膨らむ。営業利益が 20 億円の会社にとって、これは利益の半分を食う額だ。
さらに、成長の柱が見えない。透析の市場は患者数が頭打ちで、シェアを 5 ポイント上げる計画も、競合が黙っていない前提では厳しい。DMX-200 は第 3 相の途中で、成功の確率は半分ほどだ。外れれば、160 億円の研究開発費が無駄になる。
最後に、経営の質だ。特許訴訟で 87 億円を失った事実は重い。最高裁で覆る期待は薄い。卸 4 社への依存も進み、価格交渉で押される構図が強まっている。10 年後の稼ぎが、今を下回る可能性は十分にある。
薬価の補正を当てにする戦略には、制度が変われば崩れる脆さがある。補正が止まれば、輸液は赤字に戻る。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方が強い。事業の質と透析の首位は動かないが、10 年の値付けを決めるのは、借金と投資を差し引いた後に、資本コストを上回る稼ぎが残るかどうかだ。そこで慎重な見方の指摘が効く。確率は、中立に 3 割台半ばを置き、残りを悲観側にやや厚くした。悲観を 1 割強にしたのは、投資が裏目に出て、金利も重なる展開を無視できないからだ。強気の見方が強調する DMX-200 と訴訟の逆転は、楽観の筋書きに織り込んだが、中立では期待値の一部しか入れていない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,084 円178 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 971 円83 億円)。 今の値に割り戻すと 1,568 円134 億円、今との差 −25.6%、 期待の年率 +3.8%(資本コスト 8.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 4,808 円410 億円 | 1,289 円110 億円 | +189.2% | +11.2% | 427 円36 億円 |
| やや楽観 | 18% | 3,279 円280 億円 | 1,113 円95 億円 | +108.3% | +7.6% | 791 円67 億円 |
| 中立 | 36% | 2,287 円195 億円 | 1,007 円86 億円 | +56.3% | +4.6% | 1,186 円101 億円 |
| やや悲観 | 26% | 936 円80 億円 | 902 円77 億円 | −12.8% | −1.4% | 478 円41 億円 |
| 悲観 | 13% | 699 円60 億円 | 644 円55 億円 | −36.3% | −4.4% | 175 円15 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,084 円178 億円 | 971 円83 億円 | +45.0% | +3.8% | 3,056 円261 億円 |
今の株価時価総額 2,108 円180 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 7% 透析剤の拡大と新薬で稼ぎが戻る 利益 35 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 4,808 円410 億円
透析剤のシェアは 55% に届き、基礎的医薬品の薬価補正も効いて、価格は物価に近づく。岡山の新ラインが原価を下げ、利益率は透析で 9% 台後半まで回復する。輸液の更新も終わり、不採算が消える。
DMX-200 は 2030 年度に上市され、国内の希少腎疾患の治療薬として根づく。利益への寄与は 14 億円ほどに育つ。営業利益は 60 億円に近づき、ROE は 7% 台まで上がる。
借入は新工場の償却で重くなるが、利益の回復が上回る。累進配当は守られ、配当は 10 年で 110 億円に達する。東レとの訴訟で最高裁が判断を覆す可能性も、この筋書きでは上振れ要因として残る。
価格は物価の 9 割台後半まで追いつき、輸液の不採算も消えていく。
- 腎・透析:数量 18.9(透析剤などを使う患者数(万人。透析患者約 34 万人 × 患者数ベースのシェア、実質))× 価格 25(1 患者あたり売上(万円・名目))→ 売上 466 億円・営業利益 44 億円。18.92 万人 × 1 患者あたり 24.6177 万円、利益率 9.5%(研究開発前)
- 輸液:数量 14,580(輸液・注射剤の出荷本数(万本、実質。推定))× 価格 0.01(1 本あたり売上(万円・名目))→ 売上 193 億円・営業利益 11 億円。14580 万本 × 1 本あたり 0.0132 万円、利益率 5.5%(研究開発前)
- 後発品・受託・その他:数量 14,803(後発品・受託・その他の出荷単位(万個、実質。推定))× 価格 0.02(1 個あたり売上(万円・名目))→ 売上 284 億円・営業利益 21 億円。14803 万個 × 1 個あたり 0.0192 万円、利益率 7.5%(研究開発前)
倍率:事業の純利益 35 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.7% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 410 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:透析剤のシェアが 55% を超え、DMX-200 も成功する筋書き。複数の成功が重なる必要があり、低く置いた。
やや楽観 18% 投資が実り、利益が少しずつ回復 利益 24 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 3,279 円280 億円
新工場が予定どおり稼働し、輸液ラインの更新も終わる。透析のシェアは 53% 前後に上がる。価格は物価の 9 割ほどまで戻り、原価の上昇を吸収する。
営業利益は 43 億円ほどで、利益率は 5% 近くになる。DMX-200 は上市に成功するが、売上は計画を下回る。ROE は 5% 台に戻る。
純有利子負債は 300 億円前後でとどまり、金利の重さは続く。配当は累進を守り、増えていく。会社の目標である ROE 8% には届かないが、改善は市場に認められる。
輸液は更新したラインで原価が下がり、不採算から抜け出す。卸 4 社との価格交渉は厳しいままだが、安定供給の評価が値引きを抑える。研究開発費は物価で膨らみ、利益の伸びを一部削る。透析剤の価格は物価の 1.34 倍に届かず、1.25 倍にとどまる。
- 腎・透析:数量 18.2(透析剤などを使う患者数(万人。透析患者約 34 万人 × 患者数ベースのシェア、実質))× 価格 24(1 患者あたり売上(万円・名目))→ 売上 438 億円・営業利益 39 億円。18.23 万人 × 1 患者あたり 24.0408 万円、利益率 8.8%(研究開発前)
- 輸液:数量 13,608(輸液・注射剤の出荷本数(万本、実質。推定))× 価格 0.01(1 本あたり売上(万円・名目))→ 売上 177 億円・営業利益 8 億円。13608 万本 × 1 本あたり 0.013 万円、利益率 4.5%(研究開発前)
- 後発品・受託・その他:数量 13,437(後発品・受託・その他の出荷単位(万個、実質。推定))× 価格 0.02(1 個あたり売上(万円・名目))→ 売上 252 億円・営業利益 18 億円。13437 万個 × 1 個あたり 0.01875 万円、利益率 7.0%(研究開発前)
倍率:事業の純利益 24 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.7% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 280 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新工場が原価を下げ、薬価の下支えも効く筋書き。会社が掲げる 2030 年度の回復に近い姿で、有力な上振れとして置いた。
中立 36% 量は横ばい、利払いが稼ぎを削る 利益 17 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 2,287 円195 億円
透析の患者数は頭打ちだが、シェアが 54% に上がり、量は実質で 2% 増える。輸液と後発品も、数量は 1 割弱増える。価格は物価の 9 割ほどにとどまり、コストの上昇を全部は吸収できない。
営業利益は 33 億円ほどで、利益率は 4% 前後だ。DMX-200 の期待値として 6 億円を入れたが、研究開発費は物価で 28 億円に膨らむ。償却は新工場の分だけ重くなり、10 年後に約 41 億円と、物価で増やした場合の 32 億円を上回る。
純有利子負債は 300 億円前後で、金利が 3.5% に上がると利払いは年 11 億円になる。純利益は 15 億円台で、ROE は 4% 台だ。会社の掲げる ROE 8% には届かない。
- 腎・透析:数量 17.5(透析剤などを使う患者数(万人。透析患者約 34 万人 × 患者数ベースのシェア、実質))× 価格 23(1 患者あたり売上(万円・名目))→ 売上 412 億円・営業利益 33 億円。17.54 万人 × 1 患者あたり 23.4638 万円、利益率 8.0%(研究開発前)
- 輸液:数量 12,758(輸液・注射剤の出荷本数(万本、実質。推定))× 価格 0.01(1 本あたり売上(万円・名目))→ 売上 163 億円・営業利益 7 億円。12758 万本 × 1 本あたり 0.0128 万円、利益率 4.0%(研究開発前)
- 後発品・受託・その他:数量 12,526(後発品・受託・その他の出荷単位(万個、実質。推定))× 価格 0.02(1 個あたり売上(万円・名目))→ 売上 229 億円・営業利益 15 億円。12526 万個 × 1 個あたり 0.0183 万円、利益率 6.5%(研究開発前)
倍率:事業の純利益 17 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.3% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 195 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:透析は横ばい、価格はコスト増に届かず、新工場の効果が一部出る標準的な姿。DMX-200 は成功確率を掛けた期待値だけ入れた。
やや悲観 26% コスト増に価格が追いつかず赤字寸前 利益 2 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 936 円80 億円
原材料と人件費は物価並みに上がるが、薬価の改定が追いつかず、価格は物価の 8 割ほどにとどまる。透析のシェアは動かず、患者数は少し減る。輸液と後発品も、数量は 5% ほど減る。
営業利益は 12 億円ほどに落ち込み、利払いを引くと純利益はほぼゼロになる。新工場の償却が重くのしかかり、研究開発は成果を出せない。
配当は累進のために守ろうとするが、利益が伴わず、現金が減る。借金は 300 億円前後のまま、返済の余裕がない。純資産は残るが、稼ぎが伴わず、市場からは割り引かれ続ける。
透析剤の価格は物価の 1.34 倍に届かず、1.10 倍にとどまる。新工場への投資は予定どおり進み、償却だけが先に重くなる。会社は政策保有株や遊休地を売って現金を作るが、借金は減らない。配当は累進を理由に守られ、資本の厚さが少しずつ削られていく。
- 腎・透析:数量 15.8(透析剤などを使う患者数(万人。透析患者約 34 万人 × 患者数ベースのシェア、実質))× 価格 21(1 患者あたり売上(万円・名目))→ 売上 335 億円・営業利益 23 億円。15.82 万人 × 1 患者あたり 21.1559 万円、利益率 6.8%(研究開発前)
- 輸液:数量 11,542(輸液・注射剤の出荷本数(万本、実質。推定))× 価格 0.01(1 本あたり売上(万円・名目))→ 売上 133 億円・営業利益 4 億円。11542 万本 × 1 本あたり 0.0115 万円、利益率 2.8%(研究開発前)
- 後発品・受託・その他:数量 10,818(後発品・受託・その他の出荷単位(万個、実質。推定))× 価格 0.02(1 個あたり売上(万円・名目))→ 売上 179 億円・営業利益 9 億円。10818 万個 × 1 個あたり 0.0165 万円、利益率 5.2%(研究開発前)
倍率:利益がほぼゼロの姿で、PER では測れない。床は売れる資産で測る。工場・在庫・売掛債権を売ると、負債と訴訟関連の支払いを除いて残るのは約 80 億円。この筋書きは稼ぎが残る分、悲観より高く、今の自己資本 351 億円に PBR 0.228 倍(約 80 億円)を掛けた。中立の PBR より低い。EV ÷ 営業利益は純有利子負債 236 億円を足すと 27 倍と高いが、谷に近い年の小さな利益で測った数字で、価値は利益の倍率でなく売れる資産で見ている。
確率:原価の上昇に薬価が追いつかず、利払いも重なる筋書き。純有利子負債が時価総額を上回る点を踏まえ、中立に近い厚みで置いた。
悲観 13% 価格競争と投資の失敗で稼ぎが崩れる 利益 −13 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 699 円60 億円
透析剤で競合にシェアを奪われ、卸 4 社の価格交渉も厳しくなる。輸液は不採算が続き、後発品の薬価も下がる。新工場の稼働率が上がらず、償却だけが重くなる。
営業利益は赤字に沈み、純損失が続く。DMX-200 の第 3 相が外れ、導入費用と研究開発費が無駄になる。減損で自己資本が目減りする。
累進配当は途中で維持できなくなる。借金が重く、財務の余裕がなくなる中、再編や資産売却の対象になる可能性が高い。工場や政策保有株を売っても、借金の返済に消える。
薬価の改定は続き、透析剤の価格は今より 2% ほど下がる。供給の事故や製品回収が重なれば、信用も傷つく。10 年かけて、じわじわと優良さが失われていく筋書きだ。
- 腎・透析:数量 13.6(透析剤などを使う患者数(万人。透析患者約 34 万人 × 患者数ベースのシェア、実質))× 価格 19(1 患者あたり売上(万円・名目))→ 売上 256 億円・営業利益 12 億円。13.59 万人 × 1 患者あたり 18.8479 万円、利益率 4.5%(研究開発前)
- 輸液:数量 9,720(輸液・注射剤の出荷本数(万本、実質。推定))× 価格 0.01(1 本あたり売上(万円・名目))→ 売上 97 億円・営業利益 1 億円。9720 万本 × 1 本あたり 0.01 万円、利益率 0.5%(研究開発前)
- 後発品・受託・その他:数量 8,540(後発品・受託・その他の出荷単位(万個、実質。推定))× 価格 0.01(1 個あたり売上(万円・名目))→ 売上 126 億円・営業利益 4 億円。8540 万個 × 1 個あたり 0.0147 万円、利益率 3.5%(研究開発前)
倍率:構造的に優良でなくなった姿。谷の年は赤字で、稼ぐ力(純利益 ÷ k)は無い。床は売れる資産で測る。総資産約 905 億円のうち、売掛債権は 95%、在庫は 6 割、工場は 5 割、政策保有株は 9 割を回収し、負債を全額払うと、残るのは約 80 億円。少数株主は清算を決められないので戻り方を 0.75 と見て、今の自己資本 351 億円に PBR 0.17 倍(約 60 億円)を掛けた。営業赤字で、EV ÷ 営業利益は参考にならない。
確率:透析のシェアを競合に奪われ、新工場も稼働率が上がらない筋書き。借金と金利の重さを考え、1 割強に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
腎・透析
人工腎臓用の透析剤「キンダリー」を中心とする腎・透析領域の薬。国内の患者数ベースのシェアは約 50%。
| 数量透析剤などを使う患者数(万人。透析患者約 34 万人 × 患者数ベースのシェア、実質) | 価格1 患者あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 17.2 | 19 | 331 | 30 |
| 10 年後 中立 | 17.5 | 23 | 412 | 33 |
取り方:会社の開示では売上の 53.1% が腎・透析(2025 年度)。売上は 623.07 億円 × 53.1% = 約 330.8 億円。数量は、国内の透析患者約 34 万人(透析医学会の統計の目安)に患者数ベースのシェア約 50% を掛けた 17.2 万人が使う、と置いた。1 患者あたり売上(約 19.2 万円)が価格で、物価の分は価格に入る。薬価は毎年下がるため、10 年の価格は物価の 1.34 倍に届かず、中立で 1.22 倍と置く(不採算品の再算定と最低薬価の引き上げで一部は補われるが、全部は吸収できない)。営業利益は開示がなく、研究開発前の利益率 9.0% は筆者の推定。
輸液
電解質などの輸液と注射用水、生理食塩液の大容量品。薬価が低く、原材料と人件費の影響を受けやすい。
| 数量輸液・注射剤の出荷本数(万本、実質。推定) | 価格1 本あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 12,150 | 0.01 | 122 | 6 |
| 10 年後 中立 | 12,758 | 0.01 | 163 | 7 |
取り方:輸液が売上の 19.5%(約 121.5 億円)。開示された数量は無く、1 本あたりの仕切価を 0.01 万円と推定して 1.215 億本(12,150 万本)とした。利益率 4.5%(研究開発前)は筆者の推定で、低い薬価と原価上昇を踏まえて低めに置いた。
後発品・受託・その他
後発品、他社品の受託製造、体外受精用の培養液、不動産賃貸など。
| 数量後発品・受託・その他の出荷単位(万個、実質。推定) | 価格1 個あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 11,387 | 0.02 | 171 | 12 |
| 10 年後 中立 | 12,526 | 0.02 | 229 | 15 |
取り方:後発品 12.2% とその他 15.2%(受託製造・培養液・不動産賃貸を含む)の合計 170.8 億円。1 個あたり仕切価を 0.015 万円と推定して 1.139 億個(11,387 万個)とした。利益率 6.9%(研究開発前)は筆者の推定。全社の研究開発費(約 20.1 億円)と本社費の −20.7 億円は、筋書きの調整 adjust_oku に置く。
リスクと懸念
原価の上昇に薬価が追いつかない
薬価は毎年改定され、価格を自分で決められない。直近の売上原価率は 74.3% と、前の期の 72.7% から上がった。原材料と人件費が物価並みに上がり続ければ、輸液のような低い薬価の薬から、赤字になる。薬価制度の補正は一定の助けだが、遅れる。
借金と金利の重さ
純有利子負債は 236 億円と、時価総額を上回る。新工場に約 140 億円、輸液ラインの更新に 120 億円超を投じ、足りない分は借りる。借入の金利が 3.5% 前後に上がると、利払いは年に 10 億円規模になる。会社の次の期の予想でも、営業利益と経常利益の差は 6 億円に広がる。
東レとの特許訴訟の続き
知財高裁は、約 75 億円と遅延損害金の支払いを命じた。会社は 87 億円を引き当て、支払いも済ませた。最高裁に上告しているが、上告が受理される例は少ない。同じ後発品の販売が続く場合の追加の請求や、他の特許紛争の危険も残る。
透析剤のシェア目標が未達に終わる
会社は透析剤のシェアを約 50% から 55% に上げる計画を持つ。だが、透析の患者数は頭打ちで、シェアは競合から奪うしかない。採用施設率の目標も 75% と高い。競合が価格で対抗すれば、利益を削りながらの拡大になる。
DMX-200 の開発の失敗
希少腎疾患の薬候補で、国際共同の第 3 相試験が進む。成功確率は半分ほどで、失敗すれば、導入費用と年 20 億円規模の研究開発費の一部が無駄になる。成功しても、国内の患者は約 1,400 人と少なく、売上の規模は限られる。
卸 4 社への依存と供給の事故
上位 4 卸が売上の約 64% を占め、前の期の約 53% から集中が進んだ。価格交渉で押される危険がある。また、品質問題による製品回収や、工場の事故が起きれば、売上と信用に打撃が出る。保険で全額が補えるとは限らないと、会社自身が開示している。
今後の分かれ目
- 最高裁が上告を受理し、東レの請求を退ける判決が出たら
- 支払った 87 億円のうち税引き後の相当額が戻る。純有利子負債が減り、価値は大きく上がる。楽観側の確率を上げる。
- 透析剤のシェアが 52% を超えたら
- シェア拡大の計画が進んでいると見て、中立の数量を上方に直す。
- 売上原価率が 75% を超え続けたら
- 薬価の補正が追いつかないと見て、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- DMX-200 の第 3 相の中間解析が良好だったら
- 上市の確率を上げ、中立の利益に加える額を増やす。失敗なら、導入費用の損失を織り込む。
- 新工場の稼働が遅れる、または投資額が 140 億円を大きく超えたら
- 借入と償却が増え、利益の回復が遅れる。やや悲観の確率を上げる。
- 自社株買いや増配の強化が発表されたら
- 資本の使い方の改善と見て、ROE の見通しを少し上げる。ただし借金が重いため、効果は限定的。
見ておくもの
- 売上原価率と販管費率の推移
- 透析剤のシェア(患者数ベース)と採用施設率
- 東レとの訴訟の最高裁の判断
- 純有利子負債と利払い、借入の金利
- 岡山第 2 製剤棟の進捗と稼働時期
- DMX-200 の第 3 相試験の進み具合
倍率と資本コストの決め方
倍率は、ROE が資本コスト k 8.5%(基本 7.5% + quality 1.0%)に届かない前提で、式の正当化 PER に 8.5〜9 割を掛けて置いた。悲観側は谷の利益でなく、総資産の回収と負債の全額払いで残る売れる資産(約 80 億円)に戻り方を掛けて PBR で測り、谷の PBR は使っていない。今の株価や PER、同業の倍率を見てから決めたわけではない。純利益は直近の 20 億円をそのまま起点に使い、訴訟の引当に伴う特別損益は含まれていない。純有利子負債は 236 億円で純現金ではないため、余った現金は分けていない。償却費は工場の帳簿価額から年 24 億円と推定し、物価では増やさず取得時の値段のまま置き、新工場と更新の投資分だけ増える形(10 年後に約 41 億円)で利益率に織り込んだ。投資は借入で賄うため、利払い 3.5% を純利益に入れた。東レ訴訟の逆転は価値に入れていない。株主優待はない。事務所の賃借が中心でリースの約束は小さく、2028 年 3 月期の新リース会計基準で BS の形は変わるが、数字は今と同じ形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 1.0% = 8.5%。理由は quality_why。個別のリスクは k に足さず、筋書きと確率で表した。