結論
ケイファーマは、慶應義塾大学の研究成果を基盤に、難治性の神経疾患に対する医薬品と再生医療製品を開発する会社である。筆者の結論は割高だ。成功した場合の売上は大きいが、今の株主がその果実をどれだけ受け取れるかを考えると、時価総額約79億円には十分な安全域がない。
最も実用化に近いのは、既存薬ロピニロールを筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療薬として開発するKP2011だ。日本国内ではアルフレッサ ファーマに開発権などを許諾しており、同社から契約一時金や将来のロイヤルティを受け取る仕組みを持つ。脊髄損傷向けの細胞製品KP8011にも可能性がある。しかし、2026年10月時点で両製品とも販売承認はなく、2025年の売上もゼロである。
問題は開発が進むまでの資金だ。2025年は営業損失約9億円、2026年の会社予想は約15億円の営業赤字である。2026年6月末には現預金約24億円があるものの、転換社債15億円や借入金を差し引けば余裕は小さい。臨床試験が長引けば、増資によって既存株主の取り分はさらに減る。
10年後の価値は、少数の開発品が承認され、海外展開まで成功する場合に大きく跳ね上がる。反対に、治験の遅延や失敗で研究開発費だけが続けば、知的財産の帳簿上の期待は株主の回収額にならない。5つの筋書きを確率と希薄化で調整すると、現時点の本質価値は概算で約44億円、時価総額より4割強低い。価値の大部分は成功確率の低い上振れに依存しており、長く安心して保有できる収益基盤はまだ完成していない。
バリュー投資の観点から
長く持つ株主の見方では、ケイファーマには二つのまったく違う価値がある。一つは神経難病を治せるかもしれない科学的な価値であり、もう一つは研究が成功したときに株主が実際に受け取る経済的な価値である。前者は大きい。ALSや脊髄損傷には、既存治療で十分な回復を得られない患者が多い。研究者が長年積み上げた知識にも意味がある。
しかし、株主が買うのは研究の可能性だけではない。承認申請までの臨床試験費用、製造立ち上げ費用、販売先との利益配分、大学へのライセンス対価、資金が足りない時の増資まで引き受ける。大手製薬会社なら一つの開発失敗を既存薬の利益で吸収できるが、この会社にはその土台がない。経営陣が優秀かどうかより先に、研究費を払い続ける原資を確かめたい。
本物の堀は、薬が承認され、十分な臨床上の価値を示し、保険償還の下で患者が継続して使い、特許と製造の優位性によって競合を防げる段階で初めて見えてくる。現時点の大学発の技術、特許、開発提携はその候補であって、値上げできる力や高い再投資利回りの証拠ではない。
特に気にするのは、成功した会社と成功した株式投資が同じではないことだ。開発途中に大量の新株を発行すれば、上市時の会社の時価総額が大きくなっても、今日の株主が受け取る割合は小さくなる。筆者は成功確率をゼロと考えていない。むしろ成功時の利益は大きく評価している。それでも、今の値段では不確かな将来の成功に支払う対価が厚い。安全域の乏しさが最終判断を左右する。
何で稼ぐ会社か
同社の事業は大きく二つに分かれる。iPS細胞を病気の研究に利用して薬を探す「iPS創薬」と、iPS細胞から作った細胞そのものを患者に移植する「再生医療」である。会計上は医薬品等の研究・開発・製造・販売という単一セグメントだが、経済性は異なるため、評価では国内ALS、海外ALS、脊髄損傷、その他の開発品に分けた。
国内ALSのKP2011では、アルフレッサ ファーマが開発・製造販売を担う。ケイファーマは契約一時金、開発段階に応じた収入、販売後のロイヤルティを受け取る。2023年の売上10億円はライセンス契約による一時的な収益が中心であり、毎年繰り返す薬の販売収入ではない。2024年と2025年は売上が計上されていない。国内の検証的な第3相試験は2026年8月時点で準備段階にあり、海外の事業化契約もまだ確立していない。
再生医療の中心は、亜急性期の脊髄損傷に対してiPS細胞由来の神経前駆細胞を移植するKP8011である。慶應義塾大学の臨床研究では4例への移植と経過観察が行われた。2026年にはニコン・セル・イノベーションと治験用製品の製造委託に向けた契約を締結した。ただし、少数例の研究で安全性を観察できたことと、承認審査に耐える有効性が証明されたことは別である。
このほか前頭側頭型認知症、ハンチントン病、難聴、脳卒中などの候補を持つ。多くは研究段階で、当面の売上を積み上げる根拠にはならない。会社の価値を決めるのはパイプラインの本数ではなく、承認に到達する製品数、販売する患者数、薬価、提携先への配分、そして研究費を負担した後に残る現金である。
優良さと弱いところ
研究の独自性は評価できる。神経疾患のiPS細胞モデルを長く扱ってきた大学研究者との関係があり、病気の仕組みを再現して候補薬を選ぶ技術は簡単には蓄積できない。慶應義塾大学からの特許実施許諾や共同研究契約も、関連する研究成果への事業上のアクセスを確保している。KP2011の海外特許、KP8011の製造関連特許も将来の交渉力につながる可能性がある。
ただし、研究の優位性を、そのまま経済的な堀、つまり競合が利益を奪えない仕組みとは呼べない。売れる製品がまだなく、薬価の引き上げ実績も、患者が使い続ける実績もない。国内ALSの販売権は提携先にあり、海外の開発には新しい製薬会社との契約が要る。知的財産の一部は大学に由来し、実用化できても利益を単独ですべて受け取れるわけではない。
資本効率も今は測れない。2023年の黒字は継続的な医薬品販売から生じた利益ではなく、その後は研究費を支出する赤字が続く。会社の研究開発力が高くても、増分の投資収益率は承認と上市後の販売が確認されるまで不明である。2026年6月末の自己資本は約7.7億円に縮み、研究の成功を待てる期間が株主にとって重要になった。
AIエージェント代替の人月受託、席課金ソフト、広告運用、情報販売には該当しない。AIは薬の探索を速める可能性があるものの、臨床試験、製造品質、承認審査、患者への投与を置き換えない。同時に、競合の研究も速めるため、AIだけを長期の独占力とはみなさない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
神経難病には満たされていない医療需要がある。会社資料によれば、ALS患者は国内で約1万人、北米で約3万3千人、欧州で約2万4千人と推定される。国内市場を250億円、北米を8250億円とする会社の試算は、患者数に仮定の年間薬価を掛けた潜在市場である。既に購入されている薬の売上でも、ケイファーマが獲得できる売上でもない。国内ALSの薬価を250万円とした試算に対し、同社の実際の取り分は提携先とのロイヤルティ契約で決まる。
ALSではリルゾールやエダラボンなどが使われており、特定の遺伝子変異を対象とした新薬も登場している。患者の進行速度や病態は一様ではない。KP2011が市場を得るには、既存治療に対する臨床上の利益、投与できる患者の範囲、安全性、保険償還を証明する必要がある。競合薬の患者シェアは十分な比較可能データを確認できず、モデルでは各筋書きの投与患者数を市場占有率の代わりに使った。
脊髄損傷では、会社が国内の亜急性期患者を年間約5000人、想定単価を1500万円として750億円の潜在市場を示している。しかし5000人すべてが細胞移植の適応になるわけではない。慢性期患者の累積人数に治療価格を掛けた市場試算も、毎年発生する売上とは区別しなければならない。ニプロの「ステミラック注」は既に条件・期限付きで販売されており、2026年10月15日には本承認を薬事審議会の部会が了承した。KP8011は未開拓市場を独占する製品ではなく、異なる細胞・投与方法と治療成績で選ばれる必要がある。
2036年の中立では、国内ALSで約3500人への年間投与が可能になる一方、海外ALSと脊髄損傷の本格販売はまだ価値に数えない。楽観では海外の提携と細胞製品の量産が加わる。新薬開発は通常の物価上昇と患者数の伸びだけでは予測できない。臨床試験で価値が一段上がることも、結果一つで市場の大半を失うこともある業界である。
資本政策と M&A
資本政策の優先順位は株主還元ではなく、研究開発を継続するための資金調達である。2023年の上場時に調達した資金に続き、2025年にはアルフレッサグループとの提携を通じて15億円の転換社債を発行した。社債の利率は年2%で、2028年から2030年に償還期日が分かれる。株式に転換されれば返済負担は減るが、既存株主の持分は薄まる。転換されなければ元本返済の資金が必要になる。
2025年末の自己資本は約12.7億円だったが、2026年6月末には約7.7億円となった。現預金約23.6億円から転換社債15億円と短期・長期借入金約1.4億円を差し引いた純現金は約7.3億円である。2026年通期の会社予想は売上ゼロ、純損失約16.2億円だ。手元の現金をすべて株主のものと考えるのは誤りである。
会社の成長資料では治験開始、承認申請、海外提携、製造体制の構築という事業上の節目が示されている。しかし、10年先の売上、営業利益、ROE、配当性向、DOE、総還元性向、自社株買い額について確定した数字の約束はない。2026年の配当予想もゼロである。したがって中立では2036年までの還元を見込まない。
大規模な買収による収益拡大の実績は確認できない。製薬会社に開発品を譲渡する可能性や事業全体が買収される可能性はあるが、2026年10月時点で公表されたTOB、MBO、上場廃止予定は確認できない。買収価格を先取りして本質価値に加えることもしない。会社が開示する継続企業の前提に関する重要事象と、正式な継続企業の前提に関する注記は区別した。2026年8月の決算短信では後者は該当事項なしである。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
KP2011には明確な事業化への道がある。国内の製造販売権はアルフレッサ ファーマに導出済みで、ケイファーマが国内の第3相試験費用をすべて自前で負担する構造ではない。既存薬を別の病気に使う開発であるため、まったく未知の新規化合物より安全性に関する知識を利用しやすい。iPS細胞を用いた患者由来の研究と探索的な臨床試験の結果には期待する理由がある。さらに海外特許が事業提携の交渉材料となれば、研究規模の小さい会社でも海外市場の収益を分け合える。
最も大きい可能性は再生医療との組み合わせだ。KP8011は神経細胞の移植という既存の薬物治療とは異なる治療を目指す。国内の脊髄損傷の新規患者は年間約5000人と推定され、対象が限定されても高額な細胞製品として成立する余地がある。ニコン・セル・イノベーションとの製造体制づくりや2026年10月の国内特許査定は、研究室内の発見を商業化へ移す準備と捉えられる。
二つの柱が成功すれば、国内ALSのロイヤルティ、海外ALSのロイヤルティ、細胞製品の販売収益が同時に発生する。契約収入は製品の製造原価を直接負担しない部分が大きく、売上に対する利益率が高くなり得る。2036年に製品群の売上が数百億円へ伸びる場合、現在の赤字をはるかに超える稼ぐ力が生まれる。早期の大型提携一時金が研究費を賄えば、必要な追加増資も抑えられる。これが同社を保有する最大の経済的な魅力である。
慎重な見方
2026年の時点で、会社には承認済みの主力製品がない。ALSの探索的な試験は対象患者が少なく、統計的に十分な検証を終えた第3相試験とは違う。既存薬の安全性が分かっていても、ALSの進行を意味のある程度に抑えるという有効性を証明できるとは限らない。国内で承認されても、病状や投与条件、既存治療との差によって対象患者は限られる。既に導出した日本市場の売上全額がケイファーマに入るわけでもない。
細胞製品はさらに難しい。4人の臨床研究から得られた知見は研究を続ける根拠にはなるが、大規模な有効性試験の代わりにはならない。細胞製造の再現性、品質管理、手術・移植を実施できる医療機関、長期安全性の確認という複数の壁が残る。ニプロのステミラック注が先行しているため、単に脊髄損傷用の再生医療製品であるだけでは市場を獲得できない。国内の大きな潜在市場をそのまま会社の将来売上に変えるのは危険である。
最大の問題は、臨床開発の時間と株主の資金負担が一致しないことだ。2025年末から2026年半ばまでの6か月で自己資本は約5億円減った。これから第3相試験、企業治験、承認申請、製造体制の整備が続く。転換社債は現金を増やしたが、償還または株式転換の義務も生んだ。株価が低迷する時期の増資は、研究を継続させる一方で旧株主の価値を大きく薄める。治験に失敗すれば大学由来の知的財産を帳簿価額で売却できる保証もない。
どちらに重みを置いたか
研究成果の質と潜在市場の大きさでは前向きな材料がある。しかし、2026年時点の承認段階、国内ライセンスの利益配分、資金調達の必要性を合わせると、経済的な価値では慎重な見方が強い。確率は楽観とやや楽観を合計21%、中立を30%、やや悲観と悲観を合計49%とし、下に28ポイント寄せた。これは単に赤字企業だからではない。第3相試験が未開始の主力品と少数例の細胞移植研究に収益化が集中し、資金調達によって旧株主の取り分まで変化する会社固有の事情による。上振れの価値は十分に認めるが、現時点の本質価値は株価を下回る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/12 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 938 円109 億円(+ 還元の換算額還元の合計 18 円2 億円)。 今の値に割り戻すと 381 円44 億円、今との差 −45.2%、 期待の年率 +3.3%(資本コスト 9.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 10,711 円1,245 億円 | 194 円23 億円 | +1,469.1% | +32.4% | 654 円76 億円 |
| やや楽観 | 15% | 1,814 円211 億円 | 40 円5 億円 | +166.8% | +10.5% | 278 円32 億円 |
| 中立 | 30% | 60 円7 億円 | 0 円0 億円 | −91.3% | −21.7% | 18 円2 億円 |
| やや悲観 | 29% | 18 円2 億円 | 0 円0 億円 | −97.5% | −30.8% | 5 円1 億円 |
| 悲観 | 20% | 1 円0 億円 | 0 円0 億円 | −99.8% | −46.7% | 0 円0 億円 |
| 加重平均 | 100% | 938 円109 億円 | 18 円2 億円 | +37.5% | +3.3% | 956 円111 億円 |
今の株価時価総額 695 円81 億円(2026-11-02)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 6% 国内外ALSと細胞移植がともに商業化 利益 157 億円 · PER 10.6 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 10,711 円1,245 億円
国内ALSでは第3相試験の結果が良好で、アルフレッサ ファーマが承認と販売拡大を実現する。医師にとって明確な進行抑制効果が確認され、対象患者の約45%に当たる年間4500人へ投与される。海外では大型製薬会社との提携が成立し、北米と欧州を中心に年間1万5000人が治療を受ける。海外では薬価の高い国が販売構成の中心となり、ロイヤルティ収入が国内を大きく上回る。
KP8011でも比較試験が有効性と安全性を裏付け、細胞の製造方法と出荷体制が安定する。ニコン・セル・イノベーションなどとの協力で製造を外部化し、全国の主要な治療施設に供給できるようになる。国内の亜急性期脊髄損傷患者のうち年間1000人が利用する。さらに後続の神経疾患候補から3製品の継続ロイヤルティが生まれる。
売上が伸びても多額の製造委託費と臨床開発費を負担し続けるが、研究を利益で賄える段階に入る。初期の提携一時金で増資を抑えられ、社債の転換を含めても旧株主は会社の約75%を保つ。遅れて配当が始まり、研究成果がようやく資本効率の高い事業へ変わる。利益を再投資と内部留保に回し、2036年のROEは約22%となる、同社にとって最も理想的な10年になる。
- 国内ALS治療薬KP2011:数量 4,500(国内で1年間にKP2011の投与を受ける患者数(人))× 価格 0.01(患者1人の年間投与からケイファーマが得るロイヤルティ(億円/人・年))→ 売上 23 億円・営業利益 21 億円。国内推定患者1万人の45%に投与。平均ロイヤルティは年50万円という仮定で、現在の確定契約料率ではない。
- 海外ALS治療薬導出・ロイヤルティ:数量 15,000(海外で1年間にKP2011の投与を受ける患者数(人))× 価格 0.01(患者1人の年間投与からケイファーマが得る海外ロイヤルティ(億円/人・年))→ 売上 180 億円・営業利益 166 億円。北米・欧州を中心に新規提携、承認、保険償還が成立。海外患者1万5000人から年間120万円の実効ロイヤルティを得る強い上振れ。
- 亜急性期脊髄損傷の細胞製品KP8011:数量 1,000(国内で1年間に製品が投与される患者数(件))× 価格 0.16(治療1件当たりのケイファーマ売上(億円/件))→ 売上 160 億円・営業利益 64 億円。国内新規患者約5000人の20%相当。製品単価1600万円、受託製造費と導入・品質管理費を控除した営業利益率40%。
- その他の継続的な導出収益:数量 3.0(2036年度に継続ロイヤルティが生じる上市済み製品数(製品))× 価格 8.00(上市済み製品1本当たりの年間継続ロイヤルティ(億円/製品・年))→ 売上 24 億円・営業利益 18 億円。追加の3製品から、それぞれ年間8億円の継続販売ロイヤルティを獲得。一時金は含めない。
倍率:2025年末の自己資本12.7億円に、起点純損失9.9億円から2036年純利益156.6億円への直線的な移行で推定した累計利益約733.5億円を加え、期間還元30億円を控除して、2036年自己資本を716.2億円とする。増資の実施価格と払込金額は未確定であり、別途の資本増加は計上しない保守的な流れである。終点ROEは約21.9%、資本コストは9.75%。弱い堀として超過ROEの3分の1だけが増分投資に残るため、RONICは約13.8%となる。長期名目成長率1%を使う正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)の約10.600倍を採用し、時価総額は純利益156.6億円×PERで約1659.92億円となる。市場のPERは参照していない。
確率:国内のALS第3相試験、海外での新たな導出と承認、KP8011の有効性証明・製造拡大、さらに後続製品の上市がそろう必要がある。各成功は相互に完全独立でなく、資金調達と臨床体制にも共通の制約があるため、上限側でも6%にとどめた。
やや楽観 15% 国内ALSが定着し、海外と細胞治療も一部実現 利益 34 億円 · PER 10.7 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 1,814 円211 億円
国内ALSの第3相試験で有効性が確認され、アルフレッサ ファーマによる販売が始まる。ただし対象患者は病期や併用薬によって絞られ、国内の利用は年間2500人程度にとどまる。海外では北米など一部の国で導出契約が結ばれるが、開発に時間を要し、世界の全地域を取り込むことはできない。海外での投与患者は年間4500人に達する。
KP8011は限定された患者群で臨床上の改善を示し、専門施設を中心に利用される。安全性確認と製造能力の制約により、国内で治療できるのは年間300人程度である。既存の脊髄損傷向け製品との使い分けも続く。後続品からは2製品の継続ロイヤルティが生まれるが、多くの研究テーマは治験段階に残る。
会社は黒字化するものの、海外承認の追加試験や細胞製品の製造設備を支える資金を株式市場から調達する。既存株主の持分は6割弱まで縮む。経営陣は研究を優先しながらも、黒字化の後半に限って小規模な還元を始める。事業としての成功を認められるが、増えた会社価値が今の株主へそのまま帰属するわけではない筋書きである。
- 国内ALS治療薬KP2011:数量 2,500(国内で1年間にKP2011の投与を受ける患者数(人))× 価格 0.00(患者1人の年間投与からケイファーマが得るロイヤルティ(億円/人・年))→ 売上 12 億円・営業利益 11 億円。国内ALS推定患者の25%を治療。患者当たり年46万円のロイヤルティという仮定。
- 海外ALS治療薬導出・ロイヤルティ:数量 4,500(海外で1年間にKP2011の投与を受ける患者数(人))× 価格 0.01(患者1人の年間投与からケイファーマが得る海外ロイヤルティ(億円/人・年))→ 売上 41 億円・営業利益 37 億円。海外の一部地域で承認・提携が成立。患者当たり年90万円の実効ロイヤルティを想定。
- 亜急性期脊髄損傷の細胞製品KP8011:数量 300(国内で1年間に製品が投与される患者数(件))× 価格 0.15(治療1件当たりのケイファーマ売上(億円/件))→ 売上 45 億円・営業利益 18 億円。国内新規患者の約6%を治療し、製造委託費と品質管理費を控除する。
- その他の継続的な導出収益:数量 2.0(2036年度に継続ロイヤルティが生じる上市済み製品数(製品))× 価格 5.00(上市済み製品1本当たりの年間継続ロイヤルティ(億円/製品・年))→ 売上 10 億円・営業利益 8 億円。後続2製品の継続ロイヤルティを年間各5億円とする。
倍率:2025年末の自己資本12.7億円に、起点純損失9.9億円から2036年純利益34億円への直線的な移行で推定した累計利益約120.5億円を加え、期間還元8億円を控除して2036年自己資本を125.2億円とする。追加増資の払込額は確認できないため、資本流れへの別途の上乗せはしない。終点ROEは約27.2%、資本コストは9.75%。弱い堀として増分投資に超過ROEの3分の1が残ると、RONICは約15.6%。長期名目成長率1%から正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)は約10.694倍となる。純利益34億円にこの倍率を掛け、時価総額は約363.59億円。現状の市場倍率を基準にしていない。
確率:国内ALSの承認に加えて海外一部地域の販売提携とKP8011の限定的な商業化が進む展開である。科学的な可能性はあるが、全製品が予定通り成功するとは考えず、上市時期と導入施設数に制限を設けて15%とした。
中立 30% 国内ALSは実現するが、海外と細胞製品は遅れる 利益 2 億円 · PER 10.3 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 60 円7 億円
KP2011は国内の第3相試験を経て販売承認を取得する。開発の遅延はあるものの、アルフレッサ ファーマが国内で販売体制を整え、年間3500人のALS患者に利用される。日本の推定患者の約35%に相当するが、投与期間や併用薬の制約があるため患者全体を取り込むわけではない。国内での薬価と契約ロイヤルティは、物価上昇を含めた長期の想定に沿って決まる。
一方、海外導出は条件交渉や追加臨床試験に時間を要する。国外で継続ロイヤルティが生じる段階までは到達しない。KP8011も治験と製造の検証が続き、2036年時点で商業販売を価値に数えられる状態ではない。その他の開発品から定常的に収入が得られるという証拠も乏しい。研究対象を整理して固定費を抑え、国内ALSの収入を中心に小幅な営業黒字を確保する。
ただし、この到達点までの長い赤字期間を支えるため、多額の外部資本が必要となる。転換社債に加えて新株が発行され、現在の株主の持分は約4割まで下がる。会社は存続し、研究成果の一部を患者に届けるが、10年後の株主利益は小さい。科学的な成功が一つ実現しても、投資として十分な収益を生むとは限らないことを示す中心的な筋書きである。
- 国内ALS治療薬KP2011:数量 3,500(国内で1年間にKP2011の投与を受ける患者数(人))× 価格 0.00(患者1人の年間投与からケイファーマが得るロイヤルティ(億円/人・年))→ 売上 15 億円・営業利益 14 億円。国内ALS推定患者の35%に投与。現時点の仮定単価31.25万円に対し2036年42万円で約1.34倍となり、共通物価3%を価格側に反映。販売ロイヤルティ率自体は未開示。
- 海外ALS治療薬導出・ロイヤルティ:数量 0.0(海外で1年間にKP2011の投与を受ける患者数(人))× 価格 0.01(患者1人の年間投与からケイファーマが得る海外ロイヤルティ(億円/人・年))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。海外開発の研究や提携交渉は進むが、2036年の定常販売ロイヤルティは未発生。
- 亜急性期脊髄損傷の細胞製品KP8011:数量 0.0(国内で1年間に製品が投与される患者数(件))× 価格 0.15(治療1件当たりのケイファーマ売上(億円/件))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。臨床試験、製造工程の検証、承認審査が続く。会社の潜在市場を売上に振り替えない。
- その他の継続的な導出収益:数量 0.0(2036年度に継続ロイヤルティが生じる上市済み製品数(製品))× 価格 4.00(上市済み製品1本当たりの年間継続ロイヤルティ(億円/製品・年))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。追加製品の継続ロイヤルティはまだ発生していない。臨時契約金は終価の利益に含めない。
倍率:2036年純利益1.7億円、自己資本15億円、ROE約11.3%。資本コスト9.75%に対しわずかな超過ROEを得る。堀は弱く超過分の3分の1が残るのでRONIC約10.3%、長期成長率1%から正当化PERは約10.317倍。上限そのものを採用し、他の製品が承認されるまでの期待は純利益に加えない。想定利益は契約ロイヤルティ収入と研究費の縮小が実現した場合に限られる。
確率:国内ALSには2023年から契約済みの開発パートナーがいる一方、2026年時点で第3相試験が未開始である。最も成熟した製品だけが2036年に収益化する筋書きを中心に置く。下に寄せる理由:海外提携、細胞製品の承認、追加資金調達の条件がいずれも未確定であり、単一の成功を会社全体の強固な利益基盤とはみなせない。
やや悲観 29% 主力品の承認が遅れ、研究資産だけが残る 利益 −8 億円 · PBR 0.9 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 18 円2 億円
国内ALSでは第3相試験の患者登録、評価項目、有効性の確認のいずれかに問題が生じる。アルフレッサ ファーマとの提携は維持されても販売承認まで届かず、継続ロイヤルティは始まらない。海外でも臨床試験の資金を負担する相手が見つからず、海外売上を計上できない。会社は研究成果の一部について小さな継続ライセンスを獲得するが、主要な開発費を賄える規模ではない。
KP8011は少数例の臨床研究から本格的な試験へ進んだ後、統計的な有効性や製造工程の一貫性を確立できず、販売開始が2036年より先へ延びる。会社は一部の研究室や開発テーマを整理して費用を下げ、手元の資金が尽きる前に追加増資や事業提携を行う。発行株数が増え、旧株主の取り分は3割弱になる。
この段階では高収益の製薬企業として評価できない。企業価値は、残る純現金と早期に売却できる研究資産の限られた回収額を中心に考える。新たな株主から調達した資金は治験と運営費に使われ、旧株主が自由に受け取れるわけではない。存続はするが、開発を続けること自体が資本を消費する10年間になる。
- 国内ALS治療薬KP2011:数量 0.0(国内で1年間にKP2011の投与を受ける患者数(人))× 価格 0.00(患者1人の年間投与からケイファーマが得るロイヤルティ(億円/人・年))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。承認未取得で投与患者ゼロ。価格は成立した場合の参考値に過ぎない。
- 海外ALS治療薬導出・ロイヤルティ:数量 0.0(海外で1年間にKP2011の投与を受ける患者数(人))× 価格 0.01(患者1人の年間投与からケイファーマが得る海外ロイヤルティ(億円/人・年))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。海外導出・承認が未成立。
- 亜急性期脊髄損傷の細胞製品KP8011:数量 0.0(国内で1年間に製品が投与される患者数(件))× 価格 0.12(治療1件当たりのケイファーマ売上(億円/件))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。治験と製造工程の課題が解消せず上市できない。
- その他の継続的な導出収益:数量 1.0(2036年度に継続ロイヤルティが生じる上市済み製品数(製品))× 価格 2.00(上市済み製品1本当たりの年間継続ロイヤルティ(億円/製品・年))→ 売上 2 億円・営業利益 2 億円。縮小後に残った1製品から年間2億円の小規模な継続ロイヤルティを得る。
倍率:2036年の事業利益は赤字であり、負の利益にPERを掛けない。2026年6月末の自己資本7.736億円を、損失を埋める資金調達後に残す縮小均衡の参考資本額とする。PBR0.94倍は約7.27億円の回収可能純現金に相当し、現在の市場PBRから決めた数字ではない。将来積み上がった利益を床に使わず、正当化された中立のPBR約1.17倍より低い。
確率:国内ALSの検証試験が長引くか十分な有効性を示せず、KP8011も大規模試験で成果が確定しない。下に寄せる理由:2026年上期時点で売上ゼロ、継続赤字、転換社債と将来の資金調達への依存があり、開発期間の長期化そのものが旧株主の持分を削る。企業として縮小存続できる可能性を29%とした。
悲観 20% 主要開発が失敗し、再資本化で旧株主の価値がほぼ失われる 利益 −3 億円 · PBR 0.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 1 円0 億円
KP2011の大規模試験で十分な有効性が示されず、開発権を持つ提携先が投資の縮小や中止を判断する。海外の製薬会社も開発費の負担を引き受けず、特許が残っていても販売につながらない。KP8011では細胞移植の有効性、安全性、製造品質のいずれかに重大な問題が生じ、企業治験を進められない。ほかの神経疾患の開発品も資金不足で停止する。
会社は人員と研究施設を減らして現金流出を抑えるが、過去の社債や借入への対応が必要になる。現金を使い切る前に支援企業から新しい資本を受け入れるか、研究資産を限定的に譲渡する。企業の存続条件を決めるのは旧株主ではなく、新たな資金を提供する相手となる。株主価値は新資本が大半を取得した後の小さな残余に限られる。
この筋書きでは医薬品販売による継続利益が生まれない。知的財産の研究上の意義が消えなくても、販売承認を取得できなかった候補を他社が高値で買うとは考えない。優良さ、価格を決める力、再投資利回りはいずれも失われる。研究開発型の小型株にとって、科学上の失敗が普通株式の回収額にほぼ直接つながる場合である。
- 国内ALS治療薬KP2011:数量 0.0(国内で1年間にKP2011の投与を受ける患者数(人))× 価格 0.00(患者1人の年間投与からケイファーマが得るロイヤルティ(億円/人・年))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。主要臨床試験の失敗により売上ゼロ。
- 海外ALS治療薬導出・ロイヤルティ:数量 0.0(海外で1年間にKP2011の投与を受ける患者数(人))× 価格 0.00(患者1人の年間投与からケイファーマが得る海外ロイヤルティ(億円/人・年))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。海外導出が成立せず治療患者ゼロ。
- 亜急性期脊髄損傷の細胞製品KP8011:数量 0.0(国内で1年間に製品が投与される患者数(件))× 価格 0.10(治療1件当たりのケイファーマ売上(億円/件))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。細胞治療の開発・販売を停止。
- その他の継続的な導出収益:数量 0.0(2036年度に継続ロイヤルティが生じる上市済み製品数(製品))× 価格 2.00(上市済み製品1本当たりの年間継続ロイヤルティ(億円/製品・年))→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。残余の研究成果からも継続ロイヤルティを得られない。
倍率:事業は継続赤字でPERを用いられない。救済資本の注入と研究資産の処分後に残る自己資本を2億円とする。換金性と旧事業の稼ぐ力に乏しく、残余自己資本の半分程度を会社全体の回収価値とする。過去の株価や市場PBRを根拠にはしない。倒産に近いため、2026年の純現金が2036年にも維持されるという通常の床を適用しない。
確率:ALSの検証試験に失敗し、細胞製品も承認に進めず、事業提携や増資の条件が悪化する複合的な事態である。事業の寿命ではなく臨床失敗と資金繰りの連鎖を確率に反映する。倒産に近い状態でも会社全体の終価は小さな正値として残す。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内ALS治療薬KP2011
国内の開発・製造販売権をアルフレッサ ファーマに導出済み。2036年は承認された場合の年間投与患者数とケイファーマが受け取る患者当たりの販売ロイヤルティで評価する。
| 数量国内で1年間にKP2011の投与を受ける患者数(人) | 価格患者1人の年間投与からケイファーマが得るロイヤルティ(億円/人・年) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 0.0 | 0.00 | 0 | 0 |
| 10 年後 中立 | 3,500 | 0.00 | 15 | 14 |
取り方:実売上と投与人数はともにゼロ。会社の2026年3月事業計画の国内ALS患者約1万人、潜在市場250億円から年間薬価の仮定250万円を得た。価格0.003125億円は薬価250万円×仮のロイヤルティ率12.5%であり、契約上の料率は非開示のため実測値ではない。2023年の契約一時金10億円は継続売上に含めない。2036年の患者数は国内推定患者総数に対する利用率で示す。
海外ALS治療薬導出・ロイヤルティ
KP2011について日本国外で製薬会社と開発・販売契約を締結した場合に受け取る継続的なロイヤルティ。2026年時点で海外販売権の導出と承認は確定していない。
| 数量海外で1年間にKP2011の投与を受ける患者数(人) | 価格患者1人の年間投与からケイファーマが得る海外ロイヤルティ(億円/人・年) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 0.0 | 0.01 | 0 | 0 |
| 10 年後 中立 | 0.0 | 0.01 | 0 | 0 |
取り方:2025年の海外ロイヤルティはゼロ。会社資料では北米ALS患者約3万3000人、欧州約2万4000人、中国約2万人と推定する。北米8250億円などの市場は地域別の患者数に仮定薬価を掛けた潜在市場である。価格0.006億円は複数国の想定薬価と仮の販売ロイヤルティを組み合わせた分析上の参考値であり、契約に基づく料率ではない。2036年は市場全体ではなく実際に治療を受ける人数を数量とする。
亜急性期脊髄損傷の細胞製品KP8011
iPS細胞由来神経前駆細胞を移植する再生医療等製品。承認後の治療件数と製品の出荷価格で評価し、受託製造費・販売費を利益率から控除する。
| 数量国内で1年間に製品が投与される患者数(件) | 価格治療1件当たりのケイファーマ売上(億円/件) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 0.0 | 0.15 | 0 | 0 |
| 10 年後 中立 | 0.0 | 0.15 | 0 | 0 |
取り方:現時点で販売承認がなく実売上はゼロ。会社資料では国内の亜急性期脊髄損傷が年間約5000人で、1治療1500万円を掛けて潜在市場750億円とする。価格0.15億円はこの会社側の仮定であり、未承認製品の正式な保険償還価格ではない。年間5000人には非適応例も含まれ、投与可能人数は審査結果と実施施設数で絞る。競合するニプロのステミラック注は既に販売実績を持つ。
その他の継続的な導出収益
前頭側頭型認知症、ハンチントン病、難聴、脳卒中関連などについて、将来承認された製品から継続的に受け取る販売ロイヤルティ。契約一時金は原則として終価の永続利益に含めない。
| 数量2036年度に継続ロイヤルティが生じる上市済み製品数(製品) | 価格上市済み製品1本当たりの年間継続ロイヤルティ(億円/製品・年) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 0.0 | 4.00 | 0 | 0 |
| 10 年後 中立 | 0.0 | 4.00 | 0 | 0 |
取り方:2025年にはその他の上市製品からの定常ロイヤルティ収入はない。価格4億円は候補製品が承認され販売提携が成立した場合の分析上の仮定であり、会社開示の契約単価ではない。一時的な研究契約金や開発マイルストーンを、そのまま毎年発生する収益に見せないよう、2036年に実際に継続収益を生む製品だけを数量に数える。
リスクと懸念
ALS第3相試験の失敗・承認遅延
KP2011の国内開発は有力な提携先を持つが、2026年8月時点では検証的な第3相試験の準備段階である。少人数の探索的試験で見られた効果が大規模な試験で再現される保証はない。主要評価項目で有意な差が出なければ、国内ロイヤルティの開始は大幅に遅れるか、完全に失われる。承認が遅れるだけでも研究費と希薄化の負担が増える。
細胞移植の有効性と製造品質
KP8011の大学主導の移植研究は4例であり、比較対照を備えた承認用試験とは証拠の強さが違う。移植細胞の品質、腫瘍形成を含む長期安全性、機能回復の再現性に加え、商用規模で同じ品質を実現できるかが問われる。製造委託先との契約があっても、製造販売承認や製造原価の安定は保証されない。
資金調達と既存株主の希薄化
2026年6月末の自己資本約7.7億円に対して、2026年通期の予想純損失は約16.2億円である。転換社債15億円は一時的な現金確保に役立ったが、転換時の希薄化か償還時の資金流出を伴う。研究開発の時間が延びるほど新株発行の必要性が増す。会社が将来成功しても、現在の株主が受け取る価値を減らす最大の要因となる。
市場規模と実際の取り分の混同
国内ALS250億円、北米ALS8250億円、亜急性期脊髄損傷750億円という潜在市場には、患者数と仮定薬価を掛けた推定が含まれる。実際には投与対象の制限、既存治療との比較、保険償還、普及速度がある。特に国内ALSはアルフレッサ ファーマへ販売権を導出済みで、同社の売上全額がケイファーマに帰属するわけではない。
知的財産と再投資の継続性
創薬と細胞製品に関する特許や共同研究契約は価値の候補だが、大学由来の権利や第三者へのライセンス対価を考慮する必要がある。特許期間は永続せず、既存薬の転用製品は後続の競争にも直面する。2036年の利益が大きくても、それを維持するには次の候補を承認へ進める費用が要る。今の研究実績だけから永久の高成長を認められない。
競合製品と公的な薬価
ALSには既存治療薬があり、脊髄損傷ではニプロのステミラック注が先行する。2026年10月には同製品の本承認を審議会部会が了承した。新しい治療法が出ても、既存品に比べて十分な臨床的利益を示さなければ市場を奪えない。また、高額な細胞製品では費用対効果や保険償還の判断が普及を左右し、会社が希望する単価を自由に設定できない。
継続企業の前提に関する重要事象
2026年8月の半期報告書では、営業キャッシュ・フローの継続的な赤字から、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる事象または状況の存在を会社が認識している。ただし手元流動性と資金調達方針を踏まえ、重要な不確実性は認められないと判断しており、決算短信の正式な継続企業の前提に関する注記は該当事項なしである。この区別は重要だが、資金繰りのリスク自体を消すものではない。
今後の分かれ目
- 国内ALSの第3相試験が開始され、主要評価項目、症例数、試験期間が公表されたら
- 承認に向けた時間と必要資本を改めて評価する。試験が明確な検証力を持ち、資金負担も提携先が担うと確認できれば、国内ALSの承認確率を引き上げる。
- KP2011の第3相試験で臨床的に意味のある進行抑制が確認されたら
- 国内ロイヤルティの実現確率を大幅に高め、対象患者数と投与継続期間を見直す。ただし公表された効果量と副作用に照らし、会社想定の全患者市場を自動的に売上へ変えない。
- KP2011の海外導出契約で一時金、開発費負担、販売ロイヤルティ率が開示されたら
- 海外ALSの価格前提を仮定から契約上の条件へ置き換える。大きな一時金が得られ、追加増資の必要性が下がれば、既存株主の取り分の改善も同時に価値へ反映する。
- KP8011の企業治験で対照群との明確な差と長期安全性が確認されたら
- 国内の適応患者数、投与可能施設数、商用製造原価を見直す。ニプロの既存製品との臨床的な使い分けが明確になれば、細胞製品の上市確率を上方修正する。
- 追加増資または新株予約権が発行され、潜在株式数が増えたら
- 調達資金が研究を何年延ばせるかと、既存株主の持分がどれほど下がるかを一組で再計算する。額面の増資金額を会社価値に加えるだけではなく、発行株数と将来の資金消費も反映する。
- 2028~2030年の転換社債償還が近づいても主力品の販売収入が立たなければ
- 社債転換、現金償還、借換え、資産売却の選択肢を検証し、やや悲観・悲観の比重を増やす。臨床成果とは別に、既存株主の回収可能性が低下する局面と捉える。
- 国内ALSが承認されても販売患者数が想定の半数以下にとどまったら
- 国内薬価、ロイヤルティ率、病期別の適応、投与継続率を点検する。研究開発費を減らせない場合は黒字化時期を後ろ倒しにし、10年後の稼ぐ力を下方修正する。
見ておくもの
- KP2011の国内第3相試験の開始日、主要評価項目、症例数、試験完了予定日
- KP2011の海外導出契約の成立、対象地域、契約一時金、開発費分担、ロイヤルティ条件
- KP8011の企業治験届、移植患者数、対照群との有効性比較、長期安全性
- KP8011の製造委託先への技術移管、治験製品の製造成功率、商用製造原価
- アルフレッサグループ向け転換社債の転換状況、償還予定額、潜在株式数
- 四半期ごとの営業キャッシュ・フロー、現預金、借入残高、自己資本
- 新株発行と新株予約権の条件、発行済株式数、既存株主の持分変化
- 国内ALSの承認後における実投与患者数、販売ロイヤルティ収入、継続投与率
- ニプロのステミラック注など競合する脊髄損傷治療の承認、導入施設数、販売動向
倍率と資本コストの決め方
評価の出発点は現在の時価総額約78.6億円ではない。2025年の売上ゼロ、2026年の赤字予想、国内ALS約1万人、国内亜急性期脊髄損傷の年間患者約5000人という事実から、2036年に実際に投与される人数と会社に帰属する単価を考えた。国内ALSは契約上のロイヤルティ率が非開示なので仮定を明記し、国内販売権を持つアルフレッサ ファーマの総売上を取り込んでいない。
中立は国内ALSだけが収益化する。海外ALSとKP8011を潜在市場の大きさだけで中立の売上に含めず、楽観側の条件付き収益とした。営業利益から継続研究費を引き、株式の発行による既存株主の希薄化を終価と還元に反映した。PERは市場相場でなく、資本コスト9.75%、2036年のROE、弱い堀、長期成長率1%による利益ベースの正当化式で求めた。楽観側の自己資本は起点からの累計純利益を反映し、ROEと正当化倍率を整合させた。赤字の筋書きは回収可能資産と再資本化後の残余で評価した。
5つの筋書きの会社全体の終価に既存株主持分を掛け、10年後の時価総額を10年、期間中還元を5年で割り引く簡易計算では、本質価値は約44.3億円となる。基準時価総額78.57億円との差は約マイナス44%。ただし将来の余剰現金や増資の正確な実施日程を実測した値ではなく、臨床成功確率と資金調達条件に敏感な推定である。成功時の価値を意図的に小さくせず、失敗時の旧株主損失も現在の株価へ寄せて修正しなかった。
資本コスト 9.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5% + 上乗せ 1.5%。共通の無リスク金利3%と株式リスクプレミアム4.5%による基本7.5%に、事業の質0.75%と赤字・資金調達依存の上乗せ1.5%を加えた9.75%。株価の変動率や時価総額による規模加算は使わない。臨床試験の個別の成功失敗は主として数量、利益、確率に反映する。