結論
サンバイオは、健康な人の骨髄から作った細胞を脳に移植する再生医療の会社だ。筆者の結論は、国内の売上だけでは今の時価総額を支えられず、米国での承認と脳梗塞への広がりを大きく織り込んだ値段だ、というものだ。
主力のアクーゴは、事故などによる脳の損傷が残した手足のまひを対象にする。2026年5月に薬価がついて発売され、10月に最初の患者へ移植された。ただし国の資料が見込む国内のピークは、年39人、約28億円にとどまる。
赤字は10期以上続き、売上はまだほとんどない。事業を支えてきたのは増資だ。2025年11月に約140億円を集め、当面の試験と発売の費用には足りる。それでも年の赤字は50億円規模で、数年のうちに次の資金が要る。
分かれ目は米国の第3相試験だ。当たれば会社の規模は桁が変わる。外れれば、国内の小さな専門薬と現金の残りだけになる。筆者は米国での成功を4割ほどと見る。確率を掛けた10年後の価値は、今の時価総額の半分ほどだ。総合では「割高」になる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社を測る物差しは利益ではない。「当たりくじの値段」になる。
オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益は、いまはマイナスだ。年に約50億円を使い、国内の売上は当面ほとんどない。国内のピークが28億円なら、研究の費用すら賄えない。
筆者が持ち続けたいのは、10年後も売る商品が減らない会社だ。この会社の主力は一つで、効果の根拠は小さな試験にある。承認も条件付きだ。わからない部分が大きい事業には、確信を下げる。
安全域は、払う値段と、外れた時に残る価値の差だ。外れた時に残るのは、国内の小さな販売事業と、細胞を作る設備と、現金の残りだ。今の時価総額の数分の一にとどまる。
魅力は、当たった時の大きさにある。米国で承認を得れば、会社は数千億円の規模にもなりうる。ただ、その当たりくじを4割と見ても、10年の時間と増資による薄まりを引けば、今の値段は払い過ぎだ。
判断は、当たった時の大きさだけで決めない。外れた時に何が残るかを先に見る。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は一つの薬だ。細胞を脳の傷んだ場所へ直接移植し、神経の回復を助ける。名前はアクーゴ、一般名はバンデフィテムセルという。
対象は、受傷から6か月以上たち、運動のまひが固まった中等度から重度の患者だ。手術は3〜5時間、入院は1週間ほどかかる。治療は北海道、東京、神奈川、大阪、岡山の大学病院5施設を中心に始まった。移植のあとは、リハビリ施設で機能の回復を図る。
売る仕組みは自社で持つ。提携先の製薬会社はいない。流通はスズケンに任せ、製造はJCRファーマにも委ねて供給の複線化を進める。2024年7月の承認は条件・期限付きだ。7年のうちに追加の試験で効果を確かめ、本承認へ進まなければならない。
材料は健康な提供者の骨髄で、作り置きができる。患者ごとに細胞を作る治療より、量産しやすい。ただ、培養の品質を保つのは難しい。承認後、品質の同等性を確かめるまで出荷できず、実際に出せるまで1年5か月かかった。
次の柱は二つある。米国の慢性期の外傷性脳損傷と、慢性期の脳梗塞だ。どちらも提携先はなく、会社は単独で試験の準備に入っている。
優良さと弱いところ
筆者は、この会社の堀(他社がまねできない強み)を「狭いが、実在する」と見る。
強みは、脳への細胞移植という難しい手術と製造を、国内で承認まで運んだことだ。第2相のSTEMTRA試験では、運動機能の点数が偽手術の群を上回った。脳に細胞を移植する再生医療が国内で実用になるのは、これが初めてだ。製造と品質管理の経験は、後から来る会社がすぐには写せない。
弱みは多い。承認は条件付きで、本承認までに試験を重ねる必要がある。根拠のSTEMTRAは約60人の小さな試験で、日常生活の動作を測る指標では差が出なかった。脳梗塞向けの同じ薬は、2019年の北米の試験で外れた。
提携の実績も芳しくない。帝人とは2018年に、大日本住友製薬とは2019年に契約を解消した。いまは自社で売る形に改めたが、販売網をひとりで作る負担は重い。
資本効率を語る段階にはない。過去10年の自己資本利益率の中央値はマイナス75%だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
対象は、事故や転倒による脳の損傷が残した運動のまひだ。急性期の治療は進んだが、半年たって固まったまひを回復させる薬は、これまでなかった。リハビリで動かしやすくする程度が、いまの限界だ。
国内の市場は小さい。受傷後6か月以上で、病変が画像で見え、手術に耐えられる中等度から重度の患者だけが入る。国の資料が見込むピークは年39人だ。手術のできる施設も、当面は5つの大学病院が中心になる。
米国は桁が違う。慢性の障害を抱える人は約530万人といわれる。ここに入れれば、市場は国内の数十倍になる。同社は米国の規制当局と第3相試験の設計で合意し、2027年1月期から準備に入る。調達資金のうち約94億円を、この試験に充てる。
競合は、同じ系統の細胞薬だ。脳梗塞向けの間葉系細胞薬では、ヘリオスが国内で行ったTREASURE試験が2022年に主要な目標を満たせなかった。この系統は、効くことを示すのが難しい。脳の再生医療で先に承認まで届いたのは、この会社だ。
資金の環境も細い。日本の創薬ベンチャーに入る資金は、米国の1%に満たない。大きな試験は、増資か大手との提携でしか賄えない。
資本政策と M&A
資本政策の中心は資金調達であり、還元ではない。配当は出さず、出せる段階にもない。
2025年11月に海外で600万株を発行し、約140億円を手に入れた。使い道は決めてある。米国の試験に約94億円、国内の脳梗塞の試験に約34億円、国内の普及体制に約14億円だ。期末の現金は約148億円まで増えた。
それでも営業の赤字は年に40〜50億円ある。調達した資金は2027年末ごろまでの計画分で、そのあとに米国の第3相試験の本体が続く。転換社債が約11億円あり、3つの銀行とコミットメントラインも結んだ。次の増資は、事業が成功しない限り避けにくい。
買われる側になる可能性もある。外部の推計で、10年以内の買収の確率は2割弱だ。脳の再生医療という希少な資産を、海外の大手が買いに来る筋は否定できない。ただ、承認が条件付きの間は、買い手も慎重になる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
国内で承認まで運んだことが、米国への最大の切符になる。第2相のSTEMTRA試験では運動機能の点数が偽手術を上回り、米国の規制当局は第3相の試験設計に合意した。画期的な再生医療としての指定(RMAT)も受けている。承認された薬を作ってきた製造と品質の経験は、米国の審査でも効く。
患者の数が違う。米国で慢性の障害を抱える人は約530万人といわれる。手術のできる施設を数十か所に絞っても、年に数百人は治療できる。1人あたりの値段が国内の数倍になれば、一つの薬で数千億円の売上が見えてくる。
脳梗塞への広がりもある。患者は日米欧中豪で2,600万人と、外傷性脳損傷の2,300万人より多い(同社調べ)。半年で固まったまひは、脳梗塞でも同じ悩みだ。同じ細胞が二つの病気に効けば、一つの工場を二つの市場で使える。
大手が買いに来る筋もある。承認を得た脳の再生医療は世界に例が少ない。成功すれば、買収の話は自然に出てくる。
慎重な見方
売れる患者が少なすぎる。国の資料が見込むピークは、国内で年39人、約28億円だ。研究開発と販売に年50億円近くかかる会社にとって、国内だけでは赤字が埋まらない。
効果の根拠も弱い。承認の根拠はSTEMTRA試験の約60人だ。運動の点数は上回ったが、日常生活の動作を測る指標には差が出なかった。患者にとって大事なのは暮らしの変化だ。本承認のための試験でそれが示せないと、条件付きの承認は失効しうる。
米国は、費用も時間も重い。第3相には数年かかり、単独では数百億円規模になるとの見方がある。調達した資金は、その一部しか賄わない。増資を重ねれば、株主の取り分は薄まる。
この系統の薬は外しやすい。脳梗塞向けの細胞薬は、同社の北米の試験(2019年)も、ヘリオスの国内の試験(2022年)も、主要な目標に届かなかった。大手との提携も二度解消された。
製造も壁だ。承認から出荷まで1年5か月かかった。品質が揺らげば、供給は止まる。
どちらに重みを置いたか
事業の新しさでは、強気の見方が正しい。国内承認は事実で、米国で当たれば値は桁で動く。一方、足元の数字は慎重な見方が強い。国内の売上は小さく、根拠の試験も小さい。
確率は慎重な側へ寄せた。米国での成功は4割ほどにとどめ、国内だけで終わる筋と、承認が失効する筋を合わせて6割にした。承認で最初の関門は越えたが、次の関門は大きく、資金も足りない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/01 期)
確率で加重した株価時価総額 1,516 円1,184 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 8 円6 億円)。 今の値に割り戻すと 724 円565 億円、今との差 −19.7%、 期待の年率 +5.4%(資本コスト 7.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 4% | 12,802 円9,993 億円 | 192 円150 億円 | +1,340.6% | +30.6% | 520 円406 億円 |
| やや楽観 | 11% | 5,287 円4,127 億円 | 0 円0 億円 | +486.2% | +19.3% | 582 円454 億円 |
| 中立 | 25% | 1,409 円1,100 億円 | 0 円0 億円 | +56.2% | +4.6% | 352 円275 億円 |
| やや悲観 | 32% | 187 円146 億円 | 0 円0 億円 | −79.3% | −14.6% | 60 円47 億円 |
| 悲観 | 28% | 37 円29 億円 | 0 円0 億円 | −95.9% | −27.3% | 10 円8 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,516 円1,184 億円 | 8 円6 億円 | +68.9% | +5.4% | 1,524 円1,190 億円 |
今の株価時価総額 902 円704 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 4% 楽観:米国で承認を得て、脳梗塞にも広がる 利益 511 億円 · PER 19.6 倍 · 株価時価総額 12,802 円9,993 億円
米国の第3相試験が2030年ごろに成功し、2031年に承認を得る。1人あたり約40万ドルの値段がつき、手術のできる施設は数十か所に増える。10年目の移植は米国だけで年380人に届く。
脳梗塞の試験も当たり、日米で承認を得る。提携先が欧州と中国で販売を受け持ち、会社には年に120人分の受取が入る。国内は用途の広がりで年90人が使う。
会社は2032年に黒字になり、研究開発を自前で回せる。増資は米国の発売と二つの病気の試験のために約700億円を集め、株は大きく増える。配当と自社株買いも始まる。
堀は広がる。ただし製造は一つの工場に頼り、品質が揺らげば全体が止まる。競合も出てくるが、先に承認を得た安全性と手術の経験が当面の守りになる。
- アクーゴ(国内・外傷性脳損傷):数量 90.0(年間の移植患者数(人))× 価格 80.0%(1人あたりの会社の取り分(億円)。薬価は約0.727億円で、流通の取り分を引いて約95%とみる)→ 売上 72 億円・営業利益 47 億円。国内は年90人×1人あたり0.80億円。営業利益率65%
- 米国の外傷性脳損傷(自社または提携先):数量 380(米国での年間の移植患者数(人))× 価格 3.60(1人あたりの会社の取り分(億円)。米国の売値を約40万ドルとし、会社の取り分を5割とみる)→ 売上 1,368 億円・営業利益 684 億円。米国は年380人×取り分3.6億円(今の2.6億円の約1.4倍)。製造費と販売費を引いて営業利益率50%
- 脳梗塞ほか適応拡大(提携先経由):数量 120(提携先での年間の移植患者数(人))× 価格 2.90(1人あたりの会社の受取額(億円)。提携先の売値の約4割とみる)→ 売上 348 億円・営業利益 209 億円。提携先での年120人×受取2.9億円(今の約1.4倍)。営業利益率60%
倍率:事業の純利益 511 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 29.5% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 15.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.6 倍。全体の PER 19.56 倍、時価総額 9,993 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:米国の第3相が当たり、脳梗塞の試験も成功する筋書き。二つの病気が両方当たるのは一握りと見て4%に置いた。
やや楽観 11% やや楽観:米国で承認を得るが、広がりは緩やか 利益 211 億円 · PER 19.6 倍 · 株価時価総額 5,287 円4,127 億円
米国の第3相試験は成功するが、解析に時間がかかり、承認は2032年にずれ込む。手術のできる施設は10数か所で、10年目の移植は米国で年220人にとどまる。
国内は年70人が使う。脳梗塞は、試験の結果が割れて広がらない。会社は欧州の提携先から小さな受取を得る程度だ。
会社は2033年に黒字になる。ただし米国の発売費用と製造の増設で、必要な資金は膨らむ。増資を約450億円行い、株は倍近くに増える。配当はまだ出せない。
成功は確かだが、会社は中堅の域を出ない。米国の患者の数ではなく、手術のできる施設の数が成長の天井になる。
- アクーゴ(国内・外傷性脳損傷):数量 70.0(年間の移植患者数(人))× 価格 76.0%(1人あたりの会社の取り分(億円)。薬価は約0.727億円で、流通の取り分を引いて約95%とみる)→ 売上 53 億円・営業利益 33 億円。国内は年70人×1人あたり0.76億円。営業利益率62%
- 米国の外傷性脳損傷(自社または提携先):数量 220(米国での年間の移植患者数(人))× 価格 3.50(1人あたりの会社の取り分(億円)。米国の売値を約40万ドルとし、会社の取り分を5割とみる)→ 売上 770 億円・営業利益 370 億円。米国は年220人×取り分3.5億円。営業利益率48%
- 脳梗塞ほか適応拡大(提携先経由):数量 30.0(提携先での年間の移植患者数(人))× 価格 2.70(1人あたりの会社の受取額(億円)。提携先の売値の約4割とみる)→ 売上 81 億円・営業利益 41 億円。提携先での年30人×受取2.7億円(今の約1.35倍)。営業利益率50%
倍率:事業の純利益 211 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 29.5% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 15.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.6 倍。全体の PER 19.56 倍、時価総額 4,127 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:米国は当たるが立ち上がりが遅く、脳梗塞は広がらない筋書き。米国の成功4割のうち、立ち上がりが遅い側を11%に置いた。
中立 25% 中立:米国の承認が遅れて小さく、国内は専門薬にとどまる 利益 56 億円 · PER 19.6 倍 · 株価時価総額 1,409 円1,100 億円
米国の第3相試験は、結果が微妙で追加の解析が要る。承認は2033年にずれ、10年目の米国の移植は年100人にとどまる。会社の営業利益率も、製造費の重さで4割どまりだ。
国内は年45人が使う。国の資料が見込む39人を少し上回る程度で、手術のできる施設が5つから十数か所に増えた分だ。薬価は据え置きに近い。脳梗塞は小さな提携が一つ入るだけだ。
会社は10年目にようやく小さな黒字になる。増資を約250億円行い、株は5割ほど増える。配当は出さない。
10年後の会社は、米国と国内に一つずつ小さな柱を持つ。堅実に生き残るが、期待された成長株にはならない。国内の売上は研究費を賄えず、米国の成否がそのまま会社の命運を決める構図は変わらない。
- アクーゴ(国内・外傷性脳損傷):数量 45.0(年間の移植患者数(人))× 価格 70.0%(1人あたりの会社の取り分(億円)。薬価は約0.727億円で、流通の取り分を引いて約95%とみる)→ 売上 32 億円・営業利益 17 億円。国内は年45人×1人あたり0.70億円(薬価は据え置き気味で今の約1.0倍)。営業利益率55%
- 米国の外傷性脳損傷(自社または提携先):数量 100(米国での年間の移植患者数(人))× 価格 3.50(1人あたりの会社の取り分(億円)。米国の売値を約40万ドルとし、会社の取り分を5割とみる)→ 売上 350 億円・営業利益 140 億円。米国は年100人×取り分3.5億円。製造費と販売費が重く営業利益率40%
- 脳梗塞ほか適応拡大(提携先経由):数量 10.0(提携先での年間の移植患者数(人))× 価格 2.70(1人あたりの会社の受取額(億円)。提携先の売値の約4割とみる)→ 売上 27 億円・営業利益 11 億円。提携先での年10人×受取2.7億円(今の約1.35倍)。営業利益率40%
倍率:事業の純利益 56 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 29.6% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 15.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.6 倍。全体の PER 19.57 倍、時価総額 1,100 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:米国で追加の試験が要るなどして承認が遅れ、立ち上がりも小さい筋書き。米国の成功4割のうち、半分強がここに入ると見て25%に置いた。
やや悲観 32% やや悲観:米国は外れ、国内の小さな専門薬が残る 利益 −14 億円 · PBR 1.1 倍 · 株価時価総額 187 円146 億円
米国の第3相試験は2030年ごろに主要な目標を満たせず、会社は米国から手を引く。脳梗塞の試験も止める。国内の本承認のための試験は、条件を満たして承認が続く。
国内の移植は年40人で頭打ちになる。研究費を絞っても、国内の売上は管理と製造の費用を賄えず、赤字は残る。増資を約220億円行って延命する。
大手との提携は、細胞の製造能力と国内の販売権の売却話にとどまる。会社は国内の専門薬として生き残るが、成長の物語は終わる。
株主にとっては、増資のたびに取り分が薄まった10年だ。残った価値は、国内の販売事業と製造の資産、特許の売却額が中心になる。
- アクーゴ(国内・外傷性脳損傷):数量 40.0(年間の移植患者数(人))× 価格 70.0%(1人あたりの会社の取り分(億円)。薬価は約0.727億円で、流通の取り分を引いて約95%とみる)→ 売上 28 億円・営業利益 13 億円。国内は年40人×1人あたり0.70億円。営業利益率45%
- 米国の外傷性脳損傷(自社または提携先):数量 0.0(米国での年間の移植患者数(人))× 価格 2.60(1人あたりの会社の取り分(億円)。米国の売値を約40万ドルとし、会社の取り分を5割とみる)→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。米国から撤退。売上なし
- 脳梗塞ほか適応拡大(提携先経由):数量 0.0(提携先での年間の移植患者数(人))× 価格 2.00(1人あたりの会社の受取額(億円)。提携先の売値の約4割とみる)→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。脳梗塞は中止。売上なし
倍率:稼ぐ力は赤字で、価値は国内の販売事業と製造の資産、残った現金の売却額に支えられた床で置いた。床の倍率は今の自己資本に掛けた(積み上げた損失の後の自己資本には掛けない)。帳簿にない承認済みの権利を含むので、今の自己資本の1.1倍になる。
確率:米国の第3相が外れ、国内だけが残る筋書き。この系統の薬は外しやすく、会社の過去の試験も外れが多いので、最大の山の32%に置いた。
悲観 28% 悲観:本承認に届かず、承認が失効して事業を縮める 利益 −23 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 37 円29 億円
国内の本承認のための試験が、日常生活の動作の改善を示せず、2032年ごろに条件付き承認が失効する。国内の移植は年15人まで減る。米国の第3相も外れる。
会社は研究人員を大きく減らし、細胞の製造も縮める。製造委託の最低の購入が重荷になり、赤字は消えない。増資を約280億円重ねて延命する。
10年後に残るのは、現金の残りと、細胞を作る設備と、特許だ。会社は存続するが、新しい薬を育てる体力は残らない。
株主にとっては、増資のたびに取り分が薄まった10年だった。残った価値は、設備と特許の売却額と現金の残りが中心になる。
- アクーゴ(国内・外傷性脳損傷):数量 15.0(年間の移植患者数(人))× 価格 65.0%(1人あたりの会社の取り分(億円)。薬価は約0.727億円で、流通の取り分を引いて約95%とみる)→ 売上 10 億円・営業利益 1 億円。国内は年15人×1人あたり0.65億円。営業利益率10%
- 米国の外傷性脳損傷(自社または提携先):数量 0.0(米国での年間の移植患者数(人))× 価格 2.60(1人あたりの会社の取り分(億円)。米国の売値を約40万ドルとし、会社の取り分を5割とみる)→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。米国は中止。売上なし
- 脳梗塞ほか適応拡大(提携先経由):数量 0.0(提携先での年間の移植患者数(人))× 価格 2.00(1人あたりの会社の受取額(億円)。提携先の売値の約4割とみる)→ 売上 0 億円・営業利益 0 億円。脳梗塞は中止。売上なし
倍率:稼ぐ力はなく、価値は現金の残りと、売れる設備・特許の税後に支えられた床で置く。床の倍率は今の自己資本に掛けた(積み上げた損失の後の自己資本には掛けない)。
確率:本承認のための試験で効果を示せず条件付き承認が失効し、米国も外れる筋書き。単一製品・小さな試験・提携の解消が重なる会社で、売上が立たない筋は3割弱と見て28%に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
アクーゴ(国内・外傷性脳損傷)
受傷から半年以上たって運動のまひが固まった外傷性脳損傷に、細胞を脳へ移植する再生医療。2026年5月に発売、10月に最初の患者へ移植。
| 数量年間の移植患者数(人) | 価格1人あたりの会社の取り分(億円)。薬価は約0.727億円で、流通の取り分を引いて約95%とみる | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/01 | 0.0 | 69.0% | 0 | −38 |
| 10 年後 中立 | 45.0 | 70.0% | 32 | 17 |
取り方:2026年1月期は未発売で売上0。国の資料のピーク投与患者39人×約0.7億円が約28億円。全社の研究開発費と管理費(営業赤字約38億円)を便宜上ここに置いた。
米国の外傷性脳損傷(自社または提携先)
米国で第3相試験を終え承認を得た場合の販売。会社の収入は自社販売の売上、または提携先からの受取。
| 数量米国での年間の移植患者数(人) | 価格1人あたりの会社の取り分(億円)。米国の売値を約40万ドルとし、会社の取り分を5割とみる | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/01 | 0.0 | 2.60 | 0 | 0 |
| 10 年後 中立 | 100 | 3.50 | 350 | 140 |
取り方:未承認で売上0。他の細胞治療薬の米国価格(数十万ドル〜)を参考に、売値40万ドル×150円×取り分5割=約2.6億円と推定した。
脳梗塞ほか適応拡大(提携先経由)
慢性期の脳梗塞など、ほかの病気への広がりと、欧州・中国などでの提携。会社の収入は提携先からの受取。
| 数量提携先での年間の移植患者数(人) | 価格1人あたりの会社の受取額(億円)。提携先の売値の約4割とみる | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/01 | 0.0 | 2.00 | 0 | 0 |
| 10 年後 中立 | 10.0 | 2.70 | 27 | 11 |
取り方:試験前で売上0。10年先は提携先の患者数×受取額で置く。受取額は1人あたり約2億円と推定した。
リスクと懸念
国内の市場が小さい
国の資料が見込むピークは、国内で年39人、約28億円だ。対象は受傷から半年以上たった中等度から重度の患者に限られ、手術のできる施設も5つの大学病院が中心になる。国内だけでは研究費を賄えない。
条件付き承認が失効しうる
2024年7月の承認は条件・期限付きで、7年のうちに本承認を得る必要がある。製造販売後の試験は42例の計画で、小さい。日常生活の動作の改善が示せなければ、承認が失効し、売上の土台が消える。
米国の第3相試験の成否
第3相の試験設計は規制当局と合意したが、成功は保証されない。脳梗塞向けの同系統の薬は、2019年の北米の試験とヘリオスの2022年の国内試験で、主要な目標に届かなかった。費用は調達資金だけでは足りず、増資か提携が要る。
資金と株の薄まり
営業の赤字は年に40〜50億円ある。2025年11月の増資で約140億円を集めたが、使い道は米国の試験と国内の普及で決まっている。次の増資は避けにくく、株主の取り分は薄まる。転換社債も約11億円ある。
製造と品質
細胞の品質の同等性の確認に時間がかかり、承認から出荷まで1年5か月かかった。製造は自社とJCRファーマに頼る。品質に問題が出れば供給が止まり、売上も止まる。
提携の実績が乏しい
帝人とは2018年に、大日本住友製薬とは2019年に提携を解消した。いまは提携先がいない。販売網を自社で作る負担が重く、米国で大手と組めなければ、立ち上がりが遅れる。
薬価の引き下げ
薬価は約7,272万円とついたが、今後の改定で下がりうる。患者が見立てを超えても、単価が下がれば売上は伸びない。同じ病気に別の治療が出れば、価格の交渉も厳しくなる。
今後の分かれ目
- 2026年度下期の出荷と移植が、5つの大学病院から十数か所へ予定どおり広がる
- 国内の見立て(年40〜50人)が確かになり、中立の確率を厚くする。ただし国内だけでは時価総額を支えられない。
- 米国の第3相試験の症例登録が計画どおり進み、2030年前後に主要な目標を満たす
- 米国で承認を得る筋が太くなり、楽観とやや楽観の確率を上げてよい。増資による薄まりも同時に織り込む。
- 製造販売後の試験で、日常生活の動作の指標にも改善が出る
- 条件付き承認が本承認へ進む確度が上がり、悲観の確率を下げる。米国の審査にも追い風になる。
- 米国の大手が提携や買収の話を持ち込む
- 資金の不安が消え、立ち上がりの遅れも縮まる。買収なら、成功の確率を買い手が織り込むため、やや楽観の側に寄る。
- 製造の品質問題や出荷の遅れが再び起きる
- 売上の立ち上がりが遅れ、増資の圧力が強まる。やや悲観の確率を上げる。
- 慢性期の脳梗塞の試験が、規制当局との協議で動き出す
- 適応拡大の筋が現実になり、楽観の確率を少し上げる。ただし脳梗塞は過去に外れており、確率は慎重に置く。
見ておくもの
- 国内の移植施設の数と月ごとの移植患者数、製造販売後の試験の登録数
- 米国の第3相試験の開始時期と症例登録の進み方、海外提携の有無
- 四半期の現金と営業の現金流出(増資・借入の必要性)
- 条件付き承認の本承認に向けた試験の中間結果と、薬価改定の動き
倍率と資本コストの決め方
国内は国の資料の患者数(年39人)と薬価を出発点に置き、米国と脳梗塞は患者数×会社の取り分で積んだ。倍率は式(正当化PER・RONIC)と事業の経済性だけで決め、今の時価総額は見ていない。結果が今の値を大きく下回るのは、国内の稼ぎが小さく、残りは米国で当たるかどうかの確率で決まるからだ。米国の成功確率は4割ほどに置き、今の値がその倍でも数字を寄せていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 15→19.56 倍・やや楽観 PER 13.7→19.56 倍・中立 PER 12.8→19.57 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。