結論
中外製薬は、ロシュが 6 割近くを持つ親会社の下で上場を続ける製薬会社だ。独自の抗体技術で生んだ薬をロシュに売り、世界の売上からロイヤルティを受け取る。2025 年の売上 1 兆 2,579 億円のうち、血友病薬ヘムライブラが 4 割強を占める。
筆者の結論は、10 年の価値は今の時価総額を 約 48% 下回る「割高」だ。会社の質を疑っているのではない。いまの利益が、特許の切れる薬に偏っている。ヘムライブラ、アクテムラ、アレセンサの 3 品で売上の 7 割に迫る。
そこで品目ごとに、患者数と 1 人あたりの取り分を 10 年先まで積んだ。ヘムライブラは 2032 年前後に米欧の独占が終わる見込みで、アクテムラはすでに後続品が出ている。アレセンサの米国の後発品は 2035 年ごろだ。穴を埋めるのは、エンスプリング・ピアスカイと開発品、そして飲む肥満症薬オルフォルグリプロンのロイヤルティになる。そのロイヤルティも物質特許が切れる 2040 年前後で止まる。
崖は倍率の割引でなく、利益の側に置いた。減り続ける品は先の減り方で、期限のある品は残りの年数で値を付けている。資本コストは 7.5%。余った現金は、配当を払い続けてきた実績から、ほぼ全額が株主に戻るとみた。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、この会社の本質は「他人の販売網で、自社の発明を売る」点にある。研究費は自分で払うが、世界で売る費用と在庫の重さはロシュが負う。資本効率が高い理由だ。
問題は、その発明が少数の薬に偏っていることだ。ヘムライブラ・アクテムラ・アレセンサの 3 品で売上の約 7 割を占め、いずれも独占が終わる日がある。堀は薬そのものでなく、薬を生み続ける抗体技術にある。リサイクリング抗体が複数の薬を生んだ実績は評価できる。だが次の当たりがいつ来るかは決まっていない。
資本配分は合格点だ。大型買収に出ず、利益の約半分を配当で戻している。安全域の面では、崖の後の利益で測ると今の値段に余裕がない。オルフォルグリプロンが大きく育つ筋書きを、すでに払う値段が先取りしていると筆者は見る。持ち続けたいのは、崖を越えて次の発明を出し続けると確信できる時だけだ。
何で稼ぐ会社か
収益の中心は医療用医薬品で、大きく2つの流れがある。1つは自社で創製した抗体医薬をロシュに導出し、ロシュが世界で販売した売上からロイヤルティを受け取る「ライセンス収入」。もう1つは国内市場で自ら販売する「自社販売」で、ロシュが創製したテセントリクなどの製品を国内で中外が販売するケースも含む。この二本立てを会社は「ダブルウィング収益構造」と呼び、自社の研究開発投資を抑えながら世界規模の販売網を間接的に使える点が強みになっている。
主力薬は血友病A治療薬ヘムライブラ(抗体医薬として世界初の血友病治療薬、少量・低頻度投与が可能なリサイクリング抗体技術を用いる)、多発性硬化症関連疾患の視神経脊髄炎スペクトラム障害治療薬エンスプリング、発作性夜間ヘモグロビン尿症治療薬ピアスカイ(クロバリマブ、2024年国内承認)、肺がん治療薬アレセンサなど。低分子・中分子でも成果があり、自社創製の飲む肥満症薬オルフォルグリプロンは 2018 年にイーライリリーへ導出され、2026 年 4 月に米国で承認された(中外は世界売上に応じて一桁台半ば〜十数% のロイヤルティを受け取る)。研究所では次世代抗体エンジニアリング技術(スイッチ抗体ROSE12など)を用いた複数の自社創製プロジェクトが相次ぎ臨床入りしており、パイプラインの厚みが今後の成長の源泉になる。
国内では薬価制度の下で既存薬(長期収載品を含む)の単価が毎年の薬価改定で下がり続ける一方、高齢化による処方件数の自然増と新薬の投入がこれを部分的に相殺する。海外(主に米国・欧州)はロシュを通じたロイヤルティが中心で、ドル・ユーロの実質的な販売動向と、米国の薬価交渉制度(IRA)の運用がロイヤルティの伸びに影響する。
優良さと弱いところ
堀の中心は、リサイクリング抗体・スイッチ抗体という独自の抗体エンジニアリング技術で、少量投与・低頻度投与・在宅自己注射といった患者の利便性と薬効を同時に高める製品を連続して生み出せる創薬力そのものにある。これはロシュという世界最大級の製薬会社の販売網と資本力を使って回収できる点で、単独で世界展開するより資本効率が高い珍しいビジネスモデルになっている。ROEは直近で20%台と医薬品業種の中では高水準で、自己資本比率も8割を超え財務は極めて健全。
一方で、収益の相当部分がヘムライブラという単一の血友病フランチャイズに依存しており、血友病領域では遺伝子治療という非薬剤の新技術が将来の競合として台頭している。後継品NXT007の開発は進むが、投与間隔や価格設定で遺伝子治療との競争にどう対応するかは未知数で、単一の主力薬への依存度の高さは大手新薬会社の中でも相対的に大きい弱点である。
経営の独立性はロシュとの提携の建前上保たれているが、株式の59.9%をロシュが握る構造ゆえに、ライセンス条件の妥当性など少数株主との利益が完全に一致するとは限らないガバナンス上の論点も残る。資本配分は保守的で、大型M&Aに自ら出る動きはほとんどなく、自社創薬とロシュへの導出に資本を集中させる一本足打法に近い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内医療用医薬品市場は薬価ベースで2024年度に11兆4,874億円と過去最高を更新したが、既存薬の単価は毎年の薬価改定(中間年改定を含む)で下がり続けるのが日本市場の構造で、量の緩やかな増加と新薬の高単価でこれをカバーする綱引きが続く。世界市場は2025年に約1.6兆ドル規模で、COVID関連を除く成長率は年3〜6%、肥満症治療薬など一部領域は年20%超の伸びが見込まれる一方、2026〜2030年にかけて業界全体で超大型薬の特許切れ(パテントクリフ)が相次ぐ宿命的なテーマがある。中外製薬にとっても、ヘムライブラの米欧の独占が2032年前後に終わる見込みで、アクテムラはすでに後続品が出ており、アレセンサの米国の後発品も2035年ごろに迫る。血友病ではノボ・サノフィの新薬と遺伝子治療も重なる時期にあり、ピアスカイ・エンスプリングといった新薬や次世代抗体プロジェクトでどれだけ谷を埋められるかが最大の論点になる。
競合は国内では武田薬品工業・アステラス製薬・第一三共・エーザイなどの大手新薬各社、グローバルではメルク・ファイザー・ノバルティス・ロシュ本体(提携先でもあり競合領域も一部ある)などの超大手と戦う構図。血友病領域では遺伝子治療を開発する新興バイオ企業も将来の競合になり得る。がん領域では抗体薬物複合体(ADC)で第一三共が世界的に高い評価を得ており、同じモダリティ(抗体関連技術)での技術競争も業界内で激しくなっている。
米国の薬価交渉制度(IRA)の運用強化がロイヤルティ収入の伸びにどこまで効くか、国内の薬価制度見直し(イノベーション評価の拡充か、中間年改定の継続か)の方向も業績を左右する構造的な要因として残る。
資本政策と M&A
配当は Core EPS に対する配当性向 45% を平均の目安にする。2014〜2025 年の 12 年で、配当は純利益の約 5 割だった。2025 年は創業 100 周年の記念配当を加え、純利益とほぼ同額の約 4,500 億円を払っている。自社株買いはしていない。
余った現金の行き先は、筆者がとくに確かめた点だ。ロシュが 59.9% を持つ親子上場では、利益が株主に戻らず会社に溜まる心配がある。実績は逆だった。12 年で留保は約 1.2 兆円あったが、純現金の増えは約 3,100 億円にとどまる。大半は研究所・工場への投資と在庫に回ったとみられ、金庫には積んでいない。溜まった年は記念配当で戻している。親会社のロシュにとっても配当は自社の収入になる。そこで将来の余った現金は、戻る前提(戻り方 1.0)で足した。
M&A は自ら出ない。ロシュが 2008 年の TOB で出資比率を 50.1% から 59.9% に上げた前例があり、さらに引き上げる可能性は残る。ただし過半を握って支配している以上、少数株主に高値が付く買収は期待しない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
抗体技術という発明の機械が、まだ止まっていない。リサイクリング抗体はアクテムラとヘムライブラを生み、スイッチ抗体は次の薬を生んでいる。ヘムライブラの後継 NXT007 が投与間隔と効き目で競合を上回れば、患者を引き継いで独占は 2040 年代まで延びる。
オルフォルグリプロンは 2026 年 4 月に米国で承認された。飲み薬の肥満症薬は注射を嫌う患者へ市場を広げる。リリーの世界売上が 250 億ドルに迫れば、ほぼ費用なしのロイヤルティが年 4,000 億円規模になる。エンスプリング・ピアスカイの適応拡大と、第 3 相の開発品が続けば、特許切れで失う利益を新薬が上回る。
ロシュの販売網を借りるので世界展開の費用が要らず、純現金で借金もない。営業利益率は 5 割に近く、配当を出しながら研究を続けられる。ロシュが過半を握るため、買収で揺さぶられる心配もなく、長期の研究に腰を据えられる。会社の目標は、自社創製の世界品を毎年のように上市することだ。TOP I 2030 の計画どおりに進めば、崖の谷は浅く済む。
慎重な見方
利益の中身を見れば、崖は避けられない。ヘムライブラは 2032 年前後に米欧の独占が終わり、後続品の開発がすでに始まっている。ノボの月 1 回薬やサノフィの新薬、遺伝子治療も患者を取りにくる。アクテムラはもう後続品で減っている。
穴を埋める頼みのオルフォルグリプロンは、ロイヤルティが段階制で、売上が伸びても率の上がり方は緩やかだ。ノボの飲み薬や注射の値下げと競り、安全性の問題が出れば処方は止まる。物質特許が切れる 2040 年前後には、この利益も消える。
開発品は当たる前提だが、第 3 相でも 4 割は外れる。ロシュ向けの輸出価格と率は契約で決まり、中外が自由に上げられない。国内は薬価が毎年下がる。10 年後に今の利益水準を保つには、複数の新薬が同時に当たる必要がある。ロシュが 6 割を握るため、少数株主に有利な条件への改定も期待しにくい。アレセンサも米国の後発品が 2035 年ごろに入る。主力が次々に期限を迎えるのに、後継が当たる保証はない。
どちらに重みを置いたか
強気の見方の中核は発明の力とオルフォルグリプロンで、説得力がある。だが利益を品目で分けると、2035 年の中立でも事業の利益の 6 割以上が期限のある品に乗る。期限は 2032 年前後のヘムライブラの独占終了と、2040 年前後のロイヤルティの終わりだ。慎重な見方の指摘が数字に強く効く。確率は中立を中心に、開発品の失敗と血友病の競争を映して、悲観側を 3 割強に置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 7,356 円12.11 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,675 円2.76 兆円)。 今の値に割り戻すと 4,736 円7.79 兆円、今との差 −28.4%、 期待の年率 +3.2%(資本コスト 7.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 13% | 14,293 円23.52 兆円 | 2,407 円3.96 兆円 | +152.5% | +9.7% | 2,171 円3.57 兆円 |
| やや楽観 | 24% | 10,558 円17.38 兆円 | 1,976 円3.25 兆円 | +89.5% | +6.6% | 3,008 円4.95 兆円 |
| 中立 | 32% | 7,714 円12.69 兆円 | 1,644 円2.71 兆円 | +41.5% | +3.5% | 2,994 円4.93 兆円 |
| やや悲観 | 20% | 1,975 円3.25 兆円 | 1,298 円2.14 兆円 | −50.5% | −6.8% | 655 円1.08 兆円 |
| 悲観 | 11% | 913 円1.50 兆円 | 925 円1.52 兆円 | −72.2% | −12.0% | 202 円3,328 億円 |
| 加重平均 | 100% | 7,356 円12.11 兆円 | 1,675 円2.76 兆円 | +36.5% | +3.2% | 9,031 円14.86 兆円 |
今の株価時価総額 6,614 円10.89 兆円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 13% オルフォルグリプロンが大型化し、NXT007 が血友病を引き継ぐ 利益 10,068 億円 · PER 22.2 倍 · 株価時価総額 14,293 円23.52 兆円
オルフォルグリプロンが肥満症・2 型糖尿病・睡眠時無呼吸に広がり、2035 年のリリーの世界売上は 250 億ドル、中外の平均率は 11% に上がる。物質特許は延長を含め 2040 年代初めまで続くとみて、残りは 7 年。ヘムライブラは 2032 年前後に米欧の独占が終わるが、NXT007 への切り替えが先行し、後続品の浸透は遅く、患者は 4.8 万人。アレセンサの米国の後発品は和解条件で 2035 年以降になり、アクテムラの谷は新薬に飲み込まれる。エンスプリング・ピアスカイに続く自社創製品が毎年のように承認され(TOP I 2030 の目標がほぼ実現)、営業利益は 1.3 兆円台。ROE は余った現金を除いて 28% 前後を保つ。
- 血友病フランチャイズ(ヘムライブラ、後継の NXT007 を含む):数量 4.8(世界の使用患者数(万人、年間))× 価格 1,786(患者 1 人・1 年あたりの中外の取り分(億円/万人、名目))→ 売上 8,573 億円・営業利益 7,030 億円。患者×取り分
- アクテムラ(関節リウマチ等):数量 7.0(使用患者数(万人、推定))× 価格 105(1 人・1 年あたりの中外の取り分(億円/万人、名目))→ 売上 735 億円・営業利益 404 億円。後続品で減少
- アレセンサ(ALK 陽性肺がん):数量 2.3(使用患者数(万人、推定))× 価格 435(1 人・1 年あたりの売上(億円/万人、名目))→ 売上 1,000 億円・営業利益 600 億円。米国の後発品は 2035 年以降
- 自社創製の新薬と開発品(エンスプリング・ピアスカイ・開発品の期待値):数量 15.0(使用患者数(万人、推定。開発品は成功確率を掛けた期待値))× 価格 420(1 人・1 年あたりの売上(億円/万人、名目))→ 売上 6,300 億円・営業利益 3,780 億円。新薬と開発品の期待値
- 国内のロシュ品と既存薬(テセントリク・ポライビー・フェスゴ・バビースモ・アバスチン等):数量 55.0(国内の処方患者数(万人、推定))× 価格 62(1 人・1 年あたりの売上(億円/万人、名目))→ 売上 3,410 億円・営業利益 1,023 億円。薬価の引き下げ
- オルフォルグリプロン(リリーへ導出した飲む肥満症薬)のロイヤルティ:数量 250(リリーの世界売上(億ドル))× 価格 0.11(ロイヤルティ率(段階的、平均))→ 売上 4,125 億円・営業利益 4,001 億円。リリーの売上×ロイヤルティ率
倍率:事業の純利益 9,820 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 28.1% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 17.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 22.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 22.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)17,716 億円。全体の PER 22.15 倍、時価総額 235,228 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:オルフォルグリプロンの大型化、NXT007 の成功、後期開発品の複数の成功が同時に要るため 1 割強。
やや楽観 24% 飲む肥満症薬が柱になり、特許切れの谷を越える 利益 7,486 億円 · PER 21.5 倍 · 株価時価総額 10,558 円17.38 兆円
オルフォルグリプロンは飲み薬の GLP-1 の主力の一つとして 2035 年に世界売上 190 億ドル、ロイヤルティは年 2,800 億円を超える。残りの特許は 6 年とみる。ヘムライブラは 2032 年前後の独占終了のあとも NXT007 が患者を引き継ぎ、患者は 4.3 万人、取り分は物価の約 7 割の伸び。アクテムラは後続品で 7 割減り、アレセンサは米国の後発品が 2035 年にかかり始める。自社創製の新薬は第 3 相の品の半分強が承認され、エンスプリング・ピアスカイの適応拡大と合わせて年 4,900 億円。営業利益は 1 兆円を超え、配当も増え続ける 10 年になる。
- 血友病フランチャイズ(ヘムライブラ、後継の NXT007 を含む):数量 4.3(世界の使用患者数(万人、年間))× 価格 1,700(患者 1 人・1 年あたりの中外の取り分(億円/万人、名目))→ 売上 7,310 億円・営業利益 5,848 億円。患者×取り分
- アクテムラ(関節リウマチ等):数量 6.0(使用患者数(万人、推定))× 価格 100(1 人・1 年あたりの中外の取り分(億円/万人、名目))→ 売上 600 億円・営業利益 312 億円。後続品で減少
- アレセンサ(ALK 陽性肺がん):数量 1.8(使用患者数(万人、推定))× 価格 400(1 人・1 年あたりの売上(億円/万人、名目))→ 売上 720 億円・営業利益 396 億円。米国の後発品は 2035 年以降
- 自社創製の新薬と開発品(エンスプリング・ピアスカイ・開発品の期待値):数量 12.0(使用患者数(万人、推定。開発品は成功確率を掛けた期待値))× 価格 410(1 人・1 年あたりの売上(億円/万人、名目))→ 売上 4,920 億円・営業利益 2,854 億円。新薬と開発品の期待値
- 国内のロシュ品と既存薬(テセントリク・ポライビー・フェスゴ・バビースモ・アバスチン等):数量 52.0(国内の処方患者数(万人、推定))× 価格 58(1 人・1 年あたりの売上(億円/万人、名目))→ 売上 3,016 億円・営業利益 875 億円。薬価の引き下げ
- オルフォルグリプロン(リリーへ導出した飲む肥満症薬)のロイヤルティ:数量 190(リリーの世界売上(億ドル))× 価格 0.10(ロイヤルティ率(段階的、平均))→ 売上 2,850 億円・営業利益 2,764 億円。リリーの売上×ロイヤルティ率
倍率:事業の純利益 7,235 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 25.0% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 16.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 21.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 21.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)17,916 億円。全体の PER 21.54 倍、時価総額 173,762 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:承認済みのオルフォルグリプロンの成長と、開発品の期待値どおりの成功が揃う上側の筋書き。
中立 32% 崖の最中に新薬とロイヤルティで下支えする 利益 5,498 億円 · PER 20.7 倍 · 株価時価総額 7,714 円12.69 兆円
ヘムライブラは 2030 年に約 6,500 億円まで伸びたあと、2032 年前後の独占終了とノボの Mim8・サノフィのキュフィトリアに押され、2035 年は患者 3.6 万人・約 5,900 億円。NXT007 が一部を引き継ぐが、後続品の浸透で以後も年 7% ずつ減る。アクテムラは 7 割減の約 540 億円、アレセンサは米国の後発品が 2035 年にかかり始めて約 500 億円で、そのあと急減する。穴を埋めるのが、オルフォルグリプロンのロイヤルティ(世界売上 140 億ドル×平均 9.5%、年 2,000 億円弱。物質特許は残り 6 年)と、自社創製の新薬(エンスプリング・ピアスカイの適応拡大と、開発品の期待値で年 4,000 億円)だ。売上は年 2% 台の成長、営業利益は 7,300 億円前後。利益はまだ高いが、その 6 割強が期限のある品に乗っている。
- 血友病フランチャイズ(ヘムライブラ、後継の NXT007 を含む):数量 3.6(世界の使用患者数(万人、年間))× 価格 1,650(患者 1 人・1 年あたりの中外の取り分(億円/万人、名目))→ 売上 5,940 億円・営業利益 4,633 億円。患者×取り分
- アクテムラ(関節リウマチ等):数量 6.0(使用患者数(万人、推定))× 価格 90(1 人・1 年あたりの中外の取り分(億円/万人、名目))→ 売上 540 億円・営業利益 270 億円。後続品で減少
- アレセンサ(ALK 陽性肺がん):数量 1.5(使用患者数(万人、推定))× 価格 330(1 人・1 年あたりの売上(億円/万人、名目))→ 売上 495 億円・営業利益 248 億円。米国の後発品は 2035 年以降
- 自社創製の新薬と開発品(エンスプリング・ピアスカイ・開発品の期待値):数量 10.0(使用患者数(万人、推定。開発品は成功確率を掛けた期待値))× 価格 400(1 人・1 年あたりの売上(億円/万人、名目))→ 売上 4,000 億円・営業利益 2,240 億円。新薬と開発品の期待値
- 国内のロシュ品と既存薬(テセントリク・ポライビー・フェスゴ・バビースモ・アバスチン等):数量 50.0(国内の処方患者数(万人、推定))× 価格 54(1 人・1 年あたりの売上(億円/万人、名目))→ 売上 2,700 億円・営業利益 756 億円。薬価の引き下げ
- オルフォルグリプロン(リリーへ導出した飲む肥満症薬)のロイヤルティ:数量 140(リリーの世界売上(億ドル))× 価格 0.10(ロイヤルティ率(段階的、平均))→ 売上 1,995 億円・営業利益 1,935 億円。リリーの売上×ロイヤルティ率
倍率:事業の純利益 5,243 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 21.7% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 14.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)18,205 億円。全体の PER 20.74 倍、時価総額 126,948 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:特許切れの谷を、承認済みのロイヤルティと開発品の期待値でおおむね埋める中心の筋書き。
やや悲観 20% 谷を埋めきれない 利益 2,782 億円 · PER 6.8 倍 · 株価時価総額 1,975 円3.25 兆円
オルフォルグリプロンは飲み薬の競争(ノボのウゴービ錠、後続の経口薬)に押され、2035 年の世界売上は 80 億ドルにとどまる。物質特許の残りは 5 年。ヘムライブラは 2032 年前後の独占終了と Mim8 で患者・取り分とも落ち、後続品も早く浸透して以後は年 1 割ずつ減る。NXT007 も優位を示しきれない。第 3 相の開発品の多くが失敗し(失敗は業界で 4 割前後)、自社創製の新薬は年 2,600 億円程度。アクテムラ・アレセンサの谷が残り、営業利益は 3,600 億円まで下がる。配当は急には減らさないので、利益より還元が重くなる。市場は中外を「特許切れの谷にいる会社」として見るようになる。
- 血友病フランチャイズ(ヘムライブラ、後継の NXT007 を含む):数量 3.0(世界の使用患者数(万人、年間))× 価格 1,350(患者 1 人・1 年あたりの中外の取り分(億円/万人、名目))→ 売上 4,050 億円・営業利益 2,997 億円。患者×取り分
- アクテムラ(関節リウマチ等):数量 5.0(使用患者数(万人、推定))× 価格 80(1 人・1 年あたりの中外の取り分(億円/万人、名目))→ 売上 400 億円・営業利益 180 億円。後続品で減少
- アレセンサ(ALK 陽性肺がん):数量 1.2(使用患者数(万人、推定))× 価格 280(1 人・1 年あたりの売上(億円/万人、名目))→ 売上 336 億円・営業利益 151 億円。米国の後発品は 2035 年以降
- 自社創製の新薬と開発品(エンスプリング・ピアスカイ・開発品の期待値):数量 7.0(使用患者数(万人、推定。開発品は成功確率を掛けた期待値))× 価格 370(1 人・1 年あたりの売上(億円/万人、名目))→ 売上 2,590 億円・営業利益 1,243 億円。新薬と開発品の期待値
- 国内のロシュ品と既存薬(テセントリク・ポライビー・フェスゴ・バビースモ・アバスチン等):数量 47.0(国内の処方患者数(万人、推定))× 価格 50(1 人・1 年あたりの売上(億円/万人、名目))→ 売上 2,350 億円・営業利益 611 億円。薬価の引き下げ
- オルフォルグリプロン(リリーへ導出した飲む肥満症薬)のロイヤルティ:数量 80.0(リリーの世界売上(億ドル))× 価格 0.09(ロイヤルティ率(段階的、平均))→ 売上 1,020 億円・営業利益 989 億円。リリーの売上×ロイヤルティ率
倍率:ROE 13.2%(余った現金を除く事業の自己資本で測る)。RONIC = k 7.5% + 残る割合 1/2 ×(ROE − 7.0%)= 10.1%、g 3.5% から正当化 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g) = 18.7 倍。崖は倍率でなく利益側で置いた。期限のない部分(新薬・国内のロシュ品。研究開発費を売上比で配賦した税後の利益 474 億円)には、新薬を作り続ける事業として上限の 8.0 割の 14.9 倍を掛けた。期限のある品は残りの年数で評価した:ヘムライブラは以後年 10% ずつ減るとして税後利益の 5.3 倍、アクテムラは年 8% 減で 6.1 倍、アレセンサは年 25% 減で 2.3 倍、オルフォルグリプロンは物質特許の切れる残り 5 年の年金で 4.1 倍。これらの合計 17,456 億円を純利益(現金の利息を除く)2,572 億円で割った実効の PER が 6.79 倍。余った現金 15,044 億円(戻り方 1.0)は別に足す。利益の 6 割強が期限のある品に乗るため、実効の PER は永続を前提にした 1÷k の床(注意の札)を下回る。永続しない利益に永続の床は当てはまらない。
確率:開発品の失敗と大型品の特許切れが重なる筋書きで、業界の第 3 相の成功率(約 6 割)から見て 2 割を置いた。
悲観 11% 血友病の柱を失い、普通の中堅製薬になる 利益 343 億円 · PBR 0.7 倍 · 株価時価総額 913 円1.50 兆円
血友病の治療が遺伝子治療と月 1 回の競合品に移り、ヘムライブラと NXT007 は患者 2 万人・取り分も大きく下がる。2032 年前後の独占終了後は後続品が一気に入り、以後は年 15% ずつ減る。オルフォルグリプロンは安全性や競合で大きく育たず、2035 年の世界売上は 25 億ドル程度で、特許の残りも 4 年。自社創製の開発品も大半が治験で成果を出せず、アクテムラ・アレセンサの谷がそのまま残る。研究開発費を維持すると利益はほぼ消え、ロシュへの新規導出も細る。「独自の創薬力を持つ優良企業」という評価は外れ、純現金と研究基盤を持つ普通の中堅製薬として評価される。配当は前半の年の利益と純現金、遊休資産の売却で続けるが、後半は減らす。
- 血友病フランチャイズ(ヘムライブラ、後継の NXT007 を含む):数量 2.0(世界の使用患者数(万人、年間))× 価格 1,000(患者 1 人・1 年あたりの中外の取り分(億円/万人、名目))→ 売上 2,000 億円・営業利益 1,300 億円。患者×取り分
- アクテムラ(関節リウマチ等):数量 4.0(使用患者数(万人、推定))× 価格 70(1 人・1 年あたりの中外の取り分(億円/万人、名目))→ 売上 280 億円・営業利益 112 億円。後続品で減少
- アレセンサ(ALK 陽性肺がん):数量 0.8(使用患者数(万人、推定))× 価格 200(1 人・1 年あたりの売上(億円/万人、名目))→ 売上 160 億円・営業利益 56 億円。米国の後発品は 2035 年以降
- 自社創製の新薬と開発品(エンスプリング・ピアスカイ・開発品の期待値):数量 4.0(使用患者数(万人、推定。開発品は成功確率を掛けた期待値))× 価格 340(1 人・1 年あたりの売上(億円/万人、名目))→ 売上 1,360 億円・営業利益 544 億円。新薬と開発品の期待値
- 国内のロシュ品と既存薬(テセントリク・ポライビー・フェスゴ・バビースモ・アバスチン等):数量 44.0(国内の処方患者数(万人、推定))× 価格 45(1 人・1 年あたりの売上(億円/万人、名目))→ 売上 1,980 億円・営業利益 436 億円。薬価の引き下げ
- オルフォルグリプロン(リリーへ導出した飲む肥満症薬)のロイヤルティ:数量 25.0(リリーの世界売上(億ドル))× 価格 0.07(ロイヤルティ率(段階的、平均))→ 売上 263 億円・営業利益 255 億円。リリーの売上×ロイヤルティ率
倍率:血友病の柱を失い純利益が 343 億円にしかならず、稼ぐ力(純利益 ÷ k)では値が付かない。純現金と期限つきの利益の売却価値の税後 15,038 億円(今の自己資本 20,257 億円の約 7.4 割)に置いた。
確率:血友病・肥満症・開発品のすべてが外れる複合の筋書きで、1 割強を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
血友病フランチャイズ(ヘムライブラ、後継の NXT007 を含む)
ヘムライブラの国内販売・ロシュ向け輸出・ロシュからのロイヤルティとプロフィットシェア。後継の NXT007(第 3 相)も同じ患者に使うのでここに含める。
| 数量世界の使用患者数(万人、年間) | 価格患者 1 人・1 年あたりの中外の取り分(億円/万人、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 3.2 | 1,709 | 5,469 | 4,375 |
| 10 年後 中立 | 3.6 | 1,650 | 5,940 | 4,633 |
取り方:2025 年の国内 627 億円+ロシュ向け輸出 3,445 億円+ロイヤルティ等の大半(約 1,400 億円)の約 5,470 億円を、世界の使用患者 3.2 万人(推定)× 1 人あたりの取り分で割った。血友病 A は世界で約 20 万人、定期的に予防投与を受けるのは 6〜7 万人。競合は第 VIII 因子製剤、ノボのアルヒーモと月 1 回の Mim8、サノフィのキュフィトリア、遺伝子治療。【特許の年表(推定)】米国のバイオ薬の独占は 2029 年 11 月、物質特許は延長を含め 2032 年前後まで。後続品は開発中で、2026 年時点で承認済みはない。切れたあとは後続品の浸透が遅く、5 年で 3〜6 割減が目安。【中立の道筋】2030 年に約 6,500 億円まで伸び、2032 年前後に独占が終わり、2035 年は患者 3.6 万人(NXT007 への切り替えと競合で伸びは鈍る)×取り分 1,650(2025 年の 0.97 倍)で約 5,940 億円。取り分が物価(1.34 倍)に届かないのは、ロシュ向けの輸出価格が契約で物価に連動せず、米国は純価格が年 2% 前後、欧州・日本は横ばい〜下がり、後続品の値下げが重なるため(物価の約 0.72 倍)。2035 年以降は後続品の浸透で年 7% ずつ減る見込み(利益側で評価)。
アクテムラ(関節リウマチ等)
国内販売・ロシュ向け輸出・ロイヤルティ。米欧でバイオ後続品が 2024 年から発売済み。
| 数量使用患者数(万人、推定) | 価格1 人・1 年あたりの中外の取り分(億円/万人、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 20.0 | 112 | 2,237 | 1,454 |
| 10 年後 中立 | 6.0 | 90 | 540 | 270 |
取り方:2025 年の国内 505 億円+ロシュ向け輸出 1,582 億円+ロイヤルティ約 150 億円の約 2,240 億円を、世界の使用患者 20 万人(推定)で割った。【特許の年表】米国ではバイオジェンのトフィデンス(2023 年承認)・フレゼニウスのタイエン(2024 年)が発売済みで、欧州も同様。もう切れた品で、5 年で 3〜6 割減が目安。【中立の道筋】2030 年に約 1,000 億円、2035 年は患者 6 万人×取り分 90(物価の約 0.6 倍。後続品との値下げ競争)で約 540 億円。2035 年以降も年 6% ずつ減る。
アレセンサ(ALK 陽性肺がん)
自社創製の低分子薬。国内販売とロシュ向け輸出。
| 数量使用患者数(万人、推定) | 価格1 人・1 年あたりの売上(億円/万人、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 2.0 | 464 | 927 | 603 |
| 10 年後 中立 | 1.5 | 330 | 495 | 248 |
取り方:2025 年の国内 335 億円+ロシュ向け輸出 592 億円の約 930 億円を、使用患者 2 万人(推定)で割った。競合はファイザーのロルラチニブ。【特許の年表】米国の特許は 2030〜2035 年の複数本で、後発品の最も早い参入は 2035 年(特許情報サイトの推定。2022 年に米国の後発品メーカーと和解したが条件は非公開)。低分子なので、参入後 2〜3 年で米国の売上は 8〜9 割減る。【中立の道筋】2030 年は国内の薬価下げと海外の伸びが相殺して約 900 億円、2035 年は米国の後発品が年の途中から入り患者 1.5 万人×取り分 330(物価の約 0.53 倍)で約 495 億円。2035 年以降は急減(年 4 割)。
自社創製の新薬と開発品(エンスプリング・ピアスカイ・開発品の期待値)
エンスプリング(視神経脊髄炎)、ピアスカイ(PNH・aHUS)と、第 3 相・第 2 相の自社創製品を成功確率で掛けた期待値。
| 数量使用患者数(万人、推定。開発品は成功確率を掛けた期待値) | 価格1 人・1 年あたりの売上(億円/万人、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 3.0 | 346 | 1,038 | 571 |
| 10 年後 中立 | 10.0 | 400 | 4,000 | 2,240 |
取り方:2025 年のエンスプリング国内 292 億円、ロシュ向け輸出のその他(約 435 億円)、ピアスカイ国内、その他の収入の合計約 1,040 億円を、使用患者 3 万人(推定)で割った。【特許の年表】エンスプリング(2020 年承認)・ピアスカイ(2024 年)の物質特許は 2035 年以降まで続くとみて、10 年の間に切れる品はほぼない。開発品は第 3 相で承認まで約 6 割、第 2 相で約 3 割を掛けた期待値。【中立の道筋】2030 年に約 2,200 億円、2035 年は患者 10 万人×取り分 400(物価の約 0.86 倍。米国の薬価交渉と日本の薬価下げ)で約 4,000 億円。内訳はエンスプリング・ピアスカイの適応拡大で約 1,500 億円、後期の開発品の期待値で約 1,500 億円、残りは第 2 相以前の期待値。
国内のロシュ品と既存薬(テセントリク・ポライビー・フェスゴ・バビースモ・アバスチン等)
ロシュが創製し中外が国内で売る薬と、国内の既存薬。仕入れ品なので利益率は低い。
| 数量国内の処方患者数(万人、推定) | 価格1 人・1 年あたりの売上(億円/万人、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 50.0 | 58 | 2,900 | 870 |
| 10 年後 中立 | 50.0 | 54 | 2,700 | 756 |
取り方:2025 年の国内売上 4,724 億円(推定)から自社創製品を除いた約 2,900 億円(テセントリク 628・ポライビー 372・フェスゴ 339・バビースモ 262・アバスチン 261 億円など)を、処方患者 50 万人(推定)で割った。仕入れ品なので利益率は低い。価格は国が毎年下げる(薬価の中間年改定)ので、ロシュの新製品の上乗せがあっても中立の取り分は 10 年で 0.93 倍と、物価並みにはしない。2035 年は約 2,700 億円。
オルフォルグリプロン(リリーへ導出した飲む肥満症薬)のロイヤルティ
中外が創製しイーライリリーに導出した経口 GLP-1 薬。米国で 2026 年 4 月に肥満症で承認(商品名ファウンダヨ)。リリーの世界売上に対し一桁台半ば〜十数%の段階的なロイヤルティ。
| 数量リリーの世界売上(億ドル) | 価格ロイヤルティ率(段階的、平均) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 0.0 | 0.08 | 0 | 0 |
| 10 年後 中立 | 140 | 0.10 | 1,995 | 1,935 |
取り方:2025 年はまだ売上なし。米国で 2026 年 4 月に承認・発売。ロイヤルティは世界売上に応じて一桁台半ば〜十数%(リリーの開示)で、売上が大きいほど平均の率が上がる。売上の目安はリリーの世界売上(億ドル)× 平均の率 × 150 円。市場:肥満症・2 型糖尿病の GLP-1 系は 2030 年代に年 1,000 億ドル超と見込まれ、注射のゼップバウンド・ウゴービ、飲み薬のウゴービ錠(ノボ)と競う。承認済みなので開発の確率は掛けず、売上の大きさで筋書きを分ける。【特許の年表(推定)】物質特許は 2030 年代末〜2040 年代初めに切れ、そこでロイヤルティは止まる。2035 年の時点で残りは 5〜7 年とみて、利益側で評価する。【中立の道筋】2028 年に約 700 億円、2030 年に約 1,300 億円、2035 年はリリーの世界売上 140 億ドル×平均 9.5%で約 2,000 億円。
リスクと懸念
血友病フランチャイズへの依存度の高さ
ヘムライブラを中心とする血友病領域は売上の 4 割強で、米欧の独占は 2032 年前後に終わる見込みだ(推定。後続品は開発中で、2026 年時点で承認済みはない)。ノボの Mim8、サノフィのキュフィトリア、遺伝子治療も患者を取りにくる。後継品 NXT007 が優位を示せなければ、業績全体への打撃が大きい。
国内薬価制度の構造的な下げ圧力
2021年度からの中間年改定定着で、診療報酬改定のない年にも薬価が下がる実質ほぼ毎年の薬価下げが続いている。既存薬・長期収載品の収益性は構造的に下がり続け、新薬の投入ペースがこれを上回れなければ国内事業の収益性が恒常的に低下する。
米国の薬価交渉制度(IRA)の運用強化
ロシュ経由のロイヤルティ収入は米国市場の薬価動向にも間接的に影響を受ける。米国の薬価交渉制度(インフレ削減法=IRA)の運用が強化され、対象薬の価格が交渉で下げられれば、ロシュの世界販売収入が圧迫され、中外に入るロイヤルティの伸びも市場の期待より鈍る可能性がある。制度の対象範囲や交渉の進め方は年々見直されており、先が読みにくい。
ロシュとのガバナンス上の論点
ロシュが発行済株式の59.9%を保有する構造のため、ライセンス条件の設定や研究開発の優先順位の決定など、少数株主の利益とロシュの利益が完全に一致するとは限らない。社名・経営の独立性は建前上保たれているが、2008年のTOBで出資比率を50.1%から59.9%へ引き上げた実例があり、将来さらに出資比率が見直される可能性も資本提携の構造上残っている。
治験の成否という予測できないリスク
次世代抗体エンジニアリング技術(スイッチ抗体ROSE12を含む)から生まれた複数の自社創製プロジェクトが臨床入りしているが、治験の成否は本質的に予測できず、後期治験の失敗は株価と業績の両方に大きな打撃を与える。1つのプロジェクトの成否が将来の収益の柱の有無を左右する「オプション型」の事業構造である点は、安定型の後発品・OTC事業にはないリスクである。
競合の技術革新
第一三共の抗体薬物複合体(ADC)が世界的に高い評価を得ているように、同じ抗体関連モダリティでの技術競争が業界内で激しくなっており、中外の抗体エンジニアリング技術(リサイクリング抗体・スイッチ抗体)の優位性も永続的なものではなく相対的なものに過ぎない。武田・アステラス・第一三共など国内大手もそれぞれ独自のモダリティに投資しており、技術の優劣は数年単位で入れ替わり得る。
オルフォルグリプロンの売上の振れ
リリーに導出したオルフォルグリプロンは 2026 年 4 月に米国で承認されたが、ノボのウゴービ錠や後続の経口薬、注射薬の値下げと競う。2035 年のリリーの世界売上が 250 億ドルなら中外のロイヤルティは年 4,000 億円を超え、25 億ドルなら 300 億円に満たない。安全性の懸念が出れば処方が止まる。物質特許が切れる 2040 年前後でロイヤルティも止まるため、10 年先の価値は残りの年数に強く左右される。
今後の分かれ目
- 後継品NXT007が血友病領域で遺伝子治療に対して明確な優位性(投与間隔・価格)を示したら
- 血友病フランチャイズの筋書きを楽観側に寄せてよい。ヘムライブラの特許切れ懸念も大きく後退する。
- 次世代抗体プロジェクト(ROSE12等)のいずれかが大型化する承認を得たら
- 新薬と開発品の前提を上方修正し、楽観・やや楽観側の確率を上げる。
- 国内の薬価制度見直しでイノベーション評価がさらに拡充されたら
- 国内のロシュ品と既存薬の下げ前提を緩め、中立の筋書きを上方修正する。
- 米国のIRA運用強化でロシュ経由のロイヤルティ収入の伸びが明確に鈍ったら
- やや悲観側に重みを移し、海外ロイヤルティの成長前提を下方修正する。
- ヘムライブラのバイオシミラーが想定より早く主要市場に参入したら
- 悲観側の筋書きが近づいていると見て、特許切れの谷の前倒しを想定する。
- ロシュが出資比率をさらに引き上げる動き(追加TOB等)を見せたら
- 経営の独立性・ガバナンスの前提を見直し、資本政策の論点として再評価する。
- オルフォルグリプロンのリリーの世界売上が 2028 年に 100 億ドルを超えたら
- ロイヤルティ率が上の段に入り、年 1,300 億円超がほぼ費用なしで利益になる。楽観側の確率を上げる。
見ておくもの
- リリーのオルフォルグリプロン(ファウンダヨ)の四半期売上と適応の広がり
- ヘムライブラの世界販売動向と後継品NXT007の治験進捗
- 次世代抗体プロジェクト(ROSE12等)の臨床試験の節目
- 国内薬価制度見直し(中間年改定・イノベーション評価)の方向
- 米国IRAの運用とロシュ経由ロイヤルティ収入の伸び
- ロシュの中外製薬に対する出資比率・資本政策の動き
- アクテムラのバイオ後続品の浸透とアレセンサの米国特許切れの時期
倍率と資本コストの決め方
品目ごとに「患者数 × 1 人あたりの取り分」で 2035 年まで積み、特許の年表(アクテムラは後続品が発売済み、ヘムライブラは 2032 年前後、アレセンサの米国は 2035 年ごろ、オルフォルグリプロンは 2040 年前後)を置いた。崖は倍率の割引で表さず、期限のある品は残りの年数で評価し、期限のない部分にだけ式の倍率を掛けた。資本コストは基本 7.5% に quality −0.5%(循環)で 7.0%。第一三共と揃え、武田・アステラスとの差は借金と崖の近さで説明した。余った現金は実績から戻り方 1.0。今の PER は見ずに決めた。総合の差は 約 48%(割高)。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.09→22.15 倍・やや楽観 PER 10.02→21.54 倍・中立 PER 9.03→20.74 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。