結論
ダイトは富山のジェネリック医薬品の製造会社だ。薬の原料(原薬)と完成品(製剤)を、沢井製薬や東和薬品などの製薬会社から受託して作る。原薬から製剤まで一貫で作れる会社は国内でも少ない。売上の約45%が原薬、約55%が製剤である。
筆者の結論は「割高」だ。10年後の中立でも時価総額は今の9割に届かず、確率で重みづけた本質価値は今を3割強下回る。事業は堅い。ただ、工場と自己資本が重く、稼ぐ力が資本コストに届かない。この差が、株主の取り分を薄くしている。
新しい種はある。小野薬品から引き継ぐ先発薬オパルモン、新薬の治験薬の製造、中国の集中購買、杏林製薬の後発品事業の引き受けだ。当たれば利益は伸びる。しかし、いずれも規模はまだ小さく、杏林分は赤字の事業を抱える形になる。
向かい風も根深い。ジェネリックの薬価は毎年下がり、顧客の中堅メーカーは淘汰される側にいる。上位2社に頼る売上の形は、再編のたびに交渉力を削られる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、良い工場と良い値段を分けて考える。工場は良い。原薬から製剤まで一貫で作れ、顧客は大手が中心で、無理な借金もしていない。営業キャッシュフローは過去最高の94億円まで増え、会社は在庫を減らして資金を生んだ。経営が資本効率を意識しはじめたのも前進だ。
問題は、稼ぐ力に見合わない資本の重さだ。自己資本は約530億円あるのに、純利益は30億円前後で、自己資本利益率は6%に届かない。資本コストの8%台を下回るので、利益を積んでも株主の取り分はその額面より小さい。これが、今の値段が高いと見る一番の理由である。
筆者が気にするのは、新しい投資の中身だ。杏林の後発品事業は赤字で、持分法の損失が先に出る。オパルモンの規模は未開示で、新薬の治験薬は当たり外れが大きい。それぞれ小さな賭けだが、合わせて数十億円の資本を引き寄せる可能性がある。
安全域は、この値段にはない。楽観に寄せても10年の利益は倍にならず、悲観に落ちれば工場の売却価値が下値になる。割高と書くのは、この非対称のためだ。
何で稼ぐ会社か
事業は原薬と製剤の2本柱だ。2026年5月期の売上は、原薬が約225億円、製剤が約280億円、健康食品などが2億円弱である。原薬は製薬会社に原料として供給し、グループの原薬マスターファイル(国への登録)は106件と、国内トップ水準だ。抗アレルギー剤の原薬が好調で、止血剤・抗凝固薬の原薬が落ちた。
製剤は、顧客から受託した医療用の薬と、自社のジェネリック、市販薬が中心だ。関連会社のフェルゼンファーマ、沢井製薬、東和薬品向けが順調で、大手向けは伸び、中堅・中小向けは予算を下回った。利益は製剤の比率が上がるほど増える構造にある。
設備には重さがある。有形固定資産は約307億円、棚卸資産は約164億円で、営業利益36億円に対して減価償却が44億円ほどかかる。ここ数年は第十製剤棟など大型投資が続いたが、2026年5月期でピークを越えた。
新しい事業は4つある。中国のジェネリック承認と集中購買、小野薬品から引き継ぐオパルモン、ノーベルファーマと進める新薬の治験薬製造(受託開発製造、CDMO)、杏林製薬の後発品事業の引き受けだ。従業員は1,085人である。
優良さと弱いところ
この会社の強みは、原薬から製剤までを同じ屋根の下で作れることにある。原料を自社で持つ製剤メーカーは、品質を管理しやすく、供給も止まりにくい。顧客から見ると、ダイトに頼む理由が明確だ。マスターファイル106件の積み上げは、短期間でまねできない。
ただし堀は薄い。値段は薬価に縛られ、顧客の値下げ要求が毎年届く。売上の大半を沢井製薬や東和薬品などの大手に頼り、顧客が原薬を内製化する、または海外調達に切り替えるリスクがある。中堅・中小の顧客は、すでに予算を下回っている。
資本効率は物足りない。過去10年の自己資本利益率は10%前後だったが、2023年5月期以降は4〜7%に落ちた。自己資本比率は72%と厚く、利益が割に合わない規模まで資産を積んだ形だ。会社も「PBR1倍割れ対策」を中計の柱にし、自社株買いと政策保有株の縮減に動いた。この姿勢は評価できる。
工場の稼働と品質は、いつも綱渡りだ。下奥井工場(旧大和薬品工業)は化審法の手続きに時間がかかり、稼働が大きく下がった。ジェネリック業界では、品質問題による停止が複数社で起きている。1つの工場の止まりが、そのまま利益の穴になる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内のジェネリックは、数量シェアが9割に達し、量の伸びがほぼ天井にきている。政府は2029年度末までに全都道府県で数量シェア80%以上を目標にするが、すでに超えている地域が多い。残る伸びは、高齢化による処方の自然増と、新たに特許が切れる先発薬の置き換えに限られる。
価格は逆風だ。薬価は初収載後に段階的に下がり、中間年改定でも毎年削られる。原薬や製剤を受託するダイトの売値は、顧客の薬価を見ながら交渉されるので、物価が3%上がっても、そのまま転嫁できない。人件費や電気代の上昇が先に利益を削る。
構造は再編に向かう。品質規制が厳しくなり、薬価の下げで採算が合わない中小メーカーは撤退や統合を迫られている。顧客が減れば、受託の仕事も減る。ただし、生き残る大手は、供給を安定させるために信頼できる受託先を求める。ダイトにとっては、淘汰の波が脅威にも追い風にもなる。
国内の外では、中国の集中購買(国が入札で大量に買う仕組み)が代表的な市場だ。勝てば量は出るが、値段は極端に低い。インドや中国の原薬メーカーとの価格競争も続く。円安は原材料費を押し上げ、2025年5月期の減益の一因になった。
資本政策と M&A
還元は強まっている。2026年5月期の配当性向は37%で、2027年5月期は1割強の増配を見込む。配当性向は40%超、純資産配当率(DOE)は2.5%を目安にする。加えて、自社株買いと消却に力を入れ、政策保有株は段階的に減らしている。ただし、金額の総枠は開示されていない。
大きな動きが2つある。1つは、小野薬品からのオパルモン錠・プロスタンディン軟膏の承継だ。先発薬の承認を持つのは初めてで、販売は他社に委託する予定だ。もう1つは、杏林製薬の後発品事業を引き受ける新会社への参加だ。ダイトが49.1%、Meiji Seikaファルマが36.0%、日本政策投資銀行が14.9%を出資し、2027年4月に承継する。対象のキョーリンリメディオは、2025年3月期に経常損失が7.8億円あった。
新会社は持分法の関連会社になるので、赤字はダイトの利益から差し引かれ、再建の出資も必要になる。譲渡価額と追加の出資額は公表されていない。うまくいけば、杏林の工場がダイトの受託の受け皿に変わる。
株主には、カナメ・キャピタル(11%)や海外ファンド(9%台)が名を連ね、変化への圧力は強い。10年以内に買収される確率は、kabufu の目安で27%ある。株主優待は健康食品の割引券で、費用は1億円未満のため、価値の差は1ポイントに届かない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
営業利益は底を打った。2025年5月期の26億円から、2026年5月期は36億円へ増え、4期ぶりの増益を果たした。設備投資はピークを越え、減価償却の増加も一巡する。営業キャッシュフローは過去最高の94億円で、自由に使える現金が年30億円規模で出る。これが配当と自社株買いに回り、PBR1倍割れの是正が進む。
成長の種も揃った。2027年5月期の会社計画は売上540億円、営業利益40億円で、オパルモンの承継、新規上市品、中国の集中購買の獲得が寄与する。ノーベルファーマの多系統萎縮症の治験薬は第3相に入り、成功すれば本格的な製造受託が見える。杏林の2工場が加われば、供給網の厚みは増す。
株主の目も変わった。カナメ・キャピタルと海外ファンドが約2割を握り、資本効率の改善が経営の宿題になっている。買収される確率も27%と低くない。工場の中身を考えれば、買収価格は今の自己資本の8割を超える水準もありうる。
慎重な見方
ジェネリックの薬価は毎年下がる。数量は天井にあり、売上が横ばいでも、人件費と電気代は上がるので利益率は削られる。2025年5月期は、円安・減価償却・在庫評価損が重なり、営業利益が3割減った。同じ型の減益は、いつでも起こる。
売上の大半は、沢井製薬や東和薬品など数社の大手に依存する。大手は原薬を内製化することも、インドや中国から買うこともできる。中堅の顧客はすでに予算を下回り、淘汰が進めば受託の仕事も減る。中国の集中購買は、勝てば量が出るが、値段は極端に低い。
新規事業は小粒で、赤字を抱える。杏林の後発品事業は経常で約8億円の赤字で、持分法の損失とともに追加出資が必要になる。会社も中計の目標を一部下方修正した。理由は、不採算品再算定の非適用、中国の下振れ、高薬理製剤の受託遅延という、自社でコントロールしにくいものだ。
何より、自己資本利益率が6%で資本コストを下回る。利益を積んでも株主の取り分は増えない。今の値段は、この低い効率を前提にしても高い。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方が強いと判断した。事業の質は認めるが、中立でも自己資本利益率は5%台にとどまり、資本コストを下回る。楽観の見方は、2026年5月期の増益と営業キャッシュフローの改善を根拠にするが、薬価の下げと減価償却の戻りで、その勢いが続く保証はない。中立の確率を4割弱に置き、楽観側を25%、悲観側を3割半とした。顧客の淘汰、中国の価格、杏林の赤字という下に引く材料が複数あるので、悲観側を少し厚くしている。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/05 期)
確率で加重した株価時価総額 1,302 円363 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 636 円177 億円)。 今の値に割り戻すと 999 円278 億円、今との差 −25.2%、 期待の年率 +3.8%(資本コスト 8.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 2,683 円748 億円 | 1,094 円305 億円 | +182.9% | +11.0% | 264 円74 億円 |
| やや楽観 | 18% | 1,983 円553 億円 | 861 円240 億円 | +113.1% | +7.9% | 512 円143 億円 |
| 中立 | 38% | 1,502 円419 億円 | 682 円190 億円 | +63.6% | +5.0% | 830 円231 億円 |
| やや悲観 | 27% | 549 円153 億円 | 466 円130 億円 | −23.9% | −2.7% | 274 円76 億円 |
| 悲観 | 10% | 380 円106 億円 | 197 円55 億円 | −56.8% | −8.0% | 58 円16 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,302 円363 億円 | 636 円177 億円 | +45.2% | +3.8% | 1,938 円540 億円 |
今の株価時価総額 1,335 円372 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 7% オパルモン・治験薬・中国が当たり、杏林も黒字化する 利益 63 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 2,683 円748 億円
小野薬品から引き継いだオパルモンが安定した収益源になり、先発薬を持つ会社へ変わる。ノーベルファーマの治験薬は承認に進み、受託の製造が本格化する。中国は集中購買で量を取り、現地の合弁会社も育つ。
杏林製薬から引き継いだ工場は、ダイトの受託の受け皿として稼働率が上がり、新会社は黒字に転じる。製剤の数量は10年で1.65倍、価格は薬価の下げを受けて1.05倍にとどまる。原薬も大手向けが増える。
営業利益率は10%台に乗り、全体で約86億円になる。配当と自社株買いは利益の6割で続き、自己資本利益率は9%に近づく。資本コストにようやく届く水準だ。
- 原薬:数量 2,585(実質の出荷規模の標準ロット換算(1ロット=今の値段で1,000万円相当の出荷))× 価格 0.12(1ロットあたり売上(億円・名目。薬価の下げと原料高を含む))→ 売上 310 億円・営業利益 25 億円。数量1.15倍・価格1.20倍(原料高の転嫁が一部通る)、利益率8%
- 製剤・その他:数量 4,648(実質の出荷規模の標準ロット換算(1ロット=今の値段で1,000万円相当の出荷))× 価格 0.11(1ロットあたり売上(億円・名目。薬価の下げを含む))→ 売上 488 億円・営業利益 61 億円。数量1.65倍・価格1.05倍、利益率12.5%
倍率:事業の純利益 63 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.6% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.83 倍、時価総額 748 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:4つの新しい事業がそろって当たる筋書き。1つずつの確率は高くないので、重なる確率として7%を置いた。
やや楽観 18% 新しい事業が一部当たり、利益率が2%ほど戻る 利益 47 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 1,983 円553 億円
オパルモンと新規の上市品が加わり、製剤の数量は10年で1.45倍になる。ジェネリックの薬価の下げは続くので、価格は物価に届かず1.0倍、利益率は10.8%に戻る。原薬は大手向けが堅調で、利益率7%台。
中国は小さな黒字、杏林の新会社は赤字が縮小して10年後にはほぼ収支とんとんになる。設備投資は減価償却と同じ水準に落ち着き、営業キャッシュフローから年30億円ほどが配当と自社株買いに回る。
営業利益は65億円、全体の利益率は9%台になる。2022年5月期の15%には遠いが、供給不足の特需が剥げた後の平常に近い。
- 原薬:数量 2,473(実質の出荷規模の標準ロット換算(1ロット=今の値段で1,000万円相当の出荷))× 価格 0.12(1ロットあたり売上(億円・名目。薬価の下げと原料高を含む))→ 売上 284 億円・営業利益 21 億円。数量1.10倍・価格1.15倍、利益率7.2%
- 製剤・その他:数量 4,085(実質の出荷規模の標準ロット換算(1ロット=今の値段で1,000万円相当の出荷))× 価格 0.10(1ロットあたり売上(億円・名目。薬価の下げを含む))→ 売上 409 億円・営業利益 44 億円。数量1.45倍・価格1.00倍、利益率10.8%
倍率:事業の純利益 47 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.7% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 553 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:2026年5月期の増益と、2027年5月期の会社計画の方向(オパルモン・新規上市・中国)を一部織り込む。実現しやすい形として18%を置いた。
中立 38% 堅実に増益するが、資本の重さは解けない 利益 36 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 1,502 円419 億円
国内の数量はほぼ横ばいで、伸びは新しい事業から来る。製剤の数量は10年で1.3倍(オパルモン、新規上市、受託の拡大、中国)、価格は薬価の下げを受けて0.95倍。原薬は1.05倍・1.10倍で、利益率6.5%。
製剤の営業利益率は9.5%に上がる。大型投資がピークを越え、減価償却が頭打ちになるので、固定費の重さが軽くなるためだ。ただし、人件費と電気代は物価で上がるので、2022年5月期の15%には戻らない。全体の営業利益は50億円、利益率8.2%になる。
杏林の新会社は、10年かけて収支とんとんの水準に近づく。還元は利益の5割強で、自己資本は約680億円まで増える。自己資本利益率は5%台のまま、資本コストを下回り続ける。優待は続く。
- 原薬:数量 2,360(実質の出荷規模の標準ロット換算(1ロット=今の値段で1,000万円相当の出荷))× 価格 0.11(1ロットあたり売上(億円・名目。薬価の下げと原料高を含む))→ 売上 260 億円・営業利益 17 億円。数量1.05倍・価格1.10倍、利益率6.5%
- 製剤・その他:数量 3,662(実質の出荷規模の標準ロット換算(1ロット=今の値段で1,000万円相当の出荷))× 価格 0.10(1ロットあたり売上(億円・名目。薬価の下げを含む))→ 売上 348 億円・営業利益 33 億円。数量1.30倍・価格0.95倍(薬価の下げ)、利益率9.5%
倍率:事業の純利益 36 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.3% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 419 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:2026年5月期の増益と中計の方向を7割ほど織り込み、薬価の下げと中堅顧客の淘汰で残りを削る。2つの見方の落としどころなので最も厚い確率を置いた。
やや悲観 27% 中堅顧客の淘汰と中国の安値で、利益が足踏みする 利益 15 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 549 円153 億円
大手向けは堅調でも、中堅・中小の顧客の撤退が続き、原薬の数量は10年で0.9倍に減る。価格は物価に届かず1.0倍、利益率は4%まで下がる。製剤の数量は1.05倍、価格は薬価の下げで0.88倍にとどまる。
中国の集中購買で受託した量は出るが、値段が極端に低く、利益は出ない。ノーベルファーマの治験薬も、期待より遅れる。杏林の新会社は赤字が長引き、持分法の損失が毎年数億円のぼる。
営業利益は24億円と、2025年5月期の水準に戻る。配当は下げられず、自己資本は積み上がり、自己資本利益率は2%台に落ちる。
- 原薬:数量 2,023(実質の出荷規模の標準ロット換算(1ロット=今の値段で1,000万円相当の出荷))× 価格 0.10(1ロットあたり売上(億円・名目。薬価の下げと原料高を含む))→ 売上 202 億円・営業利益 8 億円。数量0.90倍・価格1.00倍、利益率4%
- 製剤・その他:数量 2,958(実質の出荷規模の標準ロット換算(1ロット=今の値段で1,000万円相当の出荷))× 価格 0.09(1ロットあたり売上(億円・名目。薬価の下げを含む))→ 売上 260 億円・営業利益 16 億円。数量1.05倍・価格0.88倍、利益率6%
倍率:事業のROE約2.5%はk 8.5%を大きく下回り、PERの上限は1÷k=約12.1倍。稼ぐ力が足踏みする筋書きなので、上限の約7割の8.5倍に置いた。余った現金は無い。
確率:2025年5月期のような減益(製品構成・円安・減価償却)が再び起き、杏林の赤字が重なる筋書き。2024〜2026年の3期で1回起きており、起きやすい形として27%を置いた。
悲観 10% 顧客の淘汰と品質問題が重なり、工場の価値で測られる 利益 1 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 380 円106 億円
ジェネリック業界の品質問題が自社にも波及し、主力工場が停止する。顧客の中堅メーカーが次々に撤退し、大手は原薬を内製化または海外調達に切り替える。原薬の数量は0.7倍、価格は0.95倍、利益率は1.5%まで下がる。
製剤も、受託が大手に集約されて数量は0.8倍になり、薬価の下げで価格は0.8倍にとどまる。中国は価格競争に負けて撤退し、杏林の新会社には追加出資をしたうえで、出資額の多くを減損する。
営業利益は7億円で、持分法の損失が上乗せされて純利益はほぼゼロになる。配当は削減され、稼ぐ力では株主の取り分を測れない。清算に近い形でみれば、運転資産と工場を売って負債を返した残りが床になる。
- 原薬:数量 1,574(実質の出荷規模の標準ロット換算(1ロット=今の値段で1,000万円相当の出荷))× 価格 0.10(1ロットあたり売上(億円・名目。薬価の下げと原料高を含む))→ 売上 150 億円・営業利益 2 億円。数量0.70倍・価格0.95倍、利益率1.5%
- 製剤・その他:数量 2,254(実質の出荷規模の標準ロット換算(1ロット=今の値段で1,000万円相当の出荷))× 価格 0.08(1ロットあたり売上(億円・名目。薬価の下げを含む))→ 売上 180 億円・営業利益 5 億円。数量0.80倍・価格0.80倍、利益率2.5%
倍率:事業のROEはほぼ0%で、稼ぐ力(純利益÷k)は価値にならない。床は今の自己資本(529億円)に掛けた0.2倍で、運転資産と工場の売却価値から負債を引いた約120億円より低く置いた。EVでも見た結果、EV÷営業利益は24倍と高く出るが、営業利益が谷にある筋書きで、利益の倍率では価値を測れないためで、床の資産から出している。
確率:品質問題による工場の停止、顧客の再編、中国・インドの原薬との価格競争が重なる複合の負け筋。ジェネリック業界では品質問題による業務停止が実際に複数社で起きたので、5%を超えて1割を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
原薬
ジェネリックなどの医薬品の原料(抗アレルギー剤・止血剤・抗凝固薬など)。製薬会社へ供給し、一部は自社の製剤に使う。
| 数量実質の出荷規模の標準ロット換算(1ロット=今の値段で1,000万円相当の出荷) | 価格1ロットあたり売上(億円・名目。薬価の下げと原料高を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/05 | 2,248 | 0.10 | 225 | 12 |
| 10 年後 中立 | 2,360 | 0.11 | 260 | 17 |
取り方:2026年5月期の原薬の売上は224.8億円(前期比1.7%減)。出荷の数量(トン数・品目別の量)は開示されていないので、今の値段で1,000万円相当の出荷を1ロットとして換算し、2,248ロット相当とした。物価と薬価の下げ、原料高による値段の変化は、1ロットあたり売上(価格)の側に入れる。営業利益は開示されておらず、製剤の比率が上がると利益が増えるという会社の説明と、全体の営業利益36.4億円から、原薬12億円(率5.3%)、製剤ほか24.4億円(率8.7%)と筆者が配分した推定である。
製剤・その他
受託製造(医療用)、自社のジェネリック、市販薬、健康食品。これからオパルモン(先発薬)と新薬の治験薬が加わる。
| 数量実質の出荷規模の標準ロット換算(1ロット=今の値段で1,000万円相当の出荷) | 価格1ロットあたり売上(億円・名目。薬価の下げを含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/05 | 2,817 | 0.10 | 282 | 24 |
| 10 年後 中立 | 3,662 | 0.10 | 348 | 33 |
取り方:2026年5月期の製剤の売上は279.8億円(前期比1.4%増)、健康食品などが1.8億円で、合わせて281.7億円。数量は開示がないので、1ロット1,000万円相当に換算して2,817ロット相当とした。ジェネリックの薬価は毎年下がり、受託の単価も顧客の薬価に引っ張られるので、価格は物価並みに上がらない前提で置く。営業利益24.4億円は上の原薬の注記のとおりの推定。
リスクと懸念
薬価の下げと顧客の値下げ要求
ジェネリックの薬価は初収載後に段階的に下がり、中間年改定で毎年削られる。顧客の製薬会社は、薬価の下げを受託先に分け与えようとする。人件費や電気代の上昇が先に利益を削る年が続くと、営業利益率は5%台まで戻りうる。
顧客の偏りと中堅メーカーの淘汰
売上の大半は沢井製薬、東和薬品、関連会社のフェルゼンファーマなどの数社に依存する。大手が原薬を内製化または海外調達に切り替えれば、取引は一気に減る。中堅・中小の顧客は、すでに予算を下回り、撤退や統合が進めば受託の仕事も消える。
品質・供給トラブルと工場の稼働
ジェネリック業界では、品質問題による業務停止や出荷停止が複数社で起きた。下奥井工場でも、化審法の手続きで稼働が大きく下がった。1つの工場の停止が、そのまま利益の穴になる。
杏林の後発品事業の引き受け
対象のキョーリンリメディオは2025年3月期に経常損失7.8億円だった。新会社はダイトが49.1%を出資する持分法の関連会社で、赤字は利益から差し引かれ、再建の資金も要る。譲渡価額と追加の出資額は公表されておらず、見えない負担が残る。
中国の集中購買と原薬の海外競争
中国は集中購買で量は取れるが、値段は極端に低く、利益が出るかは未知数だ。インドや中国の原薬メーカーは、価格で日本の原薬メーカーに攻勢をかける。中国の売上が計画を下回り、会社は中計の目標を一部下方修正した。
新薬の治験の失敗とCDMOの遅れ
ノーベルファーマの多系統萎縮症向け新薬は第3相に入ったが、成功の確率は高くない。高薬理製剤の受託は遅れ、すでに中計の目標を下げた理由の1つだ。成功しても、当社の取り分は製造受託に限られる。
円安と原材料高、資本政策の読みづらさ
原料を輸入に頼るので、円安は仕入れを重くし、2025年5月期にも減益の一因になった。株主にはカナメ・キャピタルや海外ファンドが並び、自社株買いや買収の動きが出ても、少数株主の取り分がどう決まるか見えにくい。
今後の分かれ目
- 杏林の新会社が早期に黒字化し、ダイトへの受託が始まったら
- 楽観とやや楽観の確率を上げてよい。持分法の損失が縮み、工場の稼働率が上がるので、製剤の利益率の前提を1%ほど上げる余地が出る。
- 沢井製薬や東和薬品など大手顧客が、原薬を内製化または海外調達に切り替えると発表したら
- 悲観の確率を上げる。原薬の数量を0.7倍へ寄せ、取引の下がり方次第でやや悲観の確率を厚くする。
- 工場で品質問題が起き、行政処分や出荷停止が出たら
- 悲観に確率を移す。停止の期間と、顧客が他社へ移るかを確かめ、床の資産の評価も下げて見る。
- ノーベルファーマの治験が成功し、商用の製造受託が決まったら
- 製剤の数量の前提を上げる。ただし、受託は製造の取り分だけなので、利益率の上げは慎重に見る。
- 大規模な自社株買いが発表され、自己資本が減るか、TOBの動きが出たら
- 自己資本利益率が資本コストに近づくので、倍率を上限寄りに置いてよい。TOBの価格が本質価値を上回るかを比べる。
- 薬価改定で不採算品再算定が適用され、原価高が転嫁されたら
- 価格の前提を物価に近づける余地が出る。製剤の価格を0.95倍から1.0倍に寄せて見る。
見ておくもの
- 営業利益率の推移(製剤比率の上昇と減価償却の頭打ち)
- 杏林の新会社の損益(持分法)と、追加出資の発表
- 大手顧客(沢井・東和)の原薬の調達方針
- 中国の集中購買での受注量と値段
- 自社株買いの規模と自己資本利益率
倍率と資本コストの決め方
倍率は、事業のROEから k 8.5%(基本7.5%に循環−0.5%・値決め+0.5%・借金+0.25%・寿命+0.5%)と長期のg 4%を使い、PERの上限(ROEがk以下なら1÷k)に対して、堀が薄く薬価に縛られることから約7〜8割に置いた。今の株価や今のPER・PBR、同業の倍率は使っていない。数量は実質、薬価の下げと物価は価格の側に入れ、二重がけはしていない。セグメント別の営業利益は開示がなく、全体の営業利益から筆者が配分した。純現金はなく、余った現金は分けていない。投資有価証券は配当が利益に入っているので別に足していない。営業利益率は中立で8.2%と、過去の山(15.1%)より低く、2022年5月期の供給不足の特需は戻らないとみた。優待は小さく、還元に加えていない。リース債務(27億円)は今の形で含み、新リース会計基準で形が変わっても、10年後の数字は今と同じ形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.5→11.83 倍・やや楽観 PER 10.5→11.76 倍・中立 PER 9.5→11.76 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。