結論
栄研化学は、便潜血検査の試薬で国内の約7割、世界でも約7割を握る検査薬メーカーだ。大腸がん検診で使う、あの検査である。尿検査や微生物検査も持つが、利益の柱は便潜血にある。筆者の結論は、事業は強いが、今の株価は10年の価値を大きく上回る割高、というものだ。
理由は利益の薄さにある。コロナ検査が消えたあと、営業利益率は19%台から7%まで落ちた。2026年3月期の純利益37億円は中国子会社の売却益で膨らんだもので、ならせば約21億円。今の時価総額831億円は、この利益の約40倍にあたる。
株価を支えているのは、ダルトン系ファンドが約2割を握るという事情だ。非公開化の提案は一度引っ込められ、2026年6月の株主提案も否決された。買収やより厚い還元への期待が、値段に入っている。ただ、それは事業の稼ぐ力とは別の話だ。
10年先の中立は、便潜血が海外で伸びて、営業利益率が10%台に戻る姿だ。それでも純利益は40億円弱にとどまる。会社が掲げる2031年3月期の売上750億円・営業利益率20%は、強気の筋書きでようやく届く水準と見る。資本コストは7.75%。確率で重みづけた本質価値は、今の時価総額を大きく下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見ると、栄研化学は「いい事業を持つが、いい利益率を持たない会社」だ。便潜血の堀は本物で、10年後も残るとみる。装置を置き、試薬を売り続ける形は、時間がたつほど値段より関係で選ばれるようになる。
オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益の面では、物足りない。研究開発・販売・工場に使うお金の割に、手元に残る利益が小さい。営業利益率7%は、成熟した検査薬メーカーとしても低い。会社の計画どおりに12.6%へ戻っても、まだ並みの水準にとどまる。
経営の資本の使い方は、いま試される途中にある。還元を厚くした点は評価できる。ただ、その動機が株主提案への対応だった事実は、見ておきたい。前の計画の未達が続いた会社に、50億円以上の戦略投資を任せてよいかは、実績が出るまで分からない。
安全域は、今の値段にはない。純利益をならした約21億円に対し、時価総額は約40倍、自己資本の約1.9倍だ。事業の強さを認めても、10年かけて利益が2倍になる筋書きで、ようやく値段に追いつくかどうかだ。持ち続けたい会社ではあるが、この値段では買いたくない、というのが筆者の見方だ。
一方、悲観になっても下は限られる。純現金があり、便潜血は簡単には崩れない。割高を指摘しているが、倒産や大幅な減損を心配している会社ではない。
何で稼ぐ会社か
栄研化学は、病院や検査センターが使う臨床検査薬の専業メーカーだ。1939年に細菌検査用の培地から始まり、いまは便潜血・尿・免疫血清・微生物・遺伝子の各分野に製品を持つ。売上の約7割は国内、約3割は海外で、海外は原則として1国1代理店を通して売る。
稼ぎの中心は便潜血検査だ。2025年3月期の売上で見ると、便潜血が約3割、便潜血以外の免疫血清が約2割、尿と微生物がそれぞれ1割強を占める。便潜血は1989年に全自動装置OC-センサーを出して以来、検体を測る装置と、その専用試薬をセットで売ってきた。装置を置いた施設は、そのあと試薬を買い続ける。これが安定した収益を生む仕組みだ。
便潜血の使い道は広がっている。米国は大腸がん検診の対象を45歳に引き下げ、対象は約2,000万人増えるとみられる。フランスなど欧州の国の検診事業でも採用されている。2023年11月に米国法人を作り、直販の体制づくりを始めた。
一方、遺伝子増幅法LAMPを使う結核検査TB-LAMPは、海外の援助機関の資金に頼る面がある。米国の援助機関の閉鎖で受注が遅れ、いまは伸び悩む。新型コロナのLAMP検査が剥落したあとの穴を、まだ埋めきれていない。
中期経営計画(2026〜2028年3月期)は、売上469億円・営業利益59億円・ROE9.3%を目指す。便潜血、結核検査、免疫ラテックス試薬の海外展開と、原価と販管費の削減で、営業利益率を7%から12.6%へ戻す計画だ。
優良さと弱いところ
堀は便潜血にある。測る装置を病院や検査センターに置き、専用試薬を売り続けるので、一度入ると他社へ替えにくい。世界でも約7割のシェアという数字は、堀の厚さを示している。尿検査も国内で約3割と首位だ。
ただ、会社全体の稼ぐ力は堀ほど強くない。便潜血以外の試薬は国内に約80社いる検査薬メーカーとの競争にさらされ、微生物は国内4位にとどまる。検査の値段は診療報酬で決まり、卸を通す売り方なので、値上げで利益を守る力は弱い。
利益率の推移がそれを物語る。2022年3月期の19.5%は、新型コロナの検査試薬という臨時の需要が押し上げたものだ。それが消えて、2025年3月期は7.4%まで下がった。物流費と原材料費の上昇、研究開発費の増加も重なった。
会社自身も弱点を認めている。前の中期計画は、海外売上が目標に届かず、新製品の発売も遅れた。研究・設計・生産移管の担当が曖昧で、設計のやり直しが増えたと説明している。組織を直し、野木工場へ生産を集める改革の途中だ。
財務は堅い。自己資本比率は70%、借金より現金が多い。これは安全域として評価できる。ただ、ROEは過去10年の中央値9.6%に対して直近は8.4%(売却益込み)、売却益を除けば5%前後だ。守りは固いが、元手を生かす力はまだ戻っていない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
検査薬の市場は、病気が増えるから伸びる市場ではない。伸びるのは、検診の対象が広がり、受診率が上がる分野だ。便潜血はまさにそこにいる。米国は45歳へ、欧州は国の検診事業の拡大へ動いており、化学法から免疫法への切り替えも続く。これが海外の数量を押し上げる。
国内は別の世界だ。人口は減り、検査の値段(診療報酬)は2年ごとの改定で下がりやすい。国が毎年下げる薬の値段と同じ構図で、検査薬の価格が物価並みに上がることは期待しにくい。検査センターの統合が進むと、買い手の交渉力も強まる。筆者は、国内の価格は10年で1.15倍にとどまると見ている。
競合は国内と海外で顔ぶれが違う。国内では、検査薬メーカーが約80社あり、売上100億円を超えるのは約15社だ。各社が得意分野を分け合っている。海外では、ロシュ、アボット、シーメンス、ダナハーなどの大手が検査機器と試薬の両方を持つ。便潜血では、栄研化学の装置と試薬が主力で、米国向けは販売会社を通す形だ。
将来の脅威は、血液や便の遺伝子を調べる新しい大腸がん検査だ。米国では便のDNA検査が広まり始めた。ただ、費用が桁違いに高く、対象が広い一次検診の主役にはなりにくい、というのが筆者の見立てだ。ここが崩れると、便潜血の世界観が変わる。
分かれ目は4つある。①海外で装置を置いた先が試薬を買い続けるか。②国内の診療報酬の改定。③結核検査が援助資金の減少から立ち直るか。④会社が改革で利益率を戻せるか。
資本政策と M&A
資本政策の転機は2025年にあった。ダルトン系のニッポン・アクティブ・バリュー・ファンドが25%超を持ち、非公開化を繰り返し求めた。会社は、一般株主との利益相反の恐れを指摘して応じなかった。同年5月に提案は撤回され、2026年6月の総会では取締役2名の株主提案も否決された。保有は約2割まで下がったが、物言う株主が居座る構図は変わらない。
会社はこの圧力のもとで動いた。還元方針を、配当性向30%以上から、配当と自社株買いを合わせた総還元性向50%以上へ引き上げた。自社株は200万株を買い、400万株を消却し、自己株の比率は14.5%から4.6%に下がった。中国子会社の持分も売却し、約20億円の益を出している。
買う側の姿勢も変わる。戦略投資を前の計画の9億円から50億円以上へ増やす方針で、原資は借入と資産売却だ。ナノティス社への出資が初の例になった。M&Aは、検査薬の品ぞろえを広げる小さな案件が中心になるとみる。
筆者が気にするのは、買収で価値を壊さないかだ。海外売上の目標を外した過去があり、50億円の投資が実を結ぶ保証はない。買収・TOBの可能性は、kabufuの試算で10年以内に17%と、低くない。ただ、その値段を前提に株を買うのは、事業の価値の外の賭けだ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
便潜血は、世界で約7割のシェアを持つ事実上の標準品だ。米国が検診を45歳へ広げ、対象が約2,000万人増える。欧州の国の検診事業も増える。装置を置いた先が試薬を買い続けるので、海外の売上は数量の伸びがそのまま利益に流れ込む。会社は2028年3月期に、海外の便潜血だけで82億円を見込む。
利益率が戻る道筋も見えている。尿・免疫血清の生産を野木工場へ集め、低収益の製品を整理し、販管費を削る計画で、原価で2ポイント、販管費で3ポイントの改善を見込む。ダルトンという大株主が、この改革を急がせる。経営は総還元性向50%を約束しており、資本を寝かせる余裕はない。
結核検査は、援助機関の資金が戻れば、10%未満のシェアが伸びる余地がある。新しい装置OCセンサーR70は、2026年8月から国内で、9月以降はEUなどで売り出される。海外の便潜血は、市場の数量が10年で2倍になっても不思議ではない。
会社の長期目標は、2031年3月期に売上750億円・営業利益率20%だ。これが数年遅れで実現するなら、ROEは14%台に乗り、倍率も上がる。買収や非公開化の提案が出る場合も、この強さがあるから、高い値で話がまとまる。
慎重な見方
営業利益率が7%まで落ちたのは、コロナの需要が消えたからだけではない。物流費と原材料費が上がり、人件費と研究費が増えた。売上は横ばいなのに、利益だけが減った。2026年3月期の営業利益は前の期から減り、2027年3月期の第1四半期も営業利益が17%減った。
中期計画の信頼性も低い。前の計画は、海外売上の目標に届かず、新製品も遅れた。今回は営業利益を29億円から59億円へ倍にする計画だが、そのうち原価で2ポイント、販管費で3ポイントの改善を見込む。いずれも、これまで実現できていないことだ。
国内は縮む市場だ。人口が減り、検査の値段は2年ごとに下がりやすい。検査センターの統合で、買い手の力が強まる。国内の便潜血シェアは68%と高いが、それ以上は伸びない。
海外は、シェアを維持するほうが難しい。米国では便のDNA検査という新しい競合が出た。便潜血の世界シェア約7割は、裏返せばこれ以上取れる余地が小さいということだ。結核検査は援助資金の減少で足踏みしている。
そして、今の値段は事業で説明できない。純利益をならした21億円に対して、時価総額は約40倍。ダルトンの存在が値段を支えているだけで、非公開化の提案は撤回され、株主提案も否決された。それが剥がれたとき、株価は事業の価値に収れんする。
どちらに重みを置いたか
強気の見方の中心は便潜血の世界シェアと、改革を迫る大株主の存在だ。慎重な見方の中心は、利益率7%の現実と、前の計画の未達だ。筆者は、慎重な見方のほうが強いと判断した。便潜血の堀は10年後も残るが、会社全体の利益率を12%台へ戻せるかは、まだ実績がない。確率は慎重な側に寄せた。強気の筋でも今の時価総額に届かないほど、値段が先を行っている。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,510 円498 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 539 円178 億円)。 今の値に割り戻すと 1,087 円359 億円、今との差 −55.3%、 期待の年率 −1.7%(資本コスト 7.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 4,710 円1,554 億円 | 1,061 円350 億円 | +137.1% | +9.0% | 519 円171 億円 |
| やや楽観 | 19% | 2,254 円744 億円 | 694 円229 億円 | +21.1% | +1.9% | 560 円185 億円 |
| 中立 | 31% | 1,486 円490 億円 | 555 円183 億円 | −16.2% | −1.7% | 633 円209 億円 |
| やや悲観 | 27% | 617 円204 億円 | 376 円124 億円 | −59.2% | −8.6% | 268 円88 億円 |
| 悲観 | 14% | 218 円72 億円 | 273 円90 億円 | −79.8% | −14.8% | 69 円23 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,510 円498 億円 | 539 円178 億円 | −15.8% | −1.7% | 2,049 円676 億円 |
今の株価時価総額 2,434 円803 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 9% 改革が成功し、便潜血が世界で伸び、営業利益率が18%近くに戻る 利益 92 億円 · PER 16.9 倍 · 株価時価総額 4,710 円1,554 億円
会社の長期計画に近い道筋だ。米国の45歳検診と欧州の検診事業で、海外の便潜血の数量は10年で2倍に増え、世界シェアは7割を保つ。野木工場への集約と低収益品の整理で、国内の利益率も戻る。装置を置いた先から試薬の売上が積み上がり、海外便潜血の営業利益率は30%に乗る。結核検査と新しい免疫の製品も育ち、海外その他は赤字を抜ける。大株主の圧力で資本の使い方は規律が保たれ、総還元性向50%超の還元も続く。売上は700億円台、営業利益率は18%近く、ROEは14%台に戻る。会社が掲げた2031年3月期の目標を、数年遅れで実現する10年になる。
- 国内の便潜血検査:数量 108(国内の便潜血検査の市場(億円、2026年の価格で実質))× 価格 81.6%(栄研化学のシェア × 価格の指数(2026年=1、名目))→ 売上 88 億円・営業利益 23 億円。市場×シェア×価格の指数
- 海外の便潜血検査:数量 192(海外の便潜血検査の市場(億円、実質))× 価格 82.8%(栄研化学のシェア × 価格の指数(名目))→ 売上 159 億円・営業利益 48 億円。市場×シェア×価格の指数
- 国内のその他の検査薬:数量 816(国内の検査薬の市場(億円、実質))× 価格 25.2%(栄研化学のシェア × 価格の指数(名目))→ 売上 206 億円・営業利益 41 億円。市場×シェア×価格の指数
- 国内の機器・培地・遺伝子・その他:数量 1,050(国内の機器・培地などの市場(億円、実質))× 価格 9.4%(栄研化学のシェア × 価格の指数(名目))→ 売上 98 億円・営業利益 11 億円。市場×シェア×価格の指数
- 海外のその他(結核検査・免疫ラテックス・尿・機器):数量 2,200(海外のその他検査の市場(億円、実質))× 価格 7.1%(栄研化学のシェア × 価格の指数(名目))→ 売上 157 億円・営業利益 24 億円。市場×シェア×価格の指数
倍率:事業の純利益 92 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.1% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.9 倍。全体の PER 16.89 倍、時価総額 1,554 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内・海外の便潜血が同時に計画どおり伸び、野木工場の集約で利益率も戻る条件がそろう必要がある。前の計画が未達だった実績を見て、1割弱にとどめた。
やや楽観 19% 計画の7割が実現し、営業利益率が12〜13%へ 利益 53 億円 · PER 14.0 倍 · 株価時価総額 2,254 円744 億円
会社の中期計画の目標に近づくが、満額には届かない筋だ。海外便潜血は検診の拡大で1.7倍に伸びる。国内は人口減と価格の下げで横ばいだが、原価の削減が効いて利益率が少しずつ戻る。TB-LAMPは援助資金が戻らず、海外その他は黒字になるものの小幅にとどまる。米国の直販体制は軌道に乗り、装置の設置が試薬の売上へ着実につながる。戦略投資のうち数件が成果を出し、減損は出ない。営業利益率は12〜13%、売上は570億円台になる。ROEは9%台と、過去の中央値並みに戻る。大株主は株主還元を求め続け、総還元性向は50%を超える水準が続く。
- 国内の便潜血検査:数量 103(国内の便潜血検査の市場(億円、2026年の価格で実質))× 価格 79.0%(栄研化学のシェア × 価格の指数(2026年=1、名目))→ 売上 81 億円・営業利益 18 億円。市場×シェア×価格の指数
- 海外の便潜血検査:数量 155(海外の便潜血検査の市場(億円、実質))× 価格 76.2%(栄研化学のシェア × 価格の指数(名目))→ 売上 118 億円・営業利益 28 億円。市場×シェア×価格の指数
- 国内のその他の検査薬:数量 788(国内の検査薬の市場(億円、実質))× 価格 23.0%(栄研化学のシェア × 価格の指数(名目))→ 売上 181 億円・営業利益 29 億円。市場×シェア×価格の指数
- 国内の機器・培地・遺伝子・その他:数量 1,000(国内の機器・培地などの市場(億円、実質))× 価格 8.5%(栄研化学のシェア × 価格の指数(名目))→ 売上 85 億円・営業利益 5 億円。市場×シェア×価格の指数
- 海外のその他(結核検査・免疫ラテックス・尿・機器):数量 1,700(海外のその他検査の市場(億円、実質))× 価格 6.3%(栄研化学のシェア × 価格の指数(名目))→ 売上 107 億円・営業利益 10 億円。市場×シェア×価格の指数
倍率:事業の純利益 53 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.1% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.0 倍。全体の PER 14.03 倍、時価総額 744 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中期計画の主な柱(海外便潜血・原価削減)の一部が実現する、標準的な上振れだ。会社計画の7割程度の達成を想定した。
中立 31% 海外は伸びるが、利益率は10%台前半までしか戻らない 利益 38 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 1,486 円490 億円
便潜血の堀は残るが、会社全体の利益率は計画ほど戻らない筋だ。海外便潜血は市場が1.5倍に伸びるが、米国で新しい競合が出て、シェアは70%から66%に下がる。国内は人口減と診療報酬の改定で、数量はほぼ横ばい、価格は物価より低く上がる。原価の削減は半分しか進まず、中期計画の営業利益59億円は達成できない。10年後の営業利益率は10%台、売上は510億円台になる。戦略投資は小さな成果にとどまり、ROEは7%と、資本コストをやや下回る。総還元性向は50%台を保ち、利益の伸びが鈍いので、還元は緩やかに増える。会社は、堀はあるが儲けの薄い会社のままだ。
- 国内の便潜血検査:数量 103(国内の便潜血検査の市場(億円、2026年の価格で実質))× 価格 77.1%(栄研化学のシェア × 価格の指数(2026年=1、名目))→ 売上 79 億円・営業利益 16 億円。市場×シェア×価格の指数
- 海外の便潜血検査:数量 137(海外の便潜血検査の市場(億円、実質))× 価格 72.6%(栄研化学のシェア × 価格の指数(名目))→ 売上 100 億円・営業利益 20 億円。市場×シェア×価格の指数
- 国内のその他の検査薬:数量 776(国内の検査薬の市場(億円、実質))× 価格 21.5%(栄研化学のシェア × 価格の指数(名目))→ 売上 166 億円・営業利益 25 億円。市場×シェア×価格の指数
- 国内の機器・培地・遺伝子・その他:数量 1,000(国内の機器・培地などの市場(億円、実質))× 価格 8.1%(栄研化学のシェア × 価格の指数(名目))→ 売上 80 億円・営業利益 3 億円。市場×シェア×価格の指数
- 海外のその他(結核検査・免疫ラテックス・尿・機器):数量 1,500(海外のその他検査の市場(億円、実質))× 価格 5.7%(栄研化学のシェア × 価格の指数(名目))→ 売上 86 億円・営業利益 5 億円。市場×シェア×価格の指数
倍率:事業の純利益 38 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.9% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.9 倍、時価総額 490 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:便潜血の堀は残るが、利益率の回復は半分程度にとどまる。実績(前の計画の未達・直近の減益)から、2人の議論の落としどころはここだと見る。
やや悲観 27% 国内の縮小が続き、海外は伸びきれず利益率が6%前後に低迷 利益 19 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 617 円204 億円
改革が進まず、利益率が今より上がらないまま10年が過ぎる筋だ。国内は人口減と診療報酬の下げ、検査センターの統合で、価格は10年で1.05倍にとどまる。海外便潜血は、米国で便のDNA検査にシェアを奪われ、市場は1.3倍に伸びても、シェアは70%から62%に下がる。TB-LAMPは援助資金が戻らず、海外その他は小さな赤字が続く。戦略投資は1件が失敗し、減損が出る。営業利益は20億円台、利益率は6%前後で、ROEは4%に下がる。還元は総還元性向50%を守るが、利益が細るので、金額は減る。大株主は投資の失敗を指摘し続ける。
- 国内の便潜血検査:数量 99.9(国内の便潜血検査の市場(億円、2026年の価格で実質))× 価格 72.6%(栄研化学のシェア × 価格の指数(2026年=1、名目))→ 売上 73 億円・営業利益 12 億円。市場×シェア×価格の指数
- 海外の便潜血検査:数量 119(海外の便潜血検査の市場(億円、実質))× 価格 65.1%(栄研化学のシェア × 価格の指数(名目))→ 売上 77 億円・営業利益 12 億円。市場×シェア×価格の指数
- 国内のその他の検査薬:数量 760(国内の検査薬の市場(億円、実質))× 価格 20.0%(栄研化学のシェア × 価格の指数(名目))→ 売上 152 億円・営業利益 17 億円。市場×シェア×価格の指数
- 国内の機器・培地・遺伝子・その他:数量 980(国内の機器・培地などの市場(億円、実質))× 価格 7.3%(栄研化学のシェア × 価格の指数(名目))→ 売上 72 億円・営業利益 0 億円。市場×シェア×価格の指数
- 海外のその他(結核検査・免疫ラテックス・尿・機器):数量 1,200(海外のその他検査の市場(億円、実質))× 価格 5.0%(栄研化学のシェア × 価格の指数(名目))→ 売上 60 億円・営業利益 1 億円。市場×シェア×価格の指数
倍率:ROE 3.7%。RONIC は 5.5%、g 3.75% で正当化 PER は 9.1 倍。利益率が低いまま続く筋書きなので 9.0 倍に置いた。
確率:国内の縮小と、海外での新しい競合による取りこぼしが重なる筋。利益率の改善が進まなかった実績が背景にあり、強気側より重く置く。
悲観 14% 便潜血の堀が崩れ、売上が3割縮み、利益率は4%に 利益 9 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 218 円72 億円
構造的に負ける筋だ。血液を使う大腸がん検査が、米国と欧州の一次検診に入り、便潜血の数量が減る。世界シェアは7割から5割へ落ち、海外便潜血は10年で1割減る。国内は検査センターの統合で値段を叩かれ、価格は10年で据え置きにとどまる。結核検査は援助資金が戻らず、撤退に近づく。売上は300億円台へ縮み、固定費が重く、営業利益率は4%にとどまる。戦略投資は減損になり、ROEは2%まで下がる。還元は縮み、大株主は強く改革を求める。それでも純現金と便潜血の基盤は残り、会社は存続する。国内便潜血の約7割のシェアと、置いた装置からの試薬の売上は、簡単には消えない。経営は、不採算の海外事業と機器の整理に追い込まれ、大株主の圧力で非公開化や事業売却の話が現実味を帯びる。ただ、その場合も売り手が受け取れるのは、稼ぐ力に見合う額にとどまる。
- 国内の便潜血検査:数量 94.8(国内の便潜血検査の市場(億円、2026年の価格で実質))× 価格 62.0%(栄研化学のシェア × 価格の指数(2026年=1、名目))→ 売上 59 億円・営業利益 9 億円。市場×シェア×価格の指数
- 海外の便潜血検査:数量 82.3(海外の便潜血検査の市場(億円、実質))× 価格 50.0%(栄研化学のシェア × 価格の指数(名目))→ 売上 41 億円・営業利益 6 億円。市場×シェア×価格の指数
- 国内のその他の検査薬:数量 720(国内の検査薬の市場(億円、実質))× 価格 17.0%(栄研化学のシェア × 価格の指数(名目))→ 売上 122 億円・営業利益 11 億円。市場×シェア×価格の指数
- 国内の機器・培地・遺伝子・その他:数量 950(国内の機器・培地などの市場(億円、実質))× 価格 6.0%(栄研化学のシェア × 価格の指数(名目))→ 売上 57 億円・営業利益 −1 億円。市場×シェア×価格の指数
- 海外のその他(結核検査・免疫ラテックス・尿・機器):数量 900(海外のその他検査の市場(億円、実質))× 価格 4.0%(栄研化学のシェア × 価格の指数(名目))→ 売上 36 億円・営業利益 −1 億円。市場×シェア×価格の指数
倍率:ROE 1.8% は資本コストを大きく下回る。稼ぐ力は薄く、利益の質も低いので 8.0 倍に置いた。純現金と便潜血の基盤は残る。PBR が低いのは、自己資本に対して利益が小さい(ROE が資本コストを大きく下回る)ためで、帳簿の自己資本を床とは見ない。
確率:便潜血を置き換える技術が一次検診に入る、構造的な負けの筋だ。可能性は低いが、一本足の会社なので無視できない。純現金と堀の残りで、致命傷にはならない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内の便潜血検査
大腸がん検診で使う便潜血の試薬と測定装置(OC-センサー)。国内シェアは約7割。
| 数量国内の便潜血検査の市場(億円、2026年の価格で実質) | 価格栄研化学のシェア × 価格の指数(2026年=1、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 103 | 68.0% | 70 | 14 |
| 10 年後 中立 | 103 | 77.1% | 79 | 16 |
取り方:国内の便潜血は、便潜血の売上約134億円のうち海外が約64億円(海外売上114.6億円と 2028年3月期の海外便潜血82億円の目標から逆算)、残る約70億円を国内とした。国内シェア68%で割った市場が約103億円(実質)。数量は検診の受診者の伸びと人口減が打ち消して中立10年1.0倍。シェアは68%から67%へ。価格の指数は診療報酬の改定と卸の交渉力で10年1.15倍(物価の1.34倍を下回る)。営業利益は推定で20%。
海外の便潜血検査
米国・欧州・アジアの検診向け便潜血試薬と装置。原則1国1代理店で販売。
| 数量海外の便潜血検査の市場(億円、実質) | 価格栄研化学のシェア × 価格の指数(名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 91.4 | 70.0% | 64 | 12 |
| 10 年後 中立 | 137 | 72.6% | 100 | 20 |
取り方:海外便潜血は約64億円と推定。世界シェア約7割で割った市場は約91億円(実質)。米国の45歳検診、欧州の検診事業、化学法から免疫法への切り替えで、市場の数量は10年で中立1.5倍。シェアは新しい競合で70%から66%に下がる。価格の指数は各国の入札と代理店の取り分で10年1.10倍(物価を下回る)。営業利益は推定で19%。
国内のその他の検査薬
尿検査・免疫血清(便潜血を除く)・微生物・生化学の試薬。尿は国内シェア約29%で1位。
| 数量国内の検査薬の市場(億円、実質) | 価格栄研化学のシェア × 価格の指数(名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 800 | 20.0% | 160 | 22 |
| 10 年後 中立 | 776 | 21.5% | 166 | 25 |
取り方:免疫血清96億円・尿46億円・微生物45億円・生化学6億円(2025年3月期)のうち国内分を、約160億円と推定した。平均シェア約20%で割った市場は約800億円(実質)。競合は国内の約80社と、ロシュ・シーメンスなど。数量は人口減と検査の統合で10年0.97倍、シェアは19.5%へ。価格は診療報酬の改定で10年1.10倍。営業利益は推定で14%。
国内の機器・培地・遺伝子・その他
医療機器、培地・器具、食品環境関連、遺伝子関連の国内売上。
| 数量国内の機器・培地などの市場(億円、実質) | 価格栄研化学のシェア × 価格の指数(名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,000 | 7.5% | 75 | −2 |
| 10 年後 中立 | 1,000 | 8.1% | 80 | 3 |
取り方:医療機器等44億円・器具食品環境20億円・遺伝子関連20億円(2025年3月期)のうち国内分を約75億円と推定した。市場を約1,000億円(実質)、シェア7.5%と置く。数量は横ばい、シェアは7.0%へ。価格は10年1.15倍。コロナのLAMP検査が剥落し、今は赤字に近い。営業利益は推定でマイナス3%。
海外のその他(結核検査・免疫ラテックス・尿・機器)
海外向けのTB-LAMP(結核検査)、免疫ラテックス試薬、尿検査(シスメックスと提携)、医療機器。
| 数量海外のその他検査の市場(億円、実質) | 価格栄研化学のシェア × 価格の指数(名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,000 | 5.0% | 50 | −3 |
| 10 年後 中立 | 1,500 | 5.7% | 86 | 5 |
取り方:海外売上114.6億円から便潜血の約64億円を引いた約50億円。市場を約1,000億円(実質)、シェア5%と置く。数量は結核検査と免疫製品の伸びで10年中立1.5倍。TB-LAMPは援助機関の閉鎖で足踏み、シェアは10%未満。価格の指数は10年1.10倍。投資が先行しており、営業利益は推定でマイナス6%。
リスクと懸念
便潜血への集中
売上の約3割、利益ではそれ以上を便潜血に頼る。血液や便の遺伝子を調べる新しい大腸がん検査が一次検診で広まれば、世界シェア約7割の価値が目減りする。10年の悲観ではこの筋を置く。
利益率が戻らない
営業利益率は7%台で、会社は12.6%への回復を計画する。前の計画は、海外の売上と新製品の発売の両方で未達だった。改革が遅れると、利益は今の水準のまま10年が過ぎる。
国内の診療報酬と検査センターの統合
国内の売上は約7割。検査の値段は2年ごとの改定で下がりやすく、検査センターの統合で買い手の交渉力も強まる。人口も減る。価格は物価並みに上がらない前提を置いた。
結核検査の失速
TB-LAMPは、海外の援助機関の資金が受注を左右する。米国の援助機関の閉鎖で受注が遅れ、シェアは10%未満にとどまる。コロナの検査試薬が消えた穴を埋める役を担えていない。
大株主と株価の事情
ダルトン系が約2割を持ち、非公開化の提案と株主提案を繰り返した。買収や非公開化があれば上振れもあるが、期待が外れると、今の値段は事業の価値まで下がりうる。
戦略投資の失敗
戦略投資を前の計画の9億円から50億円以上へ増やす。原資は借入と資産売却だ。買った事業が利益を生まず、減損になれば、純現金の強さも薄れる。
海外代理店と為替
海外は原則1国1代理店を通すので、代理店の交代や在庫調整で売上がぶれる。為替は150円で固定して置いたが、円高が進めば海外売上の円換算は目減りする。
今後の分かれ目
- 米国の便潜血の出荷が、45歳検診の拡大で2桁増になる
- 海外便潜血は強気の筋に近づき、会社が掲げる2028年3月期の82億円も見えてくる。それでも今の値段との差は大きく、割高の判断は大きくは変わらない。
- 営業利益が2027年3月期の予想30億円を割り込む
- 利益率の回復計画が崩れた合図になる。慎重な筋書きの確率を上げる材料で、10年後の純利益は30億円を下回る。
- ダルトン系が再び非公開化を提案し、高い価格で決着する
- 株主は短期に報われる。ただ、それは事業の価値が上がったのでなく、買い手が高い価格を払った結果だ。10年の本質価値は動かない。
- 新しい大腸がんの血液検査が、公的な一次検診に入る
- 便潜血の数量が削られ、慎重な筋書きが現実になる。世界シェアという堀が、市場ごと縮む。
- TB-LAMPの援助資金が復活し、大口の受注が戻る
- 海外その他の売上が上振れる。ただ、便潜血に比べて利益率が低く、全体の利益への効きは限られる。
- 戦略投資で買収が決まる
- 検査薬の品ぞろえが広がれば伸びる。ただ、価格が高ければ減損のリスクを抱える。買収額と買った事業の利益率を見たい。
見ておくもの
- 海外便潜血の売上(2028年3月期の目標82億円)
- 営業利益率(2027年3月期の予想7.3%、計画の12.6%)
- ダルトン系の保有比率と株主提案
- OCセンサーR70の海外での立ち上がり
- 国内の診療報酬の改定
- 戦略投資の案件と減損
倍率と資本コストの決め方
今の時価総額831億円は見ずに、5区分の数量×価格で10年を積み、利益と資本コストから倍率を決めた。結果として、強気の筋でも今の値段に届かず、割高が大きく出る。これは、今の株価がダルトン系の保有や買収の期待を含んでいるためと見ており、その分は事業の価値に入れていない。家賃は営業費用に含める今の形でそろえた。2028年3月期からの新リース会計基準で数字の形が変わるが、本社・工場は自社保有が中心で影響は小さい。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 16.7→16.89 倍・やや楽観 PER 13.2→14.03 倍・中立 PER 11.9→12.9 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。