結論
スズケンは売上2.5兆円の医薬品卸である。全国の病院・診療所・薬局へ薬を届けて稼ぐ。筆者の結論は、今の値段は本質価値とほぼ並ぶ「適正」圏、というものだ。事業そのものより、積み上がった現金と株主へ戻す姿勢が値段を支えている。
事業は堅いが利幅は薄い。営業利益率は1.5%前後で、薬価は毎年のように下がる。人件費と物流費は物価と一緒に上がる。この板挟みで、10年後の利幅は今より細ると筆者は見る。2027年3月期の会社予想も営業利益312億円と、前期の364億円から減る。
前期の純利益381億円は、政策保有株の売却益約156億円を含む。それを除いた稼ぐ力は250億円前後で、ROEは6.5%程度にとどまる。資本コスト7.25%にわずかに届かない水準だ。
それでも見捨てられない理由が二つある。一つは純現金が1,300億円を超え、時価総額の3分の1に当たること。もう一つは、新中計が総還元性向100%を基準に掲げ、前の3年間で約1,000億円を実際に戻したことだ。英国の運用会社シルチェスターが約9%を持ち、増配と自社株買いを求めている。現金が眠り続けにくい会社である。
筆者は事業の価値と余った現金を分けて測る。事業は利益の十数倍が妥当で、余った現金は650億円と見る。合わせた本質価値は今の時価総額とほぼ並び、わずかに下だ。割高と言うほどの差もない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「悪くないが、買って寝ていられる会社ではない」。
事業は10年後も残る。薬の配送は社会に欠かせないからだ。ただし稼ぐ力は伸びない。薬価と人件費に挟まれ、利幅は細る方向にある。オーナーの手元に残る利益は、設備や物流センターの更新を引くと、いまの純利益のおよそ8〜9割と筆者は見る。
経営の資本の使い方は評価できる。借金に頼らず、純現金を持ちながら、実際に1,000億円近くを戻した。割高な自社株買いで資本を傷めた形跡も見えない。オーナーの目で見て、安心できる配分だ。
気になるのは、近年の利益の質である。前期の純利益には一度きりの売却益が156億円含まれ、見かけのROEを3ポイントほど押し上げた。バリュー投資では、こうした利益を稼ぐ力に数えない。
安全域は、現金が与える。時価総額の3分の1が純現金なら、事業が想定より悪くても、下値は限られる。逆に、事業が想定より良くても、利益の質が低いので、上は大きくない。筆者は、値段が本質価値に近い会社として見ている。
何で稼ぐ会社か
スズケンの稼ぎの9割以上は、医療用医薬品の卸売である。製薬会社から薬を仕入れ、全国の病院・診療所・薬局へ配送する。売上は約2.35兆円、営業利益は約315億円。利益率は1.3%台で、売上のわずか1.3%しか残らない商売だ。
薬の値段は国が決める薬価で、仕入値と売値の差はごくわずかしかない。卸が稼ぐのは、薬価差ではなく届ける仕事の対価である。全国の拠点網、1日に何度でも届ける配送、在庫の管理、医薬品の情報提供。これらが武器になる。
残りは周辺事業だ。保険薬局のユニスマイル、介護のエスケアメイトとサンキ・ウエルビィ、医療機器を作るケンツメディコ、物流の中央運輸などがある。売上は合計で約1,400億円、営業利益は50億円ほど。卸より利益率が高く、会社が育てたい分野だ。
新中計(2027年3月期から3年)の骨格は、薬の配送だけに頼らず、手数料で稼ぐフィービジネスを広げることにある。2026年2月に買収したmedimoなど、デジタルや医療の周辺サービスがその受け皿になる。最終年度の目標は、売上2.7兆円以上、経常利益率1.5%以上、ROE7%以上だ。
顧客は病院と薬局。製薬会社の側では、取引する卸を絞る動きがある。2024年3月期にはこれでスズケンの売上が約590億円押し下げられた。卸は仕入先と顧客の間に挟まれ、どちらの都合にも左右される。
優良さと弱いところ
スズケンの優良さは、規模と配送網の厚みにある。ただし堀は広くない。
まず強みから。薬は命に関わるので、欠品しない卸が選ばれる。全国をカバーする物流網は、新規参入者が簡単にまねできない。大手4社の寡占は固く、この10年で中小卸の統合も済んだ。ここは評価できる。
次に弱みだ。値段を自分で決められない。薬価は国が決め、仕入値は製薬会社が決める。卸の取り分は両側から削られる。2026年3月期の医薬品卸売の営業利益が1.4%減ったのは、仕入価格の上昇と外部委託費の増加が重なったからだ。物価で費用が上がるときに、価格へ転嫁しにくい。
資本の効率も平凡である。ROEは過去10年の中央値で6.1%。前期の9.3%は売却益で膨らんだもので、それを除くと6.5%だ。ただし財務は強い。借金はほぼなく、純現金が1,300億円ある。政策保有株は上場29銘柄を持つが、縮減を進めている。
経営の資本の使い方は、近年は株主向きに変わった。前の3年間で総還元性向108%を実際に出した。ここは同業の中でも誠実な部類と筆者は見る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
医薬品卸は、数量が緩やかに増え、価格が毎年削られる市場である。国内の医療用医薬品は薬価ベースで約11.5兆円。高齢化で処方の数量は増える。ただし2040年前後には高齢者人口が減りに転じ、数量の伸びは鈍る。
価格のほうは重い。薬価は毎年のように改定され、2026年度は薬剤費ベースで約4%下がった。売上は数量増と価格減が相殺して、金額はほぼ横ばいに近い。
競争は大手4社の寡占だ。2026年3月期の売上は、メディパル3.8兆円、アルフレッサ3.1兆円、スズケン2.5兆円、東邦1.6兆円。4社合計の営業利益率は1.30%まで下がり、今期はさらに下がる見通しだ。薬価の下げと費用の上昇が、4社に同じように効いている。
スズケンの利益率は4社の中では高めの部類に入る。ただ規模ではメディパルとアルフレッサに及ばない。物流の費用を薄めるには数量が要るので、この差は長く効く。
構造の変化は二つ。ひとつは、バイオ医薬品やスペシャリティ医薬品のように、保管と配送に手間のかかる高額薬が増えること。卸の機能価値が上がる追い風だ。もうひとつは、流通改善ガイドラインで、薬1品ごとの値段交渉と、必要経費の価格への反映が求められていること。実行されれば薄利に歯止めがかかる。逆に、メーカーの直接配送やオンライン服薬指導が広がれば、卸の出番は減る。分かれ目は、この薬価制度の運用と中抜きの広がりにある。
資本政策と M&A
資本政策は、この会社でいちばん評価できる点であり、同時に今いちばん問われている点でもある。
新中計は総還元性向100%を基準に、配当と機動的な自社株買いを行うとした。配当は純資産配当率(DOE)を指標にし、2029年3月期に3%程度を目標にする。前の3年間は総還元が約1,000億円(配当約210億円、自社株買い約790億円)で、総還元性向は108%に達した。
政策保有株は上場29銘柄。縮減を進めており、2026年3月期には売却益約156億円を計上した。この売却益は一度きりで、稼ぐ力ではない。売却で得た現金が還元と投資に回るかが焦点だ。
M&Aは小粒が続く。2026年2月にmedimoを子会社にし、2023年にはファーマライズHD(議決権20.6%)へ出資した。新中計は3年で600億円以上を投資に回す。薬局やデジタルの買収が、卸より高い利益率を生むかが問われる。
株主では、シルチェスターが約9%を持ち、増配や自社株買いなどを提案する方針を示している。会社の方針と同じ向きなので、衝突より後押しになりやすい。TOBなど再編の可能性は、kabufuの推計では10年以内に約16%。確率は低めに見ている。
還元の置き方:新中計は総還元性向100%を基準、配当はDOE3%程度を目標にする。10年の中立は純利益の合計の約8割で、方針の内側に置いた。余った現金650億円は還元に回さず、時価総額側で足している(二重には数えていない)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
現金と還元が、この会社を支える。純現金は1,300億円超で、事業に要らない650億円ほどは株主に戻る前提で見てよい。前の3年間は総還元性向108%を実行し、新中計も100%を基準にする。DOE3%の目標が守られれば、配当は自己資本の増加に頼らず伸びる。
事業も侮れない。スペシャリティ医薬品と高額薬が増え、保管と配送の手間が価値に変わる。流通改善ガイドラインが実を結べば、薬1品ごとの価格交渉が進み、利益率は1.3%台で止まる。周辺の薬局・介護・デジタルは利益率が高く、フィービジネスが育てば全体の稼ぐ力を底上げする。
株主構成も追い風だ。シルチェスターが約9%を持ち、増配や自社株買いを求める。経営陣は同じ方向の方針を出しており、実行の確度は高い。
業界は寡占で、新規参入はない。薬は毎年必ず使われる。この条件がそろう会社の純利益は、十数倍の評価に値する。今の時価総額は、その事業の価値に余った現金を足した額にほぼ並ぶ。ここから上振れの余地は、フィー事業の成功と利益率の下げ止まりにある。
慎重な見方
稼ぐ力は構造的に細る。薬価は毎年下がり、人件費と物流費は物価と一緒に上がる。2027年3月期の営業利益は312億円と、前期から約14%減る見通しだ。利益率1.3%の商売で、費用が1割上がれば、利益はほぼ消える。
前期の純利益381億円は、売却益156億円を含む。除けば250億円前後、ROEは6.5%程度だ。資本コスト7.25%に届かない会社に、高い倍率は付けられない。しかも政策保有株は売り尽くせば、売却益も配当収入も消える。
新中計の目標も控えめだ。ROE7%は、資本コストと同じ高さにすぎない。投資600億円で買う薬局やデジタル事業が、卸より高い利益を生む保証はない。小さな買収は、過去に多くの会社で資本を傷めてきた。
外の変化も重い。製薬会社が取引する卸を絞れば、売上は一度に数百億円動く。2024年3月期の約590億円の減収が実例だ。メーカーの直接配送やオンライン服薬指導が広がれば、卸の機能そのものが細る。10年後は人口も減り始める。
現金は魅力だが、卸の現金は仕入れ代金の支払いの備えでもある。多く見えても、全部が株主のものではない。
どちらに重みを置いたか
現金と還元姿勢の強さと、稼ぐ力の弱さが、ほぼ釣り合っている。還元の実績と余った現金は確かな強みなので、事業が崩れる悲観の確率は12%にとどめた。一方で、薬価と物価の板挟みは10年かけて効くため、やや悲観の確率を24%と、やや楽観より厚くした。確率は中立にやや寄せた形になる。本質価値は今の時価総額とほぼ並び、わずかに下で、適正圏と見る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,983 円3,979 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,794 円2,393 億円)。 今の値に割り戻すと 2,746 円3,662 億円、今との差 −2.4%、 期待の年率 +5.4%(資本コスト 7.2%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 4,420 円5,895 億円 | 2,249 円3,000 億円 | +137.1% | +9.0% | 534 円712 億円 |
| やや楽観 | 20% | 3,863 円5,152 億円 | 2,024 円2,700 億円 | +109.3% | +7.7% | 1,177 円1,570 億円 |
| 中立 | 36% | 3,348 円4,466 億円 | 1,934 円2,580 億円 | +87.8% | +6.5% | 1,902 円2,536 億円 |
| やや悲観 | 24% | 2,152 円2,870 億円 | 1,575 円2,100 億円 | +32.5% | +2.9% | 894 円1,193 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,127 円1,503 億円 | 1,125 円1,500 億円 | −19.9% | −2.2% | 270 円360 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,983 円3,979 億円 | 1,794 円2,393 億円 | +69.9% | +5.4% | 4,777 円6,372 億円 |
今の株価時価総額 2,813 円3,751 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 8% 手数料事業が育ち、利幅が下げ止まる 利益 333 億円 · PER 15.4 倍 · 株価時価総額 4,420 円5,895 億円
流通改善ガイドラインが実を結び、薬1品ごとの価格交渉と必要経費の価格への反映が進む。医薬品卸売の利益率は1.3%で下げ止まる。スペシャリティ医薬品や高額薬の配送が増え、卸の機能の価値が上がる。
medimoなど新規の事業が手数料収入を生み、薬局・介護・サービスの利益率は4.5%まで上がる。売上は2.7兆円を超え、新中計の目標が数年遅れで届く。
営業利益は約420億円、純利益は約330億円。総還元性向100%が守られ、10年で約3,000億円を株主に戻す。自己資本はほぼ今の水準に保たれる。余った現金650億円は戻り続ける。
- 医薬品卸売:数量 2.6(国内の医療用医薬品市場(薬価ベース・実質、兆円)× 自社シェア)× 価格 0.95(薬価と卸の取り分の水準を今 = 1 とした指数(薬価の引き下げで下がり、物価では上がらない))→ 売上 24,993 億円・営業利益 325 億円。医薬品卸:数量 1.12 倍・価格 0.95 倍・営業利益率 1.30%
- 薬局・介護・医療関連サービス・製品開発:数量 0.2(取扱量(今の売上を実質の数量とみなした、兆円))× 価格 1.40(売上の価格の指数(物価並みに上がる 1.34 倍が基本))→ 売上 2,209 億円・営業利益 99 億円。薬局・介護・サービス:数量 1.15 倍・価格 1.40 倍・営業利益率 4.5%
倍率:事業の純利益 324 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.0% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)650 億円。全体の PER 15.36 倍、時価総額 5,625 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:流通改善が進み、手数料で稼ぐ事業が育つ姿は十分ありうる。ただし薬価と費用の板挟みは強いので、8%にとどめた。
やや楽観 20% 流通改善が効き、利幅を維持する 利益 297 億円 · PER 14.7 倍 · 株価時価総額 3,863 円5,152 億円
ガイドラインの運用が進み、薬価の引き下げのうち費用に見合う分が価格に反映される。医薬品卸売の利益率は1.2%に下がるにとどまる。数量は高齢化で10年で1割ほど増える。
周辺事業は着実に育つが、手数料事業の大化けはない。薬局・介護・サービスの利益率は4.0%。営業利益は約370億円、純利益は約300億円になる。会社予想の減益を底に、利益はゆるやかに戻る。
新中計が掲げる経常利益率1.5%には届かないが、ROEは7%台に乗る。還元は新中計の方針どおり続き、10年で約2,700億円。自己資本は小さく増える程度だ。余った現金は戻る。
- 医薬品卸売:数量 2.6(国内の医療用医薬品市場(薬価ベース・実質、兆円)× 自社シェア)× 価格 0.94(薬価と卸の取り分の水準を今 = 1 とした指数(薬価の引き下げで下がり、物価では上がらない))→ 売上 24,289 億円・営業利益 291 億円。医薬品卸:数量 1.10 倍・価格 0.94 倍・営業利益率 1.20%
- 薬局・介護・医療関連サービス・製品開発:数量 0.2(取扱量(今の売上を実質の数量とみなした、兆円))× 価格 1.36(売上の価格の指数(物価並みに上がる 1.34 倍が基本))→ 売上 2,053 億円・営業利益 82 億円。薬局・介護・サービス:数量 1.10 倍・価格 1.36 倍・営業利益率 4.0%
倍率:事業の純利益 288 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.2% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.7%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)650 億円。全体の PER 14.66 倍、時価総額 4,871 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:寡占と流通改善で薄利が守られ、還元も続く。もっとも起こりやすい上振れとして20%を置いた。
中立 36% 利幅が細り、現金と還元で保つ 利益 264 億円 · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 3,348 円4,466 億円
医薬品卸売は、数量が10年で1割ほど増え、薬価の累計の引き下げで価格が0.93倍になる。売上は約2.4兆円でほぼ横ばい。費用は物価で3割以上増え、利益率は1.1%まで細る。営業利益は260億円台になる。
周辺の薬局・介護・サービスは数量が小さく増え、価格は物価並みの1.34倍。売上は約1,900億円、利益率は3.5%を保つ。営業利益は約70億円。
全社の営業利益は約330億円、純利益は約260億円。現金の利息は増えるが、政策保有株の配当は減る。総還元性向100%に近く、10年で約2,600億円を戻す。自己資本は今とほぼ同じ約4,200億円に収まる。余った現金650億円は戻る前提で見る。
- 医薬品卸売:数量 2.6(国内の医療用医薬品市場(薬価ベース・実質、兆円)× 自社シェア)× 価格 0.93(薬価と卸の取り分の水準を今 = 1 とした指数(薬価の引き下げで下がり、物価では上がらない))→ 売上 24,030 億円・営業利益 264 億円。医薬品卸:数量 1.10 倍・価格 0.93 倍・営業利益率 1.10%
- 薬局・介護・医療関連サービス・製品開発:数量 0.1(取扱量(今の売上を実質の数量とみなした、兆円))× 価格 1.34(売上の価格の指数(物価並みに上がる 1.34 倍が基本))→ 売上 1,930 億円・営業利益 68 億円。薬局・介護・サービス:数量 1.05 倍・価格 1.34 倍・営業利益率 3.5%
倍率:事業の純利益 255 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.3% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)650 億円。全体の PER 13.81 倍、時価総額 4,170 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:数量はゆるやかに増え、薬価は毎年削られ、費用は物価で上がる。会社予想の減益も出発点にある。ここに現金と還元の実績が釣り合うので、最大の36%を置いた。
やや悲観 24% 薬価と費用に挟まれ、利幅が1割割れへ 利益 202 億円 · PER 10.4 倍 · 株価時価総額 2,152 円2,870 億円
ガイドラインが形だけに終わる。薬価は10年で1割下がり、人件費と物流費は物価で上がる。医薬品卸売の利益率は0.9%に落ちる。数量は高齢化で5%増えるが、価格が0.90倍に下がり、売上は約2.2兆円に減る。
周辺事業も伸びない。薬局・介護は同業の薬局チェーンとの競争が強く、買収で得た事業も期待ほど稼がず、利益率は3.0%どまり。会社が育てたい分野が、利益の穴を埋めるところまで育たない。
営業利益は約250億円、純利益は約200億円に落ちる。還元は利益に合わせて減らし、10年で約2,100億円。総還元性向100%の旗は降ろさないが、稼ぎが細るので額は減る。余った現金は谷で一部を使い、新規事業に費やすため、今の4分の3に減る。自己資本はわずかに減る。
- 医薬品卸売:数量 2.5(国内の医療用医薬品市場(薬価ベース・実質、兆円)× 自社シェア)× 価格 0.90(薬価と卸の取り分の水準を今 = 1 とした指数(薬価の引き下げで下がり、物価では上がらない))→ 売上 22,198 億円・営業利益 200 億円。医薬品卸:数量 1.05 倍・価格 0.90 倍・営業利益率 0.90%
- 薬局・介護・医療関連サービス・製品開発:数量 0.1(取扱量(今の売上を実質の数量とみなした、兆円))× 価格 1.30(売上の価格の指数(物価並みに上がる 1.34 倍が基本))→ 売上 1,784 億円・営業利益 54 億円。薬局・介護・サービス:数量 1.00 倍・価格 1.30 倍・営業利益率 3.0%
倍率:事業の純利益約195億円・事業のROE約5.5%で、資本コスト7.25%以下。上限は1÷k の14.3倍だが、稼ぐ力が資本コストを下回る会社として約7割の10.4倍に置いた。余った現金は4分の3に減る前提で別に足す。
確率:薬価の毎年改定と人件費の上昇が同時に進む。流通改善の効果が限られる可能性は高く、24%を置いた。
悲観 12% 中抜きと薬価で、卸の機能が細る 利益 107 億円 · PER 7.6 倍 · 株価時価総額 1,127 円1,503 億円
製薬会社が取引する卸を絞り、一部の薬を直接配送する。オンライン服薬指導が広がり、薬局の機能も変わる。医薬品卸売の数量は8%減り、薬価も累計で15%下がる。利益率は0.55%まで細り、営業利益は100億円になる。
薬局・介護の事業も競争で利益率が2.0%に落ち、全体で営業利益は約130億円、純利益は約100億円。もう優良な卸とは呼べない。
還元は縮み、10年で約1,500億円。余った現金は谷で食いつぶし、買収の失敗で一部を減らし、今の半分に減る。減損で自己資本は少し減る。ただし借金はなく、財務は崩れない。
- 医薬品卸売:数量 2.2(国内の医療用医薬品市場(薬価ベース・実質、兆円)× 自社シェア)× 価格 0.85(薬価と卸の取り分の水準を今 = 1 とした指数(薬価の引き下げで下がり、物価では上がらない))→ 売上 18,369 億円・営業利益 101 億円。医薬品卸:数量 0.92 倍・価格 0.85 倍・営業利益率 0.55%
- 薬局・介護・医療関連サービス・製品開発:数量 0.1(取扱量(今の売上を実質の数量とみなした、兆円))× 価格 1.20(売上の価格の指数(物価並みに上がる 1.34 倍が基本))→ 売上 1,564 億円・営業利益 31 億円。薬局・介護・サービス:数量 0.95 倍・価格 1.20 倍・営業利益率 2.0%
倍率:事業の純利益約102億円・事業のROE約2.9%で、資本コスト7.25%を大きく下回る。構造的に負けた卸として約5割の7.6倍に置いた。余った現金は半分に減る前提で別に足す。
確率:製薬会社の直接配送や取引卸の絞り込み、オンライン服薬指導の広がりは、10年なら起こりうる。事業が構造的に負ける確率として12%を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
医薬品卸売
製薬会社から医療用医薬品を仕入れ、全国の病院・診療所・薬局へ届ける。売上の約 94% を占める本業。
| 数量国内の医療用医薬品市場(薬価ベース・実質、兆円)× 自社シェア | 価格薬価と卸の取り分の水準を今 = 1 とした指数(薬価の引き下げで下がり、物価では上がらない) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.3 | 1.00 | 23,494 | 315 |
| 10 年後 中立 | 2.6 | 0.93 | 24,030 | 264 |
取り方:市場は IQVIA の薬価ベース約 11.5 兆円(2024 年度、実質は今の薬価のまま)。医薬品卸売の売上 2.349 兆円(セグメント間の取引を除いた額)を市場で割ると、シェアは約 20.4%。数量はこの 2.349 兆円分の取扱量、価格は薬価と卸の取り分の指数で今を 1 とする。1 兆円 = 10,000 億円で換算する。営業利益は医薬品卸売の 314.7 億円から端数を丸めた。
薬局・介護・医療関連サービス・製品開発
保険薬局(ユニスマイル)、介護(エスケアメイト)、医療機器の製造(ケンツメディコ)、医療関連サービス、スペシャリティ医薬品の物流受託などの合計。
| 数量取扱量(今の売上を実質の数量とみなした、兆円) | 価格売上の価格の指数(物価並みに上がる 1.34 倍が基本) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.1 | 1.00 | 1,372 | 49 |
| 10 年後 中立 | 0.1 | 1.34 | 1,930 | 68 |
取り方:地域医療介護支援 939 億・医療関連サービス等 246 億・ヘルスケア製品開発 119 億・スペシャリティ流通受託 68 億の合計 1,372 億円(the-shashi の開示数字)。開示に市場規模が無いので、今の売上を取扱量 0.1372 兆円とみなし、価格を今 = 1 とする。営業利益は全社 364 億円から医薬品卸売の 315 億円を引いた約 49 億円。
リスクと懸念
薬価の引き下げと流通改善の不発
薬価は毎年のように下がり、卸の売上は数量の伸びほど増えない。流通改善ガイドラインで、薬1品ごとの価格交渉と必要経費の反映が進まなければ、利益率1.3%台の薄利はさらに削られる。医薬品卸売の利益率が0.2ポイント落ちるだけで、営業利益は2割近く減る。
人件費・物流費の上昇
配送の運転手と倉庫の人手は不足し、費用は物価以上に上がっている。2026年3月期は外部委託費の増加と仕入価格の上昇が医薬品卸売の営業利益を押し下げた。薬価が国で決まる以上、費用の上昇を価格に転嫁する力は弱い。
製薬会社の取引卸の絞り込み
製薬会社が取引する卸を減らす動きは、売上を一度に数百億円動かす。2024年3月期は約590億円の減収要因になった。大手4社の寡占でも、すべての製品を全社が扱えるとは限らず、顧客の選別に左右される。
一度きりの利益と利益の質
2026年3月期の純利益には、政策保有株の売却益約156億円が入っている。稼ぐ力は250億円前後で、ROEは6.5%程度だ。保有株を売り尽くせば、売却益と配当収入の両方が消える。見かけの利益に高い倍率を付けると、価値を過大に見積もる。
周辺事業の買収の成否
新中計は3年で600億円以上を投資する。薬局・介護・デジタルの小さな買収が、卸より高い利益率を出せなければ、現金が稼ぎの低い資産に変わる。薬局事業は同業の薬局チェーンとの競争もあり、利益率の維持は簡単ではない。
高齢化の天井と中抜き
高齢者人口は2040年前後に減りに転じ、処方の数量の伸びは止まる。メーカーの直接配送やオンライン服薬指導が広がれば、卸の機能そのものが細る。10年より先では、数量と取り分の両方が縮む恐れがある。
今後の分かれ目
- 流通改善ガイドラインが定着し、薬1品ごとの価格交渉と必要経費の反映が進む
- 医薬品卸売の利益率は1.2%台で下げ止まる。楽観とやや楽観の確率を上げ、値段は本質価値に近づく。
- 薬価改定が毎年の本格運用となり、費用の上昇を価格に転嫁できない
- 医薬品卸売の利益率は1%を割る方向へ動く。やや悲観の確率を上げ、本質価値は今の時価総額を下回る。
- 自社株買いと増配が総還元性向100%どおりに続き、DOE3%の目標が前倒しで達成される
- 余った現金は株主へ確実に戻る。倍率ではなく現金の価値が上がり、中立の本質価値を押し上げる。
- 製薬会社が取引する卸をさらに絞り、スズケンの扱いが減る
- 売上が数百億円単位で動き、数量の見通しを引き下げる。悲観の確率を上げる。
- medimoなど新規事業の利益率が卸の3倍超で伸びる
- 手数料で稼ぐ事業が全体の利幅を底上げする。楽観の確率を上げる。
- 現金が還元ではなく、小さな買収の積み重ねに使われる
- 余った現金の戻り方を 0.5 に下げ、本質価値は下がる。経営への評価も引き下げる。
見ておくもの
- 2027年3月期の営業利益と、新中計の経常利益率1.5%・ROE7%の進み
- 総還元性向100%・DOE3%の実行(自社株買いの規模と消却)
- 流通改善ガイドラインの運用と、薬価改定の頻度・深さ
- 製薬会社の取引卸の絞り込みの動き(売上の一括の増減)
- 政策保有株の縮減の進みと、売却益に頼らない利益の水準
- medimoなどフィー事業の利益率と、薬局・介護の収益
倍率と資本コストの決め方
倍率は、余った現金を除いた事業の純利益に対する正当化PERの約9割に置いた。事業のROEは7%強で、資本コスト7.25%をわずかに上回るだけなので、上限はおよそ14.5倍にとどまる。そこから利益の質(売却益と配当収入への依存)を引いて12.8倍にした。今の株価やPBR、同業の倍率は使っていない。リースは家賃を営業費用に入れた今の形でそろえて置いた。新リース会計で2028年3月期から数字の形は変わるが、価値は変わらない。結果が今の時価総額に近いのは、置き方を合わせた結果ではなく、事業の稼ぐ力が資本コストと釣り合う会社だからである。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 15.3→15.36 倍・やや楽観 PER 13.9→14.66 倍・中立 PER 12.8→13.81 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality を足した(決まり v2)。個別の事業リスクは筋書きと確率で表す。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.00% → 7.25%。