結論
東急リアル・エステートは、渋谷とその周辺のオフィス・商業施設を持つ J-REIT だ。29 物件、取得価格で 2,457 億円。スポンサーは東急で、投資主と同じ船に乗る度合いが J-REIT の中でも高い。
筆者の結論は、今の値段は割高というものだ。鑑定評価額に対する収益(NOI から資本的支出を引いた利回り)は 2.5% しかない。10 年後に同じ値付けで売れる前提でなければ、価値は時価総額の半分に届かない。
もう一つ気になるのは、分配金の中身だ。最近の分配には、物件の売却益が毎期 25〜27 億円ほど入っている。売却益を除いた 1 口あたりの利益は、分配のおよそ 77% にとどまる。
強みも多い。借入の平均金利は 0.90% と低く、LTV は鑑定ベースで 3 割台と余力がある。スポンサーは投資口を 15% まで買い増し、運用報酬には取得報酬がなく、投資主の利益に連動する形だ。
それでも、安全域は薄い。良い法人だが、値段が良い法人の分を先に織り込んでいる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の目で見ると、この法人は質の高いオーナーが持つ、渋谷の中堅ビルの束だ。後ろ盾が強く、経営の資本の使い方も真面目で、自己投資口の消却まで行った。
それでも値段が合わない。鑑定評価額に対する収益は 2.5% で、借入の新しい金利 3.4% より低い。借り換えが進めば、いま 56 億円の純利益は 38 億円ほどへ縮む。
分配には、毎期の売却益が 25〜27 億円入っている。含み益 987 億円は、売って初めてお金になる。売却益で分配を保つ手法は、売れる物件が尽きれば終わる。
10 年の分配と 10 年後の売値を今に引き直すと、今の値段は 5 割ほど高い。筆者は、スポンサーの質をそのまま値段に払うことは、安全域を削ることになると見る。
経営の資本の使い方は、むしろ誠実だ。物件を売って含み益を投資主に返し、安い時は自己投資口を消す。オーナーとして付き合うなら、持ち続けたい相手だ。ただ、払う値段は別の話になる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、渋谷を中心とした都心の賃料だ。直近 1 年の賃貸収益は 157 億円。そこから運営費を引いた NOI(純収益)は 104 億円になる。売却益は別に毎期計上されるが、これは繰り返せる収益ではないので除いて見る。
資産は 29 物件。取得価格では、オフィスが 1,595 億円と 65% を占め、商業施設が 623 億円、複合施設が 202 億円、住宅は 37 億円ほどだ。賃貸事業収入で見ても、オフィスが約 7 割、商業が 2 割弱になる。
エリアは東京都心 5 区と東急沿線に限る。広域渋谷圏の 14 物件が中核で、QFRONT、cocoti、渋谷 R、道玄坂スカイ、表参道レキシントンなどを持つ。渋谷区の空室率は都心 5 区で最も低く、募集賃料は最も高い水準にある。
稼働率は 99% 前後。2026 年 7 月期には、スポンサーから戸越銀座ラウンドビルと東急すすき野ビルを買った。10 月には新丸子の賃貸住宅も 22 億円で取得している。代わりに、虎ノ門の共有持分を 3 回に分けて売り、売却益を出した。
今後 2 年は修繕が重い。渋谷 R、東急虎ノ門の空調更新だけで 6 億円に上る。
優良さと弱いところ
この法人の優良さは、スポンサーと立地の二つに尽きる。東急は渋谷の再開発を主導する当事者で、取得の機会が先に回ってくる。その東急が投資口を 5% から 15% へ買い増した。これは言葉でなく、お金で示した同じ船だ。
運用報酬の形も良い。基本報酬は資産評価額とキャッシュフローに連動し、取得額に連動する報酬はない。インセンティブは投資口価格に連動する。運用会社が規模だけを追いにくい作りだ。
弱みは三つある。一つは、鑑定に対する収益の低さ。NOI から資本的支出を引いた利回りは 2.5% で、J-REIT の中でも最低の部類だ。二つ目は、オフィスが 7 割を占める景気への振れ。三つ目は、分配を売却益が支えていることだ。
修繕と更新の工事は、2027 年 7 月期に増える。資本的支出は年 21 億円から、さらに膨らむ。
筆者は、事業の質を「良い」と見る。ただ、強い堀、つまり他社がまねできない強みは、立地とスポンサーの紐づきに限られる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
東京都心 5 区のオフィス空室率は低く、特に渋谷は 1% 台の低水準にある。ただ、大型の新築供給は 2027 年以降も続き、在宅勤務の定着で床の需要は実質で横ばいだ。賃料は契約更新で遅れて上がり、空室が増えれば止まる。
渋谷は再開発が進み、渋谷スクランブルスクエア第Ⅱ期や宮益坂地区が 2031 年度に控える。ここに東急のビルが次々に加わるので、周辺の中規模ビルとの競争は厳しくなる。
業種の表では、都心の大型オフィスのキャップレートは 4.25%、商業は 5.0%、住宅は 3.75% だ。この法人はオフィス 69%、商業 18%、複合 11%、住宅 2% なので、加重すると 4.41% になる。
今の鑑定の利回り 2.5% は、10 年国債の利回りより低い。鑑定は値動きが遅れて出る数字で、中立の筋書きでは使えない。
J-REIT 全体では、上場の値段から逆算したキャップレートの中央は 4.2% 前後。この法人の NAV 倍率 0.79 は、その中央に近い評価だ。
商業施設は、渋谷・表参道の路面と複合ビルが中心で、観光客と若い世代の消費に支えられる。ただし商業の賃料は歩合の部分が景気で動く。
資本政策と M&A
借入は 1,040 億円。総資産に対する比率は 42.5%、鑑定評価額に預り敷金を含めても 33% で、余力がある。平均金利は 0.90%、固定比率は 86.8%、平均残存は 3.49 年。格付けは JCR が AA−、R&I が A+。
弱点は期間の短さだ。2028 年 7 月期までに約 307 億円、全体の 3 割が満期になる。2026 年の政策金利は 1.00% に上がり、10 年国債も上昇している。
投資口は、2025 年 7 月に自己投資口を消却して 96 万 1,371 口になった。直近 5 年に公募増資はない。スポンサーが 2 回、各 4 万 9 千口弱を市場で買い増した。
運用報酬は直近 1 年で約 15 億円、NOI の 14%。ただし取得報酬はなく、資産評価額とキャッシュフローに連動する。新規取得は今後 300〜350 億円程度を検討し、スポンサーのパイプラインを使う。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
スポンサーの本気度は、この業界でも最高の部類だ。東急は投資口を 5% から 15% に買い増し、物件の取得を優先して回す。運用報酬は取得報酬がなく、投資主の利益に連動する。
渋谷には他にない集積がある。空室率は都心 5 区で最も低く、募集賃料は最も高い。入居と増額改定で NOI は伸び、売却益を除く 1 口あたり利益は 2027 年 1 月期に 2% ほど戻る見通しだ。
借入の平均金利は 0.90% で、鑑定ベースの LTV は 3 割台。借り換えが 3.4% になっても耐えられる体力がある。含み益は 987 億円、含み益率は 42%。
物件を高く売って安く買い替える力もある。虎ノ門などの売却益は、直近 2 期で約 52 億円出た。
楽観の筋書きでは、賃料が年 3% 伸び、キャップが今の鑑定の 2.5% で止まる。時価総額は 3,505 億円と今の 2 倍になる。
スポンサーの資金力と開発力が物件の取得機会を生み、外部成長の余地もある。300〜350 億円の取得計画は、その一例だ。
慎重な見方
鑑定の利回りが低すぎる。NOI から資本的支出を引くと 2.5%。新しい借入金利 3.4% を下回る。10 年後に同じ値付けで売れる前提は置けない。
分配の質も気になる。2026 年 7 月期の分配のうち、売却益を除く利益は 77% 。残りは売却益と圧縮積立金で支えている。2027 年 7 月期の売却益を除く利益は、さらに 8% 下がる予想だ。
オフィスが 7 割。渋谷では東急自身が大型ビルを次々に供給する。スポンサーが同じ街で競合になる構図は、投資主にとって利害の食い違いにもなりうる。
資本的支出は年 21 億円と、減価償却の 20 億円を上回る。空調更新で 6 億円規模の工事が続き、建築費は物価より速く上がる。
悲観の筋書きでは、稼働率が 93% に下がり、借り換えが 4.3% になる。分配は止まり、時価総額は物件価値と借入が相殺して消える。
スポンサーの支えは大きいが、鑑定の下落までは止められない。
どちらに重みを置いたか
どちらも事実を言っているが、価格の重さは慎重な見方が上だ。スポンサーの質は点数 1.5 と低く、悲観の確率を上げる理由はない。ただ、鑑定の利回りと分配の中身の弱さは、質の高さだけでは埋められない。筆者は、悪い法人ではなく、値段が良さを先取りしている法人だと見る。
確率は基本のまま置き、スポンサーの質は k の上乗せを小さくすることで反映した。鑑定の利回りが借入金利を下回る事実は、確率ではなくキャップの置き方に効かせている。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/07 期)
確率で加重した株価時価総額 118,938 円1,143 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 57,928 円557 億円)。 今の値に割り戻すと 90,799 円873 億円、今との差 −49.9%、 期待の年率 −0.2%(資本コスト 8.6%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 364,583 円3,505 億円 | 71,460 円687 億円 | +140.5% | +9.2% | 43,604 円419 億円 |
| やや楽観 | 22% | 178,287 円1,714 億円 | 65,115 円626 億円 | +34.3% | +3.0% | 53,549 円515 億円 |
| 中立 | 38% | 95,385 円917 億円 | 59,914 円576 億円 | −14.3% | −1.5% | 59,014 円567 億円 |
| やや悲観 | 20% | 33,494 円322 億円 | 48,368 円465 億円 | −54.8% | −7.6% | 16,372 円157 億円 |
| 悲観 | 10% | 3,121 円30 億円 | 40,151 円386 億円 | −76.1% | −13.3% | 4,327 円42 億円 |
| 加重平均 | 100% | 118,938 円1,143 億円 | 57,928 円557 億円 | −2.4% | −0.2% | 176,866 円1,700 億円 |
今の株価時価総額 181,300 円1,743 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.6% を下回るほど割高。
楽観 10% 賃料が年 3% 伸び、今の鑑定の利回りが続く 利益 60 億円 · PBR 3.0 倍 · 株価時価総額 364,583 円3,505 億円
渋谷の空室は締まり続け、入替の増額が年 3% の賃料の伸びにつながる。稼働率は 99% を保つ。
借り換えは AA− 格のおかげで 3.2% で収まり、年の利払いは 34 億円。NOI は 104 億円から 139 億円へ 34% 増え、純利益は 60 億円と今を上回る。
不動産の売買市場は低金利の値付けを続け、キャップは今の鑑定の NCF 利回り 2.50% のままだ。物件の価値が 4,500 億円を超え、時価総額は 3,505 億円と今の 2 倍になる。
スポンサーの追加取得と自己投資口の消却で、口数は減る。ただしそれは計算に入れていない。
- 渋谷圏のオフィス・商業施設の賃貸:数量 2,305(稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働の係数、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 9.2%(規模に対する賃貸事業収益の比(今 6.8%)。賃料の改定と、歩合賃料の増減を合わせた値)→ 売上 211 億円・営業利益 116 億円。稼働 99%・賃料 年 +3.0%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から純負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 139 − 資本的支出 26) ÷ キャップ 2.50% − 純負債 1030 = 3505 億円。キャップは今の鑑定の NCF 利回り(NOI から資本的支出を引き、鑑定評価額で割った 2.50%)。今の値付けが 10 年続く筋書きで、楽観はここまで下げてよい。
確率:渋谷の再開発が賃料を押し上げ、キャップが今の 2.5% のまま 10 年続く筋書き。スポンサーの点数が低いので、基本より少し高い 10% とした。
やや楽観 22% 賃料は年 2.5%、キャップは 3.6% まで下がる 利益 48 億円 · PBR 1.5 倍 · 株価時価総額 178,287 円1,714 億円
賃料の増額が数年続き、年 2.5% の伸びになる。稼働率は 98% を保つ。
借り換えは 3.3%。年の利払いは 35 億円に増えるが、NOI は 127 億円と 23% 増え、純利益は 48 億円で踏みとどまる。
売買市場は、10 年金利 3% との差を 0.6 ポイントまで保つ。キャップは 3.6% に下がり、物件の価値は 2,700 億円を超える。時価総額は 1,714 億円で、今の水準とほぼ並ぶ。
ただし賃料の伸びは物価の 3% に届かず、空調更新などで資本的支出が年 28 億円に膨らむ。
この筋書きでも、増資で口数を増やす余地は小さい。1 口あたりの成長は、賃料の伸びと自己投資口の消却に頼ることになる。
- 渋谷圏のオフィス・商業施設の賃貸:数量 2,282(稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働の係数、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 8.7%(規模に対する賃貸事業収益の比(今 6.8%)。賃料の改定と、歩合賃料の増減を合わせた値)→ 売上 199 億円・営業利益 104 億円。稼働 98%・賃料 年 +2.5%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から純負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 127 − 資本的支出 28) ÷ キャップ 3.60% − 純負債 1045 = 1714 億円。キャップは用途の下限 3.25% より高い 3.6%。今の鑑定の NCF 利回り(2.5%)を超え、10 年金利との差が 0.6 ポイント残る前提。
確率:賃料が物価の 8 割ほど追随し、キャップが 3.6% まで下がる筋書き。ありうる上振れとして 22% とした。
中立 38% 賃料は年 2% で伸び、純利益が 3 割減る 利益 38 億円 · PBR 0.8 倍 · 株価時価総額 95,385 円917 億円
借入が 3.4% に借り換わり、年の利払いは 5 億円弱から 36 億円に増える。稼働率は渋谷の新規供給で 97.5% に下がる。
賃料は年 2.0% で伸びる。経費は物価で年 3%。NOI は 104 億円から 117 億円へ、10 年で 13% 伸びるだけだ。そこから資本的支出 29 億円が出る。
減価償却は 23 億円、運用報酬などは 20 億円。純利益は 56 億円から 38 億円へ、3 割以上減る。売却益に頼らない分配は、今の半分ほどになる。
物件の売値は、キャップ 4.41% で 2,000 億円ほど。そこから純負債 1,075 億円を引くと、時価総額は 917 億円になる。
- 渋谷圏のオフィス・商業施設の賃貸:数量 2,270(稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働の係数、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 8.3%(規模に対する賃貸事業収益の比(今 6.8%)。賃料の改定と、歩合賃料の増減を合わせた値)→ 売上 189 億円・営業利益 94 億円。稼働 98%・賃料 年 +2.0%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から純負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 117 − 資本的支出 29) ÷ キャップ 4.41% − 純負債 1075 = 917 億円。キャップは業種の表を賃貸事業収入で加重した 4.41%(オフィス 4.25%、商業 5.0% など)。今の NCF 利回り(2.5%)より高い。
確率:10 年金利が 3% 前後に落ち着き、賃料は年 2.0% で伸びる筋書き。最も起こりやすい。スポンサーの点数 1.5 で、確率は基本のまま。
やや悲観 20% 賃料の伸びが止まり、キャップが 4.7% に上がる 利益 16 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 33,494 円322 億円
渋谷の大型供給が続き、中堅ビルの賃料の伸びは年 1.0% にとどまる。稼働率も 95.5% に下がる。
借り換えは 3.6%。年の利払いは 38 億円。NOI は 96 億円と今より 8% 減り、純利益は 16 億円に縮む。
分配は借入の返済を優先して絞る。圧縮積立金も使い切る。
キャップは 4.70% に上がる。物件の価値は 1,400 億円ほどで、純負債 1,095 億円を引くと、時価総額は 322 億円だ。
この筋書きは、金利が高止まりし、オフィスの買い手が減る局面で起こる。今の 2 割弱の水準だ。
- 渋谷圏のオフィス・商業施設の賃貸:数量 2,224(稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働の係数、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 7.5%(規模に対する賃貸事業収益の比(今 6.8%)。賃料の改定と、歩合賃料の増減を合わせた値)→ 売上 168 億円・営業利益 73 億円。稼働 96%・賃料 年 +1.0%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から純負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 96 − 資本的支出 29) ÷ キャップ 4.70% − 純負債 1095 = 322 億円。キャップは中立 4.41% に 0.29 ポイント上乗せして 4.70% (金利の上振れと、オフィスの売り)。
確率:渋谷で大型の新築供給が続き、賃料が頭打ちになる筋書き。借り換えの上乗せも重なる。20% とした。
悲観 10% 空室の増加と金利上昇で、物件の価値が借入を割る 利益 −5 億円 · PBR 0.0 倍 · 株価時価総額 3,121 円30 億円
景気の後退でオフィスの空室が増え、稼働率は 93% に下がる。賃料は据え置きだ。
借り換えは A 格並みの 4.3% になり、年の利払いは 45 億円。NOI は 79 億円と今の 7 割台まで減り、純利益は 5 億円の赤字になる。
キャップは 5.0% まで上がり、物件の価値は 1,100 億円ほど。純負債 1,120 億円を下回り、時価総額は再建の見込みの分にとどまる。
分配は止まり、借入の返済に回る。スポンサーの支えが唯一の下支えになる。
含み益は 987 億円あるが、鑑定が下がれば先に消える。清算されない限り、少数の投資主が NAV を受け取ることはできない。
- 渋谷圏のオフィス・商業施設の賃貸:数量 2,166(稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働の係数、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 6.8%(規模に対する賃貸事業収益の比(今 6.8%)。賃料の改定と、歩合賃料の増減を合わせた値)→ 売上 148 億円・営業利益 57 億円。稼働 93%・賃料 年 +0.0%・経費 年 2.5%
倍率:PBR は再建の見込みの分だけを自己資本で割った値。物件の価値 (NOI 79 − 資本的支出 24) ÷ キャップ 5.00% − 純負債 1120 は負で、時価総額は再建の見込み 30 億円にとどまる。キャップは中立 4.41% に 0.59 ポイント上乗せした 5.0%。
確率:スポンサーの点数 1.5 なので悲観の確率は基本の 10%。オフィスの空室と借り換え金利の上昇が同時に来る筋書き。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
渋谷圏のオフィス・商業施設の賃貸
東京都心 5 区と東急沿線のオフィス・商業施設・住宅 29 物件を持ち、定期借家で貸して賃料を受ける。
| 数量稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働の係数、億円。今の値段の実質の規模) | 価格規模に対する賃貸事業収益の比(今 6.8%)。賃料の改定と、歩合賃料の増減を合わせた値 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/07 | 2,305 | 6.8% | 157 | 84 |
| 10 年後 中立 | 2,270 | 8.3% | 189 | 94 |
取り方:直近 1 年(2026 年 1 月期+2026 年 7 月期)の不動産賃貸事業収益 157 億円を数量・価格に分けた。売却益は繰り返せないので除く。数量は貸借対照表計上額 2,329 億円に稼働率 99% を掛けた規模、価格は収入 ÷ 数量。NOI は運営費 54 億円を引いて 104 億円、セグメントの利益は減価償却 20 億円を引いた額。中立の価格は 10 年で 1.22 倍にとどまり、物価の 1.34 倍に届かないのは、賃料の転嫁が契約更新で遅れて 2/3 であるため(業種ノート)。
リスクと懸念
鑑定の利回りの低さ
NOI から資本的支出を引いた利回りは、鑑定評価額に対して 2.5%。新しい借入金利を下回る。キャップが 4.4% へ上がると、物件の価値は 4 割以上減る。
売却益に支えられた分配
2026 年 7 月期の分配は、売却益と圧縮積立金で支えられている。売却益を除く利益は分配の 8 割弱で、2027 年 7 月期は予想の利益がさらに下がる。
借り換えによる利払いの増加
平均金利 0.90%、残存 3.49 年。2028 年 7 月期までに約 307 億円、3 割が満期を迎える。3.4% に借り換わると、年の利払いは 5 億円弱から 36 億円に増える。
オフィスの新築供給と在宅勤務
賃貸事業収入の 7 割がオフィス。渋谷では東急自身が大型ビルを供給し、同じ街で競合になる。
資本的支出の膨らみ
年 21 億円と、減価償却の 20 億円を上回る。2027 年 7 月期は空調更新などで工事が重く、建築費は物価より速く上がる。
物件入替の限界
含み益 987 億円のうち、売れる物件は限られる。売却益で分配を保つ手法は、売るものが減れば効かなくなる。
今後の分かれ目
- 10 年国債の利回りが 2% 台前半へ戻り、借り換えが 2.5% 前後で済む
- 利払いの増加が小さくなり、純利益が 50 億円を保つ。楽観側の確率を上げる。
- 渋谷のオフィス賃料が年 3% 以上の伸びを数年続ける
- NOI の伸びが物価に近づく。中立の見方を上げる。
- 売却益を計上せずに、分配を維持できなくなる
- 分配の減額が避けられない。慎重側の確率を上げる。
- NAV 割れで公募増資を行う
- 1 口の価値が薄まる。スポンサーの点数を上げ、悲観の確率を上げる。
- スポンサーが投資口の保有比率をさらに引き上げる
- 同じ船の度合いが上がり、スポンサーの点数を下げる。
見ておくもの
- 入替時の賃料増額の幅(渋谷のオフィス)
- 借り換えの金利と、2028 年 7 月期までの満期
- 売却益と圧縮積立金に頼る分配の割合
- 資本的支出と減価償却の比
- スポンサーの保有比率と自己投資口の取得
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価や NAV 倍率から置いていない。10 年後の時価総額は、NOI から資本的支出を引いた額をキャップレートで割り、純負債を引いて出した。中立のキャップは用途の表を賃貸事業収入で加重した 4.41% で、今の鑑定の NCF 利回り 2.5% より高い。NAV(含み益)は床に使っていない。株価が高くても低くても、価値の数字は動かない。
資本コスト 8.6% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k は基本 7.5% に quality +1.05% を足して 8.55%。用途の分散は cycle に入れたので extra は置かない。