結論
大和証券オフィス投資法人は、東京都心の中堅ビルを 58 棟持つオフィス REIT だ。後ろ盾は大和証券グループで、稼働は 99.1%。筆者の結論は割高だが、その幅は同じ用途の大型 REIT より小さい。理由は、スポンサー側の癖が薄いからだ。
直近 5 年、この投資法人は一度も増資をしていない。むしろ NAV、つまり含み益まで入れた 1 口の純資産を大きく下回る値段で、自己投資口を買って消却してきた。大和証券グループの出資は 14% と厚く、投資主と同じ船に乗っている。
それでも金利の壁は動かない。借入の半分は変動で、平均金利は 1.02%。10 年金利が 3% に落ち着けば、年の利払いは今の 3 倍になり、利益の 4 分の 1 が消える。ビルの利回りも、今の鑑定の 3% 台から 4% 台後半へ上がる。
契約賃料は市場より 2 割低く、増額の余地は大きい。ただ、築 26 年の中堅ビルが中心で、修繕の費用は重い。良い運営と、払ってよい値段は別の話だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、経営者が投資主のお金をどう扱うかが第一だ。この投資法人は、増資で規模を追わず、NAV を割る投資口を自ら買って消し、含み益を分配に回してきた。オーナーとして付き合いたい運営である。
ただ、良い運営が値段の高さを消してくれるわけではない。借入の半分は変動で、10 年金利が 3% に落ち着けば、年の利払いは今の 26 億円から 78 億円へ増える。賃料が物価の 3 分の 2 で上がっても、埋めきれない。10 年の分配と 10 年後のビルの価値を合わせても、今の値段の 6 割ほどの価値にしかならない。
逆に言えば、値段が NAV に対して今よりさらに下がり、ビルの利回りが 4% を超える水準まで来れば、安全域のある持ち物になる。今はまだそこにない。
筆者は、投資口が NAV を割る間の自己投資口の買い入れを高く評価する。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は単純だ。東京都心の中堅オフィスビルを企業に貸し、賃料から経費と利払いを引いた残りを投資主に配る。2026 年 5 月期(半年)の賃貸事業収益は約 149 億円、そこから経費を引いた NOI、つまり物件の正味の賃料は約 111 億円だった。
物件は取得価格で 4,877 億円、58 棟。東京主要 5 区が 81% を占め、テナントは中小企業が中心だ。規模は延床 2,000 ㎡以上の中堅ビルで、A クラスのビルは 3 割に満たない。平均の築年は 25.7 年と、入れ替えで 5 年ほど若返ったが、なお古い。
賃料の改定は契約ごとに進み、入れ替え時に 23%、更新時に 12% の増額を取っている。契約賃料と市場賃料の差は約 2 割ある。
借入は約 2,390 億円。平均の金利は 1.02%、残りの期間は 4.0 年で、固定は 50% しかない。格付けは JCR が AA、R&I が AA-。手元の現金は 300 億円ほどあり、物件の取得や自己投資口の買い入れの原資になる。
売却した物件は築 40 年を超える古いビルが多く、入れ替えのたびに平均の築年が下がる。
優良さと弱いところ
運営の腕は確かだ。稼働は 99.1% まで上がり、増額改定の幅は過去最高の水準にある。築古の物件を売って含み益を分配に回し、浜松町や千駄ヶ谷の新しいビルに入れ替えた。ただ、堀、つまり他社がまねできない強みは薄い。中堅ビルの賃料は市況で決まり、値決めの力は無い。
資本の使い方は、この用途の REIT で屈指に誠実だ。5 年間に増資は無い。投資口の値段が NAV を割る間は、新しい物件を買うより自己投資口を買う方が投資主のためになる、という判断を実行してきた。消却した口数は延べ 3 万を超える。
報酬の形は、投資主に有利とは言いにくい。賃貸収益の 5.5% と資産の 0.05% を毎期受け取る仕組みで、規模が大きいほど報酬が増える。配当可能額に連動する部分は 3.5% と小さい。報酬は NOI の 1 割台半ばにあたる。
弱いのは、築年の古さと借入の変動比率の高さだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
東京都心のオフィス市場は、空室率が 2% 前後まで下がった。人材確保のためにオフィスを改善したい企業の移転が続き、賃料は上昇基調にある。この REIT の中堅ビルでも、入れ替えのたびに賃料を 2 割以上上げられている。
筆者は、これを 10 年続く上昇とは見ない。大型ビルの新築は 2027 年以降も続き、働く場所は分散する。中堅ビルには、新築の大型ビルから借り手が戻ってくる面もあるが、築古のビルほど選別される。中立の賃料は物価の 3 分の 2、名目で年 2% と置く。
いちばん大きいのは金利だ。この REIT の鑑定の利回りは 3% 台前半。10 年金利が 3% の世界でこの差は保てない。都心の大型ビルの中立は 4.25%、中小・築古は 4.75% で、この投資法人は中堅ビルが中心なので 4.6% と置く。ビルの価値は 3 割ほど下がる計算だ。
オフィスは、金利の上昇と利回りの上昇が同時に効きやすい用途である。
中小企業が借り手の中心で、大企業の本社ビルより景気の影響を受けやすい面もある。
資本政策と M&A
利益のほぼ全部を配るのが REIT の決まりだ。成長の道は、増資で物件を買うか、物件を入れ替えるかのどちらかになる。この投資法人は、増資をやめて入れ替えと自己投資口の買い入れに絞ってきた。
入れ替えは、築古や成長の鈍い物件を売って含み益を分配に回し、新しいビルを買う形だ。含み益は 1,554 億円、鑑定の 25% に及ぶ。売却益は一度きりなので、筆者は通常の分配には数えていない。
自己投資口は 2022 年以降に何度も買い、全部を消却した。直近も 15 億円の枠を決めた。NAV の 7 割の値段で自分の投資口を買うのは、投資主にとって最も確実な使い道だ。投資口は 2026 年 12 月に 1 口を 4 口に分ける予定で、これは価値を変えない。
LTV は帳簿で 47%、時価で 36%。借り増しの余地は約 300 億円あるが、金利の上昇期に使う手ではないと筆者は見る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
この REIT は、他とは別物だ。契約賃料が市場賃料より 2 割低く、入れ替えで 23%、更新で 12% の増額を取っている。賃料が物価並みに上がれば、NOI は 10 年で 4 割近く伸び、利払いの増加を吸収できる。中堅ビルの借り手は中小企業が中心で、大型ビルの供給の波を受けにくい。
資本政策も強い。増資はせず、NAV の 7 割の値段で自己投資口を買って消却している。含み益は 1,550 億円あり、値段が NAV に近づくだけでも大きく報われる。大和証券グループは 14% を持つ筆頭の投資主で、利害は同じ方向にある。
金利が 3% まで上がるとも限らない。上がっても、AA の格付けで借り換えの上乗せは小さい。基準金利が 0.1% 上がっても分配金への影響は 分配金の 1% 未満と軽い。
築年は入れ替えで 30 年から 26 年へ若返った。運営の腕を信じて、持ち続けてよい。
運営会社は入れ替え交渉の力が強く、交換取引で含み益を出さずに優良物件を買う実績もある。
慎重な見方
低金利が作った値段だ。借入の半分は変動で、平均金利は 1.02%。10 年金利が 3% になれば、年の利払いは 3 倍になる。ビルの利回りも 3% 台前半から 4% 台後半へ上がり、借入があるので投資主の取り分はその分だけ大きく減る。
物件は築 26 年の中堅ビルが中心で、A クラスは 3 割に満たない。新築の大型ビルへテナントが移れば、先に空くのはこうしたビルだ。修繕の費用も、建築費とともに膨らむ。今の資本的支出が低すぎる懸念もある。
報酬は規模と賃料に連動し、投資主の利益だけに連動しているわけではない。売却益の分配も一度きりで、売った物件の賃料は消える。
NAV 割れは割安の根拠ではない。清算されない限り、投資主は含み益を受け取れない。
借入の半分が変動で、短期に上がる金利は直接利益を削る。
賃料の増額も、ギャップが埋まれば止まる。10 年続く成長の源泉ではなく、一度きりの押し上げにすぎない。
どちらに重みを置いたか
運営の質では強気に分があるが、勝負を決めるのは金利だ。10 年金利 3% を前提にする以上、利払いとビルの利回りの上昇は避けられない。スポンサーの癖が薄い分、悲観の確率は厚くしすぎなかったが、中立を 35% に置き、悲観側を合わせて 37% とした。楽観は賃料の増額余地が大きい筋書きで 8%。筆者は、この REIT が同じ用途の中で最も投資主を向いた運営の一つだと認める。ただ結論は変わらず、割高である。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/05 期)
確率で加重した株価時価総額 249,406 円2,331 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 113,759 円1,063 億円)。 今の値に割り戻すと 181,922 円1,701 億円、今との差 −37.5%、 期待の年率 +2.2%(資本コスト 8.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 707,674 円6,615 億円 | 152,019 円1,421 億円 | +195.2% | +11.4% | 68,775 円643 億円 |
| やや楽観 | 20% | 362,770 円3,391 億円 | 136,186 円1,273 億円 | +71.3% | +5.5% | 99,791 円933 億円 |
| 中立 | 35% | 241,133 円2,254 億円 | 120,032 円1,122 億円 | +24.0% | +2.2% | 126,408 円1,182 億円 |
| やや悲観 | 23% | 122,492 円1,145 億円 | 96,175 円899 億円 | −24.9% | −2.8% | 50,293 円470 億円 |
| 悲観 | 14% | 54,774 円512 億円 | 73,067 円683 億円 | −56.1% | −7.9% | 17,898 円167 億円 |
| 加重平均 | 100% | 249,406 円2,331 億円 | 113,759 円1,063 億円 | +24.7% | +2.2% | 363,165 円3,395 億円 |
今の株価時価総額 291,200 円2,722 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 契約賃料の差が埋まり、中堅ビルの賃料が物価を上回る 利益 156 億円 · PBR 2.8 倍 · 株価時価総額 707,674 円6,615 億円
契約賃料と市場賃料の差約 2 割が、入れ替えと更新で 10 年かけて埋まる。賃料は年 3.5% で上がり、稼働は 99% を保つ。中堅ビルの借り手である中小企業の需要は底堅く、NOI は 10 年で 4 割強伸びる。
借り換えの金利は AA の格付けで 3.3% にとどまる。不動産の買い手は今の利回りで買い続け、物件の利回り(キャップ)は今の鑑定の 3.08% のまま変わらない。時価総額は 6,615 億円と今の 2.4 倍になる。自己投資口の買い入れも続き、1 口の価値は NAV に近づく。
筆者はこの筋書きを、前提の金利から外れる分だけ低く見る。
含み益は 1,550 億円あり、売却益の分配も続けられる。中堅ビルの借り手は中小企業が中心で、景気の波に左右されにくい。
- オフィスビルの賃貸:数量 4,679(稼働している物件の規模(帳簿価額=取得原価 × 稼働率、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 9.0%(稼働した規模に対する賃料などの収入の比(今 6.4%)。物価の転嫁で伸びる)→ 売上 421 億円・営業利益 273 億円。稼働 99%・賃料 年 +3.5%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 316 − 資本的支出 41) ÷ キャップ 3.08% − 純負債 2330 = 6615 億円。キャップは今の鑑定の NCF 利回り((NOI − 資本的支出) ÷ 鑑定評価額)の 3.08% で、今の値付けが 10 年続く所(オフィスの下限 3.5% より低い。楽観だけはここまで下げてよい)。
確率:契約賃料が市場より 2 割低く、金利が上がり切らない筋書き。前提の金利から外れるので 8% にとどめた。
やや楽観 20% 賃料は物価に近く伸び、利回りの上昇は小さい 利益 126 億円 · PBR 1.4 倍 · 株価時価総額 362,770 円3,391 億円
都心の空室は低いまま推移し、賃料は年 2.75% で上がる。稼働は 98.5% を保つ。経費は物価並みに増えるが、収入の伸びが上回り、NOI は 10 年で 3 割弱伸びる。
借入は 3.35% 前後へ借り換わり、利払いは今の 3 倍になる。純利益は今と同じ水準にとどまる。ビルの利回りは 4.25% に上がり、ビルの価値は今の鑑定を下回る。
契約賃料の差が埋まる分は一度きりの押し上げで、その先の伸びは物価に追いつかない。
含み益の売却による分配の上乗せもあるが、通常の利益には数えない。
自己投資口の買い入れは続くが、金利が上がるほど資金の余力は細る。
- オフィスビルの賃貸:数量 4,655(稼働している物件の規模(帳簿価額=取得原価 × 稼働率、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 8.4%(稼働した規模に対する賃料などの収入の比(今 6.4%)。物価の転嫁で伸びる)→ 売上 389 億円・営業利益 241 億円。稼働 98%・賃料 年 +2.8%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 285 − 資本的支出 41) ÷ キャップ 4.25% − 純負債 2350 = 3391 億円。キャップは中立 4.6% から 0.35% 下げた。
確率:契約賃料の増額余地が長く効き、ビルの利回りの上昇が小さい筋書き。20%。
中立 35% 金利の正常化で利払いと利回りが上がる 利益 96 億円 · PBR 1.0 倍 · 株価時価総額 241,133 円2,254 億円
10 年金利は 3% に落ち着き、借入は 4 年ほどで 3.4% へ借り換わる。変動の半分は先に上がる。年の利払いは今の 26 億円から 78 億円へ増える。賃料は年 2% で上がるが、新築の供給で稼働は 97.5% へ少し下がる。経費は物価並みの 3% で増え、NOI は 10 年で 1 割台半ばしか伸びない。
減価償却は昔の取得原価のままなので、会計の利益は利払いの増加ほどは減らない。それでも純利益は今の 4 分の 3 に細る。修繕の費用は築年とともに 1.5 倍に膨らむ。
ビルの利回りは 4.6% に上がり、ビルの価値は今の鑑定より 3 割低い。負債は減らないので、投資主の取り分は今の自己資本とほぼ同じ水準になる。NAV 割れでも増資はせず、規模は据え置きだ。
- オフィスビルの賃貸:数量 4,608(稼働している物件の規模(帳簿価額=取得原価 × 稼働率、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 7.8%(稼働した規模に対する賃料などの収入の比(今 6.4%)。物価の転嫁で伸びる)→ 売上 358 億円・営業利益 210 億円。稼働 98%・賃料 年 +2.0%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 254 − 資本的支出 41) ÷ キャップ 4.60% − 純負債 2372 = 2254 億円。キャップは都心の大型 4.25% と中小・築古 4.75% を物件の比(約 1 対 3)で加重した 4.6%。今の鑑定の利回り 3.4% より高い。
確率:前提どおり 10 年金利が 3% に落ち着き、賃料は物価の 3 分の 2 で上がる筋書き。最もありうるので 35%。
やや悲観 23% 供給過多で中堅ビルの賃料が伸びず、利回りが上がる 利益 51 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 122,492 円1,145 億円
大型の新築ビルが続き、テナントは新しいビルへ移る。築 26 年の中堅ビルは賃料を下げて埋めることになり、平均の賃料は年 1% しか上がらない。稼働は 95% へ落ちる。経費は物価で増え、NOI は今より 4% 減る。
借入は 3.7% へ借り換わり、純利益は今の 4 割まで細る。分配は大きく減る。ビルの利回りは 4.85% へ上がり、ビルの価値は今の鑑定の 6 割台に下がる。LTV は 5 割を超える。
自己投資口を買う余力も薄れ、含み益を売却で実現する道が主な手になる。
売却先の買い手も金利の上昇で減り、含み益の実現も思うように進まない。
- オフィスビルの賃貸:数量 4,490(稼働している物件の規模(帳簿価額=取得原価 × 稼働率、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 7.0%(稼働した規模に対する賃料などの収入の比(今 6.4%)。物価の転嫁で伸びる)→ 売上 316 億円・営業利益 169 億円。稼働 95%・賃料 年 +1.0%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 212 − 資本的支出 40) ÷ キャップ 4.85% − 純負債 2400 = 1145 億円。キャップは中立 +0.25%。
確率:2027 年以降の大型供給と在宅の定着で、築古の中堅ビルが選別される筋書き。23%。
悲観 14% 金利の上振れと不況が重なり、物件の価値が負債に迫る 利益 8 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 54,774 円512 億円
金利は 3% を超えて上がり、不動産の売りが重なる。借り換えの金利は 4.5% に上がり、利払いは今の 4 倍になる。不況で企業は床を減らし、稼働は 92%、賃料は 10 年たっても今と同じ名目にとどまる。経費を年 2% に抑えても、NOI は 2 割弱減る。
純利益はほぼゼロになり、分配は止まる。配らずに残した現金で借入を少しずつ返す。ビルの利回りは 5.25% へ上がり、物件の価値は負債にほぼ並ぶ。投資主に残るのは、市況が戻れば取り戻せる見込みの分だけだ。清算されない限り、ビルを売って NAV を受け取ることはできない。
- オフィスビルの賃貸:数量 4,348(稼働している物件の規模(帳簿価額=取得原価 × 稼働率、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 6.4%(稼働した規模に対する賃料などの収入の比(今 6.4%)。物価の転嫁で伸びる)→ 売上 277 億円・営業利益 141 億円。稼働 92%・賃料 年 +0.0%・経費 年 2.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 183 − 資本的支出 35) ÷ キャップ 5.25% − 純負債 2300 = 512 億円。キャップは中立 +0.65%。NAV は床にしない(清算されない限り投資主は受け取れない)。
確率:リーマン級の不況と金利の上振れが重なる筋書き。変動金利が半分ある借入の重さを考え 14% と置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
オフィスビルの賃貸
東京都心を中心とする中堅オフィスビル 58 棟を企業に貸す。
| 数量稼働している物件の規模(帳簿価額=取得原価 × 稼働率、億円。今の値段の実質の規模) | 価格稼働した規模に対する賃料などの収入の比(今 6.4%)。物価の転嫁で伸びる | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/05 | 4,684 | 6.4% | 299 | 183 |
| 10 年後 中立 | 4,608 | 7.8% | 358 | 210 |
取り方:2026 年 5 月期の半期の賃貸事業収益 149 億円を 2 倍して年額 298 億円。帳簿価額 4,726 億円 × 期末の稼働 99.1% で数量、収入 ÷ 数量で価格。セグメントの利益は NOI 221 億円から減価償却 38 億円を引いた額。中立の価格が 1.22 倍で物価の 1.34 倍に届かないのは、オフィスの賃料が契約の更新ごとに遅れて上がり、物価の 3 分の 2 しか転嫁しないと見るため(業種ノート)。
リスクと懸念
借り換えと変動金利
借入の半分が変動で、平均 1.02% の金利が 3% 台前半に変わると、年の利払いは 50 億円ほど増える。今の年の利益の 4 割近い。残りの期間は 4.0 年と短めで、全部が新しい金利になるのは早い。
ビルの利回りの上昇
鑑定の利回りは 3% 台前半で、10 年国債 3% の世界では保てない。利回りが 1 ポイント上がるとビルの価値は 2 割台半ば下がり、LTV が 5 割を超える。
築古の中堅ビル
平均の築年は 25.7 年で、A クラスのビルは 3 割に満たない。新築の大型ビルが増えると、先に選別されるのはこうした物件だ。修繕の費用も建築費とともに膨らむ。
報酬の形
報酬は賃貸収益の 5.5% と資産の 0.05% に連動し、取得・売却にも手数料がかかる。規模を追うほど運用会社が潤う仕組みで、投資主の利益だけと連動していない。
売却益の一度きりの性格
築古の物件を売って含み益を分配する手は、物件が尽きれば終わる。売った物件の賃料は消え、買い替えの利回りは 3% 台前半と低い。
自己投資口の買い入れの限界
NAV 割れの間は買い入れが投資主に有利だが、資金は物件の売却か借入に頼る。金利が上がれば、買い入れの余力は細る。
今後の分かれ目
- 10 年金利が 2% 前後で止まる
- ビルの利回りの上昇は小さく、借り換えの金利も 2.5% 前後にとどまる。中立よりやや楽観に近づき、割高の度合いは縮む。
- 契約賃料の差が埋まり、賃料が年 3% 以上で上がる
- NOI の伸びが利払いの増加を上回り、楽観の筋書きに近づく。
- NAV 割れのまま公募増資を行う
- 1 口の価値が薄まる。これまでの運営方針の転換で、スポンサーの点数を大きく上げる。
- 自己投資口の買い入れを増やす
- NAV との差が縮まり、資本の使い方の評価を上げる。ただし借入で賄うなら金利の重さが増す。
- 格付けが AA- を下回る
- 借り換えの上乗せが増え、やや悲観に近づく。
見ておくもの
- 平均調達金利と固定金利の比率
- 都心 5 区の中小規模ビルの空室率と新規の賃料
- 継続鑑定の利回り(キャップレート)
- 自己投資口の買い入れと NAV との差
- 資本的支出の額と築年
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の値段や過去の値段から置いていない。10 年後の時価総額は、NOI から資本的支出を引いた額をキャップレートで割り、負債を引いて出した。キャップは 10 年金利 3% に用途の上乗せを足した業種ノートの表を、大型と中小・築古の比で加重したもので、今の鑑定の利回りより高い。NAV 割れ(今は NAV の約 7 割)を割安の根拠にしていない。今の値段が倍でも半分でも、価値の数字は動かない。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k は基本 7.5% に quality +1.30% を足した 8.80%。事業は傾いていないので extra は置かない。