結論
イオンリート投資法人は、イオンモールなどの商業施設を 53 物件、取得価格で 4,806 億円持つ J-REIT だ。賃料の半分はイオンモールから受け取り、契約は固定賃料が中心で、残りの契約期間は平均 11 年ある。筆者の結論は、今の値段はやや割高ということである。価値の計算は今の時価総額を 21% 下回る。
強みは稼働と財務だ。稼働率は 100% で、格付けは JCR の AA、借入は全額が固定金利だ。含み益は 975 億円と簿価の 24% ある。スポンサーのイオンが 17.5% を持ち、同じ船に乗っている。
弱みは賃料が伸びにくいことだ。固定賃料は物価に連動せず、費用の土地代や租税公課は増える。直近の半期で NOI は前の半期から 6% 減り、純利益は 12.5% 減った。平均金利は 1.1% で、借り換えのたびに利払いが増える。郊外型のモールは人口の減る地方に多い。
投資口は NAV の 7 割弱で売られる。NAV は清算されない限り手にできないので、筆者は割安の根拠にしない。費用の増える速さを賃料が追えない点を、値段はまだ織り込んでいない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の目で見ると、稼働と財務は強く、値段は NAV に対し大きく割り引かれている。それでも、賃料が伸びない構造が引っかかる。NAV は、清算されない限り投資主には手に入らない。
今の分配は、利益超過分配が混じる。純利益は年 119 億円ほどで、これが実力だ。費用は物価で増える。借入の平均金利 1.1% が 3.4% へ上がると、年の利払いは 20 億円から 64 億円まで増える。賃料が年 1.5% しか伸びないと、純利益は今の 7 割ほどに減る。
救いは、イオンという最強に近いテナントを持ち、稼働が崩れにくいことだ。ただ、そのテナントがスポンサーでもあり、賃料の増額を強く求めにくい。
10 年の分配と 10 年後の物件の価値を今に引き直すと、今の値段を 2 割ほど下回る。値段が 2 割下がれば、筆者は買ってよい水準と見る。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、イオングループが運営するショッピングセンターの賃料だ。2026 年 7 月期の半年で賃貸事業収入は 212.1 億円。償却を除く費用を引いた NOI は 133.3 億円だった。年にならすと NOI は 266.6 億円で、簿価に対する利回りは 6.5% になる。
物件は 53 あり、国内 52 とマレーシアの 1 物件からなる。大半が郊外の大型モール(RSC や SRSC)で、土地を所有するものと、借りるものがある。借地の支払地代は半期で 26.8 億円と、費用の 2 割を占める。賃料の 52% は、イオンモールから受け取る。
賃料の仕組みは、運営会社に建物ごと貸すマスターリースだ。固定賃料が基本で、一部に売上に連動する変動賃料がある。稼働率は 100% を保つ。賃料は物価に連動して上がりにくく、改装や省エネ工事を理由に交渉して増額する形で伸びる。
成長の道具は、イオングループが持つ物件の購入だ。ただ、ここ 2 年の取得は小さく、資産規模は 4,800 億円台で動かない。
商業施設のうち、食品スーパーを核とする生活密着型が中心だ。
優良さと弱いところ
物件の質は、商業 REIT の中で標準的だ。物件は大型モールで、立地は地方の郊外が中心になる。建物は築年が進み、資本的支出が年々膨らむ。マレーシアの物件は全体の 2% だ。
強みは三つある。一つめは、稼働率が 100% で、契約が長期(残りの期間は平均 11 年)なこと。二つめは、格付けが AA で、借入が全て固定金利なこと。三つめは、スポンサーのイオンが 17.5% を持ち、投資主と同じ船に乗っていることだ。
弱みも三つある。ひとつは、賃料の半分がイオンモール 1 社で、スポンサーとの関係が強すぎること。ふたつめは、固定賃料のため、物価の上昇を転嫁しにくいこと。みっつめは、費用の土地代・租税公課・修繕費が先に増えることだ。
分配は利益超過分配が混じる。半期の分配のうち、利益を超える分は 16% ほどある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
商業施設は、郊外の大型モールが中心になる。ネット通販の拡大で物販は伸びにくく、人口の減る地方では来館者が細る。ただ、スーパーや映画館、飲食を含む「生活の拠点」としての需要は根強く、イオンモールは稼働を保っている。
賃料は、マスターリースの固定賃料が基本で、売上に連動する分は少ない。筆者は、中立で賃料は名目年 1.5% で伸びると見る。物価の 3% の半分で、改装や増床の際の増額が中心になるためだ。費用は物価で 3% 伸びる。
10 年国債が 3% の世界では、商業の期待キャップは 5.0% に上がる。今の鑑定の NCF 利回りは 4.1% で、直接還元の利回りは 4.4〜6.5% に広がる。中立のキャップは用途の表どおり 5.0% を置く。
郊外モールは、築年が進むと改装の費用が重くなる。10 年後の資本的支出は今の 1.3 倍以上を見込み、中立は年 82 億円を置く。
人口の減る地方では来館者の減少が避けられず、改装による集客の維持が、賃料の底を守る鍵になる。マレーシアの物件は成長しているが、全体の 2% にすぎない。
資本政策と M&A
資本政策の柱は、スポンサーのイオングループからの物件の購入と、築年の進む建物の改装だ。ここ 2 年は取得が小さく、資産規模は動いていない。会社は、固定賃料と低金利を前提にした収益構造を見直し、変動賃料の導入を進める方針だ。
増資は、直近 5 年で 2023 年 2 月の公募 1 回だ。発行価格は NAV を下回る値段だった。2021 年にも公募があり、新規取得の資金に充てた。
借入は 1,879 億円で、総資産の 41.8%、預り敷金を含めると 45.1% だ。鑑定ベースの借入比率は 37% にとどまる。金利は全額が固定で、長期比率も 100% だが、2 年以内に満期の来る分が 544 億円、借入の 29% ある。格付けは JCR の AA で、安定的だ。
報酬は半期で 8.9 億円と、NOI の 7% ほどだ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
稼働は 100% で、契約の残りは平均 11 年と長い。賃料の半分を払うイオンモールは、イオングループの中核で、倒産の心配がない。格付けは AA、借入は全額が固定で、金利の上昇に強い。
含み益は 975 億円と簿価の 24%、NAV は時価総額の 1.5 倍だ。スポンサーのイオンは 17.5% を持ち、同じ船に乗っている。変動賃料の導入が進めば、物価の上昇を賃料に取り込める。
借入は鑑定ベースで 37% と低く、物件を売れば借入の返済も容易だ。2026 年には省エネ工事を理由にした賃料の増額が複数の物件で実現した。
今の値段は、これらの強みを織り込んで余りある。
賃料の半分を払うイオンモールの信用は高く、賃料の遅れや減額の心配は小さい。
配当の下支えとして、含み益を実現する物件の入れ替えも選択肢に残る。
借入は全額が固定のため、満期が来るまで金利の上昇は利益に響かない。借り換えの時期が分散していれば、利払いの増え方もなだらかになる。
慎重な見方
賃料が伸びない。固定賃料は物価に連動せず、費用の土地代や租税公課、修繕費は先に増える。直近の半期で NOI は前の半期から 6% 減り、純利益は 12.5% 減った。1 口の分配は 12.5% 下がった。
借入の平均金利は 1.1% で、2 年以内に 544 億円が満期を迎える。借り換えで利払いが増え、純利益はさらに細る。
賃料の半分をスポンサーのイオンモール 1 社が払う。スポンサーとの関係が強すぎ、賃料の増額交渉は難しい。郊外型のモールは、人口の減る地方に多く、10 年後に来館者が細る恐れがある。
築年が進み、資本的支出は今の 1.3 倍以上に膨らむ。費用の先行で、NOI の伸びは物価に届かない。
金利が 3% を超える環境では、キャップレートの上昇が物件の価値を直撃する。
含み益があっても、賃料が下がれば鑑定評価額も下がり、含み益は縮む。
費用の先行が続けば、純利益は 10 年を通じて少しずつ削られていく。
どちらに重みを置いたか
稼働と財務の強さに強気の言い分がある。ただ、賃料が伸びない構造、費用の先行、スポンサーへの依存という弱みも大きい。中立は今の値段を 2 割ほど下回った。スポンサーの点数は 3 を下回ったので、悲観の確率は 10% に据えた。強気側は合わせて 32%、中立は 38% を置いた。筆者は、強みは値段に入っているが、弱みはまだ入っていないと見る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/07 期)
確率で加重した株価時価総額 120,938 円2,543 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 47,347 円996 億円)。 今の値に割り戻すと 83,275 円1,751 億円、今との差 −19.8%、 期待の年率 +5.0%(資本コスト 8.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 244,510 円5,141 億円 | 62,828 円1,321 億円 | +196.1% | +11.5% | 30,734 円646 億円 |
| やや楽観 | 22% | 168,603 円3,545 億円 | 56,312 円1,184 億円 | +116.7% | +8.0% | 49,481 円1,040 億円 |
| 中立 | 38% | 122,231 円2,570 億円 | 48,940 円1,029 億円 | +64.9% | +5.1% | 65,045 円1,368 億円 |
| やや悲観 | 20% | 55,646 円1,170 億円 | 36,194 円761 億円 | −11.5% | −1.2% | 18,368 円386 億円 |
| 悲観 | 10% | 18,168 円382 億円 | 28,394 円597 億円 | −55.1% | −7.7% | 4,656 円98 億円 |
| 加重平均 | 100% | 120,938 円2,543 億円 | 47,347 円996 億円 | +62.1% | +5.0% | 168,285 円3,538 億円 |
今の株価時価総額 103,800 円2,182 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 変動賃料の導入で賃料が年 2.5% で伸びる 利益 145 億円 · PBR 2.1 倍 · 株価時価総額 244,510 円5,141 億円
10 年金利は 3% を下回って落ち着き、AA の格付けで借り換えは 3.1% で済む。変動賃料の導入が進み、改装の増額も続いて、賃料は年 2.5% で伸びる。稼働は 100% を保つ。
経費は物価並みに増え、NOI は 10 年で 24% ほど伸びる。純利益は今から 2 割ほど増える。
不動産の買い手は今の利回りで買い続け、物件の利回り(キャップ)は今の鑑定の 4.08% のまま変わらない。時価総額は 5,141 億円と今の 2.3 倍になる。借入が 37% と低いぶん、価値の上昇はそのまま投資主に効く。
スポンサーの物件の購入が再開し、増資も NAV を上回る値段で行われる。
借入の返済が進み、鑑定ベースの借入比率は 35% を割る。
- 商業施設の賃貸:数量 4,118(稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働率、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 13.3%(稼働した規模に対する賃貸事業収入の比(今 10.4%)。固定賃料の伸びと、変動賃料・改装の増額を合わせた値)→ 売上 549 億円・営業利益 227 億円。稼働 100%・賃料 年 +2.5%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 337 − 資本的支出 74) ÷ キャップ 4.08% − 純負債 1305 = 5141 億円。キャップは今の鑑定の NCF 利回り((NOI − 資本的支出) ÷ 鑑定評価額)の 4.08% で、今の値付けが 10 年続く所(商業の下限 4% より低い。楽観だけはここまで下げてよい)。
確率:変動賃料の導入と増床が進み、賃料が物価の 8 割で伸びる筋書き。固定賃料が基本で、費用も先行するので 10% とした。
やや楽観 22% 賃料は年 2% で伸び、借り換えは 3.25% 利益 117 億円 · PBR 1.5 倍 · 株価時価総額 168,603 円3,545 億円
金利はやや低めに落ち着き、借り換えは 3.25% になる。変動賃料が少しずつ増え、賃料は年 2% で伸びる。稼働は 100% を保つ。
利払いは年 65 億円ほどまで増えるが、NOI の伸びが半分以上を吸収し、純利益は今の水準にほぼ並ぶ。資本的支出は年 78 億円に増える。
物件の利回りは 4.75% に上がる。物件の価値は鑑定をやや下回る。
増資は、投資口が NAV に近づくまで行われない。
海外の物件の配当も増え、収入の質が少し改善する。
借入の返済が進み、鑑定ベースの借入比率は 35% 台に下がる。
- 商業施設の賃貸:数量 4,118(稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働率、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 12.7%(稼働した規模に対する賃貸事業収入の比(今 10.4%)。固定賃料の伸びと、変動賃料・改装の増額を合わせた値)→ 売上 523 億円・営業利益 202 億円。稼働 100%・賃料 年 +2.0%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 311 − 資本的支出 78) ÷ キャップ 4.75% − 純負債 1355 = 3545 億円。キャップは中立 5.0% より 0.25% 低い 4.75% (賃料の伸びが強い筋書き)。
確率:中立より賃料の伸びが良く、キャップの上昇が小さい筋書き。22% とした。
中立 38% 費用が先に増え、金利の正常化で純利益が細る 利益 86 億円 · PBR 1.1 倍 · 株価時価総額 122,231 円2,570 億円
10 年金利は 3% に落ち着き、借入は 3〜4 年のうちに 3.4% へ借り換わる。年の利払いは今の約 20 億円から 67 億円ほどへ増える。賃料は年 1.5% で伸び、稼働は 99% を保つ。
経費は物価並みの年 3% で増えるので、NOI は 10 年でわずか 4% しか伸びない。純利益は今の 7 割ほどに減り、利益超過分配は続けにくくなる。
物件の利回りは 5.0% に上がり、物件の価値は鑑定を 2 割ほど下回る。費用の先行が効き、投資主の取り分は物価に負ける。
増資は、投資口が NAV に近づくまで控える見通しだ。
- 商業施設の賃貸:数量 4,077(稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働率、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 12.1%(稼働した規模に対する賃貸事業収入の比(今 10.4%)。固定賃料の伸びと、変動賃料・改装の増額を合わせた値)→ 売上 493 億円・営業利益 173 億円。稼働 99%・賃料 年 +1.5%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 281 − 資本的支出 82) ÷ キャップ 5.00% − 純負債 1405 = 2570 億円。キャップは商業の表 5.0% (要求利回り 6.5% − NOI の伸び 1.5%)。今の鑑定の NCF 利回り 4.1% より高い。
確率:前提どおり 10 年金利が 3% に落ち着き、賃料は年 1.5% で伸びる筋書き。最もありうるので 38%。
やや悲観 20% 賃料が頭打ちになり、金利が高めに落ち着く 利益 33 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 55,646 円1,170 億円
金利は高めに落ち着き、借り換えは 3.65% になる。固定賃料の増額は止まり、賃料は年 0.5% しか伸びず、稼働は 98% に落ちる。一部のモールで賃料の減額交渉が始まる。築年が進み、資本的支出は年 88 億円に増える。
費用は物価で増え、NOI は 10 年で 15% 減る。利払いは年 72 億円になり、純利益は今の 3 割弱に細る。分配は純利益だけになり、利益超過分配は止まる。
物件の利回りは 5.35% に上がる。物件の価値から借入を引くと、投資主の取り分は今の自己資本の半分に縮む。
スポンサーとの関係が強いぶん、賃料の減額を受け入れざるをえない場面も出る。
- 商業施設の賃貸:数量 4,036(稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働率、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 10.9%(稼働した規模に対する賃貸事業収入の比(今 10.4%)。固定賃料の伸びと、変動賃料・改装の増額を合わせた値)→ 売上 442 億円・営業利益 123 億円。稼働 98%・賃料 年 +0.5%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 230 − 資本的支出 88) ÷ キャップ 5.35% − 純負債 1480 = 1170 億円。キャップは中立 +0.35%。費用の先行で NOI が減り、物件の価値から借入を引いた額が大きく縮む。
確率:金利が高めに落ち着き、賃料が止まり、郊外の来館者が細る筋書き。20% とした。
悲観 10% 金利の上振れと、モールの賃料の減額 利益 −31 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 18,168 円382 億円
金利は 3% を超えて上がり、借り換えは 4.3% になる。不況と来館者の減少で、モールの売上が落ち、賃料は年 0.5% ずつ下がる。稼働も 95% へ落ち、閉館する物件が出る。
費用は物価で増え続け、NOI は 35% ほど減る。利払いは年 84 億円になり、純利益は赤字になる。分配は止まる。資本的支出を絞り、借入の返済に現金を回す。
物件の利回りは 5.75% に上がり、物件の価値は鑑定を大きく下回る。物件の価値から借入を引いた投資主の取り分は、今の自己資本の 2 割弱に縮む。
清算されない限り、物件を売って NAV を受け取ることはできない。
- 商業施設の賃貸:数量 3,913(稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働率、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 9.9%(稼働した規模に対する賃貸事業収入の比(今 10.4%)。固定賃料の伸びと、変動賃料・改装の増額を合わせた値)→ 売上 387 億円・営業利益 70 億円。稼働 95%・賃料 年 -0.5%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 176 − 資本的支出 65) ÷ キャップ 5.75% − 純負債 1540 = 382 億円。キャップは中立 +0.75%。NAV は床にしない(清算されない限り投資主は受け取れない)。
確率:スポンサーの点数が 3 を下回ったので、悲観の確率は基本の 10% のまま。金利の上振れと不況、モールの縮小が重なる筋書き。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
商業施設の賃貸
全国の郊外型ショッピングセンター 53 物件(国内 52 とマレーシア 1)を、イオングループなどの運営会社に長期の固定賃料中心のマスターリースで貸す。
| 数量稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働率、億円。今の値段の実質の規模) | 価格稼働した規模に対する賃貸事業収入の比(今 10.4%)。固定賃料の伸びと、変動賃料・改装の増額を合わせた値 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/07 | 4,118 | 10.4% | 429 | 166 |
| 10 年後 中立 | 4,077 | 12.1% | 493 | 173 |
取り方:2026 年 7 月期の半期の賃貸事業収入 212.1 億円と海外 SPC からの受取配当 2.2 億円を 2 倍して年額 428.7 億円。簿価 4,118 億円(関係会社株式を含む)× 稼働率 100% で数量、収入 ÷ 数量で価格。NOI は収入 − 償却を除く賃貸事業費用で年 271.1 億円、セグメントの利益はそこから減価償却 104.8 億円を引いた額。中立の価格が 1.16 倍で物価の 1.34 倍に届かないのは、固定賃料が中心で、増額は改装や変動部分に限られるため(業種ノート)。
リスクと懸念
賃料が伸びない構造
固定賃料が基本で、物価に連動しない。費用の土地代・租税公課・修繕費は先に増える。直近の半期で NOI は前の半期から 6% 減った。
イオン 1 社への依存
賃料の 52% はイオンモールが払う。スポンサーとの関係が強く、賃料の増額交渉が難しい。取得もイオングループの物件に限られる。
借り換えによる利払いの増加
平均金利は 1.1%。2 年以内に 544 億円(借入の 29%)が満期を迎える。3% 台へ上がると、年の利払いは 20 億円から 64 億円まで増える。
郊外モールの来館者の減少
物件は地方の郊外が中心。人口の減少とネット通販の拡大で、10 年後に来館者が細る恐れがある。
築年の進行と資本的支出
資本的支出は半期で 31 億円。築年が進めば、改装の費用が今の 1.3 倍以上に膨らむ。
利益超過分配
2026 年 7 月期の分配には、1 口の分配の 16% ほどが利益超過分配で占められる。純利益は下がっており、続けにくくなる。
今後の分かれ目
- 変動賃料の導入が進み、賃料が年 2% を超えて伸びる
- 費用の先行を賃料が追い、価値は上に振れる。今の値段は適正に近づく。
- 10 年金利が 2% 前後で止まる
- 利払いの増加もキャップの上昇も小さく、価値は上に振れる。
- 賃料の減額交渉が複数のモールで始まる
- NOI が下がり、悲観側の確率を上げる。
- NAV 割れで公募増資を行う
- 1 口の価値が薄まる。スポンサーの点数を下げ、悲観の確率を上げる。
- 2 年以内の満期を長期で借り換える
- 金利の上昇に強くなり、k の借金の上乗せが下がる。
見ておくもの
- 変動賃料の導入と賃料の増額の実績
- NOI と純利益の推移
- 借り換えの金利と満期の分散
- イオンモールの売上と来館者数
- 利益超過分配の額
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の値段や過去の値段から置いていない。10 年後の時価総額は、NOI から資本的支出を引いた額をキャップレートで割り、負債を引いて出した。キャップは商業の業種ノートの表(5.0%)で、今の鑑定の NCF 利回り 4.1% より高い。NAV 割れを割安の根拠にしていない。今の値段が倍でも半分でも、価値の数字は動かない。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k は基本 7.5% に quality +1.27% を足した 8.77%。事業は傾いていないので extra は置かない。