結論
野村不動産マスターファンド投資法人は、野村不動産グループをスポンサーとする総合型の J-REIT だ。285 物件で、鑑定評価額は 1 兆 3,834 億円。内訳はオフィスが 38%、物流が 23%、住宅が 20%、商業が 16%、ホテルが 3%。筆者の結論は、今の値段はやや割高ということである。価値の計算は、今の時価総額を 23% 下回る。
強みは、財務と賃料の勢いだ。格付は JCR が AA、R&I が AA- で、借入の平均金利は 1.06% と低い。含み益は 3,191 億円あり、契約更新と入替で、オフィスと住宅の賃料は上がっている。投資口価格は NAV の 0.74 倍で、自己投資口の消却も 2 回行われた。
弱みは三つある。ひとつは、NOI から資本的支出を引いた額が、鑑定評価額の 3.5% しかないこと。10 年国債が 3% の世界では、物件の価値は下がる。ふたつめは、借り換えで利払いが 3 倍強に膨らむこと。みっつめは、運用報酬が NOI の 12% と重く、のれんの償却と利益超過分配で、会計の利益を超えて配っていることだ。
スポンサーの出資は 7.1% で、同じ船の度合いは中くらい。点数は 2.1 と、悲観の確率は上げなかった。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の目で見ると、この投資法人は、都心とその周辺の物件を貸す、堅実な不動産賃貸業だ。堀は立地とスポンサーの開発力にあり、AA の格付が資金調達の安さを支える。
ただし、この安さは今の低金利が前提だ。借入の平均金利は 1.06% で、3.5% 前後に借り換わると、年の利払いは 56 億円から 191 億円へ増える。2 年で約 27% の借入が満期を迎える。
鑑定評価額に対する稼ぎは、資本的支出を引くと 3.5% だ。10 年国債が 3% の世界では、キャップが 4.3% まで上がり、物件の価値は鑑定を 2 割近く下回る。含み益 3,191 億円は、その分だけ薄くなる。
今の値段は NAV の 0.74 倍で、これだけ見れば安い。だが、NAV は低い金利の上の鑑定で、筆者は割安の根拠にしない。自己投資口の消却は、投資主には良い使い方だ。
10 年の分配と、10 年後の物件の価値を今に引き直すと、今の値段を 2 割ほど下回る。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、オフィス・物流・住宅・商業の賃料だ。投資法人が持つのは建物と土地で、テナントに貸して賃料を受け取る。直近 1 年の賃貸収入は 820 億円で、賃貸 NOI(賃料から費用を引いた稼ぎ)は 570 億円だった。
物件は 285 ある。鑑定評価額で見ると、オフィスが 5,217 億円(38%)、物流が 3,216 億円(23%)、住宅が 2,754 億円(20%)、商業が 2,236 億円(16%)で、ホテルが 356 億円(3%)。東京圏が中心で、都心の大型オフィスから、駅前の商業、湾岸と圏央道の物流、首都圏の賃貸住宅までを持つ。
賃料は固定が基本で、ホテルは完全変動賃料、商業の一部には歩合賃料がある。物流は 100% の稼働で、オフィスは 97.5%、住宅は 96.8%。全体では 99.0% だ。
資産の入替を毎年 200〜300 億円規模で続ける。2026 年 8 月期は築古のオフィスを売り、築 1 年のオフィスと住宅、商業を買った。2027 年 2 月期には、赤坂のホテルを手元資金で買う。
のれんが 489 億円ある。3 つの投資法人の合併で生じたもので、年 52 億円ずつ償却し、約 9 年で消える。
優良さと弱いところ
物件の質は、立地と新しさに強みがある。スポンサーが開発したブランド(オフィスの PMO、物流の Landport、住宅の Proud Flat、商業の GEMS)が増え、取得物件の築年は浅い。含み益は 3,191 億円で、含み益率は 30.0%。物流は含み益率が 45% と高い。
強みは三つある。ひとつめは、格付が JCR の AA、R&I の AA- で、借入の平均金利が 1.06% と低いこと。ふたつめは、稼働率が 99.0% と高く、賃料が更新と入替で上がっていること。みっつめは、スポンサーのパイプラインが約 1.5 兆円あることだ。
弱みも三つある。ひとつは、新宿野村ビルなどの大型オフィスと、物流の大型解約(NF 本郷ビル、Landport 板橋・八王子Ⅱ)で、収入が一時的に落ちること。ふたつめは、築 40 年を超える大型オフィスが残ること。みっつめは、鑑定評価額に対する稼ぎが低いことだ。
鑑定の利回りは、オフィスが 3.52%、住宅が 3.59%、物流が 3.83%、商業が 4.22%。鑑定の利回りが上がった物件は、26 年 2 月期の 9 物件から 27 物件に増えた。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
オフィスは、東京都心の空室率が 3% 前後に締まり、賃料が上がっている。大型の新築供給が 2027 年以降も続くため、伸びは鈍る。物流は、湾岸の大量供給で空室が増えた後、2027 年に供給が細る。定期借家が 3〜5 年で、賃料は市場に寄る。
住宅は、更新と入替で賃料が上がり、物価にほぼ追随する。商業は、駅前と都心のハイストリートが強い。ホテルは、変動賃料が訪日客に連動する。
業種の表では、都心の大型オフィスの期待キャップは 4.25%、物流は 4.25%、住宅は 3.75%、商業は 5.0%、ホテルは 5.0%。鑑定評価額と直接還元利回りから NOI の比を推し、オフィスが約 37%、物流が約 24%、住宅が約 20%、商業が約 19% と置いた。加重した中立のキャップは 4.3% になる。
現在の鑑定の利回りは 3.5〜4.2% で、表より低い。これは 10 年金利が 2% 前後の世界の値段で、3% に上がれば表に近づく。賃料の伸びは、更新による増額が当面効くが、10 年の中立では年 2.0% に置いた。総合型は用途の波が打ち消し合う利点があり、ひとつの用途に偏る J-REIT より、悲観の幅は小さい。
資本政策と M&A
借入は 5,202 億円で、有利子負債を鑑定評価額で割った比率(LTV)は 37.6%。固定金利の比率は 77.9% に下がり、平均金利は 1.06%、平均の残りは 3.8 年だ。格付は JCR が AA、R&I が AA- で、借入先は大手銀行と生保に広く分散する。
2028 年 8 月期までの 2 年に、約 1,410 億円(27%)の満期が来る。借り換えのたびに利払いが膨らむ。営業外費用は、2026 年 2 月期の 26 億円から 2027 年 8 月期に 39 億円へ、半期で増える見込みだ。
増資は、2020 年 1 月の公募が最後で、値段は NAV を上回っていた。2024 年 8 月と 2025 年 1 月には、自己投資口の消却を行い、発行済みの口数を約 1.5% 減らした。
運用報酬は年 70 億円で、NOI の 12% にあたる。総資産の 0.45%、利益の 5.5%、取得代金の最大 1.0% の三本立てだ。
分配は、会計の利益を超えている。2027 年 2 月期の利益超過分配は 43 億円と、前期の 2 倍になる見込みで、内部留保と一時差異等調整引当額で増配を保つ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
賃料の増額が通っている。オフィスは入替で 1 割を超える増額が出て、住宅は単価と稼働が上がった。新宿野村ビルの退去区画は、100% の申込を得て、リーシングが終わった。減収は 2026 年 8 月期で底を打つ。
格付は JCR の AA。借入の平均金利は 1.06% で、LTV は 37.6% と、国内の J-REIT の中では低い。今の値段は NAV の 0.74 倍で、含み益は 3,191 億円ある。
自己投資口の消却を 2 回行い、2020 年の増資以降は、NAV を割る増資をしていない。スポンサーの野村不動産は 7.1% を持ち、約 1.5 兆円の開発パイプラインで、築浅の物件を取得できる。
運用報酬には利益連動が入り、増配は 11 期連続の見込みだ。
楽観の筋書きでは、賃料が年 3% で伸び、キャップが 3.8% に下がり、時価総額は 1 兆 2,476 億円と今の 2 倍になる。
慎重な見方
鑑定評価額に対する稼ぎが低い。賃料から改装費を引くと 3.5% で、10 年国債が 3% の世界では、キャップが 4.3% まで上がる。物件の価値は鑑定を 2 割近く下回り、含み益 3,191 億円は薄くなる。
借入 5,202 億円の平均金利は 1.06%。3.5% 前後に借り換わると、年の利払いは 3 倍強になる。2 年で約 1,410 億円が満期を迎える。
会計の利益は、のれん償却と利払いの増加で縮む。分配は、利益超過分配と内部留保の取崩しで保つ形で、利益を超えて配る分は、いつまでも続かない。
運用報酬は NOI の 12% と、資産に連動する部分が大きい。取得のたびに報酬が入る。
やや悲観の筋書きでは、賃料が 10 年でほぼ伸びず、NOI は 500 億円に落ち、時価総額は 3,558 億円と今の 57% になる。
悲観の筋書きでは、物件の価値が縮み、投資主の取り分は 714 億円まで減る。
どちらに重みを置いたか
賃料増額の勢い、AA の格付、低い LTV には根拠がある。ただ、鑑定評価額に対する稼ぎが低く、借り換えで利払いが 3 倍強に増え、キャップの上昇が物件の価値を削る。中立の価値は今の時価総額を 2 割ほど下回った。スポンサーの点数は 2.1 で、悲観の確率は基本のままにした。筆者は、NAV に対する安さは値段に入っているが、金利の正常化は入っていないと見る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/08 期)
確率で加重した株価時価総額 154,579 円7,182 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 56,741 円2,636 億円)。 今の値に割り戻すと 105,542 円4,904 億円、今との差 −17.1%、 期待の年率 +5.2%(資本コスト 8.6%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 297,381 円1.38 兆円 | 72,231 円3,356 億円 | +190.3% | +11.2% | 36,961 円1,717 億円 |
| やや楽観 | 22% | 212,301 円9,864 億円 | 66,118 円3,072 億円 | +118.7% | +8.1% | 61,252 円2,846 億円 |
| 中立 | 38% | 161,270 円7,493 億円 | 59,769 円2,777 億円 | +73.6% | +5.7% | 83,995 円3,903 億円 |
| やや悲観 | 20% | 76,578 円3,558 億円 | 42,981 円1,997 億円 | −6.1% | −0.6% | 23,912 円1,111 億円 |
| 悲観 | 10% | 15,367 円714 億円 | 36,632 円1,702 億円 | −59.2% | −8.6% | 5,200 円242 億円 |
| 加重平均 | 100% | 154,579 円7,182 億円 | 56,741 円2,636 億円 | +66.0% | +5.2% | 211,320 円9,818 億円 |
今の株価時価総額 127,300 円5,915 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.6% を下回るほど割高。
楽観 10% 賃料増額が続き、年 3% で増える 利益 331 億円 · PBR 2.5 倍 · 株価時価総額 297,381 円1.38 兆円
オフィスは都心の空室が締まり、住宅は更新と入替で上がる。物流は再契約で増額が通る。賃料は年 3% で伸び、稼働は 100% に近づく。
借り換えは 3.3% で済み、年の利払いは 180 億円と今の 3 倍強になる。それでも NOI は 570 億円から 766 億円へ 34% 増え、純利益は 331 億円と今を 26% 上回る。
不動産の買い手は今の利回りで買い続け、物件の利回り(キャップ)は今の鑑定の 3.53% のまま変わらない。時価総額は 1 兆 3,817 億円と今の 2.2 倍になる。
増資は NAV を上回る値段で行われ、希薄化は小さい。
スポンサーの開発パイプラインから築浅の物件を積み増し、外部成長も分配を押し上げる。
- オフィス・物流・住宅・商業の賃貸:数量 10,644(稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働の係数、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 10.3%(規模に対する賃貸収入の比(今 7.7%)。賃料の増額と、変動賃料の増減を合わせた値)→ 売上 1,101 億円・営業利益 629 億円。稼働 100%・賃料 年 +3.0%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 766 − 資本的支出 100) ÷ キャップ 3.53% − 純負債 5050 = 13817 億円。キャップは今の鑑定の NCF 利回り((NOI − 資本的支出) ÷ 鑑定評価額)の 3.53% で、今の値付けが 10 年続く所(複合の下限 3.25% より低い。楽観だけはここまで下げてよい)。
確率:賃料ギャップの解消が続き、オフィスと住宅の賃料が年 3% 伸びる筋書き。総合型は用途の分散で上振れの幅が大きいので 10% とした。
やや楽観 22% 賃料は年 2.5% で伸び、借り換えは 3.4% 利益 274 億円 · PBR 1.8 倍 · 株価時価総額 212,301 円9,864 億円
賃料の増額は 5 年ほど続き、その後は物価並みに落ち着く。賃料は年 2.5% で伸び、稼働の係数は 0.995 になる。借り換えは 3.4% で、年の利払いは 186 億円になる。
NOI は 708 億円と 24% 増えるが、利払いの増加で、純利益は 274 億円と今のわずか 5% 増にとどまる。資本的支出は年 104 億円と今の 1.3 倍に増える。
物件の利回りは 4.05% に上がる。時価総額は 9,864 億円で、今の 1.6 倍になる。
ただし、賃料の伸びは物価の 3% に届かず、実質の収益は緩やかに目減りする。
- オフィス・物流・住宅・商業の賃貸:数量 10,591(稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働の係数、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 9.9%(規模に対する賃貸収入の比(今 7.7%)。賃料の増額と、変動賃料の増減を合わせた値)→ 売上 1,044 億円・営業利益 572 億円。稼働 100%・賃料 年 +2.5%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 708 − 資本的支出 104) ÷ キャップ 4.05% − 純負債 5060 = 9864 億円。キャップは中立 4.3% より 0.25% 低い 4.05% (賃料の伸びが強い筋書き)。
確率:中立より賃料の伸びが良く、キャップの上昇が小さい筋書き。22% とした。
中立 38% 賃料は物価に負け、利払いが 3 倍強になる 利益 215 億円 · PBR 1.3 倍 · 株価時価総額 161,270 円7,493 億円
10 年金利は 3% に落ち着き、借入は 4 年ほどで 3.5% へ借り換わる。年の利払いは今の 56 億円から 191 億円へ増える。賃料は年 2.0% で伸び、稼働の係数は 0.985 に落ちる。
経費は物価並みの年 3% で増え、NOI は 570 億円から 649 億円へ 14% 増える。のれんの償却は終わるが、利払いの増加を吸収しきれず、純利益は今の 262 億円から 215 億円へ 18% 減る。
物件の利回りは 4.3% に上がる。資本的支出は年 108 億円と、今の 1.3 倍に増える。
時価総額は 7,493 億円で、今を 2 割ほど上回る。10 年の長さに割り引くと、今の値段を 2 割ほど下回る。
- オフィス・物流・住宅・商業の賃貸:数量 10,484(稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働の係数、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 9.4%(規模に対する賃貸収入の比(今 7.7%)。賃料の増額と、変動賃料の増減を合わせた値)→ 売上 984 億円・営業利益 514 億円。稼働 98%・賃料 年 +2.0%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 649 − 資本的支出 108) ÷ キャップ 4.30% − 純負債 5080 = 7493 億円。キャップは業種の表を NOI で加重した 4.3% (オフィス 4.25%、物流 4.25%、住宅 3.75%、商業 5.0% など)。今の NCF 利回り(NOI から資本的支出を引いて鑑定評価額で割った 3.5%)より高い。
確率:前提どおり 10 年金利が 3% に落ち着き、賃料は年 2.0% で伸びる筋書き。最もありうるので 38%(スポンサーの点数が 2.1 で、悲観の確率は基本のまま 10%)。
やや悲観 20% 賃料の伸びが止まり、金利が高めに落ち着く 利益 59 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 76,578 円3,558 億円
金利は高めに落ち着き、借り換えは 3.8% になる。オフィスの供給と物流の空室で、賃料は 10 年で年 0.5% の伸びにとどまる。稼働の係数は 0.97 に落ちる。
経費は物価で伸び、NOI は 500 億円と今の 12% 減る。年の利払いは 206 億円で、純利益は 59 億円と今の 22% に縮む。資本的支出は年 104 億円に抑える。
物件の利回りは 4.55% に上がる。時価総額は 3,558 億円で、今の 57% になる。
のれんの償却が終わっても、会計の利益で分配を賄えず、利益超過分配に頼る。
- オフィス・物流・住宅・商業の賃貸:数量 10,324(稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働の係数、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 8.1%(規模に対する賃貸収入の比(今 7.7%)。賃料の増額と、変動賃料の増減を合わせた値)→ 売上 836 億円・営業利益 367 億円。稼働 97%・賃料 年 +0.5%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 500 − 資本的支出 104) ÷ キャップ 4.55% − 純負債 5150 = 3558 億円。キャップは中立 +0.25%。賃料の頭打ちと利払いの増加で、物件の価値から借入を引いた額が大きく縮む。
確率:オフィスの新規供給と物流の供給増で賃料が伸びず、金利が高めに落ち着く筋書き。20% とした。
悲観 10% 賃料の下落と金利の上振れ 利益 −107 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 15,367 円714 億円
不況でオフィスの空室が増え、物流は供給過多で賃料が下がる。賃料は年 1% ずつ縮み、稼働の係数も 0.94 に落ちる。
金利は 3% を超えて上がり、借り換えは 4.5% になる。年の利払いは 243 億円で、NOI は 361 億円と今の 4 割近く減る。純利益は 107 億円の赤字に沈み、分配は出せなくなる。資本的支出は 75 億円に絞る。
物件の価値は借入と預り敷金を大きく下回り、投資主の取り分は 714 億円まで減る。
清算されない限り、物件を売って NAV を受け取ることはできない。
自己投資口の消却や増配の余力も、利益の赤字の下では使えなくなる。
- オフィス・物流・住宅・商業の賃貸:数量 10,005(稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働の係数、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 7.0%(規模に対する賃貸収入の比(今 7.7%)。賃料の増額と、変動賃料の増減を合わせた値)→ 売上 697 億円・営業利益 230 億円。稼働 94%・賃料 年 -1.0%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 361 − 資本的支出 75) ÷ キャップ 4.80% − 純負債 5250 = 714 億円。キャップは中立 +0.5%。物件の価値から借入を引いた額が小さく、時価総額は再建の見込みの分だけを置く。NAV は床にしない(清算されない限り投資主は受け取れない)。
確率:スポンサーの点数が 2.1 なので、悲観の確率は基本の 10%。オフィスの空室と物流の供給過多が同時に来る筋書き。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
オフィス・物流・住宅・商業の賃貸
オフィス・物流・住宅・商業・ホテル 285 物件を、定期借家(ホテルは変動賃料、商業の一部は歩合賃料)でテナントに貸す。
| 数量稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働の係数、億円。今の値段の実質の規模) | 価格規模に対する賃貸収入の比(今 7.7%)。賃料の増額と、変動賃料の増減を合わせた値 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/08 | 10,537 | 7.7% | 820 | 453 |
| 10 年後 中立 | 10,484 | 9.4% | 984 | 514 |
取り方:過去 1 年(2026 年 2 月期+2026 年 8 月期)の賃貸収入から売却益を除いた 820 億円を数量・価格に分けた。簿価(鑑定評価額 1 兆 3,834 億円から含み益 3,191 億円を引いた 1 兆 644 億円)× 係数 1.00 が数量、収入 ÷ 数量が価格。NOI は収入から償却を除く費用を引いて 570 億円、セグメントの利益は減価償却 117 億円を引いた額。中立の価格は 10 年で 1.22 倍にとどまり、物価の 1.34 倍に届かないのは、賃料増額の余地が当面あっても、10 年の長さで賃料ギャップが解消し、伸びが鈍るため(業種ノート)。
リスクと懸念
鑑定の利回りの低さと金利
鑑定評価額に対する稼ぎは、資本的支出を引くと 3.5%。10 年国債が 3% の世界でキャップが 4.3% まで上がると、物件の価値が 2 割近く縮み、含み益 3,191 億円が薄くなる。
借り換えによる利払いの増加
平均金利は 1.06%。3.5% 前後へ上がると、年の利払いは 56 億円から 191 億円まで増える。2028 年 8 月期までに約 1,410 億円の満期が来る。
大型オフィスと大型解約
オフィスは鑑定評価額の 38%。新宿野村ビルの退去、物流の大型解約など、1 件の影響が大きい。築 40 年を超える大型ビルの資本的支出も重い。
会計の利益を超える分配
2027 年 2 月期の利益超過分配は 43 億円の見込み。内部留保と一時差異等調整引当額で増配を保つが、利益が縮む中で続けられる額には限りがある。
運用報酬と外部成長の質
運用報酬は NOI の 12%。総資産、利益、取得代金に連動する三本立てで、取得のたびに報酬が入る。スポンサー物件の取得は、利回りが 4.0〜4.4% と低め。
スポンサーとの距離
野村不動産の出資は 7.1%。運用会社は野村不動産ホールディングスの 100% 子会社で、物件の取得と開発はスポンサーと一体だ。
今後の分かれ目
- オフィスと住宅の賃料の増額が想定を上回り、年 4% 以上伸びる
- NOI が上振れし、中立と楽観の確率を上げる。今の値段は割高の度合いが縮む。
- 10 年金利が 2% 前後で止まり、借り換えが 2% 台で済む
- 利払いの増加もキャップの上昇も小さく、価値は上に振れる。
- 大型オフィスや物流で、大口テナントの退去が続く
- 悲観側の確率を上げる。1 件の影響が大きく、分配を保つ内部留保が減る。
- NAV 割れで公募増資を行う
- 1 口の価値が薄まる。スポンサーの点数を上げ、悲観の確率を上げる。
- 自己投資口の取得・消却を再開する
- NAV 割れの値段で口数を減らせば、同じ船の度合いが上がり、スポンサーの点数が下がる。
見ておくもの
- 契約更改・入替の賃料増減率(オフィス・住宅・物流)
- 借り換えの金利と 2028 年 8 月期までの満期
- 資本的支出の推移と、減価償却との比
- 利益超過分配と内部留保の残高
- スポンサーの出資比率と自己投資口の消却
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の値段や過去の値段から置いていない。10 年後の時価総額は、NOI から資本的支出を引いた額をキャップレートで割り、負債を引いて出した。キャップは用途ごとの表を NOI で加重した 4.3% で、今の NCF 利回り 3.5%(NOI から資本的支出を引いて鑑定評価額で割った)より高い。NAV 割れを割安の根拠にしていない。今の値段が倍でも半分でも、価値の数字は動かない。
資本コスト 8.6% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k は基本 7.5% に quality +1.07% を足した 8.57%。用途の分散は cycle に反映したので extra は置かない。