結論
アドバンス・レジデンスは、東京 23 区を中心に 291 棟、5,084 億円(取得価格)の賃貸住宅を持つ、住宅特化の J-REIT で最大級の銘柄だ。伊藤忠商事系の運用会社が運用する。筆者の結論は、適正の範囲にあるということである。価値の計算は今の値段より 2% ほど低く、差は誤差の内にある。
強みは賃料と含み益だ。入居者の入れ替え時の賃料は 2 割ほど上がり、過去最高を更新した。鑑定評価額は簿価を 3,041 億円上回り、含み益率は 65%。借入は鑑定ベースで 33% と軽く、格付けは JCR の AA、R&I の AA−だ。11 期続けて分配を増やしている。
弱みは三つある。ひとつは、借入の 22.6% が 2 年内に満期を迎え、新しい調達は 2.12% と、返済した 0.64% の 3 倍以上になっていること。ふたつめは、平均築年が 18.9 年と古く、リノベーションの資本的支出が重いこと。みっつめは、今の分配に売却益と内部留保の取り崩しが 2 割ほど含まれることだ。
投資口は NAV を 3 割近く下回る。ただ NAV は、清算されない限り手にできない。筆者は、割安の根拠として使わない。賃料の伸びが金利の上昇を吸収し続けるかどうかが、見立ての分かれ目だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の目で見ると、東京 23 区の住宅と、軽い借入、含み益の厚さは評価できる。住宅は景気に左右されにくく、賃料の下落も上昇も早く表れる。持ち続けて困る銘柄ではない。
ただ、値段に安全域はない。今の分配は、売却益の一部と内部留保、積立金の取り崩しが 2 割ほど含まれる。それらを除いた純利益は年 154 億円だ。借入の 22.6% が 2 年内に借り換わり、10 年金利 3% の世界では、平均金利が 0.94% から 3.4% に上がる。利払いは年 21 億円から 90 億円まで増える。
好材料は賃料だ。入替で 2 割近い増額が続き、NOI が 10 年で 25% 伸びれば、利払いの増加をほぼ吸収できる。実際、中立でも純利益は今とほぼ同じ水準を保つ。ここが他の用途と違う。
10 年の分配と 10 年後の物件の価値を今に引き直すと、今の値段をわずかに下回る。割安とは言えず、筆者は値段が 1 割下がれば買ってよい水準と見る。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、賃貸住宅の賃料だ。2026 年 7 月期の半年で賃貸事業収入は約 195 億円、償却を除く費用を引いた NOI は約 149 億円。年にならすと NOI は 297 億円で、帳簿価額 4,708 億円に対する利回りは 6.3% になる。経費率は 24% で、賃料の伸びがほぼそのまま NOI に乗る。
物件は 291 棟。東京 23 区が取得価格の 71%、首都圏が 11%で、残りは札幌・仙台・名古屋・関西・九州などの政令指定都市だ。単身から家族向けまで幅広く、一部は学生向けの賃料保証型を一般賃貸に切り替える。平均築年は 18.9 年。期中の平均稼働率は 95.9% だ。
契約は 2 年の普通借家で、入居者が替わるたびに市場の賃料へ合わせ直す。2026 年 7 月期の入替賃料は平均で約 20% の増額となり、過去最高だった。更新時の増額は小さい。会社は、専有部のリノベーションを対象住戸の約 2 割まで進めており、追加の工事で賃料をさらに上げる計画だ。
成長の道具は、売却益の再投資と物件の入れ替えだ。古い地方の物件を売り、東京 23 区の物件を買う。当期は 3 物件を売って 16.7 億円の益を出し、7 物件を 109 億円で取得した。伊藤忠商事グループからの取得は、上場来の 34% にとどまる。
優良さと弱いところ
物件の質は住宅 REIT の中で標準以上だ。東京 23 区に取得価格の 7 割が集まり、立地は強い。ただ平均築年が 18.9 年と古く、地方の都市が約 2 割ある。解約から入居までの空室期間を縮めるため、リノベーションを続けている。
強みは三つある。一つめは入替賃料の強さで、東京 23 区では原状回復した住戸の増額が 2 割近い。二つめは、含み益と、J-REIT 最大級の負ののれん(残高約 214 億円)を、分配の安定化に使える点。三つめは、運用会社が伊藤忠商事の 100% 子会社で、取得の約 3 分の 2 を第三者から買う独立性があることだ。
弱みも三つある。ひとつは、リノベーションの資本的支出が年 40 億円を超え、償却の半分を食うこと。ふたつめは、運用報酬が NOI の 10% を超え、取得時と譲渡時にも報酬がかかること。みっつめは、伊藤忠商事の出資が 2.4% と薄く、同じ船に乗る度合いが弱いことだ。
分配は 11 期連続で増えたが、売却益の一部と内部留保、積立金の取り崩しが含まれる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
住宅の賃貸需要は、賃金の上昇と、東京への単身者の流入で堅調だ。新築の建築費は上がり、供給は細っている。首都圏の賃料は、入替時の増額が 2 割近くまで上がった。東京 23 区の人口の流入は続くが、政令指定都市は減少に転じる地域がある。
住宅は、2 年の更新で賃料が市場に追随する。物流やオフィスと違って、賃料の下落も上昇も早く表れる。筆者は、中立で賃料は名目年 2.5% と見る。物価の 3% に届かないのは、更新時の増額が小さく、入替時の増額が入居者の入れ替わる割合に左右されるからだ。
住宅は景気の波が小さい。稼働は 95〜96% で安定し、悲観でも 90% までと見る。ただ、10 年国債が 3% の世界では、住宅の期待キャップは 3.75% まで上がる。今の鑑定の利回りは 3.56% で、この差が物件の価値を鑑定より下げる。
金利の上昇は、利回りの低い住宅に強く効く。新しい調達金利が 3% を超えれば、NOI の伸びで吸収できるかが焦点になる。また住宅は、人口の動きが物件ごとに違う。東京 23 区は単身者の流入で需要が堅いが、地方の政令指定都市は人口が減る地域があり、入替賃料の伸びに差が出る。
資本政策と M&A
資本政策の柱は、売却益と内部留保の活用、物件の入れ替え、自己投資口の取得だ。2025 年に 13,698 口を買って消却した。増資は、2023 年 9 月の公募と第三者割当の 1 回だけだ。
分配の方針は、減価償却の見直しで生じる積立金の取り崩しに加え、売却益の一部を内部留保し、必要に応じて取り崩して分配を安定させる形だ。内部留保の残高は約 30 億円、負ののれんの残高は約 214 億円ある。
借入は総資産の 49.8%、鑑定ベースでは 32.6% だ。上限は総資産 53%、鑑定 50%。固定の比率は 92%、平均の残りは 4.3 年。当期は 176 億円を 0.64% で返済し、248 億円を 2.12% で調達した。調達の金利が返済の 3 倍超になっている。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
入替賃料が強い。東京 23 区の原状回復住戸は 2 割近い増額で、過去最高だ。会社はリノベーションを対象住戸の約 2 割まで進め、残りに工事を実施すれば FFO を 12.8% 押し上げられると試算する。賃料は 2 年で市場に追随するので、物価が上がれば NOI も早く伸びる。
財務に余裕がある。鑑定ベースの借入比率は 33% で、固定の比率は 92%、格付けは AA と AA−。金利が 3.4% になっても、NOI の伸びが利払いの増加を吸収し、純利益は今の水準を保てる。含み益は 3,041 億円と厚い。
NAV に対する割引が大きい。投資口は NAV を 3 割近く下回り、会社は自己投資口の取得も選べる。売却益の再投資と内部留保も、分配を安定させる。
運用会社は、東京 23 区への入れ替えを進める。当期は古い物件 3 つを売って 16.7 億円の益を出し、新しい物件 7 つを買った。取得の多くは鑑定評価額を下回る値段だった。
慎重な見方
金利の上昇は住宅に厳しい。利回りが 3.5% 台と低く、金利が上がるほど物件の価値が下がる。新しい調達の金利は 2.12% で、返済した 0.64% の 3 倍以上。借入の 22.6% が 2 年内に借り換わり、平均 0.94% の金利が 3.4% になれば、年の利払いは 21 億円から 90 億円まで増える。
資本的支出が重い。リノベーションと大規模修繕で年に 40 億円を超え、減価償却の半分を食う。築が 18.9 年と古く、建築費は物価より速く上がる。工事の間は稼働が 0.6 ポイントほど下がる。
今の分配は見かけより厚い。売却益と内部留保、積立金の取り崩しが 2 割ほど含まれ、純利益だけなら分配はその分薄い。内部留保や負ののれんは有限だ。運用報酬は NOI の 10% を超え、取得と譲渡にも報酬がかかる。
伊藤忠商事の出資は 2.4% と薄い。地方の政令指定都市は人口が減る地域があり、そこの物件は入替賃料の伸びが弱く、売却益も出にくい。
どちらに重みを置いたか
東京の住宅の強さと財務の余裕で強気に分があるが、金利の上昇と資本的支出は重い。中立は今の値段をわずかに下回った。スポンサーの点数は 3 を下回ったので、悲観の確率は 10% に据えた。楽観側は合わせて 32%、中立は 38% を置いた。筆者は、賃料の伸びが金利の上昇を吸収している点を評価するが、その強さはすでに値段に入っている。適正の範囲の中ほどにあると見る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/07 期)
確率で加重した株価時価総額 200,876 円5,730 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 58,291 円1,663 億円)。 今の値に割り戻すと 132,716 円3,785 億円、今との差 −0.4%、 期待の年率 +6.9%(資本コスト 8.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 323,002 円9,213 億円 | 72,783 円2,076 億円 | +196.9% | +11.5% | 39,579 円1,129 億円 |
| やや楽観 | 22% | 260,982 円7,444 億円 | 66,718 円1,903 億円 | +145.8% | +9.4% | 72,094 円2,056 億円 |
| 中立 | 38% | 212,460 円6,060 億円 | 60,863 円1,736 億円 | +105.0% | +7.4% | 103,863 円2,962 億円 |
| やや悲観 | 20% | 124,251 円3,544 億円 | 48,592 円1,386 億円 | +29.7% | +2.6% | 34,569 円986 億円 |
| 悲観 | 10% | 55,744 円1,590 億円 | 34,884 円995 億円 | −32.0% | −3.8% | 9,063 円259 億円 |
| 加重平均 | 100% | 200,876 円5,730 億円 | 58,291 円1,663 億円 | +94.4% | +6.9% | 259,167 円7,392 億円 |
今の株価時価総額 133,300 円3,802 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 入替賃料の増額が続き、金利も 3% 以下 利益 221 億円 · PBR 4.1 倍 · 株価時価総額 323,002 円9,213 億円
10 年金利は 3% を下回って落ち着き、借り換えは 3.1% で済む。入替賃料の増額が続き、リノベーションの効果も出て、賃料は年 3.5% で上がる。稼働は 96.5% を保つ。
経費は物価並みに増えるが軽く、NOI は 10 年で 4 割強伸びる。純利益は今から 4 割強増える。含み益の売却益を再投資し、1 口の価値が増える。この筋書きでは規模を据え置いて質を上げる。リノベーションを未実施の住戸にも広げ、入替のたびに賃料を引き上げる循環が回り続ける。
不動産の買い手は今の利回りで買い続け、物件の利回り(キャップ)は今の鑑定の 3.29% のまま変わらない。時価総額は 9,213 億円と今の 2.4 倍になる。賃料の追随が早い住宅では、物価の上昇がそのまま収入に表れる。投資主の取り分は今の値段を大きく上回る。
- 賃貸住宅の賃貸:数量 4,543(稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働率、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 12.2%(稼働した規模に対する賃貸事業収入の比(今 8.7%)。物価の転嫁で伸びる)→ 売上 555 億円・営業利益 353 億円。稼働 96%・賃料 年 +3.5%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 429 − 資本的支出 52) ÷ キャップ 3.29% − 純負債 2240 = 9213 億円。キャップは今の鑑定の NCF 利回り((NOI − 資本的支出) ÷ 鑑定評価額)の 3.29% で、今の値付けが 10 年続く所(住宅の下限 3.25% より低い。楽観だけはここまで下げてよい)。
確率:入替の増額が続き、金利も 3% 以下で収まる筋書き。住宅は賃料の追随が早く、借入も軽いので 10% とした。
やや楽観 22% 賃料は年 3% で伸び、借り換えは 3.25% 利益 188 億円 · PBR 3.3 倍 · 株価時価総額 260,982 円7,444 億円
金利はやや低めに落ち着き、借り換えは 3.25% になる。賃料は入替ごとに年 3% で上がる。稼働は 96% を保つ。
利払いは年 86 億円ほどまで増えるが、NOI の伸びが吸収し、純利益は今の 2 割ほど増える。内部留保と積立金の取り崩しは続く。資本的支出は築が進むにつれ年 55 億円に増え、リノベーションに回る。入替賃料の増額が、その工事費を回収する形が続く。
物件の利回りは 3.55% に上がる。物件の価値は鑑定をわずかに上回り、投資主の取り分は今の値段を上回って残る。住宅の安定した稼働が、借入の返済を支える。
- 賃貸住宅の賃貸:数量 4,520(稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働率、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 11.6%(稼働した規模に対する賃貸事業収入の比(今 8.7%)。物価の転嫁で伸びる)→ 売上 526 億円・営業利益 322 億円。稼働 96%・賃料 年 +3.0%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 399 − 資本的支出 55) ÷ キャップ 3.55% − 純負債 2270 = 7444 億円。キャップは住宅の中立 3.75% より 0.2% 低い 3.55%(賃料の伸びが強い筋書き)。
確率:中立より賃料の伸びが良く、キャップの上昇が小さい筋書き。22% とした。
中立 38% 金利の正常化で利払いと利回りが上がる 利益 156 億円 · PBR 2.7 倍 · 株価時価総額 212,460 円6,060 億円
10 年金利は 3% に落ち着き、借入は 2〜6 年のうちに 3.4% へ借り換わる。年の利払いは今の約 21 億円から 90 億円へ増える。賃料は年 2.5% で上がり、稼働は 95.5% を保つ。
経費は物価並みに増えるので、NOI は 10 年で 25% ほど伸びる。減価償却は取得原価のままで、リノベーションを積んだ分だけ増える。純利益は今とほぼ同じ水準に収まり、分配は積立金と内部留保の取り崩しが細るぶん、今の水準から 1 割弱下がる。
物件の利回りは 3.75% に上がり、物件の価値は鑑定より 1 割ほど低い。借入があるぶん、投資主の取り分は物件の価値の変動に敏感だ。
- 賃貸住宅の賃貸:数量 4,496(稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働率、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 11.1%(稼働した規模に対する賃貸事業収入の比(今 8.7%)。物価の転嫁で伸びる)→ 売上 498 億円・営業利益 292 億円。稼働 96%・賃料 年 +2.5%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 372 − 資本的支出 58) ÷ キャップ 3.75% − 純負債 2320 = 6060 億円。キャップは住宅の中立 3.75%(要求利回り 5.75% − NOI の伸び 2.0%)。今の鑑定の利回り約 3.56% より高い。
確率:前提どおり 10 年金利が 3% に落ち着き、賃料は物価の 5 分の 6 で上がる筋書き。最もありうるので 38%。
やや悲観 20% 金利が高めに落ち着き、賃料が頭打ちになる 利益 98 億円 · PBR 1.5 倍 · 株価時価総額 124,251 円3,544 億円
金利は高めに落ち着き、借り換えは 3.65% になる。入替賃料の増額が縮み、賃料は年 1.5% しか伸びず、稼働は 94% に落ちる。地方の物件は人口の減少で空室が増える。築が進み、資本的支出は年 66 億円に増える。
利払いは年 96 億円になり、純利益は今の 6 割ほどに細る。積立金と内部留保の取り崩しは終わり、分配は純利益だけになる。借入の返済に現金を回し、新しい物件は買えない。
物件の利回りは 4.25% に上がる。物件の価値から借入を引くと、投資主の取り分は今の自己資本を 4 割ほど上回る水準まで縮む。
- 賃貸住宅の賃貸:数量 4,426(稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働率、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 10.0%(稼働した規模に対する賃貸事業収入の比(今 8.7%)。物価の転嫁で伸びる)→ 売上 445 億円・営業利益 237 億円。稼働 94%・賃料 年 +1.5%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 318 − 資本的支出 66) ÷ キャップ 4.25% − 純負債 2400 = 3544 億円。キャップは中立 +0.5%。借入があるぶん、物件の価値が下がると投資主の取り分は大きく縮む。
確率:金利が高めに落ち着き、入替の増額が縮む筋書き。20% とした。
悲観 10% 金利の上振れと不況で稼働が落ちる 利益 20 億円 · PBR 0.7 倍 · 株価時価総額 55,744 円1,590 億円
金利は 3% を超えて上がり、借り換えは 4.3% になる。不況で入居者が減り、稼働は 90% へ落ちる。賃料は 10 年たっても今と同じ名目にとどまる。NOI は 2 割弱減る。
利払いは年 113 億円になり、純利益はほぼ消える。分配は純利益の水準まで下がる。資本的支出を絞り、借入の返済と空室の手当てに現金を回す。物件の利回りは 4.5% に上がり、物件の価値は鑑定の 6 割ほどになる。
物件の価値は借入を上回って残るが、投資主の取り分は今の自己資本の 3 分の 2 に縮む。清算されない限り、物件を売って NAV を受け取ることはできない。
- 賃貸住宅の賃貸:数量 4,237(稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働率、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 8.7%(稼働した規模に対する賃貸事業収入の比(今 8.7%)。物価の転嫁で伸びる)→ 売上 367 億円・営業利益 169 億円。稼働 90%・賃料 年 +0.0%・経費 年 2.5%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 246 − 資本的支出 56) ÷ キャップ 4.50% − 純負債 2650 = 1590 億円。キャップは中立 +0.75%。NAV は床にしない(清算されない限り投資主は受け取れない)。
確率:スポンサーの点数が 3 を下回ったので、悲観の確率は基本の 10% のまま。金利の上振れと不況が重なる筋書き。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
賃貸住宅の賃貸
東京 23 区を中心とする賃貸住宅 291 棟を、単身から家族向けまで個人に 2 年の普通借家で貸す。
| 数量稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働率、億円。今の値段の実質の規模) | 価格稼働した規模に対する賃貸事業収入の比(今 8.7%)。物価の転嫁で伸びる | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/07 | 4,515 | 8.7% | 391 | 222 |
| 10 年後 中立 | 4,496 | 11.1% | 498 | 292 |
取り方:2026 年 7 月期の半期の賃貸事業収入 195.5 億円(売却益を除く)を 2 倍して年額 390.9 億円。帳簿価額 4,708 億円(貸借対照表の賃貸等不動産)× 期中の平均稼働 95.9% で数量、収入 ÷ 数量で価格。NOI は収入 − 償却を除く賃貸事業費用で年 297.1 億円、セグメントの利益はそこから減価償却 75.1 億円を引いた額。中立の価格が 1.28 倍で物価の 1.34 倍に届かないのは、更新時の増額が小さく、入替時の増額は入居者の入れ替わる割合に左右され、転嫁が物価の 5/6 にとどまると見るため(業種ノート)。
リスクと懸念
借り換えの金利
借入の 22.6% が 2 年内に満期を迎える。当期の新しい調達は 2.12% で、返済した 0.64% の 3 倍以上。平均 0.94% が 3.4% へ借り換わると、年の利払いは 70 億円ほど増え、今の純利益の 4 割強が消える。
資本的支出の重さ
リノベーションと大規模修繕で、資本的支出と修繕費は年 40 億円を超える。平均築年は 18.9 年と古く、建築費の上昇で更新費は物価より速く増える。
分配に含まれる取り崩し
直近の 1 口の分配には、売却益の一部、内部留保、積立金の取り崩しが 2 割ほど含まれる。内部留保は約 30 億円、負ののれんは約 214 億円と有限で、尽きれば分配は純利益の水準に戻る。
住宅の利回りの上昇
今の鑑定の NCF 利回りは 3.56% と低く、10 年国債 3% との差が小さい。利回りが 1 ポイント上がると、物件の価値は 2 割強下がる。
地方の人口減
札幌・仙台・名古屋・関西・九州の物件は取得価格の約 2 割。人口が減る地域では、入替賃料の伸びが弱く、売却益も出にくい。
スポンサーの出資の薄さ
伊藤忠商事の出資は 2.4% で、同じ船に乗る度合いは弱い。運用報酬は NOI の 10.2% で、取得時と譲渡時にも報酬がかかる。
今後の分かれ目
- 10 年金利が 2% 前後で止まる
- 利払いの増加もキャップの上昇も小さく、やや楽観に近づく。今の値段は割安の側に入る。
- 入替賃料の増額が 10% 台に縮む
- NOI の伸びが物価を下回り、悲観側の確率を上げる。
- NAV 割れで公募増資を行う
- 1 口の価値が薄まる。スポンサーの点数を上げ、悲観の確率を上げる。
- 自己投資口の取得を再開する
- NAV 割れの値段で 1 口の価値を増やす使い方で、スポンサーの点数を下げる。
- 積立金と内部留保の取り崩しが終わり、分配が純利益の水準へ下がる
- 分配の見かけの低下で投資口が売られても、価値の数字は動かない。
見ておくもの
- 入替賃料の増額率と稼働率
- 新しい調達金利と 2 年内の返済額
- リノベーションの進捗と資本的支出
- 伊藤忠商事の出資比率と取得の利回り
- 東京 23 区の賃貸住宅の供給
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の値段や過去の値段から置いていない。10 年後の時価総額は、NOI から資本的支出を引いた額をキャップレートで割り、負債を引いて出した。キャップは 10 年金利 3% に用途の上乗せを足した業種ノートの表で、今の鑑定の利回り 3.56% より高い。NAV 割れを割安の根拠にしていない。今の値段が倍でも半分でも、価値の数字は動かない。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k は基本 7.5% に quality +0.50% を足した 8.00%。事業は傾いていないので extra は置かない。