結論
インヴィンシブル投資法人は、国内ホテル 112 棟と海外 2 棟、住居 41 棟など 156 物件を持つ J-REIT だ。取得価格は 6,695 億円で、ホテル特化の REIT では最大になる。筆者の結論は、今の値段はやや割高ということだ。価値の計算は、今の時価総額を 16% 下回る。
強みは、稼ぐ力と含み益だ。賃料の収入は半年で 209 億円あり、鑑定評価額は簿価を 2,204 億円、35% 上回る。2026 年 5 月には格付けが AA− に上がり、借り換えの上乗せ金利も下がった。投資口の値段は 1 口の NAV の 8 割台にある。
弱みは二つある。ひとつは、収入の 6 割が運営会社の業績に連動することだ。固定賃料は賃料全体の 4 割に満たず、訪日客が減ればすぐ響く。もうひとつは、借入 3,487 億円の平均金利が 1.6% と低すぎることだ。10 年国債が 3% の世界では、借り換えのたびに利払いが膨らむ。
スポンサーはフォートレス系で、物件の大半をその関連法人から買ってきた。出資は 1.5% ほどで、増資は NAV を下回る値段で行われた。ホテルの波が大きい事業なので、悲観側を厚めに置いた。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の目で見ると、ホテルの賃料は景気と訪日客の波に左右される。この REIT は、その波を変動賃料の形で投資主が直接受ける。安全域は、値段が波を織り込んでいるかで決まる。
過去 1 年の分配は総額 315 億円で、今の時価総額に対し 7.0% の利回りだ。ただし、利益の積立を使って維持している回がある。借入の平均金利は 1.6% と低く、これが分配を支えている。
10 年かけて借入が 3.5% 前後に借り換わると、年の利払いは 57 億円から 125 億円に増える。賃料が年 2% 伸びても、純利益は今の 314 億円からほとんど増えない。
NAV は物件の鑑定が高い今の姿で、清算されない限り投資主の手には入らない。今の値段は NAV の 8 割台だが、筆者は割安の根拠にしない。
10 年の分配と、10 年後の物件の価値を今に引き直すと、今の値段を 16% ほど下回る。ホテルの波を考えると、値段が 2 割ほど下がって初めて、安全域が生まれる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、ホテルと住居の賃料だ。国内ホテルの 8 割ほどは、運営会社 ICN が借りる変動賃料型で、ホテルの営業総利益(GOP)をほぼ全部、賃料として受け取る。2026 年 6 月期の賃料は半年で 209 億円。うち変動が 116 億円、固定が 69 億円、住居が 14 億円だった。
物件は 156 ある。ホテルは東京・大阪・京都・札幌・福岡など都市型が中心で、箱根や熱川などのリゾートもある。住居は首都圏と地方都市の 41 棟で、稼働率は 97% 台と安定している。
珍しいのが海外だ。ケイマン諸島の 2 つのホテルは、ホテルの運営そのものを委託する形で、半年に 49 億円の運営収益を生む。米ドルで入る収益は為替予約で円に替えている。ただし 2026 年 12 月期は、競合ホテルの開業で団体客が伸びず、減収を見込む。
過去 1 年の営業収益は 554 億円、NOI(賃料から償却を除く費用を引いた稼ぎ)は 502 億円だった。簿価 6,279 億円に対する NOI の利回りは 8% になる。長く持つ間に簿価が下がり、含み益がたまったからだ。
国内の 2026 年 6 月期の客室稼働率は 84.6%、1 室当たり宿泊売上(RevPAR)は前年より 1.6% 伸びた。大阪・関西は前年の万博の反動と中国客の減少が重なったが、韓国や台湾、米国の客が穴を埋めた。
優良さと弱いところ
物件の質は、ホテルの幅広さが特徴だ。ホテルマイステイズ、フレックステイイン、アートホテル、亀の井ホテルなど、中価格帯のホテルが多い。エリアは全国に散らばり、1 物件の比重は小さい。東京・大阪の都心の大型物件だけを持つ REIT より、1 つの地域の不振に強い。
強みは三つある。ひとつめは、含み益が 2,204 億円と厚いこと。ふたつめは、運営会社の ICN と一体で、人員配置や自動チェックインで費用を削り、客室の改装で賃料を上げる力があること。みっつめは、格付けが 2026 年 5 月に A+ から AA− に上がったことだ。
弱みも三つある。ひとつは、運営会社が事実上ひとつに集中することだ。賃料の大半が ICN の業績で決まり、ICN の運営が崩れれば賃料も崩れる。ふたつめは、ケイマンのホテルが借地の権利で、米国客に頼ることだ。みっつめは、築年が古い物件が多く、改装費が 2026 年だけで 114 億円と償却の 1 割近くを占めることだ。
2027〜29 年は、改装の投資 220 億円で収益力を上げる計画だ。想定利回りは 7% と高い。投資の効果が出なければ、現金だけが出ていく。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ホテルは、訪日客と国内の宿泊の両方で稼ぐ。2025 年の訪日客は過去最高の 4,268 万人で、政府は 2030 年に 6,000 万人を目標にしている。2026 年 1〜3 月は中国客が日中関係の悪化で減ったが、韓国・台湾・米国が穴を埋め、全体は前年並みだった。
宿泊の値段は毎日つけ替えられるので、物価の上昇に強い。ただし、需要の波はそのまま収入に出る。ICN が運営する国内の主要 101 ホテルの売上は、2026 年上期に前年比 3.0% 増。単価の伸びは 0.7% とゆるやかで、稼働の回復が主因だった。
この REIT の賃料は、ホテルの営業利益に連動する。固定費の重いホテルでは、売上が 3 割落ちると利益は 6〜7 割落ちる。変動賃料はほぼ消え、固定賃料だけが残る。固定賃料は賃料全体の 4 割に届かない。
人手不足による人件費の上昇も重い。ICN は省人化で対応しているが、賃上げの圧力は続く。新しい客室の供給も、大都市で続いている。
住居は、東京 23 区で家賃が上がり、2026 年の新規契約の賃料は従前より 3.5% 高い。物価に追随する性質があり、ホテルの波を和らげる。ただし 41 棟は資産全体の 1 割にも満たない。
業種の表では、ホテルの NOI は名目年 2.25% で伸び、期待キャップは 5.0%、下限は 4.0% だ。今の鑑定が低めでも、10 年国債が 3% の世界では 5% 前後に上がる。
資本政策と M&A
資本政策は、増資と借入で物件を買い増す成長路線だった。2023 年の公募で 640 千口、2024 年の公募で 909 千口を発行し、合計 904 億円を調達した。発行の値段は直前の NAV の 92〜95% だった。ただし NAV も分配金も増資のあとに上がった。2025 年以降は NAV 割れが続き、増資は止まっている。
借入は 3,487 億円で、有利子負債を鑑定評価額で割った比率は 41% になる。固定金利の比率は 59.8%、平均の残りは 2.7 年だ。平均金利は 1.6% から 2027 年 6 月期に 1.9% へ上がる見込みで、2028 年 6 月期までに約 1,070 億円が満期を迎える。
報酬は、資産運用会社が運用報酬を半年に 6.5 億円受ける。NOI に対して 2.6% と小さい。取得報酬があり、買い増しをすればスポンサー側に入る形だ。
分配は、2026 年 12 月期に利益の積立を使い、前年同期と同額の分配を保つ予定だ。2029 年まで分配を年 3% 以上伸ばす目標を掲げる。ただし金利の上昇で利益は圧迫される。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
訪日客は構造的に伸びる。日本のホテル価格は海外の大都市より安く、単価の余地は大きい。ICN の運営力でコストを抑え、賃料の上振れを取り込める。
含み益は 2,204 億円で簿価の 35%。鑑定評価額で見た借入比率は 41% と低く、格付けは AA− に上がった。借り換えの上乗せ金利も下がり始めた。
2027〜29 年は、改装に 220 億円を投じる。想定利回りは 7% で、分配は 1 口当たり 5% ほど押し上がる。分配の目標は年 3% 以上の成長だ。
住居 41 棟は、東京で家賃が上がり、稼働率は 97% を保つ。ホテルの波を和らげる役目を果たす。
今の値段は NAV の 8 割台で、分配金の利回りも 7% に近い。ホテルの稼ぎが続けば、増配の余地が大きい。
借入は大手銀行を中心に分散し、投資法人債も 5% ほど持つ。返済の期限も 2031 年まで散らばっている。
ケイマンのホテルは、2026 年上期の 1 室当たり売上が前年より 15% 伸びた。米ドルの収入は為替予約で円に替えており、為替の波も小さい。
慎重な見方
賃料の 6 割が運営会社の業績に連動し、ほぼ ICN 1 社の力に頼る。需要が落ちると、固定費の重さで賃料が一気に減る。2026 年は大阪が万博の反動と中国客の減少で落ちた。
借入 3,487 億円の平均金利は 1.6%。10 年国債が 3% の世界では 3.5% 前後へ借り換わり、利払いは 2 倍を超える。2028 年 6 月期までに約 1,070 億円が満期を迎える。
改装の投資は 2027〜29 年に 220 億円。うまくいかなければ、現金が出ていくだけだ。ケイマンのホテルは競合の開業で、2026 年 12 月期の減収を見込む。
スポンサーの出資は 1.5% ほど。物件の大半はスポンサー関連から買い、増資は NAV を下回る値段で行われた。
2026 年 12 月期の分配は積立の取り崩しで保つ。継続できる水準は、それより低い。
住居と合わせても、固定の賃料は全体の 4 割に届かない。景気の波を、投資主が直接かぶる設計だ。
どちらに重みを置いたか
訪日客と改装の力は本物で、含み益も厚い。強気の言い分には根拠がある。ただ、運営会社に集中した変動賃料、借り換えによる利払いの倍増、スポンサーとの距離の近さが重い。中立の価値は今の値段をやや下回った。スポンサーの点数は 3.8 で、悲観の確率を 5 ポイント上げた。筆者は、稼ぐ力は値段に入っているが、金利と需要の波は半分しか入っていないと見る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/12 期)
確率で加重した株価時価総額 65,186 円4,984 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 37,732 円2,885 億円)。 今の値に割り戻すと 49,373 円3,775 億円、今との差 −16.6%、 期待の年率 +5.7%(資本コスト 9.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 110,538 円8,452 億円 | 46,755 円3,575 億円 | +165.7% | +10.3% | 15,729 円1,203 億円 |
| やや楽観 | 22% | 90,580 円6,926 億円 | 43,812 円3,350 億円 | +127.0% | +8.5% | 29,566 円2,261 億円 |
| 中立 | 33% | 73,278 円5,603 億円 | 40,961 円3,132 億円 | +93.0% | +6.8% | 37,699 円2,883 億円 |
| やや悲観 | 20% | 36,266 円2,773 億円 | 31,610 円2,417 億円 | +14.7% | +1.4% | 13,575 円1,038 億円 |
| 悲観 | 15% | 18,467 円1,412 億円 | 23,855 円1,824 億円 | −28.5% | −3.3% | 6,348 円485 億円 |
| 加重平均 | 100% | 65,186 円4,984 億円 | 37,732 円2,885 億円 | +73.8% | +5.7% | 102,918 円7,869 億円 |
今の株価時価総額 59,200 円4,527 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 訪日客が伸び、賃料が年 3% で増える 利益 400 億円 · PBR 2.4 倍 · 株価時価総額 110,538 円8,452 億円
訪日客は 2030 年の 6,000 万人の目標に近づき、客室単価も上がる。変動賃料を含む賃料は年 3% で伸びる。2027〜29 年の改装も、想定どおり 7% の利回りを生む。
借り換えは 3.3% で済み、年の利払いは 118 億円と今の 2 倍になる。それでも NOI は 502 億円から 674 億円へ 34% 増え、純利益は 400 億円に伸びる。
物件の利回りは 4.5% に下がり、物件の価値は 1 兆円を超える。借入が 3 割台と低く、価値の上昇は投資主の取り分に大きく効く。
増資は NAV を上回る値段で行われ、希薄化は小さい。
- ホテルと住居の賃貸:数量 6,279(稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働の係数、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 11.9%(規模に対する営業収益の比(今 8.8%)。客室単価の伸びと変動賃料の増減を合わせた値)→ 売上 744 億円・営業利益 538 億円。稼働 100%・賃料 年 +3.0%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 674 − 資本的支出 150) ÷ キャップ 4.50% − 純負債 3200 = 8452 億円。キャップは中立 5.0% から 0.5% 下げた 4.5% (ホテルの下限 4.0% には届かない)。
確率:訪日客と客室単価の上昇が続き、変動賃料が年 3% 伸びる筋書き。ホテルは景気の振れが大きいので 10% とした。
やや楽観 22% 賃料は年 2.5% で伸び、借り換えは 3.4% 利益 355 億円 · PBR 2.0 倍 · 株価時価総額 90,580 円6,926 億円
訪日客はアジアを中心に伸び、中国客の減少も癒える。賃料は年 2.5% で伸び、稼働の係数は 0.99 になる。借り換えは 3.4% で済み、年の利払いは 122 億円になる。
NOI は 632 億円と 26% 増え、純利益は 355 億円と今を 1 割上回る。資本的支出は年 150 億円と今の 1.3 倍に増える。
物件の利回りは 4.75% に上がる。物件の価値は鑑定をやや上回る水準にとどまる。
改装の費用は借入で賄い、純負債は 3,220 億円に増える。
ただし、賃料の伸びは物価の 3% に届かず、実質の収益は緩やかに目減りする。
- ホテルと住居の賃貸:数量 6,216(稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働の係数、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 11.3%(規模に対する営業収益の比(今 8.8%)。客室単価の伸びと変動賃料の増減を合わせた値)→ 売上 702 億円・営業利益 496 億円。稼働 99%・賃料 年 +2.5%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 632 − 資本的支出 150) ÷ キャップ 4.75% − 純負債 3220 = 6926 億円。キャップは中立 5.0% より 0.25% 低い 4.75% (賃料の伸びが強い筋書き)。
確率:中立より訪日客の伸びが良く、キャップの上昇が小さい筋書き。22% とした。
中立 33% 賃料は物価に負け、利払いが 2 倍になる 利益 312 億円 · PBR 1.6 倍 · 株価時価総額 73,278 円5,603 億円
10 年金利は 3% に落ち着き、借入は 4 年ほどで 3.5% へ借り換わる。年の利払いは今の 57 億円から 125 億円へ増える。賃料は年 2.0% で伸び、稼働の係数は 0.98 に落ちる。
経費は物価並みの年 3% で増え、NOI は 502 億円から 592 億円へ 18% 増える。それでも利払いの増加を吸収しきれず、純利益は今の 314 億円から 312 億円とほぼ横ばいになる。
物件の利回りは 5.0% に上がるが、NOI が増えるので物件の価値は鑑定をわずかに上回る。資本的支出は年 150 億円で、足りない分は借入で賄う。
増資は、投資口が NAV に近づくまで控える見通しだ。
- ホテルと住居の賃貸:数量 6,153(稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働の係数、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 10.8%(規模に対する営業収益の比(今 8.8%)。客室単価の伸びと変動賃料の増減を合わせた値)→ 売上 662 億円・営業利益 456 億円。稼働 98%・賃料 年 +2.0%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 592 − 資本的支出 150) ÷ キャップ 5.00% − 純負債 3230 = 5603 億円。キャップはホテルの表 5.0% (要求利回り 7.25% − NOI の伸び 2.25%)。今の NCF 利回りの推定 4.6%(NOI から資本的支出を引いて鑑定評価額で割った)より高い。
確率:前提どおり 10 年金利が 3% に落ち着き、賃料は年 2.0% で伸びる筋書き。最もありうるので 33%(スポンサーの点数 3.8 で悲観に 5 ポイント回した)。
やや悲観 20% 訪日客が頭打ちになり、金利が高めに落ち着く 利益 169 億円 · PBR 0.8 倍 · 株価時価総額 36,266 円2,773 億円
金利は高めに落ち着き、借り換えは 3.8% になる。訪日客の伸びは止まり、客室の新規供給も重なり、賃料は 10 年で今と同じ水準にとどまる。稼働の係数は 0.95 に落ちる。
変動賃料は縮み、NOI は 456 億円と今の 1 割減。年の利払いは 136 億円で、純利益は 169 億円と今の半分に縮む。資本的支出は年 140 億円に抑える。
物件の利回りは 5.25% に上がる。物件の価値から借入を引くと、投資主の取り分は今の自己資本の 8 割に縮む。
スポンサーの出資は 1.5% ほどで、増資で希薄化が進む恐れがある。
- ホテルと住居の賃貸:数量 5,965(稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働の係数、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 8.8%(規模に対する営業収益の比(今 8.8%)。客室単価の伸びと変動賃料の増減を合わせた値)→ 売上 526 億円・営業利益 322 億円。稼働 95%・賃料 年 +0.0%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 456 − 資本的支出 140) ÷ キャップ 5.25% − 純負債 3250 = 2773 億円。キャップは中立 +0.25%。変動賃料の縮みと利払いの増加で、物件の価値から借入を引いた額が大きく縮む。
確率:訪日客の伸びが止まり、新規供給が重なり、金利が高めに落ち着く筋書き。20% とした。
悲観 15% 訪日客の落ち込みと金利の上振れ 利益 50 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 18,467 円1,412 億円
不況や地政学のリスクで訪日客が落ち込み、賃料は 10 年後に今より 2 割ほど低い水準になる。固定費が重く、GOP は大きく減り、変動賃料はほぼ消える。賃料は年 2% ずつ縮み、稼働の係数も 0.93 に落ちる。
金利は 3% を超えて上がり、借り換えは 4.5% になる。年の利払いは 160 億円で、NOI は 351 億円と今の 3 割減。純利益は 50 億円まで細り、分配は大きく下がる。資本的支出は 100 億円に絞る。
物件の利回りは 5.5% に上がり、物件の価値は鑑定の 5 割ほどに縮む。投資主の取り分は今の自己資本の 4 割しか残らない。
清算されない限り、物件を売って NAV を受け取ることはできない。
- ホテルと住居の賃貸:数量 5,839(稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働の係数、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 7.2%(規模に対する営業収益の比(今 8.8%)。客室単価の伸びと変動賃料の増減を合わせた値)→ 売上 421 億円・営業利益 226 億円。稼働 93%・賃料 年 -2.0%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 351 − 資本的支出 100) ÷ キャップ 5.50% − 純負債 3150 = 1412 億円。キャップは中立 +0.5%。NAV は床にしない(清算されない限り投資主は受け取れない)。
確率:スポンサーの点数が 3.8 なので、悲観の確率を基本の 10% から 5 ポイント上げて 15%。ホテルは景気と訪日客の振れが最も大きい。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ホテルと住居の賃貸
国内ホテル 112 棟・海外 2 棟・住居 41 棟などを、ホテルは変動賃料(GOP 連動)中心、住居は通常の賃貸で貸す。
| 数量稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働の係数、億円。今の値段の実質の規模) | 価格規模に対する営業収益の比(今 8.8%)。客室単価の伸びと変動賃料の増減を合わせた値 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 6,279 | 8.8% | 554 | 386 |
| 10 年後 中立 | 6,153 | 10.8% | 662 | 456 |
取り方:過去 1 年(2025 年 12 月期+2026 年 6 月期)の営業収益 554 億円(賃料・運営委託収益・受取配当)を数量・価格に分けた。簿価 6,279 億円 × 係数 1.00 が数量、収入 ÷ 数量が価格。NOI は収入から償却を除く費用を引いて 502 億円、セグメントの利益は減価償却 116 億円を引いた額。中立の価格は 10 年で 1.22 倍にとどまり、物価の 1.34 倍に届かないのは、固定賃料が 4 割弱あり、変動賃料も新規供給と稼働の正常化で伸びが鈍るため(業種ノート)。
リスクと懸念
運営会社への集中と変動賃料
国内ホテルの 8 割ほどが ICN の運営で、賃料の 6 割が運営の業績に連動する。ICN の運営が崩れると、賃料も同時に崩れる。固定賃料は全体の 4 割に届かない。
借り換えによる利払いの増加
平均の金利は 1.6%。3.5% 前後へ上がると、年の利払いは 57 億円から 125 億円まで増える。2028 年 6 月期までに約 1,070 億円の満期が来る。
鑑定の利回りと金利
鑑定評価額は 8,483 億円で簿価を 35% 上回る。10 年国債が 3% の世界でキャップが 5% 台へ上がると、含み益の多くが消える恐れがある。
改装の投資の重さ
2026 年の資本的支出は 114 億円で、償却の 1 割ほどを使う。2027〜29 年は戦略的な改装に 220 億円を投じる。想定利回り 7% を外すと、現金だけが出ていく。
ケイマンのホテルの集中
ウェスティン・グランドケイマンは借地権で、米ドル収入と競合ホテルの開業の影響を受ける。2026 年 12 月期は団体客が伸びず減収を見込む。
スポンサーとの距離
物件の大半をフォートレス系の関連法人から買ってきた。スポンサーの出資は 1.5% ほどで、増資は NAV の 9 割台の値段だった。NAV 割れの局面で増資をすれば 1 口の価値が薄まる。
今後の分かれ目
- 訪日客の伸びが年 5% 前後で続き、国内 RevPAR が上がり続ける
- 変動賃料の伸びが上に振れ、中立と楽観の確率を上げる。今の値段は適正に近づく。
- 10 年金利が 2% 前後で止まり、借り換えが 2% 台で済む
- 利払いの増加もキャップの上昇も小さく、価値は上に振れる。今の値段は適正に近づく。
- 運営会社 ICN の業績が落ち、変動賃料が前年を割る
- 悲観側の確率を上げる。賃料の半分以上が連動するため、分配への影響が大きい。
- NAV 割れで公募増資を行う
- 1 口の価値が薄まる。スポンサーの点数を上げ、悲観の確率を上げる。
- スポンサーが投資口の買い増しや、自己投資口の取得を行う
- 同じ船の度合いが上がり、スポンサーの点数が下がる。
見ておくもの
- 国内ホテルの RevPAR・GOP と変動賃料の推移(半期)
- ケイマンのホテルの運営収益と競合の開業
- 借り換えの金利と 2028 年 6 月期までの満期の借り換え
- 戦略的な改装の利回りの実績
- スポンサーの出資比率と増資の値段
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の値段や過去の値段から置いていない。10 年後の時価総額は、NOI から資本的支出を引いた額をキャップレートで割り、負債を引いて出した。キャップはホテルの業種ノートの表 5.0% と、今の NCF 利回りの推定 4.6%(NOI から資本的支出を引いて鑑定評価額で割った)より高い。NAV 割れを割安の根拠にしていない。今の値段が倍でも半分でも、価値の数字は動かない。
資本コスト 9.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k は基本 7.5% に quality +2.26% を足した 9.76%。ホテルの景気の振れは cycle に入れたので extra は置かない。