結論
ジャパンリアルエステイトは、三菱地所を後ろ盾に持つ、国内で最も古いオフィス REIT だ。東京都心を中心に 77 棟のビルを持ち、稼働は 98.9% と高い。それでも筆者の結論は割高である。今の値段は、借入の金利が 1% に届かず、ビルが 3% 台の利回りで評価される今の低金利を、そのまま 10 年先へ延ばした値段だからだ。
10 年金利が 3% に落ち着く世界では、重しが二つ同時に効く。一つは利払いだ。5,000 億円近い借入が借り換えのたびに 3% 台前半へ移り、年の利払いは今の 5 倍になる。もう一つはビルの値段だ。投資家が求める利回りが上がれば、同じ賃料でもビルの価値は 2 割以上下がる。
賃料は上がる。契約の賃料は市場の賃料より約 1 割低く、増額の余地は大きい。ただ経費も物価で増え、修繕の費用は建築費とともに膨らむ。最上位の格付けと都心の立地は評価するが、払う値段に安全域は無い。さらに、直近 3 年で 2 度、NAV を下回る値段で増資している点が引っかかる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、良いビルと良い投資は別物だ。ジャパンリアルエステイトのビルは一級で、10 年後も都心で働く人を受け止めているだろう。堀、つまり他社がまねしにくい強みは、立地と、三菱地所の物件情報にある。だが投資主が受け取るのは、賃料から利払いを引いた残りだけだ。
この残りが、金利の正常化で細る。年の利払いは今の約 33 億円から 166 億円へ増える。賃料が物価の 3 分の 2 で上がっても、埋めきれない。10 年の分配と 10 年後のビルの価値を合わせても、今の値段の 3 分の 1 ほどの価値にしかならない。
加えて、NAV を下回る値段の増資を繰り返す運営は、オーナーとして安心できない。値段に安全域が無い時は、待つのが正しい。投資口の値段が NAV を大きく割り込み、ビルの利回りが 4% を超える水準まで下がれば、魅力的な持ち物になりうる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は単純だ。ビルの床を企業に貸し、賃料を受け取り、経費と利払いを引いた残りのほぼ全部を投資主に配る。2026 年 3 月期(半年)の賃貸事業収益は約 368 億円、そこから経費を引いた NOI、つまり物件が生む正味の賃料は約 238 億円だった。
物件は取得価格で 1.16 兆円。都心 5 区が 68% を占め、平均の築年は 22 年だ。東京オペラシティ、汐留、新宿の大型ビルが柱で、最近は札幌に新築のビルを 2 棟加えた。大阪のグランフロントなど都心以外の大型物件も持つ。
運用は三菱地所が親会社の資産運用会社が担う。最近の取得は三菱地所の物件が中心で、新宿イーストサイドスクエア、コモレ四谷の持分を買い増した。定期借家が 7 割を占め、平均の契約期間は 3.5 年。賃料の改定は契約ごとなので、物価はすぐには賃料に乗らない。
借入は約 5,000 億円で、平均の金利は 0.82%、残りの期間は約 5 年、固定は 78%。格付けは JCR が AA+ と J-REIT で最も高い。配った後に現金はほとんど残らず、規模を増やす道は新しい投資口の発行だけだ。
優良さと弱いところ
物件の質は国内の REIT で上位だ。都心の大型ビルは代わりが少なく、稼働は 3 月期に 98.9% まで戻った。賃料の増額改定も広がり、増額できた契約の割合は 6 割を超える。ただし賃料を自分で決める力は無い。オフィスの賃料は市況で決まり、大型の新築ビルの供給と在宅勤務の定着が上値を抑える。
資本の使い方には疑問が残る。直近 3 年で 2 度の公募増資があり、どちらも NAV、つまり物件の含み益まで入れた 1 口の純資産を 1 割ほど下回る値段だった。2026 年 3 月の公募は 1 口 11.2 万円で払い込まれ、NAV は 12.5 万円。既存の投資主の取り分を削って規模を追う姿勢だ。
報酬は NOI 連動と分配金連動を組み合わせ、取得にも手数料がかかる。親会社の三菱地所の出資は 1.2% にすぎず、投資主と同じ船に乗っているとは言いにくい。
弱いのは借入の重さだ。純負債は NOI から報酬を引いた額の約 12 倍。高い格付けは借りやすさを守るが、金利の水準からは守らない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
東京のオフィス市場は 2025 年から締まり、都心の空室は 3% 台前半に下がった。賃料は数年ぶりの上げ局面にある。ジャパンリアルエステイトの契約賃料は市場の賃料より 1 割ほど低く、入れ替えと更新のたびに増額できる。会社は賃料の年 3〜4% の成長を前提に置いている。
ただ筆者は、これを 10 年続く上昇とは見ない。大型ビルの新築は 2027 年以降も続き、働く場所の分散で 1 人あたりの床は増えにくい。中立の賃料は物価の 3 分の 2、名目で年 2% 前後と置く。経費(管理・光熱・税)は物価で増えるので、NOI の伸びは賃料より遅い。
いちばん大きいのは金利だ。ジャパンリアルエステイトの鑑定の利回りは 3.4%。10 年国債が 3% の世界でこの差は保てない。不動産に求める利回りを 6% 前後、NOI の長い伸びを 1.75% とすれば、都心の大型ビルは 4.25% 前後に落ち着く。都心以外の物件を混ぜた同社の中立は 4.4% になる。ビルの値段は 2 割台半ばから 3 割下がる計算だ。
オフィスは、金利の上昇と利回りの上昇が同時に効きやすい用途である。
資本政策と M&A
利益のほぼ全部を配るのが REIT の決まりで、内部には残らない。規模の成長は、投資口を新しく発行して物件を買うか、持っている物件を入れ替えるかのどちらかだ。
同社は入れ替えが上手い。赤坂パークビルを 6 回に分けて売り、天神と新潟のビルも売却して、含み益を分配に回している。3 年ほどで合計 170 億円ほどの売却益が、通常の分配に上乗せされる。筆者はこの分を別に数えた。ただ、売却益は一度きりで、売った物件の賃料が消える。
気になるのは増資の値段だ。2023 年と 2026 年の公募はどちらも NAV 割れだった。今の値段は NAV の 0.87 倍で、この水準で増資を続ければ、1 口の価値は削られる。
借入の LTV は帳簿で 43%、時価で 34%。借り増しの余地はあるが、金利が上がる世界では、規模を追うより LTV を下げる方が投資主のためになると筆者は見る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
都心のビルは物価に強い資産だ。契約賃料は市場より 1 割低く、入れ替えのたびに増額できる。査定賃料は年 10% で上がっており、会社は賃料の年 3〜4% 成長を目標に置く。賃料が物価並みに上がれば、NOI は 10 年で 4 割伸び、利払いの増加を吸収できる。
金利についても、日本の金利は上がるたびに景気が冷え、止まってきた。2% 前後で止まれば、ビルの利回りも今の水準に近いまま残り、価値は今の値段を上回る。
借入の 78% は固定で、残りの期間は 5 年ある。金利の上昇は一度に来ない。格付けは J-REIT 最上位の AA+ で、借り換えの上乗せも小さい。三菱地所のパイプラインがあり、物件の入れ替えで含み益も分配に回せる。
都心の一等地は増えない。古いビルが建て替えで減れば、残る一級のビルの価値はむしろ上がる。
実際、2026 年 3 月期は増額改定の割合と改定率がともに会社の目標へ順調に進み、バリューアップ工事をしたビルでは成約の賃料が 1〜2 割上がった。内部成長が外部成長を上回る局面は、REIT にとって最も質の高い成長である。
慎重な見方
低金利が作った値段だ。鑑定の利回りは 3.4%、10 年国債が 3% の世界ではほとんど差が無い。そんな値段で不動産を買う投資家はいない。利回りが 4.4% に上がるだけで、ビルの価値は 2 割以上下がる。借入があるので、投資主の取り分はその倍近い速さで減る。
利払いも重い。平均 0.82% の借入が 3% 台前半に変われば、年の利払いは 130 億円以上増える。今の年の利益は約 280 億円なので、3 分の 1 以上が消える。経費は物価で増え、修繕の費用は建築費とともに膨らむ。足元の資本的支出は NOI の 2 割に達している。
2 度の公募は NAV 割れで、既存の投資主の取り分を削った。売却益の分配も一度きりで、売った物件の賃料は戻らない。三菱地所の出資は 1.2% にすぎず、同じ船とは言いにくい。
札幌で買った新築ビルの稼働はまだ 7〜9 割台で、利回りも低い。
さらに、築 20 年を超えるビルが多いため、修繕と更新の費用は増える一方だ。買い替えで得る新築ビルの利回りは 3% 台前半と低く、売って買うほど稼ぐ力は薄まる。
どちらに重みを置いたか
物件の質では強気に分があるが、勝負を決めるのは金利だ。10 年金利 3% を前提にする以上、利払いとビルの利回りの上昇は避けられない。慎重な見方が勝つ。確率は中立を 37% に置き、悲観側を合わせて 38% と厚めにした。楽観は金利が今のまま止まる筋書きで、6% にとどめた。筆者は、AA+ の格付けと都心の立地が割高の度合いを縮めることは認める。ただ結論は変わらない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 48,679 円3,546 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 31,214 円2,274 億円)。 今の値に割り戻すと 41,763 円3,042 億円、今との差 −60.5%、 期待の年率 −2.8%(資本コスト 8.7%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 196,919 円1.43 兆円 | 40,721 円2,966 億円 | +124.6% | +8.4% | 14,258 円1,039 億円 |
| やや楽観 | 19% | 80,701 円5,878 億円 | 37,261 円2,714 億円 | +11.5% | +1.1% | 22,413 円1,632 億円 |
| 中立 | 37% | 49,192 円3,583 億円 | 33,678 円2,453 億円 | −21.7% | −2.4% | 30,662 円2,233 億円 |
| やや悲観 | 23% | 13,043 円950 億円 | 26,237 円1,911 億円 | −62.9% | −9.4% | 9,034 円658 億円 |
| 悲観 | 15% | 2,197 円160 億円 | 21,308 円1,552 億円 | −77.8% | −14.0% | 3,526 円257 億円 |
| 加重平均 | 100% | 48,679 円3,546 億円 | 31,214 円2,274 億円 | −24.5% | −2.8% | 79,893 円5,819 億円 |
今の株価時価総額 105,800 円7,706 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.7% を下回るほど割高。
楽観 6% 金利が止まり、都心の賃料が物価並みに上がる 利益 283 億円 · PBR 2.6 倍 · 株価時価総額 196,919 円1.43 兆円
都心のオフィスは貸し手の市場が 10 年続く。契約賃料が市場より 1 割低い状態から、入れ替えと更新で増額が進み、賃料は物価並みの年 3% で上がる。稼働は 99% を保つ。NOI は 10 年で 3 割強伸びる。
借り換えの金利は最上位格付けのおかげで 3.2% にとどまる。不動産の買い手は今の利回りで買い続け、物件の利回り(キャップ)は今の鑑定の 2.55% のまま変わらない。時価総額は 1 兆 4,343 億円と今の 1.8 倍になる。売却益の分配も続き、投資主の取り分は今の値段を上回る。
増資は NAV を上回る値段でしか行わず、規模は据え置く。筆者はこの筋書きを、前提の金利から外れる分だけ低く見る。
- オフィスビルの賃貸:数量 10,751(稼働している物件の規模(帳簿価額=取得原価 × 稼働率、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 9.2%(稼働した規模に対する賃料などの収入の比(今 6.9%)。物価の転嫁で伸びる)→ 売上 991 億円・営業利益 496 億円。稼働 99%・賃料 年 +3.0%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 641 − 資本的支出 140) ÷ キャップ 2.55% − 純負債 5300 = 14343 億円。キャップは今の鑑定の NCF 利回り((NOI − 資本的支出) ÷ 鑑定評価額)の 2.55% で、今の値付けが 10 年続く所(オフィスの下限 3.5% より低い。楽観だけはここまで下げてよい)。
確率:10 年金利が今の 3% 前後で止まり、都心の賃料が物価並みに上がる筋書き。前提の金利から外れるので 6% にとどめた。
やや楽観 19% 賃料は物価に近く伸び、利回りの上昇は小さい 利益 233 億円 · PBR 1.1 倍 · 株価時価総額 80,701 円5,878 億円
都心の空室は低いまま推移し、賃料は年 2.5% で上がる。稼働は 98.5% を保つ。経費は物価並みに増えるが、収入の伸びが上回り、NOI は 10 年で 2 割強伸びる。
借入は 3.25% 前後へ借り換わり、利払いは今の 5 倍になる。純利益は今より細る。ビルの利回りは 4.0% に上がり、ビルの価値は今の鑑定を下回る。投資主の取り分は今の値段に届かない。
筆者は、この筋書きでも利払いの増加を賃料で埋めきれず、10 年の分配の合計は今のペースを下回ると見る。
契約賃料と市場賃料の差が埋まる分は一度きりの押し上げで、その先の伸びは物価に追いつかない。
- オフィスビルの賃貸:数量 10,697(稼働している物件の規模(帳簿価額=取得原価 × 稼働率、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 8.8%(稼働した規模に対する賃料などの収入の比(今 6.9%)。物価の転嫁で伸びる)→ 売上 939 億円・営業利益 444 億円。稼働 98%・賃料 年 +2.5%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 589 − 資本的支出 140) ÷ キャップ 4.00% − 純負債 5350 = 5878 億円。キャップは中立 4.4% から 0.4% 下げた。
確率:賃料の上げ局面が長めに続き、ビルの利回りの上昇が小さい筋書き。契約賃料の下振れ分の増額余地があるので 19%。
中立 37% 金利の正常化で利払いと利回りが上がる 利益 180 億円 · PBR 0.7 倍 · 株価時価総額 49,192 円3,583 億円
10 年金利は 3% に落ち着き、借入は 5 年ほどで 3.3% へ借り換わる。年の利払いは今の約 33 億円から 166 億円へ増える。賃料は年 2% で上がるが、新築の供給で稼働は 97.5% へ少し下がる。経費は物価並みの 3% で増え、NOI は 10 年で 1 割強しか伸びない。
減価償却は昔の取得原価のままなので、会計の利益は利払いの増加ほどは減らない。それでも純利益は今の 6 割ほどに細り、分配も同じだけ減る。修繕の費用は建築費とともに今の 1.3 倍に膨らむ。
ビルの利回りは 4.4% に上がり、ビルの価値は今の鑑定より 2 割以上低い。負債は減らないので、投資主の取り分は今の値段の 4 割ほどになる。NAV 割れで増資はできず、規模は据え置きだ。
- オフィスビルの賃貸:数量 10,589(稼働している物件の規模(帳簿価額=取得原価 × 稼働率、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 8.4%(稼働した規模に対する賃料などの収入の比(今 6.9%)。物価の転嫁で伸びる)→ 売上 885 億円・営業利益 390 億円。稼働 98%・賃料 年 +2.0%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 535 − 資本的支出 140) ÷ キャップ 4.40% − 純負債 5400 = 3583 億円。キャップは都心の大型 4.25% と都心以外の 4.75% を物件の比(約 7 対 3)で加重した 4.4%。今の鑑定の利回り 3.4% より高い。
確率:前提どおり 10 年金利が 3% に落ち着き、賃料は物価の 3 分の 2 で上がる筋書き。最もありうるので 37%。
やや悲観 23% 供給過多で賃料が伸びず、利回りが上がる 利益 72 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 13,043 円950 億円
大型の新築ビルが続き、テナントは新しいビルへ移る。古いビルは賃料を下げて埋めることになり、平均の賃料は年 1% しか上がらない。稼働は 95% へ落ちる。経費は物価で増え、NOI は今より 1 割減る。
借入は 3.5% へ借り換わり、純利益は今の 3 割を切る。分配は大きく減る。ビルの利回りは 4.65% へ上がり、ビルの価値は今の鑑定の 6 割台に下がる。札幌の新築ビルは満室にならず、利回りが低いまま残る。投資主の取り分は今の値段の 2 割ほどになる。
スポンサーの三菱地所が物件を引き取る支えはありうるが、その値段が投資主に有利とは限らない。
- オフィスビルの賃貸:数量 10,317(稼働している物件の規模(帳簿価額=取得原価 × 稼働率、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 7.6%(稼働した規模に対する賃料などの収入の比(今 6.9%)。物価の転嫁で伸びる)→ 売上 781 億円・営業利益 289 億円。稼働 95%・賃料 年 +1.0%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 432 − 資本的支出 135) ÷ キャップ 4.65% − 純負債 5430 = 950 億円。キャップは中立 +0.25%。
確率:2027 年以降の大型供給と在宅の定着で賃料が伸びない筋書き。オフィスの循環から十分ありうるので 23%。
悲観 15% 金利の上振れと不況が重なり、物件の価値が負債を下回る 利益 −20 億円 · PBR 0.0 倍 · 株価時価総額 2,197 円160 億円
金利は 3% を超えて上がり、不動産の売りが重なる。借り換えの金利は 4.2% に上がり、利払いは今の 6 倍になる。不況で企業は床を減らし、稼働は 92%、賃料は 10 年たっても今と同じ名目にとどまる。経費を年 2% に抑えても、NOI は 2 割減る。
純利益は赤字になり、分配は止まる。配らずに残した現金で借入を少しずつ返す。ビルの利回りは 5% へ上がり、物件の価値は負債を下回る。投資主に残るのは、市況が戻れば取り戻せる見込みの分だけだ。清算されない限り、ビルを売って NAV を受け取ることはできない。
- オフィスビルの賃貸:数量 9,991(稼働している物件の規模(帳簿価額=取得原価 × 稼働率、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 6.9%(稼働した規模に対する賃料などの収入の比(今 6.9%)。物価の転嫁で伸びる)→ 売上 685 億円・営業利益 228 億円。稼働 92%・賃料 年 +0.0%・経費 年 2.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 368 − 資本的支出 120) ÷ キャップ 5.00% − 純負債 5250 は負になり、物件の価値が負債を下回る。時価総額は再建の見込みの分として 160 億円(今の自己資本の約 3%)。NAV は床にしない。
確率:リーマン級の不況と金利の上振れが重なる筋書き。借入の重さと、NAV 割れ増資の実績(スポンサーの点数 3 以上)で 15% と厚めに置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
オフィスビルの賃貸
東京都心を中心とする 77 棟のオフィスビルを企業に貸す。
| 数量稼働している物件の規模(帳簿価額=取得原価 × 稼働率、億円。今の値段の実質の規模) | 価格稼働した規模に対する賃料などの収入の比(今 6.9%)。物価の転嫁で伸びる | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 10,741 | 6.9% | 736 | 350 |
| 10 年後 中立 | 10,589 | 8.4% | 885 | 390 |
取り方:2026 年 3 月期の半期の賃貸事業収益 368 億円を 2 倍して年額 736 億円。帳簿価額 10,860 億円(3 月末の簿価に 4 月以降の入れ替えを足し引き)× 期末の稼働 98.9% で数量、収入 ÷ 数量で価格。セグメントの利益は NOI 476 億円から減価償却 126 億円を引いた額。中立の価格が 1.22 倍で物価の 1.34 倍に届かないのは、オフィスの賃料が契約の更新ごとに遅れて上がり、物価の 3 分の 2 しか転嫁しないと見るため(業種ノート)。
リスクと懸念
借り換えの金利
平均 0.82% の借入が 3% 台前半へ借り換わると、年の利払いは 130 億円以上増える。今の年の利益の 4 割強だ。固定金利の比率は 78% で、残りの期間は約 5 年。変動の分は先に効く。
ビルの利回りの上昇
鑑定の利回りは 3.4% で、10 年国債 3% の世界では保てない。利回りが 1 ポイント上がるとビルの価値は 2 割台半ば下がり、借入があるので投資主の取り分はその倍近く減る。
NAV 割れの増資
2023 年と 2026 年の公募はどちらも NAV を 1 割ほど下回る値段だった。今の値段も NAV を下回る。規模を追う運用が続けば、1 口の価値が削られる。
大型ビルの供給
2027 年以降も都心の大型ビルの新築が続く。テナントは新しいビルへ移り、古いビルは賃料を下げて埋めることになる。札幌の新築ビルは稼働の立ち上げの途中だ。
修繕の費用
建築費は物価より速く上がる。足元の資本的支出はすでに NOI の 2 割に達し、10 年で 3 割以上増える。減価償却の現金の多くを食い、足りなければ借入が増える。
売却益の一度きりの性格
赤坂パークビルなどの売却益は 3 年ほど分配を押し上げるが、一度きりだ。売った物件の賃料は消え、買い替えの利回りは 3% 台前半と低い。
今後の分かれ目
- 10 年金利が 2% 前後で止まる
- ビルの利回りの上昇は小さく、借り換えの金利も 2.5% 前後にとどまる。中立よりやや楽観に近づき、割高の度合いは縮む。
- 都心の空室が 2% を切り、賃料が年 3% 以上で上がる
- 契約賃料と市場賃料の差が埋まり、NOI の伸びが利払いの増加を上回る。楽観の筋書きに近づく。
- NAV 割れのまま公募増資を行う
- 1 口の価値が薄まる。スポンサーの点数を上げ、悲観の確率を上げる。
- 自己投資口の取得や借入の返済に動く
- 金利の上昇への耐性が増し、資本の使い方の評価を上げる。
- 格付けが AA 級を下回る
- 借り換えの上乗せが増え、やや悲観に近づく。
見ておくもの
- 平均調達金利と固定金利の比率
- 都心 5 区の空室率と新規の賃料
- 継続鑑定の利回り(キャップレート)
- 公募増資の値段と 1 口 NAV
- 資本的支出の額
- 札幌の 2 棟の稼働
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の値段や過去の値段から置いていない。10 年後の時価総額は、NOI から資本的支出を引いた額をキャップレートで割り、負債を引いて出した。キャップは 10 年金利 3% に用途の上乗せを足した業種ノートの表を、都心とそれ以外の比で加重したもので、今の鑑定の利回りより高い。NAV 割れを割安の根拠にしていない。今の値段が倍でも半分でも、価値の数字は動かない。
資本コスト 8.7% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k は基本 7.5% に quality +1.18% を足した 8.68%。事業は傾いていないので extra は置かない。