結論
ジャパン・ホテル・リート投資法人は、全国 52 のホテルを取得価格で 6,481 億円持つホテル特化の J-REIT だ。2026 年 3 月に東京のハイアット リージェンシー 東京を 1,260 億円で買い、規模を広げた。筆者の結論は、今の値段は割高ということである。価値の計算は今の時価総額を 36% 下回る。
強みは、ホテルの稼ぐ力と財務の格上げだ。変動賃料を入れた 29 ホテルの 1 室当たり宿泊売上は 2026 年上期に前年比 4.9% 伸びた。含み益は 2,556 億円と簿価の 39% あり、格付けは JCR が AA−、R&I が A+ に上がった。
弱みは三つある。賃料の半分強が変動で、訪日客と物価の動きがそのまま収入に出る。借入は 3,343 億円で、平均の利率は 1.9%。借り換えが進むと利払いが今の 2 倍に膨らむ。スポンサーの出資は 1% に届かず、増資は 3 回とも NAV を下回る値段で行われた。
鑑定の NCF 利回りは 3.8% と低い。10 年国債が 3% の世界でホテルの期待キャップは 5.0% に上がり、物件の価値は鑑定を 2 割ほど下回る。ホテルは景気と訪日客の振れが大きく、悲観側を厚く置いた。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の目で見ると、ホテルは稼ぐ力が景気と訪日客に左右される事業だ。安全域は、値段が収入の波を十分に織り込んでいるかで決まる。今の値段は、波が来ない前提に近い。
継続して出せる分配は年に 283 億円ほどで、今の時価総額に対し 5.8% の利回りになる。これは、平均の利率が 1.9% の借入で支えられている。借入が 10 年かけて 3.6% 前後へ借り換わると、年の利払いは 63 億円から 134 億円に増える。ホテルの賃料が年 2% で伸びても、純利益は今の 4 割増えず、むしろ 5% ほど減る。
NAV は物件の鑑定が高い今の姿で、清算されない限り投資主の手には入らない。今の値段は NAV の 8 割台だが、筆者は割安の根拠にしない。
10 年の分配と、10 年後の物件の価値を今に引き直すと、今の値段を 3 割以上下回る。ホテルの稼ぎが波打つ事業では、値段が 4 割ほど下がって初めて、買う理由が生まれる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、ホテルの賃料だ。投資法人はホテルの建物を持ち、運営する賃借人や運営会社から賃料を受け取る。2026 年 12 月期の通期予想は、売却益を除く営業収益が 510 億円、NOI は 456 億円になる。簿価 6,520 億円に対する NOI の利回りは 7.0% だ。
物件は 52 あり、東京・大阪・福岡・札幌・沖縄などの都市型ホテルとリゾートに広がる。ヒルトンやハイアット、オリエンタルホテルなどのブランドが多く、ホテルの 7 割強を占める。2026 年は、都心の大型ホテルのハイアット リージェンシー 東京を取得し、沖縄のザ・ビーチタワーを売って、大阪のカンデオホテルズを加えた。
賃料の仕組みが大事だ。固定の賃料に、ホテルの営業利益(GOP)に連動する変動賃料を足す形が中心で、変動賃料を含む 2026 年の収入は営業収益の 54% に当たる。残る固定賃料は 46% にとどまる。ホテルが儲かれば賃料が増え、客が減れば賃料も減る。
1 室当たり宿泊売上(RevPAR)は 2026 年上期に前年比 4.9% 伸びた。ただし大阪は、中国政府の渡航自粛と万博の反動で前年を割った。年の資本的支出は 130 億円の予定で、ヒルトン東京ベイの大規模改装が 2027 年末まで続く。
優良さと弱いところ
物件の質は、都市型とリゾートが混ざる。ハイアット リージェンシー 東京、ヒルトン東京ベイ、ヒルトン福岡シーホークなど、立地の強い大型ホテルが柱だ。一方、築 20 年を超える物件や、沖縄・地方のリゾートも多く、改装の費用がかさむ。
強みは三つある。一つめは、含み益が 2,556 億円と厚く、時価の借入比率が 34.5% と低いこと。二つめは、改装やリブランドで賃料を引き上げる実績があり、取得した 6 物件の 2026 年の NOI 利回りは取得時の 4〜5% から 6〜13% に上がったこと。三つめは、格付けが 2026 年 5 月に 1 段階ずつ上がったことだ。
弱みも三つある。ひとつは、賃料の半分強が変動で、訪日客が減れば収入がすぐ減ること。ふたつめは、借入の 21% が 2027 年までに満期を迎え、平均の利率は 1.9% から 2% 台へ上がる途中にあること。みっつめは、資本的支出が減価償却の 1.6 倍で、現金が出ていくことだ。
2026 年上期は、中国からの訪日客が大きく減るなかで大阪の稼ぎが落ちた。1 つの国に頼る怖さの実例だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ホテルは、訪日客と国内の宿泊の両方で稼ぐ。2026 年上期の訪日客は前年比 2.0% 減、国内の延べ宿泊者は 4.4% 減だった。それでも客室単価が上がり、投資法人の保有ホテルは増収を保った。宿泊は値段を毎日つけ替えられるので、物価の上昇には強い。
一方で、需要の振れは大きい。賃料の半分強が変動で、ホテルの売上が 3 割落ちると、固定費が重いので GOP は 6〜7 割落ち、変動賃料はほぼ消える。業種の表では、ホテルの NOI は名目年 2.25% で伸び、期待キャップは 5.0%、下限は 4.0%。悲観では 1 室当たり売上が 3 割落ちる前提を置く。
今の鑑定の NCF 利回りは 3.8% と低く、10 年国債が 3% の世界の 5.0% まで上がると、物件の価値が大きく動く。中立は表どおり 5.0% を置く。
新しい客室の供給と、人手不足による運営コストの上昇も、中期の重しになる。
都心の大型フルサービスと、都市型のリミテッドサービスでは稼ぎ方が違う。前者は料飲やイベントを含めた単価で稼ぎ、後者は稼働と省人化で稼ぐ。投資法人は両方を持ち、景気の局面で効き方が分かれる。
資本政策と M&A
資本政策は、公募増資と借入で物件を買い増す成長路線だ。直近 5 年の増資は 2023 年 9 月、2024 年 7 月、2026 年 3 月の 3 回で、発行価格は順に前回より 5%、4.7% 高く、いずれも NAV を下回る水準だった。2026 年 3 月の公募は 618 億円で、直前の NAV の 9 割に届かない値段だった。
借入は 3,343 億円で、時価の借入比率は 34.5%、総資産では 48.5%。固定金利の比率は 78.5%、平均の残りは 3.4 年だ。2026 年のハイアット取得で 650 億円を新たに借りた。2027 年に 542 億円、2028 年に 551 億円の満期が来る。
報酬は、資産運用会社が運用報酬と取得報酬を受け取る。2025 年の運用報酬は 25 億円で、取得時の報酬 4.8 億円は物件の取得価額に足された。2026 年上期の運用報酬は NOI の 6.9%。
分配は、売却益や負ののれんも使う。2026 年の予想分配には売却益が入り、継続して出せる水準は 2 割ほど低い。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
訪日客の需要は構造的に伸びる。国内のホテル価格は海外の大都市より安く、客室単価はまだ上がる。2026 年上期の 1 室当たり売上は前年比 4.9%、GOP は 5.6% 伸びた。
含み益は 2,556 億円と簿価の 39%、時価の借入比率は 34.5% と低い。格付けは 2026 年 5 月に 1 段階ずつ上がり、借り換えの金利を抑えられる。ハイアット リージェンシー 東京は、取得価格より鑑定が 3 割高い。
改装やリブランドで賃料を上げる力もある。取得した 6 物件の NOI 利回りは取得時の 4〜5% から 6〜13% に上がった。ホテルの客室単価は日々つけ替えられ、物価が上がっても賃料が追いつける。
今の値段は NAV の 8 割台と、強みの割に安い。
借入は 4〜6 年の長めの期間に分散され、ホテルの稼ぎが戻れば借り換えの利払いも吸収しやすい。
分配の水準は、売却益や負ののれんを除いても今の時価総額に対し 5.8% と高い。ホテルの稼ぎが戻れば、増配の余地がある。
慎重な見方
賃料の半分強が変動で、需要が落ちると収入が早く減る。2026 年上期は、中国の渡航自粛で大阪の 1 室当たり売上が前年を割った。訪日客は全体で 2% 減だった。
借入は 3,343 億円で、平均の利率は 1.9% と低い。10 年国債が 3% の世界では 3.6% 前後へ借り換わり、利払いは今の 2 倍になる。2027 年と 2028 年に 1,000 億円近くが満期を迎える。
鑑定の NCF 利回りは 3.8% と低く、期待キャップ 5.0% まで上がると、物件の価値は鑑定を 2 割ほど下回る。資本的支出は減価償却の 1.6 倍で、改装の費用が重い。
スポンサーの出資は 1% に届かず、増資は 3 回とも NAV を下回る値段だった。
運営コストの上昇も重い。人手不足でホテルの人件費が上がると、GOP が先に削られ、変動賃料から先に減っていく。
2026 年の予想分配には売却益が入り、継続して出せる水準は 2 割ほど低い。見かけの分配に釣られると、買ったあとの減配で値段が下がる恐れがある。
どちらに重みを置いたか
訪日客と改装の力は本物で、強気の言い分には根拠がある。ただ、変動賃料の振れの大きさ、借り換えによる利払いの倍増、低すぎる鑑定の利回りが重い。中立は今の値段を 3 割以上下回った。スポンサーの点数は 3.0 で、悲観の確率を 5 ポイント上げた。ホテルは景気の波が大きいので、悲観側を厚く置いた。筆者は、強みは値段に入っているが、金利と需要の波は入っていないと見る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/12 期)
確率で加重した株価時価総額 61,653 円3,640 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 43,000 円2,539 億円)。 今の値に割り戻すと 53,624 円3,166 億円、今との差 −35.4%、 期待の年率 +2.3%(資本コスト 9.1%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 145,562 円8,594 億円 | 53,896 円3,182 億円 | +140.3% | +9.2% | 19,946 円1,178 億円 |
| やや楽観 | 22% | 88,635 円5,233 億円 | 50,237 円2,966 億円 | +67.3% | +5.3% | 30,552 円1,804 億円 |
| 中立 | 33% | 67,717 円3,998 億円 | 46,680 円2,756 億円 | +37.8% | +3.3% | 37,751 円2,229 億円 |
| やや悲観 | 20% | 23,459 円1,385 億円 | 35,671 円2,106 億円 | −28.8% | −3.3% | 11,826 円698 億円 |
| 悲観 | 15% | 3,726 円220 億円 | 26,795 円1,582 億円 | −63.2% | −9.5% | 4,578 円270 億円 |
| 加重平均 | 100% | 61,653 円3,640 億円 | 43,000 円2,539 億円 | +26.1% | +2.3% | 104,653 円6,179 億円 |
今の株価時価総額 83,000 円4,900 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.1% を下回るほど割高。
楽観 10% 訪日客が伸び、賃料が年 3% で増える 利益 353 億円 · PBR 2.5 倍 · 株価時価総額 145,562 円8,594 億円
訪日客は 2030 年に向けて伸び、国内の旅行単価も上がる。客室単価の上昇が続き、変動賃料を含む賃料は年 3% で伸びる。大規模改装の効果で、ヒルトン東京ベイなどの稼ぎが上がる。
借り換えは 3.3% で済み、利払いは年 124 億円と今の 2 倍になる。それでも NOI は 456 億円から 612 億円へ 34% 増え、純利益は 353 億円に伸びる。
不動産の買い手は今の利回りで買い続け、物件の利回り(キャップ)は今の鑑定の 3.79% のまま変わらない。時価総額は 8,594 億円と今の 1.8 倍になる。借入が 3 割台と低く、価値の上昇は投資主の取り分に効く。
増資は NAV を上回る値段で行われ、希薄化は小さい。
- ホテルの賃貸:数量 6,520(稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働の係数、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 10.5%(規模に対する賃料収入の比(今 7.8%)。客室単価の伸びと変動賃料の増減を合わせた値)→ 売上 686 億円・営業利益 515 億円。稼働 100%・賃料 年 +3.0%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 612 − 資本的支出 146) ÷ キャップ 3.79% − 純負債 3709 = 8594 億円。キャップは今の鑑定の NCF 利回り((NOI − 資本的支出) ÷ 鑑定評価額)の 3.79% で、今の値付けが 10 年続く所(ホテルの下限 4% より低い。楽観だけはここまで下げてよい)。
確率:訪日客と客室単価の上昇が続き、変動賃料が年 3% 伸びる筋書き。ホテルは景気の振れが大きいので 10% とした。
やや楽観 22% 賃料は年 2.5% で伸び、借り換えは 3.45% 利益 310 億円 · PBR 1.5 倍 · 株価時価総額 88,635 円5,233 億円
訪日客はアジアを中心に伸び、中国の渡航自粛も解ける。賃料は年 2.5% で伸び、稼働の係数は 0.99 になる。借り換えは 3.45% で済み、年の利払いは 129 億円になる。
NOI は 573 億円と 26% 増え、純利益は 310 億円と今を 1 割上回る。資本的支出は年 148 億円と今の 1.3 倍に増える。
物件の利回りは 4.75% に上がる。物件の価値は鑑定をやや下回る水準にとどまる。
改装の費用は借入で賄い、純負債は 3,719 億円に増える。
ただし、賃料の伸びは物価の 3% に届かず、実質の収益は緩やかに目減りする。
- ホテルの賃貸:数量 6,455(稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働の係数、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 10.0%(規模に対する賃料収入の比(今 7.8%)。客室単価の伸びと変動賃料の増減を合わせた値)→ 売上 647 億円・営業利益 476 億円。稼働 99%・賃料 年 +2.5%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 573 − 資本的支出 148) ÷ キャップ 4.75% − 純負債 3719 = 5233 億円。キャップは中立 5.0% より 0.25% 低い 4.75% (賃料の伸びが強い筋書き)。
確率:中立より訪日客の伸びが良く、キャップの上昇が小さい筋書き。22% とした。
中立 33% 賃料は物価に負け、利払いが 2 倍になる 利益 268 億円 · PBR 1.2 倍 · 株価時価総額 67,717 円3,998 億円
10 年金利は 3% に落ち着き、借入は 4 年ほどで 3.6% へ借り換わる。年の利払いは今の 63 億円から 134 億円へ増える。賃料は年 2.0% で伸び、稼働の係数は 0.98 に落ちる。
経費は物価並みの年 3% で増え、NOI は 456 億円から 536 億円へ 18% 増える。それでも利払いの増加を吸収しきれず、純利益は今の 280 億円から 268 億円へ 4% 減る。
物件の利回りは 5.0% に上がり、物件の価値は鑑定を 2 割ほど下回る。資本的支出は年 150 億円と減価償却の 1.5 倍で、足りない分は借入で賄う。
増資は、投資口が NAV に近づくまで控える見通しだ。
- ホテルの賃貸:数量 6,390(稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働の係数、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 9.5%(規模に対する賃料収入の比(今 7.8%)。客室単価の伸びと変動賃料の増減を合わせた値)→ 売上 610 億円・営業利益 438 億円。稼働 98%・賃料 年 +2.0%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 536 − 資本的支出 150) ÷ キャップ 5.00% − 純負債 3724 = 3998 億円。キャップはホテルの表 5.0% (要求利回り 7.25% − NOI の伸び 2.25%)。今の鑑定の NCF 利回り 3.8% より高い。
確率:前提どおり 10 年金利が 3% に落ち着き、賃料は年 2.0% で伸びる筋書き。最もありうるので 33%(スポンサーの点数 3.0 で悲観に 5 ポイント回した)。
やや悲観 20% 訪日客が頭打ちになり、金利が高めに落ち着く 利益 138 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 23,459 円1,385 億円
金利は高めに落ち着き、借り換えは 3.9% になる。訪日客の伸びは止まり、客室の新規供給も重なり、賃料は 10 年で今と同じ水準にとどまる。稼働の係数は 0.95 に落ちる。
変動賃料は縮み、NOI は 411 億円と今の 1 割減。年の利払いは 144 億円で、純利益は 138 億円と今の半分になる。資本的支出は年 140 億円に抑える。
物件の利回りは 5.35% に上がる。物件の価値から借入を引くと、投資主の取り分は今の自己資本の 4 割に縮む。
スポンサーの出資は 1% に届かず、増資で希薄化が進む恐れがある。
- ホテルの賃貸:数量 6,194(稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働の係数、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 7.8%(規模に対する賃料収入の比(今 7.8%)。客室単価の伸びと変動賃料の増減を合わせた値)→ 売上 485 億円・営業利益 315 億円。稼働 95%・賃料 年 +0.0%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 411 − 資本的支出 140) ÷ キャップ 5.35% − 純負債 3684 = 1385 億円。キャップは中立 +0.35%。変動賃料の縮みと利払いの増加で、物件の価値から借入を引いた額が大きく縮む。
確率:訪日客の伸びが止まり、新規供給が重なり、金利が高めに落ち着く筋書き。20% とした。
悲観 15% 訪日客の落ち込みと金利の上振れ 利益 33 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 3,726 円220 億円
不況や地政学のリスクで訪日客が落ち込み、1 室当たり売上が 10 年後に今より 2 割ほど低い水準になる。固定費が重く、GOP は大きく減り、変動賃料はほぼ消える。賃料は年 2% ずつ縮み、稼働の係数も 0.93 に落ちる。
金利は 3% を超えて上がり、借り換えは 4.4% になる。年の利払いは 161 億円で、NOI は 314 億円と今の 3 割減。純利益は 33 億円まで細り、分配は大きく下がる。資本的支出は 100 億円に絞る。
物件の利回りは 5.75% に上がり、物件の価値は鑑定の 4 割ほどに縮む。投資主の取り分は今の自己資本の 6% ほどしか残らない。
清算されない限り、物件を売って NAV を受け取ることはできない。
- ホテルの賃貸:数量 6,064(稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働の係数、億円。今の値段の実質の規模))× 価格 6.4%(規模に対する賃料収入の比(今 7.8%)。客室単価の伸びと変動賃料の増減を合わせた値)→ 売上 388 億円・営業利益 222 億円。稼働 93%・賃料 年 -2.0%・経費 年 3.0%
倍率:PBR は物件の価値から負債を引いた額を自己資本で割った値。(NOI 314 − 資本的支出 100) ÷ キャップ 5.75% − 純負債 3504 = 220 億円。キャップは中立 +0.75%。NAV は床にしない(清算されない限り投資主は受け取れない)。
確率:スポンサーの点数が 3.0 なので、悲観の確率を基本の 10% から 5 ポイント上げて 15%。ホテルは景気と訪日客の振れが最も大きい。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ホテルの賃貸
全国 52 のホテルを、固定賃料と変動賃料(ホテルの GOP に連動)の組み合わせで、賃借人や運営会社に貸す。
| 数量稼働している物件の規模(帳簿価額 × 稼働の係数、億円。今の値段の実質の規模) | 価格規模に対する賃料収入の比(今 7.8%)。客室単価の伸びと変動賃料の増減を合わせた値 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/12 | 6,520 | 7.8% | 511 | 377 |
| 10 年後 中立 | 6,390 | 9.5% | 610 | 438 |
取り方:2026 年 12 月期の通期予想(売却益を除く)の営業収益 510.5 億円を数量・価格に分けた。簿価 6,520 億円 × 係数 1.00 が数量、収入 ÷ 数量が価格。NOI は収入から償却を除く不動産費用を引いて年 455.6 億円、セグメントの利益は減価償却 78.6 億円を引いた額。中立の価格は 10 年で 1.22 倍にとどまり、物価の 1.34 倍に届かないのは、固定賃料が 46% あり、変動賃料も新規供給と稼働の正常化で伸びが鈍るため(業種ノート)。今の半期 × 2 ではハイアットの取得が 3 月で半年分入らないため、通期予想を使った。
リスクと懸念
変動賃料の振れ
賃料の 54% が変動。訪日客が減ると 1 室当たり売上が落ち、固定費の重さで GOP は倍の率で落ち、変動賃料がほぼ消える。2026 年上期は大阪が前年を割った。
借り換えによる利払いの増加
平均の利率は 1.9%。3.6% 前後へ上がると年の利払いは 63 億円から 134 億円まで増える。2027 年に 542 億円、2028 年に 551 億円の満期が来る。日銀が 1 年に 1% 上げると分配は大きく削られる。
鑑定の利回りの低さと金利
今の鑑定の NCF 利回りは 3.8%。10 年国債が 3% の世界では 5.0% まで上がり、物件の価値が鑑定を 2 割ほど下回る。含み益 2,556 億円が消える恐れがある。
資本的支出の重さ
2026 年の資本的支出は 130 億円で、減価償却の 1.6 倍。ヒルトン東京ベイは 2027 年末まで大規模改装で、改装中は変動賃料が減る。借入で賄うと利払いが増える。
増資による希薄化
5 年で 3 回の増資、すべて NAV の 9 割前後の値段。スポンサーの出資は 1% に届かず、同じ船の度合いが小さい。
大型物件と地域への集中
ハイアット リージェンシー 東京 1 件で取得価格の 2 割を占める。大阪・沖縄・福岡など、訪日客の動きに左右される地域が多い。
今後の分かれ目
- 訪日客と客室単価が伸び、1 室当たり売上が年 4% 前後で続く
- 賃料の伸びが上に振れ、中立と楽観の確率を上げる。今の値段は割高から適正に近づく。
- 10 年金利が 2% 前後で止まり、借り換えが 2% 台で済む
- 利払いの増加もキャップの上昇も小さく、価値は上に振れる。今の値段はやや割高に近づく。
- 中国の渡航自粛が長引き、大阪・関西の売上が落ち込む
- 変動賃料が減り、悲観側の確率を上げる。
- NAV 割れで公募増資を行う
- 1 口の価値が薄まる。スポンサーの点数を上げ、悲観の確率を上げる。
- スポンサーが投資口の買い増しや自己投資口の取得を行う
- 同じ船の度合いが上がり、スポンサーの点数が下がる。
見ておくもの
- 1 室当たり宿泊売上と稼働率(月次・半期)
- 変動賃料の割合と、改装中のホテルの売止め
- 借り換えの金利と満期の分散
- 鑑定の利回りの推移
- スポンサーの出資比率と増資の値段
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の値段や過去の値段から置いていない。10 年後の時価総額は、NOI から資本的支出を引いた額をキャップレートで割り、負債を引いて出した。キャップはホテルの業種ノートの表(5.0%)で、今の鑑定の NCF 利回り 3.8% より高い。NAV 割れを割安の根拠にしていない。今の値段が倍でも半分でも、価値の数字は動かない。
資本コスト 9.1% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k は基本 7.5% に quality +1.60% を足した 9.10%。ホテルの景気の振れは cycle に入れたので extra は置かない。