結論
ダイハツインフィニアースは、船の中で電気を起こすディーゼルエンジンを造る会社だ。旧社名はダイハツディーゼルで、2025年に名前を改めた。大型の外航船に積む発電用エンジンでは、国内で約5割、世界で約4分の1のシェアを持つ。
筆者の結論は「やや割高」だ。会社が悪いのではない。いまの利益が、造船ブームの受注を刈り取っている途中の高い水準にあるからだ。10年先の中立の利益は、会社の中期目標を少し下回ると見る。
この会社のいちばん太い柱は、エンジンを売ったあとに続く保守だ。搭載船は約9,000隻あり、部品と修理の売上は連結の約半分を占める。景気の波を和らげ、利益の底を支えている。
追い風も大きい。受注残は約1,135億円と1年前より5割増え、2026年に動き出した姫路の新工場がそれを刈り取る。新しい燃料に対応するエンジンの商用化も近い。ただ、エンジン本体は新造船の発注に遅れて動く。造船の好況が去れば、数量は減る。
資本の動きは前向きだ。2025年にダイハツ工業が株を手放し、会社が自社株を買い取った。そのぶん純現金は薄くなったが、配当は利益の3割を目安に増える。それでも、10年後の価値は、いまの値段を1割半ほど下回ると見る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「悪くない事業を、少し高い値段で買う」形になる。
良い点は、保守の売上が積み上がることだ。エンジンを一度船に載せれば、20年以上、部品と修理が続く。株主が自由に使える利益、つまりオーナー利益は、この保守のおかげで、造船の山谷よりずっと安定する。
悪い点は、利益の質が一様でないことだ。エンジン本体は受注の波が大きく、新燃料の開発費と姫路の減価償却がかさむ。配当を利益の3割とするなら、残りの7割は設備と開発に回る。そのお金が資本コストを超えて稼ぐかどうかが、価値を分ける。
資本配分の評価は分かれる。ダイハツ工業の持株を市場より安い値段で買い取った判断は、残った株主に得になった。ただ、純現金はほぼ消え、これからの設備投資は借入が頼りになる。
安全域は、いまの値段にはほとんどない。バリュー投資家は、利益が山にある時に高い倍率を払うことを避ける。値段は山の利益ではなく、10年の平均的な利益で見るべきだ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は3つある。エンジン本体、保守と部品、陸上用のエンジンだ。
エンジン本体の中心は、船の電気をまかなう補機関である。船を動かす主機関ではなく、荷役、冷暖房、制御などに使う電気を作る。舶用エンジンの売上の95%がこの補機関で、主機関は5%にとどまる。買い手は造船所で、取引先は約70社ある。船主が機種を指定することも多い。
保守と部品は、エンジンが船に載ったあと、何十年も続く売上だ。相手は約100社を超える船主である。搭載船の稼働が上がるほど、部品と修理が売れる。連結売上の約46%がここから来て、15年前の2倍近くに育った。
陸上用は、離島の発電、ビルや病院の非常用電源、ポンプの駆動に使われる。データセンターの非常用電源にも納めている。売上の1割強で小さいが、数量は読みやすい。
生産は、滋賀県の守山工場と、2026年2月に動き出した兵庫県の姫路工場で行う。姫路は海に面し、大型機関を完成品のまま船で運べる。守山は中小型機関に回す。群馬では、燃料噴射装置の新工場も建てている。
数量は、造船所が船を造るペースで決まる。値段は、機種の大きさと、使う燃料の種類で決まる。重油だけで動くエンジンより、複数の燃料に対応するデュアルフューエル機関のほうが、単価は高い。
優良さと弱いところ
優良さは「堅実だが、堀は中くらい」と評価する。堀とは、他社がまねできない強みのことだ。
強みはまず、市場での位置だ。大型の外航船の補機関で、国内シェアは約5割ある。船主約100社と造船所約70社に顧客が広がり、特定の客に頼らない。
次に、搭載船約9,000隻という基盤が効く。部品と修理は、エンジンを造った会社が最も速く、確実に出せる。他社の部品に替えると、保証や性能の面で手間がかかる。これが堀の中身だ。
一方で、新しいエンジンを売る市場では、堀は浅い。世界シェアは約4分の1で、韓国のHD現代重工のHiMSENやヤンマーと競る。造船所は価格と納期で選ぶ面が強い。
利益率の数字には注意が要る。営業利益率は過去10年で2〜9%の間を動き、直近の8.6%は高いほうだ。ROEも12%と、過去10年の中央値の2倍ある。
経営は資本の動かし方に前向きだ。ダイハツ工業の持株を買い取り、持ち合いを解き、ROEの目標を公表した。姫路への投資も、能力と効率の両方を狙っている。この点で優良さは一段上がったと見る。ただし、売上の半分は新造船の波を受ける。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
需要の出どころは、世界の海上輸送と新造船の発注だ。海上の荷動きは増え続け、世界の船腹量は2015年以降、年3%ほどのペースで増えた。船が増えれば、エンジンも保守も増える。
短い波もある。エンジン本体は、造船所が船を造るタイミングで売れる。発注が減れば、1〜2年遅れて数量が落ちる。2025年の新造船の発注は前年より約2割減ったが、造船所の手持ち工事は厚く、会社のエンジン受注残は過去最高の水準にある。
環境規制が、需要の中身を変えている。国際海事機関の脱炭素規制が強まり、重油だけで動くエンジンから、液化天然ガス、メタノール、アンモニアに対応するエンジンへ移る。会社のデュアルフューエル機関は、受注残の比率が1年で9%から25%に上がった。単価が高く、利益も取りやすい。
競争では、HD現代重工のHiMSENが同じ分野を狙う。エタノール運転にも成功し、技術の差は小さい。国内にはヤンマーなどがいる。中国は、ライセンスで作る台数が多い。会社の世界シェア約25%には、この中国ライセンス機関が入る点に注意が要る。
国内造船は、今治造船を軸に再編が進む。今治造船は低速エンジンの日立造船マリンエンジンに続き、2025年に会社にも出資した。造船所と機関メーカーの結びつきが強まる流れだ。
資本政策と M&A
資本政策は、2025年に大きく変わった。筆頭株主だったダイハツ工業が、持株の約35%を全部手放した。今治造船が約15%を取得し、会社自身が約20%を自己株の公開買付けで買い取った。
買い取りの値段は、市場の株価より約1割安い。支出は約110億円で、純現金は2024年3月期の約170億円から、約16億円まで減った。買い取った自己株のうち450万株は、2026年5月に消却した。
配当は、連結配当性向30%を目安とし、「減配回避・増配基調」を掲げる。2027年3月期の配当は、増益を受けて期初の計画から引き上げた。自社株買いの予定は示されていないが、資本配分には、新燃料対応、買収、還元を機動的に行う枠がある。
買収では、規律ある M&A で船内の電力システムなどに領域を広げる方針だ。具体的な案件はまだない。今治造船が筆頭株主となったので、造船所と組む提携や再編の話が出る可能性はあるが、確かめられる材料はない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
受注残は約1,135億円あり、エンジン本体の売上は少なくとも2年先まで見えている。姫路工場が動き、そこでの販売台数は今期の約2倍に広がる見込みだ。ここに新燃料のデュアルフューエルが乗れば、1台あたりの単価と利益が上がる。
保守は景気に強い。搭載船は約9,000隻、売上の約46%を占め、15年前の2倍近くに育った。船の稼働が高い間は、部品と修理は伸びる。しかも部品は、円安で価格競争力が上がる。
今治造船が株主に加わった意味も大きい。国内造船の最大手が、新燃料エンジンの開発で組む。採用を造船所が決める市場で、強い後ろ盾になる。メタノールは2027年、アンモニアは2028年の商用化を目指し、世界シェアの拡大を狙う。
財務に不安は小さい。買い取りで現金は減ったが、営業利益は支払利息の約50倍ある。会社は2031年3月期に、売上1,200億円と営業利益120億円を掲げる。これを達成し、その先も保守が伸びれば、10年後の利益は今の2倍を超える。陸上用も、データセンターの非常用電源が追い風になる。
慎重な見方
いまの利益は、造船ブームの山に近い。エンジン本体の台数は2026年3月期まで横ばいで、増収は姫路の大型機関という一点に頼る。2025年の新造船の発注は前年より約2割減った。受注残が厚い今は見えにくいが、2〜3年後に数量が落ちる。
新工場は固定費を重くする。姫路の減価償却と研究費が先に出て、台数が増えなければ利益を圧迫する。会社自身も、成長投資が利益を抑える局面だと書いている。
競争は厳しくなる。HD現代重工のHiMSENは、エタノール運転にも成功した。中国のライセンス生産も増え、会社の世界シェア約25%の中身は強くない。新燃料エンジンの商用化は2027〜2028年で、遅れれば造船所が離れる。
保守は強いが、無限には伸びない。いまの水準は、船の稼働が高く、円安が効いた分を含む。会社の期初の計画でも、来期のメンテナンス収益は減る前提だった。資本の面でも、現金が薄くなり、これからの投資は借入が頼りだ。
どちらに重みを置いたか
強気の言い分は、2〜3年の確かさに強い。受注残と姫路の稼働が、足元の利益を支える。慎重な言い分は、10年の波に強い。エンジン本体は造船の発注に遅れて動き、いまは山に近い。
保守が売上の半分近くを占めるので、構造的に負ける確率は1割にとどめた。やや悲観は2割台に置いた。楽観は新燃料が当たり保守も伸びる姿で1割、やや楽観は2割強とした。全体はほぼ拮抗するが、山の利益に高い倍率を払わない点で、わずかに慎重側へ寄せた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,684 円1,447 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,073 円273 億円)。 今の値に割り戻すと 3,505 円893 億円、今との差 +26.8%、 期待の年率 +9.4%(資本コスト 7.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 9,840 円2,506 億円 | 1,681 円428 億円 | +316.8% | +15.3% | 1,152 円293 億円 |
| やや楽観 | 22% | 8,149 円2,075 億円 | 1,367 円348 億円 | +244.3% | +13.2% | 2,094 円533 億円 |
| 中立 | 34% | 6,657 円1,695 億円 | 1,135 円289 億円 | +181.9% | +10.9% | 2,649 円675 億円 |
| やや悲観 | 24% | 2,276 円580 億円 | 750 円191 億円 | +9.5% | +0.9% | 726 円185 億円 |
| 悲観 | 10% | 970 円247 億円 | 385 円98 億円 | −51.0% | −6.9% | 135 円35 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,684 円1,447 億円 | 1,073 円273 億円 | +144.5% | +9.4% | 6,757 円1,721 億円 |
今の株価時価総額 2,764 円704 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 新燃料が当たり、保守も伸びる 利益 144 億円 · PER 17.3 倍 · 株価時価総額 9,840 円2,506 億円
新燃料が当たる。メタノールとアンモニアに対応するエンジンが主力になり、大型の外航船で採用が広がる。姫路工場はフル稼働に近づき、エンジン本体の販売は年950台まで伸びる。大型機関の比率が上がり、1台あたりの単価は10年で約1.6倍になる。
保守は搭載船の増加とともに伸びる。基盤は約1万1,500隻に増え、部品と修理の売上は今の1.7倍になる。陸上用は、データセンターの非常用電源が追い風になる。
営業利益率は11%台に上がる。会社の中期目標を、時間をかけて超える姿だ。それでも、新造船の波は消えない。配当は利益の4割まで増え、自社株買いも加わる。船内の電力を一括して提案する事業にも、一部で芽が出る。
- 船舶用エンジン本体:数量 950(年間の販売台数(台))× 価格 0.71(1台あたりの売上(億円・名目))→ 売上 679 億円・営業利益 61 億円。950 台 × 単価 0.7146(今の1.61倍)、営業利益率 9.0%
- 保守・部品(メンテナンス関連):数量 11,500(搭載船の隻数(隻))× 価格 0.06(1隻あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 694 億円・営業利益 166 億円。11500 隻 × 単価 0.0603(今の1.34倍)、営業利益率 24.0%
- 陸用エンジン本体:数量 100(年間の販売台数(台))× 価格 1.77(1台あたりの売上(億円・名目))→ 売上 177 億円・営業利益 18 億円。100 台 × 単価 1.7735(今の1.34倍)、営業利益率 10.0%
- その他(産業機器・不動産賃貸・売電・精密部品):数量 1.0(事業の規模(今の規模を1とした実質))× 価格 62(今の規模1あたりの売上(億円・名目))→ 売上 62 億円・営業利益 4 億円。1 規模 × 単価 59.8(今の1.30倍)、営業利益率 6.0%
倍率:事業の純利益 144 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.8% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.3 倍。全体の PER 17.33 倍、時価総額 2,494 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新燃料の採用、姫路のフル稼働、保守の伸びが重なる必要があり、1割とした。保守の基盤があるので、5%未満にはしない。
やや楽観 22% 新燃料の受注が順調に伸びる 利益 120 億円 · PER 16.7 倍 · 株価時価総額 8,149 円2,075 億円
新燃料エンジンの受注が順調に増え、姫路工場の稼働も高く保たれる。エンジン本体の販売は年870台まで伸び、大型機関の比率が上がって、単価は物価の伸びを上回る。
保守は搭載船の増加に沿って伸びる。基盤は約1万900隻に増え、売上は今の1.6倍になる。陸上用は、データセンターと離島の更新で緩やかに増える。
営業利益率は約11%に届く。会社が掲げる2031年3月期の10%を、その後も保つ姿だ。景気の谷は浅く、赤字の年は出ない。
配当は利益の37%まで上がる。ただ、造船の波と中国の攻勢は残る。強い年が続くわけではなく、平均で見て堅調な10年になる。
- 船舶用エンジン本体:数量 870(年間の販売台数(台))× 価格 0.68(1台あたりの売上(億円・名目))→ 売上 588 億円・営業利益 47 億円。870 台 × 単価 0.6755(今の1.52倍)、営業利益率 8.0%
- 保守・部品(メンテナンス関連):数量 10,900(搭載船の隻数(隻))× 価格 0.06(1隻あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 657 億円・営業利益 151 億円。10900 隻 × 単価 0.0594(今の1.32倍)、営業利益率 23.0%
- 陸用エンジン本体:数量 88.0(年間の販売台数(台))× 価格 1.77(1台あたりの売上(億円・名目))→ 売上 156 億円・営業利益 14 億円。88 台 × 単価 1.7735(今の1.34倍)、営業利益率 9.0%
- その他(産業機器・不動産賃貸・売電・精密部品):数量 1.0(事業の規模(今の規模を1とした実質))× 価格 62(今の規模1あたりの売上(億円・名目))→ 売上 62 億円・営業利益 3 億円。1 規模 × 単価 58.42(今の1.27倍)、営業利益率 5.5%
倍率:事業の純利益 120 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.8% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.7 倍。全体の PER 16.72 倍、時価総額 2,005 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:姫路の稼働と新燃料の受注残が予定どおり進めば届く姿。条件は多いが、保守の土台があるので2割強を置いた。
中立 34% 受注の山が過ぎ、利益は平均に戻る 利益 99 億円 · PER 15.9 倍 · 株価時価総額 6,657 円1,695 億円
エンジン本体の販売は年780台と、いまよりわずかに増える。姫路の稼働で大型機関の比率は上がるが、新造船の発注は波を打ち、2027年のピークから一度下がる。単価は物価に大型化の分が乗り、10年で1.45倍になる。
保守は着実に伸びる。搭載船は約1万400隻に増える。1隻あたりの売上は、物価並みの伸びから、いまの高い稼働と円安の分の調整を引いて、1.28倍にとどまる。
営業利益率は10%に届かない。会社の目標の10%台前半には近いが、研究費と姫路の償却が利益を抑え続ける。
配当は利益の35%。自己資本は10年で倍になり、ROEは9%台に落ち着く。堅実だが、驚きのない10年になる。
- 船舶用エンジン本体:数量 780(年間の販売台数(台))× 価格 0.64(1台あたりの売上(億円・名目))→ 売上 503 億円・営業利益 33 億円。780 台 × 単価 0.6444(今の1.45倍)、営業利益率 6.5%
- 保守・部品(メンテナンス関連):数量 10,400(搭載船の隻数(隻))× 価格 0.06(1隻あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 627 億円・営業利益 138 億円。10400 隻 × 単価 0.0576(今の1.28倍)、営業利益率 22.0%
- 陸用エンジン本体:数量 78.0(年間の販売台数(台))× 価格 1.77(1台あたりの売上(億円・名目))→ 売上 138 億円・営業利益 11 億円。78 台 × 単価 1.7735(今の1.34倍)、営業利益率 8.0%
- その他(産業機器・不動産賃貸・売電・精密部品):数量 1.0(事業の規模(今の規模を1とした実質))× 価格 62(今の規模1あたりの売上(億円・名目))→ 売上 62 億円・営業利益 3 億円。1 規模 × 単価 57.5(今の1.25倍)、営業利益率 5.0%
倍率:事業の純利益 99 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.6% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.9 倍。全体の PER 15.94 倍、時価総額 1,578 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10年の波と、保守・新燃料の両方を織り込んだ中心の姿。確率の最大を置いた。
やや悲観 24% 発注の低迷と競争で利益が細る 利益 52 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 2,276 円580 億円
造船の発注が長く低迷し、姫路の大型機関の受注が伸びない。エンジン本体の販売は年640台に減る。新燃料のエンジンは、HD現代重工などとの競争で単価が上がらず、10年で物価の伸びにとどまる。
保守は踏みとどまる。ただ、船の稼働が平常に戻り、為替の追い風も消えて、1隻あたりの売上は伸びにくい。搭載船は約9,700隻にとどまる。
営業利益率は6%台に下がる。姫路の減価償却と研究費は固定で残るので、台数が減ると利益が急に細る。配当は利益の3割で、純利益は今より2割近く減る。
会社の中期目標には遠く届かない。ROEは5%台で資本コストを大きく下回り、投じた設備のお金が稼ぎきれない10年になる。
- 船舶用エンジン本体:数量 640(年間の販売台数(台))× 価格 0.59(1台あたりの売上(億円・名目))→ 売上 380 億円・営業利益 11 億円。640 台 × 単価 0.5942(今の1.34倍)、営業利益率 3.0%
- 保守・部品(メンテナンス関連):数量 9,700(搭載船の隻数(隻))× 価格 0.06(1隻あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 545 億円・営業利益 104 億円。9700 隻 × 単価 0.054(今の1.20倍)、営業利益率 19.0%
- 陸用エンジン本体:数量 62.0(年間の販売台数(台))× 価格 1.77(1台あたりの売上(億円・名目))→ 売上 110 億円・営業利益 6 億円。62 台 × 単価 1.7695(今の1.34倍)、営業利益率 5.0%
- その他(産業機器・不動産賃貸・売電・精密部品):数量 1.0(事業の規模(今の規模を1とした実質))× 価格 55(今の規模1あたりの売上(億円・名目))→ 売上 55 億円・営業利益 2 億円。1 規模 × 単価 50.002(今の1.09倍)、営業利益率 4.0%
倍率:ROE 5.5%がk 7.5%を下回るので、PERの上限は1÷k=12.5倍。RONIC=6.8%、g 4%から正当化PERは10倍前後。稼ぐ力から出す局面で、構造的に弱くなった利益には質の割引をして、上限の7割弱の8.5倍に置いた。
確率:造船の発注の低迷に、新燃料の競争が重なる姿。保守の土台で下は支えられるが、波は大きいので2割台を置いた。
悲観 10% 新燃料で後れを取り、構造的に縮む 利益 12 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 970 円247 億円
新燃料エンジンの競争で後れを取り、中国と韓国の造船所が、自国のエンジンに切り替えていく。会社のエンジン本体は年480台まで減り、姫路の大型機関の工場は半分も埋まらない。
保守は残るが、新しい船に載るエンジンが他社に変わるため、搭載船の基盤が伸びない。約8,800隻のまま、1隻あたりの売上も物価に届かない。
営業利益率は2%まで下がり、エンジン本体は赤字になる。姫路の設備は減損し、投資は回収できない。純利益はほぼなくなるが、保守が収益を支えるので、会社は続く。
株主の取り分は、保守の稼ぐ力と、工場・土地・部品在庫など売れる資産に支えられる。構造的な負けだが、ブランドと部品の基盤は残る。
- 船舶用エンジン本体:数量 480(年間の販売台数(台))× 価格 0.51(1台あたりの売上(億円・名目))→ 売上 245 億円・営業利益 −5 億円。480 台 × 単価 0.5111(今の1.15倍)、営業利益率 -2.0%
- 保守・部品(メンテナンス関連):数量 8,800(搭載船の隻数(隻))× 価格 0.05(1隻あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 436 億円・営業利益 65 億円。8800 隻 × 単価 0.0495(今の1.10倍)、営業利益率 15.0%
- 陸用エンジン本体:数量 50.0(年間の販売台数(台))× 価格 1.32(1台あたりの売上(億円・名目))→ 売上 66 億円・営業利益 0 億円。50 台 × 単価 1.3235(今の1.00倍)、営業利益率 0.0%
- その他(産業機器・不動産賃貸・売電・精密部品):数量 1.0(事業の規模(今の規模を1とした実質))× 価格 45(今の規模1あたりの売上(億円・名目))→ 売上 45 億円・営業利益 0 億円。1 規模 × 単価 45.08(今の0.98倍)、営業利益率 0.0%
倍率:ROEがほぼゼロで、稼ぐ力(純利益÷k)は百数十億円にとどまる。価値は純現金と売れる資産の税後に支えられる床で置いた。今の自己資本494億円に0.50倍を掛けた。
確率:新燃料で後れを取り、造船所が離れる構造的な負け。ただし保守の土台は残るので、1割にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
船舶用エンジン本体
船の電気をまかなう発電用補機関(95%)と推進用の主機関(5%)を造って、造船所と船主に売る事業。
| 数量年間の販売台数(台) | 価格1台あたりの売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 765 | 0.44 | 340 | 12 |
| 10 年後 中立 | 780 | 0.64 | 503 | 33 |
取り方:販売台数は開示(国内374台+海外391台)。売上は内燃機関部門の833.8億円からメンテナンス関連405億円と陸用エンジン本体90億円(推定)を引いた約340億円とみて、765台で割った。利益率は開示がなく、部門利益114.6億円のうち保守が稼ぐ分を差し引いて約3.5%と推定した。台数は実数、物価と大型化は価格に入れた。
保守・部品(メンテナンス関連)
納めたエンジンの部品販売と修理工事。船に載っている間ずっと売上が続く。
| 数量搭載船の隻数(隻) | 価格1隻あたりの年間売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 9,000 | 0.05 | 405 | 97 |
| 10 年後 中立 | 10,400 | 0.06 | 627 | 138 |
取り方:会社の開示で、メンテナンス関連の売上は405億円(連結の約46%)、搭載船は約9,000隻。1隻あたり約450万円。利益率は開示がなく、部門利益114.6億円の大半をここで稼ぐとみて約24%と推定した。船の稼働が上がるほど部品と修理は増える。
陸用エンジン本体
離島の発電、ビルや病院やデータセンターの非常用電源、ポンプ駆動に使うエンジン。
| 数量年間の販売台数(台) | 価格1台あたりの売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 68.0 | 1.32 | 90 | 6 |
| 10 年後 中立 | 78.0 | 1.77 | 138 | 11 |
取り方:陸用の売上115.5億円(国内113.6億円+海外1.9億円)から、保守分を約25億円と推定して引き、残り約90億円を販売68台で割った。利益率は開示がなく、部門利益の残りから約6%と推定した。
その他(産業機器・不動産賃貸・売電・精密部品)
産業機器、賃貸不動産、売電、精密部品など、主力のエンジン以外の小さな事業。
| 数量事業の規模(今の規模を1とした実質) | 価格今の規模1あたりの売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1.0 | 46 | 46 | 3 |
| 10 年後 中立 | 1.0 | 62 | 62 | 3 |
取り方:開示は売上46億円のみで、中身の数量はない。賃貸と売電は数量が動かないので、実質の規模を1として置いた。利益は開示がなく、約6%と推定。全社の営業利益76億円との差は、研究費と本社費の調整に入れた。
リスクと懸念
造船の発注の波
エンジン本体は新造船の発注に1〜2年遅れて動く。2025年の発注は前年より約2割減った。受注残が厚い今は見えにくいが、2〜3年後に数量が落ちる恐れがある。いまの利益は、受注を刈り取っている山の水準にある。
姫路投資の回収
姫路工場は2026年2月に動き出し、そこでの販売台数を約2倍に広げる計画だ。減価償却と研究費が先に出るので、台数が伸びなければ利益を圧迫する。工場の能力に見合う受注が続くかが問われる。
新燃料エンジンの競争
メタノールは2027年、アンモニアは2028年の商用化を目指す。HD現代重工のHiMSENも、エタノール運転に成功した。商用化が遅れたり、性能で劣ったりすれば、造船所の採用を失い、単価の高い受注を取り逃がす。
保守収益の見かけ
保守は売上の約46%を占めるが、いまは船の稼働が高く、円安も効いている。稼働が平常に戻り、為替が円高に動けば、1隻あたりの売上は縮む。会社の期初の計画でも、来期の保守は減る前提だった。
薄くなった現金
ダイハツ工業の持株の買い取りで、純現金は約170億円から約16億円まで減った。今後の姫路や物流センターの投資は、借入が頼りになる。金利が上がる世界では、利払いが利益を削る。
株主構成の変化
筆頭株主は今治造船で約16%を持つ。造船所と機関メーカーが近づく利点はあるが、他の造船所が採用を控える恐れもある。再編が起きた場合、条件次第で、少数株主の取り分が薄まる可能性がある。
今後の分かれ目
- 新造船の発注が2年続けて前年を大きく割り込んだら
- エンジン本体の数量が落ちる。やや悲観・悲観の確率を上げる。受注残が減り始める時期が、利益の山を過ぎた合図になる。
- メタノールとアンモニアのエンジンが予定どおり出荷され、大型船の採用が続いたら
- 単価と利益が上がる。楽観・やや楽観の確率を上げてよい。ただし、保守の高い稼働の分は別に割り引く。
- 姫路工場が計画より早く埋まり、受注残が厚いまま推移したら
- 固定費の重さが和らぐ。営業利益率が10%を超える姿が現実味を帯びる。
- HD現代重工などが、新燃料エンジンで先に実績を作ったら
- 造船所の採用が移り、単価の高い受注を失う。やや悲観に寄せる。
- 今治造船との提携が深まり、持株を引き上げる、または再編が起きたら
- 規模の面では前向きだが、少数株主への条件を先に確かめる。確率より、条件を優先して見る。
- 円高が進み、船の稼働も落ちて、保守の売上が前年を下回ったら
- 利益の底が下がる。保守の1隻あたりの売上の前提を下げ、中立の利益を見直す。
見ておくもの
- 新造船の発注量と、会社のエンジン受注残高(特にデュアルフューエルの比率)
- 姫路工場の稼働と、大型機関の出荷台数
- メタノール機関(2027年)・アンモニア機関(2028年)の商用化の進み方
- 保守関連の売上と、搭載船の隻数
- 今治造船の持株比率と、国内造船の再編
倍率と資本コストの決め方
倍率は資本コスト7.5%(基本7.5%に品質+0.5%)と、事業のROEから出した。中立はROE 9.3%でkを上回るので、PERの下限は1÷k=12.5倍に置いた。今の株価や過去のPERは使っていない。今の営業利益76億円や来期予想の100億円は受注のピークに近いので、中立の利益は景気の平均に寄せ、会社の中期目標より少し低く置いた。為替は150円に固定し、会社が使う前提より円安側で置いている。リース会計の変更の影響は小さく、10年後の数字は今と同じ形で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.8→17.33 倍・やや楽観 PER 12.7→16.72 倍・中立 PER 12.5→15.94 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。