結論
ハイレックスは、アクセルやパーキングブレーキを遠隔で動かすコントロールケーブルで、世界首位級とされる部品会社だ。いまは窓の昇降装置やドアラッチ(ドアの錠)が柱で、ドア周りの総合メーカーへ姿を変えつつある。筆者の結論は、10 年で見て今の値段はやや割高。売上は伸びても、利益が出ない体質が長く続いているからだ。
営業利益率は過去 5 年ほぼ 0〜1% で、2026 年 10 月期も 1% 台にとどまる。純利益が 360 億円台に見えるのは、三井金属アクトの買収で出た負ののれん発生益と、政策保有株の売却益という一度きりの利益のせいだ。本業が稼いだ額ではない。
一方で、安全域は厚い。筆者の推計では、純現金と残る保有株が時価総額の 8 割強(定期預金などを足した額)に当たる。工場再編と関税の回収が進み、利益率が 3〜4% に戻れば、10 年後の事業の価値は今の値段を支える。戻らなければ、手元の資産だけが下値を支える会社になる。
分かれ目は、国内外の工場再編とアクトとの統合が、本当に利益に結びつくかどうかだ。会社は 2026〜29 年度に再編へ 100 億円、成長へ 270 億円を投じる計画を出した。筆者は、その実行が利益率に出るまで、評価を一段控えめに置く。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、この会社は二つに分けて見る。一つは本業、もう一つは積み上がった資産だ。
本業は、オーナーとして持ち続けたい事業ではない。売上は 4,000 億円あっても、完成車メーカーに値段を握られ、利益率は 1% 前後にとどまる。資本を投じて資本コストを超えて稼げた年は少なく、強い堀も見えない。この部分に高い倍率は付けられない。
資産は別だ。純現金が時価総額の 6 割ほどあり、政策保有株も残る。筆者は、この厚みが払う値段への安全域になると見る。ただし、現金がそのまま株主のものになるとは限らない。筆頭株主の寺浦興産が 3 割近くを持ち、使い道は経営が決める。戻り方は半分に見ておくのが妥当だ。
資本の使い方は、改善の途上にある。保有株を売って現金に換えたこと、安く買ったアクトを取り込んだことは評価できる。残る問いは、その現金を工場再編と成長に投じて、利益率を 3〜4% まで戻せるかだ。戻せば、事業の価値は今の値段を支える。戻せなければ、資産の価値で測るしかない。
筆者が気にするのは、積み上がった現金を、経営が株主に戻す意思を持っているかだ。今の方針は、還元より成長と再編を優先している。そこを、これからの数字で見極めたい。
何で稼ぐ会社か
売上の中身を見ると、祖業のケーブルは約 16% にすぎない。窓の昇降装置(ウインドレギュレータ)が約 23%、ドアラッチが約 23%、ドアモジュール(窓の装置やスピーカーを一枚の板に組んだもの)が約 21%。残りがパワーリフトゲート(電動の後ろの扉)、パワースライドドア、その他だ。会社の説明では、日本とアジアの一部を除き、ドア系が売上の 75% を超える。
2025 年 11 月に三井金属アクトを取得し、ハイレックスアクトとして連結した。ドアラッチとパワースライドドアの技術を持つ会社で、年商は 1,000 億円規模だ。ケーブルと窓の昇降装置の会社に、ドアの錠と電動開閉が加わり、ドア 1 枚分をまるごと納められる形になった。
地域では米州が最大で、欧州、中国、韓国、日本、他アジアが続く。現地で作って現地で売る体制で、顧客は日米欧韓中の完成車メーカーだ。医療用ガイドワイヤなどの医療事業もあるが、規模は小さい。
事業は完成車の生産台数に連動する。しかも値段は完成車メーカーが決める力が強い。毎年のコスト低減の要請が、利益率を押し下げてきた。
生産は地産地消だ。ケーブルは日本で開発して世界へ広げ、ドアモジュールは韓国から米州、欧州の順に、市場の要望に合わせて展開してきた。国内には工場が 13 あり、顧客の工場の近くに置く形だったため、小さな工場に仕事が散らばって稼働率が上がりにくい。これが利益率の低さの一因だ。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、ケーブルにはある。曲げても確実に力を伝える製品を世界の拠点で作り続け、完成車メーカーの設計に入り込んでいる。ただ、市場そのものが小さく、電動化でケーブルの本数は減っていく。
ドア系はまだ堀と呼べない。窓の昇降装置はアイシン、アルファ、日本発条などと競り、ドアモジュールも顧客の選定で決まる。品質で選ばれても、値段は完成車メーカーが決める。利益率が 1% 前後に張りついてきた事実が、堀の浅さをそのまま示している。
資本効率は低い。過去 10 年の ROE の中央値は 2.6% だ。財務は純現金が厚く、自己資本比率も 6 割前後と安全だが、その安全は稼ぐ力の弱さの裏返しでもある。
経営の姿勢は変わってきた。政策保有株を純資産の 1 割まで減らす方針を決め、2026 年 10 月期は約 160 億円を売った。国内の工場を 13 から 11 に減らす計画も出した。筆者は、この方向は正しいと見る。ただ、結果が利益率に出るまでには、少なくとも 2 年はかかる。
強みは地産地消の体制にある。完成車メーカーの工場の近くで作り、地域ごとの要望に合わせて開発する。ドアモジュールの経験は、日系の採用が始まれば生きる。一方で、同じ製品を作る工場が重複し、開発も地域ごとにばらばらだった。2026 年 5 月に開発体制を一本化した。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
数量は完成車の生産台数で決まる。世界の新車生産は年約 1 億台で、今後 10 年は横ばい圏と置く。中国の国内向けは伸びるが、日米欧は伸びない。台数が増えない以上、成長はシェアを取るか、1 台に載せる部品を増やすかでしか生まれない。
電動化はケーブルには逆風だ。電動パーキングブレーキやシフトバイワイヤが広がれば、ケーブルの本数は減る。一方、ドア周りは EV でも内燃機関車でも必要で、電動の開閉装置や電子制御はむしろ増える。会社も、EV 需要の停滞で失う売上は 5 車種・26 億円と限定的だと説明している。
もう一つの変化は中国だ。中国の販売の約 7 割は中華系メーカーで、日系は約 1 割に落ちた。ハイレックスの日本主導拠点は、中華系向けが売上の 1% しかない。2027 年に 15% へ上げる計画だが、値段に厳しい相手だ。
競合は、窓の昇降装置ではアイシン、アルファ、日本発条。ドアラッチやドアシステムでは、欧州のブローゼ、キーケルト、カナダのマグナなどが強い。価格は下がりやすい。米国の関税とメキシコの人件費高も、利益を削っている。
足元の逆風は、中東情勢だ。樹脂材料の値上げ要請が月 1.5 億円ほど来ており、価格転嫁が間に合うかが利益を左右する。台数が伸びない世界では、値段の転嫁力がそのまま利益率になる。
資本政策と M&A
資本政策は、この 2 年で大きく動いた。まず買収。2025 年 11 月に三井金属アクトを約 133 億円で取得した。時価で見た純資産が取得額を大きく上回り、283 億円の負ののれん発生益が出た。安く買えたという会計上の結果だ。アクトの営業利益率は 1% 前後と低く、利益を生むかはこれからになる。
次に保有株。政策保有株は 2025 年 10 月末で 378 億円、純資産の約 2 割あった。2026 年 10 月期中に純資産の 1 割まで減らすと決め、約 160 億円を売った。売却益は 150 億円を超える。
還元は安定した配当が軸で、自社株買いを機動的に行う。2026 年 10 月期は創業 80 周年の記念配当を含めて配当を厚くし、15 億円の自社株買いも終えた。2026〜29 年度の 4 年では、還元に 120 億円、M&A に 230 億円(うちアクトが 133 億円)を充てる計画だ。
筆頭株主の寺浦興産が約 28% を持ち、買収防衛策も 2026 年 1 月の総会で承認された。TOB の可能性は残るが、安定株主が厚く、筆者は低いと見る。
筆者が見るのは、配当の方針だ。長期の安定配当を掲げるが、配当総額は近年 10 億円台から 20 億円前後と控えめだ。現金の積み上がりに比べ、株主への戻しは軽い。
【実行済み分の扱い】2026/7/13〜9/30 の上限 15 億円(取得済み 15.0 億円)と 7/31 決議の約 8 億円(8/3〜8/10 に取得済み)の自社株買いは 2026/10 期中の取得で、10 年の還元(2026/11 期以降)には入れていない。自己資本の起点は 7 月末の純資産からの推計のまま(7 月末より後の取得分は 15 億円枠のうち 8〜9 月の約 12.1 億円で、起点の 0.6% と小さく、推計の幅に収まる。なお 7/31 決議の約 8 億円は、9 月の自己株券買付状況報告書では 7/10 決議枠とは別の取得が確認できず、枠内の取得と重なる可能性がある)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
構造改革と買収の効果は、これから利益に出る。国内の工場を 13 から 11 に減らし、米国の物流を最短の経路に改める。関税の負担も 6 割まで回収が進み、残りも取り戻せる。これだけで、営業利益率は 1% 台から 2% 台へ上がる余地がある。
ドアモジュールの追い風も強い。ケーブルの会社だったハイレックスは、窓の昇降装置・ラッチ・電動開閉をそろえ、ドア 1 枚分をまるごと納められるようになった。国内で初めてのドアモジュールを受注し、中国の新興メーカーからも受注した。システムで売れれば単価が上がり、他社が入りにくくなる。
資産面でも守られている。筆者の推計では、純現金と保有株が時価総額の 8 割強に相当し、配当と自社株買いで株主にも戻る。10 年で利益率が 5% に届けば、今の値段は安い。
さらに、保有株の売却で浮いた資金を自社株買いに回せば、株主の取り分は増える。電動のシートアクチュエーターなど、ケーブルに代わる電動部品の採用も広がり始めた。祖業が縮んでも、新しい製品で穴を埋められる。
慎重な見方
利益が出ない体質は、10 年かけても変わらない。営業利益率が 3% を超えたのは 2018 年 10 月期までで、直近 5 年は 1% 前後だ。人件費の上昇、米国の関税、メキシコペソ高と、増えるのはコストばかりだ。値段は完成車メーカーが決め、毎年の値下げ要請も続く。
アクトは年商 1,000 億円で営業利益率が 1% 前後。買収で売上は増えたが、薄利の事業を抱え込んだ面もある。上期には、国内で 14 億円の営業赤字を連結に持ち込んだ。国内のドアモジュール工場の稼働は 2028 年 12 月まで先で、それまでは投資が先行する。中国は中華系の取り込みが遅く、日系の失注が続く。
EV 停滞が追い風という見方も怪しい。ケーブルは電動化で減り、ドア系の価格競争は激しい。保有株の売却益も一度きりで、来期からは本業の薄さがはっきり見える。
現金の使い道にも不安がある。4 年で M&A に 230 億円という計画は、アクトに続く買収を想定している。割安に買えたアクトの例が、次も続く保証はない。筆頭株主が約 28% を持つ会社では、株主が使い道に口を出す力も弱い。
どちらに重みを置いたか
二つの主張は、利益率が戻るかどうかで分かれる。戻る根拠は工場再編と関税の回収だが、どちらも計画の段階で、過去 5 年の実績は逆を向いている。強気の筋書きは、アクトの統合が計画どおり進んで初めて成り立つ。確率は、利益率が 1% 台に残る筋書きを重くし、悲観側にやや寄せた。純現金が厚いので、倒産に近い筋書きは置かない。現金の戻り方は半分に見て、資産の厚みを割り引いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/10 期)
確率で加重した株価時価総額 4,045 円1,471 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 844 円307 億円)。 今の値に割り戻すと 2,303 円838 億円、今との差 +4.6%、 期待の年率 +8.3%(資本コスト 8.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 10,380 円3,775 億円 | 1,925 円700 億円 | +458.8% | +18.8% | 738 円268 億円 |
| やや楽観 | 20% | 6,760 円2,458 億円 | 1,430 円520 億円 | +272.0% | +14.0% | 1,638 円596 億円 |
| 中立 | 34% | 4,541 円1,651 億円 | 935 円340 億円 | +148.7% | +9.5% | 1,862 円677 億円 |
| やや悲観 | 28% | 1,409 円512 億円 | 385 円140 億円 | −18.5% | −2.0% | 502 円183 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,100 円400 億円 | 137 円50 億円 | −43.8% | −5.6% | 148 円54 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,045 円1,471 億円 | 844 円307 億円 | +122.0% | +8.3% | 4,889 円1,778 億円 |
今の株価時価総額 2,202 円801 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 6% ドア系の総合部品会社に変わり、利益率が 6% 台に乗る 利益 299 億円 · PER 11.9 倍 · 株価時価総額 10,380 円3,775 億円
国内外の工場再編が計画どおり終わり、物流の無駄と固定費が落ちる。アクトのラッチと自社のケーブル・窓の昇降装置・電子制御を組み合わせたドアシステムが、日系と中国の新興メーカーに広がり、1 台あたりの納入額が上がる。パワーリフトゲートやスライドドアの電動化も追い風になる。
中華系メーカー向けの売上比率は 15% を超え、日系の失注を埋める。ケーブルは電動化で減るが、残る分で高い利益率を保つ。営業利益率は 6% 台に乗り、配当と自社株買いを増やせる。保有株の売却益と純現金は、成長投資と還元に使われる。10 年後のハイレックスは、ケーブルの老舗でなく、ドアシステムの総合部品会社として評価される。保有株は目標どおり純資産の 1 割まで減り、浮いた資金は自社株買いにも回る。
- ドア系(窓の昇降装置・ドアモジュール・電動開閉):数量 1,200(自社部品が載る完成車の台数(万台、推定))× 価格 3.44(1 台あたりの納入額(万円/台))→ 売上 4,123 億円・営業利益 289 億円。ドア系 営業利益率 7.0%
- ドアラッチ(アクト):数量 620(自社ラッチが載る完成車の台数(万台、推定))× 価格 2.69(1 台あたりの納入額(万円/台))→ 売上 1,667 億円・営業利益 100 億円。ラッチ 営業利益率 6.0%
- コントロールケーブル他:数量 3,000(ケーブルが載る完成車の台数(万台、推定))× 価格 0.41(1 台あたりの納入額(万円/台))→ 売上 1,222 億円・営業利益 92 億円。ケーブル他 営業利益率 7.5%
倍率:事業の純利益 292 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.8% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 9.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)361 億円。全体の PER 12.14 倍、時価総額 3,910 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:利益率が 1% 台から 6% 台へ 5 ポイント跳ねる必要がある。工場再編・関税の回収・アクトの統合・ドアモジュールの量産がすべて計画以上に進む場合だけで、過去 10 年の実績からは遠い。
やや楽観 20% 再編が実り、利益率が 5% 近くまで戻る 利益 196 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 6,760 円2,458 億円
計画された工場再編は 2 年遅れで終わり、国内の固定費が下がる。米国の関税は大半を価格に転嫁でき、メキシコペソ高の影響も薄れる。アクトの統合は進み、ラッチとドアモジュールの組み合わせ販売が日系の一部に広がる。
中国では中華系の受注が積み上がり、日系の失注を埋める。ケーブルは電動化で減るが、ドア系の伸びが上回る。営業利益率は 5% 近くまで戻る。ただ、完成車メーカーの値下げ要請は続くので、そこから先は伸びない。還元は純利益の 4 割程度で、純現金は大きく動かない。保有株は 1 割まで減り、売却代金は成長投資と自社株買いに回る。ドアモジュールは日系にも少しずつ広がる。
- ドア系(窓の昇降装置・ドアモジュール・電動開閉):数量 1,080(自社部品が載る完成車の台数(万台、推定))× 価格 3.27(1 台あたりの納入額(万円/台))→ 売上 3,531 億円・営業利益 177 億円。ドア系 営業利益率 5.0%
- ドアラッチ(アクト):数量 560(自社ラッチが載る完成車の台数(万台、推定))× 価格 2.61(1 台あたりの納入額(万円/台))→ 売上 1,463 億円・営業利益 70 億円。ラッチ 営業利益率 4.8%
- コントロールケーブル他:数量 3,050(ケーブルが載る完成車の台数(万台、推定))× 価格 0.41(1 台あたりの納入額(万円/台))→ 売上 1,242 億円・営業利益 75 億円。ケーブル他 営業利益率 6.0%
倍率:事業の純利益 189 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.0% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)361 億円。全体の PER 11.43 倍、時価総額 2,524 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:工場再編と関税の回収は、会社自身が時期を示している。実行できれば利益率が 5% 近くまで戻る余地がある。ただ過去 5 年の実績は逆を向いているので、中立より低く置いた。
中立 34% 利益率は 3% 台へ戻るが、堀のない部品会社のまま 利益 125 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 4,541 円1,651 億円
世界の新車生産はほぼ横ばいで、台数の伸びは自社のシェア拡大に頼る。ドア系はモジュール化で台数が 1 割強増え、ラッチは販路の共有で少し伸びる。ケーブルは電動化で 15% ほど減る。
値段は物価並みに上がるが、値下げ要請で内容の改善分は吸収される。工場再編と物流の改善で、営業利益率は 3% 台まで戻る。それでも資本コストを超える稼ぎには届かず、堀のない部品会社であることは変わらない。保有株は目標の 1 割まで減り、還元は純利益の 4 割ほど。余った現金は再編と小さな買収に使われ、大きくは増えない。日系へのドアモジュールの広がりは、数車種にとどまる。
- ドア系(窓の昇降装置・ドアモジュール・電動開閉):数量 1,000(自社部品が載る完成車の台数(万台、推定))× 価格 3.17(1 台あたりの納入額(万円/台))→ 売上 3,175 億円・営業利益 111 億円。ドア系 営業利益率 3.5%
- ドアラッチ(アクト):数量 510(自社ラッチが載る完成車の台数(万台、推定))× 価格 2.57(1 台あたりの納入額(万円/台))→ 売上 1,313 億円・営業利益 46 億円。ラッチ 営業利益率 3.5%
- コントロールケーブル他:数量 2,800(ケーブルが載る完成車の台数(万台、推定))× 価格 0.41(1 台あたりの納入額(万円/台))→ 売上 1,140 億円・営業利益 57 億円。ケーブル他 営業利益率 5.0%
倍率:事業の純利益 119 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.4% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)361 億円。全体の PER 11.43 倍、時価総額 1,717 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:工場再編と関税の回収は進むが、ドア系の価格競争と完成車メーカーの値下げ要請は続く、という最も無理のない見立てに重みを置いた。強気と慎重の主張が、部分的に当たる形になる。
やや悲観 28% 中華系の台頭と日系の失注で、利益率は 1% 台のまま 利益 40 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 1,409 円512 億円
再編は進むが、効果は人件費の上昇と値下げ要請に食われる。米国の関税は一部しか価格に転嫁できず、メキシコの人件費も高止まりする。
中国では中華系の受注が計画ほど取れず、日系向けの減少が続く。ドアモジュールの採用は日本で数車種にとどまる。アクトのラッチは、日系完成車メーカーの生産減に連れて伸び悩み、統合の効果は小さい。営業利益率は今と同じ 1% 台で、売上は物価の分だけ伸びる。配当は維持するが、自社株買いは減る。余った現金は工場再編と赤字の穴埋めに、少しずつ消える。保有株は予定どおり 1 割まで減るが、売却益は一度きりで、本業の薄さは変わらない。
- ドア系(窓の昇降装置・ドアモジュール・電動開閉):数量 880(自社部品が載る完成車の台数(万台、推定))× 価格 3.08(1 台あたりの納入額(万円/台))→ 売上 2,710 億円・営業利益 41 億円。ドア系 営業利益率 1.5%
- ドアラッチ(アクト):数量 450(自社ラッチが載る完成車の台数(万台、推定))× 価格 2.50(1 台あたりの納入額(万円/台))→ 売上 1,124 億円・営業利益 11 億円。ラッチ 営業利益率 1.0%
- コントロールケーブル他:数量 2,400(ケーブルが載る完成車の台数(万台、推定))× 価格 0.40(1 台あたりの納入額(万円/台))→ 売上 948 億円・営業利益 28 億円。ケーブル他 営業利益率 3.0%
倍率:事業の ROE 1.7% は k 8.75% 以下なので、ためた利益は額面より小さい価値で、正当化 PER の上限は 1÷k = 11.4 倍。この筋書きは稼ぐ力が弱く、構造的に伸びない姿なので、上限の 7 割を下回る 6.1 割の 7.0 倍に置いた。
確率:過去 5 年の営業利益率がほぼ 1% 前後だった事実を、そのまま 10 年続く姿として置いた。再編の効果が人件費・関税・値下げ要請に食われる筋書きで、中立の次に確かな見立てとして厚めにした。
悲観 12% 価格競争に負け、赤字が続く 利益 −70 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 1,100 円400 億円
ドア系は中華系の部品会社と完成車メーカーの内製化に押され、値段が下がり続ける。ケーブルは電動化で数が大きく減り、利益を出せなくなる。アクトが主に納める日系の完成車メーカーの生産が減り、固定費の重いラッチ工場が赤字を出す。
国内外で再編を重ねても追いつかず、営業損益は赤字に沈む。経営は保有株の売却と純現金で配当を維持するが、買収は失敗し、現金は少しずつ消える。市場は優良な部品会社という評価を外し、稼ぐ力でなく手元の資産で値段が決まる。それでも、純現金と残る保有株が下値の最後の支えになる。中国では中華系向けがほとんど増えず、国内の工場統合の費用も重くのしかかる。
- ドア系(窓の昇降装置・ドアモジュール・電動開閉):数量 780(自社部品が載る完成車の台数(万台、推定))× 価格 2.96(1 台あたりの納入額(万円/台))→ 売上 2,310 億円・営業利益 −35 億円。ドア系 営業利益率 -1.5%
- ドアラッチ(アクト):数量 380(自社ラッチが載る完成車の台数(万台、推定))× 価格 2.40(1 台あたりの納入額(万円/台))→ 売上 912 億円・営業利益 −27 億円。ラッチ 営業利益率 -3.0%
- コントロールケーブル他:数量 1,900(ケーブルが載る完成車の台数(万台、推定))× 価格 0.38(1 台あたりの納入額(万円/台))→ 売上 722 億円・営業利益 0 億円。ケーブル他 営業利益率 0.0%
倍率:赤字の筋書きなので稼ぐ力でなく売れる資産で測る。純現金と残る保有株の税引き後 約 400 億円を床とし、今の自己資本 約 1,751 億円の 0.228 倍に置いた。
確率:純現金が厚く、倒産に近づく筋書きは置けない。それでも構造的に負ける姿は無視できず、確率は 1 割余りとした。やや悲観より低いのは、財務の厚みと再編の余地があるため。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ドア系(窓の昇降装置・ドアモジュール・電動開閉)
ウインドレギュレータ、ドアモジュール、パワーリフトゲート、パワースライドドアなど、ドア 1 枚分の機能部品。売上の約 5 割。
| 数量自社部品が載る完成車の台数(万台、推定) | 価格1 台あたりの納入額(万円/台) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/10 | 880 | 2.37 | 2,085 | 31 |
| 10 年後 中立 | 1,000 | 3.17 | 3,175 | 111 |
取り方:会社の製品構成(窓の昇降装置 23%・ドアモジュール 21%・パワーリフトゲート 5%・パワースライドドア 3%)の合計 52% を 2026 年 10 月期予想売上 4,010 億円に掛けて 2,085 億円とした。台数は世界の新車生産 約 1 億台に、自社の搭載率を約 9% と置いて 880 万台(推定)。売上÷台数で 1 台あたり 2.37 万円。営業利益は地域別開示から製品別への配分で、筆者の推定。
ドアラッチ(アクト)
三井金属アクトから引き継いだドアの錠・バックドアラッチなど。2025 年 11 月に連結。売上の約 2 割。
| 数量自社ラッチが載る完成車の台数(万台、推定) | 価格1 台あたりの納入額(万円/台) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/10 | 480 | 1.92 | 922 | 7 |
| 10 年後 中立 | 510 | 2.57 | 1,313 | 46 |
取り方:製品構成のラッチ 23% を売上予想 4,010 億円に掛けて 922 億円。アクトの 2025 年 3 月期の売上は 958 億円・営業利益 10 億円で、これと整合する。台数は世界の新車生産の約 5%(日系完成車メーカー中心)と置き 480 万台(推定)、1 台あたり 1.92 万円。営業利益はアクト連結の寄与(9 か月で約 6 億円)から推定。
コントロールケーブル他
祖業のケーブル(アクセル・パーキングブレーキ・シート・シフト)と、医療・その他。売上の約 25%。
| 数量ケーブルが載る完成車の台数(万台、推定) | 価格1 台あたりの納入額(万円/台) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/10 | 3,300 | 0.30 | 1,003 | 20 |
| 10 年後 中立 | 2,800 | 0.41 | 1,140 | 57 |
取り方:製品構成のケーブル 16% とその他 9% の合計 25% を売上予想に掛けて 1,003 億円。ケーブル市場は調査会社の推計で約 5 千億円前後で、自社のシェアは 1 割を少し超える程度。台数は世界の新車生産の約 3 分の 1 にあたる 3,300 万台(推定)、1 台あたり 0.30 万円。営業利益は筆者の推定。
リスクと懸念
利益率が戻らない
営業利益率は過去 5 年ほぼ 1% 前後。工場再編・関税の回収・物流改善で 3% 台を見込むが、人件費の上昇と完成車メーカーの値下げ要請が効果を食えば、再編をしても利益は増えない。本分析の最大の不確実性。
アクトの統合
三井金属アクトは年商 1,000 億円で営業利益率は 1% 前後。国内の拠点再編と米州の物流統合が前提で、顧客の日系完成車メーカーの生産が落ちれば、固定費の重いラッチ工場が赤字を抱え込む。負ののれんの益は一度きりで、本業の力ではない。
米国の関税とメキシコの人件費
米州は売上の最大の地域。関税は累計で約 9.6 百万ドルの負担が出て、回収は約 6 割にとどまる。ペソ高で人件費も上がり、米国の拠点 1 つを閉じてメキシコへ移す計画も、実行の途中でコストが先に出る。
電動化によるケーブルの縮小
ケーブルは売上の約 16%。電動パーキングブレーキやシフトバイワイヤが広がれば本数は減る。ドア系は EV でも必要だが、電動化は完成車メーカーによる部品の統合・内製化も促し、単品部品の値段を下げる。
中国で中華系メーカーに入れない
中国の販売の約 7 割は中華系。ハイレックスの日本主導拠点は、中華系向けが売上の 1% にとどまる。2027 年に 15% へ上げる計画が遅れれば、日系の失注が埋まらない。値段に厳しい相手で、取れても利益は薄い。
現金の使い道(M&A と再編)
4 年で M&A に 230 億円、再編に 100 億円の計画。買収が高値づかみになれば、純現金の安全域は削られる。筆頭株主が約 28% を持つため、株主が戻りを求める圧力は弱く、現金が戻る保証もない。
今後の分かれ目
- 国内の工場再編(13 拠点から 11 拠点)が計画どおり 2028 年度までに終わり、固定費が目に見えて減ったら
- 利益率の戻りが現実味を帯びる。やや楽観・楽観の確率を上げ、中立の営業利益率を 4% 近くに見直す。
- 米国の関税の回収が 85% 近くまで進み、メキシコの人件費が落ち着いたら
- 米州の利益が戻り、全社の営業利益率が 2% 台へ上がる。やや悲観の確率を下げる。
- ハイレックスアクトの営業利益率が 3% を超えたら
- ドアシステムの組み合わせ販売が機能している証拠。ラッチの利益率の前提を上げる。
- 日本で国内初のドアモジュール受注に続く量産の追加受注が出なかったら
- 日系へのモジュール化の広がりは限定的とみて、ドア系の台数の伸びを下げる。
- 中国で中華系メーカー向けの売上比率が 15% を大きく下回ったら
- 日系の失注を埋められない。やや悲観の筋書きに確率を寄せる。
- 残る保有株の売却が終わり、売却代金が自社株買いや配当で戻されたら
- 余った現金の戻り方を 0.5 から 1.0 に見直す。今の値段との差が縮む方向に働く。
見ておくもの
- 営業利益率(特に米州・日本・アクトの地域別)の四半期の動き
- 工場再編の進み具合(国内 13→11 拠点、米国 1 拠点の閉鎖)と一時費用
- 関税の回収率(現在約 6 割)とメキシコペソ・人件費
- 中国の中華系メーカー向け売上比率(現在約 1%、目標 2027 年に 15%)
- 保有株の残高(純資産の 1 割)と売却代金の使い道、還元の額
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価からは置いていない。事業の純利益に、正当化 PER(ROE が k 以下なら 1÷k、超える筋書きは RONIC 方式)の上限の 7〜8.5 割を置いた。やや悲観・悲観は上限に近づけず、悲観は純現金と保有株の税引き後を床にした。資本コストは基本 7.5% に quality +1.25% で 8.75%、同じ領域の東海理化・トヨタ紡織(+1.2%)に近い。2026 年 10 月期の純利益 368 億円は一過性が大半なので使わず、一過性を除く 45 億円を流れの起点にした。純現金・保有株は決算の途中の数字からの推計で、確かな値ではない。やや悲観の PBR が 0.2 倍を割るのは、自己資本のうち工場など稼がない資産が厚く、稼ぐ力から測ると小さくなるため。新リース会計基準(2028 年 10 月期から)は、今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.5→12.14 倍・やや楽観 PER 9.6→11.43 倍・中立 PER 8→11.43 倍)。 2026-10-22:余り資産を R4 の holdings・rental に移したので、時価総額を式で出し直した(楽観〜中立の PER は新しい上限に置き直し、ほかは倍率そのまま:楽観 3910.1 → 3714.5(PER 11.91 倍)・やや楽観 2524.1 → 2394.3(PER 11.43 倍)・中立 1717.1 → 1587.3(PER 11.43 倍)・やや悲観 518.0 → 410.4(PER 7 倍))。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.25% を足した 8.75%。関税・工場再編・アクトの統合の失敗は k に足さず、筋書きと確率で表した。