結論
NITTANは、エンジンの吸気と排気を開け閉めするバルブを作る会社だ。筆者の結論は、本質価値が今の時価総額を下回る、つまり割高寄りというものだ。昨期の利益が、会社の実力より高い山にあることが一番の理由になる。
2026年3月期の営業利益は40億円で、前の期の2.7倍に跳ねた。値上げと円安、北米の効率化が重なった結果だ。その前の10年は、営業利益率が2〜5%にとどまっていた。
電動化の逆風は、国内の見方よりも強い。会社は2040年も内燃機関は同じ台数と見るが、ハイブリッド車では1台あたりの部品点数が増えない。しかも、2025年に発行した転換社債と新株予約権が、株価が上がると株を13%ほど増やす。
良い点もある。二輪車向けでは東南アジアでほぼ全部のシェアを持ち、インドの増産も進む。純現金は小さいが、借金に追われる会社ではない。それでも、10年の価値は今の時価総額を4割近く下回ると筆者は見る。昨期の山が続くと見込む値段は、安全域に乏しい。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「良いときの利益で値段をつけてはいけない会社」だ。部品の世界で競争力のある製品を持つが、顧客が値段を決める力は強い。
10年の利益の質も気になる。少数株主の取り分が大きい。バルブの稼ぎのうち、現地の合弁相手と分ける部分が大きく、手元に残るのは営業利益の半分に届かない。しかも、設備の更新に毎年多額の現金が要る。
良い点は、経営が方針を変えつつあることだ。ROE8%以上を目標に掲げ、歯車の立て直しと、インドの増産を進めている。ただし、目標の達成は、これから見るべき実績だ。
安全域は薄い。純現金は小さく、昨期の高い利益が続く前提で、ようやく今の値段と釣り合う程度だ。希薄化の可能性もある。筆者は、今の値段に十分な余裕があるとは見ない。
持ち続けたいと思える会社かと問われれば、答えは慎重になる。事業の見通しより、利益の質と希薄化が気になるからだ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの8割は、小型のエンジンバルブだ。乗用車、トラック、二輪車、発電機向けに作る。2026年3月期の売上は517億円で、うちバルブが415億円を占めた。ほかに、船の中速エンジン向けの舶用部品と、精密鍛造の歯車がある。
売上の地域別は、日本が41%、アジアが34%、北米が18%、欧州が7%だ。顧客は日系の四輪車メーカーが中心で、ホンダやトヨタ、韓国の現代自動車にも納める。顧客は180社に及ぶ。
稼ぎ頭はアジアの二輪車向けだ。二輪車はエンジンの種類が多く、少量ずつ作り分ける必要がある。この分野で同社はASEANのシェアがほぼ100%に近く、値段を取りやすい。
弱いのは日本と北米、それに歯車だ。歯車は赤字が続き、2025年3月期と2026年3月期に減損を出した。舶用部品も、工場火災の影響を受けた。
新しい領域として、燃料電池車のモーター部品や空圧部品を手がける。まだ売上は小さい。
海外の売上は約64%に達し、日本の売上の1.8倍にあたる。各地の工場で作って各地の顧客に売る、地産地消の体制が特徴だ。
優良さと弱いところ
強みは、二輪車向けの少量多品種に応える力と、世界10か国に広げた生産拠点だ。顧客の工場の近くで作る体制が、関税や物流の乱れに強い。傘のように中空にしたバルブは、同社が固有の技術と位置づける。
一方、世界シェアは11%で、首位のイートンと2位のマーレには遠い。国内でもフジオーゼックスが44%、愛三工業が約3割を握り、同社は26%だ。三番手のメーカーが、顧客から値段を決められやすいのは避けにくい。
収益力は長く低かった。2026年3月期のROEは7%台だが、過去10年の中央値は2%台だ。歯車の赤字、北米の不振、舶用部品の火災が、足を引っ張ってきた。
資本の使い方は、これから見極める段階にある。配当性向は30%以上が目安で、還元は控えめだ。3年間で287億円の投資を営業キャッシュフロー232億円より多く計画し、足りない分は借入や政策保有株の売却で補う。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
エンジンバルブの需要は、四輪車の内燃機関が支える。電動化は進むが、会社は2040年でも内燃機関の車の台数は2020年並みと見ている。ハイブリッド車や環境規制への対応で、中空バルブのような高性能品が伸びる、という筋書きだ。
筆者はこれを割り引いて見る。ハイブリッド車は内燃機関を積むが、1台あたりの気筒の数が少なくなりやすく、バルブの本数が減る。バッテリー式の電気自動車が増えれば、その分は丸ごと失う。中国では日系メーカーが苦戦し、同社の販売にも響いた。
成長の余地はインドだ。同社は2030年に、インドの生産能力を2024年の2倍にする計画を持つ。現代自動車がインドで拡大する流れに、新和精密(韓国のバルブリフター)の連結子会社化で乗る。
競合は、世界のイートン、マーレ、テネコ、国内のフジオーゼックス、愛三工業だ。国内の3社が分け合う市場は、台数が増えないまま、値上げを受け入れてもらえるかが勝負になる。
船用は造船と発電機向けの需要が堅く、燃料電池の部品など新分野は、数字になるまで時間がかかる。
資本政策と M&A
還元は小さい。配当性向は30%以上が目安で、前期と同じ額の配当を続ける計画だ。3年間の株主還元は19億円にとどまり、子会社の少数株主への分配27億円より少ない。
2025年に、横浜キャピタルが運用するファンドへ、転換社債と新株予約権を合計約25億円発行した。当初の転換価額は今の株価の約1.4倍で、全部が株式になると株数は約13%増える。株価が転換価額の113%に達するまで行使できないので、株価が上がるほど希薄化が進む仕組みだ。
買収にも前向きだ。3年間にM&A投資100億円を計画し、未実行の分は株主還元に回す可能性にも触れている。上場の政策保有株は約50億円あり、資金源にもなる。
減価償却費は年40億円ほどで、営業利益とほぼ同じ大きさだ。償却は取得価格のままで、物価では増えない。設備を建て替えれば、新しい高い値段で償却が増える。更新投資の方が償却より先に増えるので、現金は細りやすい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
内燃機関の需要は、電動化の議論ほど急には減らない。世界の自動車の主役はこの先10年もハイブリッドを含む内燃機関で、インドやASEANでは普及がこれから本格化する。同社はこの市場で、現代自動車やホンダと深くつながっている。船舶用の中速エンジンでも、同社のシェアは極めて高い。
利益率の改善にも実績がある。2026年3月期の営業利益率は、前の期の2.9%から7.7%に上がった。中空バルブの比率を約4割に高め、歯車の赤字を縮め、北米の効率化を進めれば、会社が掲げる9.2%は届く。
さらに、未実行のM&Aは計画に入っていない。横浜キャピタルの支援を受けて第2の柱を作れれば、利益の伸びは今の計画を超える。船用と発電機向けも需要が強い。
利益が7割増えれば、株の価値は今の2倍を超えうる。
配当性向を上げれば、少ない純現金でも還元は厚くできる。経営が資本の使い方を変えるきっかけも、すでに出ている。実績が積み上がれば、倍率の見直しも起きうる。
慎重な見方
昨期の利益は、値上げと円安、北米の一時的な改善が重なった山だ。2027年3月期の会社予想も営業利益は5%減る。10年を通した営業利益率は4〜5%で、7%台が定着した実績はない。
電動化は、内燃機関の台数が横ばいでも、バルブの需要を削る。ハイブリッドは気筒が少なくなりやすく、電気自動車は部品そのものが要らない。同社の売上の8割は、この製品に頼る。
利益は株主に届きにくい。少数株主の取り分が大きく、純利益は営業利益の半分に届かない。転換社債と新株予約権が株に変われば、株数が約13%増える。設備の更新には毎年多額の現金が要る。
10年の利益率は、為替や素材価格にも左右され、安定しない。悲観の筋書きは、北米と中国の不振が続き、歯車の赤字が残り、営業利益が10億円を割ることだ。
利益率の改善は、値上げと円安に頼る部分が大きかった。この追い風が止まると、元の水準に戻りやすい。しかも、顧客は次の値上げを簡単には受け入れない。
どちらに重みを置いたか
2026年3月期の利益は山の水準で、10年を通した利益率には慎重に見るべき理由が多い。確率は中立に35%、やや悲観に28%、悲観に15%を置いた。楽観の側は、利益率9%超が定着する筋書きなので、5%と17%にとどめた。結果として、10年の価値は今の時価総額を4割近く下回る。株主の取り分が少ないことと、希薄化の可能性が、慎重な見方の側に確率を寄せた理由である。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 689 円199 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 185 円53 億円)。 今の値に割り戻すと 436 円126 億円、今との差 −6.2%、 期待の年率 +6.5%(資本コスト 8.3%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 5% | 1,369 円395 億円 | 336 円97 億円 | +266.5% | +13.9% | 85 円25 億円 |
| やや楽観 | 17% | 1,027 円296 億円 | 275 円79 億円 | +179.9% | +10.8% | 221 円64 億円 |
| 中立 | 35% | 866 円250 億円 | 214 円62 億円 | +132.1% | +8.8% | 378 円109 億円 |
| やや悲観 | 28% | 400 円115 億円 | 139 円40 億円 | +15.8% | +1.5% | 151 円43 億円 |
| 悲観 | 15% | 204 円59 億円 | 52 円15 億円 | −44.9% | −5.8% | 38 円11 億円 |
| 加重平均 | 100% | 689 円199 億円 | 185 円53 億円 | +87.8% | +6.5% | 873 円252 億円 |
今の株価時価総額 465 円134 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 5% 楽観:内燃機関が底堅く、インドとM&Aで利益率が10%に迫る 利益 37 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 1,369 円395 億円
会社の見立てどおり、内燃機関の需要が底堅く残る。インドの生産が2倍になり、中空バルブの比率が4割に乗る。値段は物価に加えて、高付加価値品の比率でも上がる。
歯車は黒字に戻り、舶用部品は造船と発電機向けで伸びる。横浜キャピタルの支援で、M&Aで第2の柱を作る。営業利益は約80億円で、今の2倍だ。
ただし純利益は少数株主の取り分で目減りし、営業利益の半分にも届かない。転換社債と新株予約権は株式になり、株数は13%ほど増える。
配当性向は40%まで上がり、自社株買いも加わる。それでも、この筋書きが現実になる確率は低い。内燃機関の需要、インドの伸び、買収の成功が同時にそろう必要があるからだ。
- 小型エンジンバルブ:数量 15,490(出荷の本数(万本))× 価格 0.04(1本あたりの単価(万円))→ 売上 660 億円・営業利益 73 億円。本数1.12倍、中空バルブの比率上昇
- 舶用部品:数量 0.4(出荷の数(万セット))× 価格 268(1セットあたりの単価(万円))→ 売上 112 億円・営業利益 8 億円。造船・発電機向けが1.6倍
- 歯車・その他:数量 263(出荷の数(万個相当))× 価格 0.26(1個あたりの単価(万円))→ 売上 67 億円・営業利益 2 億円。歯車が黒字に戻る
倍率:事業の純利益 37 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.7% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 448 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:内燃機関の需要が会社の見立てどおり続き、さらにM&Aが当たる必要がある。昨期の利益が山だったことも考え、5%にとどめた。
やや楽観 17% やや楽観:インド増産が実り、利益率が8%台に乗る 利益 27 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 1,027 円296 億円
インドの増産と中空バルブの拡販が進み、バルブの本数は4%増える。北米も採算が上がる。歯車は赤字が止まり、舶用部品が小さな黒字になる。
営業利益率は8%台後半で、会社の計画9.2%には少し届かない。純利益は約27億円で、昨期の水準を3割ほど上回る。
株価が転換価額を超える局面で、転換社債と新株予約権が株になり、希薄化が起きる。配当性向は30%台で、還元は小さいままだ。
この筋書きは、昨期の改善が一時的でなかった場合の姿に近い。ただし会社の計画をそのままなぞったものではなく、子会社の少数株主への分配と更新投資を引くと、株主に届く利益は営業利益の4割ほどになる。
- 小型エンジンバルブ:数量 14,380(出荷の本数(万本))× 価格 0.04(1本あたりの単価(万円))→ 売上 595 億円・営業利益 60 億円。本数1.04倍、中空バルブ増
- 舶用部品:数量 0.4(出荷の数(万セット))× 価格 268(1セットあたりの単価(万円))→ 売上 98 億円・営業利益 5 億円。舶用が1.4倍
- 歯車・その他:数量 250(出荷の数(万個相当))× 価格 0.26(1個あたりの単価(万円))→ 売上 64 億円・営業利益 0 億円。歯車の赤字が止まる
倍率:事業の純利益 27 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.0% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 331 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の計画(営業利益率9.2%)に近い姿。中計の途中経過がよく、前の計画の達成実績もあるため、17%を置いた。
中立 35% 中立:本数はやや減り、値段は物価並み、利益率は7%台 利益 22 億円 · PER 12.1 倍 · 株価時価総額 866 円250 億円
バルブの本数は10年で5%減る。インドとASEANの二輪、船用の伸びが、欧米と中国の縮みを相殺する。値段は物価並みに上がり、高付加価値品でわずかに上乗せされる。
営業利益率は7.4%で、昨期の7.7%と過去12年の最高8.1%の間にとどまる。償却費は取得価格のままで増えない追い風があるが、顧客の値下げ要求と更新投資の増加が相殺する。
純利益は約22億円で、昨期と同水準だ。転換社債などは株になり、希薄化する。還元は小さく、自己資本が積み上がる。
売上は約690億円と、会社の計画(2029年3月期に630億円)の延長線上にある。ただし売上の伸びの大半は物価で、数量の伸びではない。ROEは5%前後にとどまり、資本コストを超えない。
- 小型エンジンバルブ:数量 13,140(出荷の本数(万本))× 価格 0.04(1本あたりの単価(万円))→ 売上 544 億円・営業利益 49 億円。本数0.95倍。値段1.38倍
- 舶用部品:数量 0.3(出荷の数(万セット))× 価格 268(1セットあたりの単価(万円))→ 売上 84 億円・営業利益 3 億円。舶用が1.2倍
- 歯車・その他:数量 237(出荷の数(万個相当))× 価格 0.26(1個あたりの単価(万円))→ 売上 60 億円・営業利益 −1 億円。歯車の赤字が残る
倍率:事業の純利益 22 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.1% が k 8.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.1 倍。全体の PER 12.12 倍、時価総額 261 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:内燃機関の需要は残るが、ハイブリッド化と電動化で本数がやや減る。インドの伸びで相殺される。昨期が山という点を踏まえ、最も確率の高い姿に35%を置いた。
やや悲観 28% やや悲観:電動化で本数が2割減り、利益率が4%台に戻る 利益 10 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 400 円115 億円
バルブの本数が2割減る。ハイブリッド化で気筒が減り、中国の日系メーカーが苦戦を続ける。顧客の値下げ要求が強まり、値段は物価の分も取れない。
営業利益率は4%台に戻る。歯車の赤字は残り、舶用部品も採算が悪い。純利益は約10億円まで落ちる。
株価が転換価額に届かないので、社債は転換されず、償還の資金が要る。希薄化はないが、15億円の返済が負担になる。配当は維持するが、増配は難しい。
この水準は、過去10年の実績に近い。昨期の改善を例外と見る立場では、むしろ自然な姿である。自己資本は積み上がるが、稼ぐ力に比べて資産が重い状態が続く。
- 小型エンジンバルブ:数量 11,060(出荷の本数(万本))× 価格 0.04(1本あたりの単価(万円))→ 売上 425 億円・営業利益 26 億円。本数0.8倍、値下げ要求
- 舶用部品:数量 0.2(出荷の数(万セット))× 価格 230(1セットあたりの単価(万円))→ 売上 54 億円・営業利益 1 億円。舶用の採算が悪い
- 歯車・その他:数量 184(出荷の数(万個相当))× 価格 0.22(1個あたりの単価(万円))→ 売上 41 億円・営業利益 −2 億円。歯車の赤字が続く
倍率:ROEは2%台でkを大きく下回る。正当化PERは約5.8倍だが、現金と土地の下支えを考え、約2割上の7.0倍に置いた。
確率:四輪の内燃機関向けが予想より早く縮み、顧客の値下げ要求も強まる。過去10年の水準(営業利益率2〜5%)に戻る姿。28%を置いた。
悲観 15% 悲観:電動化と北米・中国の不振で、稼ぐ力が失われる 利益 1 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 204 円59 億円
電動化が前倒しになり、バルブの本数が4割減る。北米と中国の不振が続き、拠点の減損が出る。値段も物価に追いつかない。
営業利益は数億円に落ち、歯車の赤字も残る。稼ぐ力では価値を測れず、現金と売れる資産が頼りになる。
配当は小さくなり、10年の還元は15億円にとどまる。買収に使うお金は、失敗した買収に消える可能性もある。
工場の稼働率が下がり、固定費が重くのしかかる。インドの増産投資も回収が遅れ、資金繰りのために政策保有株を売ることになる。自己資本は減損で250億円まで減る。
この時、同社が持つのは、現金と政策保有株、売れる土地だ。稼ぐ力に値段をつけるのは難しく、価値は資産の売却額に近づく。
- 小型エンジンバルブ:数量 8,300(出荷の本数(万本))× 価格 0.04(1本あたりの単価(万円))→ 売上 299 億円・営業利益 6 億円。本数0.6倍
- 舶用部品:数量 0.2(出荷の数(万セット))× 価格 220(1セットあたりの単価(万円))→ 売上 40 億円・営業利益 −1 億円。舶用の採算が悪い
- 歯車・その他:数量 105(出荷の数(万個相当))× 価格 0.20(1個あたりの単価(万円))→ 売上 21 億円・営業利益 −2 億円。歯車を縮小
倍率:稼ぐ力では測れない。純現金と、政策保有株・土地設備の売却の税後を合わせた約60億円を、今の自己資本310億円に対して0.19倍とした。
確率:内燃機関向けが構造的に縮み、価格競争と固定費の重さで赤字に近づく。三番手のバルブメーカーとして、起こりうる姿。15%を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
小型エンジンバルブ
四輪車・二輪車・発電機向けの小型エンジンバルブ。売上の約8割で、稼ぎの大半。
| 数量出荷の本数(万本) | 価格1本あたりの単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 13,830 | 0.03 | 415 | 44 |
| 10 年後 中立 | 13,140 | 0.04 | 544 | 49 |
取り方:売上415億円は開示。1本あたりの単価は、開示が無いため約0.03万円と推定し、約1.38億本(13,830万本)と置いた。営業利益は、全社40億円とセグメントの割合(1Qで全社を上回る)から43.5億円と推定。
舶用部品
船の中速エンジン向けと発電プラント向けの大型バルブ。工場火災の影響から回復中。
| 数量出荷の数(万セット) | 価格1セットあたりの単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 0.3 | 200 | 52 | 1 |
| 10 年後 中立 | 0.3 | 268 | 84 | 3 |
取り方:売上は1Q(11.7億円)の割合から約52億円と推定。単価は開示が無いため推定。営業利益は工場火災の影響から小幅な黒字と推定。
歯車・その他
精密鍛造の歯車と、機械加工などのその他。歯車の赤字が続く。
| 数量出荷の数(万個相当) | 価格1個あたりの単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 263 | 0.19 | 50 | −4 |
| 10 年後 中立 | 237 | 0.26 | 60 | −1 |
取り方:売上は517億円からバルブと舶用部品を引いた約50億円。単価は推定。歯車は営業赤字が続くため、全社費用を含めて−4億円とした(全社の営業利益40億円と合わせる)。
リスクと懸念
昨期の利益が山
2026年3月期の営業利益は前の期の2.7倍に跳ねた。値上げと円安、北米の改善が重なった結果で、過去10年の営業利益率は2〜5%にとどまる。2027年3月期は会社予想でも5%減る。
電動化と部品点数の減
売上の約8割がエンジンバルブ。ハイブリッド化で気筒が減り、バッテリー式の電気自動車が増えれば、本数が減る。会社は2040年も内燃機関は同じ台数とみるが、見立てが外れれば影響が大きい。
転換社債と新株予約権の希薄化
当初価額(今の株価の約1.4倍)で全部が株になると、株数は約13%増える。株価が上がるほど希薄化が進む仕組みで、価値の上振れを一部奪う。下限価額は今の株価に近い水準で、株価が下がると増える株数はさらに多い。
少数株主の取り分と更新投資
子会社の少数株主に毎年かなりの利益が流れる。3年間の分配は27億円で、親会社の株主への還元19億円より多い。設備の更新にも毎年多額の現金が要り、会計の利益ほど現金は残らない。
歯車・北米・中国の不振
歯車は営業赤字が続き、2期連続で減損を出した。北米は回復途上、中国は日系メーカーの苦戦で販売が落ちた。立て直しが遅れれば、全社の利益率の足かせになる。
M&Aの失敗
3年間でM&Aに100億円を投じる計画だ。経営の人材が足りず、外部のファンドに支援を頼る。買収の値段や相手を誤れば、資金が減損に変わる。
今後の分かれ目
- 2027年3月期の営業利益が会社予想の38億円を割り込んだら
- 昨期の利益が山だったと判断し、中立から悲観側へ確率を移す。
- インドの生産能力が計画どおり倍増し、現代自動車向けが伸びたら
- 楽観・やや楽観側に重みを移す。バルブの本数の伸びが電動化の縮みを上回る証拠になる。
- 歯車事業が黒字に戻り、減損が止まったら
- 全社の営業利益率が8%台に近づく。やや楽観の確率を上げる。
- 株価が当初の転換価額(今の株価の約1.4倍)を超え、転換社債・新株予約権が株に変わったら
- 株数が約13%増えるので、1株あたりの価値は同じ割合で薄まる。
- M&Aが実行され、買収額が100億円に近づいたら
- 買収先の質と値段で評価を分ける。高い値段なら悲観側の確率を上げる。
- ハイブリッド車や電気自動車の比率が、会社の見立てよりも早く上がったら
- バルブの本数が減る筋書きに確率を移す。
見ておくもの
- 営業利益率(昨期7.7%、会社計画9.2%)と、中空バルブの販売比率
- インドの生産能力と、現代自動車向けの販売
- 歯車・北米・中国の損益
- 転換社債・新株予約権の行使状況と株数
- M&Aの実行と、買収先の損益
- 少数株主への分配と、配当性向の水準
倍率と資本コストの決め方
倍率は利益ベースで置き、今の株価・過去や同業のPERは使っていない。ROEがkの9.0%に届かないため、正当化PER(RONIC方式、g4%)の約75〜85%に置いた。昨期の営業利益率7.7%は過去12年の最高8.1%に近い山なので、中立は7.4%に抑えた。会社目標の9.2%は楽観側に置いた。減価償却は取得価格のままで増えないとみて、新設備の分だけ増える。新リース会計基準の影響は小さく、10年後の数字は今と同じ形でそろえた。転換社債・新株予約権の希薄化は係数0.88で表し、株価が低い筋書きでは掛けていない。結果は4割近くの割高だが、株価に寄せて調整してはいない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 8.8→12.12 倍・やや楽観 PER 7.4→12.12 倍・中立 PER 6.4→12.12 倍)。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%に品質+1.5%を足して9.0%。会社自身の算出(約10%)とも近い。電動化の縮みは筋書きの数量にも入れ、確率では二重にしない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.00% → 8.50%。