結論
安永は、エンジンの中核部品(コンロッド、クランクシャフトなど)を作る三重県の部品メーカーだ。売上の 4 分の 3 がエンジン部品で、機械装置と環境機器が残りを支える。2026 年 3 月期は営業利益が 22 億円と前の期の 3 倍に跳ね、時価総額は 82 億円にすぎない。
筆者の結論は「やや割安」寄りだ。利益の平均が薄いこの会社でも、確率をかけた本質価値は今の時価総額を 2 割弱上回る。理由は、今の値段が 2026 年 3 月期の利益の 4 倍台で、先の縮みを織り込みすぎているからだ。
ただし安全な割安ではない。有利子負債は 121 億円と時価総額を上回り、メキシコなどへの設備投資は減価償却の 3 倍を超える。エンジン車が減る速さと、客先の値下げ要請を値上げで取り返せるかが、値打ちを決める。
筆者がいちばん気にしているのは、利益率の薄さだ。過去 9 年で営業利益率が 5% を超えたのは 3 期しかない。足元の 6.5% を平均と見ないことが、この銘柄を見るときの出発点になる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず「10 年後もこの事業は存在し、今より強いか」を問う。エンジン部品の専業は、この問いに自信を持って答えにくい。EV の比率が上がるほど、需要の天井が低くなる。強みは、環境機器という別の稼ぎがあることと、足元の利益で借入が返せる見通しが立ちつつあることだ。
株主のものになる利益は、営業利益 22 億円から利払い、税、設備投資の超過分を引いた額で、帳簿の利益より小さい。2026 年 3 月期は設備投資が償却を 43 億円上回り、営業の現金収入では賄えず借入が増えた。この支出が 10 年の稼ぎを増やさない限り、利益は株主の手に残らない。
経営は、不採算の鋳造を畳み、中計で ROE を目標に掲げた点で資本効率を意識している。反面、配当性向は低く、借入を抱えたまま成長投資を進める。
安全域は、今の値段が利益の 4 倍台にとどまる点にある。確率をかけた価値が今の時価総額を 2 割弱上回り、やや悲観でも今の値段にほぼ並ぶので、元本が大きく傷む形にはなりにくい。ただし、安全域の厚さは借入の重さと相殺される。この銘柄は、値段が安いのではなく、先が読みにくいから安いのだと筆者は見る。
何で稼ぐ会社か
稼ぎ口は 3 つある。1 つ目は売上の 76% を占めるエンジン部品で、2026 年 3 月期の売上は 257 億円。コンロッド、シリンダーヘッド、シリンダーブロック、カムシャフト、クランクシャフトを、トヨタ系を中心とする完成車メーカーに納める。トヨタ モーター アジアが売上の 13%、トヨタ自動車が 11% を占める。生産は三重県伊賀市の本社と、インドネシア、タイ、メキシコの子会社で行い、米国には販売会社を置く。鋳造事業は終了し、減損 3 億円を出した。
2 つ目は機械装置で売上 43 億円。トランスファーマシン(部品を順に加工する専用機)、NC 工作機械、ワイヤソー、外観検査装置、レーザセンサを作る。自動車メーカーの設備投資に左右され、2026 年 3 月期は営業損益がようやく黒字に戻った。改造案件とアフターサービスが採算を押し上げた。
3 つ目は環境機器で売上 52 億円、営業利益 5 億円と、利益率が最も高い。浄化槽用・医療機器用・燃料電池用のエアーポンプとディスポーザーを作る。エンジン部品の景気と無関係に動くので、全社の揺れを抑える役目を持つ。
全社の営業利益 22 億円のうち、エンジン部品が 19 億円、環境機器が 5 億円、機械装置が 1 億円で、本社費がその分を引く。
優良さと弱いところ
強みは、中身が詰まった精密部品を量産で作る技術と、トヨタ系との長い取引だ。コンロッドやクランクシャフトは寸法精度が車の振動と燃費に直結する。客先は簡単に仕入れ先を変えられず、車種が続く間は数量が読める。東南アジアとメキシコに現地工場を持つことも、客先の現地調達の要望に応える材料になっている。
弱みは 3 つある。第 1 に利益率の薄さだ。過去 9 年の営業利益率はマイナス 2% から 6.5% の間で、過去 20 年に赤字の期が 7 回ある。第 2 に値決め力がない。客先は毎年原価低減を求め、材料費や労務費の上昇を価格へ戻すのに時間がかかる。第 3 に用途が内燃機関に偏ることだ。有価証券報告書は、動力源が内燃機関を持たないものに変わる影響をリスクとして挙げている。
資本効率は、足元の ROE が 12.7% でも一過性が混じる。過去 10 年の中央値は 6% で、k の 9% 台を下回る。利益をためても自己資本が稼ぎに変わっていない。
経営の新しい動きは評価できる。中計は 2029 年 3 月期に営業利益 41 億円、ROE 15% を掲げ、不採算の鋳造を畳んだ。ただ、設備投資は 61 億円と減価償却の 18 億円の 3 倍を超える。この投資が稼ぎに変わるかを、次の 3 年で見る必要がある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
世界の新車販売は 2025 年に約 1 億台。そのうち EV が 4 分の 1 に達し、中国が最多で欧州も伸びる。日本国内の EV 比率はまだ 3% に届かず、国内メーカーはハイブリッド車を軸にしている。エンジン部品の需要は、この混合の中で長くゆっくり縮む形だ。
EV 化は、この会社の主力にとって直接の逆風になる。EV にコンロッドもクランクシャフトも要らない。要る部品は、ハイブリッド車と内燃機関の車が残る間に限られる。トヨタが全方位の戦略を保つ間は、国内とタイの需要が急には崩れない。一方で、米国の関税や日産の再編のような客先の事情が、数量を乱す。
客先の値下げ要請は構造的だ。完成車メーカーは EV 投資の資金を部品の原価低減で補おうとする。値上げを通せるのは、労務費や電気代の上昇分に限られる。
競合は、愛知製鋼や大同特殊鋼のような素材系と、エクセディ、フタバ産業のような駆動・排気系の専業。同じエンジン部品でも、安永のコンロッドとクランクの専業ははっきりしている。機械装置は、自動車メーカーと工作機械メーカーの設備投資が景気に左右される。環境機器は国内の住宅着工と浄化槽の更新に結びつき、数量は人口とともに緩やかに減る。
資本政策と M&A
還元は安定配当が基本で、年 2 回払う。2026 年 3 月期は性向 13% ほどで、利益の上振れの割に出していない。借入が重く、設備投資を優先しているためだ。2023 年には自己株式の公開買付けを行い、自己株式を持つ。株式を使った資本政策には前例があるが、今回の分析では 1 株の数に影響しないとみて、配当と自己株式の合計を還元とした。
資本の使い方で気にしているのは、メキシコの生産設備への投資だ。今後に 7 億円と 18 億円の計画がある。北米向けの需要が想定を上回っているとはいえ、客先の車種の入れ替えで稼働が上がらない危険がある。
政策保有株は 61 銘柄で簿価 11 億円。大きな規模ではなく、売却の余地は小さい。
買収される可能性は 10 年で 3 割ほどと推計される。時価総額が小さく、自己資本の割に値段が低いので、ほかの部品メーカーや投資会社が狙う余地はある。本質価値の数字は事業の稼ぎで置いてあり、TOB の上乗せは含まない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
2026 年 3 月期の営業利益 22 億円は偶然ではない。エンジン部品は国内と北米の需要が想定を上回り、機械装置は改造とアフターサービスで黒字化し、環境機器は営業利益が 2 倍以上に伸びた。3 本柱がそろって増益になった。会社の 2029 年 3 月期の計画は売上 450 億円、営業利益 41 億円、ROE 15%。鋳造を畳み、メキシコに設備を入れ、固定費を下げた上での数字だ。
EV 化の速度は、市場が思うほど速くない。先進国では政策が見直され、日本はハイブリッド車が主役で、トヨタ向けの数量は急には落ちない。時価総額は 82 億円で、2026 年 3 月期の純利益 19 億円の 4 倍台。自己資本 147 億円の 6 割にすぎない。利益が半分に戻っても、この値段は高くない。借入は 121 億円あるが、営業のキャッシュ収入と設備投資が落ち着けば、返済に向かえる。2 年連続で営業利益が 20 億円を保てば、市場は借入の重さへの割引を見直さざるを得ない。
慎重な見方
利益の質を見るべきだ。2026 年 3 月期の営業利益率 6.5% は過去 9 年で最高で、2025 年 3 月期は 2.4%、その前は 2.0% だった。足元の上振れは需要の山と改造案件の一時的な押し上げで、平均値ではない。2016 年 3 月期以降の 11 期のうち、純損失は 4 期ある。
借入は自己資本の 8 割、営業利益の支払利息に対する倍率は 10 倍を切る。金利が 3.5% に上がれば利払いが 3 億円増える。設備投資は償却の 3 倍で、借入で賄っている。メキシコの設備投資が稼働しなければ、減損と利払いが重なる。
そもそも主力はエンジン部品で、EV は逆風でしかない。トヨタ向けが 24% と大きく、客先が部品の内製や仕入れ先の絞り込みに動けば数量が落ちる。値下げ要請は続き、価格は物価に届かない。10 年後に EV が世界の新車の半分を超えれば、ハイブリッド車の恩恵も細る。安い値段は、先が読めないことへの当然の割引だ。
どちらに重みを置いたか
足元の上振れは本物だが、平均は薄いという慎重な見方のほうが 10 年の中立に近い。そのうえで、値段が利益の 4 倍台まで割り引かれているので、中立でも今の時価総額を上回る。確率は中立に 3 割強を置き、やや悲観と悲観に合わせて 4 割弱を置いた。EV 化と借入の重さを悲観側に十分に反映し、楽観は 1 割に届かない 8% にとどめた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,840 円190 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 409 円42 億円)。 今の値に割り戻すと 1,002 円103 億円、今との差 +31.7%、 期待の年率 +11.4%(資本コスト 9.5%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 3,484 円359 億円 | 971 円100 億円 | +485.4% | +19.3% | 356 円37 億円 |
| やや楽観 | 20% | 2,711 円279 億円 | 602 円62 億円 | +335.3% | +15.8% | 663 円68 億円 |
| 中立 | 34% | 2,310 円238 億円 | 437 円45 億円 | +261.0% | +13.7% | 934 円96 億円 |
| やや悲観 | 24% | 770 円79 億円 | 214 円22 億円 | +29.3% | +2.6% | 236 円24 億円 |
| 悲観 | 14% | 349 円36 億円 | 78 円8 億円 | −43.9% | −5.6% | 60 円6 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,840 円190 億円 | 409 円42 億円 | +195.5% | +11.4% | 2,249 円232 億円 |
今の株価時価総額 761 円78 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.5% を下回るほど割高。
楽観 8% HEV と北米の内燃機関が長持ちし、メキシコ増強が実り、計画の水準に届く 利益 27 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 3,484 円359 億円
世界の新車は EV が 4 分の 1 に達しても、残りの 4 分の 3 はエンジン車とハイブリッド車だ。トヨタのハイブリッド車が伸び続け、コンロッドやクランクシャフトのような中身の詰まった部品の需要が 10 年落ちない。北米向けの需要が想定を上回った 2026 年 3 月期の流れが続き、メキシコの新設備が稼働して売上は 450 億円に近づく。機械装置は改造とアフターサービスの採算が定着し、環境機器は医療向けとディスポーザーが伸びる。営業利益は 34 億円と、会社計画の 41 億円に 8 割まで寄る。有利子負債は利益で返せ、配当は性向 4 割まで上がる。それでも自己資本が積み上がるので、ROE は 1 割前後にとどまる。
- エンジン部品:数量 158(搭載車の台数換算(万台。推定))× 価格 2.22(1 万台あたりの売上(億円))→ 売上 349 億円・営業利益 24 億円。搭載車換算 157 万台(推定)× 値上げ 1.34 倍。営業利益率 7%(2026/03 期のセグメント実績 7.3% に近い)
- 機械装置:数量 130(納入台数(推定))× 価格 0.56(1 台あたりの売上(億円))→ 売上 73 億円・営業利益 4 億円。改造・新設 130 台 × 1.34 倍、利益率 6%
- 環境機器:数量 46.0(出荷台数(万台。推定))× 価格 1.67(1 万台あたりの売上(億円))→ 売上 77 億円・営業利益 9 億円。出荷 46 万台 × 1.34 倍、利益率 11.5%(実績 9.6%)
倍率:事業の純利益 27 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.0% が k 9.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍。全体の PER 11.42 倍、時価総額 312 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の第 8 次中計は 2029 年 3 月期に営業利益 41 億円を掲げる。2026 年 3 月期に 22 億円まで来たが、赤字の期が 7 回ある会社で、計画どおりに行く見込みは 1 割に届かない。EV 化と客先の値下げ要請を見ると、8% 止まりとした。
やや楽観 20% 内燃機関の減りは緩やかで、客先の値下げ要請をほぼ価格に戻せる 利益 21 億円 · PER 10.6 倍 · 株価時価総額 2,711 円279 億円
ハイブリッド車の比率が上がる日本とタイで、エンジン部品の出荷は 2 割弱減るにとどまる。メキシコと北米の需要が埋め合わせる。値上げは物価の 1.34 倍に届かず 1.31 倍になるが、労務費の転嫁は進む。機械装置は 4.5% の利益率、環境機器は 1 割の利益率で、営業利益は 25 億円を超える。借入が重く金利が 3.5% に上がるため、純利益は営業利益の 8 割に届かない。配当は性向 3 割台を保つ。客先のトヨタ系は国内で車種の入れ替えを進めるが、コンロッドやクランクシャフトの量産ラインは数年先まで契約が見える。環境機器の浄化槽向けは国内の住宅着工とともに緩やかに減るが、医療機器向けのポンプがその分を埋める。ただし楽観ほどには利益率が上がらず、営業利益は計画の 41 億円には届かない。
- エンジン部品:数量 147(搭載車の台数換算(万台。推定))× 価格 2.17(1 万台あたりの売上(億円))→ 売上 318 億円・営業利益 20 億円。搭載車換算 147 万台、価格 1.31 倍(値下げ要請で物価に届かず)、利益率 6.2%
- 機械装置:数量 110(納入台数(推定))× 価格 0.56(1 台あたりの売上(億円))→ 売上 61 億円・営業利益 3 億円。110 台 × 1.34 倍、利益率 4.5%
- 環境機器:数量 44.0(出荷台数(万台。推定))× 価格 1.67(1 万台あたりの売上(億円))→ 売上 74 億円・営業利益 8 億円。44 万台 × 1.34 倍、利益率 10.5%
倍率:事業の純利益 20 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.8% が k 9.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 10.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 10.6 倍。全体の PER 10.63 倍、時価総額 218 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:2023 年 3 月期から 2026 年 3 月期まで営業利益は 12→6→8→22 億円と振れた。足元の上振れが 2 年続く確率は五分五分で、中立より少し軽く置く。
中立 34% ハイブリッドは持つが内燃機関は縮み、薄い利益率のまま名目で少し伸びる 利益 16 億円 · PER 10.5 倍 · 株価時価総額 2,310 円238 億円
世界の EV 比率が 3 割を超えても、トヨタ向けを中心にハイブリッド車が残り、エンジン部品の数量は 10 年で 1 割減る。客先の原価低減要請があり、価格は物価の 1.34 倍に届かず 1.28 倍。エンジン部品の営業利益率は 5% と、2026 年 3 月期の 7% を割り引く。機械装置は 3%、環境機器は 9.5%。本社費は物価で 1.34 倍に増える。営業利益は 21 億円、借入の利払いが増える分を含めて純利益は 16 億円。減価償却は 2026 年 3 月期の 18 億円から、メキシコなど新設備の分だけ増える。設備投資は償却を大きく上回り続け、借入は減らない。
- エンジン部品:数量 135(搭載車の台数換算(万台。推定))× 価格 2.12(1 万台あたりの売上(億円))→ 売上 286 億円・営業利益 14 億円。搭載車換算 135 万台(EV 化とハイブリッド車の比率上昇で 1 割減)× 価格 1.28 倍、利益率 5%
- 機械装置:数量 100(納入台数(推定))× 価格 0.56(1 台あたりの売上(億円))→ 売上 56 億円・営業利益 2 億円。100 台 × 1.34 倍、利益率 3%(実績 2.4%)
- 環境機器:数量 42.0(出荷台数(万台。推定))× 価格 1.67(1 万台あたりの売上(億円))→ 売上 70 億円・営業利益 7 億円。42 万台 × 1.34 倍、利益率 9.5%(実績 9.6%)
倍率:事業の純利益 16 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.2% が k 9.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 10.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 10.5 倍。全体の PER 10.53 倍、時価総額 168 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:2018 年 3 月期から 2026 年 3 月期までの営業利益率は平均 3% 台で、5% を超えたのは 3 期だけ。中計の 41 億円は遠く、過去の平均より少し上の水準で中立を置いた。
やや悲観 24% EV 化で主力部品が減り、固定費が重く利益率が 1% 台に戻る 利益 6 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 770 円79 億円
日本・タイ・インドネシアの完成車工場でエンジン車の生産が減り、エンジン部品の数量は 10 年で 4 分の 1 減る。メキシコの新設備は稼働が上がらず、償却と利払いが利益を食う。客先は値下げを求め、価格は物価の 1.34 倍に届かず 1.22 倍にとどまる。エンジン部品の営業利益率は 3%、機械装置は収支とんとん、環境機器は 8.5% を保つ。本社費は物価で増える。営業利益は 9 億円まで落ち、金利の上昇で純利益は 5 億円台になる。配当は性向を保てず、ピーク時の半分に減る。2020 年 3 月期から 3 期続いた赤字の再来までは行かないが、借入の返済は遅れ、設備の更新は先送りされる。
- エンジン部品:数量 113(搭載車の台数換算(万台。推定))× 価格 2.02(1 万台あたりの売上(億円))→ 売上 227 億円・営業利益 7 億円。搭載車換算 113 万台 × 1.22 倍、利益率 3%
- 機械装置:数量 90.0(納入台数(推定))× 価格 0.52(1 台あたりの売上(億円))→ 売上 47 億円・営業利益 1 億円。90 台 × 1.25 倍、利益率 1%
- 環境機器:数量 40.0(出荷台数(万台。推定))× 価格 1.62(1 万台あたりの売上(億円))→ 売上 65 億円・営業利益 6 億円。40 万台 × 1.30 倍、利益率 8.5%
倍率:ROE 2.8% で稼ぎは k に届かない。PER は 1÷k の 10.8 倍が上限で、利益が薄く借入が重いので 8.0 倍に割り引く。EV(時価総額 + 純有利子負債 121 億円)÷ 営業利益は 18 倍まで上がるため、これ以上は高く置けない。
確率:2020 年 3 月期から 2022 年 3 月期は営業赤字が 3 期続いた。需要減と原価上昇が同時に来た前例があり、確率を 1/4 近くに置いた。
悲観 14% 主力のエンジン部品が構造的に縮み、借入だけが残る 利益 −8 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 349 円36 億円
トヨタ向けを含めてエンジン車の生産が構造的に減り、エンジン部品の数量は 10 年で半分以下になる。メキシコとタイの設備は遊び、減損が出る。客先は値下げを迫り価格は 1.15 倍にとどまる。エンジン部品は赤字(利益率 −3%)、機械装置も赤字。環境機器の黒字は 2.5 億円で全体を支えられない。営業損失は 6 億円、純損失は 8 億円。借入は減らず利払いが重い。配当は大きく減り、売れる資産と取引先への継続を頼りに生き残る。2021 年 3 月期と 2022 年 3 月期の赤字を超える落ち込みが、数年続く形だ。機械装置の客先である自動車メーカーも設備投資を絞るので、手元の受注の穴埋めも効かない。売上は 300 億円を割り込み、固定費の重い国内工場の稼働が下がる。
- エンジン部品:数量 67.5(搭載車の台数換算(万台。推定))× 価格 1.90(1 万台あたりの売上(億円))→ 売上 128 億円・営業利益 −4 億円。搭載車換算 68 万台 × 1.15 倍、利益率 −3%
- 機械装置:数量 60.0(納入台数(推定))× 価格 0.46(1 台あたりの売上(億円))→ 売上 28 億円・営業利益 −1 億円。60 台 × 1.10 倍、利益率 −5%
- 環境機器:数量 34.0(出荷台数(万台。推定))× 価格 1.50(1 万台あたりの売上(億円))→ 売上 51 億円・営業利益 3 億円。34 万台 × 1.20 倍、利益率 5%
倍率:赤字で稼ぐ力では測れない。売れる資産の税後 38 億円(下の内訳)に近く、減損後の自己資本 120 億円に 0.3 倍を掛けた 36 億円とした。今の自己資本 147 億円に対しては 0.25 倍にあたる。事業の経済性から置いた値で、市場の値付けには依らない。
確率:2021 年 3 月期と 2022 年 3 月期に純損失 26 億円と 11 億円を出した。借入 121 億円は自己資本の 8 割あり、需要が半分になれば固定費と利払いで赤字が続く。確率は 14%。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
エンジン部品
コンロッド、シリンダーヘッド・ブロック、カムシャフト、クランクシャフトなどの自動車エンジン用の中核部品。
| 数量搭載車の台数換算(万台。推定) | 価格1 万台あたりの売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 150 | 1.65 | 248 | 19 |
| 10 年後 中立 | 135 | 2.12 | 286 | 14 |
取り方:部品ごとの出荷数は開示がない。売上 257 億円(セグメント間取引を含む。全社の外部売上 340 億円に合わせて 0.964 を掛けて 248 億円)を、1 万台あたり 1.65 億円という推定で、搭載車 150 万台相当と置いた。営業利益 18.8 億円は開示。数量の推定が主で、価格は台数で割った値段の指数。
機械装置
トランスファーマシン、NC 工作機械、ワイヤソー、外観検査装置、レーザセンサ。自動車メーカーの設備投資が主な需要。
| 数量納入台数(推定) | 価格1 台あたりの売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 0.42 | 42 | 1 |
| 10 年後 中立 | 100 | 0.56 | 56 | 2 |
取り方:売上 43.1 億円(内部取引を除き 41.6 億円)。1 台 4,000 万円の標準機と改造案件が混ざるとして、100 台相当と推定。営業利益 1.0 億円は開示(前期は赤字)。
環境機器
浄化槽・医療機器・燃料電池向けのエアーポンプ、ディスポーザーシステム。
| 数量出荷台数(万台。推定) | 価格1 万台あたりの売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 40.0 | 1.25 | 50 | 5 |
| 10 年後 中立 | 42.0 | 1.67 | 70 | 7 |
取り方:売上 51.7 億円(内部取引を除き 49.9 億円)。ポンプとディスポーザーを平均 1.25 万円として 40 万台相当と推定。営業利益 5.0 億円は開示(前期比 2.3 倍)。
リスクと懸念
EV 化でエンジン部品が縮む
コンロッドやクランクシャフトは EV に要らない。売上の 76% が内燃機関向けで、ハイブリッド車が長持ちしても 10 年で数量は 1 割から 5 割減る。需要の天井は年々下がる。
客先の値下げ要請と薄い利益率
完成車メーカーは原価低減を求め続ける。価格は物価の 1.34 倍に届かず、営業利益率は薄く、マイナス 2% から 6.5% の間で振れる。人件費と電気代の上昇を価格へ戻す時間差が、利益を削る。
借入の重さと金利上昇
純有利子負債は 121 億円で自己資本の 8 割。借り換えで金利が 3.5% に上がれば利払いが数億円増える。設備投資が減価償却の 3 倍で、借入は簡単に減らない。
メキシコなど海外設備の稼働
メキシコ子会社に 7 億円と 18 億円の設備投資を予定する。北米の関税や客先の車種の入れ替えで稼働が上がらなければ、償却と利払いが先に来て、減損の危険が出る。
特定客先と地域への集中
トヨタ向けが 24% を占め、国内生産は三重県に集まる。南海トラフ地震の被害や客先の調達方針の変更が、数量と操業に直結する。
機械装置の浮き沈み
機械装置は自動車メーカーの設備投資に左右され、前の期まで赤字だった。改造案件の押し上げが続かなければ、黒字は再び消える。
今後の分かれ目
- 営業利益率が 2 年続けて 5% を超える
- 足元の水準が平均に近いと見て、中立の営業利益を上に直し、楽観の確率を上げる。
- メキシコの新設備が計画より早く稼働率を上げる
- エンジン部品の数量の下振れを小さく見直し、やや悲観の確率を下げる。
- トヨタなど主力の客先がハイブリッド車の生産計画を減らす
- 数量の縮みを速く見て、やや悲観と悲観の確率を上げる。
- 設備投資が一巡し、純有利子負債が 100 億円を切る
- 借入の重さによる割引を小さくし、中立の倍率を上げる余地が出る。
- 配当性向を 3 割以上に引き上げる方針が出る
- 還元の積み上がりを見直し、資本政策を評価し直す。
- 他社や投資会社から買収提案が出る
- 提案価格と事業の本質価値を比べる。本質価値は事業の稼ぎで置いているので、上乗せ分は別に見る。
見ておくもの
- エンジン部品の売上と営業利益率(5% を保てるか)
- 純有利子負債と設備投資・減価償却の差
- トヨタ向けの売上比率と、ハイブリッド車の生産計画
- メキシコ子会社の稼働と減損の有無
- 第 8 次中計の 2029 年 3 月期目標(営業利益 41 億円、ROE 15%)の進み具合
倍率と資本コストの決め方
数量 × 価格をセグメントごとに積み、k と ROE から倍率を決めた。ROE が k 以下なので PER は 1÷k の 10.8 倍を上限に、中立 8.0 倍と置いた。今の時価総額は 82 億円、2026 年 3 月期の純利益の 4 倍台だが、この値段には寄せていない。足元の営業利益率 6.5% は平均とみなさず、過去 9 年の平均に近い 5%(エンジン部品)で中立を置いた。今の株価の安さには頼らず、事業の稼ぎから価値を出している。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10→11.42 倍・やや楽観 PER 8.6→10.63 倍・中立 PER 8→10.53 倍)。
資本コスト 9.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。