結論
カネミツは、車のエンジン周りで使う鋼板製のプーリ(ベルトを掛ける車輪)の専業メーカーだ。1 枚の鋼板から一体成形する技術を持つ。筆者の結論は、10 年の価値は今の時価総額をやや下回る、というものだ。現金は時価総額の半分を占めるが、主力は電動化で縮む。
いちばん気になるのは、売上の約 75% が内燃機関向けという点だ。電気自動車にはベルトで回す補機が少なく、プーリの需要は減る。会社も有報で、電動化による需要減の懸念を認めている。
救いは財務の厚さだ。自己資本比率は 77% で、純現金は約 33 億円ある。しかも最大の取引先アイシンの比率は 2 割弱にとどまる。ただ、現金を株主に戻す姿勢は強くない。
中立では、10 年後の営業利益は今と同じ 9 億円台にとどまる。主力が 4 割縮み、電動車部品とロボット部品が半分ほど埋めるためだ。
新しい柱は、まだ売上の 4 分の 1 にすぎない。会社の計画も、10 年で 35% に高める程度で、主力の穴を一気に埋める規模ではない。時間は味方につくが、余裕があるわけでもない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、現金の厚さと本業の将来を分けて見る。現金は本物だが、本業は先細りする側にある。
主力のプーリは電動化で需要が減る。10 年後も今と同じ規模を保てるとは言い切れない。中計が掲げる電動車部品とロボット部品が、どこまで穴を埋めるかが評価の中心になる。
株主のものになる利益は小さい。営業利益は 9 億円だが、新ラインの投資と更新で設備投資が続き、減価償却との差は小さい。現金は積み上がるが、事業に再投資しても資本コストを上回る稼ぎが出ていない。
経営は慎重で、財務は健全だ。それでも、余った現金を株主に戻す動きは弱い。現金の価値は戻り方を割り引いて見る。
安全域は、現金と上場株にある。悲観でも、これらが床を作る。払う値段の半分が現金で裏づけられている点は、小さな会社としては評価できる。
何で稼ぐ会社か
カネミツは 1961 年に独自の回転成形法を開発し、1 枚の鋼板から一体でプーリを成形する技術を確立した。主力は自動車、農業機械、一般機械向けの鋼板製プーリだ。
プーリで培った塑性加工(金属を押して形を作る技術)を、変速機部品、電動車部品、電動パワーステアリング部品、モーターコアに広げている。ロボット部品は次の柱だ。
2026 年 3 月期の連結売上は 110 億円、営業利益は 8.8 億円。地域別では、日本が約 81 億円、東南アジアが約 21 億円、中国が約 8 億円。海外比率は 26%。最大の取引先はアイシンで、売上の 19.2% を占める。
子会社は、タイ、中国、インドネシアに生産拠点があり、国内に機械加工の松本精工と金属プレスの津村製作所がある。モーターコア関連のキーネクストが持分法の関連会社だ。従業員は連結で 569 人。
利益率は 8% 前後で、自動車部品としては悪くない。研究開発費は年 2.2 億円、売上の 2% ほど。2026 年 3 月期の設備投資は 4.9 億円で、今後は加西工場のロボット用部品の新ラインに 5.8 億円を見込む。
優良さと弱いところ
一言でいえば、独自の成形技術を持つ小さな専業メーカーだが、主力の需要が先細りする会社だ。
強みは、回転成形による一体成形だ。継ぎ目のない一体物で作る点が特徴だ。1961 年から続く量産の経験が、品質の信頼を支える。
弱みは 3 つある。1 つ目は内燃機関への依存で、売上の 75% を占める。2 つ目はアイシンなど、価格を決める側の顧客が強いこと。3 つ目は規模の小ささで、新製品の開発に使える資金に限りがある。
資本効率は低い。過去 10 年の ROE の中央値は 5.7% で、資本コストを下回る。自己資本比率が 77% と高く、現金が積み上がっていることが、ROE を押し下げる主因だ。
経営は慎重で、過去 10 年の赤字は 2021 年 3 月期だけ。前中計では営業利益と ROE の目標を達成した。ただ、売り上げの目標には届かなかった。堀の評価は普通にとどめる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
自動車部品業界の最大の変化は、電動化だ。世界の電気自動車は 2025 年に新車の約 25% に達した。エンジンを持たない車が増えるほど、エンジン補機の部品は需要が減る。
ただし、縮み方は地域で違う。日本ではハイブリッド車が中心で、電気自動車の比率は 3% に届かない。東南アジアでは、タイのピックアップトラックなど内燃機関車が長く残る。カネミツは国内の完成車メーカーとその仕入れ先が主な顧客なので、世界平均よりは縮み方が緩やかだ。
一方で、変速機部品は電動化の影響が大きい。電気自動車は多段変速機が要らないからだ。
成長分野は、電動車向けのモーターコアと駆動部品、ロボットの減速機などの部品だ。ロボットは労働力不足で需要が伸びるが、競合も多い。
自動車メーカーは部品の値下げを毎年求める。物価が年 3% の世界では、小さな部品メーカーほど原価の上昇を転嫁しにくい。
世界の部品業界では、電動化で部品点数が減り、サプライヤーの再編も進む。取引先の統合や内製化の動きは、規模の小さい専業メーカーにとって、受注が一度に動くリスクになる。
資本政策と M&A
還元は安定を重んじる。配当性向は 25% ほどで、2026 年 3 月期は記念配当を含めた。新しい中計は、自己資本に対する配当(DOE)2.5% を目標に掲げる。年 3 億円台で、純利益の 4 割強にあたる。
純現金は 33 億円。3 年前は 13 億円だったので、積み上がりが速い。成長投資は中計で 3 年 34 億円を見込むが、内訳のうち 5 億円が M&A とアライアンスだ。津村製作所や松本精工を買収した実績がある。
上場株を三菱電機、極東開発工業、クボタなどで約 12 億円持つ(有報の表記に不整合があり目安)。配当収入は利益に入っているため、別に価値を足さない。
株主には創業家、従業員持株会、大阪中小企業投資育成が並び、親会社はない。TOB の発表は確認できなかった。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
電動化の見方は悲観に偏りすぎている。世界の自動車の大半はまだ内燃機関車で、国内ではハイブリッド車が主流だ。タイを中心とした東南アジアでは、内燃機関車が今後も長く残る。
同社は技術のある小さな専業メーカーだ。鋼板を一体成形する技術は、モーターコアやロボット用部品にも使える。中計は ICE 以外の比率を 35% 以上に高める。売り上げ 150 億円、営業利益 18 億円を 2035 年に掲げており、実現すれば価値は今の 2 倍になる。
財務の裏づけも厚い。自己資本比率は 77% で、純現金は時価総額の半分にあたる。その現金が成長投資に回り、同社の稼ぐ力を高めれば、再評価の余地は大きい。
前の中計では、営業利益と ROE の目標を達成した。計画を実行する力は確かだ。小さな会社が一つの技術を横に広げる、典型的な成長の形でもある。
自動車以外へ売り先を広げれば、電動化の影響を受けにくい収益の柱が育ち、利益の質も上がる。
慎重な見方
主力製品の運命は、構造で決まる。電気自動車にはエンジン補機が少なく、プーリの需要は不可逆的に減る。売上の 75% を占める事業が、今後 10 年で 4 割から 5 割縮むのは自然な見方だ。
新しい柱は未知数だ。ロボット用部品は競合が多く、カネミツの規模では価格を決められない。電動車向けのモーターコアも、大手が内製する恐れがある。前の中計では売り上げ目標に届かなかった。
最大の取引先アイシンは変速機の電動化で、調達を見直す可能性がある。1 社の動きで売り上げが数億円動く。
現金は厚いが、株主に戻る保証はない。成長投資 34 億円の内訳は半分が不明で、使い方次第で価値が落ちる。ROE は過去 10 年で 5.7% と、資本コストを下回り続けている。投資が増えれば、償却の負担も重くなる。
国内は少子化で工場の人手も確保しにくく、人件費の上昇が利益率をさらに削る。物価が上がる世界で、価格を上げにくい部品メーカーは不利になる。
どちらに重みを置いたか
強い論点は慎重な側にある。主力の縮みは構造で、新しい柱の規模はまだ小さい。ただ、現金が厚く、悲観でも床がある点が楽観を支える。
確率は、中立を 34% と最も重く置き、やや悲観と悲観を合わせて 44% にした。楽観側は合わせて 22%。現金の厚さは悲観の深さを抑えるが、本業の稼ぐ力が資本コストに届かない点を打ち消すほどではないと判断した。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,830 円94 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 494 円25 億円)。 今の値に割り戻すと 1,138 円58 億円、今との差 −4.3%、 期待の年率 +6.9%(資本コスト 8.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 3,356 円172 億円 | 939 円48 億円 | +261.2% | +13.7% | 258 円13 億円 |
| やや楽観 | 16% | 2,801 円143 億円 | 743 円38 億円 | +198.1% | +11.5% | 567 円29 億円 |
| 中立 | 34% | 2,247 円115 億円 | 587 円30 億円 | +138.3% | +9.1% | 963 円49 億円 |
| やや悲観 | 28% | 1,120 円57 億円 | 391 円20 億円 | +27.1% | +2.4% | 423 円22 億円 |
| 悲観 | 16% | 645 円33 億円 | 59 円3 億円 | −40.8% | −5.1% | 113 円6 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,830 円94 億円 | 494 円25 億円 | +95.5% | +6.9% | 2,324 円119 億円 |
今の株価時価総額 1,189 円61 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 6% 会社の計画どおり電動車とロボット向けが育つ 利益 14 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 3,356 円172 億円
電動化は緩やかに進み、内燃機関車の台数は世界で今の 8 割残る。国内とタイでは、小型車と商用車の需要が底堅い。主力のプーリの個数は 2 割減にとどまる。
その間に、電動車向けの部品、モーターコア、ロボット用の減速機部品が量産に入る。ICE 以外の販売は今の 2.6 倍になり、売上全体の半分を超える。会社の中計が掲げる「ICE 以外 35% 以上」を大きく超える姿だ。
利益率は 9% に乗る。固定費は売上の伸びで薄まり、新ラインの立ち上げ費用も一巡する。ただ、営業利益 16 億円は会社が 2035 年に掲げる 18 億円に届かない水準で、会社計画より控えめだ。
- ICE 関連(鋼板製プーリ・変速機などのエンジン周り部品):数量 32.0(年間の販売数(百万個相当))× 価格 0.28(1 個あたり売上(千円))→ 売上 89 億円・営業利益 8 億円。ICE 関連 営業利益率 9.5%
- ICE 以外(xEV 部品・モーターコア・ロボット部品など):数量 20.8(年間の販売数(百万個相当))× 価格 0.45(1 個あたり売上(千円))→ 売上 93 億円・営業利益 8 億円。ICE 以外 営業利益率 8.5%
倍率:事業の純利益 13 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.6% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)16 億円。全体の PER 11.76 倍、時価総額 172 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:5 本柱がそろって量産に乗り、同時に内燃機関車の縮みが緩やかな条件が要る。前の計画で売り上げは未達だったので 6% にとどめた。
やや楽観 16% ICE 以外が 2 倍に育ち、主力の縮みを埋める 利益 10 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 2,801 円143 億円
内燃機関車向けの個数は 3 割強減る。ただ、タイ・インドネシアの工場は新興国の需要で稼働を保つ。単価は物価の 9 割ほどしか転嫁できず、10 年で 1.30 倍にとどまる。
電動車部品、モーターコア、ロボット用部品が 2.2 倍に伸び、ICE 以外の売上は 77 億円に育つ。ロボット用部品は、加西工場の新ラインが立ち上がる計画だ。
営業利益率は 8.2% と今並みで、売上規模は 150 億円に達する。会社の目標(2035 年に 150 億円)に届くが、利益は計画の 18 億円に届かず 12 億円にとどまる。
- ICE 関連(鋼板製プーリ・変速機などのエンジン周り部品):数量 27.2(年間の販売数(百万個相当))× 価格 0.27(1 個あたり売上(千円))→ 売上 73 億円・営業利益 7 億円。ICE 関連 営業利益率 9.0%
- ICE 以外(xEV 部品・モーターコア・ロボット部品など):数量 17.6(年間の販売数(百万個相当))× 価格 0.44(1 個あたり売上(千円))→ 売上 77 億円・営業利益 6 億円。ICE 以外 営業利益率 7.5%
倍率:事業の純利益 10 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.8% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)16 億円。全体の PER 11.76 倍、時価総額 135 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計の方向に近い筋書きで、前中計で営業利益の目標を達成した実績が下支えになる。
中立 34% 主力は 4 割縮み、新しい柱が半分を埋める 利益 7 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 2,247 円115 億円
中立では、内燃機関車の生産が世界で 4 割ほど減り、プーリの個数も同じ割合で減る。国内の大手完成車メーカーは、ハイブリッド車を軸にした複数路線を続けるため、急には減らない。最大の取引先アイシンの調達方針が分かれ目になる。
ICE 以外は 1.8 倍に伸びる。会社が掲げる比率 35% 以上は達成するが、規模は計画を下回る。主要顧客から値下げを求められ、単価は物価ほど上がらず 10 年で 1.25〜1.28 倍にとどまる。
営業利益は 9 億円台。売上規模は今より 14% 大きいが、利益率は 7.5% と今の 8.0% を少し下回る。新ラインの償却と人件費の上昇が重い。会社の計画(FY29 に 11 億円)は達成されない前提だ。
- ICE 関連(鋼板製プーリ・変速機などのエンジン周り部品):数量 24.0(年間の販売数(百万個相当))× 価格 0.27(1 個あたり売上(千円))→ 売上 64 億円・営業利益 5 億円。ICE 関連 営業利益率 8.5%
- ICE 以外(xEV 部品・モーターコア・ロボット部品など):数量 14.4(年間の販売数(百万個相当))× 価格 0.43(1 個あたり売上(千円))→ 売上 62 億円・営業利益 4 億円。ICE 以外 営業利益率 6.5%
倍率:事業の純利益 7 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.7% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)16 億円。全体の PER 11.76 倍、時価総額 100 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電動化の予測と、前中計で売り上げが目標に届かなかった実績の両方を踏まえた落としどころ。いちばん重く置く。
やや悲観 28% 内燃機関向けが急速に縮み、新しい柱が間に合わない 利益 4 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 1,120 円57 億円
電動化が前倒しで進み、主力のプーリの個数は半分に近い 0.48 倍まで減る。アイシンの変速機が電動ユニットに置き換わり、変速機部品が先に落ちる。
ICE 以外は伸びるが、ロボット用部品の量産が遅れて 1.3 倍にとどまる。ここまでの伸びでは、主力の穴を埋めきれない。売上は 92 億円と今より 17% 縮む。
固定費の重い国内工場を持て余し、利益率は 5% に落ちる。営業利益は 5 億円で、再編費用が 0.5 億円かかる。ただ、自己資本比率は 8 割近く、配当は守られる。取引先からの値下げ要請は、この局面でいっそう強まる。
- ICE 関連(鋼板製プーリ・変速機などのエンジン周り部品):数量 19.2(年間の販売数(百万個相当))× 価格 0.25(1 個あたり売上(千円))→ 売上 49 億円・営業利益 3 億円。ICE 関連 営業利益率 6.5%
- ICE 以外(xEV 部品・モーターコア・ロボット部品など):数量 10.4(年間の販売数(百万個相当))× 価格 0.42(1 個あたり売上(千円))→ 売上 43 億円・営業利益 2 億円。ICE 以外 営業利益率 5.0%
倍率:事業の ROE 2.6% は資本コスト 8.5% の 3 分の 1 以下。稼ぐ力の床(純利益÷k)は 47 億円で、その範囲内の 7.0 倍に置いた。余った現金は今の額の 0.75 倍に戻り方 0.75 を掛けて足した。
確率:主力の需要が 10 年で半分に近づき、新製品が遅れるのは十分ありうる。過去 20 年で赤字の年が 2 回あり、最大の取引先が 2 割弱を占めることも踏まえて厚く置いた。
悲観 16% 主力が崩れ、赤字の中で現金の価値だけが残る 利益 −2 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 645 円33 億円
電動化が速まり、プーリの個数は 3 割まで落ちる。アイシンなどの主要顧客が内製化や他社部品への切り替えを進め、値下げ要請も強まる。ICE 関連は赤字になる。
ロボット用部品は立ち上がるが 0.9 倍にとどまり、全体を支えるには小さい。営業は 1 億円の赤字になり、配当は大きく削られる。
この局面では稼ぐ力ではなく、手元の資産が株主の取り分になる。現金と上場株が床だ。ただ、経営が現金を株主に戻す保証はないので、戻り方 0.75 を掛け、工場の売却益は数えない。自社の工場は売却に時間がかかり、撤退の費用も先に出るからだ。
- ICE 関連(鋼板製プーリ・変速機などのエンジン周り部品):数量 12.0(年間の販売数(百万個相当))× 価格 0.24(1 個あたり売上(千円))→ 売上 29 億円・営業利益 −1 億円。ICE 関連 営業利益率 -2.0%
- ICE 以外(xEV 部品・モーターコア・ロボット部品など):数量 7.2(年間の販売数(百万個相当))× 価格 0.41(1 個あたり売上(千円))→ 売上 30 億円・営業利益 1 億円。ICE 以外 営業利益率 2.0%
倍率:赤字なので稼ぐ力では測れず、売れる資産の税後(33 億円)を床に置いた。今の自己資本 125 億円に対する PBR は 0.26 倍。
確率:電動化が前倒しされ、最大の取引先の発注が大きく減る筋書き。小さな単一製品メーカーには十分ありうる。自己資本比率が高く、一気に崩れる確率は 16% にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
ICE 関連(鋼板製プーリ・変速機などのエンジン周り部品)
エンジンの補機を回す鋼板製プーリが柱。変速機部品などの内燃機関車向けも含む。会社の中計では売上の約 75%。
| 数量年間の販売数(百万個相当) | 価格1 個あたり売上(千円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 40.0 | 0.21 | 83 | 7 |
| 10 年後 中立 | 24.0 | 0.27 | 64 | 5 |
取り方:売上 82.8 億円は、中期経営計画の「内燃機関関連が売上の約 75%」(110.4 億円×0.75)から。個数と単価は開示がなく、1 個あたり約 0.2 千円(小さな板金部品)で年 4,000 万個とした推定。セグメント利益は地域別開示しかないため、全社 8.8 億円を製品別に配った推定(7.4 億円・利益率 9%)。
ICE 以外(xEV 部品・モーターコア・ロボット部品など)
電動車向け部品、EPS 部品、モーターコア、ロボット用部品。中計で次の柱に位置づける。売上の約 25%。
| 数量年間の販売数(百万個相当) | 価格1 個あたり売上(千円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 8.0 | 0.35 | 28 | 1 |
| 10 年後 中立 | 14.4 | 0.43 | 62 | 4 |
取り方:売上 27.6 億円は「内燃機関以外が約 25%」から。個数は 800 万個、単価は 1 個あたり約 0.35 千円とした推定。セグメント利益は 1.4 億円(5%)と推定。新しい量産ラインの立ち上げ費用で、利益率は主力より低い。
リスクと懸念
内燃機関向けの依存
売上の約 75% が内燃機関関連。電動化が進むほどプーリの需要が減る。有報も電動化による需要減の懸念を明記している。中計は 10 年で 50% に下げる目標だが、その時点でも半分は内燃機関向けだ。
最大の取引先アイシン
アイシンが売上の 19.2% を占める。変速機の電動化や調達方針の変更で、発注が一度に動く恐れがある。1 社の動きが利益を左右する。
新しい柱の立ち上げが遅れる
ロボット用部品、モーターコア、電動車部品は量産前の段階。前中計は売り上げ目標に届かなかった。立ち上げの遅れと設備投資の負担が、利益率を押し下げる。
値下げ要請と原価高
自動車部品は毎年の値下げが前提になる。物価が年 3% の世界では、人件費と鋼材の上昇を転嫁しきれず、利益率が下がる。
海外拠点と米国の関税
タイ、中国、インドネシアに拠点があり、海外売上は 26%。関税政策や為替の変動、現地の景気の影響を受ける。
余った現金が使われない
純現金は時価総額の半分に近い。投資に使うか配るかは経営次第で、成長投資 34 億円の計画も内訳の半分が不明。使い方が悪ければ価値が落ちる。
今後の分かれ目
- アイシン向けの発注が、変速機の電動化で 3 割以上減ったら
- 主力の縮みが前倒しになり、やや悲観の筋書きに確率を移す。
- ロボット用部品の量産ラインが計画どおり立ち上がり、売上が 10 億円を超えたら
- ICE 以外の伸びを上方に直し、やや楽観の筋書きに確率を移す。
- 配当を DOE 2.5% 以上に引き上げ、自社株買いを加えたら
- 余った現金の戻り方を 1.0 に直し、現金の評価が上がる。
- 内燃機関車の延命が続き、ハイブリッド車が主流のまま 2030 年代に入ったら
- 主力の縮みが緩やかになり、楽観寄りに確率を移す。
- 現金を使った M&A が発表されたら
- 買収の中身と価格を見て、余った現金の戻り方を 0.5 に下げるか判断する。
見ておくもの
- アイシン向けの売上比率と発注の動き
- ICE 以外の売上比率(中計は 35% 以上)
- ロボット用部品とモーターコアの量産開始
- DOE の実績と自社株買い
- 純現金の使い道(M&A の有無)
倍率と資本コストの決め方
倍率は事業の ROE と資本コスト 8.5% から置いた。ROE が k に届かないので PER は 1÷k の 11.1 倍を上限に、中立は 8.0 倍。今の株価・過去の PER や PBR・同業の倍率は使っていない。現金は事業に要る分を除いて 22 億円を余った現金として分け、戻り方 0.75 を掛けて別に足した。悲観の床は、現金と上場株の税後(33 億円)で置き、帳簿の自己資本は床にしていない。新リース会計基準で BS の形は変わるが、数字は今と同じ形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10→11.76 倍・やや楽観 PER 9→11.76 倍・中立 PER 8→11.76 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.5% を足して 9.0%。同じ領域の会社(エフ・シー・シー +1.0%、愛三工業 +1.5%)の間に置いた。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.00% → 8.50%。