結論
フジオーゼックスは、車のエンジンの中で空気と排気の出入りを開け閉めする部品、エンジンバルブをつくる会社だ。国内シェアは4割超、世界でも約8%を持つ。親会社は大同特殊鋼で、株の約48%を握る。筆者の結論は、今の値段は10年の見通しに対して高めで、割安とは言えないというものだ。
会社の中身は悪くない。過去12年に赤字の年はなく、自己資本比率は84%、純現金は62億円ある。2026年3月期は売上291億円と過去最高を更新し、営業利益は25億円、利益率は8.6%だった。
それでも高いと見るのは、事業そのものに寿命があるからだ。電気自動車が増えれば、エンジンバルブは要らなくなる。ハイブリッド車が当面は支えるが、10年先の数量は国内で減ると置くのが自然だ。会社自身も、M&Aで新しい柱を探している。
中立の姿は、売上360億円前後、営業利益29億円程度。数量は日本で減り、海外の新規受注が補う。利益は今とほぼ同じ水準にとどまる。余った現金は親会社のいる会社らしく、全部は株主に戻らないと見る。株主にとって、現金の厚みは安心材料だが、成長の裏づけにはならない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「手堅いが、10年先を預けにくい」事業だ。赤字がなく、借金もない。現金は厚い。だが、事業の中身はエンジンの部品で、世の中の流れは電動化に向いている。
持ち続けたい点は2つある。1つは、材料から開発できる技術と、国内の高いシェア。もう1つは、財務の厚みで、景気の谷でも配当を守れることだ。
問題は、利益のうち株主に残る分が増えにくいことだ。工場の更新、海外の新工場、中空バルブの設備に、毎年多くを投じる。現存設備の減価償却は取得時の値段のままで増えないが、更新する設備は物価の上昇ぶん高くなる。会計の利益が現金より大きく見える構造は、インフレの10年に重く効く。
余った現金は、親会社のいる会社では全額が株主に戻るとは限らない。帳簿の現金を全部評価に入れず、戻り方を半分に割り引いた。
安全域の考え方はこうだ。中立の価値は今の値段をやや下回る。上は海外の拡大とM&Aの成功で伸びうるが、下は電動化で需要が縮み、固定費を負担する10年だ。事業の寿命に確信が持てないため、確信度は低い。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は、エンジンバルブの製造と販売だ。売上の大半を占める。バルブは、燃料と空気を吸い込み、燃えたあとのガスを吐き出すための弁で、1回の爆発のたびに高温にさらされる。強い熱に耐える特殊な鋼が要るため、親会社の大同特殊鋼と共同で材料を開発している。
製品の中心は、軽くて冷えやすい中空バルブと、摩擦を減らす鏡面バルブだ。中空バルブは軸の中が空洞で、そこに金属ナトリウムを入れて熱を逃がす。ゼロ戦の技術を発展させたと会社は説明する。熱効率を上げたい自動車メーカーには欠かせない部品である。
顧客は日系の自動車、二輪、産業機械、建設機械、農機、船舶など。日本国内の売上が約3分の2、海外が約3分の1だ。2026年3月期は、北米で日産とトヨタ向けの新しい受注が始まり、海外の売上が約26%伸びた。国内も前年の大口受注の効果で約9%増えている。
海外にはメキシコ、タイ、インドなどに工場を持つ。鋼材の高騰、賃上げ、米国の関税が重なり、売上の伸びのわりに営業利益は4%減った。会社の長期の目標は、2030年に売上300億円、営業利益30億円だ。その達成を、既存の拡販とM&Aに頼ろうとしている。
バルブ以外では、3Dプリンターを使った新しい事業など、小さな試みを進めている。まだ業績を左右する規模ではない。
優良さと弱いところ
一言でいえば、ニッチな部品で安定して稼ぐが、事業そのものの寿命が短い会社だ。
強みは、国内で4割超を持つ規模と、材料から自社で開発できる技術だ。エンジンバルブは、作れる会社が世界でも絞られてきた。会社も、作り続けられる競合は限られると説明する。品質が求められる部品で、完成車メーカーは供給元を簡単には替えない。
ただし、堀が広がっているとは言えない。値段は買い手が決め、材料費の上昇や賃上げの転嫁は遅れる。2026年3月期は、新規受注で18億円ほど増益になったが、資材高、人件費、関税で19億円ほど減り、営業利益は結局減った。
資本効率は高くない。過去10年のROEの中央値は3.1%、直近は6.7%だ。純現金と自己資本の厚みが、ROEを押し下げている。営業利益率は直近で8〜10%と過去10年では高い水準にあるが、12.4%を付けた2006年3月期には届かない。
筆者がいちばん気にするのは、電動化だ。バッテリー式の電気自動車が主流になれば、バルブは不要になる。ハイブリッド車はエンジンを積むが、数量の増減は読みにくい。会社自身も、バッテリー車がもう一度伸びるかは来年ごろ見えると話している。
親会社が約48%を持つ点は両面ある。材料開発では強い味方だが、少数株主には現金の使い方が決められない。経営の資本配分は、これから試される。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
エンジンバルブの需要は、世界の内燃機関車の台数で決まる。10年の中立は、電動化が進んで内燃機関のみの車が減るが、ハイブリッド車が当面の需要を支える、という姿だ。
日本の自動車生産は横ばいから微減、国内向けは人口減で縮む。国内向けのバルブは、10年で15%ほど減ると置く。海外は逆で、日産とトヨタの北米向けハイブリッド車の新規受注が通年で効いてくる。海外の数量は10年で1割強増えると見る。
電動化の速度は地域でばらつく。欧州と中国ではバッテリー車の比率が高まったが、米国は政策が揺れ、日本はハイブリッド車が主役だ。バルブの数量にとっては、ハイブリッド車の台数が最大の変数になる。
競争相手は、海外の大手バルブメーカーと、日本国内の同業だ。国内は上位が絞られ、価格競争は限られる。ただし、完成車メーカーが部品の調達コストを下げ続ける流れは変わらない。インドや東南アジアの二輪・小型車向けでは、現地メーカーが育っている。
鋼材とニッケルの価格が、利益の振れを大きくする。転嫁は半年から1年遅れる。米国の関税は、メキシコから米国へ運ぶ部品に影響する。為替は150円に固定して考える。
10年の中立は、数量が国内で減り海外で小さく増える、地味な姿である。
資本政策と M&A
資本政策は、手元の現金を厚く持ちながら、還元を少しずつ増やす段階にある。
中計は、純資産に対する配当率(DOE)1.7%を目安に、配当と自社株買いと株主優待を合わせて、総還元性向40%を目指す。2026年3月期は自社株買い8億円を実施し、総還元性向は66%だった。2027年3月期の配当は据え置きの予定だ。株主優待は、1年以上持つ株主に商品券を贈るもので、費用は年1億円を下回ると推定する。
純現金は62億円あり、時価総額の3分の1を超える。事業に要る現金を月商の1.5か月分と置くと、約32億円が余る。ただし親会社が約48%を握り、M&Aに使う可能性もあるため、全額が株主に戻るとは見ない。
買収は小ぶりな案件を数件こなしてきた。会社は2030年の売上300億円の達成にM&Aを織り込み、成長分野に投資する方針だ。筆者は、買収の規模が大きくなるほど、価値を壊すリスクが高まると見る。
親会社の大同特殊鋼がTOBで完全子会社化に動く可能性も、否定しない。ただ確かな材料はなく、筋書きの中心には置かない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ハイブリッド車は、エンジンを積んだまま燃費を稼ぐ車で、日系の完成車メーカーの稼ぎ頭だ。北米でも日産とトヨタが車種を広げており、この流れは10年続く。エンジンバルブを作り続けられる競合は限られ、フジオーゼックスは国内で4割超を握る。
2026年3月期は、新規受注が通年で効き、売上が過去最高を更新した。海外の数量は26%増えた。この勢いが続けば、海外の売上は10年で5割増える。中空バルブの海外拡販も、利益率を押し上げる。
財務は盤石だ。自己資本比率は84%、純現金は62億円。景気が悪くなっても配当を守れる。会社は総還元性向40%を目標に掲げ、前期は自社株買いも実施した。株価の低さを自覚しており、資本政策は株主寄りに動いている。
M&Aが当たれば、バルブ以外の収益源ができ、事業の寿命の不安が和らぐ。親会社の大同特殊鋼との材料開発の力も強い。ここまで売られた会社が、赤字なしを10年続けたら、評価は一段上がる。
慎重な見方
エンジンバルブは、内燃機関車がなければ売れない。世界はゆっくりと、だが確実にバッテリー車へ向かっている。ハイブリッド車の人気は一時的で、10年のうちに規制や電池の価格の変化で台数が急に減る可能性がある。
国内の数量は、人口減と電動化の二重の逆風だ。海外の新規受注は一度きりの積み上げで、その後は伸びない。値段は完成車メーカーが決め、材料費と賃金の転嫁は遅れる。2026年3月期は、売上が14%増えたのに、営業利益は4%減った。
利益率が10%を超えたのは、材料価格が落ち着いた短い期間だ。今期の予想は、売上が4%減る。米国の関税は、メキシコ拠点の収益を削る。
現金が厚いのは強みだが、親会社が約48%を握るため、少数株主には使い道を決められない。M&Aで高い買い物をすれば、価値を壊す。自己資本が時価総額の1.8倍あっても、ROEは資本コストに届いていない。
配当の下限を守る姿勢は評価できるが、利益が減る年に還元を保てば、現金は減っていく。海外の増産投資は、ハイブリッド車の需要が崩れた時に回収できなくなる。投資は物価の上昇で毎年かさむ。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は、ハイブリッド車の追い風と、赤字なしの実績、厚い財務に根拠がある。慎重な見方は、事業の寿命と、資本コストを超えられないROE、親会社の存在に根拠がある。筆者は、慎重な見方のほうがやや強いと判断する。10年という長さでは、電動化の影響が数量に現れるからだ。
確率は中立に34%を置いた。楽観とやや楽観は合わせて24%、やや悲観と悲観は合わせて42%とした。悲観は、赤字がなく財務が厚いため、深くしすぎず15%にとどめた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,069 円205 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 818 円81 億円)。 今の値に割り戻すと 1,432 円142 億円、今との差 −17.5%、 期待の年率 +5.2%(資本コスト 8.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 4,001 円396 億円 | 1,313 円130 億円 | +206.3% | +11.8% | 319 円32 億円 |
| やや楽観 | 18% | 3,308 円328 億円 | 1,162 円115 億円 | +157.6% | +9.9% | 804 円80 億円 |
| 中立 | 34% | 2,500 円248 億円 | 1,010 円100 億円 | +102.3% | +7.3% | 1,193 円118 億円 |
| やや悲観 | 27% | 971 円96 億円 | 606 円60 億円 | −9.1% | −1.0% | 426 円42 億円 |
| 悲観 | 15% | 808 円80 億円 | 152 円15 億円 | −44.7% | −5.8% | 144 円14 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,069 円205 億円 | 818 円81 億円 | +66.4% | +5.2% | 2,886 円286 億円 |
今の株価時価総額 1,735 円172 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 6% ハイブリッド車の追い風が続き、海外とM&Aで広がる 利益 33 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 4,001 円396 億円
ハイブリッド車の台数が10年続けて伸び、北米の日産・トヨタ向けのバルブ数量が3割増える。中空バルブの海外拡販が当たり、単価も物価を上回って上がる。国内はハイブリッド車が支えて、数量は5%減にとどまる。
M&Aで入った新事業が収益源として育ち、事業の寿命の不安が和らぐ。営業利益率は10%を超えるが、過去の山である12.4%には届かない。
純現金のうち一部が買収に使われ、残りは配当と自社株買いで戻る。還元は利益の5割に高まる。自己資本が積み上がるためROEは7%台にとどまり、資本コストを超えるには至らない。
- 国内のバルブ(自動車・二輪・産機・船舶):数量 7,600(バルブの本数(万本、推定))× 価格 331(1 本あたり売上(円、名目))→ 売上 251 億円・営業利益 25 億円。国内 営業利益率10.0%
- 海外のバルブ(北米・タイ・インドほか):数量 4,680(バルブの本数(万本、推定))× 価格 367(1 本あたり売上(円、名目))→ 売上 172 億円・営業利益 20 億円。海外 営業利益率11.5%
倍率:事業の純利益 33 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.8% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)24 億円。全体の PER 11.43 倍、時価総額 396 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:北米のハイブリッド車需要が長く続き、M&Aで新しい柱も育つ必要がある。条件が重なるため、確度は低いが5%を少し超える程度に置いた。
やや楽観 18% 海外が伸び、国内の減りは緩やか 利益 27 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 3,308 円328 億円
国内の数量は10年で1割減り、海外は2割増える。北米の新規受注が通年で効き、タイとインドも小さく伸びる。
値段は物価の7〜8割は転嫁できる。営業利益率は、国内で9%、海外で10%と、直近の水準を保つ。損益分岐点は低く、赤字には沈まない。
還元は利益の4〜5割で、自社株買いが少しずつ入る。余った現金は、小さなM&Aに使われる。ROEは6%台で、資本コストには届かない。
中空バルブは海外でも採用が広がり、単価は物価に近い伸びを保つ。ただし、国内では完成車メーカーの原価低減要請が続き、国内の利益率は海外より低いままになる。
- 国内のバルブ(自動車・二輪・産機・船舶):数量 7,200(バルブの本数(万本、推定))× 価格 326(1 本あたり売上(円、名目))→ 売上 234 億円・営業利益 21 億円。国内 営業利益率9.0%
- 海外のバルブ(北米・タイ・インドほか):数量 4,320(バルブの本数(万本、推定))× 価格 362(1 本あたり売上(円、名目))→ 売上 156 億円・営業利益 16 億円。海外 営業利益率10.0%
倍率:事業の純利益 27 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.7% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)24 億円。全体の PER 11.43 倍、時価総額 328 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:北米の新規受注の効果が定着し、国内の減りも緩やかな姿。会社の長期目標(売上300億円・営業利益30億円)より上だが、実現は半分に届かない水準とした。
中立 34% 中立:国内で減り、海外の新規受注が補う 利益 20 億円 · PER 11.4 倍 · 株価時価総額 2,500 円248 億円
国内の数量は10年で15%減る。人口減と電動化の両方が効く。海外は新規受注の通年化後も、ハイブリッド車の台数に連れて1割ほど増える。
値段は材料費と賃金の上昇を転嫁して、国内で1.32倍、海外で1.34倍に届く。売上は360億円前後に育つが、数量は国内で減っており、伸びの大半は価格だ。
営業利益率は8%。直近の8.6%から、賃上げと更新投資の負担ぶん少し下がる。営業利益は29億円程度で、今とほぼ同じだ。
還元は利益の5割で、配当と自社株買いを続ける。ROEは5%前後で、資本コストに遠い。更新投資は物価で割高になり、現金は償却より多く出ていく。
- 国内のバルブ(自動車・二輪・産機・船舶):数量 6,800(バルブの本数(万本、推定))× 価格 321(1 本あたり売上(円、名目))→ 売上 218 億円・営業利益 16 億円。国内 営業利益率7.5%
- 海外のバルブ(北米・タイ・インドほか):数量 3,960(バルブの本数(万本、推定))× 価格 362(1 本あたり売上(円、名目))→ 売上 143 億円・営業利益 13 億円。海外 営業利益率9.0%
倍率:事業の純利益 20 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.2% が k 8.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)24 億円。全体の PER 11.43 倍、時価総額 248 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電動化による国内の減りと、海外の新規受注が釣り合う姿。最も重みを置くが、慎重な見方がやや強いので、悲観側に厚く配った。
やや悲観 27% 電動化が早まり、国内も海外も数量が減る 利益 12 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 971 円96 億円
バッテリー車の比率が想定より早く上がり、ハイブリッド車の台数も頭打ちになる。国内の数量は3割減り、海外も5%減る。
完成車メーカーは調達コストを下げ続け、値段は物価の上昇に届かない。10年で値段は1.28〜1.30倍にとどまる。
営業利益率は国内で5%、海外で7%に下がる。固定費の比重が高く、数量の減りが利益を直撃する。M&Aは成果を出せない。
配当は維持するが、自社株買いは止まる。余った現金は赤字の穴埋めとM&Aに回り、25%減る。
海外の新規受注は一巡して伸びが止まり、北米の関税の負担が利益を押し下げる。新工場の償却と人件費の上昇は、減った数量では吸収できない。それでも赤字には沈まず、小さな黒字を保つのが、この筋書きだ。
- 国内のバルブ(自動車・二輪・産機・船舶):数量 5,600(バルブの本数(万本、推定))× 価格 311(1 本あたり売上(円、名目))→ 売上 174 億円・営業利益 9 億円。国内 営業利益率5.0%
- 海外のバルブ(北米・タイ・インドほか):数量 3,420(バルブの本数(万本、推定))× 価格 351(1 本あたり売上(円、名目))→ 売上 120 億円・営業利益 8 億円。海外 営業利益率7.0%
倍率:事業のROE 3.2%は資本コスト8.75%を大きく下回り、伸びても価値は増えない(上限 1÷k = 11.4倍)。構造的に数量が縮む筋書きで利益の質が低いので、上限の7割に満たない7.0倍に置いた。売れる資産の床も確かめたが、稼ぐ力の側が大きいので倍率で置いた。
確率:電動化が想定より早く進み、ハイブリッド車の台数が伸びない筋書き。事業の寿命を重く見て、やや厚く置いた。
悲観 15% 内燃機関の需要が急に縮み、工場の切り売りに向かう 利益 1 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 808 円80 億円
バッテリー車への転換が一気に進み、国内の数量は半分以下に落ちる。海外の新規受注も、車種の入れ替えで続かない。
完成車メーカーは中国の部品メーカーも調達先に加え、値段は物価に大きく届かない。固定費をまかなえず、営業利益はほぼ消える。
工場の統廃合と設備の減損が避けられない。M&Aで買った事業も成果が出ず、減損する。余った現金は事業の穴埋めに使われ、半分に減る。
配当は大きく減る。残る価値は、純現金と工場の売却額から、再編の費用を引いた額が中心になる。
親会社の大同特殊鋼は、材料の販売先を失い、グループとして事業の整理を迫られる。少数株主にとっては、現金を使う判断が親会社に左右される10年になる。
- 国内のバルブ(自動車・二輪・産機・船舶):数量 3,600(バルブの本数(万本、推定))× 価格 279(1 本あたり売上(円、名目))→ 売上 101 億円・営業利益 0 億円。国内 営業利益率0.0%
- 海外のバルブ(北米・タイ・インドほか):数量 2,700(バルブの本数(万本、推定))× 価格 324(1 本あたり売上(円、名目))→ 売上 88 億円・営業利益 2 億円。海外 営業利益率2.0%
倍率:赤字に近い筋書きなので稼ぐ力でなく売れる資産で測る。純現金のうち戻る分と固定資産の売却額、運転資金の回収から再編費用を引いた約80億円を床とし、今の自己資本320億円の0.25倍に置いた。
確率:電動化が急に進み、ハイブリッド車の台数も落ちる筋書き。赤字がなく財務が厚いため、深くしすぎず15%とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内のバルブ(自動車・二輪・産機・船舶)
日系の完成車メーカー・二輪・産業機械・船舶向けのエンジンバルブ。国内シェアは4割超。
| 数量バルブの本数(万本、推定) | 価格1 本あたり売上(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 8,000 | 243 | 194 | 15 |
| 10 年後 中立 | 6,800 | 321 | 218 | 16 |
取り方:2026年3月期の国内売上は約194億円。前年の海外を約77億円と置き、国内+8.6%、海外+25.9%の増加率から割り戻した推定。バルブ1本あたり約243円・約8,000万本相当と置いた推定(中空バルブなど高付加価値品を含む)。営業利益は地域別の開示がなく、国内14.8億円(利益率約7.6%)と推定。価格は物価並みの1.34倍が基本だが、国内は買い手の原価低減要請で中立は1.32倍とした。
海外のバルブ(北米・タイ・インドほか)
北米の日産・トヨタ向けを軸に、メキシコ・タイ・インドなどの拠点から納めるエンジンバルブ。
| 数量バルブの本数(万本、推定) | 価格1 本あたり売上(円、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3,600 | 270 | 97 | 11 |
| 10 年後 中立 | 3,960 | 362 | 143 | 13 |
取り方:海外売上は約97億円(前年約77億円の推定に+25.9%)。1本あたり約270円・約3,600万本相当と置いた推定。北米の日産・トヨタ向け新規受注の通年化後。営業利益は地域別の開示がなく、海外10.7億円(利益率約11%)と推定。価格は物価並みの1.34倍を基本に、中空バルブなど高機能品の割合上昇で中立は1.34倍とした。
リスクと懸念
電動化とエンジンバルブの寿命
バッテリー車が増えれば、エンジンバルブは需要そのものが消える。ハイブリッド車が支えているが、台数の増減が数量を決める。10年の最大の変数だ。
資材高・賃上げの転嫁遅れ
特殊鋼とニッケルの価格が上がっても、完成車メーカーへの転嫁には半年から1年かかる。2026年3月期は、新規受注で18億円ほど増益となったが、費用増で19億円ほど削られた。
米国の関税
メキシコから米国へ運ぶ部品には関税がかかる。北米の売上が伸びる局面で、利益の足を引く。顧客との価格交渉の結果次第で影響が変わる。
親会社の存在
大同特殊鋼が約48%を握る。材料開発では強みだが、少数株主には現金の使い方を決められない。M&Aや資金の使い方に利害の食い違いが出うる。
M&Aの失敗
長期目標の達成をM&Aに頼る。小ぶりな案件が中心だが、買収の規模が大きくなれば、価値を壊すリスクが高まる。
海外拠点の税務と為替
2026年3月期はメキシコ子会社の税効果会計の影響があった。経常利益には為替差益が含まれ、本業の利益と開きが出る。為替は150円で固定して考えるが、実際の振れは利益を左右する。
更新投資の負担
工場と設備の更新は、物価の上昇で割高になる。現存設備の償却は取得時の値段のままで増えないが、更新分は新しい値段で償却される。会計の利益と現金の出入りがずれる。
今後の分かれ目
- 北米の日産・トヨタ向けのハイブリッド車の台数が計画を上回ったら
- 海外の数量を上げ、楽観側へ確率を移す。
- 主要な完成車メーカーがエンジン新車の終了時期を前倒ししたら
- 国内と海外の数量を下げ、悲観側へ確率を移す。
- 営業利益率が10%を超える年が2期続いたら
- 中立の利益率を上げ、堀の評価を見直す。
- M&Aでバルブ以外の事業が売上の1割を超えたら
- 事業の寿命の評価を上げる。
- 親会社が完全子会社化に動いたら
- 余った現金の戻り方を見直し、楽観側の確率を上げる。
- 自社株買いを増やし、総還元性向が5割を超えて定着したら
- 余った現金の戻り方を1.0に見直す。
見ておくもの
- 日産・トヨタの北米向けハイブリッド車の生産台数
- 国内と海外の売上、地域別の営業利益率
- 鋼材・ニッケル価格と価格転嫁の状況
- 米国の関税と為替の動き
- M&Aの実行と減損の開示
- 自社株買いと総還元性向、純現金の推移
倍率と資本コストの決め方
倍率は、事業のROEが資本コスト8.75%に届かない全ての筋書きで、正当化PERの上限1÷kを基準に、事業の寿命が重いことを踏まえ上限の7〜8.5割に置いた。今の株価・過去のPER・PBR・同業の倍率は使っていない。余った現金は戻り方0.5で別に足した。悲観は純現金と固定資産の売却額から求めた床に、今の自己資本を掛けた。結果は今の値段を下回ったが、株価に寄せる調整はしていない。新リース会計基準でBSの形が変わるが、数字は今と同じ形(家賃を営業費用に含める形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 9.7→11.43 倍・やや楽観 PER 8.8→11.43 倍・中立 PER 8→11.43 倍)。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.25% を足した 8.75%。親会社の存在や M&A の実行は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.75% → 9.00%。