結論
ティラドは、ラジエーターなど「熱を逃がす部品」の専業メーカーだ。売り先は四輪車・二輪車・建設機械で、二輪と建機に強い。筆者の結論は、今の値段はほぼ妥当、というものだ。時価総額は約 810 億円で、割安と呼ぶには稼ぎが高すぎる。
2026 年 3 月期は営業利益が 5 割増えた。売価の引き上げ、米国の黒字化、特別損失の消滅が重なった。2% から 4% が当たり前だった営業利益率が 7% に届いた。この水準が続くかどうかで、価値の大半が決まる。
追い風は具体的だ。大手自動車メーカーから多機能ラジエーターの大型受注を取った。競合が熱交換器への力の入れ方を弱め、引き合いが増えていると会社は話す。還元も DOE 5% 以上へ厚くなった。
向かい風も重い。アルミ高と関税で、今期 4〜6 月の営業利益は前年を下回った。値決めの主導権は大手の顧客にあり、景気で振れる建機も抱える。筆頭株主が約 4 割を握る点も、少数株主には気になる。
10 年の中立では、営業利益率は 7% 前後に残り、純利益は今より 3 割強増える。配当と自社株買いが厚く、確率で重みをつけた価値は今の時価総額とほぼ並ぶ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で見るなら、この会社はまず「わかりやすい」。冷却部品は、動力が変わっても要る。二輪と建機の領域には、他社が入りにくい専門性がある。財務に無理もない。
問題は、稼ぐ力の水準だ。営業利益率は過去 10 年の中央値の倍以上に上がった。売価交渉の成果は本物だが、資源高と顧客の値下げ要求で戻される力も同じくらい強い。筆者は、いまの利益を永続するものとは見ない。7% 前後に残れば合格、と考える。
経営の資本配分は良くなった。自社株買いと配当を厚くしたこと、秦野の新工場など顧客の近くへ小さく投資することは、オーナーの目で見て好ましい。インド合弁も、少ない元手で稼ぐ見事な使い方だ。
気になるのは、筆頭株主が約 4 割を持つことだ。少数株主は、資本政策を自分で決められない。逆に、支配株主が買い増しを続けていることは、内部の人間が価値を高く見ているしるしでもある。
総じて、悪い会社ではない。だが、今の値段に安全域は薄い。利益率が定着して初めて、はっきり割安になる。筆者は、その確認を待つほうが賢いと考える。
何で稼ぐ会社か
ティラドは、熱交換器を作るメーカーだ。1936 年に東洋ラヂヱーター製作所として生まれた。エンジンや油圧機器が出す熱を、空気や液体に逃がして冷やす部品を作る。ラジエーター、オイルクーラー、インタークーラーなどだ。
売上の 8 割が自動車用で、うち四輪車と二輪車が中心になる。建設機械・産業機械用が 17% で、空調などが残りを占める。主な顧客はトヨタ、ホンダ、コマツ、クボタだ。日系メーカー向けの世界シェアは、二輪が 94%、建機が 55%、四輪が 19% と会社は見積もる。二輪と建機で圧倒的に強く、四輪はこれから伸ばす領域だ。
稼ぎ方は、車種ごとに専用品を設計して納める形だ。量産が始まれば数年単位で納め続けるので、一度採用されれば続く。一方で、顧客から毎年のコストダウンを求められる。材料のアルミと銅は市況で動くが、多くの取引にはスライド条項があり、値上がりを一部転嫁できる。
開示される区分は地域別だ。日本、米国、欧州、アジア、中国の 5 つで、海外が売上の半分を超える。米国は長く赤字だったが、前期に黒字化した。インドは、タタ・グループとの合弁(出資 49%)が持分法で利益を運ぶ。連結の売上には入らないが、会社は将来 500 億円超の規模を描く。
新しい芽は、多機能ラジエーターだ。ハイブリッド車、電気自動車、エンジン車のどれにも載せられる共通の冷却部品で、顧客の開発の手間を減らす。さらにデータセンター、ヒューマノイド、宇宙も視野に入れるが、まだ収益には入っていない。
優良さと弱いところ
優良さは「ニッチで強いが、値決めは顧客に握られる」と言える。堀、つまり他社がまねできない強みは、二輪と建機の限られた領域にある。大排気量の二輪や重い建機の冷却は、設計の蓄積と専用の製造ノウハウが要る。そこで高いシェアを持つ。
ただし四輪では、相手がトヨタ級の大手だ。値決めの主導権は向こうにあり、毎年の原価低減を求められる。2026 年 3 月期の営業利益率 6.9% は過去最高だ。過去 10 年の中央値は 3% 前後で、2 度の赤字(2021・2023 年度)もある。筆者は、高い水準がそのまま続くとは見ない。
財務は堅い。自己資本比率は 53%、純有利子負債は 39 億円で、利払いの 45 倍の営業利益を稼ぐ。借金が理由の危うさはない。
経営の資本の使い方は改善している。2025 年度に自社株買いを 42 億円行い、配当も DOE 5% 以上の累進配当へ切り替えた。工場投資も秦野の新工場など、顧客の近くへ小さく進める形だ。
弱点は 2 つある。まず、利益の質だ。前期の営業利益は売価改善で伸びたが、材料高で足元は削られている。次に、支配構造だ。筆頭株主の陣屋コネクトが約 4 割を持ち、社長は陣屋グループと関わりがあるとされる。資本政策が支配株主の都合に傾く余地は残る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
熱交換器は、動力が何であっても要る部品だ。ここが事業の安心材料になる。電気自動車でも、電池・モーター・インバーターを冷やす。会社は 1 台あたりの搭載数を、エンジン車 2〜6 個、ハイブリッド 4〜9 個、電気自動車 3〜7 個と説明する。電動化が進んでも、冷却部品は減りにくい。
市場の大きさは、定義でぶれる。自動車用ラジエーターだけでも、世界で 1 兆円台とする調査と、その 10 分の 1 とする調査がある。筆者は、ティラドが世界の自動車用で 1 割前後の位置にいる、くらいの粗い見方にとどめる。
競合は、デンソー、ヴァレオ、マーレ、モーディーン、マレリ、ハノンといった大手だ。ティラドは、冷却部品だけに絞る独立系で、特定の自動車メーカーの系列に入っていない。会社は、競合が熱交換器の優先順位を下げ、自社への引き合いが増えていると説明する。社名は挙がっていないので、真偽は受注の中身で確かめるしかない。
需要は景気で振れる。四輪は世界の生産台数、建機は設備投資と資源価格に連動し、二輪は新興国の需要に左右される。日系メーカーの中国での不振も、中国のティラドの売上を削っている。
原材料はアルミと銅だ。中東情勢で高値圏にあり、スライド条項で追いつくまでに時間差が出る。EV 化の速度は、冷却部品の数よりも、顧客の値決めの強さに効く。部品点数が増える一方で、単価は競争で抑えられやすい。
資本政策と M&A
還元の方針は、前期から変わった。2026 年度以降、DOE 5% 以上、配当性向 50% 以上の累進配当を掲げる。前期は自社株買いも 42 億円を行った。会社は、営業キャッシュフローに借入を加えた 200〜250 億円を、成長投資・戦略投資・還元に配ると話す。
2030 年度の目標は、売上 2,000 億円、営業利益 200 億円、ROE 20% だ。今期の予想営業利益は 123 億円なので、年 13% 前後の増益が要る。筆者は、これを中立の前提には置かない。
M&A は、これまで目立たない。インドのタタ・グループとの合弁(出資 49%)への投資は約 10 億円で、すでに約 50 億円を回収したと会社は述べる。買収で規模を買う会社ではない。
筆頭株主は陣屋コネクトで、約 38.7% を持つ。2022 年 9 月の約 15% から買い増してきた。この比率なら、少数株主の同意がなくても重要議案を通せる範囲に近い。TOB(株式公開買付け)やMBO(経営陣による買収)の発表はなく、掲示板の推測にとどまる。ただ、支配株主がいる会社の価値は、非公開化の値段にも左右される。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
多機能ラジエーターは、大手自動車メーカーから大型の受注を得た。2035 年に日米アジア欧州で 610 万台の市場があるとされ、量産は米国から 2028 年度に始まる。1 台あたりの価値が高い製品なので、数が増えるだけでなく単価も上がる。競合が熱交換器への力の入れ方を弱めている今は、シェアを取りに行く好機だ。
利益の構造も変わった。米国は黒字になり、アジアへの生産移管で原価も下がった。数期にわたる売価交渉で、材料高を転嫁する力が付いている。営業利益率は 2030 年度に 10% という目標を、会社は掲げた。
さらに、新しい用途が控える。データセンターの液冷、ヒューマノイド、宇宙では、熱の制御が成長の壁になる。ティラドの技術がここで通用すれば、自動車の景気に左右されない柱になる。インド合弁も、売上の 15% 成長、利益の 20% 成長を会社は見込む。
還元は DOE 5% 以上で、前期は自社株買いも行った。自己資本の厚さを活かして、10 年で今の 2 倍の利益に近づくことは、想像の範囲にある。今の時価総額は、こうした成長をまだ半分も織り込んでいない。
慎重な見方
営業利益率 6.9% は、過去最高だ。20 年さかのぼっても、5% を超えた年は数えるほどしかなく、赤字の年も 3 回ある。売価交渉の成果は、材料が下がり、顧客の力が戻れば削られる。今期 4〜6 月の営業利益は、前年より減っている。
顧客は、トヨタやホンダのように値決めを握る大手だ。多機能ラジエーターの受注は喜ばしいが、量産が始まった後は、毎年の原価低減で単価が削られる。競合が引いたと会社は言うが、社名は示されていない。デンソーやマーレのような大手が戻れば、状況は変わる。
建機は景気で大きく振れる。中国では日系メーカーのシェアが落ち、欧州も商用車が弱い。米国は関税で利益が削られている。海外が売上の半分超なので、円高が進めば換算で目減りもする。
最後に、支配構造がある。筆頭株主が約 4 割を持ち、少数株主の手の届かない所で資本政策が決まる。2030 年度の ROE 20% という目標は、売価と量の両方がうまくいく前提だ。そこまで置くのは強気に過ぎる。
どちらに重みを置いたか
強気の材料は具体的だ。受注、競合の後退、還元の厚みは、実際に起きている。だが、営業利益率が過去の 2 倍に上がった直後で、定着の証拠はまだ半期ほどしかない。顧客が値決めを握る構造も変わっていない。
そのため、中立は営業利益率 7% 前後に置いた。目標の 10% は楽観の筋書きにだけ入れた。確率は、慎重な見方を少し強く見て、悲観側へ寄せた。ただ、財務が堅く悲観でも赤字が続きにくいので、悲観の確率を厚くはしていない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,553 円1,445 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 844 円478 億円)。 今の値に割り戻すと 1,658 円939 億円、今との差 +21.5%、 期待の年率 +9.5%(資本コスト 8.8%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 6,279 円3,555 億円 | 1,487 円842 億円 | +469.0% | +19.0% | 466 円264 億円 |
| やや楽観 | 17% | 4,401 円2,492 億円 | 1,213 円687 億円 | +311.3% | +15.2% | 955 円540 億円 |
| 中立 | 35% | 3,154 円1,786 億円 | 1,012 円573 億円 | +205.2% | +11.8% | 1,458 円826 億円 |
| やや悲観 | 27% | 1,017 円576 億円 | 620 円351 億円 | +20.0% | +1.8% | 442 円250 億円 |
| 悲観 | 15% | 328 円186 億円 | 177 円100 億円 | −63.1% | −9.5% | 76 円43 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,553 円1,445 億円 | 844 円478 億円 | +148.8% | +9.5% | 3,396 円1,923 億円 |
今の株価時価総額 1,365 円773 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.8% を下回るほど割高。
楽観 6% 多機能ラジエーターと新分野が当たり、営業利益率 10% に届く 利益 226 億円 · PER 15.3 倍 · 株価時価総額 6,279 円3,555 億円
多機能ラジエーターが日米欧アジアで広がり、四輪向けの数が 3 割以上増える。1 台あたりの冷却部品の価値が上がり、単価も物価を大きく上回る。競合が熱交換器から距離を置いたことが、シェアの上積みにつながる。
米国の量産は 2028 年度に始まり、関税と材料高は売価交渉で吸収する。営業利益率は 10% 近くまで上がり、会社の 2030 年度目標に届く水準で定着する。
データセンターなど自動車以外の受注も入り、建機の景気の振れは和らぐ。インドの合弁も育つ。還元は厚く、自己資本が積み上がる前に株主へ戻る 10 年になる。四輪の顧客は、冷却部品を自社で作るより外から買うほうが得だと見直す。ティラドは、その受け皿として規模を広げる。
- 自動車用(四輪・二輪):数量 3,510(当社が納める熱交換器の数(万個、推定))× 価格 0.78(1 個あたり単価(万円/個))→ 売上 2,727 億円・営業利益 259 億円
- 建機・産業機械・空調ほか:数量 88.0(当社が納める熱交換器の数(万個、推定))× 価格 5.67(1 個あたり単価(万円/個))→ 売上 499 億円・営業利益 60 億円
倍率:事業の純利益 226 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 20.5% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 14.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.3 倍。全体の PER 15.3 倍、時価総額 3,456 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:受注の拡大・競合の後退・新分野の立ち上がりが同時に当たる必要がある。会社の 2030 年度目標に近いが、連続成功の確度は高くない。
やや楽観 17% 受注が計画どおり量産に乗り、営業利益率は 8% 台で定着 利益 162 億円 · PER 14.6 倍 · 株価時価総額 4,401 円2,492 億円
多機能ラジエーターの量産が計画どおり立ち上がり、四輪向けの数は 2 割強増える。単価は混合の改善で物価を少し上回る。建機は景気の波を挟みながら緩やかに伸びる。
売価交渉の成果は定着するが、顧客の値下げ要求との綱引きで、営業利益率は 8% 台に落ち着く。材料高は時間差で転嫁される。
還元は DOE 5% 以上を守り、自社株買いも続く。支配株主との関係は安定し、資本政策に大きな変化はない 10 年になる。データセンターなど新しい用途は、まだ小さな売上にとどまる。インドの合弁の利益は、少しずつ増えて下支えになる。工場は顧客の近くへ小さく足され、投資の負担は利益の範囲に収まる。
- 自動車用(四輪・二輪):数量 3,172(当社が納める熱交換器の数(万個、推定))× 価格 0.73(1 個あたり単価(万円/個))→ 売上 2,305 億円・営業利益 184 億円
- 建機・産業機械・空調ほか:数量 84.0(当社が納める熱交換器の数(万個、推定))× 価格 5.47(1 個あたり単価(万円/個))→ 売上 459 億円・営業利益 48 億円
倍率:事業の純利益 162 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 17.2% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 13.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.6 倍。全体の PER 14.56 倍、時価総額 2,363 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:大手からの大型受注という事実があり、量産が計画どおり進む確率は低くない。営業利益率が 8% 台に残る点が条件になる。
中立 35% 冷却部品の専業として堅調。利益率は 7% 前後に残る 利益 119 億円 · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 3,154 円1,786 億円
四輪向けは、多機能ラジエーターの寄与で数が 1 割ほど増える。電動化でも搭載数は減らず、単価は物価と製品の混合の改善で年 3% 台半ばで上がる。建機は景気の波をならせば横ばいで、価格だけが物価で上がる。
営業利益率は今の水準から少し下がり、7% 前後に残る。売価改善は定着するが、材料高と顧客の値下げ要求が上乗せ分を一部戻す。米国の黒字は続くが、大きくは伸びない。
還元は DOE 5% 以上を守る。M&A は目立たず、インドの合弁が利益を少しずつ増やす。筆頭株主の持ち分はほぼ今のまま、非公開化も起きない 10 年になる。景気の谷は 1 度か 2 度来るが、赤字に落ちるほど深くはならない。
- 自動車用(四輪・二輪):数量 2,860(当社が納める熱交換器の数(万個、推定))× 価格 0.69(1 個あたり単価(万円/個))→ 売上 1,978 億円・営業利益 135 億円
- 建機・産業機械・空調ほか:数量 80.0(当社が納める熱交換器の数(万個、推定))× 価格 5.35(1 個あたり単価(万円/個))→ 売上 428 億円・営業利益 39 億円
倍率:事業の純利益 119 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.3% が k 8.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.7 倍。全体の PER 13.75 倍、時価総額 1,636 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:売価改善の成果と受注はあるが、顧客の値決めと材料高で一部は戻される。最も重みを置く、落としどころの筋書き。
やや悲観 27% 受注は取るが、値下げと材料高で利益率が 4% 台へ戻る 利益 58 億円 · PER 7.5 倍 · 株価時価総額 1,017 円576 億円
多機能ラジエーターは量産されるが、顧客の値下げ要求と競合の復帰で単価が伸びない。四輪向けの数は横ばいで、中国と欧州の不振が重しになる。
建機は景気の波で数が減り、アルミ高の転嫁が遅れる。営業利益率は 4% 台まで戻り、過去 10 年の上のほうの水準にとどまる。米国は関税で黒字を保てない年が出る。
自社株買いは縮み、配当は DOE の下限付近になる。支配株主の持ち分は大きく変わらない。インドの合弁は伸びるが、日本・中国・欧州の弱さを埋めるには足りない。景気の谷では営業利益が 1 桁の億円まで落ちる年も出る。優良とは言えない、ならされた 10 年になる。
- 自動車用(四輪・二輪):数量 2,522(当社が納める熱交換器の数(万個、推定))× 価格 0.65(1 個あたり単価(万円/個))→ 売上 1,643 億円・営業利益 74 億円
- 建機・産業機械・空調ほか:数量 72.0(当社が納める熱交換器の数(万個、推定))× 価格 5.19(1 個あたり単価(万円/個))→ 売上 374 億円・営業利益 22 億円
倍率:事業の ROE 6.6% は k 8.75% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER の上限は 1÷k = 11.1 倍。利益が谷に近い構造的な筋書きなので、上限の 6.8 割の 7.5 倍に置いた。
確率:過去の中央値が 3% 前後であり、顧客の値決めが強い構造を踏まえると、利益率が半分近くに戻る筋書きの確率は高い。
悲観 15% 四輪で受注を失い、建機も縮み、赤字が続く 利益 9 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 328 円186 億円
日系メーカーの海外シェアが落ち、競合の大手が熱交換器に戻って、多機能ラジエーターの追加受注を失う。四輪向けの数は 2 割減り、単価も物価に追いつかない。
建機は景気の悪化と顧客の内製・乗り換えで数が減る。固定費の重い工場の統廃合を迫られ、減損が出る。営業利益は 0 に近く、年によって赤字になる。
配当は掲げた下限の方針を守れず、自社株買いは止まる。支配株主の都合で資本政策が決まり、少数株主の取り分は薄れる 10 年になる。インドの合弁は育つが、連結の赤字を埋めるほどの大きさにはならない。電動化で冷却部品の数が減らなくても、取れる受注が減れば意味がない。ティラドは、専業ゆえに逃げ場がない会社になる。
- 自動車用(四輪・二輪):数量 2,080(当社が納める熱交換器の数(万個、推定))× 価格 0.55(1 個あたり単価(万円/個))→ 売上 1,147 億円・営業利益 17 億円
- 建機・産業機械・空調ほか:数量 60.0(当社が納める熱交換器の数(万個、推定))× 価格 4.59(1 個あたり単価(万円/個))→ 売上 275 億円・営業利益 8 億円
倍率:赤字に近い筋書きなので稼ぐ力でなく売れる資産で測る。現金は有利子負債とほぼ相殺されるため、運転資本と遊休の工場・土地の税引き後の約 190 億円を床とし、今の自己資本 530 億円の 0.35 倍に置いた。
確率:日系メーカーの不振、競合の復帰、顧客の値下げ要求が重なる複合の筋書き。財務が堅く、赤字が続いても存続の危機にはなりにくいため、過度には厚くしなかった。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
自動車用(四輪・二輪)
ラジエーター・オイルクーラー・インタークーラー・EGR クーラーなど。四輪車と二輪車向け。
| 数量当社が納める熱交換器の数(万個、推定) | 価格1 個あたり単価(万円/個) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2,600 | 0.50 | 1,303 | 85 |
| 10 年後 中立 | 2,860 | 0.69 | 1,978 | 135 |
取り方:用途別売上の自動車用 1,303 億円(短信の用途別)を使用。数の開示はないため、日系メーカー向けの四輪シェア 19% と二輪の高いシェア、1 台あたりの搭載数(エンジン車 2〜6 個)から納入数を約 2,600 万個と推定し、売上÷数で単価 0.50 万円を逆算した。営業利益は地域別の開示しかないので、建機より低い 6.5% と推定。単価は物価並みの 1.34 倍が基本で、多機能ラジエーターの混合の改善で少し上回る。
建機・産業機械・空調ほか
建設機械・農機・産業機械用の大型ラジエーターやオイルクーラー、空調機器用ほか。
| 数量当社が納める熱交換器の数(万個、推定) | 価格1 個あたり単価(万円/個) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 80.0 | 3.99 | 319 | 30 |
| 10 年後 中立 | 80.0 | 5.35 | 428 | 39 |
取り方:建設産業機械用 275 億円、空調 1.5%・その他 1.2%(計約 44 億円)の合計 319 億円を使用。日系メーカーの建機向けシェア 55% と 1 機あたりの搭載数から納入数を約 80 万個と推定し、売上÷数で単価 3.99 万円を逆算した。大型で単価が高い。営業利益は開示がなく、9.5% と推定(自動車用 84.7 億円と合わせて全社 112.5 億円に調整額 −2.5 億円を足す)。
リスクと懸念
利益率の定着
営業利益率 6.9% は過去最高で、過去 10 年の中央値の倍以上にある。売価交渉の成果は、材料が下がり、顧客の力が戻れば削られる。今期 4〜6 月の営業利益はすでに前年を下回った。定着しなければ、価値の前提が崩れる。
顧客の値決めと大手の復帰
四輪の主要顧客は、トヨタ・ホンダ級の大手だ。多機能ラジエーターの量産後は、毎年の原価低減で単価が削られうる。競合が熱交換器への力を弱めたと会社は言うが、デンソー、マーレなどが戻れば、受注と値決めの前提が変わる。
原材料と関税
アルミと銅は高値圏にある。スライド条項で転嫁できるが、時間差で利益が削られる。米国は関税で利益が減り、2027 年度には一部製品の生産終了で売上が一時的に落ちる。会社は予想に関税の影響を明示的に織り込んでいない。
建機・中国・欧州の景気
建機向けは売上の 17% で、設備投資と資源価格に連動して大きく振れる。中国では日系メーカーの不振で減収が続き、欧州は商用車が弱い。海外が売上の半分超なので、円高も換算で売上を目減りさせる。
支配株主と資本政策
筆頭株主の陣屋コネクトが約 38.7% を持つ。少数株主の意思では、配当・自社株買い・非公開化の判断を左右しにくい。TOB の発表はないが、支配株主のいる会社では、価値が非公開化の条件に左右される余地がある。
電動化と新分野の実行
多機能ラジエーターの米国量産は 2028 年度の計画で、実現は先だ。データセンターやヒューマノイドは、まだ収益に入っていない。工場投資が先行して、立ち上がりが遅れれば、減価償却だけが先に重くなる。
今後の分かれ目
- 営業利益率が 2 期続けて 7% を超えて推移したら
- 売価交渉の成果が定着したとみて、中立から楽観側へ確率を移す。10 年の営業利益率の置き方を見直す。
- 多機能ラジエーターの量産が計画どおり 2028 年度に始まり、受注が広がったら
- 四輪向けの数量と単価の前提を上げ、やや楽観の確率を厚くする。
- アルミ価格が高止まりし、スライド条項の転嫁が遅れ続けたら
- 営業利益率を下げ、やや悲観側へ確率を寄せる。
- 陣屋コネクトが保有比率をさらに上げたり、公開買付けを発表したりしたら
- 価値は買い付けの条件に左右される。少数株主の取り分を、事業の価値と買付価格の両面から見直す。
- データセンター向けなど自動車以外の熱交換器で、継続的な受注が出たら
- 建機・産業用の数量を上げ、景気の振れを和らげる柱として楽観側に織り込む。
- 中国・欧州の減収が拡大し、日系メーカーのシェア低下が続いたら
- 四輪向けの数量を引き下げ、悲観の確率を厚くする。
見ておくもの
- 営業利益率の四半期の推移(材料高と売価改善のせめぎ合い)
- 多機能ラジエーターの量産時期と受注台数
- アルミ・銅の価格とスライド条項での転嫁のタイミング
- 米国の関税の影響と 2027 年度の生産終了の影響
- 陣屋コネクトの保有比率と、公開買付けなどの動き
- DOE・配当性向・自社株買いの実績
倍率と資本コストの決め方
倍率は事業の ROE と k 8.75% から、正当化 PER の式と 1÷k の下限で決めた。中立は上限の約 9 割に置き、過去や同業の PER・PBR は根拠にしていない。悲観は事業の稼ぐ力と、今の自己資本に掛けた PBR で置いた。今の株価に寄せて数字を動かしてはいない。結果は 10 年で小さな割高に出た。リースの新会計基準は、10 年後の数字を今と同じ家賃を費用に含む形にそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.2→15.3 倍・やや楽観 PER 11.6→14.56 倍・中立 PER 11.3→13.75 倍)。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.5% を足した 9.0%。支配株主・関税・材料高などの個別の懸念は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.00% → 8.75%。