結論
愛三工業は、ガソリン車の燃料ポンプモジュールで世界の約4割を握る部品会社だ。燃料を送り、吸気を整え、蒸発ガスを閉じ込める。どれもエンジンがあって初めて要る部品である。筆者の結論は、今の値段はやや割高、というものだ。中立でも10年の期待の年率は資本コストに届かない。
強みは、2022年にデンソーから燃料ポンプ事業を譲り受けて得た規模にある。ハイブリッド車(HEV)にも燃料ポンプは要るので、電動化は一気には脅威にならない。弱みは二つある。売上の半分近くがトヨタ向けで、値段を自分で決めにくい。そしてBEV(電池だけで走る車)が増えるほど、スロットルボデーなどの需要が先に消える。
会社は2030年度に売上5,500億円を掲げるが、中立では物価の伸びを下回る4,300億円ほどに見る。営業利益率は5%台後半で、ROEは8%台にとどまる。ただ純現金があり、赤字に沈む年は想定しにくい。BEV化が速く進むときの下振れが大きいので、確率は悲観側に少し寄せた。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、愛三は「長く持ちたい会社」とは言いにくい。理由は三つある。
一つ目は、稼ぐ力の源泉が、エンジン車という縮む市場の上にあることだ。世界シェアは高いが、市場が小さくなれば、その首位の価値も縮む。二つ目は、値段を決められないことだ。トヨタ向けが半分で、コスト低減の要請を受け続ける。利益率が過去10年で6%を超えなかったのは偶然ではない。三つ目は、資本の使い方が目標先行になっていることだ。ROE12%という数字は、実績との間に大きな距離がある。
一方で、安全域は一定にある。借金は実質なく、純現金がある。HEVが長く続けば、燃料系の需要は想定より長持ちする。資本の使い方が改善し、配当と自社株買いが着実に出るなら、時価総額は大きく下がりにくい。
払う値段に対して、この会社が10年かけて返してくれるのは、緩やかな増益と配当だ。劇的な成長を期待する会社ではない。その地味さが、適正な値段で買えるなら悪くないが、割安とまでは言えない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は燃料ポンプモジュールだ。タンクの中にあり、ポンプ、フィルター、燃料計をひとまとめにした部品である。売上のおよそ半分を占めると筆者は見る。次がスロットルボデー、EGRバルブ、インジェクタなど、空気と燃料の量を測る吸気・噴射の部品で、売上の3割弱になる。
三つ目がキャニスタだ。燃料タンクから蒸発するガスを活性炭で捕らえ、大気に逃がさない。排ガス規制が厳しくなるほど、1台に積む量が増える。残りの1割ほどが、二輪向けの燃料系、車載電池のセルケース、各種の加工品だ。
顧客はトヨタが売上の約半分を占める。ほかにスズキ、ホンダ、ヤマハ発動機、海外の完成車メーカーが続く。地域は、アジアが4割強、日本が3割、米州が2割強、欧州が1割未満だ。トヨタ自動車が株式の約3割を持つ系列会社でもある。
会社の説明では、デンソーの譲受で燃料ポンプの世界シェアは4割に達した。第三者の統計ではないが、規模の大きさは間違いない。製品別の売上は開示が乏しいため、本分析は世界の非BEV生産台数と単価からの推定で置いている。
優良さと弱いところ
堀は「規模と実績」で、「値段を決める力」ではない。燃料ポンプは世界の約4割という規模があり、品質の評価も高い。ただ、車の性能を左右する部品ではなく、完成車メーカーから見れば替えのきく部品に近い。毎年のコスト低減の要請を受ける立場は変わらない。
利益率がそれを物語る。過去10年の営業利益率は2.7〜5.7%で、最高でも6%に届いていない。売上が3,000億円を超えても、残る利益は薄いままだ。現在の自己資本比率は45%、純現金は120億円ほどで、借金に苦しむ状態ではない。
資本の使い方はまだ途上だ。ROEは過去10年の中央値が7%で、資本コストを下回る年が多い。会社は今の計画で12%を掲げるが、これは実績から離れた高い目標だ。
経営は、親会社同然のトヨタと、持ち合いを減らす系列の再編の間にある。2025年にはデンソーが持っていた株を、市場価格より約8%安い値段で買い取った。株主構成をすっきりさせる動きとして評価できる。一方で、事業の中身はエンジン系に偏り、10年後の稼ぎ頭が見えにくい。そこを筆者は最も気にしている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
自動車部品は、完成車の生産台数に連動する。世界の新車生産は年間1億台近くで、人口の減る日本は縮み、インドや東南アジアが伸びる。愛三の売上の4割強はアジアで、この伸びを取り込める位置にいる。
問題は中身の変化だ。世界のBEVは新車の約4分の1に達し、中国と欧州が引っ張る。日本はまだ数%だが、10年のうちには追いつくだろう。BEVには燃料ポンプも、スロットルボデーも、キャニスタもない。一方でHEVとPHEVは、エンジンとともに燃料系の部品を積み続ける。このため、愛三の需要は急には消えず、じわじわ細る。
競合は、燃料ポンプではデンソー、ボッシュ、中国の地場企業などだ。愛三は世界1位の位置にいるが、市場そのものが縮む。スロットルボデーでは、日立Astemoなどとの競争がある。キャニスタは、排ガス規制の強まる中国やインドで需要が増える。
業界の構造として、値段はトヨタを含む完成車メーカーが決める。部品の側は、物価が3%上がる世界で、同じように値上げを通せるとは限らない。日本の部品産業全体では、トヨタグループ内の再編が進み、持ち合いの解消と事業の再配置が続いている。
資本政策と M&A
還元は、2025〜2027年度に配当性向35%以上と自社株買いを合わせて270億円という計画だ。純利益が130億円台なので、実際の還元は純利益の約6割になる。2025年にはデンソーから自己株式を買い取り、持ち合いの解消に応じた。
設備と研究開発は、2027年度までに設備投資が累計430億円、研究開発が累計500億円の計画だ。投資の4割は電動化に向かう。電池システムは2030年までに自社設計・量産を目指し、電動システムは2035年までに自社設計を目指す。成功すれば新しい柱になるが、規模はまだ小さい。
M&Aでは、2022年にデンソーから約190億円で燃料ポンプ事業を譲り受けた。設備のみを引き継ぎ、人は引き継がないという形だった。これで世界シェアを4割に上げた。今後も、拡販・提携・M&Aで成長するとしている。
株主構成は、トヨタ自動車が約3割、豊田自動織機が1割弱を持つ。トヨタグループは持ち合いの解消を進めており、愛三が自己株式として吸収する、あるいはトヨタが買い増す形での再編が起こりうる。10年以内にTOBが起きる確率は、統計上は2割台だ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
愛三の最大の強みは、燃料ポンプモジュールで世界シェアが4割に達したことだ。デンソーから譲り受けた事業を自社工場に集約し、まだ原価低減の余地が大きい。統合が進むほど、利益率は計画の7%台に近づく。
HEVとPHEVは、これからも世界で売れ続ける。エンジンがあるかぎり燃料ポンプは要り、BEVへの移行は、多くの市場で想定より遅れている。トヨタがマルチパスウェイ(全方位)の戦略を貫く限り、愛三の需要は長持ちする。
排ガス規制は世界で強まっている。キャニスタは1台あたりの搭載量が増え、中国とインドで数量も伸びる。二輪では、インドが世界最大の市場で、ホンダとヤマハ向けの燃料系や電動化製品を取り込める。
資本面でも前向きだ。ROEは12%という目標を置き、配当性向35%以上に自社株買いを加える。純現金があり、財務に余裕がある。時価総額は1,200億円ほどで、10年で利益が3割伸びるだけでも、今の値段は安く見える。
慎重な見方
市場そのものが縮む。BEVの比率は10年で4割を超え、中国と欧州の普及はさらに速い。BEVには燃料ポンプも、スロットルボデーも、キャニスタもない。HEVが延命するというが、HEVの次はBEVかPHEVに移るのが自然な流れだ。
価格の決定権は完成車メーカーにある。売上の約半分がトヨタ向けで、毎年のコスト低減の要請が続く。過去10年の営業利益率は2.7〜5.7%で、最高でも6%に届かなかった。会社の目標である7.7%は、実績から離れている。
電動化製品は規模が小さい。電池ケースや二輪向けの電動化は、2030年度でも売上の1割に満たない可能性が高い。研究開発に500億円、設備投資に430億円を投じても、エンジン系の縮みを埋めるには足りない。
固定費の重さも問題だ。売上が1割落ちるだけで、営業利益は半分になりうる。2009年3月期のように、利益率が1%を割る年が再び来れば、純利益はたちまち赤字に沈む。ROEが資本コストを超える年は、過去10年でほとんどなかった。
どちらに重みを置いたか
強気の主張は、シェアの高さとHEVの延命に根拠がある。慎重な主張は、利益率の低さと市場の縮みに根拠がある。利益率の実績が慎重な側を支えるので、確率は悲観側に少し寄せた。
中立は、エンジン系が1割ほど縮み、値上げで売上を保つ姿とした。やや悲観と悲観を合わせて4割弱とし、同じ領域の会社の悲観側とそろえた。ただ、純現金と世界シェアの厚みがあるので、悲観の確率は専業部品メーカーの中では低めに置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,251 円1,864 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,236 円709 億円)。 今の値に割り戻すと 2,260 円1,296 億円、今との差 +10.8%、 期待の年率 +8.2%(資本コスト 8.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 6,523 円3,740 億円 | 1,971 円1,130 億円 | +316.4% | +15.3% | 595 円341 億円 |
| やや楽観 | 20% | 4,930 円2,826 億円 | 1,674 円960 億円 | +223.7% | +12.5% | 1,321 円757 億円 |
| 中立 | 35% | 3,804 円2,181 億円 | 1,456 円835 億円 | +157.9% | +9.9% | 1,841 円1,056 億円 |
| やや悲観 | 25% | 1,547 円887 億円 | 959 円550 億円 | +22.9% | +2.1% | 627 円359 億円 |
| 悲観 | 13% | 692 円397 億円 | 105 円60 億円 | −60.9% | −9.0% | 104 円59 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,251 円1,864 億円 | 1,236 円709 億円 | +119.9% | +8.2% | 4,487 円2,572 億円 |
今の株価時価総額 2,040 円1,170 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 7% HEVの長命とインド二輪・電動化が重なり、計画の利益率に届く 利益 277 億円 · PER 13.5 倍 · 株価時価総額 6,523 円3,740 億円
HEV・PHEVが長く売れ続け、燃料ポンプの需要が想定ほど減らない。デンソーから譲り受けた事業の工場への集約が進み、世界シェアは4割台前半へ上がる。キャニスタは排ガス規制の強化で1台あたりの搭載量が増える。二輪向けの燃料系と、安城で立ち上げた電池セルケースなど電動化製品が育ち、インドが柱の一つになる。トヨタ向け一辺倒からの分散も進む。全社の営業利益率は計画どおり7%台後半に届き、研究開発と設備への投資が実を結ぶ10年になる。燃料ポンプは供給網の強さで新規の車種も取り込み、トヨタ以外の顧客の比率がじわじわ上がる。売上は5,000億円を超える。
- 燃料ポンプモジュール:数量 3,250(世界の非BEV生産のうち愛三が供給する台数(万台、推定))× 価格 0.70(1台あたり単価(万円/台))→ 売上 2,275 億円・営業利益 182 億円。燃料ポンプモジュール 営業利益率8.0%
- スロットルボデー等:数量 2,000(愛三が供給する台数(万台、推定))× 価格 0.60(1台あたり単価(万円/台))→ 売上 1,206 億円・営業利益 84 億円。スロットルボデー等 営業利益率7.0%
- キャニスタ:数量 2,700(愛三が供給する台数(万台、推定))× 価格 0.29(1台あたり単価(万円/台))→ 売上 783 億円・営業利益 78 億円。キャニスタ 営業利益率10.0%
- 二輪・電動化・その他:数量 1,800(二輪・電動化・その他の部品を台数に換算した量(万台相当、推定))× 価格 0.48(1台相当あたり単価(万円))→ 売上 864 億円・営業利益 69 億円。二輪・電動化・その他 営業利益率8.0%
倍率:事業の純利益 277 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.9% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.5 倍。全体の PER 13.49 倍、時価総額 3,738 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:HEV・PHEVの長命と新分野の成功が重なる必要があり、実現しても連続成功は難しい。楽観を厚くしない。
やや楽観 20% エンジン系は底堅く、新分野が穴を埋める 利益 216 億円 · PER 12.8 倍 · 株価時価総額 4,930 円2,826 億円
世界のBEV比率は上がるが、HEVが主役の期間が長い。燃料ポンプモジュールは統合の効果で原価が下がり、利益率は少しずつ上向く。スロットルボデーはBEVで消える分をHEVの採用が支える。キャニスタは規制強化で数量が保たれる。インドと東南アジアの二輪向け、電池ケースなど電動化製品は期待ほど大きくならないが、赤字にもならない。還元は配当性向35%以上を守り、自社株買いも続く。営業利益率は6%台半ばまで改善する10年になる。トヨタ向けの比率は半分を切らないが、インドと東南アジアの二輪でホンダやヤマハ発動機との取引が広がる。売上は4,600億円ほどになる。
- 燃料ポンプモジュール:数量 3,050(世界の非BEV生産のうち愛三が供給する台数(万台、推定))× 価格 0.68(1台あたり単価(万円/台))→ 売上 2,074 億円・営業利益 149 億円。燃料ポンプモジュール 営業利益率7.2%
- スロットルボデー等:数量 1,900(愛三が供給する台数(万台、推定))× 価格 0.60(1台あたり単価(万円/台))→ 売上 1,146 億円・営業利益 71 億円。スロットルボデー等 営業利益率6.2%
- キャニスタ:数量 2,500(愛三が供給する台数(万台、推定))× 価格 0.28(1台あたり単価(万円/台))→ 売上 690 億円・営業利益 62 億円。キャニスタ 営業利益率9.0%
- 二輪・電動化・その他:数量 1,500(二輪・電動化・その他の部品を台数に換算した量(万台相当、推定))× 価格 0.48(1台相当あたり単価(万円))→ 売上 720 億円・営業利益 47 億円。二輪・電動化・その他 営業利益率6.5%
倍率:事業の純利益 216 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.3% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.7 倍。全体の PER 12.75 倍、時価総額 2,759 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:統合効果と規制強化で利益率が上向く道。自社の取り組みが効く分、一定の確度がある。
中立 35% エンジン系は緩やかに縮み、値上げで売上を保つ 利益 173 億円 · PER 12.0 倍 · 株価時価総額 3,804 円2,181 億円
世界のBEV比率は4割前後へ上がり、燃料ポンプ・スロットルボデーの数量は1割ほど減る。減る分は物価並みの値上げと、世界シェアの維持で受け止める。キャニスタは数量がほぼ保たれる。二輪と電動化は伸びるが、会社の描く規模には届かない。トヨタの調達方針が価格を押し下げる力は変わらず、営業利益率は5%台後半で今と大差ない。売上は物価の伸びを下回る形で4,000億円台前半に落ち着く。還元は純利益の5割台半ばを続け、自己資本は着実に積み上がる10年になる。トヨタとの関係は今のまま続き、デンソーとの再編のような大きな動きは起きない。大きな成功も大きな失敗もない、地味な10年の姿だ。
- 燃料ポンプモジュール:数量 2,900(世界の非BEV生産のうち愛三が供給する台数(万台、推定))× 価格 0.67(1台あたり単価(万円/台))→ 売上 1,943 億円・営業利益 126 億円。燃料ポンプモジュール 営業利益率6.5%
- スロットルボデー等:数量 1,750(愛三が供給する台数(万台、推定))× 価格 0.60(1台あたり単価(万円/台))→ 売上 1,055 億円・営業利益 58 億円。スロットルボデー等 営業利益率5.5%
- キャニスタ:数量 2,450(愛三が供給する台数(万台、推定))× 価格 0.28(1台あたり単価(万円/台))→ 売上 676 億円・営業利益 54 億円。キャニスタ 営業利益率8.0%
- 二輪・電動化・その他:数量 1,300(二輪・電動化・その他の部品を台数に換算した量(万台相当、推定))× 価格 0.48(1台相当あたり単価(万円))→ 売上 624 億円・営業利益 31 億円。二輪・電動化・その他 営業利益率5.0%
倍率:事業の純利益 173 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.9% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.0 倍。全体の PER 12 倍、時価総額 2,071 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業種ノートの中立(BEV比率4〜5割・エンジン専業は縮小)に沿った最も重い筋書き。
やや悲観 25% BEV化が早まり、固定費が重くのしかかる 利益 85 億円 · PER 7.8 倍 · 株価時価総額 1,547 円887 億円
中国と欧州でBEVの普及が速く進み、世界のBEV比率が4割台半ばに達する。燃料ポンプとスロットルボデーの数量が2〜3割減り、工場の稼働率が下がる。トヨタからのコスト低減の要請は続き、値上げは物価に追いつかない。電動化製品は立ち上がりが遅れ、投資の回収に時間がかかる。営業利益率は3%台まで下がり、純利益は今の6割ほどになる。配当は維持するが自社株買いは止まる。それでも赤字には落ちず、じり貧のまま耐える10年になる。トヨタ以外の顧客の開拓は進まず、二輪の伸びも限られる。売上は3,400億円台に縮み、物価分の値上げが数量の減りを補いきれない。
- 燃料ポンプモジュール:数量 2,500(世界の非BEV生産のうち愛三が供給する台数(万台、推定))× 価格 0.65(1台あたり単価(万円/台))→ 売上 1,625 億円・営業利益 73 億円。燃料ポンプモジュール 営業利益率4.5%
- スロットルボデー等:数量 1,300(愛三が供給する台数(万台、推定))× 価格 0.58(1台あたり単価(万円/台))→ 売上 754 億円・営業利益 23 億円。スロットルボデー等 営業利益率3.0%
- キャニスタ:数量 2,200(愛三が供給する台数(万台、推定))× 価格 0.26(1台あたり単価(万円/台))→ 売上 572 億円・営業利益 34 億円。キャニスタ 営業利益率6.0%
- 二輪・電動化・その他:数量 1,100(二輪・電動化・その他の部品を台数に換算した量(万台相当、推定))× 価格 0.45(1台相当あたり単価(万円))→ 売上 495 億円・営業利益 15 億円。二輪・電動化・その他 営業利益率3.0%
倍率:事業の ROE 4.3% は k 8.5% 以下なので、ためた利益は額面を下回る価値で、正当化 PER の上限は 1÷k = 11.1 倍。稼ぐ力が落ち構造的に縮む筋書きなので、上限の 7 割の 7.8 倍に置いた。
確率:エンジン系に偏る事業構造と、トヨタ向けが約半分の価格決定力の弱さから、下振れを厚めに置く。同じ領域の会社の悲観側とそろえた。
悲観 13% エンジン系が急速に縮み、構造転換に失敗する 利益 −24 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 692 円397 億円
BEVへの移行が想定を大きく上回り、スロットルボデーが急減する。燃料ポンプも主要車種がBEVに替わって数量が4割近く減る。トヨタの系列内でも調達先の絞り込みが進み、値段の引き下げ圧力が強まる。二輪と電動化は規模が小さいまま、設備投資の負担だけが残る。稼働率が落ちた工場の統廃合で特別損失が出て、営業損益は赤字に沈む。配当は減らし、自社株買いも止まる。売れる資産と手元資金が下支えになる10年になる。還元は純利益を大きく上回る年もあるが、手元の現金と設備の売却で払い、配当は大きく削る。会社の格は下がり、市場は成長企業とは見なくなる。
- 燃料ポンプモジュール:数量 2,000(世界の非BEV生産のうち愛三が供給する台数(万台、推定))× 価格 0.62(1台あたり単価(万円/台))→ 売上 1,240 億円・営業利益 12 億円。燃料ポンプモジュール 営業利益率1.0%
- スロットルボデー等:数量 700(愛三が供給する台数(万台、推定))× 価格 0.54(1台あたり単価(万円/台))→ 売上 378 億円・営業利益 −15 億円。スロットルボデー等 営業利益率-4.0%
- キャニスタ:数量 1,800(愛三が供給する台数(万台、推定))× 価格 0.24(1台あたり単価(万円/台))→ 売上 432 億円・営業利益 13 億円。キャニスタ 営業利益率3.0%
- 二輪・電動化・その他:数量 800(二輪・電動化・その他の部品を台数に換算した量(万台相当、推定))× 価格 0.43(1台相当あたり単価(万円))→ 売上 344 億円・営業利益 0 億円。二輪・電動化・その他 営業利益率0.0%
倍率:赤字の筋書きなので稼ぐ力でなく売れる資産で測る。純現金と設備の売却の税引き後 約 400 億円を床とし、今の自己資本 約 1,420 億円の 0.28 倍に置いた。減損で自己資本は減るが、床は今の自己資本に掛けた。
確率:転換失敗には、BEV加速に加えトヨタ系列内の調達絞り込みが要る。燃料ポンプで世界シェアが高く代わりの調達先が少ない点と、純現金の厚みから、他の専業部品メーカーより少し低く置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
燃料ポンプモジュール
燃料タンクの中でポンプ・フィルター・燃料計をまとめた部品。HEV・PHEVにも積まれる。
| 数量世界の非BEV生産のうち愛三が供給する台数(万台、推定) | 価格1台あたり単価(万円/台) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3,100 | 0.50 | 1,550 | 93 |
| 10 年後 中立 | 2,900 | 0.67 | 1,943 | 126 |
取り方:開示が乏しいため推定。世界の非BEV生産(ガソリン・HEV・PHEV)を約8,000万台とし、会社が言う世界シェア約4割(約39%)を掛けて3,100万台。単価は約0.5万円で、売上は約1,550億円(全体の47%)。物価並みの値上げが基本で、10年で1.34倍。
スロットルボデー等
空気と燃料の量を測る吸気・噴射の部品(スロットルボデー・EGRバルブ・インジェクタ)。BEVにはない。
| 数量愛三が供給する台数(万台、推定) | 価格1台あたり単価(万円/台) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2,000 | 0.45 | 900 | 54 |
| 10 年後 中立 | 1,750 | 0.60 | 1,055 | 58 |
取り方:推定。非BEV生産約8,000万台に対する愛三の供給を約25%とみて2,000万台。単価は約0.45万円。売上は約900億円(27%)。BEVでは不要になるので、燃料ポンプより数量が先に減る。
キャニスタ
燃料の蒸発ガスを活性炭で捕らえる排ガス対策部品。規制が強まると搭載量が増える。
| 数量愛三が供給する台数(万台、推定) | 価格1台あたり単価(万円/台) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2,500 | 0.20 | 500 | 40 |
| 10 年後 中立 | 2,450 | 0.28 | 676 | 54 |
取り方:推定。非BEV生産約8,000万台に対し約3割の2,500万台、単価約0.2万円で売上約500億円(15%)。PHEVは燃料を密閉するため搭載量が多く、規制強化の追い風を受ける。
二輪・電動化・その他
二輪向けの燃料系部品、車載電池のセルケース、各種の加工品。
| 数量二輪・電動化・その他の部品を台数に換算した量(万台相当、推定) | 価格1台相当あたり単価(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,000 | 0.36 | 358 | 18 |
| 10 年後 中立 | 1,300 | 0.48 | 624 | 31 |
取り方:全体の売上3,308億円から上の三つを引いた残り約358億円(11%)を、二輪向けの燃料系や電池ケースなどの1,000万台相当の部品(単価約0.358万円)とみなした推定。インドの二輪の伸びと電動化製品が10年の伸びしろになる。
リスクと懸念
BEV化の加速
世界のBEV比率が想定を上回れば、燃料ポンプ・スロットルボデー・キャニスタの数量が一気に減る。愛三の売上の9割近くがエンジン車向けで、BEVに替わった車種からは受注が消える。中国・欧州の普及速度が最大の変数になる。
トヨタ向けの値決めの弱さ
売上の約半分がトヨタ向けで、毎年のコスト低減の要請を受ける。物価が3%上がる中でも、値上げを同じだけ通せるとは限らない。営業利益率が過去10年で6%を超えなかった理由でもある。
固定費の重さと稼働率
工場と設備の固定費が重く、数量が1割落ちれば営業利益は半分近くになりうる。2009年3月期には営業利益率が1%を割り、赤字に落ちた。BEV化で稼働率が下がる時の下振れは大きい。
電動化製品の立ち上がりの遅れ
電池システムと電動システムは、自社設計・量産が2030〜2035年という長い計画だ。規模は売上の1割に満たない見込みで、エンジン系の縮みを埋めきれない恐れがある。投資の4割が電動化に向かうため、回収の遅れは利益を削る。
デンソーから譲り受けた事業の統合
2022年に譲り受けた燃料ポンプ事業は、設備のみの引き継ぎで、人は引き継がなかった。自社工場への集約や品質の維持がうまくいかなければ、シェア4割の維持が難しくなる。原価低減の効果も遅れる。
トヨタグループの再編
トヨタ自動車が約3割、豊田自動織機が1割弱を持つ。系列の持ち合い解消や再配置で、愛三の事業が他社へ移る、または統合される可能性がある。条件次第で少数株主に不利になりうる。
為替と関税
北米・アジアに生産と販売を持つため、米国の関税や通貨の動きが利益を揺らす。本分析はドル円150円で固定しているので、為替の影響は別に見る必要がある。
今後の分かれ目
- BEVの世界比率が10年を待たず4割を超えたら
- やや悲観・悲観の確率を上げ、燃料ポンプの数量前提を引き下げる。
- 営業利益率が2期続けて7%を超えたら
- 統合効果が実を結んだとみて、やや楽観・楽観の確率を上げる。
- 電動化製品の受注が複数の完成車メーカーから積み上がったら
- 二輪・電動化の数量と利益率を引き上げ、中立も見直す。
- トヨタグループが愛三株を買い増す、またはTOBを仕掛けたら
- 価格の条件を確かめ、少数株主への配慮があるか見て確率を組み替える。
- HEVの販売比率が世界で伸び続けたら
- 燃料系の数量の減り方を緩め、エンジン系の寿命を長く置き直す。
- 自動車の世界生産が大きく落ち込んだら
- 固定費の重さから悲観側の筋書きを厚くする。
見ておくもの
- トヨタの生産計画と、愛三向けの受注の動き
- 世界のBEV・HEV・PHEVの販売比率
- 営業利益率(計画7.7%に対する進捗)
- 電池セルケースなど電動化製品の受注と売上
- インドの二輪・四輪向けの売上
- トヨタ・豊田自動織機の持ち株の動き
倍率と資本コストの決め方
倍率は正当化PER(RONIC方式、g4.0%・k8.5%)の上限に対し、中立は8.2割(ROE÷k×0.9)、楽観は8.5割、ROEがk以下のやや悲観は1÷kの7割に置いた。悲観は純現金と設備売却の税後400億円を床にし、今の自己資本に掛けた。資本コストは基本7.5%にquality+1.5%(循環・値決め・寿命に各+0.5)。過去のPBR・PERと今の株価は倍率に使っていない。製品別の売上は推定で、実績と合うかは今後確認が要る。新リース会計の影響は、数字の形を今と同じ(家賃を営業費用に入れた形)にそろえて置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.5→13.49 倍・やや楽観 PER 9.8→12.75 倍・中立 PER 9.14→12 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.5% を足した 9.0%。トヨタ依存や電動化の遅れは k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.00% → 8.50%。