結論
ジャパンエンジンコーポレーションは、大型船の推進に使う低速ディーゼルエンジン「UE」を、設計から製造、保守まで一貫して手がける国内唯一の会社だ。三菱重工業のエンジン事業を受け継いで2017年に発足した。自社で造るだけでなく、中国や韓国の造船会社にも製造権を貸し、使用料を得る。
筆者の結論は「割高」だ。いちばんの理由は、いまの利益が新造船の好況の頂点にあることにある。営業利益率は18%台まで上がったが、5年前は2%前後だった。受注の山は、数年遅れてエンジンの売上と部品の売上に流れ込む。その山が引けば、利益は大きく戻る。
強みもある。売上の半分は、使用料と部品、修理という繰り返し入る収入だ。エンジンは一度船に載れば、20年以上、保守の部品が要る。ここは景気の波が小さい。中国のライセンシーが台数を伸ばしたことで、世界の低速エンジンに占める取り分は10%を超えた。
弱みは、この会社が小さいことだ。世界の低速エンジンはEverllence(旧MAN)とWinGDの2社が大半を握り、UEは3番手にとどまる。しかもWinGDは中国の国有造船グループの傘下にあり、中国の造船所がどのエンジンを選ぶかで、使用料の流れが変わりうる。
10年後の中立の利益は、いまの水準を少し上回る程度だ。数量と船価は物価並みに伸びるが、利益率は好況の頂点から平均へ戻る。この値段で買うのは、好況の利益が続くことに賭けることになる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社の事業は「繰り返し入る収入の厚みで評価できる」が、「いまの利益は信じられない」と言うのが筆者の見方だ。
オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益は、帳簿の利益より少ない。新しいエンジンの開発と工場に、お金が出ていくからだ。この投資がうまくいけば、次の10年の収入源になる。だが、うまくいくかは、燃料の選択が決まるまでわからない。
堀は、あるが狭い。世界に積んだエンジンの部品と保守は、他社に取られにくい。一方で、新しいエンジンの売り込みは、巨大な2社との戦いになる。中国の造船所は、技術を手に入れると、自国のエンジンへ寄る動機を持つ。10年後も今の使用料が続くと断言できる事業ではない。
経営は堅実だ。借金はなく、無理な買収もない。ただ、利益が3年で5倍に増えたのに、配当は1割台にとどまる。資本を貯めるだけでは、価値は増えない。
安全域は、まったくない。好況の頂点の利益に高い倍率を掛けた値段を、バリュー投資家は払わない。利益が半分になっても元が取れる値段でなければ、持ち続ける理由が弱い。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は2つある。1つは、舶用ディーゼルエンジンを造って造船所に納める事業だ。もう1つは、使用料、部品、修理、保守の事業で、売上の半分を占める。
エンジン事業の中心は、明石の本社工場で造るUEエンジンだ。大型船の主機関で、1基は数億円から十数億円する。年間の自社製造は20台前後とみる。注文は造船所から受け、納めるのは船の完成の1〜2年前だ。工場の稼働が一定の量に埋まると、利益が大きく伸びる。2026年3月期は、操業の負荷を調整する必要があり、エンジンの売上は前の期より減った。
もう1つの事業は、収益の質が高い。UEの製造権を持つ造船所やエンジンメーカーから、台数に応じた使用料が入る。国内の赤阪鉄工所、中国船舶重工集団の柴油機会社、韓国の現代重工業など6社がいる。これに、すでに船に載ったエンジンへの部品と修理が重なる。部品と修理は、船が動く限り続く。
数量は、世界の新造船の発注量と、UEが取れるシェアで決まる。価格は、エンジンは入札で、部品と使用料は契約で決まる。次の大きな柱は、アンモニアと水素を燃料にする新しいエンジンだ。水素エンジンはすでに完成し、2027年に商船三井の船へ載せる予定だ。ただ、まだ受注として収益に出てはいない。
優良さと弱いところ
優良さは「普通に良い。堀は一定あるが、小さい」と評価する。繰り返し入る収入があるぶん、造船所単体より強い。だが、世界を相手に守れるほど深い堀ではない。
強みは、使用料と部品の収入だ。UEは1955年に三菱重工が造り始めて70年になる。世界中に積んだエンジンの数が、そのまま部品と修理の需要になる。エンジンを買う船主は、同じ型の部品を長く使うため、他社へ移りにくい。さらに、開発から設計、製造、保守までを日本で一貫して担うのはこの会社だけだ。経済安全保障の面でも、国が守りたい産業に入っている。
弱みは3つある。第1に、規模が小さい。低速エンジンの世界では、EverllenceとWinGDが大半を握り、UEの台数のシェアは1割ほどだ。第2に、中国への依存だ。台数の伸びの多くは中国のライセンシーによる。中国の国有グループがWinGDを持つので、自国のエンジンに切り替える圧力は強まる。第3に、単一の製品だ。2ストロークの低速エンジンという同じ土台に、収益が集まっている。
財務は軽い。純現金はほぼゼロに近い。ただ、借金で膨らんだ会社ではなく、自己資本比率は6割近い。資本の使い方は慎重で、配当は純利益の1割台と薄い。成長のための投資を優先する姿勢は分かる。それでも、利益が急に伸びた局面で、株主への戻しが小さいのは気になる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
世界の新造船は、環境規制による船の入れ替え需要に支えられて好況が続いてきた。建造量は2025年で約7,700万総トンだ。中国が6割超、韓国が3割弱、日本が1割強を占める。ただし2025年の発注は前年より24%減り、受注の山は過ぎた。
低速エンジンは、造船所の建造数に引きずられる。船が引き渡される数年前に、エンジンの注文が入る。造船所の受注残が厚い今は、エンジンの売上が下がりにくい。だが、新規発注が細れば、数年後には製造量が落ちる。ここが循環の怖さだ。
競争は、実質2社と1社の構図だ。Everllence(旧MAN)とWinGDが世界の大半を握り、UEは国産の唯一のブランドだ。WinGDは中国の国有造船グループが持つ。中国の造船所が増えるほど、エンジンも中国向けに寄っていく。UEが伸びたのも、その中国のライセンシーの増産に乗った面が大きい。
環境規制は追い風と逆風の両方になる。国際海事機関は、2050年ごろまでに温室効果ガスを減らす目標を掲げる。アンモニアや水素を使うエンジンへの切り替えが進めば、新しい需要が生まれる。ただ、LNGやメタノールなど、燃料の選択肢が割れている。どの燃料が主流になるかは見えない。UEのアンモニアと水素のエンジンは先行しているが、規模を取れるかはこれからだ。
国内では、造船の再編が進む。エンジンの買い手である造船所が集まれば、価格の交渉力は買い手に傾く。
資本政策と M&A
資本政策は、成長投資と内部留保を優先する。2026年3月期の配当は純利益の1割台で、前の期より増やした。2027年3月期も、さらに増やす計画だ。自社株買いは確かめられなかった。
中期計画(2025〜2027年度)では、株主資本コストを約9%と見て、それを上回るROEを目指すと掲げる。いまのROEは25%を超えるが、好況の頂点の数字だ。
大きな買収の実績はない。技術の出自は三菱重工で、いまも約15%を持つ株主とされる。この関係が、ライセンスの条件や技術の提供で効いている。TOBや再編の可能性は、確かめられる材料がない。ただ、経済安全保障の面で国が守りたい産業であり、国内の造船・エンジンの再編の中で、当事者になる余地は排除できない。
今後の投資は、明石の本社工場だ。アンモニア燃料エンジンの専用工場が建ち、新しい工場の稼働も会社資料に出ている。金額は確かめられなかった。工場の増強は、受注が付いてくる時に収益を生み、付かなければ固定費になる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
新造船の入れ替え需要は、10年続く。国際海事機関の規制が強まるほど、古い船は早く更新され、新しい燃料のエンジンが要る。UEのアンモニアと水素のエンジンは、世界でもいち早く試験運転を終えた。2027年には実船に載る。この技術が認められれば、エンジンの売上と使用料の両方が一段上がる。
収益の質も高い。売上の半分は、使用料と部品と修理だ。船に載ったエンジンの数は、毎年増える。世界の低速エンジンに占める台数のシェアは、中国のライセンシーのおかげで1割を超えた。このまま中国の造船所が増産を続ければ、使用料は着実に積み上がる。
さらに、経済安全保障の面で、国がこの産業を守る。日本の船が、日本のエンジンを載せる動機は残る。会社は借金がなく、自己資本比率は6割近い。利益率は18%まで上がり、開発の資金も自前で賄える。受注の山が引いても、部品と使用料が土台になる。10年後に、いまより大きな会社になっているという筋書きは、十分ありうる。
慎重な見方
いまの利益は、新造船の好況の頂点だ。営業利益率は18%台だが、5年前は2%前後、その前は赤字の年もあった。船の発注は2025年に前年より24%減った。数年後のエンジンの注文は、確実に細る。固定費の重い工場は、数量が落ちるだけで利益が大きく減る。
使用料の中心は中国だ。中国の国有グループは、WinGDを持つ。中国の造船所が技術を吸収し終われば、自国のエンジンに乗り換える動機が働く。契約の更新や追加の台数は、相手の都合で決まる。世界の低速エンジンはEverllenceとWinGDが大半を握り、UEは3番手だ。
新しい燃料のエンジンも、収益になるまで遠い。水素エンジンの搭載は2027年、実船の試験は2028年からだ。LNGやメタノールが主流になれば、投資は報われない。エンジンを造る新工場は、受注が埋まらなければ固定費だけが残る。
配当は純利益の1割台で、自己資本は膨らむ一方だ。ROEは、好況が引けば資本コストを下回りやすい。いまの値段は、好況の利益が続くことを前提にしている。
どちらに重みを置いたか
事業が潰れる確率は低い。だが、いまの値段に見合うほど稼ぎ続ける確率は、もっと低い。強気の言い分は、部品と使用料という堅い土台と、新しい燃料のエンジンという次の柱に強い。慎重な言い分は、好況の頂点の利益と、中国への依存に強い。
10年の確率は、中立とやや楽観に厚く置いた。部品と使用料があるぶん、悲観は1割にとどめた。それでも、10年後の中立の利益は、いまの水準を少し上回る程度にとどまる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 12,352 円1,036 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,683 円141 億円)。 今の値に割り戻すと 6,867 円576 億円、今との差 −33.2%、 期待の年率 +3.2%(資本コスト 8.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 23,887 円2,003 億円 | 2,743 円230 億円 | +159.1% | +10.0% | 3,196 円268 億円 |
| やや楽観 | 24% | 17,743 円1,488 億円 | 2,111 円177 億円 | +93.1% | +6.8% | 4,765 円399 億円 |
| 中立 | 34% | 12,755 円1,069 億円 | 1,551 円130 億円 | +39.2% | +3.4% | 4,864 円408 億円 |
| やや悲観 | 20% | 3,978 円333 億円 | 1,312 円110 億円 | −48.5% | −6.4% | 1,058 円89 億円 |
| 悲観 | 10% | 954 円80 億円 | 573 円48 億円 | −85.1% | −17.4% | 153 円13 億円 |
| 加重平均 | 100% | 12,352 円1,036 億円 | 1,683 円141 億円 | +36.5% | +3.2% | 14,035 円1,177 億円 |
今の株価時価総額 10,280 円862 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 12% 新しい燃料のエンジンが当たり、台数も伸びる 利益 105 億円 · PER 17.6 倍 · 株価時価総額 23,887 円2,003 億円
アンモニアと水素のエンジンが、実船で信頼を得る。水素エンジンの搭載は予定どおり進み、国内外の船主から注文が付く。明石の新しい工場が埋まり、自社製造は年34台まで増える。
中国のライセンシーは増産を続け、UE陣営の台数は年175台、世界の取り分は15%に近づく。部品と保守の基数は着実に増え、使用料と部品の売上は、いまの倍を超える。エンジン本体の値段は、新しい燃料の装置のぶん、物価を上回って上がる。
利益率は、本体が15%、使用料と部品が28%に保たれる。配当は利益の3割まで増える。それでも、新造船の景気の波は残り、利益は年ごとに大きく振れる。堀が広がるわけではなく、強い2社との戦いは続く。
- 舶用エンジンの製造・販売:数量 34.0(自社製造の台数(台・推定))× 価格 9.14(1台あたりの売上(億円・名目))→ 売上 311 億円・営業利益 47 億円。自社製造34台 × 1台9.14億円(今の1.42倍)、営業利益率15.0%
- 使用料・部品・修理:数量 175(UE陣営の年間生産台数(台・推定))× 価格 1.80(陣営の1台あたりの使用料・部品・保守の売上(億円・名目))→ 売上 315 億円・営業利益 88 億円。UE陣営175台 × 台あたり1.802億円(今の1.45倍)、営業利益率28.0%
倍率:事業の純利益 105 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 24.5% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 13.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.6 倍。全体の PER 17.59 倍、時価総額 1,847 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:アンモニアと水素のエンジンが主流の座を取り、中国の増産が続く必要がある。条件が重なるので1割強とした。
やや楽観 24% 部品と使用料が堅く伸び、本体の利益率も保つ 利益 78 億円 · PER 17.1 倍 · 株価時価総額 17,743 円1,488 億円
新造船の発注は穏やかに減るが、すでに積んだエンジンの数が部品と保守を支える。使用料も、中国のライセンシーの台数に連れて伸びる。UE陣営の台数は年150台まで増える。
自社製造は年29台で、新しい燃料のエンジンの注文が少しずつ付く。船価は10年で1.38倍まで上がり、鋼材と人件費の上昇を転嫁できる。
利益率は、本体が13%、使用料と部品が26%だ。好況の頂点よりは下がるが、繰り返し入る収入の厚みが利益を守る。配当は利益の3割近くまで増える。それでも、数量の伸びは小さく、実質の成長は大きくない。新しい燃料のエンジンは主流にはならないが、一部の船主が選び、開発の投資は回収できる。中国の造船所は、ライセンスを使い続け、台数の伸びを支える。世界の低速エンジンに占める取り分は1割強で、2社の寡占は崩れない。UEは、堅実な3番手の地位を保つ。
- 舶用エンジンの製造・販売:数量 29.0(自社製造の台数(台・推定))× 価格 8.89(1台あたりの売上(億円・名目))→ 売上 258 億円・営業利益 34 億円。自社製造29台 × 1台8.89億円(今の1.38倍)、営業利益率13.0%
- 使用料・部品・修理:数量 150(UE陣営の年間生産台数(台・推定))× 価格 1.72(陣営の1台あたりの使用料・部品・保守の売上(億円・名目))→ 売上 257 億円・営業利益 67 億円。UE陣営150台 × 台あたり1.715億円(今の1.38倍)、営業利益率26.0%
倍率:事業の純利益 78 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 21.9% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 12.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.1 倍。全体の PER 17.09 倍、時価総額 1,333 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新造船の山を過ぎても、積まれたエンジンの数が部品と使用料を支える。実現しやすい筋書きで、2割台半ばとした。
中立 34% 数量は物価並みに伸び、利益率は平均へ戻る 利益 56 億円 · PER 16.3 倍 · 株価時価総額 12,755 円1,069 億円
新造船の発注は、2025年の山から平均へ戻る。自社製造は年24台とやや増え、UE陣営の台数は年135台になる。世界の取り分は、ほぼ1割強を保つ。
船価は10年で1.34倍と、物価並みに上がる。部品と使用料は、積まれたエンジンの数に連れて伸びるが、実質の伸びは小さい。
好況の頂点の利益率は、10年を通した平均には戻る。本体は9%、使用料と部品は24%で、営業利益は10年後に70億円台になる。新しい燃料のエンジンは一部の船主に採用されるが、主流にはならない。中国の造船所は、ライセンスを使い続ける。配当は利益の2割台半ばまで増える。ROEは資本コストを少し上回る程度に落ち着く。
- 舶用エンジンの製造・販売:数量 24.0(自社製造の台数(台・推定))× 価格 8.63(1台あたりの売上(億円・名目))→ 売上 207 億円・営業利益 19 億円。自社製造24台 × 1台8.63億円(今の1.34倍)、営業利益率9.0%
- 使用料・部品・修理:数量 135(UE陣営の年間生産台数(台・推定))× 価格 1.67(陣営の1台あたりの使用料・部品・保守の売上(億円・名目))→ 売上 225 億円・営業利益 54 億円。UE陣営135台 × 台あたり1.666億円(今の1.34倍)、営業利益率24.0%
倍率:事業の純利益 56 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 18.7% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 11.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.3 倍。全体の PER 16.34 倍、時価総額 915 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新造船の波と、積まれたエンジンの堅さの両方を織り込んだ中心の筋書き。確率の最大を置いた。
やや悲観 20% 中国向けの伸びが止まり、新造船も細る 利益 25 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 3,978 円333 億円
新造船の発注が減り、数年後のエンジンの注文が細る。中国の造船所が、自国のエンジンへの切り替えを進め、UE陣営の台数は年100台に減る。自社製造も年17台にとどまる。
船価は10年で1.25倍に届かず、人件費の上昇に追いつかない。新しい燃料のエンジンは、LNGやメタノールとの競争で、思うように売れない。新しい工場の固定費が重い。
利益率は、本体が3%、使用料と部品が18%に下がる。それでも、すでに積んだエンジンの部品は続くため、赤字にはならない。配当は利益の3割に抑えるが、利益が減るので額は増えない。ROEは資本コストを大きく下回る。
- 舶用エンジンの製造・販売:数量 17.0(自社製造の台数(台・推定))× 価格 8.05(1台あたりの売上(億円・名目))→ 売上 137 億円・営業利益 4 億円。自社製造17台 × 1台8.05億円(今の1.25倍)、営業利益率3.0%
- 使用料・部品・修理:数量 100(UE陣営の年間生産台数(台・推定))× 価格 1.62(陣営の1台あたりの使用料・部品・保守の売上(億円・名目))→ 売上 162 億円・営業利益 29 億円。UE陣営100台 × 台あたり1.616億円(今の1.30倍)、営業利益率18.0%
倍率:ROE 5.7%がk 8%を下回るので、PERの上限は1÷k=11.8倍。RONIC=k+残る割合1/3×(ROE−k)=7.6%、g 4%から正当化PER=10.5倍。稼ぐ力から出す局面で、構造的に弱くなった利益には質の割引をして8.5倍に置いた。
確率:新造船の発注減と中国の自国化が重なる筋書き。造船の波を考え、2割を置いた。
悲観 10% 中国が自国のエンジンに移り、新しい燃料でも出遅れる 利益 3 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 954 円80 億円
中国のライセンシーが、WinGDなど自国のエンジンへ移る。UE陣営の台数は年55台まで縮み、使用料は細る。自社製造も年10台にとどまり、新しい工場は半分も埋まらない。
アンモニアと水素のエンジンは、LNGとメタノールに市場を取られ、開発の費用が回収できない。船価は10年で1.10倍にとどまる。
利益率は、本体が赤字、使用料と部品が8%に落ちる。新しい工場と開発の費用が、固定費としてのしかかる。会社は潰れないが、稼ぐ力はほとんど残らない。株主の価値は、手元の現金と売れる資産で支えられる程度になる。UEは、世界の低速エンジンの小さなブランドとして残る。配当は、利益の減少に合わせて切り下げる。
- 舶用エンジンの製造・販売:数量 10.0(自社製造の台数(台・推定))× 価格 7.08(1台あたりの売上(億円・名目))→ 売上 71 億円・営業利益 −2 億円。自社製造10台 × 1台7.08億円(今の1.10倍)、営業利益率-3.0%
- 使用料・部品・修理:数量 55.0(UE陣営の年間生産台数(台・推定))× 価格 1.43(陣営の1台あたりの使用料・部品・保守の売上(億円・名目))→ 売上 79 億円・営業利益 6 億円。UE陣営55台 × 台あたり1.429億円(今の1.15倍)、営業利益率8.0%
倍率:ROE がほぼゼロで、稼ぐ力(純利益÷k)は小さい。価値は純現金と売れる資産の税後に支えられる床で置いた。今の自己資本184億円に0.43倍を掛けた。
確率:中国の自国化と燃料の選択の失敗が同時に来る筋書き。部品と使用料の土台があるので、悲観は1割にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
舶用エンジンの製造・販売
明石の本社工場で、大型船の主機関となるUEエンジンを造って造船所に納める事業。
| 数量自社製造の台数(台・推定) | 価格1台あたりの売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 22.0 | 6.44 | 142 | 16 |
| 10 年後 中立 | 24.0 | 8.63 | 207 | 19 |
取り方:自社製造の台数は開示がない。世界の低速エンジンの年産を約1,150台とみて、UE陣営が約1割の115台前後、そのうち自社製造を20台前後と推定し、売上141.7億円を22台で割って1台6.44億円と置いた。物価と船の大きさの差は価格に入れた。利益率は開示がなく、全社の営業利益率18.4%と部品側との配分から約11%と推定した。
使用料・部品・修理
UEの製造権を持つ造船所などからの使用料と、船に載ったエンジンへの部品・修理・保守の事業。
| 数量UE陣営の年間生産台数(台・推定) | 価格陣営の1台あたりの使用料・部品・保守の売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 125 | 1.24 | 155 | 39 |
| 10 年後 中立 | 135 | 1.67 | 225 | 54 |
取り方:使用料は台数に、部品と保守は船に載った基数に連動する。基数は開示がないので、UE陣営の年間生産台数125台(2023年度の115台から中国の増産を加味した推定)に比例するとみて、売上155.4億円を割り、1台あたり1.243億円と置いた。利益率は繰り返し入る収入として約25%と推定した。
リスクと懸念
新造船の景気の波
いまの利益は新造船の好況の頂点にある。営業利益率は5年前に2%前後で、赤字の年もあった。発注は2025年に前年より24%減り、数年後のエンジンの注文に響く。固定費が重く、数量が落ちるだけで利益が大きく減る。
中国のライセンシーへの依存
台数の伸びの多くは、中国のライセンシーによる。中国の国有グループはWinGDも持ち、技術を吸収した後に自国のエンジンへ切り替える動機がある。使用料の流れは、相手の都合で変わる。
強い2社との競争
低速エンジンの世界は、Everllence(旧MAN)とWinGDが大半を握る。UEは3番手で、規模の差は大きい。開発費も営業の力も劣るため、新しいエンジンの売り込みでは苦戦しやすい。
燃料の選択の読み違い
アンモニアと水素のエンジンに投資しているが、船の燃料はLNGやメタノールなど割れている。主流が別の燃料になれば、開発費と専用工場の投資を回収できない。水素エンジンの実船の試験は2028年からで、収益化は先だ。
新しい工場の固定費
明石の本社工場で、アンモニアエンジンの専用工場と新工場が動く。受注が埋まらなければ、減価償却と人件費だけが残る。金額は確かめられなかったが、利益率を押し下げる要因になる。
株主還元の薄さ
配当は純利益の1割台で、自社株買いは確かめられなかった。自己資本が膨らんでROEは下がりやすい。利益が大きく振れる会社なので、株主に戻る分が小さいことは、値段にとって不利になる。
今後の分かれ目
- 新造船の発注が前年を大きく割り込み、造船所の受注残が減り始めたら
- やや悲観・悲観の確率を上げる。エンジンの注文が数年遅れて落ちるので、利益の山を過ぎたサインになる。
- アンモニアや水素のエンジンに、まとまった数の正式な受注が付いたら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。ただし、利益率が景気の平均に戻る前提は崩さない。
- 中国のライセンシーが、UE以外の自国のエンジンの比率を急に高めたら
- 使用料と台数の前提を下げる。やや悲観・悲観に寄せる。
- 新しい工場が稼働しても、操業の負荷調整が続いたら
- 固定費が重くなる合図で、利益率の前提を下げる。
- 国内の造船・エンジンの再編に、この会社が加わる発表があったら
- 規模の面では前向きだが、条件次第で株主の価値が薄まる。条件を先に確かめる。
- 配当性向を引き上げ、自社株買いも始めたら
- 自己資本の膨らみが抑えられ、ROEが上がる。倍率の見方を見直す材料になる。
見ておくもの
- 世界の新造船の発注量と受注残(クラークソン)
- UE陣営の年間生産台数と中国のライセンシーの動き
- 水素・アンモニアエンジンの正式な受注と実船の試験の進み
- 明石の新しい工場の稼働と操業の負荷
- 配当性向と自社株買いの方針
倍率と資本コストの決め方
倍率は資本コスト8%(基本7.5%に品質+1.0%)と、事業のROEから出した。10年の中立はROEがkをわずかに上回る程度で、残る割合は1/3、上限の9.5割に置いた。今の株価や過去の倍率は使っていない。今の営業利益率18%台は好況の頂点なので、中立は16%台に戻し、直近の利益を引き伸ばしていない。リース会計の変更は、自前の工場で造る会社なので影響は小さく、10年後の数字は今と同じ形で置いた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.4→17.59 倍・やや楽観 PER 11.1→17.09 倍・中立 PER 11.6→16.34 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。