結論
曙ブレーキ工業は、自動車や二輪、鉄道のブレーキを作る専業メーカーだ。筆者の結論は、今の値段は10年の見通しに対して高く、割高ということだ。会社が良くなっている点は認める。だが再生ファンドの優先株が普通株に変われば、既存株主の取り分は半分ほどに薄まる。
2019年に事業再生ADRを経て、金融機関から560億円の債権放棄を受けた。2026年3月期の営業利益は56億円、率は3.5%で、会社の目標を上回った。今期は70億円を見込む。
稼ぎ頭は二輪、鉄道、補修品だ。四輪は赤字が続き、北米は4期連続の赤字だった。北米を1工場に集約し、2030年度の四輪の黒字化を目指す。
10年の中立は、営業利益100億円ほど、純利益は40億円強。資本コストを下回る稼ぎで、倍率は伸びない。強気の筋書きでも今の値段に届かない。
買い手が現れて持ち分が動けば、見方は変わりうる。ただ、その時も既存株主の取り分は優先株との分け方で決まる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「持ち続けたい事業」とは言いにくい。ブレーキは安全部品で消えにくいが、値段を決められず、資本コストを稼ぐ年が少ない。
良い点は、足元の改善が実績として出ていることだ。2025年度は営業利益が目標を大きく上回り、北米の整理も実行した。
悪い点は、利益が出ても株主の手元に残る分が薄いことだ。借金の利払いが重く、再生ファンドの優先株が普通株に変われば、既存株主の取り分は半分ほどになる。
安全域の見方は単純だ。10年後の価値は、中立で今の時価総額の半分に届かない。強気の筋書きでも今の値段に近い程度で、上下の幅が不利に偏っている。確信度は中程度で、割高と判断する。
この会社を持つなら、ファンドの出口が決まり、優先株が整理されてからでも遅くない。事業の中身が変わらないまま値段だけが動く場面では、焦って持つ理由がない。
何で稼ぐ会社か
ブレーキの専業で、完成車メーカーに摩擦材(パッド)とブレーキ部品を納める。売上は1,600億円で、海外が6割を超える。
地域別の売上は、日本が約600億円、北米が約490億円、インドネシアが約250億円、中国が約115億円、欧州が約90億円、タイが約70億円だ。利益は日本、インドネシア、タイ、中国で出ている。北米は赤字が4期続いた。
会社の計画では、二輪、鉄道、産業機械、補修品が高収益で、四輪は低収益とされる。2025年度は四輪の赤字をほかの事業が埋めた形だ。
四輪では、日系の完成車メーカーのほぼすべてと、米国・欧州・中国のメーカーに納める。トヨタ系のアドヴィックスや日清紡ブレーキ、日立Astemo、ブレンボ、ボッシュが競合だ。
二輪はインドネシアとタイが拠点で、鉄道は日本と欧州の油圧ブレーキが柱になる。補修品では、日本で高付加価値品が一定のシェアを持つ。
中計の2027年度の利益源は、二輪、鉄道、補修品だ。2030年度以降、四輪の比率を高める計画になっている。
売上の構成は、車種別では開示されていない。ここでは四輪と非四輪に分けて、推定で置いた。
優良さと弱いところ
一言でいえば、技術と顧客の基盤はあるが、値段を決められず、財務が重い会社だ。
ブレーキは安全部品なので、完成車メーカーは供給元を簡単には替えない。この関係の長さが堀、つまり他社がまねしにくい強みだ。だが部品の仕様は発注側が決め、毎年の値下げが条件になる。堀は普通にとどめる。
資本効率は低い。過去10年のROEの中央値は2.6%で、資本コストに遠く届かない。赤字の年は2009年、2012年、2015年、2016年、2019年、2021年と多い。
財務は改善している。事業再生計画は2024年6月に終わり、純有利子負債は164億円まで下がった。それでも営業利益は支払利息の3倍しかない。
経営は、2025年度に目標を上回った。北米の1工場化も実行している。だが、売上は10年で年5%縮んできた。四輪の黒字化は2030年度が目標で、ペースは遅い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
世界の新車生産は年1億台弱で、今後10年は年1%ほどの緩やかな伸びが中立の見方だ。数量は日米欧が横ばいで、インド・東南アジアが伸びる。
電動化は、ブレーキにとっては複雑な影響を持つ。回生ブレーキの普及で摩擦材の摩耗が減る一方、電池の重さでブレーキの負担が増える。粉じん規制の強化は、低粉じんの摩擦材という新しい需要を生む。
競争は世界規模だ。アドヴィックスはトヨタ系の大手、日清紡ブレーキは摩擦材の同業、日立Astemoは旧日信工業を取り込み、ブレンボとボッシュは欧州の大手だ。曙は独立系で、系列の恩恵がない代わりに、特定の完成車メーカーに偏らない。
中国では地場メーカーが低価格で伸びる。日系の完成車メーカーが中国勢に調達を移す動きは、10年の間に強まる可能性がある。
二輪はインドネシア・タイ・インドで底堅く、鉄道は欧州の貨物で油圧ブレーキの新しい需要がある。補修品は、車の使用年数が伸びる日本・北米で堅い。
10年の中立は、世界の車の生産が小さく伸び、曙は四輪で数量を保つだけ、非四輪で小さく伸ばすという地味な姿になる。
資本政策と M&A
資本政策の中心は、再生ファンドJISの出口だ。
JISは2019年に200億円を出資し、無議決権のA種種類株式を持つ。2026年3月末で普通株の50.32%を保有し、A種株式の請求で最大2億6,900万株の普通株が新たに出る。転換すれば比率は最大75%になる。
JISの保有期間は最長で2028年10月までとされ、それまでに第三者に譲渡する。東証のプライム市場の流通株式比率は33.6%で基準の35%に届かず、2030年3月末までの適合が猶予されている。
配当は無配が続く。会社は3年で220億円の設備投資を計画し、研究開発費は売上の4〜5%を維持する。
筆者が気にするのは、優先株の転換が既存株主の取り分を薄める点だ。JISの出口が買収になる可能性も、この会社の中心的な論点である。
A種株式の条件は2019年の発行要項で確かめた。払込は1株100万円(2万株、200億円)で、優先配当は年5.5%の累積だ。普通株への転換は、払込額に係数1.55(2025年7月以降)を掛けて取得価額で割る。会社は金銭で取得する権利を持ち、払込額の約1.47倍(2025年7月以降)になる。2025年1月に6,300株が転換され、残りは13,700株(137億円)。会社が金銭で買い戻した実績は、確認できた範囲ではない。転換価額と累積未払配当の残高は、有価証券報告書で確かめきれていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
2025年度の営業利益は56億円で、目標の40億円を大きく上回った。今期の70億円、2027年度の80億円は、足元の実績から見て無理のない数字だ。北米の1工場化が進み、赤字の北米の売上は2割以上縮んでいる。赤字の事業を切る実行力が、数字に表れ始めた。
二輪と鉄道、補修品が稼ぎ頭になる構造は強い。インドネシアとタイの二輪は安定し、欧州の貨物向け油圧ブレーキは2027年までに立ち上がる。補修品は日本で高付加価値品の地位を持つ。
再生ファンドの出口も、買い手が出ればプレミアムが付く。独立系で規模のあるブレーキ会社は、再編を狙う会社にとって希少だ。2031年度の営業利益150億円という会社の目標は、過去最高水準の152億円(2008年3月期)に並ぶ。四輪が黒字化すれば、実現できる。
電動化でブレーキの粉じん規制が強まる中、低粉じんの摩擦材で先行できれば、単価も上がる。会社が研究開発を売上の5%まで引き上げる狙いもここにある。
慎重な見方
四輪は構造的に負けている。北米は4期連続の赤字で、会社の計画でも四輪の黒字化は2030年度という先の話だ。完成車メーカーは毎年の値下げを求め、中国勢が低価格で入ってくる。曙の営業利益率は2010年以降、3.5%を超えたことがない。
財務は改善したが重い。営業利益は支払利息の3倍しかなく、借り換えの金利が上がれば利益が削られる。
さらに、ファンドの優先株の存在が、既存株主にとって最大の重しだ。転換すれば普通株の数が2倍になり、1株の取り分は半分になる。出口の買い手が現れるかは分からず、無配が続く。
10年で売上が年5%縮んできた事業に、将来の成長を前提とした値段は付けにくい。会社の計画は過去に未達が続いた。2019年の事業再生は、他人事ではない。電動化で摩擦材の需要が減り、中国勢が価格を下げれば、四輪だけでなく二輪や補修品の利益率も守りにくくなる。
足元の黒字は、売上が縮む中で得た利益であり、成長の裏づけにはならない。
どちらに重みを置いたか
強気の見方には、足元の実績と、非四輪の堅さという根拠がある。慎重な見方には、四輪の構造的な弱さと、優先株による薄まり、無配という根拠がある。筆者は、後者がやや強いと判断する。
中立に34%を置き、悲観側(やや悲観26%と悲観15%)を合わせて4割強とした。楽観側は合わせて25%。足元の改善と出口のプレミアムを評価して、悲観の最悪は15%にとどめた。さらに、優先株の転換で既存株主の取り分を約5割として全筋書きに掛けたため、強気の筋書きでも今の値段に届かない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 73 円197 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 12 円32 億円)。 今の値に割り戻すと 38 円104 億円、今との差 −63.4%、 期待の年率 −2.1%(資本コスト 9.0%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 210 円570 億円 | 51 円138 億円 | +148.6% | +9.5% | 16 円43 億円 |
| やや楽観 | 19% | 134 円365 億円 | 23 円62 億円 | +49.6% | +4.1% | 30 円81 億円 |
| 中立 | 34% | 99 円268 億円 | 13 円35 億円 | +6.4% | +0.6% | 38 円103 億円 |
| やや悲観 | 26% | 4 円10 億円 | 0 円1 億円 | −96.2% | −27.9% | 1 円3 億円 |
| 悲観 | 15% | 0 円1 億円 | 0 円0 億円 | −99.7% | −44.4% | 0 円0 億円 |
| 加重平均 | 100% | 73 円197 億円 | 12 円32 億円 | −19.4% | −2.1% | 85 円230 億円 |
今の株価時価総額 105 円285 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.0% を下回るほど割高。
楽観 6% 戦略の買い手が付き、四輪が黒字に定着、二輪・鉄道・補修が伸びる 利益 74 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 210 円570 億円
北米の1工場化が効き、四輪の赤字は止まる。日系だけでなく、欧米の完成車メーカーの電動車向けにも摩擦材とキャリパーの受注が積み上がる。値段は物価にほぼ追いつく。
二輪はインドネシア・タイ・インドで数量が伸び、鉄道は欧州の貨物向け油圧ブレーキが立ち上がる。補修品は高付加価値品の比率が上がり、シェアが取れる。非四輪の利益率は12%台に乗る。
投資ファンドのJISは2028年から2030年までの間に持ち分を手放す。買い手は同業の大手か、部品の再編を狙う会社で、ブレーキの規模と技術を取り込む。経営は安定し、配当が出始める。
営業利益率は7%台半ば。会社が掲げる150億円は大きく超えるが、2000年代半ばの山には届かない。
- 四輪車用ブレーキ(乗用車・商用車):数量 520(供給台数相当(万台)=世界の新車生産約9,980万台のうち当社の採用割合約5%(推定))× 価格 2.95(1台相当あたり売上(万円/台相当、名目))→ 売上 1,533 億円・営業利益 69 億円。四輪車用 営業利益率4.5%
- 二輪・鉄道・産業機械・補修品:数量 1,260(出荷セット相当(万セット、推定))× 価格 0.71(1セット相当あたり売上(万円/セット相当、名目))→ 売上 895 億円・営業利益 112 億円。二輪・鉄道・産機・補修 営業利益率12.5%
倍率:事業の純利益 74 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.9% が k 9.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.1 倍。全体の PER 11.11 倍、時価総額 823 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:四輪の黒字定着、二輪・鉄道の高収益、有力な買い手の登場、の3つが同時に要る。当たれば大きいが、四輪は過去10年で安定して稼げたことがないので、5%を少し超える程度にとどめた。
やや楽観 19% 会社計画に近い道:四輪が小さな黒字に、非四輪が稼ぐ 利益 55 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 134 円365 億円
四輪は、赤字の北米の整理が終わって数量が1割ほど縮み、そのぶん黒字に近づく。日系完成車メーカーの値下げ要請を受けて、単価は物価にやや届かない。
非四輪は二輪と鉄道と補修が堅調で、数量が3割増える。利益率は11%に上がる。
営業利益は130億円台に育ち、会社の2031年度の目標150億円には届かないが、近い。JISの持ち分は、市場への売り出しか大口への譲渡で段階的に減る。流通株式の比率が基準を満たし、プライム市場に残る。
配当は利益の3割前後で出る。借金は少しずつ減り、利払いの重さが和らぐ。
ただし四輪の単価は毎年の値下げに押され、利益率の伸びは緩やかだ。会社が掲げる目標のうち、売上でなく利益の改善が先に実現する形になる。
- 四輪車用ブレーキ(乗用車・商用車):数量 475(供給台数相当(万台)=世界の新車生産約9,980万台のうち当社の採用割合約5%(推定))× 価格 2.88(1台相当あたり売上(万円/台相当、名目))→ 売上 1,369 億円・営業利益 44 億円。四輪車用 営業利益率3.2%
- 二輪・鉄道・産業機械・補修品:数量 1,170(出荷セット相当(万セット、推定))× 価格 0.70(1セット相当あたり売上(万円/セット相当、名目))→ 売上 813 億円・営業利益 89 億円。二輪・鉄道・産機・補修 営業利益率11.0%
倍率:事業の純利益 55 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.2% が k 9.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.1 倍。全体の PER 11.11 倍、時価総額 607 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:2025年度の営業利益が目標を上回り、2026年度の予想も増益という足元の実績は、計画の延長線上を後押しする。ただし過去の計画は未達が多く、2割に届かない水準とした。
中立 34% 中立:数量は横ばい、値段は物価に届かず、営業利益率は5%台 利益 42 億円 · PER 11.1 倍 · 株価時価総額 99 円268 億円
四輪の数量は、赤字の北米と欧州の整理で今より1割以上減ったまま横ばいになる。世界の車の生産は伸びるが、シェアの動きで相殺される。単価は完成車メーカーの値下げ要請で物価に届かず、10年で約1.28倍にとどまる。
非四輪は、二輪の新興国需要と鉄道・補修の積み上げで数量が2割弱増える。単価は物価並みの1.36倍。
営業利益は100億円ほどで、率は5%台。会社の目標の150億円には届かない。会社は2025年度に目標を上回ったが、四輪の黒字化は2030年度という遅いペースだ。
借金の返済と設備更新が優先され、配当は小さい。JISの持ち分は第三者に渡るが、プレミアムは付かない。
- 四輪車用ブレーキ(乗用車・商用車):数量 440(供給台数相当(万台)=世界の新車生産約9,980万台のうち当社の採用割合約5%(推定))× 価格 2.82(1台相当あたり売上(万円/台相当、名目))→ 売上 1,239 億円・営業利益 31 億円。四輪車用 営業利益率2.5%
- 二輪・鉄道・産業機械・補修品:数量 1,060(出荷セット相当(万セット、推定))× 価格 0.68(1セット相当あたり売上(万円/セット相当、名目))→ 売上 721 億円・営業利益 74 億円。二輪・鉄道・産機・補修 営業利益率10.2%
倍率:事業の純利益 42 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.1% が k 9.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.1 倍。全体の PER 11.11 倍、時価総額 464 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:足元の改善は確かだが、四輪の値決め力は弱く、JISの持ち分の整理や車の景気という不確かさが残る。最も重みを置くが、慎重な見方がやや強いので、悲観側に寄せた。
やや悲観 26% 四輪の値下げが続き、北米の再建が遅れて利益が横ばい 利益 19 億円 · PER 6.3 倍 · 株価時価総額 4 円10 億円
四輪の単価は物価に追いつかず、10年で約1.2倍にとどまる。完成車メーカーが中国の地場メーカーや系列の大手に発注を寄せ、数量が3割近く減る。固定費の重さがのしかかり、利益はほぼゼロに近い。
非四輪は黒字を保つが、二輪の新興国では地場メーカーとの競争で単価が伸びにくい。鉄道と補修は堅調だが、全体を引っ張るほどではない。
営業利益は名目で今の水準とほぼ変わらず、物価を考えれば実質では減る。JISは出口の相手が見つからず、2030年まで持ち分が残る可能性が高い。配当は出せない。
プライム市場に残るための株式分布の改善も遅れ、市場区分の変更が現実の問題になる。
- 四輪車用ブレーキ(乗用車・商用車):数量 380(供給台数相当(万台)=世界の新車生産約9,980万台のうち当社の採用割合約5%(推定))× 価格 2.64(1台相当あたり売上(万円/台相当、名目))→ 売上 1,003 億円・営業利益 5 億円。四輪車用 営業利益率0.5%
- 二輪・鉄道・産業機械・補修品:数量 900(出荷セット相当(万セット、推定))× 価格 0.64(1セット相当あたり売上(万円/セット相当、名目))→ 売上 576 億円・営業利益 52 億円。二輪・鉄道・産機・補修 営業利益率9.0%
倍率:事業の ROE 2.7% は k 9% を大きく下回り、伸びても価値は増えない。上限 1÷k = 10.5 倍 の 6 割の 6.3 倍に置いた。稼ぐ力の低さと値決め力の弱さを反映した。事業を続ける筋書きなので、売却の床ではなく稼ぐ力で測った。
確率:四輪は過去10年で安定して稼げたことがない。日系の値下げ要請と中国勢の台頭を考えると、このやや悲観の筋書きは、中立と同じくらい起こりうる。
悲観 15% 四輪の赤字が止まらず、借金と優先株に押されて縮む 利益 −45 億円 · PBR 0.1 倍 · 株価時価総額 0 円1 億円
四輪では、完成車メーカーの調達先見直しと中国勢の低価格で、数量が4割減り、単価も物価の上昇に届かない。営業赤字が続き、北米と欧州の追加の閉鎖や減損が避けられない。
二輪と鉄道と補修は黒字だが、四輪の赤字を埋められない。借り換えの金利が上がり、利払いが利益を食う。
投資ファンドの出口が決まらず、優先株の整理が長引く。再生の途上で二度目の金融支援を求める事態も考えられる。
残る価値は、事業の切り売りや工場の売却で得られる額が中心だ。配当はなく、株主の取り分は小さい。
四輪の事業を整理して縮めるのが唯一の出口になり、会社は今の姿を保てない。
- 四輪車用ブレーキ(乗用車・商用車):数量 300(供給台数相当(万台)=世界の新車生産約9,980万台のうち当社の採用割合約5%(推定))× 価格 2.38(1台相当あたり売上(万円/台相当、名目))→ 売上 713 億円・営業利益 −36 億円。四輪車用 営業利益率-5.0%
- 二輪・鉄道・産業機械・補修品:数量 765(出荷セット相当(万セット、推定))× 価格 0.58(1セット相当あたり売上(万円/セット相当、名目))→ 売上 440 億円・営業利益 18 億円。二輪・鉄道・産機・補修 営業利益率4.0%
倍率:赤字の筋書きなので稼ぐ力でなく売れる資産で測る。事業用の資産を簿価の5割で売り、純有利子負債と再編費用を引くと約 40 億円しか残らない。これを今の自己資本 505 億円の 0.08 倍として置いた。
確率:北米は4期連続の赤字で、過去にも事業再生を経た。電動化と中国勢で四輪が構造的に負ける可能性は無視できない。ただし二輪と鉄道という別の柱があるので、深い悲観は15%にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
四輪車用ブレーキ(乗用車・商用車)
完成車メーカー向けのパッド、キャリパー等。北米・欧州・中国・日本で赤字から薄い黒字。
| 数量供給台数相当(万台)=世界の新車生産約9,980万台のうち当社の採用割合約5%(推定) | 価格1台相当あたり売上(万円/台相当、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 523 | 2.20 | 1,150 | −10 |
| 10 年後 中立 | 440 | 2.82 | 1,239 | 31 |
取り方:全体の売上1,601億円のうち、二輪・鉄道・産業機械・補修品を約450億円と推定し、残りの約1,150億円を四輪とした(会社は種別の売上を開示していない。推定)。1台相当あたり約2.2万円(パッドやキャリパー等の部分搭載を含む平均)で割った台数が約523万台相当(採用割合約5%)。営業利益は、中計の「四輪は低収益・現状は赤字」と北米のセグメント赤字(約32億円)から約−10億円と推定した。価格は物価1.34倍のところ、完成車メーカーの毎年の値下げで中立は1.28倍とした。
二輪・鉄道・産業機械・補修品
二輪車(インドネシア・タイ・日本)、鉄道(日本・欧州の油圧ブレーキ)、産機、補修品。会社の言う高収益の領域。
| 数量出荷セット相当(万セット、推定) | 価格1セット相当あたり売上(万円/セット相当、名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 900 | 0.50 | 450 | 66 |
| 10 年後 中立 | 1,060 | 0.68 | 721 | 74 |
取り方:売上の約450億円は推定(会社は開示していない)。二輪の安い部品から鉄道の高い部品までの平均で、1セット相当あたり約0.5万円とし、約900万セット相当とした。営業利益は、全社56億円と四輪の推定−10億円から約66億円(率約15%)と置いた。日本・インドネシア・タイ・中国のセグメント利益合計(約76億円)と整合する。価格は物価並みの1.34倍に、補修品の高付加価値化で中立は1.36倍とした。
リスクと懸念
優先株の転換による薄まり
JISのA種種類株式が普通株に変わると、最大で2億6,900万株の普通株が出る。既存株主の取り分は中立で約半分になり、流通株式の比率は一時的にさらに下がる。好調なら会社が金銭で取得して薄まりは小さくなり、不調ならA種側が優先して取り分が薄くなる。転換価額と累積未払配当の残高は、有価証券報告書で確かめきれていない。
再生ファンドの出口
JISの保有は最長で2028年10月までとされる。買い手が出れば価値が上振れる可能性があるが、売れなければ市場への売り出しが重しになる。出口が決まらない間は、配当も出にくい。
四輪の構造的な赤字
北米は4期連続の赤字で、会社の四輪の黒字化は2030年度が目標だ。完成車メーカーの値下げ要請と中国勢の台頭で、利益率が上がりにくい。
財務の重さと金利
純有利子負債は164億円で、営業利益は支払利息の3倍しかない。借り換えの金利が上がると利益が削られる。事業再生計画は終わったが、財務の余力は小さい。
プライム市場の維持
流通株式の比率が33.6%で、基準の35%に届かない。2030年3月末までの適合猶予があるが、計画期間内に満たせなければ上場の区分を失うおそれがある。
電動化とブレーキの需要
回生ブレーキの普及でパッドの摩耗が減る。粉じん規制は新しい需要を生むが、対応には開発投資が要る。研究開発費は売上の4〜5%を続ける計画で、回収の見通しは不確かだ。
海外の為替と地域の偏り
海外の売上が約6割あり、北米と欧州の収益性が低い。為替は150円固定で考えたが、換算の影響は実際には残る。
今後の分かれ目
- JISの持ち分が戦略の買い手に渡る(TOBなど)
- 買い手の価値評価で値段が決まる。楽観側へ確率を移すが、優先株の取り分を含めて既存株主の取り分を考える。
- 北米の営業損益が黒字に転じる
- 四輪の黒字化が早まるとして、中立の四輪利益率を上げ、楽観側へ確率を移す。
- A種株式の転換価額と残数が開示され、薄まりが想定より小さい
- 取り分の係数を見直す。価値の下限が上がる。
- 主要な完成車メーカーが中国の地場メーカーを標準採用に加える
- 四輪の数量と単価を下げ、やや悲観側へ確率を移す。
- 営業利益が2027年度に80億円を超えて定着する
- 会社の計画が達成可能とみて、中立の利益率を引き上げる。
- 品質や供給に関する大きな不祥事・リコールが出る
- 悲観側の確率を上げ、堀の評価を弱くする。
見ておくもの
- 四輪と北米の営業損益
- JISの持ち分の処分(譲渡・売り出し)の開示
- A種種類株式の転換価額と残数
- 純有利子負債と支払利息
- プライム市場の流通株式比率(35%)
- 二輪・鉄道・補修品の利益率
倍率と資本コストの決め方
倍率は式の上限(ROEが k 以下なので 1÷k = 10.5 倍)の6割〜8.4割に置いた。中立と楽観のROEは k 9% に届かず、利益の質(循環・値決め・財務)を反映して下げた。過去・現在・同業のPERやPBRは使っていない。悲観は売れる資産から借金と再編費用を引いた床を今の自己資本に掛けた。優先株の転換による薄まり(0.502)は全筋書きに掛けた。その結果、今の値段を大きく下回る価値になったが、計算を今の株価に寄せる調整も、逆に離す調整もしていない。新リース会計基準で今後BSの形が変わるが、数字は今と同じ形(家賃を営業費用に含める形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 8.8→11.11 倍・やや楽観 PER 8.4→11.11 倍・中立 PER 7.9→11.11 倍)。
資本コスト 9.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +2.0% を足した 9.5%。ファンドの出口や四輪の赤字は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.50% → 9.00%。