結論
今仙電機は、自動車のシートの前後・上下・背もたれの角度を動かす機構部品、シートアジャスタを作る会社だ。売上は約870億円、営業利益率は2.3%にとどまる。
筆者の結論は、10年で見ると今の値段はやや割高で、割安とは言えないというものだ。時価総額205億円に対し純現金が125億円あり、床は固い。だが、利益が薄い事業がこの先も続く姿が中立の筋書きに近い。
まず、稼ぐ力が弱い。直近12年のうち5年は営業赤字か1%未満で、営業利益率が3%を超えたのは2019年3月期が最後だ。売上は10年で年率3%ずつ縮んだ。2026年3月期は営業利益20億円まで戻ったが、これは北米と中国の再編が効いた結果で、足場はまだ固まっていない。
次に、顧客と親会社が決め手になる。売上の約4割がホンダ系、約2割がマツダ系で、三菱自系を加えると7割近い。シート大手のテイ・エス テックが議決権の37.6%を持つ筆頭株主で、同じホンダ向けのシートを組み立てる。
純現金のうち事業に要らない分として85億円を切り分け、戻り方は半分で見た。親会社が支配し、自社株買いの実績がないためだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「安全域は厚いが、持ち続けたい事業とは言いにくい」会社だ。時価総額の6割が純現金で、倒れる心配は小さい。一方、事業そのものは稼ぐ力が弱い。
まず、事業の寿命は長い。シートの機構は電気自動車でも必要で、エンジン部品のようにはなくならない。だが堀は狭く、値決めは顧客が握る。ROEが資本コストを上回る姿は、10年先まで描けない。
次に、経営の資本配分だ。利益の3割を配当に回し、残りは現金として積み上がる。事業に回しても高い収益が見込めない中で、これは筋が通る。ただ、親会社が4割近くを握っており、現金が少数株主へ戻る道は狭い。
筆者が重く見るのは、現金の戻り方だ。現金125億円のうち85億円を余りと見て、戻り方は半分にした。戻らない前提でも、時価総額205億円に対し床の価値は大きい。
以上から、利益率が3%台半ばにとどまる中立を軸に、悲観側へ確率を寄せた。結果は、床は固いが割安とは言えず、やや割高だ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は、シートアジャスタとホーンなどの電装品だ。売上の約75%を占める。シートアジャスタは、乗る人の体格に合わせて座席を動かす金属の機構で、車1台に必ず付く。完成シートではなく、その中の動く部分を担うのが今仙の立ち位置だ。
電子事業は売上の約2割。マツダとの合弁、Mazda Imasen Electric Driveが電動車用のインバータを開発しており、量産が立ち上がる前の投資期にある。残りの約6%は、無動力の歩行支援機、電動車いす、航空機や工作機械向けのワイヤーハーネス、画像処理装置など小さな事業の寄せ集めだ。
顧客は自動車部品の売上のうち、ホンダ系が39.4%、マツダ系が19.5%、三菱自系が9.8%を占める。地域では、日本が384億円、北米が250億円、アジアが237億円だ。
利益の出方は地域で違う。アジアは営業利益が9.6億円と最も多く、日本は5.8億円、北米は5.1億円にとどまる。日本は赤字から戻ったばかりである。
この会社は2020年にテイ・エス テックがTOBと第三者割当増資で議決権37.6%を取得した。上場は維持され、シートアジャスタの販売と役員の兼任でつながっている。
優良さと弱いところ
この会社の強みは、車種ごとにシートの動く部分を作り込む技術と、ホンダ・マツダとの長い取引にある。ただし筆者は、これを高い利益を生む堀、つまり他社がまねできない強みとまでは見ない。
理由は価格の決まり方にある。部品の値段は毎年の原価低減要請で決まり、材料費や人件費が上がっても転嫁しきれない年が続いた。中国と東南アジアには安い地場メーカーが育ち、日系の完成車の不振とともに数量も細っている。
実績にも出ている。直近12年の営業利益率は、2019年3月期の3.1%が最高だ。2021年3月期から2024年3月期までは営業赤字か、ほぼゼロだった。ROEの中央値は2.3%で、資本コストをはるかに下回る。
財務は強い。自己資本比率は69%、純現金は125億円で、営業利益は支払利息の18倍を超える。倒れる心配は小さいが、財務が強いことは事業が強いことと別である。
経営の課題は、薄い利益率を3.5%の見直し目標に乗せることだ。購買の見直しや北米・中国の再編は進めているが、成果が数字で確認できるのはこれからである。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
世界の自動車生産は年1億台弱で、今後10年はほぼ横ばいから小幅な伸びと見る。シートの機構部品は車1台ごとに必ず付くため、数量は新車の生産に連動する。電動化の影響も小さい。電気自動車でも座席は動かす必要があり、エンジン部品のように需要が消える心配はない。
問題は日系完成車の位置だ。ホンダとマツダは中国で販売を落としており、アジアの数量は戻っていない。北米は関税と原材料高が重い。今仙の北米売上は前期に17%減った。
競争は厳しい。シートアジャスタは世界の大手が相見積もりを取る部品で、アディエントやフォルヴィアといった大手の内製や、中国の地場メーカーとも競る。今仙は大手ほどの調達力がなく、親会社のテイ・エス テックの受注に乗る形で数量を確保している面が大きい。
電子事業は、マツダ向けの電動化部品が焦点になる。電動車の普及が遅れれば、投資の回収が長引く。
部品の単価は、電動化で上がる余地がある。モーターやインバータは、機械式の部品より1台あたりの金額が大きい。ただし今仙は量産の実績がまだなく、この上振れは強気の筋書きにだけ入れた。
資本政策と M&A
還元の方針は、配当性向30%を目標にした安定的な増配だ。2026年3月期の配当は前期から増え、2027年3月期はさらに増やす予想である。自社株買いも還元の手段と位置づけるが、実績ははっきりしない。
資本の使い方は、設備と再編が中心だ。広島と岐阜の建物に計約30億円を投じ、タイとインドも計画がある。純現金は積み上がったまま、利益の使い道は限られている。
親会社のテイ・エス テックが議決権の37.6%を持つ。同社は2020年に、TOBと第三者割当増資で今仙に入った。上場維持を前提にしているが、完全子会社にする選択肢は残る。TOBの確率は、計算上は10年で約3割ある。ただし買収価格は事前に決まっておらず、価値には入れていない。
政策保有株は少ない。ニッコンHDが約18億円、三十三FGが約1億円で、当期は4銘柄を売却した。売る方針は明確で、持ち合いの整理は進んでいる。
点検済み(費用点検):中立の純利益÷営業利益 0.72 は、過去は赤字の年が多く中央値が当てにならない。2027年3月期の会社予想は 0.77(受取利息・配当を含む)で、それに近い値に置いた。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
利益は今、底から立ち上がる途中にある。2026年3月期の営業利益は20億円と、前期の4億円から5倍になった。北米は5億円、アジアは9.6億円の黒字だ。日本も赤字から580百万円の黒字に戻った。会社の2028年3月期の予想は営業利益率4.1%で、中立の置き方より高い。
現金が厚いのも強みだ。時価総額205億円に対し純現金は125億円ある。事業がゼロ成長でも、この現金が下値を支える。自己資本は558億円あり、時価総額はその4割に届かない。
電子事業は、マツダとのインバータ合弁が量産に入れば大化けする。電動化は部品の単価を押し上げ、今のアジャスタ中心の売上が変わる。長期目標は2030年に売上1,500億円、営業利益率6%だ。
さらに、親会社が議決権の37.6%を持つ点は買収の余地を示す。完全子会社化の際は、現金と自己資本に見合う価格が付きやすい。
親会社のテイ・エス テックにとっても、ホンダ向けのシートと機構部品を一体で動かせば、調達と開発の無駄が減る。中計が掲げる9つの重点施策のうち、メガサプライヤーを超える競争力づくりと、調達構造の再構築が進めば、利益率の改善は想定より早くなりうる。
慎重な見方
稼ぐ力が弱いのは構造だ。直近12年の営業利益率は、最高でも3.1%で、うち5年は営業赤字か1%未満だった。売上は10年で年率3%ずつ縮んでいる。2026年3月期の改善は再編の戻りで、持続の証拠にはならない。
顧客は偏っている。ホンダ・マツダ・三菱自の3系列で売上の7割近くを占める。ホンダとマツダは中国で販売を落としており、アジアの数量は戻っていない。
電子事業は、投資の回収が見えない。マツダとの合弁は量産前で、電動車の普及が遅れれば開発費が重い。
現金は戻らない。親会社が議決権の37.6%を握り、自社株買いの実績もない。純現金125億円は、配当性向30%の配当を除いて積み上がるだけだ。
中計の収益目標は、すでに売上910億円・営業利益率4.0%から860億円・3.5%に引き下げられた。会社自身が目標を下げている点は重い。
加えて、機構部品は完成車メーカーの内製や、中国系の部品メーカーに置き換わりやすい。採用車種を一度失えば、次のモデルチェンジまで数年は取り戻せない。親会社も、ホンダ向けの部品を自社で一括して調達する方が効率的だと判断すれば、今仙の取り分は細る。
どちらに重みを置いたか
足元の改善は実績を伴う点で、強気の見方が正しい。ただし、営業利益率が3%台から動く証拠は、まだ数字に出ていない。中立は3%台半ばに置き、強気の確率は薄くした。
一方、慎重な見方は、赤字の年が多い実績と、会社が目標を下げた事実に裏付けがある。悲観側の確率を、同じ領域のトヨタ紡織やタチエスより少し厚くした。ただし、純現金が床になるため、悲観の深さは限られる。
結果として、期待値は今の値段を2割ほど下回った。現金の厚さが下値を支える一方、事業の利益がそれを大きく増やす姿は描きにくい。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,684 円358 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 343 円73 億円)。 今の値に割り戻すと 973 円207 億円、今との差 +2.6%、 期待の年率 +7.9%(資本コスト 8.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 5% | 3,652 円777 億円 | 705 円150 億円 | +359.2% | +16.5% | 218 円46 億円 |
| やや楽観 | 17% | 2,657 円565 億円 | 517 円110 億円 | +234.4% | +12.8% | 540 円115 億円 |
| 中立 | 33% | 2,077 円442 億円 | 381 円81 億円 | +159.0% | +10.0% | 811 円172 億円 |
| やや悲観 | 30% | 913 円194 億円 | 268 円57 億円 | +24.5% | +2.2% | 354 円75 億円 |
| 悲観 | 15% | 603 円128 億円 | 94 円20 億円 | −26.5% | −3.0% | 105 円22 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,684 円358 億円 | 343 円73 億円 | +113.6% | +7.9% | 2,027 円431 億円 |
今の株価時価総額 949 円202 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 5% 自社の強みが開く:ホンダ・マツダ向けの拡大と電動化部品が育つ 利益 60 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 3,652 円777 億円
ホンダとマツダの新型車で、シートアジャスタの採用車種が広がる。親会社のテイ・エス テックがシート全体を受注するたびに、機構部品としての今仙の取り分が増える形だ。マツダとの合弁で開発したインバータが量産に入り、電子事業の売上が今の2倍近くになる。北米とアジアの再編が終わり、固定費の重かった工場の稼働が上がる。値上げも物価並みにほぼ通る。営業利益率は5%台後半まで上がり、会社が掲げる6%に近づく。
この筋書きでは、親会社が今仙を完全に取り込む選択肢も残る。ただし価値の計算には買収の上乗せを入れず、事業の稼ぐ力だけで置いた。
- シート機構・電装:数量 700(供給先の搭載車の台数(万台、推定))× 価格 1.34(1台あたり売上(万円/台))→ 売上 941 億円・営業利益 42 億円。営業利益率4.5%
- 電子:数量 450(供給先の搭載車の台数(万台、推定))× 価格 0.75(1台あたり売上(万円/台))→ 売上 338 億円・営業利益 30 億円。営業利益率9.0%
- その他事業:数量 200(出荷点数(万点、推定))× 価格 0.40(1点あたり売上(万円))→ 売上 80 億円・営業利益 6 億円。営業利益率7.0%
倍率:事業の純利益 59 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.2% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)85 億円。全体の PER 11.76 倍、時価総額 777 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計の長期目標(営業利益率6%)に近い姿で、実現には北米・中国の再編、電子事業の量産立ち上げ、親会社との共同開発が全部そろう必要がある。直近12年の営業利益率は3%台が上限なので、薄く置いた。
やや楽観 17% 再編が実り、営業利益率が4%台に乗る 利益 42 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 2,657 円565 億円
北米の工場が安定して黒字を出し、アジアの高い利益率も保たれる。ホンダ向けは横ばいでも、マツダ向けが電動車の投入で伸びる。電子事業ではインバータの量産が始まるが、立ち上げ期の費用は残る。購買の見直しが進み、材料費率が下がって利益率の改善が続く。営業利益率は4%台に乗り、中計の見直し後の目標である3.5%を超える。それでも過去12年で一度も届いていない水準であり、事業の薄さは変わらない。配当は性向30%を保ち、増配が続く。純現金は増え続けるが、親会社が支配する構造は変わらず、現金の戻り方は半分にとどまる。
電子事業の黒字化は、この筋書きの前提だ。立ち上げの遅れは利益率の下振れ要因として残る。
- シート機構・電装:数量 660(供給先の搭載車の台数(万台、推定))× 価格 1.34(1台あたり売上(万円/台))→ 売上 887 億円・営業利益 31 億円。営業利益率3.5%
- 電子:数量 380(供給先の搭載車の台数(万台、推定))× 価格 0.75(1台あたり売上(万円/台))→ 売上 285 億円・営業利益 20 億円。営業利益率7.0%
- その他事業:数量 185(出荷点数(万点、推定))× 価格 0.40(1点あたり売上(万円))→ 売上 74 億円・営業利益 4 億円。営業利益率5.5%
倍率:事業の純利益 41 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.4% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)85 億円。全体の PER 11.76 倍、時価総額 565 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の2028年3月期の予想(営業利益率4.1%)が達成され、その水準を保つ姿。北米とアジアの改善が進み始めており、足元の実績の延長にある。
中立 33% 中立:ホンダ・マツダ向けは安定、営業利益率は3%台半ばにとどまる 利益 29 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 2,077 円442 億円
ホンダとマツダの搭載車は、世界で横ばいから微減になる。中国の日系車の不振が響き、アジアの数量は戻らない。一方で北米とアジアの再編が進み、赤字の工場はなくなる。値上げは物価の分をおおむね通せるが、顧客の原価低減要請で利益率の改善は小幅だ。電子事業はマツダ向けのインバータが少量で始まり、立ち上げ費用を吸収して小さな黒字になる。営業利益率は3%台半ばで、会社の長期目標の6%には遠い。配当は性向30%で伸び、自己資本が少しずつ積み上がる。
過去の10年と違うのは、赤字の拠点を整理し、採算の取れない車種を受けない姿勢が定着する点だ。ただし、大きく勝つ材料もなく、売上は物価の分だけ名目で伸びる程度にとどまる。
- シート機構・電装:数量 620(供給先の搭載車の台数(万台、推定))× 価格 1.34(1台あたり売上(万円/台))→ 売上 833 億円・営業利益 23 億円。営業利益率2.8%
- 電子:数量 330(供給先の搭載車の台数(万台、推定))× 価格 0.75(1台あたり売上(万円/台))→ 売上 248 億円・営業利益 14 億円。営業利益率5.5%
- その他事業:数量 175(出荷点数(万点、推定))× 価格 0.40(1点あたり売上(万円))→ 売上 70 億円・営業利益 4 億円。営業利益率5.0%
倍率:事業の純利益 28 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.4% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)85 億円。全体の PER 11.76 倍、時価総額 412 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の足元の予想(2027年3月期の営業利益率3.5%)が10年続く、最も無理のない姿。売上は縮み続けた過去から横ばいに止まり、利益率は過去12年の山に並ぶ程度と置いた。
やや悲観 30% 日系車の減産と値下げ圧力で、営業利益率が2%を割る 利益 14 億円 · PER 7.8 倍 · 株価時価総額 913 円194 億円
中国とアジアで日系車の販売が戻らず、シートアジャスタの数量が減る。北米は関税と原材料高が重く、物価分の値上げを通せない。広島・岐阜の建物投資の減価償却も重い。顧客は部品の値下げを毎年求め、利益率は2%を割る。電子事業は開発費がかさんだまま、マツダ向けの量産が小規模にとどまる。配当は今の水準を守るのがやっとだ。手元の現金は設備更新と再編に使われ、余る分は細る。
電子事業は黒字化が遅れ、持分法の損失と開発費が全体の利益を削る。親会社も、自社の収益確保を優先して今仙への発注を絞る可能性がある。それでも事業は存続し、赤字には落ちきらない。
- シート機構・電装:数量 570(供給先の搭載車の台数(万台、推定))× 価格 1.30(1台あたり売上(万円/台))→ 売上 743 億円・営業利益 9 億円。営業利益率1.2%
- 電子:数量 270(供給先の搭載車の台数(万台、推定))× 価格 0.70(1台あたり売上(万円/台))→ 売上 189 億円・営業利益 6 億円。営業利益率3.0%
- その他事業:数量 160(出荷点数(万点、推定))× 価格 0.36(1点あたり売上(万円))→ 売上 58 億円・営業利益 2 億円。営業利益率3.0%
倍率:事業の ROE は 2% 前後で k 8.5% を大きく下回るので、上限 1÷k = 11.1 倍のうち 7 割の 7.8 倍に置いた。
確率:直近12年のうち5年は営業赤字か1%未満で、2%台に乗ったのは直近だけ。売上は10年で年3%ずつ縮んだ実績もあり、強気の見方より足元の実績に合うので、悲観側へ厚く置いた。
悲観 15% 採用車種を失い、電動化投資も実らず赤字が続く 利益 −6 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 603 円128 億円
ホンダやマツダが新型車のシート機構を、中国勢や自社グループの調達に切り替える。採用車種が減り、シートアジャスタの数量は4割落ちる。マツダとの合弁で進めたインバータは、電動車の普及の遅れで採算に乗らず、開発費が回収できない。工場の統廃合と減損が続き、営業損益は赤字に沈む。配当は大きく絞られる。事業の価値は、純現金と売れる資産に落ち着く。親会社のテイ・エス テックが自社に取り込む選択肢はあるが、価値には入れていない。
数量は車種の切り替えで一気に落ちる。固定費の重い北米とアジアの工場は稼働が下がり、統廃合の費用が先に出る。電子事業の資産は評価を落とし、減損で自己資本も目減りする。
- シート機構・電装:数量 420(供給先の搭載車の台数(万台、推定))× 価格 1.15(1台あたり売上(万円/台))→ 売上 484 億円・営業利益 −5 億円。営業利益率-1.0%
- 電子:数量 170(供給先の搭載車の台数(万台、推定))× 価格 0.62(1台あたり売上(万円/台))→ 売上 105 億円・営業利益 −3 億円。営業利益率-3.0%
- その他事業:数量 130(出荷点数(万点、推定))× 価格 0.33(1点あたり売上(万円))→ 売上 43 億円・営業利益 1 億円。営業利益率2.0%
倍率:赤字の筋書きなので稼ぐ力でなく売れる資産で測る。純現金の目減り後の分と投資有価証券・遊休資産の売却の税引き後を合わせた約130億円を床とし、今の自己資本の0.23倍に置いた。
確率:ホンダ・マツダの調達が他社や内製に移り、電子事業の投資も回収できない複合の筋書き。顧客3系列で売上の7割近くを占める分、起きた時の傷は深い。親会社の持分比率は4割弱で、救済の約束はない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
シート機構・電装
シートアジャスタ(座席を動かす機構)とホーンなどの電装品。売上の約75%を占める主力。
| 数量供給先の搭載車の台数(万台、推定) | 価格1台あたり売上(万円/台) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 650 | 1.00 | 652 | 6 |
| 10 年後 中立 | 620 | 1.34 | 833 | 23 |
取り方:売上はシート・電装が全体の74.9%という開示から652億円。ホンダ・マツダ・三菱自などの搭載車の合計を650万台と推定し、売上÷台数で1台あたり約1万円。営業利益は開示の6.1億円。価格は物価並み(10年1.34倍)が基本。
電子
車載電子製品とマツダとの合弁で開発中のインバータ。売上の約19%。
| 数量供給先の搭載車の台数(万台、推定) | 価格1台あたり売上(万円/台) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 300 | 0.56 | 168 | 10 |
| 10 年後 中立 | 330 | 0.75 | 248 | 14 |
取り方:売上は全体の19.3%から168億円。搭載車の台数は開示がなく300万台と推定し、1台あたり約0.56万円。営業利益はセグメント別の開示がなく、全体20.4億円からシート・電装の6.1億円とその他を引いた推定10億円。価格は物価並みが基本。
その他事業
無動力歩行支援機、電動車いす、航空機・工作機械用ワイヤーハーネス、画像・映像処理装置。
| 数量出荷点数(万点、推定) | 価格1点あたり売上(万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 170 | 0.30 | 51 | 4 |
| 10 年後 中立 | 175 | 0.40 | 70 | 4 |
取り方:売上は全体の5.8%から約51億円。出荷点数は開示がなく170万点と推定し、1点あたり約0.3万円。営業利益は全体20.4億円の残りの推定4.3億円。価格は物価並みが基本。
リスクと懸念
顧客3系列への集中
売上の約7割がホンダ系・マツダ系・三菱自系に集まる。ホンダとマツダは中国で販売を落としており、数量が戻らなければアジアの利益が細る。車種の入れ替えで採用を失えば、傷は深い。
親会社と少数株主
テイ・エス テックが議決権の37.6%を持つ。経営の自由度は制約され、現金125億円が少数株主へ戻る道は狭い。TOBが出れば上振れだが、価格は事前に分からない。
薄い利益率と再編の持続
2026年3月期の営業利益率は2.3%。直近12年の最高は3.1%だ。北米と中国の再編で改善したが、持続の確認はこれからで、中計の収益目標は一度引き下げられた。
電子事業の投資回収
マツダとの合弁でインバータを開発している。電動車の普及が遅れれば開発費の回収が長引き、持分法損益と研究費が利益を圧迫する。
北米の関税と原材料高
北米の売上は前期に17%減った。関税と原材料高を価格に転嫁できなければ、固定費の重い工場の採算が悪化する。
製品不具合と品質
シートの機構は安全に関わる部品だ。不具合が出れば、顧客の改修費用の責任割合分を負担する可能性がある。品質関連の不適切行為が起きれば信用も失う。
今後の分かれ目
- 営業利益率が2期続けて3.5%を超えたら
- 過去12年の最高を超えたことになり、中立の置き方を見直す。楽観側へ確率を移す。
- ホンダ・マツダの新型車で採用が広がったら
- 数量の下支えとして評価する。やや楽観の確率を上げる。
- テイ・エス テックがTOBや株式交換を発表したら
- 10年の筋書きとは別に、買収価格を軸にした評価へ切り替える。
- 北米の営業赤字が再び出たら
- 再編の効果が一時的だったことになり、やや悲観の確率を上げる。
- マツダ向けインバータの量産が遅れたら
- 電子事業の投資回収が長引くため、中立の利益率を下げる。
- 自社株買いを実施したら
- 現金の戻り方を1.0に近づけて評価する。
見ておくもの
- 営業利益率(リコールや減損を除く実力ベース)と3.5%の目標との距離
- ホンダ・マツダ・三菱自向けの売上比率と採用車種
- 北米・アジアの営業損益
- 電子事業(インバータ)の量産時期
- テイ・エス テックとの資本関係
- 配当性向30%と自社株買いの実績
倍率と資本コストの決め方
倍率は式と事業の経済性だけで置いた。事業のROEは4%前後で資本コスト8.5%を下回るため、中立のPERは1÷kの11.1倍を上限に、利益の薄さと顧客の偏りを見て8.5割の9.4倍に置いた。強気側は9〜8.8割、やや悲観は7割。悲観は純現金の目減り後と売れる資産の税引き後を床にし、今の自己資本に掛けた。今・過去・同業のPER・PBRは使っていない。資本コストは基本7.5%にquality +1.5%(循環+0.5・値決め+0.5・寿命+0.5)を足した9.0%で、同領域のテイ・エス テック・タチエスと同水準。余った現金85億円は戻り方を半分で足した。中立の営業利益率3.5%は会社の2027年3月期の予想で、過去12年の山3.1%をわずかに超えるが、2026年3月期に実行した再編の成果(営業利益が5倍)を裏づけにしている。新リース会計は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)にそろえた。結果は今の株価に合わせて書き直していない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10→11.76 倍・やや楽観 PER 9.8→11.76 倍・中立 PER 9.4→11.76 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本7.5%にquality +1.5%(循環+0.5・値決め+0.5・借金0・寿命+0.5)を足した9.0%。親会社の影響や現金の戻り方は、k に足さず筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.00% → 8.50%。