結論
日産は、自動車事業で赤字を出しながら、販売金融事業の稼ぎで黒字を保っている会社である。筆者は、再建が計画どおり進めば今の値段はやや割安、進まなければ割高になると見る。確率で重みをつけると10年で約16%のやや割安だが、悲観側の確率が4割を超えるので、見かけほど安全ではない。
2026年3月期は世界で315万台を売った。最終赤字は2期連続で、2025年5月に再建計画「Re:Nissan」を出した。生産拠点を17から10へ減らし、2万人を削る計画だ。自動車事業の営業損益はマイナス2,928億円で、連結の黒字は販売金融事業の2,979億円に支えられている。
堀、つまり他社がまねできない強みは弱い。ハイブリッドで先行するトヨタ・ホンダに技術で並べず、ブランドの値決め力も乏しい。資本コストは基本の7.5%に、品質の加点1.75%と、傾いた会社の上乗せ1%を足して10.25%とした。
中立は、規模を300万台に絞り、自動車の営業利益率が1.5%までしか戻らない姿である。再建の成功は楽観側に置いた。販売金融は残高が車の値段とともに膨らみ、稼ぎ頭であり続ける。この場合、10年後の時価総額は今の2.5倍になる。ただしROEが資本コストに届かないため、倍率は低く置いた。
悲観は、中国や新興のEV勢にシェアを奪われ、販売が180万台まで縮む姿である。自己資本が薄れ、増資で既存株主の取り分が減る。この筋書きに15%を置いた。存続への疑いを今の値段が織り込んでいることは、計算の根拠にしていない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、日産の本質価値を測るうえでまず認めるべきは、自動車事業そのものが今は「オーナー利益」を生んでいないという事実である。本業が赤字である以上、株主に残る利益は実質的に販売金融事業(残高に対する利ざや)が稼ぐ分だけで、この構造が変わらない限り、どれだけ再建を叫んでも価値創造にはつながらない。Re:Nissanによる2万人の削減・7工場の統廃合は、身の丈に合わない生産能力を抱えたまま台数を追ってきた過去の経営(カルロス・ゴーン時代の拡大路線)の清算という意味では規律ある判断だが、実行力そのものがまだ証明されていない。ホンダとの経営統合破談・鴻海との協議決裂という2つの「資本による再生」の選択肢を自ら手放した経緯は、経営の決断力に疑問を残す。一方で、今の株価(PBR0.20倍)は通常の景気循環の谷(PBR0.4倍前後)をさらに下回っており、市場は単なる業績の谷ではなく、増資による希薄化や経営の存続そのものへの疑いまで織り込んでいるように見える。再建が計画通り進むだけで相応の安全域が生まれる値段である一方、本業の赤字体質が続くなら、今の値段でも割高という結論も十分にあり得る、両方向に賭けの要素が大きい銘柄である。
何で稼ぐ会社か
事業は「自動車事業」と「販売金融事業」の2本に分かれる。自動車事業はNISSAN・INFINITIブランドの乗用車・SUV・軽自動車(日産ブランドの主力はセダン・SUV、米国ではローグ・アルティマ、国内は軽自動車のルークス・サクラなど)を世界約160の国と地域で売り、2026年3月期の世界販売は315万台、連結売上の9割弱・10兆7,602億円を占めるが、営業利益はマイナス2,928億円と本業は赤字である。もう一つの柱が販売金融事業で、ニッサン・ファイナンシャルサービスグループがディーラーと顧客に自動車ローン・リースを提供し、2026年3月期はセグント資産10.7兆円に対し売上1兆2,475億円・営業利益2,979億円(営業利益率23.9%)を稼ぐ、連結の実質的な収益源になっている。生産は国内(追浜・栃木・九州など)と北米・中国・欧州・ASEANの現地工場で行うが、Re:Nissan(2025年5月発表)により2027年度までに世界の車両生産拠点を17から10へ統廃合し、追浜工場の車両生産は2027年度末までに九州へ移管する。ルノーとは資本提携関係にあり(相互に出資、2026年3月末時点でルノーが17.1%を保有)、三菱自動車工業ともアライアンスを組むが、2024年に合意したホンダとの経営統合は2025年2月にガバナンスの折り合いがつかず破談した。EV戦略はe-POWER(発電専用エンジン+電気駆動)とAriya・リーフなどのBEVを両輪とし、2030年までに27の電動車(うちBEV19)を投入する計画だが、中国では地場EV勢の価格攻勢で、米国では競合のHEVシフトでそれぞれシェアを落としている。
優良さと弱いところ
優良さの実体は自動車事業ではなく販売金融事業にある。自動車事業の営業利益率は2026年3月期にマイナス2.4%で、稼ぐ力を全く示せていない。トヨタ・ホンダが持つハイブリッドの技術蓄積・ブランド力に対し、日産はe-POWERという独自技術を持つものの価格決定力は弱く、新車の値引き・インセンティブに依存する販売構造から抜け出せていない。ROEはマイナス11.1%(2026年3月期)、自己資本比率は24.2%、純有利子負債は自己資本の1.35倍に達し、財務基盤は乗用車メーカーの中でも最も脆い。Re:Nissanによる2万人の人員削減・7工場の統廃合はコスト構造の見直しとしては妥当だが、実行力そのものが問われている段階で、過去にも台数頼みの拡大路線(カルロス・ゴーン時代)から業績悪化を繰り返してきた経緯がある。経営体制はイヴァン・エスピノーサ社長のもとで刷新されたが、ホンダとの経営統合破談(2025年2月)、鴻海(Foxconn)による工場買収協議の決裂(2025年9月)など、資本・事業面での打ち手が定まらない印象を与えている。強みは販売金融事業の厚みと、北米でのAriya・e-POWER搭載車の一定の支持、2025年11月の横浜本社売却(970億円、セール・アンド・リースバック)で得た当面の資金余力にとどまる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
世界新車販売(OICA集計)は2025年に約9,980万台だが、日産は315万台と世界シェア3%程度にとどまり、上位グループ(トヨタ・VW・ホンダ等)から引き離されている。もっとも重い向かい風は中国で、2026年1〜6月の新車販売は前年同期比15%減・7月は前年同月比59%減となり、5年連続で前年割れが続く。中国の合弁・外資ブランド全体のシェアも2026年6月に24.5%まで下がり、地場EV勢(BYD等)の価格・技術攻勢に飲まれている。米国では2025年の新車販売が約93万台で、AriyaはHEV・BEVシフトの中で四半期ベースで前年比+43.6%と伸びた場面もあるが、全体としては低迷が続き、トランプ政権の対米関税も収益を圧迫する。この業界全体の構造変化(EV化・中国勢の台頭)に対し、日産は規模の経済でもハイブリッド技術でも優位に立てておらず、Re:Nissanによる生産拠点の統廃合(17→10)は「量で張り合わない」領域に軸足を移す動きというより、まずは身の丈を合わせる防衛的なリストラという性格が強い。当面の軸では、Re:Nissanの実行(2027年度に自動車事業の営業利益とFCFを黒字化する目標)が計画通り進むかが最大の分かれ目になる。10年の軸では、EV比率が世界で40〜50%まで上がる中、日産が独立した完成車メーカーとして生き残れる規模とコスト競争力を保てるか、あるいはルノー・鴻海を含む資本の出入りで姿を変えるかが問われる。
資本政策と M&A
2025年3月期は上期無配・下期配当も未定という実質無配の状態で、リストラ中は株主還元より再建資金の確保を優先する方針。2025年11月には横浜本社ビルを970億円で売却(KKR系・みずほ不動産投資顧問が組成した私募ファンドへ、台湾の敏実集団が主要出資)し、セール・アンド・リースバックで20年の賃貸契約に切り替えて739億円の特別利益を計上、再建費用に充当した。資本関係では、ルノーが2023年に出資比率を43%から15%に引き下げて相互に15%の対等な関係になり、2026年3月にはアライアンス契約を改訂して最低保有比率を15%から10%へさらに引き下げた。2024年に合意したホンダとの経営統合は2025年2月、株式交換による子会社化案に日産側が反発して破談し、EV領域の協業のみ一部継続する。2025年9月には台湾・鴻海(Foxconn)による追浜工場買収(約1,000億円)協議が決裂したが、鴻海会長はその後も「買収ではなく提携」としてルノー保有株の取得に前向きな姿勢を示しており、資本の出入りが今後も続く可能性がある(kabufuのMC推定では10年以内のTOB・買収確率20.0%)。
点検済み:起点は一過性の構造改革費用を除いた 400 億円にならし済み。中立の全社営業利益率 3.8% は過去平均 3.0% をやや上回る。自動車 1.5%(自動車単体の過去平均は約 0.5%)と販売金融の黒字(2026/03 は 2,979 億円)の合計で、自動車の赤字(▲2,928 億円)が戻るのは再建が半分進んだ分だけ。再建の成功は中立に置かず楽観側に回した(2026-10-20 に自動車 3.0%・全社 5.2% から下げた)。この会社は全社で最も再建の実行に左右される。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
Re:Nissanは過去のリストラと違い、17→10工場・2万人削減という身の丈に合わせた構造改革で、2026年3月期にすでに固定費2,000億円・変動費550億円を削減し、連結営業利益を580億円まで戻した実績がある。2027年度に自動車事業の営業利益とFCFを黒字化するという目標は、今の進捗ペースなら十分に射程内にある。販売金融事業は資産10.7兆円・営業利益率23.9%という高い収益力を保ち、自動車事業が赤字でも全社を支える「二本目の収益の柱」として機能している。この安定した金融収益があるからこそ、日産は本業の建て直しに時間をかけられる。米国ではAriyaが四半期で前年比+43.6%の伸びを見せるなど、e-POWER・BEVの両輪戦略が市場に受け入れられつつある兆しがある。横浜本社売却で得た資金余力、ルノー・鴻海を含む資本の出入りも、追加の再建資金や新しい技術提携につながる可能性がある。今の株価はPBR0.20倍と、通常の景気循環の谷(0.4倍前後)をさらに下回る水準まで売り込まれており、Re:Nissanが計画通り進むだけで、極端に悲観的な今の値段から相応の再評価が起きる余地は大きい。
慎重な見方
自動車事業は2026年3月期に売上10兆7,602億円に対して営業利益マイナス2,928億円と、本業そのものが構造的な赤字体質にある。2期連続の最終赤字、自己資本比率24.2%、純有利子負債が自己資本の1.35倍という財務の脆さは、乗用車メーカーの中でも最も深刻なレベルにある。中国では2026年7月の新車販売が前年同月比59%減まで落ち込み、5年連続で前年割れが続く。米国でも全体としては低迷し、日産は規模でもハイブリッド技術でもトヨタ・ホンダに劣後したまま、中国EV勢の価格攻勢にも対抗できていない。独自の技術優位(e-POWER)はあるが、ブランド力と価格決定力の弱さは変わっていない。2024年に合意したホンダとの経営統合は、株式交換による子会社化案に日産側が反発して2025年2月に破談し、鴻海による追浜工場買収協議も2025年9月に決裂した。規模を得る2つの選択肢を自ら手放した経緯は、経営の決断力そのものへの疑問を残す。Re:Nissanの人員削減・工場統廃合は実行途上で、過去にも同様のリストラ策(カルロス・ゴーン後の複数の構造改革)が繰り返されながら赤字から抜け出せなかった実績がある。横浜本社売却(970億円)は一度限りの資金確保にすぎず、本業が赤字のままでは、いずれ追加の資本増強(希薄化)が避けられなくなるリスクが残る。
どちらに重みを置いたか
自動車事業そのものが赤字という弱気の指摘は動かない。Re:Nissanの実行力と、米中での競争力にも大きな不確実さが残る。一方で、再建が進むだけで利益が戻る余地は大きいという強気の指摘も無視できない。
中立は、自動車の営業利益率を1.5%までしか戻さず、販売金融の安定した稼ぎを土台にする姿とした。確率は中立を最大の28%に置きつつ、やや悲観と悲観の合計を42%と厚めに割り当てた。資本コストは10.25%と高く、堀も弱いので、倍率は乗用車メーカーの中でも低い。それでも10年では約16%のやや割安と出る。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 976 円3.41 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 26 円896 億円)。 今の値に割り戻すと 383 円1.34 兆円、今との差 +42.2%、 期待の年率 +14.0%(資本コスト 10.3%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 2,562 円8.95 兆円 | 86 円3,000 億円 | +882.0% | +25.7% | 265 円9,254 億円 |
| やや楽観 | 20% | 1,821 円6.36 兆円 | 57 円2,000 億円 | +596.6% | +21.4% | 376 円1.31 兆円 |
| 中立 | 28% | 908 円3.17 兆円 | 20 円700 億円 | +244.3% | +13.2% | 260 円9,084 億円 |
| やや悲観 | 27% | 319 円1.12 兆円 | 0 円0 億円 | +18.4% | +1.7% | 86 円3,013 億円 |
| 悲観 | 15% | 98 円3,430 億円 | 0 円0 億円 | −63.6% | −9.6% | 15 円515 億円 |
| 加重平均 | 100% | 976 円3.41 兆円 | 26 円896 億円 | +271.3% | +14.0% | 1,001 円3.50 兆円 |
今の株価時価総額 270 円9,424 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 10.3% を下回るほど割高。
楽観 10% 独自技術とアライアンスでEV時代も生き残る 利益 8,769 億円 · PER 10.1 倍 · 株価時価総額 2,562 円8.95 兆円
Re:Nissanの再建が完了し、e-POWERの次世代技術・新しいプラットフォームでコスト競争力を取り戻す。ルノー・鴻海との資本・技術関係も日産にとって有利な形で再構築され、北米・アジアでシェアを一定程度回復、世界販売は360万台まで伸びる。平均販売単価は電動化コストの転嫁と高付加価値モデルの比率上昇で480万円まで上がり、自動車事業の営業利益率は5.0%まで回復する。販売金融事業も残高16.5兆円まで拡大し、サブスクリプション等の新サービスで営業利益率25%を保つ、独立した完成車メーカーとして生き残る10年になる。
- 自動車事業:数量 360(世界販売台数(万台))× 価格 478(平均販売単価(ASP、万円/台))→ 売上 172,152 億円・営業利益 8,608 億円。技術・資本の再構築で営業利益率5.0%(値段は物価並みを基本に、筋書きの競争の強さで上下させた)
- 販売金融事業(ニッサン・ファイナンシャルサービス):数量 16.5(セグメント資産残高(兆円))× 価格 13.0%(残高に対する営業収益の利回り(%、実質的な利ざや))→ 売上 21,450 億円・営業利益 5,363 億円。残高拡大とサブスクで営業利益率25.0%
倍率:事業の純利益 8,769 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.1% が k 10.25% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 10.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 10.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 10.1 倍。全体の PER 10.1 倍、時価総額 88,565 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:EV化・中国勢の台頭という業界の逆風の中、技術・資本の両面で複数の好転が重なる必要があり、実現すれば強いが確度は高くない。
やや楽観 20% 規模を縮めつつ収益性を回復する 利益 6,337 億円 · PER 9.9 倍 · 株価時価総額 1,821 円6.36 兆円
世界のEV比率が40〜50%まで上がる中、日産は規模を追わず収益性を優先する路線に転換し、世界販売は330万台で安定する。平均販売単価は470万円まで緩やかに上がり、自動車事業の営業利益率は4.0%まで改善する。販売金融事業は残高14.8兆円・営業利益率24%を保ち、全社の利益を支え続ける。中国でのシェアはさらに縮むが北米・日本・ASEANでの基盤は維持し、構造改革を終えた「身の丈に合った日産」に収まる10年になる。ルノー・鴻海との資本関係は段階的に整理され、独立した完成車メーカーとしての地位を保つ。信用格付けも徐々に回復し、資金調達コストは平常の水準に近づく10年である。
- 自動車事業:数量 330(世界販売台数(万台))× 価格 468(平均販売単価(ASP、万円/台))→ 売上 154,440 億円・営業利益 6,178 億円。規模を追わず収益性優先で営業利益率4.0%(値段は物価並みを基本に、筋書きの競争の強さで上下させた)
- 販売金融事業(ニッサン・ファイナンシャルサービス):数量 14.8(セグメント資産残高(兆円))× 価格 12.5%(残高に対する営業収益の利回り(%、実質的な利ざや))→ 売上 18,500 億円・営業利益 4,440 億円。残高拡大で営業利益率24.0%
倍率:事業の純利益 6,337 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.9% が k 10.25% を上回る。残る割合 0.33(moat=weak)で RONIC 10.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 9.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 9.9 倍。全体の PER 9.89 倍、時価総額 62,669 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:Re:Nissanの再建が奏功し、小さいながらも収益性を確保した会社に収まる、業界見通しの中位に近い想定。
中立 28% 中立:小さく合理化された日産に収まる 利益 2,937 億円 · PER 9.8 倍 · 株価時価総額 908 円3.17 兆円
世界のEV比率が40〜50%まで上がる中、日産は中国でのシェアをさらに失いながらも、北米・日本を中心に300万台規模で生産・販売を続ける。平均販売単価は460万円程度まで物価並みに上がり、自動車事業の営業利益率は1.5%までしか戻らない。販売金融事業は残高13.9兆円・営業利益率23%で安定し、全社の利益を下支えする。ルノー・鴻海との資本関係は緩やかに変化するが、独立した完成車メーカーとしての地位は保つ、再建が半分だけ実る、特別な飛躍のない10年になる。ホンダ・鴻海との資本による再編の思惑は時折再燃するが実現には至らず、日産は単独で身の丈に合った規模へ縮小しながら生き残る。株主還元も限定的な範囲で緩やかに再開される。
- 自動車事業:数量 300(世界販売台数(万台))× 価格 458(平均販売単価(ASP、万円/台))→ 売上 137,310 億円・営業利益 2,060 億円。再建は半分だけ進み営業利益率1.5%(自動車単体の過去12年平均は約0.5%。工場閉鎖と人員削減の効きを1ポイント足した)
- 販売金融事業(ニッサン・ファイナンシャルサービス):数量 13.9(セグメント資産残高(兆円))× 価格 12.0%(残高に対する営業収益の利回り(%、実質的な利ざや))→ 売上 16,680 億円・営業利益 3,836 億円。残高拡大で営業利益率23.0%
倍率:事業の純利益 2,937 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 4.7% が k 10.25% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 9.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 9.8 倍。全体の PER 9.76 倍、時価総額 28,665 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:EV化・中国勢の台頭という業種ノートの中心的な見通しに沿う、最も重みを置く筋書き。
やや悲観 27% 中国シェアを失い自動車事業の再建が道半ばで終わる 利益 1,298 億円 · PER 7.8 倍 · 株価時価総額 319 円1.12 兆円
中国での販売不振が構造的なものとなり、合弁ブランドのシェア低下(2026年6月24.5%)がさらに進む中、日産は中国事業を大幅に縮小する。世界販売は260万台にとどまり、平均販売単価も価格競争で430万円までしか上がらない。自動車事業の営業利益率はわずか1.0%で、Re:Nissanの効果は固定費削減にとどまり抜本的な収益改善には至らない。販売金融事業も自動車事業の縮小で残高11.8兆円・営業利益率20%まで下がり、全社の利益は薄いまま10年が過ぎる。信用格付けの悪化も重なり資金調達コストが上がる中、ルノー・鴻海を含む資本の出入りへの思惑が繰り返し浮かぶが、抜本的な解決には至らないまま10年が過ぎる。
- 自動車事業:数量 260(世界販売台数(万台))× 価格 427(平均販売単価(ASP、万円/台))→ 売上 111,020 億円・営業利益 1,110 億円。中国事業縮小と価格競争で営業利益率1.0%(値段は物価並みを基本に、筋書きの競争の強さで上下させた)
- 販売金融事業(ニッサン・ファイナンシャルサービス):数量 11.8(セグメント資産残高(兆円))× 価格 11.0%(残高に対する営業収益の利回り(%、実質的な利ざや))→ 売上 12,980 億円・営業利益 2,596 億円。残高縮小・利ざや低下で営業利益率20.0%
倍率:事業の ROE 4.3% は k 10.2% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER の上限は 1÷k = 9.8 倍。堀は弱く、再建途上で利益が振れるので、上限の 8.0 割の 7.8 倍に置いた。純有利子負債 6.5 兆円の大半は販売金融の調達で、全部足した EV ÷ 営業利益は 21 倍に上がるが、利益が細る筋書きの数字として織り込んだ。
確率:中国EV勢のシェア拡大が業種ノートの下位レンジで続き、Re:Nissanの効果も部分的にしか出ない想定。
悲観 15% 独立した完成車メーカーとしての優良さを失う 利益 −2,709 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 98 円3,430 億円
中国・新興EVメーカーがコスト・技術で優位に立ち続け、日産は世界販売180万台まで規模を落とす。値引き合戦で平均販売単価も350万円まで下がり、工場稼働率の低下で自動車事業は恒常的な損失(営業利益率マイナス3%)に陥る。販売金融事業も残高8.0兆円まで縮み、信用コストの悪化で営業利益率は12%まで下がる。Re:Nissan以降も複数回の追加リストラ・資本増強を繰り返し、10年間の累積損失で自己資本はほぼ失われ、ルノー・鴻海など資本の受け皿を探る展開も避けられない、独立した完成車メーカーとしての優良さを失う10年になる。
- 自動車事業:数量 180(世界販売台数(万台))× 価格 350(平均販売単価(ASP、万円/台))→ 売上 63,000 億円・営業利益 −1,890 億円。世界販売180万台まで縮小、営業利益率▲3.0%
- 販売金融事業(ニッサン・ファイナンシャルサービス):数量 8.0(セグメント資産残高(兆円))× 価格 10.0%(残高に対する営業収益の利回り(%、実質的な利ざや))→ 売上 8,000 億円・営業利益 960 億円。残高縮小・信用コスト悪化で営業利益率12.0%
倍率:自動車事業が恒常的な損失となり、10年間の累積損失で自己資本も9,800億円まで薄れる(今の自己資本47,990億円の2割程度)。谷の利益に谷の倍率を重ねる二重の下げを避け、SCHEMAが示す通常の床0.35倍をそのまま床として置いた。これ以上自己資本が薄れる場合は資本増強(希薄化)が避けられず、既存株主の取り分はさらに小さくなるリスクを残す。
確率:技術・規模の両面での劣後とガバナンス不信が重なる複合シナリオで、低頻度だが10年という時間軸・財務の脆さを踏まえ無視できない確率を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
自動車事業
NISSAN・INFINITIブランドの乗用車・SUV・軽自動車の開発・生産・販売。2026年3月期は本業である自動車事業が営業損失となった。
| 数量世界販売台数(万台) | 価格平均販売単価(ASP、万円/台) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 315 | 342 | 107,602 | −2,928 |
| 10 年後 中立 | 300 | 458 | 137,310 | 2,060 |
取り方:2026年3月期の世界販売315万台と自動車事業の売上10兆7,602億円から、売上÷台数で平均販売単価(ASP)341.6万円を逆算した。台数は実質(世界販売台数)、単価は物価並みに上がる(3年1.09倍・10年1.34倍)のが基本線だが、中国・新興国での値引き圧力は別途各筋書きの文章で考慮する。
販売金融事業(ニッサン・ファイナンシャルサービス)
ディーラーと顧客への自動車ローン・リースの提供。自動車事業が赤字の中、連結の実質的な収益源になっている。
| 数量セグメント資産残高(兆円) | 価格残高に対する営業収益の利回り(%、実質的な利ざや) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 10.7 | 11.7% | 12,475 | 2,979 |
| 10 年後 中立 | 13.9 | 12.0% | 16,680 | 3,836 |
取り方:販売金融事業のセグメント資産10.7兆円を残高とし、セグメント売上1兆2,475億円÷残高で利回り11.7%を算出、営業利益2,979億円との比で営業利益率23.9%を得た。残高(兆円)は車の値段と一緒に名目で膨らみ、利回りは金利水準に沿って大きくは変わらない。金融の借金は仕入れなので、全社の利払いの計算からは外した。
リスクと懸念
自動車事業そのものの赤字体質
2026年3月期の自動車事業は売上10兆7,602億円に対し営業利益マイナス2,928億円で、本業そのものが構造的な赤字にある。連結が黒字を保てているのは販売金融事業の稼ぎによるもので、自動車事業の赤字が固定化すれば、いずれ金融事業の利益だけでは支えきれなくなるリスクがある。
中国での販売急減
2026年7月の中国新車販売は前年同月比59%減まで落ち込み、5年連続で前年割れが続く。合弁・外資ブランド全体のシェアも2026年6月に24.5%まで下がり、地場EV勢の価格・技術攻勢に対抗できていない。中国事業の縮小・撤退を迫られる展開も排除できない。
米国での販売不振と関税
2025年の米国新車販売は約93万台にとどまり、Ariyaなど一部モデルの伸びはあるものの全体では低迷が続く。トランプ政権の対米関税も収益を圧迫し、競合のHEVシフトが進む中で日産の価格競争力は相対的に弱い。
Re:Nissanの実行リスク
2万人の人員削減・7工場の統廃合という大規模なリストラは実行途上で、過去にも複数回の構造改革(カルロス・ゴーン後の再建策)を経ながら赤字から抜け出せなかった実績がある。2027年度の自動車事業黒字化目標が達成できない場合、追加のリストラ・資本増強の検討が避けられない。
財務の脆さと資本増強(希薄化)の懸念
自己資本比率は24.2%、純有利子負債は自己資本の1.35倍に達し、乗用車メーカーの中でも財務基盤が最も弱い。本業の赤字が続けば、将来的に増資などの資本増強で既存株主の取り分が薄まるリスクが残る。格付け会社が追加で格下げに動けば、調達コストの上昇が業績の改善ペースをさらに遅らせる悪循環も懸念される。
ホンダとの経営統合破談・資本の出入り
2024年に合意したホンダとの経営統合は2025年2月に破談し、規模を得る選択肢を一つ失った。ルノーの出資比率引き下げ(最低保有比率15%→10%)、鴻海(Foxconn)による工場買収協議の決裂と、その後も続く関与の思惑など、資本関係の不確実性が高い状態が続いている。
EV・技術シフトへの対応の遅れ
e-POWERという独自技術を持つものの、中国EV勢のコスト競争力、トヨタ・ホンダのハイブリッド技術蓄積のいずれにも対して明確な優位を示せていない。2030年までに27の電動車を投入する計画の実行力が問われる。
今後の分かれ目
- 2027年度(2027年3月期)に自動車事業の営業利益が計画どおり黒字化したら
- 楽観・やや楽観側の筋書きに重みを移す。Re:Nissanの固定費・変動費削減の進捗を合わせて確認する。
- 中国での新車販売が前年割れからさらに悪化したら
- やや悲観・悲観側の筋書きに重みを移す。中国事業の縮小・撤退の具体策が出るかを見る。
- 鴻海(Foxconn)またはルノーの資本関与が具体化し出資・提携が実現したら
- 資本増強の原資や技術提携の中身を確認した上で、楽観側・悲観側どちらに効くかを個別に判断する。
- 自己資本比率がさらに低下し増資(希薄化)の検討が報じられたら
- 悲観側の筋書きに重みを移す。既存株主の取り分がどれだけ薄まるかを見る。
- 北米でAriya・e-POWER搭載車の販売が計画を上回って伸びたら
- 楽観・やや楽観側の筋書きの確率を上げてよい。平均販売単価の改善も合わせて見る。
- 追加の工場閉鎖・人員削減が計画(7工場・2万人)を超えて行われたら
- 短期的には悲観材料だが、固定費削減が計画を上回るなら長い目ではやや楽観側に効く。両方の可能性を確認する。
見ておくもの
- 自動車事業単体の営業利益(四半期ごと)
- 中国・米国の新車販売台数とシェアの推移
- Re:Nissanの固定費・変動費削減の進捗(2027年度黒字化目標)
- 自己資本比率・純有利子負債の推移、増資(希薄化)の有無
- ルノー・鴻海(Foxconn)との資本・提携関係の変化
- 販売金融事業(ニッサン・ファイナンシャルサービス)の残高と信用コスト
倍率と資本コストの決め方
自動車事業は世界販売台数×平均販売単価(物価並みに上がる基本線)、販売金融事業は残高×利回りで売上と利益を積み上げた。資本コストは基本7.5%に quality +1.75% と事業が傾いている分の上乗せ1%を足した10.25%。堀は弱い(残る割合1/3)として、倍率は利益ベースの正当化PER=(1−g÷RONIC)÷(k−g)の上限(ROE が k 以下なら1÷k)の8.5割(やや悲観は8割)に置いた。悲観は自動車事業の損失が続く筋書きなので PBR で測り、減損で薄れた自己資本 9,800 億円に床 0.35 倍を掛けた。過去の PBR は使っていない。今の値段は最後に比べただけで、逆算していない。結果は10年で約 +16% のやや割安。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 8.6→10.1 倍・やや楽観 PER 8.4→9.89 倍・中立 PER 8.3→9.76 倍)。
資本コスト 10.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5% + 上乗せ 1.0%。基本 7.5% に quality +1.75% と、事業が傾いている会社の上乗せ 1.0% を足した 10.25%。ガバナンスや提携の個別のリスクは k に足さず、筋書きと確率で表した。
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